説明

抗菌処理方法

【課題】光照射なしでも抗菌活性を有し、光・放射線・塩素等の薬剤に対して安定で、抗菌効果が低下しない抗菌処理方法を提供することを目的としている。
【解決手段】少なくとも暗所で抗菌活性を備えている、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を暗所に貯留して、前記抗菌処理液を被抗菌処理物に接触させ、抗菌作用を発現させる。また、前記抗菌処理液を被抗菌処理物に付着後、乾燥させることにより、被抗菌性物質に抗菌性を付与する。また、抗菌処理液に光照射することで、抗菌活性を増強させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌やカビなどに対する抗菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の抗菌性組成物として、抗菌性銀化合物をチタンの酸化物上に付着した抗菌性組成物を、ポリマー材料に分散した構造組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、既知の抗菌性金属である銀と、チタン等の生理学的に不活性の酸化物とを組み合わせた抗菌性組成物を、ポリマー材料に分散して、水又は水性環境下で安定的に抗菌作用を発生させるものであった。
【0004】
また、水中に繁殖する微生物を殺菌できる水処理装置として、図9に示すように、水殺菌装置101内に設けられたアナターゼ型の酸化チタン102に近紫外線照射装置103から発生した近紫外線を照射することで、アナターゼ型の酸化チタン102の光触媒反応により、水中の酸素を励起状態にし、活性酸素を発生させるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第213805号公報
【特許文献2】特許第3056584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来の抗菌性組成物は、抗菌性の金属である銀を酸化物支持体と組み合わせることによって、水又は水性環境下での安定性を向上させているものの、光または放射線の存在下で銀等の金属が還元され、金属銀として黒色に変色し、抗菌作用も低下するという課題があった。また、水道水に含まれる塩素等の成分と反応して塩化銀などの化合物を形成し、抗菌作用が低下するという課題があった。
【0006】
特許文献2に記載の従来の水処理装置は、光触媒作用によって水中の微生物を殺菌することができるが、光があたらない暗所では殺菌効果が働かないという課題があった。近紫外線照射装置を備えた場合でも、内部構造全体に光を照射することは困難であり、陰になった部分には殺菌効果が働かないという課題があり、運転停止中などの近紫外線照射装置働いていないときには、菌が増殖する可能性があるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、光照射なしでも抗菌処理ができる抗菌処理方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、光・放射線・塩素等の薬剤に対して安定で、抗菌効果が低下しない抗菌処理方法を提供することを目的としている。
【0009】
また、均一な光照射が困難な複雑な構造体に対しても、抗菌効果を発揮できる抗菌処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の抗菌処理方法は、上記目的を達成するために、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を暗所に貯留して、前記抗菌処理液を被抗菌処理物に接触させ、抗菌作用を発現させることを特徴とするものである。
【0011】
また、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を液滴として被抗菌処理物に散布することを特徴とするものである。
【0012】
また、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を被抗菌処理物に付着させた後、溶媒を揮発させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光照射なしでも抗菌処理ができる抗菌処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の請求項1記載の発明は、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を暗所に貯留して、前記抗菌処理液を被抗菌処理物に接触させ、抗菌作用を発現させることを特徴としたものである。ハロゲンと化学結合した酸化チタン(IV)を有するハロゲン含有酸化チタン(IV)を含むため、例えば、従来、暗所でも抗菌活性を示すとされている銀、銅、亜鉛等の金属等を含まなくても、暗所において抗菌活性を発現することができる。また、金属等を含む抗菌剤のように使用環境における塩素や紫外線の影響で金属が析出して抗菌作用が低下する恐れがないという効果を得ることができる。化学結合がイオン結合である場合は、ハロゲンと酸化チタンとが強固に結合し、例えば、抗菌活性や光触媒反応の促進作用を向上できる。さらに、暗所に抗菌処理液を貯留して、前記抗菌処理液と接触させることにより、抗菌処理液と接触した被抗菌処理部分に抗菌作用を発現させることができ、菌やカビの発生を抑制して清潔に保つことができる。
【0015】
また、抗菌処理液を液滴として被抗菌処理物に散布することを特徴としたものであり、液滴を散布した空間および液滴が付着した場所を抗菌処理することができる。液滴として散布することにより、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を広い範囲に分散させて抗菌処理を行うことができる。
【0016】
また、抗菌処理液を被抗菌処理物に付着させた後、溶媒を揮発させることを特徴としたものであり、塗布した部分にハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を付着させることができ、抗菌作用を持続させることができる。また、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)高分散状態で付着させることができ、少量でも効果的に抗菌作用を発揮させることができる。
【0017】
また、抗菌処理液と被抗菌処理物を13分以上接触させることを特徴としたものであり、抗菌処理液と接触した被抗菌処理部分に存在する菌を99%以上減少させ、清潔に保つことができる。
【0018】
また、抗菌処理液に含まれるハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の粒子径が、1〜100nmであることを特徴としたものであり、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、抗菌処理液を透明にすることができ、処理液を塗布した場所を変色させることなく、抗菌作用を発揮させることができる。
【0019】
また、抗菌処理液は、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を66mg/l以上含むことを特徴としたものであり、このような濃度にすることによって抗菌作用を発現させることができる。
【0020】
また、抗菌処理液のpHが6.5以下であることを特徴としたものであり、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の分散性を向上させ、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、十分な抗菌作用を発揮させることができる。
【0021】
また、抗菌処理液のpHが3〜6.5であることを特徴としたものであり、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の分散性を向上させ、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、抗菌作用を発揮させながら、酸による被抗菌処理物の損傷や変色などを防止することができる。
【0022】
また、抗菌処理液はフッ化アンモニウムを含むことを特徴としたものであり、抗菌処理液の抗菌作用をより効果的に発現させることができる。
【0023】
また、抗菌処理液はアルコールを含むことを特徴としたものであり、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の分散性を向上させ、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、抗菌処理液が付着した際の濡れ性を向上させ、広い範囲に抗菌処理液を付着させることができる。また、アルコールの抗菌作用を利用して瞬時に抗菌効果を発揮させるとともに、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の持続的な抗菌作用を得ることができる。また、アルコールの揮発促進作用によって、抗菌処理液を素早く乾燥させることができる。
【0024】
また、抗菌処理液に光照射することで、抗菌活性を増強させることを特徴としたものであり、光照射によって光触媒が活性化され、より短時間で抗菌できるようになる。また、菌の死骸や毒素まで分解することができる。
【0025】
また、1mW/cm2以上の紫外線を1時間以上照射することを特徴としたものであり、抗菌処理が比較的困難である芽胞菌やカビ胞子まで減少させることができる。
【0026】
また、紫外線を間欠的に照射して、有機物の分解を行うことを特徴としたものであり、暗所においても抗菌作用が発現するため、暗所に保持された時にも菌やカビが増殖する恐れがなく、さらに間欠的に照射される光によって、菌の死骸や毒素まで分解することができる。
【0027】
また、254nmより大きく400nm以下である紫外線を照射することを特徴としたものである。殺菌灯に用いられる波長254nmの光では殺菌作用は強いものの、被抗菌処理物が樹脂や紙などの有機物である場合には、被抗菌処理物自体の変色や強度劣化などの不具合が生じやすく、波長300nm以上の光を用いるほうが好ましい。また、波長400nm以上の光では菌の死骸や毒素まで分解することが困難である。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
(実施の形態)
本発明の抗菌処理方法は、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液により、抗菌作用を発現させることを特徴とする。本発明の抗菌処理方法では、暗所での抗菌活性を備えたハロゲン含有酸化チタン(IV)を抗菌処理液に含んでいるため、従来、暗所でも抗菌活性を示すとされている銀、銅、亜鉛等の金属等を含まなくても、暗所において抗菌活性を発現することができる。
【0030】
本発明において「抗菌」とは、気相の菌を増殖抑制すること、殺菌すること及び/又は分解することを含み、好適には気相の菌濃度の低減及び/又は菌の増殖を抑制することを含み。
【0031】
本発明において、「暗所で抗菌活性を発現する」とは、例えば、少なくとも紫外光(400nm以下の波長の光)を含む光が照射されない条件下で、抗菌処理液を菌に接触した場合に、抗菌処理液と接触した菌濃度を接触前の濃度よりも2桁(99%)以上減少できることをいう。なお、菌濃度の測定方法は、後述する実施例に示す方法で行うことができる。本発明において、抗菌活性の対象は特に制限されず、例えば、細菌(例えば、大腸菌、黄色ぶどう球菌、緑膿菌、MRSA、セレウス菌、肺炎桿菌等)、カビ、ウイルス等が挙げられる。
【0032】
本発明において「ハロゲンの少なくとも一部が酸化チタン(IV)と化学結合している」とは、酸化チタン(IV)とハロゲンの少なくとも一部とが化学的に結合していることをいう。好適には担持や混合ではなく酸化チタンとハロゲンとが原子レベルで結びついている状態のことをいい、より好適には酸化チタンとハロゲンとがイオン結合していることをいう。ハロゲン含有酸化チタン(IV)において、抗菌活性及び光触媒活性の向上の点から、酸化チタン(IV)と化学結合しているハロゲンは、ハロゲン含有酸化チタン(IV)における全てのハロゲンのうち90重量%以上であり、95重量%以上であることが好ましく、より好ましくは100重量%すなわちハロゲン含有酸化チタン(IV)に含まれるハロゲンの全量が化学結合していることである。
【0033】
本発明において「化学結合しているハロゲン」とは、ハロゲン含有酸化チタンに含まれるハロゲンのうち、水に溶出しにくいハロゲンのことをいう。
【0034】
酸化チタン(IV)と化学結合しているハロゲンの量は、酸化チタンを水中に分散させ、pH調整剤(例えば、塩酸、アンモニア水)でpH=3以下又はpH=10以上に保持し、水中へのハロゲンの溶出量を比色滴定等により測定し、ハロゲン含有酸化チタンに含まれるハロゲンの総量から上記溶出量を差し引くことにより算出できる。ハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるハロゲンの総量は、吸光光度分析法(JIS K 0102)により求めることができる。
【0035】
化学結合は、ハロゲンと酸化チタンとが強固に結合し、抗菌活性や光触媒反応の促進作用を向上できる観点から、イオン結合であることが好ましい。化学結合がイオン結合である場合は、ハロゲンと酸化チタンとが強固に結合し、抗菌活性や光触媒反応の促進作用を向上できる、酸化チタンとハロゲンとのイオン結合は、光電子分光装置により分析できる。例えば、ハロゲンがフッ素である場合、ハロゲン含有酸化チタンを光電子分光分析装置で分析した際に、フッ素の1s軌道(F1s)のピークトップが683eV〜686eVの範囲となるスペクトルを示す場合をいう。これは、フッ素とチタンとがイオン結合したフッ化チタンのピークトップの値が上記範囲内であることに由来する。
【0036】
ハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるチタン、酸素及びハロゲンの合計の含有量(モル%)は、抗菌活性の点から、96モル%以上であることが好ましく、より好ましくは97モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上、さらにより好ましくは99モル%以上、特に好ましくは実質的に100モル%又は100モル%である。ハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるチタン、酸素及びハロゲンの合計の含有量(モル%)は、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に含まれる元素の含有量(重量%)を各元素の原子量により除することによって各原子のモル含有量を算出し、得られたモル含有量を用いて下記式より算出できる。なお、ハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるハロゲン(フッ素、臭素、ヨウ素、塩素)の含有量は吸光光度分析法(JIS K 0102)により求めることができ、チタン及び酸素の含有量は、蛍光X線分析により求めることができる。
合計の含有量={(チタン(mol)+酸素(mol)+ハロゲン(mol)}/{ チタン(mol)+酸素(mol)+ハロゲン(mol)+その他原子(mol) }×100
【0037】
ハロゲン含有酸化チタン(IV)において、暗所での抗菌活性向上の点から、ハロゲンは、酸化チタン(IV)1モルに対して0.0007〜0.172モルであることが好ましく、より好ましくは0.053〜0.11モルである。また、暗所における抗菌活性のさらなる向上の点からは、0.11〜0.17モルであることが好ましい。ハロゲンの含有量は、ハロゲン又は酸化チタンの含有量(重量%)を後述する各ハロゲンの原子量又は酸化チタンの式量で除することにより得られたハロゲンのモル含有量を用いて下記式より算出できる。
ハロゲン含有量=(ハロゲン(mol))/(酸化チタン(mol))
【0038】
酸化チタン(IV)としては、例えば、アナタース型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタンが挙げられ、暗所における抗菌効果が得られることに加えて、高い光触媒活性が得られることから、アナタース型酸化チタンが好ましい。本発明において「アナタース型酸化チタン」とは、粉末X線回折スペクトル測定において(使用電極:銅電極)、回折角度2θ=25.5度付近に回折ピークが現れる酸化チタンのことをいう。
【0039】
ハロゲン含有酸化チタンは、比表面積が200〜350m2/gの範囲が好ましく、より好ましくは250〜350m2/gの範囲である。ここで、本発明において比表面積とは、BET法(窒素の吸着・脱離方式)により測定した、ハロゲン含有酸化チタンの粉末1g当たりの表面積値である。比表面積が200m2/g以上の場合、分解する対象物との接触面積を大きくすることができる。また、アナタース型酸化チタンを用いる場合は、比表面積が350m2/g以下であると、アモルファス状の酸化チタンを用いた場合よりも高効率な光触媒反応を行うことができる。
【0040】
本発明において、ハロゲンとしては、フッ素、ヨウ素、臭素及び塩素が挙げられる。
【0041】
ハロゲンがフッ素である場合、フッ素含有酸化チタンは、組成式Ti(IV)OaFb(但し、0.053≦b≦0.172であり、2.026≦(a+b)≦2.086)で表されることが好ましい。より少量のフッ素で十分な抗菌活性が得られる点からは、bは、0.053〜0.11がより好ましく、さらに好ましくは0.08〜0.11である。a+bは、2.026〜2.053がより好ましい。また、暗所における抗菌活性のさらなる向上及び光触媒活性の点からは、bは0.11〜0.17がより好ましく、さらに好ましくは0.11〜0.15であり、a+bは2.053〜2.086がより好ましく、さらに好ましくは2.053〜2.075である。また、aは、例えば、Ti(IV)を維持する値であって、bとの関係で決定されても良い。上記組成式におけるa及びbは、フッ素の含有量(X)(重量%)を用いて下記式より算出できる。なお、下記式におけるYはフッ素原子量(19)であり、Zは酸化チタン式量(79.9)のことをいう。
b(フッ素のモル含有量)={Z*(X/100)}/{Y−(Y−8)*(X/100)}
a(酸素のモル含有量)=2−(b/2)
【0042】
フッ素含有酸化チタンにおけるフッ素の含有量は、暗所における抗菌活性の点から、1.25重量%〜4.0重量%であることが好ましく、より好ましくは1.25重量%以上2.5重量%未満である。暗所における抗菌活性のさらなる向上及び光触媒活性の点からは、2.5重量%〜4.0重量%が好ましく、より好ましくは2.5重量%〜3.5重量%である。
【0043】
ヨウ素含有酸化チタンにおけるヨウ素の含有量は、抗菌活性向上の点からは、0.2重量%〜2.5重量%であることが好ましい。暗所における抗菌活性向上の点からは、0.3重量%〜2.0重量%が好ましく、0.35重量%〜1.0重量%が好ましい。
【0044】
ヨウ素含有酸化チタンは、組成式Ti(IV)Oab(但し、0.0013≦b≦0.016であり、2.0006≦(a+b)≦2.008)で表されることが好ましい。また、bは、0.0019〜0.0128がより好ましく、さらに好ましくは0.0022〜0.0079である。a+bは、2.0009〜2.0064がより好ましく、さらに好ましくは2.0011〜2.0032である。また、aは、Ti(IV)を維持する値であって、bとの関係で決定されても良い。上記組成式におけるa及びbは、Xをヨウ素の含有量(重量%)、Yをヨウ素原子量(126.9)として上述したフッ素の換算式を用いて算出できる。
【0045】
本発明は、ハロゲンの少なくとも一部が酸化チタン(IV)と化学結合したハロゲン含有酸化チタン(IV)であれば、暗所において抗菌活性を発現できるという知見に基づく。暗所において抗菌活性が発現するメカニズムは明らかではないが、ハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるチタン−ハロゲン構造と、タンパク質、特に、タンパク質のアミノ基とが結合することや、ハロゲン含有酸化チタン(IV)の一部が疎水化し、ハロゲン含有酸化チタン(IV)と菌を構成するタンパク質及び/または脂質との間に疎水結合力が働くことにより、ハロゲン含有酸化チタン(IV)に菌が吸着し、これにより、暗所においても抗菌活性が発現されるものと推定される。また、ハロゲン含有酸化チタン(IV)表面に結合したハロゲンがハロゲンイオン化し、このハロゲン含有酸化チタン(IV)表面のハロゲンイオンが菌を酸化するため、暗所において抗菌活性が発現されるものと推定される。光照射時に抗菌作用が増強される点については、菌がハロゲン化酸化チタン(IV)表面に濃縮され、さらに光が照射されると、光触媒作用により発生したOHラジカルが菌に作用する確率が高くなり、殺菌作用が増強されるものと推定される。ただし、これらのメカニズムの推定は、本発明を限定するものではない。
【0046】
[ハロゲン含有酸化チタンの製造方法]
本発明のハロゲン含有酸化チタンは、例えば、n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下である酸化チタンの水分散液とハロゲン化合物とを混合し、前記混合液中で前記酸化チタンと前記ハロゲン化合物とを反応させて得られるハロゲン含有酸化チタン(IV)であってもよい。得られるハロゲン含有酸化チタン(IV)におけるハロゲンと酸化チタンの結合性及びハロゲンの水への溶出量の点から、前記酸化チタン(IV)とハロゲン化合物との混合液のpHが3を超えた場合は酸を用いてpHを3以下に調整して反応させることを含むことが好ましく、より好ましくは前記反応させて得られた反応物を洗浄することを含むことが好ましい。
【0047】
このようにして得られるハロゲン含有酸化チタンは、前述のように、例えば、水への溶出量が極めて少なく、強制的に酸化チタン表面に位置させる、その他のあらゆる手法と比べて、ハロゲンの酸化チタンへの結合性という意味で異なるものである。n−ブチルアミンの吸着量が8μmol/g以下であるアナタース型酸化チタンとしては、例えば、堺化学工業株式会社製SSP−25等が使用でき、その水分散液としては、例えば、堺化学工業株式会社製CSB−M等が使用できる。
【0048】
ハロゲン化合物としては、特に限定されないが、一般的なハロゲン化合物を使用できる。ハロゲン化合物が、フッ素化合物である場合、例えば、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸が挙げられ、これらの中でも、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム及びフッ化水素酸が好ましい。ハロゲン化合物がヨウ素化合物である場合、ヨウ化水素、過ヨウ素酸、ヨウ化アンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化合物が臭素化合物である場合、臭化水素酸、臭化アンモニウム等が挙げられる。ハロゲン化合物が塩素化合物である場合、塩酸、塩化ナトリウム、次亜塩素酸が挙げられる。
【0049】
酸化チタン1g当たりのn−ブチルアミンの吸着量の測定方法は以下の通りである。つまり、130℃で2時間乾燥した酸化チタンのサンプル1gを、50mLの共栓付き三角フラスコにて精秤し、これにメタノールで希釈した0.003Mのn−ブチルアミン溶液を30mL加える。次いで、これを1時間超音波分散させた後、10時間静置し、その上澄み液を10mL採取する。そして、採取した上澄み液を、メタノールで希釈した0.003Mの過塩素酸溶液を用いて電位差滴定し、そのときの中和点における滴定量からn−ブチルアミンの吸着量を求めることができる。
【0050】
酸化チタン(IV)1g当たりのn−ブチルアミンの吸着量が8μモル以下となる表面酸性度を有するアナタース型酸化チタンは、不純物としてのナトリウムの含有量が、1000重量ppm以下が好ましい。不純物としてのナトリウムの含有量が1000重量ppm以下であると、抗菌活性及び/又は光触媒活性の低下を抑制できる。その理由は明確ではないが、例えば、ナトリウムがハロゲンと反応することにより、ハロゲンと酸化チタン(IV)との反応が阻害されることを抑制できるためと考えられる。
【0051】
[抗菌処理液]
本発明の抗菌処理液の溶媒は、水系溶媒であることが好ましく、水、緩衝液、生理食塩水、蒸留水、脱イオン水等が挙げられ、抗菌活性の向上の点から、好ましくは、水、蒸留水、脱イオン水である。水中に含まれる水溶液中のイオン(Na+,NH4+、Cl-,PO4-など)は、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)に吸着して抗菌性に影響を与えるため、極力少ないほうが好ましい。
【0052】
本発明の抗菌剤組成物のpHは特に制限されないが、例えば、pH1〜9であり、光非照射時における抗菌活性向上の点から、pH1〜8が好ましく、pH1〜4がより好ましく、さらに好ましくはpH1〜3である。このようなpHに調整することにより、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の分散性を向上させ、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、十分な抗菌作用を発揮させることができる。
【0053】
しかしながら、被抗菌処理物が、紙、繊維、樹脂、金属等である場合には、被抗菌処理物質の損傷や変色、染料の流出などが発生することがある。例えば繊維の染抜き剤として、シュウ酸(pH=1.6)、ぎ酸(pH=2.7)、酢酸(pH=3.3)、酒石酸(pH=3)、クエン酸(pH=3)、乳酸(pH=3)オレイン酸(pH=4)などが用いられている。このうち、比較的繊維に損傷が少ないといわれているのはpH=3以下の染抜き剤である。このような、比較的酸に弱い素材に抗菌処理をしたい場合には、抗菌処理液のpHは3〜6.5にすることが好ましく、より好ましくはpH=4〜6.5であり、さらに好ましくはpH=4〜5である。
【0054】
抗菌処理液のpHは、一般的な酸を添加してもよく、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、リン酸などが挙げられる。また、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の添加量を変動させることによってもpHの調整が可能である。
【0055】
抗菌処理液に含まれるハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の粒子径は、沈殿、分離などが生じない範囲で任意のものを選択することができ、1〜5000nm程度のものを利用することができ、好ましくは1〜2000nmである。抗菌処理液の沈殿、分離などを防止し、液の透明性を確保するためには、粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、この場合、抗菌処理液の溶媒を揮発させる場合でも、乾燥後に着色しにくいという効果を得ることができる。
【0056】
抗菌処理液には、沈殿、分離などが生じない範囲で任意の抗菌剤を添加することができる。暗所で抗菌活性を発現させるためには、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を66mg/l以上含むことが好ましい。抗菌剤を増加させれば抗菌作用は強くなるが、液の粘性が増加して取り扱い性が低下するため、約500000mg/l以下の濃度に制御することが望ましい。
【0057】
抗菌処理液に、フッ素を含む化合物が含まれていても良い。フッ素を含む化合物としては、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸などを挙げることができる。このうち、抗菌活性の点から、フッ化アンモニウムを含むことが好ましい。
【0058】
抗菌処理液には、溶媒としてアルコールが含まれていてもよい。これにより、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の分散性を向上させ、抗菌処理液の分離、沈降、白濁化などを防止することができる。また、抗菌処理液が付着した際の濡れ性を向上させ、広い範囲に抗菌処理液を付着させることができる。また、アルコールの抗菌作用を利用して瞬時に抗菌効果を発揮させるとともに、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の持続的な抗菌作用を得ることができる。また、アルコールの揮発促進作用によって、抗菌処理液を素早く乾燥させることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0059】
[抗菌処理方法]
抗菌処理液を利用して被抗菌処理物に抗菌作用を発現させるには、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と水系溶媒を含む抗菌処理液を、被抗菌処理物に接触させることが必要である。この方法として、暗所に抗菌処理液を貯留して、前記抗菌処理液と接触した部分に抗菌作用を発現させる方法が挙げられる。ここで被抗菌処理物に確実に抗菌作用を発現させるためには、室温(20〜25℃)で、抗菌処理液と被抗菌処理物を13分以上接触させることが望ましい。このようにすることにより、被抗菌処理物に付着している菌を、99%以上減少させることができる。例えば被抗菌処理物は、加湿機の水タンク、エアコンのドレンパン、浴室乾燥機の内部、冷却機、冷蔵庫の内部、洗濯機の内部、水道管、配水管などを意味する。すなわち、水が貯留できる構造で、かつ、ほとんど光が照射されない暗所に抗菌処理液を貯留することによって、接触面に抗菌作用を発現させ、菌やカビの増殖を抑制することができる。
【0060】
また、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と水系溶媒を含む抗菌処理液を、被抗菌処理物に接触させる方法として、抗菌処理液を液滴として散布する方法が挙げられる。液滴を発生させる方法としては一般的な手段を用いることができ、噴霧ノズル、静電霧化、ヒーターによる液体の加熱などを挙げることができる。発生した液滴は、抗菌作用をもつため、液滴を散布した空間および液滴が付着した場所を抗菌処理することができる。ここで被抗菌処理物は、空間を浮遊する菌・カビ等を含む浮遊物質、および床や壁面や浴室などの構造物を意味している。また、液滴として散布することにより、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を広い範囲に分散させて抗菌処理を行うことができる。
【0061】
抗菌処理液を被抗菌処理物に付着させた後、溶媒を揮発させてもよい。被抗菌処理物にハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を付着させることができ、抗菌作用を持続させることができる。特に液滴を用いてハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を空間に散布した場合には、高分散状態で付着させることができ、少量でも効果的に抗菌作用を発揮させることができる。
【0062】
抗菌処理液には、バインダーを含んでいてもよい。バインダーを含むことにより、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を付着させた場所に固定することができ、長時間抗菌作用を持続させることができる。バインダーとしては、Na2O、K2O、LiO2などのケイ酸塩からなるアルカリシリケート、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルなどの無機コロイド、シリカ、ケイ素、チタンなどのアルコキシド類とその加水分解物などが挙げられる。なお、Naなどのアルカリ成分は酸化チタン(IV)の結晶性を低下させ、性能を低下させることがあるため、バインダーとしては、主成分がSiO2であることがのぞましく、シリカゾルまたはシリカアルコキシド類の加水分解物などが好適である。
【0063】
バインダーは酸性であることが好ましく、ケイ素、チタンなどを酸で加水分解した物や酸性のシリカゾル、アルミナゾルなどが挙げられる。ケイ素、チタンなどを酸で加水分解する場合には、塩酸、硫酸などを用いてpHを1〜5に調整するとよい。シリカゾルを用いる場合には、pH2〜4、粒子径10〜50nm程度のものが好適である。pHが中性あるいはアルカリ性のシリカゾルを用いると、ハロゲンを含有する酸化チタンを添加した際にゲル化をおこし、基材に均一に担持することが困難になることが多い。
【0064】
ケイ素のアルコキシド類としては、テトラエトキシシランおよびその重合体であるメトキシポリシロキサン、エトキシポリシロキサン、ブトキシポリシロキサン、リチウムシリケートなどが挙げられ、チタンのアルコキシド類としては、テトラプロポキシチタンおよびその重合体などが挙げられる。これらの金属アルコキシド類は、水と酸によって加水分解され、バインダーとして用いることができる。
【0065】
バインダーは酸性であることが好ましく、ケイ素、チタンなどを酸で加水分解した物や酸性のシリカゾル、アルミナゾルなどが挙げられる。ケイ素、チタンなどを酸で加水分解する場合には、塩酸、硫酸などを用いてpHを1〜5に調整するとよい。シリカゾルを用いる場合には、pH2〜4、粒子径10〜50nm程度のものが好適である。pHが中性あるいはアルカリ性のシリカゾルを用いると、ハロゲンを含有する酸化チタンを添加した際にゲル化をおこし、基材に均一に担持することが困難になることが多い。
【0066】
Na、K、NH4などの陽イオン成分がバインダーに含まれていると、ハロゲンとの反応の進行および酸化チタン(IV)表面への吸着により、抗菌性能の低下が発生することがあり、上記陽イオン成分は極力少ないほうがよい。例えば、バインダー溶液にNaが含まれている場合には、Na濃度がNa2Oとして0wt%より大きく0.05wt%以下であることが好ましい。
【0067】
抗菌処理液には光照射してもよい。光照射することによって、ハロゲンを含有する酸化チタンの暗所での抗菌作用に加えて、光触媒作用によって抗菌活性を増強させることができる。また、光照射することによって、より短時間で抗菌できるようになり、菌の死骸や毒素まで分解することができる。
【0068】
光を照射する光源としては、紫外線を発生するあらゆるものが利用でき、ブラックライト、冷陰極管、殺菌灯、蛍光灯、LEDなどのランプや、高電圧を利用したプラズマ放電光などを利用できる。光の中心波長は、254nmより大きく400nm以下である紫外線を照射できることが好ましい。殺菌灯に用いられる波長254nmの光では殺菌作用は強いものの、被抗菌処理物が樹脂や紙などの有機物である場合には、被抗菌処理物自体の変色や強度劣化などの不具合が生じやすく、波長300nm以上の光を用いるほうが好ましい。また、波長400nm以上の光では菌の死骸や毒素まで分解することが困難である。
【0069】
抗菌フィルタに照射される光は、波長400nm以下の紫外線が照射面で0.001〜10.0mW/cm2の範囲となるように、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を備えた部分に照射されることが好ましく、より好ましくは0.5〜2mW/cm2の光強度である。照射強度は、励起光源の数、発光強度、励起光源とハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の距離を、任意の値に設計して制御することができる。さらに、1mW/cm2以上の紫外線を1時間以上照射することにより、抗菌処理が比較的困難である芽胞菌やカビ胞子まで減少させることができる。
【0070】
紫外線を含む光照射は間欠的に照射してもよく、省エネルギーで有機物の分解を行うことができる。間欠的な照射方法にすることにより、暗所においてはハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の抗菌作用で菌やカビの増殖を抑制し、さらに間欠的に照射される光によって、菌の死骸や毒素まで分解することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0072】
(実施例1)
<1>.ハロゲン含有酸化チタンの調製
酸化チタン(商品名:SSP−25、堺化学工業株式会社製、アナタース型、粒径:5〜10nm、比表面積:270m2/g以上)の濃度が150g/Lとなるように酸化チタンに純水を加え、これを撹拌して、酸化チタン分散液を調製した。この酸化チタン分散液に、酸化チタンに対してフッ素(元素)に換算して3重量%に相当するフッ化水素酸(和光純薬社製、特級)を添加し、pH3に保持しながら25℃で60分間反応させたのち、水洗した。水洗は、反応物を濾過して回収される濾液の電気伝導度が1mS/cm以下となるまで行った。そして、これを空気中において130℃で5時間乾燥させてフッ素含有酸化チタンを調製した。なお、濾液(25℃)の電気伝導度は、堀場製作所製pH/cond meter,D−54型(商品名)を用いて測定した。
【0073】
<2>.フッ素含有酸化チタンの物性分析
[フッ素含有量]
吸光光度分析法(JIS K 0102)により、フッ素含有酸化チタン中のフッ素含有量を求めたところ、2.3重量%であった。また、酸化チタン(IV)1モルに対してフッ素は0.098モルであり、フッ素含有酸化チタンにおけるチタン、酸素及びフッ素の含有量の合計は、3.049モル%であり、その組成比は、Ti:O:F=1:1.951:0.098であった。
【0074】
[フッ素と酸化チタンとの結合の確認]
フッ素含有酸化チタンを光電子分光分析装置で分析したところ、F1sのピークトップが683eV〜686eVの範囲となるスペクトルを示した。つまり、得られたフッ素含有酸化チタンにおいて、酸化チタンとフッ素とがイオン結合していることが確認できた。
【0075】
[アナタース型の確認]
酸化チタンを粉末X線回折装置(使用電極:銅電極)で分析したところ、回折角度2θ=25.5度において回折ピークが現れた。つまり、得られたフッ素含有酸化チタンはアナタース型酸化チタンであった。
【0076】
[フッ素溶出量の測定]
得られたフッ素含有酸化チタン0.1gを純水100mlに懸濁させ、超音波を15分間照射後、遠心分離を行った。その上澄み液を、共立理化学研究所製のパックテスト(登録商標)を用いて比色分析を行い、溶出したフッ素イオンの量を測定した。この溶出量から酸化チタンと化学結合したフッ素の割合を求めたところ、95重量%であった。
【0077】
[表面F比率の測定方法]
10mm径の成型用金型を用い、ハロゲン含有酸化チタンの粉末1gに1t/cm2の荷重がかかるようにプレスにて圧力を加えて、10mm径のペレットに成型した。この成型ペレットを破断して平らな面を持つ破断小片を作製し、この小片を測定試料台の上に両面テープで固定した。これを、真空中で1日放置した後、光電子分光分析装置(島津製作所製ESCA−850型、X線源:MgKα)を用い、8kV、30mAの条件にて、チタン(Ti)の2p軌道、フッ素(F)の1s軌道及び炭素(C)の1s軌道から放出される光電子スペクトルを測定した。そして、Cの1s軌道の測定値を284.8eVとして、Tiの2p軌道及びFの1s軌道の測定から得られたスペクトルのエネルギー補正を行った。その補正後の値をそのスペクトルの結合エネルギーとし、Fの1s軌道のスペクトル面積より求められるFの原子数をNF、Tiの2p軌道のスペクトル面積より求められるTiの原子数をNTiとした。以下の計算式を用いて表面F比率を算出したところ、0.07であった。
表面F比率=NF×19.0/(NTi×47.9)
【0078】
<3>.ハロゲン含有酸化チタンを担持した抗菌組成物の作成
得られたハロゲン含有酸化チタンとシリカ系のバインダー(Na成分がNa2O濃度として0.05wt%以下、pH=3、SiO2濃度20wt%のシリカゾル)と精製水を混合し、ボールミルで24時間分散混合して抗菌処理液を作成した。出来上がった抗菌処理液に、基材として開口率15%のガラス繊維織物をディップしてハロゲン含有酸化チタンを含浸させ、エアブローして余剰液を排除した後、120℃の乾燥機で30分乾燥させ、ハロゲン含有酸化チタンを含む抗菌組成物を作成した。同様のディップ作業を繰り返し、ハロゲン含有酸化チタンとバインダーを合わせた担持量を500g/m2にした。抗菌組成物の基材となるガラス繊維織物は、目付け量354g/m2、糸の密度11×3本/25mm(タテ・ヨコ同じ)の模紗織、厚さは0.42mmのものを用いた。作成した抗菌組成物の開口率は約15%であった。
【0079】
以下に示す条件以外はJIS R1702に規定されている試験方法に従い、光照射フィルム密着法により抗菌組成物の抗菌効果試験を行った。抗菌組成物(5cm×5cm)をシャーレ内に配置し、抗菌組成物の表面に大腸菌液(初期菌数:1×105cfu/ml、NBRC3972)を塗布した。ついで、暗所で、光(紫外光)を照射することなく室温(24〜27℃)で静置した。静置開始から、10、20、180、360分経過後、回収液で回収し、寒天培養プレートにてコロニーを形成させて生存する菌数を求めた。その結果を図3に示す。また、参考例1として、15Wブラックライト(1mW/cm2、365nm)で紫外線光照射を行った以外は、同様にして抗菌効果試験を行った。これらの結果を図1に示す。
【0080】
(比較例1)
比較例1として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25、堺化学工業株式会社製)を使用して抗菌組成物を作成した以外は、実施例1と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図1に示す。
【0081】
(比較例2)
比較例2として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用して抗菌組成物を作成した以外は、参考例1と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図1に示す。
【0082】
(比較例3)
比較例3として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず弱い光触媒活性を有するルチル型酸化チタン(商品名:STR−100N、堺化学工業株式会社製)を使用して抗菌組成物を作成した以外は、実施例1と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図1に示す。
【0083】
(比較例4)
比較例4として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず弱い光触媒活性を有するルチル型酸化チタン(商品名:STR−100N)を使用して抗菌組成物を作成した以外は、参考例1と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図1に示す。
【0084】
図1に示すように、実施例1の抗菌組成物は、光照射なしの条件で、処理開始後20分で初期菌数の7分の1以下にまで大腸菌の数を減少できた(1×104.2cfu/ml程度)。光非照射時の実施例1の抗菌組成物によるD値(菌数が90%減少するのに要する時間)は22分であった。これに対し、光を照射しなかった、比較例1及び3の抗菌組成物では、処理開始から48時間経過しても大腸菌数に変化は見られなかった。光照射を行った比較例2のD値は477分であった。実施例1の抗菌組成物の抗菌効果は、光照射を行った、比較例2及び4の抗菌組成物よりも高かった。光非照射時の実施例1の抗菌組成物による抗菌性(菌数が接触前の濃度より99%減少するのに要する時間)は44分であった。この結果から、ハロゲン含有酸化チタンを含む抗菌処理液を付着させ、乾燥させて得た実施例1の抗菌抗菌組成物によれば、光を照射しない場合であっても抗菌活性を有することを確認できた。
【0085】
(実施例2)
大腸菌に替えて黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を使用し、その初期菌数を1×106.8cfu/mlとした以外は実施例1と同様の評価を行った。また、参考例2として、大腸菌に替えて黄色ブドウ球菌(NBRC12732)を使用し、その初期菌数を1×106.8cfu/mlとした以外は参考例1と同様の評価を行った。これらの結果を図2に示す。
【0086】
(比較例5)
比較例5として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、実施例2と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図2に示す。
【0087】
(比較例6)
比較例6として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、参考例2と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図2に示す。
【0088】
(比較例7)
比較例7として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、弱い光触媒活性を有するルチル型酸化チタン(商品名:STR−100N)を使用した以外は、実施例2と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図2に示す。
【0089】
(比較例8)
比較例8として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず弱い光触媒活性を有するルチル型酸化チタン(商品名:STR−100N)を使用した以外は、参考例2と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図2に示す。
【0090】
図2に示すように、実施例2の抗菌組成物は、光照射なしの条件で、処理開始後20分で初期菌数の10分の1以下にまで黄色ブドウ球菌の数を減少でき(1×102.8cfu/ml程度)、D値は6.4分であった。これに対し、光を照射しなかった、比較例5及び7の抗菌組成物では、処理開始から48時間経過しても黄色ブドウ球菌数はほとんど変化しなかった。光照射を行った比較例6及び8でも、実施例2に比べて抗菌効果は低かった。この結果より、ハロゲン含有酸化チタンを含む実施例2の抗菌組成物によれば、光を照射しない場合であっても抗菌活性を有することを確認できた。また、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性は、参考例2に示す光照射時と同レベルであった。光非照射時の実施例2の抗菌組成物による抗菌性(菌数が接触前の濃度より99%減少するのに要する時間)は13分であった。
【0091】
(実施例3)
以下に示す条件以外はJIS R1705に規定されている試験方法に従い、光照射フィルム密着法により抗菌組成物の抗菌効果試験を行った。抗菌組成物(5cm×5cm)をシャーレ内に配置し、抗菌組成物の表面にクロコウジカビ(Aspergillus niger,NBRC4407)を塗布した。ついで、暗所で、光(紫外光)を照射することなく室温(24〜27℃)で静置した。所定時間経過後に、回収液で回収し、PDA寒天培養プレートにて培養して生残胞子数数を求めた。その結果を図3に示す。また、参考例3として、15Wブラックライト(1mW/cm2、365nm)で紫外線光照射を行った以外は、同様にして抗菌効果試験を行った。これらの結果を図3に示す。
【0092】
(比較例9)
比較例9として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、実施例3と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図3に示す。
【0093】
(比較例10)
比較例10として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、参考例3と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図3に示す。
【0094】
(比較例11)
比較例11として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、弱い光触媒活性を有するルチル型酸化チタン(商品名:STR−100N)を使用した以外は、実施例3と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図3に示す。
【0095】
(比較例12)
比較例12として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて酸化チタン(商品名:STR−100N)を使用した以外は、参考例3と同様にして抗菌効果試験を行った。その結果を図3に示す。
【0096】
図3に示すように、実施例3の抗菌組成物は、光照射なしの条件で、処理開始後60分で初期菌数(4.53×105cfu/ml程度)の22分の1以下にまでクロコウジカビの数を減少でき(1.23×104cfu/ml程度)、D値は38分であった。これに対し、光を照射しなかった、比較例9及び11の抗菌組成物では、処理開始から4時間後でもほとんど変化しなかった。光照射を行った比較例10及び12でも、実施例3に比べて抗菌効果は低かった。この結果より、ハロゲン含有酸化チタンを含む実施例3の抗菌組成物によれば、光を照射しない場合であっても抗菌活性を有することを確認できた。光非照射時の実施例3の抗菌組成物による抗菌性(クロコウジカビ数が接触前の濃度より99%減少するのに要する時間)は76分であった。
【0097】
(実施例4)
実施例1のハロゲン含有酸化チタン(フッ素含有量:2.3重量%)をPBS(りん酸緩衝生理食塩水)に分散させて、フッ素含有酸化チタン濃度(10、100、1000及び10000mg/l)の処理液(pH7〜8(PBSの緩衝作用のため))を調製した。大腸菌(E.coli NBRC3972)を抗菌処理液に添加し、初期菌数を1×105cfu/mlに調製した。ついで、光を照射させることなく、37℃で24時間振とう培養し、その抗菌性を評価した。抗菌性は、濃度が異なる抗菌処理液とブランクとの24時間後の菌数を比較し、ブランクに対して2LOG低くなる抗菌剤濃度(100分の1になる濃度)を計算で求めて評価した。その結果、ハロゲン含有酸化チタンの抗菌性は、5776mg/lであった。なお、ハロゲン含有酸化チタンを添加しない以外は、同様に、光を照射させることなく、37℃で24時間振とう培養したものをブランクとした。
【0098】
(比較例13)
比較例13として、ハロゲン含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、それぞれ、実施例4と同様に行った。その結果、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタンを含む抗菌剤組成物を使用した比較例13では、抗菌剤濃度を10000mg/lまで高くしても、ブランクに対して2LOG低い値をとることができず、暗所での抗菌性を示さないことがわかった。
【0099】
(実施例5、実施例6)
実施例1の「1.ハロゲン含有酸化チタンの調製」における「3重量%に相当するフッ化水素酸」に替えて「5重量%に相当するフッ化水素酸」又は「32重量%に相当するヨウ化水素酸」を使用した以外は、同様の手順でフッ素含有酸化チタン(IV)又はヨウ素含有酸化チタン(IV)を調製した。得られたフッ素含有酸化チタン(IV)におけるフッ素含有量、及び、ヨウ素含有酸化チタン(IV)におけるヨウ素含有量は下記表1に示すとおりであった。
【0100】
得られたフッ素含有酸化チタン(IV)又はヨウ素含有酸化チタン(IV)を、JIS R1702法に用いられている1/500NB液(普通ブイヨン培地を精製水で500倍に希釈し、高圧蒸気殺菌したもの)に分散させて、フッ素含有酸化チタン濃度(62.5.125、250、500及び1000mg/l)の抗菌処理液をそれぞれ調製した。大腸菌(E.coli NBRC3972)を抗菌処理液に添加し、初期菌数を1×105cfu/mlに調製した。ついで、光を照射させることなく、37℃で24時間振とう培養し、実施例1と同様に抗菌性を求めた。その結果を、下記表1に示す。
【0101】
比較例14として、フッ素含有酸化チタンに替えてハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、それぞれ、実施例5と同様にして行った。その結果、下記表1に示すように暗所における抗菌性は得られなかった。
【0102】
【表1】

【0103】
上記表1に示すように、フッ素含有酸化チタンを含む実施例5の抗菌剤組成物及びヨウ素含有酸化チタンを含む実施例6の抗菌剤組成物は、優れた抗菌性を示す。特に、フッ素含有酸化チタンを含む実施例5の抗菌剤組成物は、実施例6の抗菌剤組成物に比べて約20倍の抗菌性を示した。
【0104】
(実施例7)
実施例1の「1.ハロゲン含有酸化チタンの調製」におけるフッ化水素酸の濃度を変化させた以外は同様の手順でフッ素含有量の異なる5種類のフッ素含有酸化チタン(フッ素含有量:1.25、1.5、2、2.5、3重量%)を調製した。得られたそれぞれのフッ素含有酸化チタンを、1/500NB液に分散させて、フッ素含有酸化チタン濃度(62.5.125、250、500及び1000mg/l)の抗菌処理液を調製した。大腸菌(E.coli NBRC3972)を抗菌処理液に添加し、初期菌数を2.9×104cfu/mlに調製した。ついで、光を照射させることなく、37℃で24時間振とう培養し、実施例1と同様に抗菌性を求めた。その結果を、図4に示す。抗菌剤を含まないブランクの24時間後の菌数は4.5×106cfu/ml(Log菌数が6.65)であった。
【0105】
(比較例15)
比較例15として、フッ素含有酸化チタンに替えて、ハロゲンを含まず光触媒活性を有するアナタース型酸化チタン(商品名:SSP−25)を使用した以外は、それぞれ、実施例6と同様に行った。その結果を図4及び図5に示す。
【0106】
フッ素を含まない比較例15(商品名:SSP25、フッ素含有量:0重量%)では、抗菌剤濃度を増加させると菌数が減少する傾向が見られるものの、抗菌性(菌数がブランクの100分の1になる濃度)は1000mg/l以上であった。一方、フッ素を1、25重量%含む場合、抗菌剤濃度の増加にともなって菌数が減少し、296mg/lで抗菌性が認められた。また、ハロゲン含有酸化チタンにおけるフッ素濃度を1.25〜2.5重量%まで変化させていくと、フッ素含有酸化チタンにおけるフッ素含有量が増えるとともに抗菌性能は向上した。
【0107】
フッ素含有酸化チタンにおけるフッ素含有量と抗菌性能の関係を図5に示す。図5に示すように、フッ素含有酸化チタンにおけるフッ素含有量が低い範囲(例えば、フッ素濃度が1.25重量以上2.5重量%未満)でも、十分な抗菌性を示している。また、抗菌性(菌数がブランクの100分の1になる濃度)はフッ素含有量1.25重量%以上の範囲で、フッ素含有量の増加とともに向上し、フッ素含有量2〜4重量%程度の範囲で極大値をとるものと思われる。
【0108】
(実施例8)
実施例1の「1.フッ素含有酸化チタンの調製」におけるフッ化水素酸をフッ化アンモニウムに変え、pH条件を0〜3の範囲で反応させた以外は同様の手順で3種類のフッ素含有酸化チタンを調整した。また、実施例1の「1.フッ素含有酸化チタンの調製」におけるフッ化水素酸の濃度を変化させた以外は同様の手順でフッ素含有酸化チタンを調製した(フッ素含有量:3重量%)。得られたフッ素含有酸化チタンを、それぞれ、1/500NB液に分散させて、それぞれフッ素含有酸化チタンの濃度が異なる62.5〜1000mg/lの濃度の抗菌処理液を調製した。大腸菌(E.coli NBRC3972)を抗菌処理液に添加し、初期菌数を2.9×104cfu/mlに調製した。ついで、光を照射させることなく、37℃で24時間振とう培養し、実施例1と同様に抗菌性を求めた。その結果を、図6に示す。抗菌剤を含まないブランクの24時間後の菌数は4.5×106cfu/ml(Log菌数が6.65)であった。
【0109】
図6に示すように、ハロゲンの原料としてフッ化アンモニウムを用いたものは、前記のサンプルよりも高い抗菌性を示し、反応時のpH条件が3未満のものではさらに高い抗菌性を示した。ハロゲンの原料としてフッ化水素を用いたものは、最も高い抗菌性を示した。
【0110】
(実施例9)
実施例5〜8で作成したフッ素含有酸化チタンを1/500NB液と混合し、得られた抗菌剤組成物のpHを測定した。このときの抗菌処理液の濃度は250mg/lに設定した。実施例5〜8の結果から、以下の式を用いて抗菌活性値を求めた。
抗菌活性値 = log(ブランクの菌数(24時間後)/フッ素含有酸化チタンの菌数(24時間後))
【0111】
また、比較例として、比較例1のハロゲンを含まない酸化チタンを含む抗菌剤組成物及びその抗菌剤組成物に塩酸を添加してpHを変化させた抗菌剤組成物を準備し、実施例6と同様に抗菌性を求めた。参考例として、ハロゲン含有酸化チタン及びハロゲンを含まない酸化チタンの何れも添加せず、塩酸のみでpHを変化させたサンプルを準備し、そのサンプルを用いて同様に抗菌性を求めた。
【0112】
得られた抗菌剤組成物のpHと抗菌活性値の関係を図7に示す。実施例7及び実施例8のフッ素含有酸化チタンを含む抗菌剤組成物の抗菌活性値は、pHに対して負の相関を示し、酸性になるほど抗菌活性値が高くなった。このとき、実施例6のフッ化水素酸を用いて調製したフッ素含有酸化チタンを含む抗菌剤組成物は、フッ素含有量が多いほど低いpHとなった。例えば、フッ素含有量が3.0重量%の時のpHは4.5であり、フッ素含有量2.0重量%の時のpHは5.1であり、フッ素含有量1.25重量%の時のpHは6.5であった。
【0113】
比較例1のハロゲンを含まない酸化チタンを含む抗菌剤組成物のpHは7.4であり、その時の抗菌活性値は2以下となり抗菌性を示さなかった。塩酸を添加してpHを1.6まで低下させたところ、pHが4以下の範囲で抗菌性を示した。これはハロゲン含有酸化チタン及びハロゲンを含まない酸化チタンの何れもを添加せず、塩酸のみでpHを調整したときにみられる抗菌性の変化とほぼ同じであった。多くの微生物はpH6〜7付近で最適な増殖環境となる。大腸菌の場合、pH4.4〜9.0の範囲で増殖可能であり、黄色ブドウ球菌では、pH4.0〜9.8の範囲で増殖可能であることが知られている(防菌防黴ハンドブック第1版、日本防菌防黴学会編、技報堂出版、p179)。本発明のハロゲン含有酸化チタンを含む抗菌剤組成物の場合、pH4.0〜6.5の範囲でも抗菌活性値2以上となっており、単なるpH変動とは異なるメカニズムで抗菌作用が発現していることがわかる。
【0114】
(実施例10)
ハロゲンとしてフッ素を3重量%含む酸化チタン(IV)を蒸留水に添加し、抗菌処理液のpHを測定した。結果を図8に示す。ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の添加量と相関して、抗菌処理液のpHが変動している。ここから、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の添加量を任意の値に制御することによって、pHを調整し、抗菌処理液の抗菌性能を変動させることができる。たとえば、被抗菌処理物が繊維であり、pH=3以下にすると繊維の損傷が考えられる場合には、抗菌処理液の抗菌剤濃度を3290mg/l以下にすれば、pH=3以上になり、繊維を損傷させることなく抗菌性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
光照射なしでも抗菌活性を有し、光・放射線・塩素等の薬剤に対して安定で、抗菌効果が低下しない抗菌処理方法を提供することができ、加湿機の水タンク、エアコンのドレンパン、浴室乾燥機の内部、冷却機、冷蔵庫の内部、洗濯機の内部、水道管、配水管など、水が貯留できる構造で、かつ、ほとんど光が照射されない暗所に対して抗菌効果を発揮して清潔に保つ用途に適用できる。また、液滴として空間に散布することにより、空間の浮遊する菌やカビなどを抗菌処理する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施例1の抗菌効果の一例を示すグラフ
【図2】本発明の実施例2の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図3】本発明の実施例3の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図4】本発明の実施例7の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図5】本発明の実施例7のハロゲン含有酸化チタンにおけるフッ素含有量と抗菌効果の関係を示すグラフ
【図6】本発明の実施例8の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図7】本発明の実施例9の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図8】本発明の実施例10の抗菌効果のその他の例を示すグラフ
【図9】従来の水殺菌装置を示す斜視図
【符号の説明】
【0117】
101 水殺菌装置
102 酸化チタン
103 近紫外線照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を暗所に貯留して、前記抗菌処理液を被抗菌処理物に接触させ、抗菌作用を発現させることを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項2】
ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を液滴として被抗菌処理物に散布することを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項3】
ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)と溶媒を含む抗菌処理液を用いた抗菌処理方法であって、前記ハロゲンの少なくとも一部が、前記酸化チタン(IV)と化学結合し、かつ、少なくとも暗所で抗菌活性を備えている抗菌処理液を被抗菌処理物に付着させた後、溶媒を揮発させることを特徴とする抗菌処理方法。
【請求項4】
抗菌処理液を被抗菌処理物に13分以上接触させることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項5】
抗菌処理液に含まれるハロゲンを含有する酸化チタン(IV)の粒子径が、1〜100nmであることを特徴とした請求項1乃至4いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項6】
抗菌処理液は、ハロゲンを含有する酸化チタン(IV)を66mg/l以上含むことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項7】
抗菌処理液のpHが6.5以下であることを特徴とした請求項1乃至6いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項8】
抗菌処理液のpHが3〜6.5であることを特徴とした請求項7記載の抗菌処理方法。
【請求項9】
抗菌処理液はフッ化アンモニウムを含むことを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項10】
抗菌処理液はアルコールを含むことを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項11】
抗菌処理液に光照射することで、抗菌活性を増強させることを特徴とした請求項1乃至10いずれかに記載の抗菌処理方法。
【請求項12】
1mW/cm2以上の紫外線を1時間以上照射することを特徴とする請求項11記載の抗菌処理方法。
【請求項13】
紫外線を間欠的に照射して、有機物の分解を行うことを特徴とする請求項11または12記載の抗菌処理方法。
【請求項14】
254nmより大きく400nm以下である紫外線を照射することを特徴とする請求項11乃至13いずれかに記載の抗菌処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−214040(P2010−214040A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67427(P2009−67427)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】