説明

抗菌剤及び殺生物剤としての原子量子クラスター(AQC)の使用

本発明は、抗菌活性を有する安定な原子量子クラスター(AQC)の使用に関する。安定なAQCは、少なくとも500個の金属原子(Mn、n<500)を含み、その金属は、Au、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pb、又はそれらの2個若しくは多数の金属の組合せから選択される。前記AQCは、対応する金属の原子に関して1nM〜100nM以上程度の濃度で抗菌剤、抗真菌剤、及び殺生物剤として使用される。抗菌活性は、使用するクラスターの金属のタイプとサイズのどちらにも特異的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の提案は、発明特許出願P200502041号明細書に記載のプロセスに従って合成される様々な金属の原子量子クラスター(AQC)と、対応する国際公開第2007/017550号パンフレットに請求されるAQCとによって示される抗菌活性及び殺生物活性の使用を記載している。
【背景技術】
【0002】
殺菌剤及び殺生物剤としての金や銀などの金属の使用は古くから知られているが、それらの作用機序についての意見は一致しておらず、その形態、サイズ、及び調製法に依存しているように見られている。すなわち、例えば、Palら[S.Pal、Appl.Environ.Microbiol.、2007年、73巻、1712頁]は、ナノ粒子の幾何構造が大腸菌(Escherichia coli)に対するそれらの活性に非常に重要な役割を果たすことを示した。同様に、Cioffiら[N.Cioffi、Anal.Bioanal.Chem.、2005年、382巻、1912頁]は、テトラオクチルアンモニウム塩の存在下で電気化学的に得られる、サイズが1.7nm〜6.3nmのAg及びCuのナノ粒子の大腸菌及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に対する抗菌活性を示した。また、これらの著者は、これらの粒子を不活性ポリマーに導入すると、抗菌活性が低減されないことを示した。Leeら[H.J.Lee、J.Mater.Sci.、2003年、38巻、2199頁]は、2〜5nmの銀の粒子がまたグラム陽性細菌の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)並びにグラム陰性細菌の肺炎桿菌(Klebsiela pneumoniae)に対して抗菌活性も示し、そのナノ粒子を綿又はポリエステル繊維に導入したとき、この活性が維持されることを示した。同様に、Sondiら[I.Sondi、J.Colloid Interface Sci.、2004年、275巻、177頁]はまた、高分子量界面活性剤で被覆された12nmのAgナノ粒子の大腸菌に対する殺菌剤活性を観察した。また、Xuらは、米国特許出願公開第2003108612A1号明細書において、細菌増殖の阻害方法及び細菌によって引き起こされる疾患の治療法としての金属ナノ粒子の使用を記載していた。
【0003】
この特許においてであるが、請求項は、これらの特性を示す粒子が100nm以下のサイズでなければならないことを指示しており(請求項1、17、39、及び54)、この特許は、理想サイズが50〜100nmでなければならないことを数回述べている(請求項13、29、51、及び56)。したがって、この発明特許は、サイズが、但し、これらの間隔(100nm未満)にあるという条件で、抗菌性にあまり影響を及ぼさないことを明らかにしている。この特許に記載の粒子はまた、電子透過顕微鏡法及び暗視野顕微鏡法によって得られる粒子のサイズとは別に、可視分光法でのそれらのプラズモンバンドの位置も特徴とする。
【0004】
以上のことから、今まで多くの研究が行われてきたにも関わらず、ナノ/マイクロ粒子がある条件下で抗菌性/殺生物性挙動を示す機構は今なお知られていない。金属塩(主に金、銀、及び銅)の直接使用は抗菌性も示すので[例えば、J.A.Spadaroら、Microb.Agents Chemother.、6(1974年)637頁を参照]、現在の仮説の1つに、金属マイクロ/ナノ粒子が、殺菌剤/殺生物剤として作用するイオンを放出して、金属イオンリザバーとして働くことができるというものがある。したがって、例えば、C.E.Easterlyらは、米国特許出願公開第2006280785A1号明細書において、サイズ<10nmのAgナノ粒子をサイズ<85nmのリポソームに組み込むことでこの考えを使用した。サイズ間隔が1nm〜10nmのナノ粒子の好ましい使用は、一定濃度の金属イオンを作成して、ナノ粒子を溶解させる意図によるものである。記載されたサイズの金属粒子を使用するのは、そのサイズが減少するにつれてナノ粒子によって示される安定性が低下するからである。
【0005】
スペイン国特許出願第200502041号明細書及びその国際公開第2007/017550号パンフレットは、AQCと命名した原子量子クラスターを得る方法を記載し、サイズが1nm〜2nm未満の様々な金属を含む粒子を同定している。また、それらを分離し、安定させ、使用する方法も記載されており、方法の詳細は、このプロセスによって合成されたクラスターの物理化学的性質がナノ粒子(1nm〜2nmより大きな粒子)とは異なることを示している。これは、これらの粒子が金属のように挙動することをやめさせる、AQCのエネルギーフェルミ準位の分離(「HOMO−LUMO」ギャップ又はバンドギャップ)があるからである。これは、それらのプラズモンバンドの抑制、及びクラスターの異なるエネルギー準位間の電子遷移に起因する様々なバンドの出現において容易に観察される。それらは「金属のような」状態で挙動することをやめ、その挙動は本来の分子のものになる。したがって、これらのクラスターには、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はバルク金属材料に観察されない新しい性質が現れる。AQCの物理化学的性質はナノ/マイクロ粒子の物理化学的性質から容易に推測することができないので、これらのクラスターが示す性質は、ナノ粒子及び金属イオンに関して上述した抗菌性など、ナノ/マイクロ粒子が示す性質から原理的に予測することはできない。(ある保護分子による電荷又は立体障害のために「安定化」が必要となるナノ粒子とは対照的に)AQCは、このフェルミ準位「ギャップ」が存在するために並外れた安定性をはっきりと示す。すなわち、クラスターは、ナノ粒子とは対照的に、溶解してイオンを生成することなく、その結果、原理的に、米国特許出願公開第2006280785A1号明細書に記載されるようなナノ粒子が殺菌剤の性質を有することを推測することもできない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、安定な原子量子クラスター、AQC、すなわち、原子の数が500個未満の原子団(サイズが約2nmに相当)の、抗菌剤、抗真菌剤、及び殺生物剤としての使用に言及するものである。AQCは次の通りであることを理解されたい。
−AQC、安定な原子量子クラスター、
−500個未満の金属原子(Mn、n<500)から構成されていることを特徴とするAQC、
−200個未満の金属原子(Mn、n<200)から構成されていることを特徴とするAQC、
−2個より多く27個未満の金属原子(Mn、2<n<27)から構成されていることを特徴とするAQC、
−2〜5個の金属原子から構成されていることを特徴とするAQC、
−金属がAu、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pb、又は2個及び多数の金属の組合せから選択されるAQC、
−金属がAu又はAg又はそれらの組合せであるAQC。
【0007】
殺生物剤は、活性があり、1種又は複数の活性物質を含む調製された物質であり、使用者に投与される形で提供され、作用を無効、相殺、中和、妨害することを意図し、又は化学的若しくは生物学的方法によって任意の有害な生物に他の何らかのタイプの制御を行うことを意図するものであることを理解されたい。
【0008】
また、これらのAQCの作用機序は、クラスターが抗菌活性を示すので、マイクロ/ナノ粒子の作用機序とは異なっており、その上、以下の実施例に記載するように、対照として試験した5nmのナノ粒子は、AQCの濃度の100,000倍超の濃度(対応する金属原子の数で表す)ですらいずれの活性も示さないことが分かるであろう。さらに、ナノ粒子で観察されるものとは対照的に(例えば米国特許出願公開第2006280785A1号明細書を参照)、下記の実施例に示すように、クラスターは、クラスターのサイズと使用する金属元素のタイプとの両方によって、様々な病原体に対してある特異性を示す。最後に、これらの機序はまた、同じ目的のための金属塩で起こるかもしれない機序とは異なる。と言うのは、金属塩は、対照として使用されており、同じ実験条件下でクラスターの濃度より100,000倍高い濃度のときですら抗菌活性が観察されなかったからである。
【0009】
本発明のAQCは、1nM(対応する金属の原子で表す)程度の濃度で抗菌活性及び殺生物活性を示し、この濃度は、ナノ粒子の抗菌活性に関する研究で通常使用される最小阻害濃度(MIC)の約100,000分の1程度のものであり(例えば、米国特許出願公開第2003108612A1号明細書で引用されたものを参照)、このことから、作用機序も異なることが実証される。さらに、これらのクラスターは、安定性が際立っているため、殺菌剤としてのナノ粒子の使用に関する米国特許出願公開第2006280785A1号明細書に記載されるプロセスなどのプロセスを回避して、いずれのビヒクルも使用する必要なしに直接使用することができる。
【0010】
本発明は、AQCが、抗菌性、抗真菌性、及び殺生物性を示すという驚くべき事実に基づいている。
【0011】
AQCが作用する細菌には、次のものが挙げられる。
【0012】
−黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(Staphylococsus epidermidis)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・アガラクチア(Streptococcus agalactiae)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)及びフェシウム(faecimus)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、破傷風菌(Clostridium tetanus)、並びにノーヴィ菌(Clostridium novyi)の群から選択されるグラム陽性細菌。
【0013】
−緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、淋菌(Neisseria gonorrheae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、パラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenza)、ヘモフィルス・ヘモリティカス(Haemophilus haemolyticus)、ヘモフィルス・パラヘモリティカス(Haemophilus parahaemolyticus)、ヘモフィルス・アフロフィルス(Haemophilus aphrophilus)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、カンピロバクター・フィタス(Campylobacter foetus)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、ビブリオ・オプティカス(Vibrio opticus)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ属種(Salmonella spp)、ソンネ菌(Shigella sonnei)、ボイド赤痢菌(Shigella boydii)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、大腸菌(Escherichia coli)、マルタ熱菌(Brucella melitensis)、ウシ流産菌(Brucella abortus)、ブタ流産菌(Brucela suis)、リケッチア・リケッチイ(Rickettsia rickettsii)、野兎病菌(Francisella tularensis)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、ペスト菌(Yersinia pestis)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumani)、エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)、仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、バクテロイデス属種(Bacteroides species)、フソバクテリウム属種(Fusobacterium species)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、及びレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophilia)の群から選択されるグラム陰性細菌。
【0014】
−嫌気性酸アルコール耐性らせん状のリケッチア、マイコプラズマ、アクチノミセス細菌、並びに、例えば、クラミジア(Chlamidea)、クラミドフィラ(Chlamydophila)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma Pneumonie)、リケッチア(Rickettsia)、ミコバクテリウム(Mycobacterium)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、フランベジアトレポネーマ(Treponema pertenue)、トレポネーマ・カラテウム(Treponema carateum)、レプトスピラ・インテロガンス(Leptospira interrogans)、回帰熱ボレリア(Borrelia hermsii)、ボレリア・ツリカタエ(Borrelia turicatae)、ボレリア・パルケリ(Borrelia parkeri)及びボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ウシ結核菌(Mycobacterium Bovis)、マイコバクテリウム・アフリカヌム(Mycobacterium africanum)、マイコバクテリウム・ミクロティ(Mycobacterium microtii)、及びらい菌(Mycobacterium leprae)を含む様々な細菌。
【0015】
AQCが作用する真菌としては、アクチノマイセス(Actinomices)、アスペルギルス(Aspergilus)、ブラストミセス(Blatomyces)、カンジダ(Candida)、クロモブラストミセス(Cromoblastomices)、コシジオス(Cocidios)、クリプトコッカス(Criptococcus)、デルマトフィトス(Dermatophitos)、フサリウス(Fusarius)、ヒストプラズマ(Histoplasma)、マズラ(Madura)、モコア(Mocor)、ノカルジア(Nocardia)、パラコシジウス(Paracocidius)、ペニシリウム(Penicillinum)、ファエオハイホミセス(Phaeohyphomyces)、スケドスポリウム(Scedosporium)、及びスポロトリクム(Sporotricum)が挙げられる。
【0016】
AQCはまた、例えば、アンホテリシン(Amphotericin)、カスポファンギン(Caspofungin)、ミカファンギン(Micafungin)、アニデュラファンギン(Anidulafungin)、フルコナゾール(Fluconazole)、フルシトシン(Flucytosine)、グリセオフルビン(Griseofulvin)、イミダゾール(Imidazole)、イトラコナゾール(Itraconazole)、ケトコナゾール(Ketoconazole)、ミコナゾール(Miconazole)、ナイスタチン(Nystatin)、ポサコナゾール(Posaconazole)、テルビナフィン(Terbinafine)及びボリコナゾール(Voriconazole)など、他の抗真菌剤と組み合わせて使用することもできる。
【0017】
本発明は、細菌によって引き起こされる疾患の治療又は細菌増殖の阻害に使用することができる。従来の抗生物質に耐性を有するようになった薬剤による院内感染において、その使用が特に好ましい。
【0018】
本発明の目的はまた、細菌増殖が望ましくないすべてのケースに、又は臨床診断用検査キットの調製にin vitroで使用することができる。
【0019】
本発明の目的は、ポリマーやプラスチックなどの他の材料、並びに包帯、包帯材、消毒用分散物、及び消毒液などの外科用及び病院用材料に抗菌性を付与するために使用することができる。
【0020】
AQCは、ヒト、動物、及び植物の病的又は生理的状態の治療のための薬又は植物衛生品の調製に適している。
【0021】
AQCは、経皮、口腔粘膜、頬、経口、直腸、眼、鼻、耳、局所、膣、又は非経口の経路で投与される薬の調製に適している。
【0022】
AQCは、化粧品及び消毒薬の調製に適している。
【0023】
細菌がAQC以外の抗生物質に耐性がある場合、AQCは特に好ましい。AQCの投与は、例として、ペニシリン及び関連する薬、カルバペネム、モノバクタム、フルオロキノロン、非経口及び経口のセファロスポリン、アミノグリコシド、マクロライド、ケトライド、テトラサイクリン、グリシルサイクリン、グリコペプチド、ニトロフラントイン、ホスホマイシン(Fosfomycin)、リフォマイシン(Rifamycin)、メトロニダゾール(Metronidazole)、キヌプリスチン(Quinupristin)、リネゾリド(Linezolid)、ダプトマイシン(Daptomycin)、クロラムフェニコール(Chloramphenicol)、クリンダマイシン(Clindamycin)、フシジン酸、トリメトプリム(Trimethoprim)、並びにセレスチン(Celestine)を含む他のタイプの抗生物質と組み合わせることができる。
【0024】
AQCはまた、周知の抗生物質活性を示すナノ粒子と組み合わせて使用することもできる。
【0025】
AQCは、塗料、シーラント、ポリマー、及びプラスチックなどの様々な配合物に殺生物性を付与するために用いられる。
【0026】
AQCはまた、建設材料、自動車(automation)、及び布地において使用することもできる。
【0027】
AQCは、単独で又は他の周知の殺生物剤と組み合わせて使用することができる。
【0028】
AQCは、特に、水処理用殺生物剤として適している。
【0029】
AQCの使用に関し、抗菌剤と殺生物剤のどちらの施用でも、使用する濃度(対応する金属の原子に関して)は、約1nM〜100nM以上である。
【0030】
説明及び特許請求の範囲全体にわたって、単語「含む(comprise)」及びその変化形は、他の技術特性、添加剤、成分、又はステップを除外することを意図するものではない。当業者には、本発明の他の目的、利点、及び特性は、一部分は説明から、一部分は本発明の実施から明らかになるであろう。以下の実施例及び図面は、例示として提供するものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】大腸菌ATCC90028に対する増殖阻害実験で得られたハロを示す図である。
【図2】黄色ブドウ球菌ATCC29213に対する増殖阻害実験で得られたハロを示す図である。
【図3】エンテロコッカス・フェカリスATCC29212に対する増殖阻害実験で得られたハロを示す図である。
【図4】緑膿菌ATCC27853に対する増殖阻害実験で得られたハロを示す図である。
【図5】カンジダ属種に対する増殖阻害実験で得られたハロを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次の実施例は、AQCの抗菌性及び殺生物性を明示する。実施例1は、AQCサンプルの調製について記載し、実施例2はそのAQCサンプルの抗菌性について記載する。実施例1はまた、抗菌活性の比較に使用したナノ粒子及び対応する金属塩対照についても記載する。これはまた、実施例2にも反映される。実施例3は、殺生物活性実証試験で使用したAQCサンプルの調製、並びに対照及び標準殺生物サンプルの調製について記載する。
【実施例】
【0033】
実施例1
AQC、ナノ粒子サンプル、及び対照サンプルの調製。
Ag01、Ag05、Ag06、Ag07、Ag08。Ag対照。
Au6、Au7、Au8、Au9。Au対照(サンプルAu6〜8)。Au10。Au対照(サンプルAu10)。
【0034】
1)Ag対照サンプル:100μMのAgNO及び200μMの臭化テトラブチルアンモニウムの溶液。
サンプルAg05〜Ag08:AgのAQC。
【0035】
AgのAQCの合成は、定電流電位差測定法(galvanostatic potentiometry)を使用して、次の実験条件下で様々な時間(t)について定電流密度0.2mA/cmを適用して電気化学セルにおいて行った。作用電極:Pt(6cm)。対極(contraelectrode):Ag。参照電極:Ag/AgCl。電解質溶液:200μMの臭化テトラブチルアンモニウム水溶液。温度:25℃。
【0036】
最終サンプルを水で希釈して、クラスターの最終濃度をAg原子において100nMとした。
【0037】
サンプルはすべて、211nm及び227nmに2個のUV吸収ピーク、並びに260nmを中心とした小さなナローバンドを示した。
使用した合成時間は、次の通りとした。
【0038】
2)サンプルAg05、t=210分。
3)サンプルAg06、t=90分。
4)サンプルAg07、t=65分。
5)サンプルAg08、t=55分。
6)サンプルAg01、Agのナノ粒子。
【0039】
銀のナノ粒子の合成は、PVP、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、分子量PM=10,000と硝酸銀を反応させて行った。最初に、20nMのAgNO溶液50mlを調製した。次いで、PVP20gを250ml容の沈澱用フラスコに量り入れ、蒸留水に溶解した。水を合計91.25mlになるように添加した。この溶液に硝酸銀溶液8.75mlを添加した。フラスコを70℃の水浴に4時間置いた。反応完了後、アセトンを過剰に添加して、ナノ粒子を沈澱させた。溶媒の一部をデカンテーションによって除去し、残りをオーブン中で蒸発させて除去した。得られたサンプルは、水中に分散しており、Ag粒子のプラズモンバンドの特徴である410nmに吸収バンドを示した。TEMで測定したナノ粒子のサイズは6nmであった。微生物アッセイ用のサンプルは、過剰なPVPを除去するためにアセトン10mlを用いた洗浄段階を行って、0.5gの水溶液10mlに調製した。最後に、得られた溶液を希釈して、100nMのAgナノ粒子の溶液を得た。
【0040】
7)Au対照サンプル:100μMのHAuCl及び200μMのTBABr(臭化テトラブチルアンモニウム)のアセトニトリル/水(1:1)混合溶液。
サンプルAu6〜Au9:AuのAQC。
【0041】
AuのAQCの合成は、定電流電位差測定法を使用して、次の実験条件下で様々な時間について定電流密度10mA/cmを適用して電気化学セルにおいて行った。作用電極:Pt(2.5cm)。対極:Au。参照電極:Ag/AgCl。
【0042】
電解質溶液:0.1Mの臭化テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル/水(1:1)混合溶液。
窒素の不活性雰囲気。
温度:25℃。
【0043】
最終サンプルをアセトニトリル/水(1:1)混合液で希釈して、クラスターの最終濃度をAu原子において100nMとした。
【0044】
サンプルはすべて、470nmの小さなピークに加えて、260nm及び390nmの2個のUV可視吸収ピークを示した。サンプルAu6及びAu7はまた、300nmに別のピークも示した。
【0045】
使用した合成時間は、次の通りとした。
8)サンプルAu6、t=200秒。
9)サンプルAu7、t=150秒。
10)サンプルAu8、t=100秒。
11)サンプルAu9、t=50秒。
12)サンプルAuW:Auのナノ粒子。
【0046】
金のナノ粒子の合成は、Brustの方法[M.Brustら、J.Chem.Soc.Chem.Commun.、1994年、801頁]によって行った。このために2種の溶液を調製した。第1に、30mMのHAuClを10ml。第2に、TOABr(臭化テトラオクチルアンモニウム)0.670gをトルエン24mlに溶解した。Au(III)溶液を撹拌棒付き100ml容のフラスコに導入し、TOABr溶液をゆっくり撹拌しながら添加し、有機相を伴ったAu(III)塩の交換物を生成した。次いで、NaBH0.114gをHO30ml(0.1M)に溶解し、漏斗を使用して前の混合物にゆっくりと少しずつ添加した。水素化物は、Au塩を還元し、サンプルは、Auナノ粒子の特徴である強い赤色を呈する。最後に、サンプルを精製した。このために水相を分離した。有機相を0.1MのHSO25mlで洗浄した。次いで、それを蒸留水25mlで5回洗浄し、最後に、無水NaSOで乾燥した。得られたサンプルは、トルエン中に分散しており、Auナノ粒子のプラズモンバンドの特徴である540nmに吸収バンドを示した。TEMで測定したナノ粒子のサイズは5nmだった。微生物アッセイで使用した最終サンプルは、最終粒子濃度が100μMになるように上記生成物333μlを相当量のトルエンに溶解して得た。
【0047】
13)サンプルTol(トルエン)対照
トルエン中に100μMのHAuCl及び200μMのTOABrを含むサンプル。無水NaSOで乾燥し、ひだ付きろ紙でろ過し、最後に0.2ミクロンろ紙でろ過した。
【0048】
実施例2
抗菌活性アッセイ。サンプルはすべて、0.22ミクロン膜でろ過して殺菌した。抗菌活性アッセイに使用した方法は、ディスク拡散法とした。このアッセイのためにセルロースディスクをAQC溶液に浸して装填し、次いで4℃で乾燥した。この実施例のディスクが吸着したクラスター溶液の量は、25±1mlであった。増殖培地には寒天ミュラー−ヒルトン(Agar Mueller−Hilton)を使用した。微生物の懸濁には0.5McFarlandを使用した。実証試験した微生物は、次の通りとした。
【0049】
−大腸菌ATCC25922
−E.フェカリスATCC29212
−緑膿菌ATCC27853
−黄色ブドウ球菌ATCC29213
−臨床サンプルから得たC.アルビカンス属種
【0050】
諸微生物を好気性雰囲気中で35℃で24時間インキュベートした。
【0051】
図1〜5は、試験した様々なAQC、並びに対照として試験したナノ粒子及び対応する塩に関して観察されたハロを示している。表1は、直径6mmのセルロースディスクを使用して観察されたハロ直径を示している。
【0052】
表1.−実施例2に記載の実験に関する様々な微生物に対して観察された阻害ハロ(mmで表示)の結果。
【0053】
【表1】

【0054】
抗菌実証試験から次のことが推定される。
【0055】
a)Agサンプル
Agサンプルでは、Ag対照(Agイオン)及びAg01サンプル(Agナノ粒子)が、いずれのアッセイにも阻害ハロを生じなかったことが分かる。AgのAQCは、E.フェカリスのケース以外のすべてのアッセイでハロを有する。また、C.アルビカンスのハロは、アッセイを行ったすべてのAQCサンプルに関してより大きいことも分かる。
【0056】
b)Auサンプル
Auサンプルでは、Au3+イオン[アセトニトリル−水混合液中(Au対照)又はトルエン中(Tol対照)で]及びAuナノ粒子(Au10)は阻害ハロを生じなかったことを観察することができる。AQCサンプルは、サンプルタイプに応じて様々な挙動を示した。したがって、サンプルAu6は、C.アルビカンス、大腸菌、及び黄色ブドウ球菌に対してのみ阻害ハロを示した。サンプルAu7及びAu8は、大腸菌に対してのみ活性を示した。最後に、サンプルAu9は、活性を示さなかった。
【0057】
したがって、AQC活性は、材料のタイプ(これらの具体例中のAu又はAg)に応じて異なり、また同じ材料内のサイズ(特許出願P200502041号明細書及びその拡張の国際出願PCT/ES2006/070121号明細書に示されたことによると合成時間に関係がある)に応じても異なることが実証された。AQCの活性が実証試験した金属の塩及びナノ粒子よりも高いことはまた、この金属の塩及びナノ粒子がアッセイを実施した条件下でいずれの活性も示さなかったことからも明らかに示されている。
【0058】
実施例3
AQCの殺生物活性に関する研究では、3種の異なるサンプルを調製した。
【0059】
サンプルB1:水性ペイント塗料を、50%水性分散液におけるスチレンアクリルコポリマー補助剤及び22%の顔料体積率で調製し、酸化チタンで着色し、粘度を3Pa.sとした。このサンプルは、対照として使用した。サンプルB2:サンプルB1に5μMのAg05AQCサンプルを添加し(実施例1を参照)、最終サンプルを0.2%に希釈した。これは塗料中のクラスターの最終濃度が10nMであることと同等である。
【0060】
サンプルB3:サンプルB1に5μMのAg05AQCサンプルを添加し(実施例1を参照)、最終サンプルを0.4%に希釈した。これは塗料中のクラスターの最終濃度が20nMであることと同等である。
【0061】
閉じた100mlの容器にサンプルを貯蔵し、周囲温度(22℃)で3カ月間維持した。AQCを含むサンプル(B2及びB3)では、わずかな嫌気的発酵が始まったことが観察され、これは容器内の均一な発泡によって明らかとなった。しかし、これらのサンプルでは、初期粘度(3Pa.s)と比べて、粘度の変化は見られなかった。対照的に、対照として使用したサンプルは、観察された嫌気的発酵とは別に、粘度の急落(1Pa.s)を示し、試験条件下でのポリマーの明らかな分解を示した。この実施例は、ペイント塗料配合物中で使用されるポリマーの分解の阻害に関するAQCの殺生物活性を明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
500個未満の金属原子(Mn、n<500)から構成されていることを特徴とする、殺生物剤としての安定な原子量子クラスター(AQC)の使用。
【請求項2】
前記AQCが、200個未満の金属原子(Mn、n<200)から構成されている、請求項1に記載のAQCの使用。
【請求項3】
前記AQCが、2個より多く27個未満の金属原子(Mn、2<n<27)から構成されている、請求項2に記載のAQCの使用。
【請求項4】
前記AQCが、2〜5個の金属原子から構成されている、請求項3に記載のAQCの使用。
【請求項5】
前記AQCの金属が、Au、Ag、Co、Cu、Pt、Fe、Cr、Pd、Ni、Rh、Pb、又はそれらの任意の2個の金属若しくは多数の金属の組合せから選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のAQCの使用。
【請求項6】
前記金属が、Au、Ag、又はそれらの組合せのいずれかである、請求項5に記載のAQCの使用。
【請求項7】
濃度が、対応する金属の原子に関して、少なくとも1nMである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のAQCの使用。
【請求項8】
前記濃度が、前記対応する金属の前記原子に関して、1nM〜100nMである、請求項7に記載のAQCの使用。
【請求項9】
前記殺生物剤が、抗菌剤又は抗真菌剤である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のAQCの使用。
【請求項10】
前記抗菌剤(antimicrobial against)が、グラム陽性、グラム陰性、嫌気性酸アルコール耐性らせん状のリケッチア、マイコプラズマ、アクチノミセス、又は様々な細菌に対して作用する、請求項9に記載のAQCの使用。
【請求項11】
前記グラム陽性細菌が、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌、ストレプトコッカス・アガラクチア、エンテロコッカス・フェカリス又はフェシウム、ジフテリア菌、リステリア菌、炭疽菌、ウェルシュ菌、クロストリジウム・ディフィシル、ボツリヌス菌、破傷風菌、及びノーヴィ菌を含むリストから選択される、請求項10に記載のAQCの使用。
【請求項12】
前記グラム陰性細菌が、緑膿菌、淋菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌、ヘモフィルス・ヘモリティカス、ヘモフィルス・パラヘモリティカス、ヘモフィルス・アフロフィルス、肺炎桿菌、カンピロバクター・フィタス、カンピロバクター・ジェジュニ、カンピロバクター・コリ、ピロリ菌、コレラ菌、ビブリオ・オプティカス、ネズミチフス菌、サルモネラ属種、ソンネ菌、ボイド赤痢菌、シゲラ・フレックスネリ、志賀赤痢菌、大腸菌、マルタ熱菌、ウシ流産菌、ブタ流産菌、リケッチア・リケッチイ、野兎病菌、パスツレラ・マルトシダ、ペスト菌、アシネトバクター・バウマンニ、エンテロコリチカ菌、仮性結核菌、プロテウス・ミラビリス、バクテロイデス属種、フソバクテリウム属種、百日咳菌、及びレジオネラ・ニューモフィラを含むリストから選択される、請求項10に記載のAQCの使用。
【請求項13】
前記細菌が、クラミジア、クラミドフィラ、肺炎マイコプラズマ、リケッチア、ミコバクテリウム、梅毒トレポネーマ、フランベジアトレポネーマ、トレポネーマ・カラテウム、レプトスピラ・インテロガンス、回帰熱ボレリア、ボレリア・ツリカタエ、ボレリア・パルケリ及びボレリア・ブルグドルフェリ、結核菌、ウシ結核菌、マイコバクテリウム・アフリカヌム、マイコバクテリウム・ミクロティ、及びらい菌を含むリストから選択される、請求項10に記載のAQCの使用。
【請求項14】
前記抗真菌剤が、アクチノミセス、アスペルギルス、ブラストミセス、カンジダ、クロモブラストミセス、コシジオス、クリプトコッカス、デルマトフィトス、フサリウス、ヒストプラズマ、マズラ、モコア、ノカルジア、パラコシジウス、ペニシリウム、ファエオハイホミセス、スケドスポリウム、及びスポロトリクムを含むリストから選択される真菌に対して作用する、請求項10に記載のAQCの使用。
【請求項15】
アンホテリシン、カスポファンギン、ミカファンギン、アニデュラファンギン、フルコナゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、イミダゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、ポサコナゾール、テルビナフィン、及びボリコナゾールを含むリストから選択される別の抗真菌剤と組み合わせた、請求項14に記載のAQCの使用。
【請求項16】
薬の調製のための、請求項1〜15のいずれか一項に記載のAQCの使用。
【請求項17】
細菌によって引き起こされる疾患の治療薬又は細菌増殖の阻害薬の調製のための、請求項16に記載のAQCの使用。
【請求項18】
抗生物質に耐性がある細菌によって引き起こされる疾患の治療のための、請求項17に記載のAQCの使用。
【請求項19】
院内感染の治療のための、請求項18に記載のAQCの使用。
【請求項20】
植物衛生用、化粧用、若しくは消毒用の製品、又はin vitroの臨床診断用検査キット、塗料、シーラント、ポリマー、及びプラスチックを含むリストから選択される他の任意の製品の調製のための、請求項1〜15のいずれか一項に記載のAQCの使用。
【請求項21】
前記製品が、水処理用、建設用、自動車用、布地用、又は病院及び外科用の材料において使用される、請求項20に記載のAQCの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2011−504459(P2011−504459A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527477(P2010−527477)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/ES2008/070180
【国際公開番号】WO2009/043958
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508361726)ウニベルシダーデ デ サンティアゴ デ コンポステラ (2)
【Fターム(参考)】