説明

抗脂質抗体

本発明は、一般的に、抗脂質抗体に、そして特に、抗脂質(例えば抗リン脂質)抗体を用いて、HIV−1感染を阻害する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全内容が本明細書に援用される、2008年9月5日出願の米国仮出願第61/136,449号、および2008年10月10日出願の米国仮出願第61/136,884号の優先権を請求する。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号第U01 AI067854号のもとに米国政府の援助を受けて作成された。米国政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明は、一般的に、抗脂質抗体に、そして特に、抗脂質(例えば抗リン脂質)抗体を用いて、HIV−1感染を阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
T細胞および単核食細胞のHIV−1感染を強力に阻害するヒト抗体を利用する戦略の開発は、HIV−1感染の治療および防止のため、高い優先度を持つ(Mascolaら, J. Virol. 79:10103−10107(2005))。in vitroで広くHIV−1を中和可能であり、そしてin vivoでSHIV感染から非ヒト霊長類を防御可能である、gp160に対するいくつかの稀なヒト・モノクローナル抗体(mAb)が単離されてきている(Mascolaら, Nat. Med. 6:207−210(2000)、Babaら, Nat. Med. 6:200−206(2000))。これらのmAbには、gp41の膜近位領域に対する抗体2F5および4E10(Musterら, J. Virol. 67:6642−6647(1993); Stieglerら, AIDS Res. & Hum. Retro. 17:1757−1765(2001)、Zwickら, J. Virol. 75:10892−10905(2001))、gp120のCD4結合部位に対するIgG1b12(Robenら, J. Virol. 68:4821−4828(1994))、ならびにgp120高マンノース残基に対するmAb 2G12(Sandersら, J. Virol. 76:7293−7305(2002))が含まれる。
【0005】
HIV−1は、中和抗体から回避するためのいくつかの有効な戦略を発展させてきており、これには中和エピトープのグリカン遮蔽(Weiら, Nature 422:307−312(2003))、中和抗体結合に対するエントロピーバリア(Kwongら, Nature 420:678−682(2002))、および非中和抗体による抗体反応のマスキングまたは転換(Alamら, J. Virol. 82:115−125(2008))が含まれる。熱心な研究にもかかわらず、gp120 CD4結合部位またはgp41の膜近位領域のいずれかに対して広く中和する抗体が、動物またはヒトのいずれにおいてもルーチンに誘導されないのはなぜであるかは謎のままである。
【0006】
広く中和する抗体を誘導するのが困難であるのはなぜかに関する1つの手がかりは、上記mAbがすべて、珍しい特性を有するという事実の中に見出されうる。mAb 2G12は、宿主グリコシルトランスフェラーゼによって合成され、そして修飾され、そしてしたがって、自己炭水化物と認識される可能性がある炭水化物に対するものである(Calareseら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:13372−13377(2005))。2G12はまた、連結されたVHドメイン交換二量体に組み立てられるFabを持つユニークな抗体でもある(Calareseら, Science 300:2065−2071(2003))。2F5および4E10はどちらも、長いCDR3ループを持ち、そして宿主脂質を含む多数の宿主抗原と反応する(Zwickら, J. Virol. 75:10892−10905(2001)、Alamら, J. Immun. 178:4424−4435(2007)、Zwickら, J. Virol. 78:3155−3161(2004)、Sunら, Immunity 28:52−63(2008))。同様に、IgG1b12もまた、長いCDR3ループを持ち、そしてdsDNAと反応する(Haynesら, Science 308:1906−1908(2005)、Saphireら, Science 293:1155−1159(2001))。これらの発見を、自己免疫疾患を持つ患者における臨床的HIV−1感染が稀であるという知見(PalaciosおよびSantos, Inter. J. STD AIDS 15:277−278(2004))と合わせると、広い反応性の中和抗体のいくつかの種は、免疫寛容機構による下方制御のために作製されないという仮説が生じた(Haynesら, Science 308:1906−1908(2005)、Haynesら, Hum. Antibodies 14:59−67(2005))。この仮説の帰結として、自己免疫疾患患者には、防御に相関するものとしてのある種の中和抗体を伴う「曝露され、そして感染していない」被験体がいる可能性がある(Kay, Ann. Inter. Med. 111:158−167(1989))。
【0007】
この仮説を評価する手がかりは、HIV−1感染性を阻害する、自己免疫疾患患者由来のヒト抗体の同定である。本発明は、少なくとも部分的に、ヒト・モノクローナル抗脂質抗体が、原発性抗リン脂質抗体症候群(APAS)および全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患患者から、ならびに健康な被験体由来のPBL抗体ライブラリーから単離可能であり、そしてこうした抗体が、in vitroで末梢血単核細胞(PBMC)におけるHIV−1感染性を阻害可能であるという立証から生じる。HIV−1阻害性抗脂質抗体は、脂質へのβ2−糖タンパク質−1の結合を必要とせず、そしてHIV−1がターゲットT細胞と接触した48時間後まで有効でありうる。こうした抗体は、PB単球、およびおそらく他の抗原提示細胞に結合し、そしてCCR5結合性ケモカイン、MIP−1αおよびMIP1−βを誘導することによって、CCR5を利用する伝染したHIV−1株を広く中和するが、CXCR4を利用するHIV−1株を中和しない。このクラスの抗体が、末梢血単核細胞(PBMC)培養にHIV−1を添加した48時間後に、PBMCのHIV−1感染性を阻害可能であり、そしてR5ウイルスにのみ作用することから、HIV−1の伝染の防止の環境において、または曝露後の予防の環境においてのいずれかで、これらの抗体の療法剤としての有用性が立証される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mascolaら, J. Virol. 79:10103−10107(2005))
【非特許文献2】Mascolaら, Nat. Med. 6:207−210(2000)
【非特許文献3】Babaら, Nat. Med. 6:200−206(2000)
【非特許文献4】Musterら, J. Virol. 67:6642−6647(1993)
【非特許文献5】Stieglerら, AIDS Res. & Hum. Retro. 17:1757−1765(2001)
【非特許文献6】Zwickら, J. Virol. 75:10892−10905(2001)
【非特許文献7】Robenら, J. Virol. 68:4821−4828(1994)
【非特許文献8】Sandersら, J. Virol. 76:7293−7305(2002)
【非特許文献9】Weiら, Nature 422:307−312(2003)
【非特許文献10】Kwongら, Nature 420:678−682(2002)
【非特許文献11】Alamら, J. Virol. 82:115−125(2008)
【非特許文献12】Calareseら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:13372−13377(2005)
【非特許文献13】Calareseら, Science 300:2065−2071(2003)
【非特許文献14】Alamら, J. Immun. 178:4424−4435(2007)
【非特許文献15】Zwickら, J. Virol. 78:3155−3161(2004)
【非特許文献16】Sunら, Immunity 28:52−63(2008)
【非特許文献17】Haynesら, Science 308:1906−1908(2005)
【非特許文献18】Saphireら, Science 293:1155−1159(2001)
【非特許文献19】PalaciosおよびSantos, Inter. J. STD AIDS 15:277−278(2004)
【非特許文献20】Haynesら, Hum. Antibodies 14:59−67(2005)
【非特許文献21】Kay, Ann. Inter. Med. 111:158−167(1989)
【発明の概要】
【0009】
本発明は、一般的に、抗脂質抗体に関する。より詳細には、本発明は、抗脂質(例えば抗リン脂質)抗体を用いて、T細胞のHIV−1感染を阻害する方法に関する。
本発明の目的および利点は、以下の説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】HIV−1感染性を阻害する抗脂質mAbは、その脂質結合活性に関して、β−2−糖タンパク質1への結合に依存せず、一方、HIV−1感染性を阻害しない抗脂質mAbは、その脂質結合活性に関して、β−2−糖タンパク質1への結合に依存する(左から右に: IS4、CL1、P1、11.31(PGN 632)、バビツキシマブ、B1、B2、1N11(PGN 635)、3J05(PGN 634)、陰性対照)。
【図2】抗脂質mAbによるウイルス捕捉の欠如。一団のmAbを捕捉し、そしてHIV−1 BG1168ビリオンとインキュベーションした;ウイルス捕捉を、放出されたp24のELISAによって測定した。gp41免疫優性領域に対するmAb 7B2およびgp120 V3ループに対するmAb F39Fのみが、可溶性CD4誘発の非存在下で、ビリオンを捕捉した。抗gp120 CCR5結合部位mAb 17bは、CD4誘発の存在下で捕捉可能であったが、この誘発がないと不可能であった。対照的に、抗脂質mAbはいずれも、このアッセイにおいて、ビリオンを捕捉しなかった。HIV−1単離体SF162に関して、類似の結果が見られた(抗体P3は、マウス骨髄腫、P3X63−Ag8、ATCC番号CRL−1580またはCRL−1579であり;抗体A32はJames Robinson/チューレーン大学によるヒト抗HIV−1エンベロープである)。
【図3】抗脂質mAbは、宿主細胞に結合することによって、SHIV SF162P3またはQH0692を阻害する。細胞添加前に、mAbとウイルスストックを1時間プレインキュベーションすることによって(白抜きポイントの曲線)、またはターゲット細胞と抗体を1時間インキュベーションした後、過剰な抗体を洗浄し、そして次いでウイルスストックを添加することによって(黒塗りポイントの曲線)のいずれかで、B.QH0692に対して試験する抗体IS4およびCL1、ならびにSHIV SF162P3に対して試験するP1および11.31(PGN 632)をPBMCアッセイに添加した。試験したmAb各々に関して、阻害活性の有意な変化は見られず、この活性が主に、ターゲット細胞に対して向けられることが示唆された。
【図4A】図4Aおよび4B。図4A。植物性血球凝集素(PHA)活性化ヒトPBMCへの抗脂質mAbの結合。mAbをPBMCと、そして次いで、FITCにコンジュゲート化されたヤギ抗ヒトIgGとインキュベーションし、そしてフローサイトメトリーによる間接的免疫蛍光においてアッセイした。
【図4B】図4B。HIV−1MN感染H9ヒトT細胞は、増殖性HIV−1感染を示す、抗gp120 V3 mAb F39Fに結合した。mAb 2F5、4E10、バビツキシマブ、および11.31(PGN 632)は、類似の効力で、生存感染細胞表面に結合した。mAb P1によって示される生存細胞結合は限定されており、そしてこれは、P1 mAbがHIV−1感染性を阻害可能な抗脂質抗体のうち、効力が最も低いことと相関した。
【図5】PHA活性化PBMC表面への11.31(PGN 632)の結合。脂質の表面染色のためコレラ毒素B(CTB)で、そしてフィコエリトリンで標識した11.31(PGN 632)で標識した、PBMCを示す。11.31(PGN 632)mAbおよびCTBのPBMC細胞膜への同時局在を示す(矢印)。
【図6】脂質の多様な多形型とプレインキュベーションすることによる、HIV−1 B.6535の阻害の遮断。PBS、0.5mM DOPE(六方晶II多形型)、または0.5mM CL(リポソーム型)とプレインキュベーションしたmAbは多様な効果を示す。mAb P1およびIS4は、脂質インキュベーションしても効力のわずかな(または最小限の)変化しか示さなかった。CL1および11.31(PGN 632)は、DOPEと反応させた際には、まったく影響を示さなかったが、CLによっては、それぞれ11倍および200倍の減少で強く阻害された。P1は、DOPEインキュベーションで穏やかな阻害を、そしてCLインキュベーションで中程度の増進を示した。したがって、CLおよび11.31(PGN 632)mAbに関して、脂質の正しい多形型が見出された。これらのデータによって、IS4およびP1に対して、CL1および11.31(PGN 632)の反応性に相違があることが示唆される。
【図7A】図7Aおよび7B。IRBが認可したプロトコルに基づいて、米国赤十字(Carolinas Blood Services Region)から得た廃棄白血球バフィーコートから密度勾配遠心分離によってPBMCを単離した。調製されたままで細胞を用いるか、またはautoMACS Pro分離装置(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州オーバーン)を用いて、さらに精製するか、いずれかとした。生じた細胞を、精製後FACS分析によって、純度に関してチェックした。単球(94%純粋、<1%残留T細胞)、単球枯渇PBMC(<1%残留単球)、CD4+ T細胞(93%純粋、<0.5%CD8+ T細胞、<0.5%単球)、CD4+ T細胞枯渇PBMC(<1%残留CD4+ T細胞)、および未精製PBMCを、モノクローナル抗体の連続希釈の存在下または非存在下で、HIV−1 B.PVOに感染させた。図7A。対照ウェル中で見られる感染の80%を中和する濃度として決定した抗体中和。抗体11.31(PGN 632)は、単球を含有する細胞試料中のみで中和し、そして単球が枯渇した試料においては、感染阻害をまったく示さなかった。
【図7B】図7Aおよび7B。IRBが認可したプロトコルに基づいて、米国赤十字(Carolinas Blood Services Region)から得た廃棄白血球バフィーコートから密度勾配遠心分離によってPBMCを単離した。調製されたままで細胞を用いるか、またはautoMACS Pro分離装置(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州オーバーン)を用いて、さらに精製するか、いずれかとした。生じた細胞を、精製後FACS分析によって、純度に関してチェックした。単球(94%純粋、<1%残留T細胞)、単球枯渇PBMC(<1%残留単球)、CD4+ T細胞(93%純粋、<0.5%CD8+ T細胞、<0.5%単球)、CD4+ T細胞枯渇PBMC(<1%残留CD4+ T細胞)、および未精製PBMCを、モノクローナル抗体の連続希釈の存在下または非存在下で、HIV−1 B.PVOに感染させた。図7B。抗体を含まない対照ウェルに比較した感染の減少として決定される抗体中和。抗体11.31(PGN 632)およびCL1は、それぞれ、98%および93%、単球の感染を減少させ;どちらの抗体も、精製CD4+ T細胞の感染を阻害しなかった。対照的に、2G12およびIgG1 b12は、どちらの細胞種の感染も阻害し、2G12がより強力な抗体であった。
【図8】精製単球またはCD4+ T細胞を、37℃で30分間、11.31で前処理し、そして次いで洗浄した。次いで、前処理した細胞をCD4+ T細胞培養に添加し、そしてHIV−1 B.6535に感染させ、そして未処理対照ウェルに比較したp24産生減少として、阻害を測定した。単球の前処理は、感染の87%減少を生じる一方、CD4+ T細胞の前処理は、35%の減少しか生じなかった。
【図9A】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図9A1】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図9A2】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図9A3】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図9B】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図9C】図9A〜9C。抗脂質抗体は、PBMCからR5ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、合わせて、PB単球から、高レベルのCCR5ケモカインを誘導可能である。図9Aは、抗脂質抗体CL1および11.31(PGN 632)が、HIV−1の非存在下で、ケモカインを誘導し、そしてHIV−1の存在下で、より高レベルのケモカインを誘導することを示す。図9Bは、24時間の時点から取ったデータのみを含む、CL1の同じデータの要約を示す。図9Cは、異なる個体のPBMCを用いた第二の実験を示す−この場合、脂質抗体は、単独で、24時間の時点で、PBMCから最大レベルのケモカインを誘導した。どちらにおいても、脂質抗体効果は、MIP−1αおよびMIP−1βに対して最も顕著であり、そしてRANTESに対しては顕著でなかった。さらに、CXCR4ケモカインSDF−1に対しては効果がなく、脂質抗体がR5 HIV−1単離体に対してのみ効果があることを説明した。
【図10】抗ケモカイン抗体による、抗脂質抗体のHIV−1阻害活性の遮断。PBMCをまず、37℃で一晩、5μg/ml PHAで活性化し、そして示すような(x軸中)中和抗ケモカインmAbまたは対照(P3)8.3μg/mlの存在下で、抗体を含まず、または飽和未満の濃度(3.3μg/ml)のmAb CL1と、インキュベーションした。HIV−1感染5日後に培養上清を採取し、そしてp24アッセイキット(PerkinElmer)を用いて、p24産生に関してアッセイした。
【図11A】図11Aおよび11B。図11A。mAb 11.31(PGN 632)の配列。図11B。CL1の配列。
【図11B】図11Aおよび11B。図11A。mAb 11.31(PGN 632)の配列。図11B。CL1の配列。
【図12A】図12Aおよび12B。図12A。PBMCアッセイにおいて、HIV−1感染性を阻害する抗脂質抗体は、非病原性であり、そして脂質への結合のため、β−2−糖タンパク質−1に依存しない。一般的に、脂質への結合のため、β−2−糖タンパク質−1を必要としない抗体は、非病原性であり、一方、病原性抗脂質抗体は、脂質への抗体結合のため、β−2−糖タンパク質−1を必要とする(DeGrootら, J. Thromb. Haemost. 3:1854−1860(2005))ため、この観察は重要である。研究した抗体のうち、脂質への結合のため、β−2−糖タンパク質−1に依存しないもののみが、HIV−1感染性を阻害可能であった。脂質への結合のため、β−2−糖タンパク質−1に依存する他の抗体はすべて、HIV−1感染性を阻害する能力を持たない。したがって、これらのβ−2−糖タンパク質−1非依存性抗体は、通常、ヒトによって、脂質に対して作製され(Alving, Biochem. Soc. Trans. 12:342−344(1984))、そして梅毒およびHIV−1を含む多様な感染性病原体に感染した後でしばしば見られる(いわゆる「感染性脂質またはカルジオリピン抗体」(Ashersonら, Ann. Rheum. Dis. 62:388−393(2003) Silverstriら, Blood 87:5185−5195(1996)))、「天然」抗脂質抗体を含む、非病原性抗脂質抗体クラス中にある。
【図12B】図12B。抗脂質抗体は、R5 HIV−1初代単離体を、2F5、2G12および1b12 mAbよりも広い幅で阻害する。CCR5を利用するHIV株はすべて、前例のない幅および効力で、4つの非病原性脂質mAb IS4、CL1、P1および11.31(PGN 632)によって中和される一方、CXCR4を利用するHIVまたはSHIV株はいずれも、脂質抗体によってはPBMC感染を防止されない。抗脂質抗体のこの驚くべき効果は、抗脂質抗体が宿主細胞に対してのみ作用し、そしてウイルスには作用しないという観察(図2および3を参照されたい)と合わせて、脂質抗体が、CCR5を利用するウイルスを阻害するための因子を、宿主細胞から特異的に誘導したことを強く示唆する。粘膜透過の粘膜ボトルネックを横断するウイルスのほぼすべてが、CCR5を利用するウイルスであるため、これは重要である(Keeleら, Proc. Natl. Acad. Sci. 105:7557−7, Epub 2008 May 19(2008))。
【図13】カルジオリピンは、mAb 11.31(PGN 632)およびCL1がPBMCにおいてHIV−1感染を遮断する能力を競合的に阻害する。
【図14】図14A〜14D。75人のドナーPBMCに対するヒト抗体の活性。図14A。11.31。図14B。IgG1b12。図14C。4E10。図14D。HIVIG。
【図15】図15A〜15F。抗脂質モノクローナル抗体と単球をインキュベーションすると、多核細胞形成が刺激される。図15A。11.31。図15B。CL1、図15C。IS4。図15D。P1。図15E。LPS。図15F。17b。
【図16】図16Aおよび16B。抗脂質抗体とインキュベーションしたPBMC由来の培養上清による、TZM−bl細胞におけるHIV−1 WITO偽ウイルスの阻害。図16A。11.31。図16B。CL1。
【図17】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−1】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−2】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−3】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−4】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−5】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−6】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−7】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−8】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−9】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−10】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−11】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−12】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−13】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−14】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−15】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−16】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−17】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−18】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−19】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−20】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−21】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−22】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−23】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−24】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−25】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−26】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−27】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−28】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−29】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−30】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−31】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−32】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【図17−33】抗脂質ヒト・モノクローナル抗体は、宿主細胞に結合することによって、PBMCのHIV−1感染を阻害する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、1つの態様において、HIV−1のCCR5向性株による被験体の細胞(例えばT細胞)の感染を阻害する方法に関する。該方法は、mAb 11.31(PGN 632)またはCL1などの抗ヒト細胞抗体(例えば抗脂質(例えば抗リン脂質)抗体)、あるいはその断片が:i)CCR5結合性ケモカインを産生可能であり、そしてii)その表面上に該抗体によって認識される抗原を有する患者細胞に結合する量および条件下で、該抗体またはその断片を被験体(例えばヒト被験体)に投与する工程を含む。抗体またはその断片が結合すると、HIV−1のCCR5向性株の非存在下または存在下のいずれかで、細胞によるCCR5結合性ケモカインの産生が、CCR5受容体を利用するHIV−1感受性細胞(例えばT細胞)の感染を阻害するのに十分なレベルまで誘導される。都合よくは、抗体またはその断片を、HIV−1のCCR5向性株への被験体曝露の48時間以内に投与する。
【0012】
本発明で使用するのに適した抗脂質抗体は、健康な対照被験体から、そして原発型および続発型APAS患者から(例えばこうした患者由来の末梢血リンパ球(PBL)から生成された抗体ライブラリーから)、得られうる。SLE患者由来(CL1、P1)、抗リン脂質症候群患者由来(IS4)、そして正常被験体由来(11.31(PGN 632))のこうした抗体の例は、表3に見られる。さらに、HIV−1自体が、HIV−1感染後、これらのタイプの抗体産生を刺激する(表1において、HIV−1伝染3ヶ月後の、被験体由来のACL4 mAbでのデータを参照されたい)。
【0013】
表1
LucR取り込みHIV−1を用いたPBMCに基づく中和アッセイにおける、抗脂質抗体によるHIV−1の阻害
【0014】
【表1】

【0015】
CCR5 HIV−1単離体; #CXCR4単離体。
上述のような、患者および健康な被験体に由来する抗体をさらに成熟させて、高アフィニティ脂質(例えばリン脂質)結合に関して最適化してもよい。好ましい抗体は、CCR5結合性ケモカインを産生する細胞(例えば単球)表面上のリン脂質(例えばホスファチジルセリン(PS))に直接結合し、すなわち、結合するためにβ2−糖タンパク質−1を必要としない。β2−糖タンパク質−1のドメインIへの結合は、APASおよび他の自己免疫症候群で見られる抗リン脂質抗体の病原性と関連づけられてきている(DeGrootら, J. Thromb. Haemost. 3:1854−1860(2005))。本発明で使用するのに適した抗脂質抗体は、CCR−5を利用するHIV−1株を広く中和可能であるが、CXCR4を利用するものは中和しない。本発明の好ましい療法的抗体は、脂質に結合するために、β−2−糖タンパク質−1を必要としない。こうした抗体は、単離抗体(ACL4がこうした抗体の例である)から生じる血栓症の合併症を持たない被験体において生じ、そしてこうした被験体から得られうる。
【0016】
本発明にしたがって、被験体または被験体の免疫系/細胞とCCR5を利用するHIV−1の接触前に、あるいはこうした接触の約48時間以内に、抗脂質抗体を投与してもよい。この時間枠内での投与は、CCR5向性HIV−1での被験体の脆弱細胞(例えばT細胞)の感染阻害を最大限にしうる。HIV−1のこの阻害様式は、伝染事象を修飾するかまたは阻害するのに特に有効であり、これは、実質的にすべての伝染HIV−1ウイルス擬似種がCCR5向性であるためである(Keeleら, Proc. Natl. Acad. Sci. 105:7552−7557, Epub 2008 May 19(2008))。
【0017】
本発明で使用するための1つの好ましい抗体は、mAb 11.31(PGN 632)である。この抗体は、健康なドナーのPBLから生成された抗体ライブラリーに由来した。抗体ライブラリーの産生時点で作製されていた抗体を反映しているのかどうかはわかっていない。元来の抗体アイソタイプはIgMまたはIgDであり、これが次いでIgGに変換され、そしてさらに成熟して、高アフィニティPS結合に関して最適化された。PBMCがCCR5を利用するHIV−1に感染するのを阻害するためのmAb 11.31(PGN 632)の効力は、報告されるいかなる他の抗体よりも広い。11.31(PGN 632)の可変ドメインの配列を表2に示す(IgG配列を図11Aに示す)。
【0018】
【表2】

【0019】
本発明の方法で使用するのにやはり好ましいのはCL1である。重鎖および軽鎖遺伝子配列を、アミノ酸配列とともに、図11Bに示す。健康な個体由来、HIV−1感染被験体由来(ACL4など)、他の病原体(梅毒など)に感染した個体由来、または自己免疫疾患患者由来の他の抗体、あるいはこうした抗体の断片もまた、本方法で使用可能である。
【0020】
上に示すように、損なわれていない抗体またはその断片(例えば抗原結合性断片)のいずれかを本発明の方法で用いてもよい。例示的な機能的断片(領域)には、scFv、Fv、Fab’、FabおよびF(ab’)断片が含まれる。一本鎖抗体もまた使用可能である。適切な断片および一本鎖抗体を調製するための技術が当該技術分野に周知である(例えば、USP 5,855,866; 5,877,289; 5,965,132; 6,093,399; 6,261 ,535; 6,004,555; 7,417,125および7,078,491ならびにWO 98/45331を参照されたい)。本発明にはまた、本明細書開示の抗体(および断片)の変異体も含まれ、特に開示する抗体(および断片)の結合特性を保持する変異体、ならびに本方法において該抗体を用いる方法が含まれる。
【0021】
上記抗体およびその断片を組成物(例えば薬学的組成物)として配合してもよい。適切な組成物は、薬学的に許容されうるキャリアー(例えば水性媒体)中に溶解するかまたは分散した抗脂質抗体(または抗体断片)を含んでもよい。組成物は、無菌であってもよく、そして注射可能型であってもよい。抗体(およびその断片)をまた、皮膚または粘膜への局所投与に適した組成物として配合してもよい。こうした組成物は、液体、軟膏、クリーム、ゲルおよびペーストの形を取ってもよい。適切な組成物を調製する際に、標準的配合技術を用いてもよい。性交後膣洗浄として、またはコンドームとともに投与するように、抗体を配合してもよい。
【0022】
本方法で使用するのに適した多くの抗脂質抗体が、カルジオリピン(CL)との反応性によって同定されてきているが、CLは、生存、活性化またはアポトーシス細胞の細胞表面上には発現されず、むしろミトコンドリア膜の脂質である。HIV−1感染性を阻害することが以下の実施例に示されている4つのmAbはまた、すべて、CLに結合する一方、PSにも結合する。実施例に提供するデータによって、PSが適切な細胞表面ターゲット細胞分子の1つであることが示される。
【0023】
抗脂質抗体がCCR5を利用する初代単離体の感染性のみを阻害することは、感染性阻害機構のため、そしてHIV−1感染阻害における抗脂質抗体の有用性の環境のため、意義がある。選択された抗脂質抗体(例えばCL1および11.31(PGN 632))が、ウイルス添加48時間後までHIV−1感染を阻害可能であることによって、これらがビリオン結合および付着を遮断しないことが示される。実施例に提供するデータは、単球および他のケモカイン産生細胞からケモカインを誘導するmAbの作用様式と適合する(図13を参照されたい)。抗脂質抗体が、感染48時間後まで作用することによって、例えば以下の環境における、予防のための該抗体の有用性が示される:
i)HIV−1感染に対する予期される既知の曝露の環境において、本明細書記載の抗脂質抗体(またはその結合性断片)を、消毒剤(microbiocide)として予防的に(例えばIVまたは局所的に)投与してもよく、
ii)レイプ被害者、または商業的風俗店従業員、またはコンドーム保護を伴わないあらゆる異性愛者間の病気伝染で生じるものなどの、既知のまたは推測される曝露の環境において、本明細書記載の抗脂質抗体(またはその断片)を、曝露後予防剤として、例えばIVまたは局所的に投与してもよく、そして
iii)CCR5伝染ウイルスでの急性HIV感染(AHI)の環境において、本明細書記載の抗脂質抗体(またはその結合性断片)を、最初のウイルス装填を制御し、そしてCD4+ T細胞プールを保持し、そしてCD4+ T細胞破壊を防止する、AHIに関する治療として、投与してもよい。
【0024】
適切な用量範囲は、抗体、そして配合物の性質および投与経路に依存しうる。当業者は過度の実験を伴わずに、最適用量を決定可能である。10ng〜20μg/mlの範囲の抗体用量が適切でありうる(投与および誘導両方)。
【0025】
本発明の特定の側面は、以下の限定されない実施例に、より詳細に記載されうる(その全内容が本明細書に援用される、米国仮出願第61/136,449号もまた参照されたい)。
【実施例】
【0026】
実施例1
実験詳細
抗体。本研究で用いたmAbおよびその特性を表3に示す。IS4は、原発性抗リン脂質抗体症候群(APAS)患者由来のヒトmAbである(Zhuら, J. Haematol. 105:102−109(1999))(寄託番号AF417845およびAF417851を参照されたい)。CL1、P1、B1、およびB2は、続発性APASおよび全身性エリテマトーデス(SLE)患者由来のヒトmAbである(Wei−Shiangら, Arth. Rheum. 56:1638−1647(2007))。mAbs 11.31(PGN 632)、J305(PGN 634)、および1Nl1(PGN 635)は、健康な被験体の血液から生成されている抗体ライブラリー由来であり、そしてPSへの最適結合に関して操作された組換えmAbである。各細胞株を血清不含培地中で増殖させ、そしてプロテインA/G調製カラムを用いて、全免疫グロブリンを精製した。SynagisTM(パリビズマブ)は呼吸器合胞体ウイルスのFタンパク質に対するヒト化mAbであり、そしてこれをMedImmune, Inc.(メリーランド州ガイザーズバーグ)より購入した。抗gp41膜近位外部領域(MPER)mAb 2F5および4E10を、Polymun Scientific(オーストリア・ウィーン)より購入した。mAb 7B2、F39F、17b、およびA32は、James Robinson(チューレーン大学、ロサンゼルス州ニューオーリンズ)の寛大な寄贈品であった。ヤギ抗ヒトIgG(H+L)をKPL,Inc(メリーランド州ガイザーズバーグ)より購入し、そして力価決定して、最適濃度を決定した。β2−糖タンパク質−1 Fc二量体は、IgG1 Fcにスプライシングされた、β2−糖タンパク質−1の全長(ドメインI〜V)の二量体型である(Peregrine Pharmaceuticals、カリフォルニア州タスチン)。
【0027】
表3:この研究における抗脂質抗体
【0028】
【表3】

【0029】
健康な被験体由来の抗体ライブラリーから得られ、PSへの結合改善のために修飾された
組換えEnvおよび他の試薬。PBSおよび1%BSAを含むPBSをGibco Invitrogen(ニューヨーク州グランドアイランド)より購入した。メタノール不含ホルムアルデヒド10%をPolysciences, Inc(ペンシルバニア州ウォリントン)より購入した。組換えgp140 CFまたはCFI M群コンセンサスCON−S、JRFL、およびX Envオリゴマーを、記載されるように、分泌タンパク質として、組換えワクシニアウイルス中で産生した(Liaoら, Virology 553:268−282(2006))。
【0030】
患者および対照標本。デューク大学IRBによって認可された臨床プロトコルのもとで、健康な対照被験体および患者試料を得た。デューク大学医学センターに保存されている抗リン脂質抗体症候群(APAS)患者試料貯蔵所から、患者試料1〜10を得た。自己免疫疾患患者および健康な対照を採用するように設計されたCHAVI005プロトコルのもとで採用した被験体の選択から患者試料11〜30を得た。抗カルジオリピン抗体の存在に関してすべての試料を試験し、そしてこれを標準HIV−1 ELISAによってスクリーニングした。ウイルス装填に関してもまた、RNA PCRによって、CHAVI005試料を試験した。試験したすべての試料は、抗HIV抗体に関して陰性であり、そして検出可能なHIV−1ウイルスRNAはまったくなかった。
【0031】
ヒトCD4+ T細胞およびCD14+単球の単離。米国赤十字由来の廃棄バフィーコートとして、または未感染正常被験体の白血球除去から得たPBMCを、陰性選択を用い、autoMACSTM Pro分離装置(Milteny Biotech、カリフォルニア州オーバーン)を用いて、CD4+ T細胞に関して濃縮するか、または水簸装置(elutriator)を用いて、単球に関して濃縮した。CD3、CD4、およびCD8抗体での染色、ならびにBD LSR II(BD Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)またはGuava EasyCyte Mini−SSC系(Guava Technologies、カリフォルニア州ヘイワード)のいずれかでの分析によって、生じた細胞調製物を分析した。すべての調製物は、≧95% CD3+CD4+または>95% CD14+であった。
【0032】
表面プラズモン共鳴およびフローサイトメトリー。表面プラズモン共鳴(SPR)およびフローサイトメトリーを用いて、基質へのmAbの結合を研究した。BIAcore 3000(BIAcore, Inc、ニュージャージー州ピスカタウェイ)上で標準技術を用いて、SPR研究を行った。ヒトT細胞株H9(ATCC、バージニア州マナサス)上、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)上、または血液単球上で、フローサイトメトリー研究を行った。一次抗体と30〜60分間インキュベーションし、そして二次抗体と30分間インキュベーションして、フローサイトメトリーのための染色を37℃で行った。PBS中のメタノール不含1〜2%ホルムアルデヒド中で、フロー試料を固定し、そしてBD LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences、カリフォルニア州サンノゼ)上で分析する前に、4℃で保存した。
【0033】
TZM−bl細胞における中和アッセイ。先に記載されるように、TZM−bl細胞における中和抗体アッセイを行った(Weiら, Nature 422:307−312(2003); Derdeynら, J. Virol. 74:8358−8367(2000); Liら, J. Virol. 79:10108−10125(2005); Montefiori, DC pp 12.11.1−12.11.15, Current Protocols in Immunology中(2004))。簡潔には、使用前に、トリプシン/EDTAでの処理によって、接着細胞を破壊した。患者血清を1:20最終希釈から出発して試験する一方、mAbを50μg/mL最終濃度から出発して試験した。連続3倍希釈を用いて、両方の力価決定をした。測定可能な感染を生じるようにあらかじめ決定した力価で、抗体希釈に偽ウイルスを添加して、そして1時間インキュベーションした。TZM−bl細胞を添加し、そして48時間インキュベーションした後、ルミノメーターによって上清を測定した。対照ウェルに比較した発光の減少としてデータを計算し、そしてμg/mlでのmAb IC50として報告した(Montefiori, Current Protocols in Immunology, J. Coliganら監修, John Wiley & Sons, Inc., Hoboken, NJ 12.11.11−12.11.15(2004))。
【0034】
PBMCにおける中和アッセイ。全ウイルス調製物を用いてPBMCを感染させてPBMCアッセイを行い、p24 ELISA(Abbott、イリノイ州シカゴ)を用いて感染を検出した。mAbおよびヒト血清を、示すようにウイルスまたは細胞とインキュベーションし、そして次いで、感染前に、遊離抗体を洗浄した(Pilgrimら, J. Infect. Dis. 176:924−932(1997))。簡潔には、凍結保存ヒトPBMCを融解し、そして5μg/mLの植物性血球凝集素を含有するIL−2増殖培地(2mM L−グルタミン、25mM HEPES、20%熱不活化ウシ胎児血清、5%IL−2、50μg/mLゲンタマイシンを含むRPMI1640)中で1日間培養して休ませた。次いで、細胞を洗浄し、そして適切なように抗体または血清希釈を含有するU底ウェルに添加し、そして1時間インキュベーションした後、HIV、SIV、またはSHIV単離体を適切な希釈で添加した。24時間後、IL−2増殖培地で細胞を4回洗浄し、そして次いでさらに24時間インキュベーションした。培地(25μL)を取り除き、そして225μLの0.5%Triton X−100とインキュベーションし、そして次いで、p24 ELISAによってアッセイした。対照感染ウェルに比較したp24産生の減少としてデータを計算し、そしてμg/mLでのmAb IC80として表した。抗体ストックを2mMカルジオリピン(CL)、2mMジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、またはPBSと37℃で2時間または一晩インキュベーションした後、上述のように混合物をアッセイして、脂質で前吸収したmAbの研究を行った。0時間、24時間、48時間、または72時間でmAbを添加することによって、時間経過研究を行った。これらの実験において、アッセイ全体に渡って、一定濃度の抗体が存在するように、各洗浄工程後に抗体を再導入した。
【0035】
HIV−1が誘導する合胞体形成の、抗体による阻害。Larry ArthurおよびJeffrey Lifson(Frederick Research Cancer Facility、メリーランド州フレデリック)の寛大な寄贈品として供給された2,2’−ジピリジルジスルフィド(AldrithiolTM−2)不活化ビリオンを用いて、合胞体阻害アッセイを行った。連続希釈中で調製された抗体を、不活化ビリオンと37℃で1時間インキュベーションした。50μg/mLゲンタマイシンを含むRPMI 1640中の10% FBS中で増殖させたSUP−T1細胞を抗体−ウイルス混合物に添加し、そして37℃、5%COで16時間インキュベーションした。倒立位相差顕微鏡を用いて合胞体を画像化し、そして計数した。抗体を含有しないウェルに比較して、合胞体形成を90%阻害した抗体濃度として、力価を表した。
【0036】
ヒト血清からのIgGの精製。Pierce Chemical Co.のStaph AGカラム上でのアフィニティクロマトグラフィーによって、血清からIgGを精製した。
【0037】
PBMCの蛍光顕微鏡。水性生体染色色素(aqua vital dye)およびAlexaFluor555標識コレラ毒素B(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)の存在下で、一次mAbとPBMCを4℃で30分間インキュベーションした。PBS中の1%BSAを用いて、試料を洗浄し、そしてヤギ抗ヒトIgG(H+L)−FITC(KPL Inc、メリーランド州ガイザーズバーグ)で30分間染色した。最終洗浄後、細胞をPBS中の最小1%BSAに再懸濁し、そしてSPOT CCDカメラ(Diagnostic Instruments、ミシガン州スターリングハイツ)を装備したOlympus AX−70顕微鏡上で、蛍光顕微鏡検査下で見るまで、4℃で保存した。
【0038】
結果
PBMC中、単一ラウンド感染アッセイにおいて、HIV−1偽ウイルス感染を阻害し、そして多数ラウンド感染アッセイにおいて、感染性ウイルスを阻害する、抗脂質mAb能力のスクリーニング。表3中のmAbが、HIV−1 Env偽ウイルスB.6535、B.PVOおよびC.DU123の感染を阻害する能力を決定した(表4A)。いずれのmAbも、上皮細胞株TZMBL(CCR5およびCD4でトランスフェクションされた生殖器上皮細胞)中で培養した場合、3つの偽ウイルスのいずれも阻害しないことが見出された。次に、SUP−T1細胞株において、これらの抗体が、AldrithiolTM−2不活化ビリオンによって誘導される合胞体形成を防止する能力の研究を行った(表4B)。抗脂質抗体はいずれも、合胞体形成を防止しなかった。次いで、多数ラウンドアッセイにおいて、mAbが感染性HIV−1初代単離体によるPBMC感染を阻害する能力に関して、同じmAbパネルを試験した(表4C)。偽ウイルスおよび合胞体阻害アッセイにおいて、抗脂質mAbの効果が欠如していたのとは対照的に、試験した9つのmAbのうち4つ(11.31(PGN 632)、P1、IS4およびCL1)が、B.PVO、B.6535、およびC.DU123に対して強力な中和活性を有することが見出された。抗体11.31(PGN 632)が最も強力な感染阻害剤であり、C.DU123に対するIC80は<0.02μg/mlであった。
【0039】
表4A: TZM−bl CD4+ CCR5+上皮細胞において、抗脂質抗体が、エンベロープ化偽ウイルスを中和不能であること
【0040】
【表4−1】

【0041】
表4B: SUP−T1 T細胞株において、抗脂質抗体が、AldrithiolTM−2不活化HIV−1によって誘導される融合を阻害不能であること
【0042】
【表4−2】

【0043】
表4C: PBMCに基づくウイルス感染阻害アッセイにおいて、抗脂質抗体がHIV−1を中和する能力
【0044】
【表4−3】

【0045】
HIV−1感染性を阻害しないものに対して、阻害するmAbの最も際だった特徴は、脂質への結合のために、阻害性mAbのβ2−糖タンパク質I(β2−GP1)への依存が存在しないことであった。HIV−1を阻害する4つのmAbは、CLまたはPSへの結合のためにβ2−GP1を必要とせず(P1、11.31(PGN 632)、CL1、IS4)、一方、HIV−1を阻害しなかった5つのmAbは、脂質結合のためにβ2−GP1を必要とした(表3)(図1)。
【0046】
ウイルス感染性阻害の抗脂質mAbの幅。次に、11.31(PGN 632)、P1、IS4およびCL1 mAbの中和の幅を決定した。試験した7つのR5ウイルスのうち、7つすべての感染性が4つのmAb各々によって阻害された(表5)。しかし、X4ウイルスを試験すると、4つのX4ウイルスのいずれもが、4つの脂質抗体によって阻害されなかった(表4および未提示)。同様に、R5 SHIV SF162P3に対してmAbを試験すると、このSHIVの感染性は4つのmAbすべてによって強力に阻害され、最大の阻害は、11.31(PGN 632)で見られ、0.06μg/ml IC80であった。しかし、二重向性(dualtropic)R5/X4 SHIV 89.6Pはいずれの抗脂質抗体によっても中和されなかった。
【0047】
表5: 4つの抗脂質モノクローナル抗体のHIV−1感染性阻害の幅
【0048】
【表5】

【0049】
HIV−1ビリオンを捕捉する抗脂質抗体の欠如。抗脂質、抗HIV−1および対照mAbをマイクロタイタープレートウェル上にコーティングし、そして次いで、可溶性CD4の存在下または非存在下で、PBMC中で産生された初代単離体ビリオンとインキュベーションした。予期されるように、抗HIV−1 gp41免疫優性領域mAb 7B2および抗gp120 V3ループmAb F39Fは、HIV−1ビリオンを捕捉可能であった。さらに、抗gp120 CCR5結合部位mAb 17bは、可溶性CD4による誘発の存在下でビリオンを捕捉可能であったが、誘発の非存在下では捕捉不能であった。対照的に、いずれの抗脂質mAbもビリオンを捕捉不能であった(図2)。
【0050】
抗脂質抗体の阻害効果の部位。2つのアッセイプロトコルを研究して、PBMC培養中で、mAbが作用してHIV−1感染性を阻害するのはどこか決定した。植物性血球凝集素(PHA)活性化PBMCにウイルス−抗体混合物を添加する前に、まず、mAbをウイルスと60分間プレインキュベーションした。次に、まず、PHA活性化PBMCに抗脂質mAbを1時間添加し、次いで、PBMCを洗浄し、そしてウイルスをPBMCに添加した。どちらの環境においても、mAb中和効力は等しいことが見出され(図3)、抗脂質抗体が、ターゲットPBMC表面に結合することによって、HIV−1感染性を阻害することが示された。
【0051】
次いで、mAb 11.31(PGN 632)、P1、IS4およびCL1がPHA活性化PBMC表面に結合可能であるかどうかを調べた。抗脂質mAbがPHA活性化PBMC(図4A)およびHIVMN感染ヒトH9 T細胞(図4B)に結合する能力をフローサイトメトリーによって分析することによって、実際に、あるサブセットのPBMCおよびHIV感染H9 T細胞が抗脂質抗体に結合することが示された。H9 T細胞がHIV−1MNに感染すると、mAbに応じた多様な度合いで、生存感染細胞への脂質mAb結合が、11.31(PGN 632)>CL1>IS4>P1で上方制御され(図4B)、そしてこれは、抗脂質抗体がHIV−1感染性を阻害する効力と相関した。さらに、11.31(PGN 632)mAbは、間接的免疫蛍光アッセイにおいて、PHA活性化PBMC表面に結合することが見出された(図5)。
【0052】
抗脂質抗体が、HIV−1 Envと反応していないことを示す(rule out)ため、一連の組換えEnvオリゴマーとの抗脂質抗体反応性の表面プラズモン共鳴分析を行った。2F5および4E10は、JRFLおよびCON−S gp140オリゴマーによく結合したが、抗脂質抗体はいずれもHIV−1 Envに結合しなかった(未提示)。さらに、言及するように、脂質抗体は、HIV−1ビリオンを捕捉しなかった(図2)。
【0053】
mAbが阻害するHIV−1感染段階を決定するため、PBMCにウイルスを添加する時点、ならびにウイルスを添加した24時間後、48時間後、および72時間後にmAbを添加する、タイミング研究を行った。抗体各々に関して、より遅い時点での中和が観察されることが見出された(表6)。すべての抗体に関して、より遅い時点で中和が減弱され、そしてこれは抗体の最初の効力と相関した。重要なことに、CL1および11.31(PGN 632)はどちらも、感染開始の48時間後に添加した場合に中和可能であり、それぞれ、0.22および0.07μg/mLのIC80であった。
【0054】
表6 PBMCアッセイにおいて、B.6535に対する抗脂質抗体の阻害効果に関する導入時点の影響
【0055】
【表6】

【0056】
抗脂質抗体の中和活性は、脂質とのプレインキュベーションによって改変される。これらの抗体の特異性を調べるため、PBS、2mMカルジオリピン(CL)または2mMジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)とプレインキュベーションしたmAbで中和アッセイを行った(図6)。B.6535に対して試験した際、抗体のうち2つ、CL1および11.31(PGN 632)は、DOPEとインキュベーションした際には効力に変化を示さなかったが、CLとのインキュベーション後には効力の損失を示し、それぞれ11倍および200倍、IC80が減少した。IS4は、どちらの脂質とインキュベーションした際も、ほとんど変化を示さず、一方、P1は、DOPEとプレインキュベーションすると、効力の1.6倍の減少を示した。これらのデータは、これらの抗体のターゲットがターゲットPBMC上の脂質または脂質と会合する分子であることと一致する。脂質プレインキュベーションによる阻害の変化はまた、吸収されない抗体の効力とも相関した。
【0057】
ターゲット細胞PSの直接連結は、ウイルス阻害を生じる。β2−GP−1−Fc二量体は、IgG1 Fcによって連結されたβ2−GP−1の2つの全長(ドメインI〜V)分子の構築物である。β2−GP−1はPSに結合し、そしてAPASの原発型または続発型の患者において、多くの病原性抗体のターゲットである(DeGrootら, J. Thromb. Haemost. 3:1854−1860(2005))。したがって、β2−Gp−1の二量体がHIV−1感染性を阻害可能である場合、PBMCにおけるHIV−1感染性阻害にはPS結合が必要であることの直接の証拠が提供される。実際、抗脂質抗体ほど強力ではないが、β2−GP−1は、それぞれ12、1.4、および29μg/mLのIC80で、B.6535、C.DU123、およびSHIV SF162P3を阻害した。
【0058】
mAb 11.31(PGN 632)を単球とインキュベーションするとHIV−1感染が防止されるが、CD4+ PBMC T細胞とインキュベーションしても防止されない。抗脂質抗体は、PB CD4+ T細胞のみのHIV−1感染性を阻害せず;むしろ、抗脂質抗体は、単球が存在する場合にのみ、PBMC培養のHIV−1感染性を阻害する。対照的に、抗HIV−1炭水化物mAb 2G12は、単球が存在するかどうかに関わらず、精製CD4+ T細胞において感染性を阻害する(図7を参照されたい)。
【0059】
PB単球上にコーティングされた抗脂質抗体、および抗体でコーティングしたPB単球をCD4+ T細胞に添加し直すと、今度は、精製PB CD4+ T細胞の感染性が阻害される。対照的に、精製PB CD4+ T細胞を抗脂質抗体で前処理し、そしてCD4+ T細胞に添加し直すと、抗体処理PB CD4+ T細胞がCD4 T細胞のHIV−1感染性を阻害する能力はまったく見られない。したがって、脂質抗体は、HIV−1感染性に対して特異的な阻害効果を有する何らかの活性を、単球から刺激しているに違いないと推測される(図8を参照されたい)。
【0060】
抗脂質抗体は、CCR5(R5)結合性ケモカインを単球から誘導可能であるが、CXCR4(X4)結合性ケモカインを誘導不能である。
次の疑問は、抗脂質抗体が単球からX4ケモカインではなくR5ケモカインを誘導可能であるかどうかであった。図9は、これが実際に当てはまることを示す。抗脂質抗体が存在し、そしてウイルスが存在しないと、単球は、R5ケモカイン、MIP−1α、MIP−1βおよびRANTESを誘導するが、X4ケモカインSDF−1を誘導しない。さらに、単球に添加されたHIV−1ウイルスは、R5ケモカイン誘導に対してわずかなまたは最小限の効果しか持たない。しかし、抗体およびウイルスが両方存在していると、ケモカイン、そして特にMIP−1αおよびMIP−1βの産生が増進する。したがって、抗脂質抗体の阻害機構は、抗脂質抗体およびHIV−1の組み合わせによって、単球(そしておそらく他の骨髄系細胞、例えば樹状細胞および組織マクロファージ)からのR5ケモカインの誘導を介する。さらに、抗脂質抗体+HIV−1による、X4ケモカインではなく、R5ケモカインのこの選択的誘導は、抗脂質抗体が、R5ケモカインの感染性のみを阻害し、X4ケモカインの感染性を阻害しないのはなぜであるかを説明する。最近、Keeleらは、HIV−1伝染ウイルスが、実質的にすべてR5ウイルスであることを示した(Keele, Brandonら. Proc. Natl. Acad. Sci. 105:7552−7, Epub 2008 May 19(2008))。総合すると、これらのデータは、11.31(PGN 632)およびCL1などの抗脂質抗体が、初期HIV−1感染の治療として特に有効である可能性もあり、そしてこれらが、HIV−1感染の曝露後予防剤として有用である可能性もあり、そしてR5伝染ウイルスに対して防御可能な可能性もあることを示す。
【0061】
R5ケモカインに対する抗体が、PBMCのHIV−1感染を阻害する抗脂質抗体の能力を阻害する能力。次に、PBMC HIV−1感染性アッセイに添加した際、R5ケモカインの効果を中和する抗体が、mAb 11.31(PGN 632)およびCL1がHIV−1によるPBMC感染を阻害する能力を阻害可能であるかどうかを検討した(図10)。R5ケモカインMIP−1αおよびMIP−1βを中和する抗体は、抗脂質抗体がHIV感染性を阻害する能力の最強の阻害剤であることが見出された。したがって、実際に、HIV−1存在下での、抗脂質抗体によるR5ケモカインの誘導は、PBMCのHIV−1感染を阻害可能である。
【0062】
実施例2
75人の健康なドナーから標準法を用いてPBMCを得て、そして感染ウイルスとしてHIV−BaL.LucR.T2A.ecto/hPBMCを用いたPBMCアッセイにおけるターゲットとして用いた。モノクローナル抗体11.31(図14A)、IgG1b12(図14B)、および4E10(図14C)、ならびにヒト・ポリクローナル抗体調製物HIVIG(図14D)を、感染を阻害する能力に関して試験した。抗体を伴わない対照感染に比較したHIV−1感染の80%阻害に必要な抗体濃度として、データをプロットする。各棒は、個々のドナーPBMC調製物から得られたデータに相当し、そしてグラフ間で対応する。11.31は、試験したドナーPBMCの85%で感染阻害を示し、平均IC80値は3.6μg/mLであった。IgG1b12は、試験したPBMCの95%を阻害し、平均IC80は9.2μg/mLであった;4E10は、試験したPBMCの40%を阻害し、平均IC80は20.4μg/mLであった;HIVIGは、試験したPBMCの98%を阻害し、平均IC80は780μg/mLであった。
【0063】
健康なドナーからの水簸によって得られ、そして>94%の純度である単球を、モノクローナル抗体(10μg/mL最終濃度)、リポ多糖(Sigma、最終濃度10μg/mL)の存在下、または刺激なしで、チャンバースライド中または6ウェルプレート中でインキュベーションした。96時間インキュベーションした後、チャンバースライド中の上清を取り除き、そしてスライドをWright染色し、そして次いで、顕微鏡下で視覚化した。7日後、6ウェルプレート中の細胞を取り除き、そして染色のため、細胞標本スライド上で回転させた。モノクローナル抗体11.31(図15A)、CL1(図15B)、およびIS4(図15C)と96時間インキュベーションした後、多核巨細胞(多核細胞)の形成が誘導された。同様に、7日後、抗体P1(図15D)は、多核細胞の形成を誘導した。リポ多糖(図15E)、対照抗体17b(図15F)、あるいはパリビズマブ、A32、またはF39F(未提示)での刺激は、多核細胞形成を誘導しなかった。
【0064】
HIV−1 WITO伝染エンベロープ偽ウイルスの存在下で、PBMCを抗体11.31(図16A)またはCL1(図16B)の連続希釈と24時間インキュベーションし、そして次いで、抗体および偽ウイルスを含む上清をTZM−bl細胞培養に添加した。示すデータは、対照試料に比較した感染の阻害である。どちらのモノクローナル抗体に関しても、PBMC馴化上清を添加した場合に感染阻害が生じたが、抗体のみを添加した場合には阻害は見られなかった。阻害曲線は、抗体のみとインキュベーションしたPBMC、または標準的PBMCアッセイに関して、類似であった(データ未提示)(図17もまた参照されたい)。
【0065】
上に引用するすべての文献および他の情報供給源は、その全体が本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV−1のCCR5向性株による、ヒト被験体の感受性細胞の感染を阻害する方法であって、モノクローナル抗体CL1またはその断片を、前記抗体または前記その断片が、前記被験体の細胞であって:
i)CCR5結合性ケモカインを産生し、そして
ii)その細胞表面上に前記抗体または前記その断片によって認識される抗原を有し、したがって、前記細胞による前記ケモカインの産生が、単独でまたはHIV−1の前記株の存在下で、前記抗体または前記その断片によってのいずれかで、前記感受性細胞の感染を阻害するのに十分なレベルまで誘導される
前記細胞に結合する量および条件下で、前記被験体に投与する工程を含み、
前記抗体または前記その断片を、HIV−1の前記株への前記ヒト被験体曝露の48時間以内に投与する
前記方法。
【請求項2】
前記感受性細胞がT細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記断片が、scFv、Fv、Fab’、FabまたはF(ab’)断片である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記抗体または前記その断片を局所投与する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記抗体または前記その断片を、前記被験体の粘膜表面に投与する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
HIV−1のCCR5向性株による、ヒト被験体の感受性細胞の感染を阻害する方法であって、CL1の結合特異性を有する抗体またはその断片を、前記抗体または前記その断片が、前記被験体の細胞であって:
i)CCR5結合性ケモカインを産生し、そして
ii)その細胞表面上に前記抗体または前記その断片によって認識される抗原を有し、したがって、前記細胞による前記ケモカインの産生が、単独でまたはHIV−1の前記株の存在下で、前記抗体または前記その断片によってのいずれかで、前記感受性細胞の感染を阻害するのに十分なレベルまで誘導される
前記細胞に結合する量および条件下で、前記被験体に投与する工程を含み、
前記抗体または前記その断片を、HIV−1の前記株への前記ヒト被験体曝露の48時間以内に投与する
前記方法。
【請求項7】
前記感受性細胞がT細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記断片が、scFv、Fv、Fab’、FabまたはF(ab’)断片である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記抗体または前記その断片を局所投与する、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記抗体または前記その断片を、前記被験体の粘膜表面に投与する、請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9A1】
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【図9A2】
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【図9A3】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図17−4】
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【図17−5】
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【図17−6】
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【図17−7】
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【図17−8】
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【図17−9】
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【図17−10】
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【図17−11】
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【図17−12】
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【図17−13】
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【図17−14】
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【図17−15】
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【図17−16】
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【図17−17】
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【図17−18】
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【図17−20】
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【図17−21】
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【図17−22】
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【図17−23】
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【図17−24】
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【図17−25】
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【図17−26】
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【図17−27】
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【図17−28】
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【図17−29】
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【図17−30】
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【図17−31】
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【図17−32】
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【図17−33】
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【図5】
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【図15】
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【図17−19】
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【公表番号】特表2012−502030(P2012−502030A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526055(P2011−526055)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/005023
【国際公開番号】WO2010/027501
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(511043965)デューク ユニバーシティー (9)
【氏名又は名称原語表記】DUKE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】