説明

抗菌性物質を含有する発酵液及びその製造方法並びに抗菌性物質の製造システム

【課題】 梅調味液を発酵原料として利用し、発酵技術により抗菌性物質を含有する発酵液を得ること及びその発酵液を低コストで製造する方法並びに抗菌性物質を含有する発酵液の製造システムを提供する。
【解決手段】 梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を脱塩し、脱塩梅調味液を調製する工程と、該脱塩梅調味液に酵母を添加してアルコール発酵を行ない、エタノールを生成する工程と、前記脱塩梅調味液に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、前記エタノールから酢酸を生成する工程を備える抗菌性物質の製造方法及びそれにより得られた発酵液により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性物質を含有する発酵液及びその製造方法並びに抗菌性物質の製造システムに関し、詳しくは、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を原料として発酵させた発酵液及びその製造方法並びに抗菌性物質の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
梅果実の全国における収穫量は約12万トンであり、和歌山県の紀南地域では、そのうちの7万トンが生産され、その5万トンが梅干しに加工されている。梅干しは、大きく分けて、収穫した生梅を、生梅に対して15〜20重量%の塩を添加して塩漬けし、1ヶ月〜数ヵ月後に取り出し、天日干しすることによって製造される古来からの梅干し(白干し)と、白干しを糖及びアミノ酸等を含む調味液に浸漬し、低塩で旨みが付加された味梅干しの2種類が製造されている。後者の場合、梅干しを漬けた後に、梅調味液と呼ばれる副産物が多量に生成される。例えば、紀南地域においては、約250の梅干し製造業者から年間3〜4万トンもの梅調味液が副生されている。
【0003】
この梅調味液は、そのまま浅漬け用の調味液に利用されたり、イオン交換膜電気透析法で塩分を除去した上で再度梅調味液として利用されるなど、一部が再利用されているが、再利用されている割合はわずかであり、その大部分は廃棄物処理業者に引き取られて処理されている。そして、廃棄物処理業者が収集した梅調味液は、陸上ではなく、主に海洋投棄により処理されている。しかしながら、「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」及び「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年議定書」に基づき、わが国では陸上処分を原則とし、海洋投棄による処理分の減量化を進めることを基本とした体制が図られつつある。そして、2007年度には海洋投棄が全面禁止となる見通しである。
【0004】
そのような状況の中、一部の梅加工業者では活性汚泥処理施設を導入し、活性汚泥方式で梅調味液の処理が行われるようになった。しかしながら、このような処理施設を所有している梅加工業者はほんのわずかであり、梅加工業界全体では未だ梅調味液の処理の問題を抱えているのが実情である。また、梅調味液はBODが数十万ppmの液体であるために、しばしばバルキング(汚泥沈降性不良)が起きる等、処理が困難であるという問題があった。従って、味梅干しの製造過程で生成される梅調味液をいかに有効利用するかが大きな課題となっていた。
【0005】
梅調味液の有効利用の手段の一つとして、本発明者らは、梅酢や梅調味液等の、梅に起因する抽出液を真空濃縮し、濃縮液又は梅塩と、梅酸性水とに分離することにより、濃縮液又は梅塩を梅調味料やたれの具材等に利用し、梅酸性水を化粧水やウェットティッシュ等に利用することを提案した(特許文献1)
【特許文献1】特開2002−360207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、食品の安全性に対する消費者の関心の高まりを受けて、農薬を使用せずに作物を栽培する「無農薬栽培」や、農薬を通常の5割以下の使用で作物を栽培する「減農薬栽培」などの栽培方法が一部の生産者で採用されるようになった。
【0007】
しかしながら、農薬の使用を制限して作物を栽培することにより病害虫が作物の生育に影響を及ぼし、農薬を使用して作物を栽培する場合に比較して生育が劣るなどの問題がある。また、病害虫への被害を防止するための様々な防御手段を講じることは生産者にとって負担であり、製造コストの増大を招くものとなる。
【0008】
そこで、近年、農薬の使用に代わる病害虫被害の防止策として種々の農薬代替技術が検討されている。例えば、生物農薬としてリュウキュウツヤテントウを増殖させ、リュウキュウツヤテントウが捕食対象とするコナジラミ類、アブラムシ類又はハダニ類等を捕食させるものや、微生物組成物としてバチルス・ズブチリスの胞子を硫酸ナトリウム等の含酸素無機塩と、アニオン型界面活性剤等の界面活性剤と、尿素からなる溶液を調製し、作物に散布するものがある。
【0009】
しかしながら、従来技術の生物農薬又は微生物農薬組成物等の代替農薬は、生態系への影響を考慮して慎重に用いなければならない。また、製造コストや管理コストに関しても実用化のために解決すべき課題が多く残されている。
【0010】
一方、微生物の働きを利用した発酵技術は、処理コストの削減あるいは工場のゼロエミッション計画達成等の手段として重要視されている。梅調味液中には、有機酸、糖質、アミノ酸、ミネラル等の有効成分が含まれているため、発酵原料としての利用が考えられる。
【0011】
従って、本発明の目的は、梅調味液を発酵原料として利用し、発酵技術により抗菌性物質を有する発酵液を得ること及びその発酵液を低コストで製造する方法並びに抗菌性物質の製造システムを提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、環境への影響が少なく、製造コストの問題も解消しうる代替農薬及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、梅調味液が発酵原料として有用である点に着目し、種々の条件で発酵を行った。そして、発酵により得られた発酵液について検討を行ったところ、この発酵液が抗菌活性又は静菌活性を有しているとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を原料とし、これを発酵させて得られた発酵液(以下、「第1発明」という)を提供するものである。
【0014】
このような構成により、梅調味液の有効利用が図れるとともに、発酵液が有する抗菌活性又は静菌活性を利用した様々な用途に利用することができる。ここで、「抗菌活性」とは、標的となる菌株に対する殺菌効果をいう。また、「静菌活性」とは、標的となる菌株の増殖の抑制、例えば、誘導期の延長などが認められるなどの効果をいう。上記発明は、梅調味液を原料とし、その発酵液を有効成分としているため、代替農薬として利用する場合でも安全性が高く、環境への影響が少ない。更に、発酵技術を利用して製造されるため、その代替農薬を低コストで製造することができる。
【0015】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記発酵がアルコール発酵であり、前記発酵液がエタノールを含有するエタノール発酵液であることが好ましい。エタノールは抗菌活性又は静菌活性を有することが従来から広く知られており、種々の分野で利用することが可能である。
【0016】
前記エタノールの含有量は、前記エタノール発酵液の全量を基準(100重量%)として2重量%以上であることが好ましい。このような構成により、エタノール発酵液が抗菌活性又は静菌活性を発揮することができる。
【0017】
前記発酵が酢酸発酵であり、前記発酵液が酢酸を含有する酢酸発酵液であることが好ましい。酢酸は、抗菌活性又は静菌活性を有することが従来から広く知られており、種々の分野で利用することが可能である。
【0018】
前記酢酸の含有量は、前記酢酸発酵液の全量を基準(100重量%)として0.03重量%以上であることが好ましい。このような構成により、酢酸発酵液が抗菌活性又は静菌活性を発揮することができる。
【0019】
また、本発明は、上記発酵液を含有する抗菌性物質を提供するものである。これまで述べたように、上記発酵液は抗菌作用又は静菌作用を有し、安全性が高く環境に対する負荷も少ないことから、抗菌作用又は静菌作用が要求される種々の製品に利用することができる。
【0020】
また、本発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を原料とし、該梅調味液に酵母を添加してアルコール発酵を行ない、エタノールを生成する工程を備える発酵液の製造方法(以下、「第2発明」という)を提供するものである。
【0021】
このような構成により、梅調味液から抗菌活性又は静菌活性を有する発酵液を製造することができる。また、抗菌活性又は静菌活性を有する発酵液は発酵技術を用いて得られるため、低コストで製造することができる。
【0022】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。更に、前記梅調味液の塩分の含有量を1重量%以下に調整し、脱塩調味液を調製する工程を備える請求項7に記載の発酵液の製造方法。塩分の含有量をかかる値以下にすることにより、微生物(特に酢酸菌)の発酵を促進することができる。その結果、抗菌活性又は静菌活性のより高い発酵液を製造することができる。
【0023】
更に、前記脱塩調味液から得たアルコール発酵液に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、前記エタノールから酢酸を生成する工程を備えることが好ましい。このような構成により、酢酸菌がエタノールを資化して酢酸を生産するため、効率よく酢酸を製造することができる。
【0024】
前記酵母の添加と前記酢酸菌の添加が同時に行われ、前記アルコール発酵と前記酢酸発酵が並行して行われることが好ましい。このような構成により、酵母にアルコールを生産させながら酢酸菌に酢酸を生産させることができる。従って、アルコール発酵と酢酸発酵を一つのタンクで行うことができるため、設備コストの抑制につながる。また、効率よく酢酸発酵液を製造することができるため、製造コストの抑制にもなる。
【0025】
前記抗菌性物質の酢酸の含有量を0.03重量%以上に調整する工程を更に備えることが好ましい。このような構成により、抗菌性物質の抗菌効果をより確実に発揮させることができる。
【0026】
また、本発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生した梅調味液を脱塩する脱塩手段と、脱塩された梅調味液をアルコール発酵する第1発酵手段と、第1発酵手段で生産されたアルコールを酢酸発酵する第2発酵手段と、を備えた抗菌性物質の製造システム(以下、「第3発明」という)を提供するものである。このような構成により、抗菌性物質の製造を連続的に行うことが可能となる。
【0027】
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記第1発酵手段は、固定化された酵母を備えることが好ましい。このような構成により、エタノールの製造を連続的に行うことが可能となる。
【0028】
前記第2発酵手段は、固定化された酢酸菌を備えることが好ましい。このような構成により、酢酸を連続的に製造することが可能となる。
【0029】
更に、前記第2発酵手段に酸素を供給する手段を備えることが好ましい。このような構成により、酢酸発酵をより効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
第1発明に係る発酵液は、梅調味液由来の発酵液を主成分としているため、安全性が高く、環境に与える負荷もほとんどない。また、優れた抗菌活性又は静菌活性を有しているため、代替農薬をはじめとして、抗菌作用又は静菌作用を必要とする種々の商品に利用することができる。
【0031】
また、第2発明に係る発酵液の製造方法は、発酵技術を利用するため、低コストで梅調味液から抗菌活性又は静菌活性を有する発酵液を製造することができるとともに、梅調味液の有効利用を図ることができる。
【0032】
更に、第3発明に係る抗菌性物質の製造システムは、発酵液の連続製造が可能となるため、梅調味液から抗菌活性又は静菌活性を有する発酵液の効率的な製造が可能となるとともに、梅調味液の大量処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1発明)
第1発明は、既述のように、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を原料とし、これを発酵させて得られた発酵液である。
【0034】
梅調味液は、調味液の成分や、それに漬け込む梅干し(白干し)の塩分量によって組成が異なるが、一般には、塩分を10〜20重量%、グルコース、フラクトース、ショ糖等の糖分を1〜20重量%、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸等の有機酸、セリン、アラニン、アスパラギン酸等のアミノ酸、ミネラル等を含んでいる。このように、微生物の培養に必要な栄養素を備えているため、脱塩を行えば、新たに栄養素を追加することなく、そのまま微生物育成用の培地として使用することができる。なお、アルコール発酵のみであれば、特に脱塩することなく、アルコール発酵させることも可能である。
【0035】
発酵液は、まず梅調味液を脱塩し、その後適宜希釈した後、酵母及び/又は酢酸菌を添加してアルコール発酵及び/又は酢酸発酵させることにより製造する。抗菌性物質の有効成分は、エタノールでも酢酸でもよく、エタノールと酢酸の混合液とすることもできる。抗菌性物質の有効成分をエタノールにするか、酢酸にするか、又は両者の混合液とするかは、発酵液の目的と用途に応じて適宜決定される。なお、発酵液の製造については後述する第2発明において詳しく説明する。
【0036】
発酵液中のアルコール又は酢酸の含有量は、上記のように用途や目的に応じて異なるが、一般には、エタノール発酵液の場合は、エタノールの含有量が2重量%以上であることが好ましく、酢酸発酵液の場合は、酢酸の含有量が0.03重量%以上であることが好ましい。
【0037】
本実施形態の発酵液は、その抗菌活性又は静菌活性を利用した種々の用途に適用することができる。例えば、化粧水、ウェットティッシュ又はオフィスクリーナー、防菌剤、うがい薬、洗剤、消臭剤、飲料等を挙げることができる。また、本実施形態の発酵液は梅調味液を原料としていることから、梅調味液由来の香気成分と発酵工程を経て生成された香気成分とを有している。そのため、抗菌効果等のみならず、香気成分を利用した商品開発も可能である。
【0038】
本実施形態においては、発酵液を農作物に散布して病害虫を防除する散布剤として利用する場合について説明する。
【0039】
散布剤として利用する場合は、病害虫の防除という観点から、その有効成分が酢酸であることが好ましい。発酵液はそのまま原液で散布剤として使用することができるが、抗菌活性が得られる範囲であれば、希釈剤で適宜希釈して使用することもできる。
【0040】
この場合、抗菌活性を発揮して有効に病害虫を防除するためには、散布剤中の酢酸の終濃度が1重量%以上であることが好ましい。
【0041】
希釈剤としては、例えば、水、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、ブチルアルコール、グリコール等のアルコール類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;メチルナフタレン;シクロヘキサン;動植物油;脂肪酸等を使用することができる。
【0042】
散布剤には、その他、発酵工程で生産されたエタノール及び梅調味液由来の糖類、アミノ酸類、有機酸、ミネラル等が含まれている。そのため、本実施形態に係る散布剤を農作物に散布した場合、散布剤の主成分である酢酸が主として病害虫の防除の役割を果たし、エタノールが補助的に病害虫の防除の役割を果たす。そして、梅調味液由来の糖類、アミノ酸類、有機酸、ミネラル等は、土壌に吸収された後に、農作物の肥料として利用されることが期待できる。
【0043】
散布剤は酢酸を主成分としているため、そのpHは、原液でpH3.5〜5である。そのため、常温での長期保存が可能であり、抗菌活性も長期に亘って維持される。
【0044】
本実施形態の散布剤には、上記有効成分としての発酵液の他に、農薬製剤に一般的に用いられる各種助剤、例えば担体、界面活性剤、結合剤(固着剤)、流動助剤、展着剤等を添加するもできる。
【0045】
担体としては、植物性粉末(例えば大豆粉、木粉など)、鉱物性粉末(例えばカオリン、ベントナイト、酸性白土などのクレー類、滑石粉、ロウ石粉などのタルク類、珪藻土、雲母粉などのシリカ類など)、硫酸アンモニウム、重曹などの水溶性担体、炭酸カルシウム、活性炭などを挙げることができる。前記担体は単独または2種以上を同時に用いてもよい。
【0046】
界面活性剤としては、高級アルコール硫酸ナトリウム、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ラウリルベタイン等の陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤などを挙げることができる。
【0047】
結合剤としてはアルファデンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0048】
流動助剤としてはホワイトカーボンなどを挙げることができる。
【0049】
展着剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテルなどを挙げることができる。
【0050】
本実施形態の散布剤の防除対象の植物病としては、糸状菌性及び細菌性の植物病に広く有効である。
【0051】
糸状菌性の植物病としては、例えば、炭疽病、黒星病、こうやく病、灰色かび病、枝枯病、うどんこ病、アオカビ病、いもち病、べと病、さび(黒さび、白さび、葉さび)病等を挙げることができる。
【0052】
細菌性の植物病としては、例えば、かいよう病、根頭がんしゅ病、斑点細菌病、軟腐病、腐敗病、花腐細菌病、芽腐細菌病、葉腐細菌病、青枯病等を挙げることができる。
【0053】
また、本実施形態の散布剤は、害虫の定着を忌避する目的で使用することもできる。忌避対象の害虫としては、例えば、オビカレハ、ヒメシロモンドクガ、ウメスカシクロバ、ハスモンヨトウ、コナガ、チャノコカクモンハマキ、コブノメイガ、ニカメイチュウ等の鱗翅目の昆虫の幼虫及び成虫;トビイロウンカ、セジロウンカ等のウンカ類;ツマグロヨコバイ、チャノミドリヒメヨコバイ等のヨコバイ類;オカボノアカアブラムシ、ウメコブアブラムシ、ムギワラギクオマルアブラムシ、ウメクビレアブラムシ、モモアカアブラムシ等のアブラムシ類;オンシツコナジラミ等のコナジラミ類;チャバネアオカメムシ等のカメムシ類等の半翅目;キスジノミハムシ、ウリハムシ、アズキゾウムシ等の甲虫目;イエバエ、アカイエカ等の双翅目;ワモンゴキブリ等の直翅目の昆虫の幼虫及び成虫;ナミハダニ、ミカンハダニ、ミカンサビダニ、チャノホコリダニ等のダニ目の卵及び幼虫が挙げられる。
【0054】
なお、本実施形態の散布剤には、更に、他の殺虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、除草剤、昆虫生育調整剤、植物生育調整剤、肥料、土壌改良剤等の任意の有効成分を配合してもよい。
【0055】
本実施形態の散布剤の施用方法は特に限定されるものではなく、茎葉散布、水面施用、土壌処理、種子処理等のいずれの方法でも施用することができる。
【0056】
(第2発明)
第2発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を脱塩し、脱塩梅調味液を調製する工程と、該脱塩梅調味液に酵母を添加してアルコール発酵を行ない、エタノールを生成する工程と、を備える抗菌性物質の製造方法である。
【0057】
図1は、第2発明の実施形態を説明するための図である。まず、梅調味液10は脱塩工程に付される(S1)。脱塩工程により、塩分濃度が10重量%以下にまで低下させることが微生物(特に酢酸菌)の発酵を効率良く行う観点から好ましい。
【0058】
脱塩された脱塩梅調味液(図示せず)は、次いで前処理工程に付される(S2)。前処理工程では、酵母のアルコール発酵を効率良く行うという観点から、脱塩梅調味液の糖濃度が調整される。通常、梅調味液は1〜20重量%の糖を含有しているため、脱塩梅調味液中の糖の含有量を、2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、更に好ましくは8〜10重量%に調整する。また、同様の観点から、脱塩梅調味液にCorn Steep Liquor(SHIGMA社製)0.5〜2%を添加し、pH6.0〜7.0に調整することが好ましい。なお、梅調味液の糖濃度が上記範囲内にある場合は前処理工程を省略することもできる。
【0059】
次いで、前処理工程を経た後の梅調味液は発酵工程に付される(S3)。発酵工程では、アルコール発酵が行われエタノールが製造されるアルコール発酵工程(S3a)と、酢酸発酵が行われ酢酸が製造される酢酸発酵工程(S3b)とに分かれる。
【0060】
アルコール発酵工程(S3a)において、アルコール発酵は、酵母12が添加されてから25〜37℃で48〜360時間行われる。酵母12はアルコール生産能を有するものであればその種類に特に制限はないが、エタノール製造に一般的に利用されているサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いることが好ましい。
【0061】
アルコール発酵の終了後、発酵液16はエタノール18を主成分とする液体となる。この液体は、後処理工程に付される(S4)。後処理工程では、抗菌性物質の使用態様に応じて、精製、希釈又は濃縮、添加物の添加などが行われ、所望の抗菌性物質22が得られる。
【0062】
一方、酢酸発酵工程(3b)では、酢酸菌14が添加され、アルコール発酵工程(3a)で生産されたエタノール18を基質として酢酸発酵が行われる。酢酸菌14は酢酸生産能を有するものであればその種類に特に制限はないが、酢酸製造に一般的に利用されているアセトバクター アセチ(Acetobacter aceti)を用いることが好ましい。
【0063】
このとき、酢酸菌14は、アルコール発酵の開始後、所定時間経過後に添加することができるが、酵母12の添加と同時でもよい。いずれのタイミングで酢酸菌14を添加しても同量の酢酸を得ることができるため、工程の省略化の観点からは酵母12と同時に酢酸14菌を添加することが好ましい。
【0064】
酢酸発酵は、酢酸菌14(及び酵母12)が添加されてから25〜37℃で48〜360時間行われる。酢酸発酵の終了後、発酵液16は酢酸20を主成分とする液体となる。この液体は、後処理工程に付される(S4)。後処理工程では、既述のように、抗菌性物質の使用態様に応じて、精製、希釈又は濃縮、添加物の添加などが行われ、所望の抗菌性物質22が得られる。
【0065】
(第3発明)
第3発明は、梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生した梅調味液を脱塩する脱塩手段と、脱塩された梅調味液をアルコール発酵する第1発酵手段と、第1発酵手段で生産されたアルコールを酢酸発酵する第2発酵手段と、を備えた抗菌性物質の製造システムである。
【0066】
図2は、第3発明の実施形態に係るバイオリアクターの概念図である。図2に示すように、本実施形態のバイオリアクターは、脱塩手段としての脱塩装置30と、前処理装置32と、第1発酵手段としてのアルコール発酵装置36と、第2発酵手段としての酢酸発酵装置38と、後処理装置40とを備えている。
【0067】
脱塩装置30は、梅調味液10に含まれる塩分を低減させるためのものである。脱塩は、電気透析、逆浸透膜等により行うことができる。脱塩装置30で梅調味液を処理することにより、梅調味液10中の塩分の含有量を10重量%以下にまで低下させることができる。この際、若干梅調味液が濃縮される。脱塩装置30により副生された塩42は、梅風味を有する食塩として利用することができる。
【0068】
前処理装置32は、脱塩された梅調味液の糖の含有量を2〜20重量%に調整するものである。この前処理装置32には、糖濃度測定器(図示せず)が脱塩梅調味液中の糖濃度を測定し、この測定結果に基づいて、糖濃度調節装置(図示せず)が加糖/希釈を行なうように構成することができる。なお、梅調味液の糖濃度が当初から上記範囲内にある場合は特に糖濃度の調整を省略することもできる。
【0069】
アルコール発酵装置36は、糖濃度が調整された脱塩梅調味液に酵母を接触させ、嫌気的条件下でアルコール発酵を行うためのものである。アルコール発酵は、25〜37℃で48〜360時間行われる。
【0070】
酵母12はアルコール生産能を有するものであればその種類に特に制限はないが、エタノール製造に一般的に利用されているサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を用いることが好ましい。
【0071】
酵母は、梅調味液の連続処理の観点から、固定化酵母50を用いることが好ましい。ここで、「固定化酵母」とは、酵母本体又はアルコール発酵に必要な酵素を、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、生化学特異結合法)、架橋法、包括法(格子型、マイクロカプセル型)のいずれかの方法により保持したものをいう。
【0072】
なお、上記は固定化酵母を用いた例を説明したが、これに限定されず、図示しない酵母添加装置を備えて酵母を添加するように構成してもよい。
【0073】
固定化酵母50に接触した脱塩梅調味液は、アルコール発酵により、エタノール18を主成分とする発酵液16となる。エタノール18を有効成分とする抗菌性物質22を製造する場合は、発酵液16は後処理装置40で処理される。
【0074】
後処理装置40は、抗菌性物質の使用態様に応じて、発酵液16を精製、希釈又は濃縮、添加物の添加などの各種処理を行ない、最終的に所望の抗菌性物質22とするものである。
【0075】
一方、酢酸発酵を行うときは、アルコール発酵装置36でエタノール18を生産した後、発酵液は酢酸発酵装置38に投入される。酢酸発酵装置38は、アルコール発酵により生産されたエタノール18を酢酸菌に接触させ、酢酸発酵を行うためのものである。酢酸発酵は、25〜37℃で48〜360時間行われる。
【0076】
酢酸菌14は酢酸生産能を有するものであればその種類に特に制限はないが、酢酸製造に一般的に利用されているアセトバクター アセチ(Acetobacter aceti)を用いることが好ましい。
【0077】
酢酸菌は、酵母と同様、固定化酢酸菌60を用いることが好ましい。ここで、「固定化酢酸菌」とは、酢酸菌本体又は酢酸発酵に必要な酵素を、担体結合法(物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、生化学特異結合法)、架橋法、包括法(格子型、マイクロカプセル型)のいずれかの方法により保持したものをいう。
【0078】
なお、上記は固定化酢酸菌を用いた例を説明したが、これに限定されず、図示しない酢酸菌添加装置を備えて酢酸を添加するように構成してもよい。
【0079】
酢酸発酵は、好気的条件で行われることが好ましい。そのため、酢酸発酵装置38に酸素を供給する手段を備えることが好ましい。酸素を供給する手段としては、例えば、図3(a)に示すように、アルコール発酵装置36から導入される発酵液を図面矢印方向に落下させ、このときに気泡を発生させることにより発酵液中に酸素O2を供給する方法や、図3(b)に示すように、酢酸発酵装置38の底面に空気を供給する手段を設けることにより、発酵液中に酸素O2を供給する方法等がある。
【0080】
なお、固定化酵母50と固定化酢酸菌60とを同じ発酵槽に設置して、アルコール発酵と酢酸発酵を並行して行うこともできる。即ち、固定化酵母がアルコール発酵によりエタノールを生産すると、固定化酢酸菌が生産されたエタノールを酢酸発酵により酢酸に変えるため、エタノールの生産と酢酸の生産とをほぼ同時に行うことができるものである。この際、発酵液中への酸素の供給は不要である。
【0081】
固定化酢酸菌60に接触したエタノール18は、酢酸発酵により、酢酸20を主成分とする発酵液16となる。酢酸20を有効成分とする抗菌性物質22を製造する場合は、発酵液16が後処理装置40で処理される。後処理についてはエタノール18を有効成分とする抗菌性物質22を製造する場合と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【実施例1】
【0082】
(1)発酵用培地の調製
梅調味液として、株式会社東農園の味梅干しの製造過程で副生された梅調味液を用いた。この梅調味液には、三温糖、還元水飴、イソマルトオリゴ糖及び蜂蜜からなる糖液16.8重量%、食塩12重量%、アミノ酸及び核酸を含有する調味料と、白干しから溶出した梅エキス(クエン酸を主とした有機酸、ミネラル等)とが含まれていた。
【0083】
この梅調味液に含まれる塩分を脱塩し、次いで、脱塩した梅調味液に含まれる糖が50g/lとなるように調整することにより、発酵用培地を調製した。
【0084】
(2)アルコール発酵及び酢酸発酵
アルコール発酵のための酵母としては、サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ATCC 32700 を用いた。また、酢酸発酵のための酢酸菌としては、アセトバクター アセチ(Acetobactor aceti)NRIC 0238 を用いた。これらをそれぞれ前培養したものを、調製した発酵用培地に同時に添加した。そして、35℃で120時間、静置培養により、アルコール発酵と酢酸発酵を並行して行った。これにより、酢酸33.0g/l、クエン酸7.34g/l、pH4.11の発酵液を得た。
【実施例2】
【0085】
(1)発酵用培地の調製
梅調味液として、株式会社東農園の味梅干しの製造過程で副生された梅調味液を用いた。この梅調味液には、三温糖、還元水飴、イソマルトオリゴ糖及び蜂蜜からなる糖液16.8重量%、食塩12重量%、アミノ酸及び核酸を含有する調味料と、白干しから溶出した梅エキス(クエン酸を主とした有機酸、ミネラル等)とが含まれていた。
【0086】
この梅調味液に含まれる塩分を脱塩し、次いで、脱塩した梅調味液に含まれる糖が100g/l(10重量%)となるように調整することにより、発酵用培地を調製した。
【0087】
(2)アルコール発酵
アルコール発酵のための酵母としては、サッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ATCC 32700 を用いた。これを前培養し、調製した発酵用培地に添加した。そして、35℃で120時間、静置培養により、アルコール発酵を行った。これにより、アルコール50.0g/l、クエン酸14.9g/l、pH6.0の発酵液を得た。
【0088】
[試験例1]細菌に対する抗菌活性測定試験
(1)ペーパーディスク法による抗菌活性測定試験
実施例1で得られた酢酸発酵液を被験試料として、以下の要領で、細菌に対する抗菌活性測定試験を行った。供試菌として、キュウリ斑点細菌病の原因菌として知られているシュードモナス シリンゲ pv.ラクリマンス(Pseudomonas syringae pv. lachrymans)、野菜腐敗病の原因菌として知られているシュードモナス チコリー(Pseudomonas cichorii)、野菜類軟腐病の原因菌として知られているエリウィニア カロトボーラsubsp. カロトボーラ(Eriwinia carotovara subsp. carotovara)、シュードモナス アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)NRIC0201、バシルス ズブチリス(Bacillus subtilis)NRIC1521、エスシェリシア コリ(Escherichia coli)NRIC1023、スタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus)NRIC1135を用いた。
【0089】
まず、肉エキス培地(培地組成:肉エキス1%、ペプトン1%、NaCl0.5%)を調製し、1NのNaOHで、pH6.8に調整した。その後、その肉エキス培地を高圧蒸気滅菌処理をした。
【0090】
次に、前培養として、500ml容坂口フラスコに前培養培地100mlを入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ滅菌した後、ここに供試菌を1白金耳植菌し、30℃で24時間振盪培養(125oscillation/min)を行った。
【0091】
次に、本培養として、500ml容坂口フラスコに本培養培地100mlを入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌した後、ここに前培養液1.0mlを添加し、30℃で24時間振盪培養(125oscillation/min)を行った。
【0092】
濃度107cells/mlに調製した検定菌の菌体懸濁液3mlをプラスチックシャーレ(栄研器材社製 滅菌2号角シャーレ)に入れた。そこに121℃、10分の条件でオートクレーブ滅菌後、40〜45℃に冷却した寒天1.2%の肉エキス培地27mlを加えて寒天平板培地を作成し、4℃で2時間保持した。次に被験試料を、160℃又は180℃、2時間の条件で乾熱滅菌した直径8mmの抗菌物質測定用ペーパーディスク(ADVANTEC社製)に染み込ませ、液をよく切り、培地上に置いた。この培地を30℃で20時間培養し、その際に生じる検定菌の生育阻止ゾーン(阻止円の直径)を測定した。
【0093】
なお、コントロールとして、クエン酸0.73%(v/v)、酢酸3.3%(v/v)からなるクエン酸−酢酸水溶液(コントロール1)、酢酸0.73%(v/v)からなる酢酸水溶液(コントロール2)、クエン酸3.3%(v/v)からなるクエン酸水溶液(コントロール3)を調製し、ペーパーディスクにそれぞれ染み込ませ、上記と同様に阻止円の直径を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
抗菌活性の程度は、ペーパーディスクの周囲に形成される阻止円の直径により判断することができる。表1に示すように、梅調味液発酵液(実施例1)は1.68〜2.26cmの阻止円が形成されていたことから、何れの供試菌に対しても抗菌活性を示すことが明らかとなった。また、梅調味液発酵液(実施例1)の結果はクエン酸−酢酸水溶液(コントロール1)及び酢酸水溶液(コントロール2)の結果とほぼ同等であったことから、梅調味液発酵液の抗菌活性は、梅調味液発酵液中の酢酸に依存することが推察された。
【0096】
なお、クエン酸水溶液(コントロール3)については阻止円が全く形成されなかったことから、クエン酸は抗菌活性を有していないことが確認された。
【0097】
(2)液体培養法による抗菌活性及び静菌活性測定試験
実施例1で製造した酢酸発酵液及び実施例2で製造したアルコール発酵液を被験試料として、以下の要領で、細菌に対する抗菌活性及び静菌活性測定試験を行った。供試菌として、バシルス サブチリス(Bacillus subtilis)NRIC1521及びエスシェリシア コリ(Escherichia coli)NRIC1023を用いた。
【0098】
まず、肉エキス培地(培地組成:肉エキス1%、ペプトン1%、NaCl0.5%)を調製し、1NのNaOHで、pH6.8に調整した。その後、その肉エキス培地を高圧蒸気滅菌処理をした。
【0099】
前培養として、500ml容坂口フラスコに前記肉エキス培地100mlを入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌した後、ここに供試菌を1白金耳植菌し、30℃で24時間振盪培養(125oscillation/min)を行った。
【0100】
本培養として、500ml容坂口フラスコに前記肉エキス培地100mlを入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌した後、ここに前培養した供試菌を1.0ml添加し、30℃で24時間振盪培養(125oscillation/min)を行った。
【0101】
抗菌活性測定試験は、1N NaOHを用いてpHを6.8に調整した前記肉エキス培地の2倍濃度の肉エキス培地5mlをL字試験管に入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌を行った。ここに発酵液を一定量(0.02ml、0.1ml、0.5ml、1ml、2ml、4ml)と、前記本培養液を105cells/mlに調整したものを1ml入れ、蒸留水を加え全量を10mlとした。これを30℃で24時間振盪培養し、経時的に菌体量を測定した。なお、ブランク(BL)として、実施例1又は実施例2の発酵液に換えて、蒸留水を添加した。
【0102】
結果を図4〜図7に示す。菌体量は、分光光度計(日立社製)を用い、吸光度660nmで測定し、O.D.値として表示した。図4は実施例1(酢酸発酵液)によるバシルス サブチリスに対する抗菌作用を示す図であり、図5は実施例1(酢酸発酵液)によるエスシェリシア コリに対する抗菌作用を示す図であり、図6は実施例2(アルコール発酵液)によるバシルス サブチリスに対する静菌作用を示す図であり、図7は実施例2(アルコール発酵液)によるエスシェリシア コリに対する静菌作用を示す図である。
【0103】
実施例1(酢酸発酵液)については、図4に示すように、バシルス サブチリスに対して、酢酸発酵液の添加量が0.1ml(酢酸含有量0.03重量%)で抗菌効果が認められ、酢酸発酵液の添加量が0.2ml(酢酸含有量0.06重量%)以上で、バシルス サブチリスの増殖が完全に抑制されることが判明した。また、エスシェリシア コリに対しては、図5に示すように、酢酸発酵液の添加量が0.2ml(酢酸含有量0.06重量%)以上で増殖が完全に抑制されることが判明した。
【0104】
実施例2(アルコール発酵液)については、図6及び図7に示すように、バシルス サブチリス及びエスシェリシア コリに対しアルコール発酵液の添加量が4ml(エタノール含有量2重量%)のときに静菌効果が認められることが判明した。
【0105】
[試験例2]糸状菌に対する抗菌活性測定試験
実施例1で得られた梅調味液発酵液を被験試料として、以下の要領で、糸状菌に対する抗菌活性測定試験を行った。供試菌としては、カプリチェリー炭疽病の原因菌であるコレトトリカム アキュタタム(Colletotrichum acutatum)、キュウリ炭疽病の原因菌であるコレトトリカム オリビキュラーレ(Colletotrichum orbiculare)及び千葉パンジー灰色カビ病の原因菌であるボツリティス シネレア(Botrytis cinerea)、前記千葉パンジー灰色カビ病と同属同種の株違いでありうめ灰色かび病の病原菌であるボツリティス シネレア(Botrytis cinerea)、うめ黒星病の病原菌であるクラドスポリウム カーポフィラム(Cladosporium carpophilum)を用いた。
【0106】
前培養培地として、ポテトデキストロース培地(ポテトデキストロース ブロス2.0%、グルコース2.0%、蒸留水1000ml、pH6.8)を用いた。
【0107】
供試菌の前培養液として、100ml容三角フラスコに寒天2.0%の上記ポテトデキストロース培地20mlを入れ、121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌した後、ここに供試菌を3白金耳植菌し、25℃で10日間培養を行った。その後、Mcllvaine buffer(pH4.5)を20ml入れ、コンラージ棒で菌糸をかき取り、滅菌した2重のガーゼでろ過した。これを抗菌活性測定の供試菌培養液とした。
【0108】
抗菌活性の測定は、クリーンベンチにて、前記供試菌培養液と被験試料を1mlずつ滅菌シャーレ取った。そこに121℃、10分の条件でオートクレーブ殺菌後、40〜45℃に冷却した寒天0.8%の上記ポテトデキストロース培地約10mlを加えて攪拌した。室温で放置して固化させ、これを25℃、数日間恒温機にて培養し、経時的に供試菌の増殖を観察した。
【0109】
なお、コントロールとして、被験試料の代わりに、殺菌水1ml(コントロール4)、発酵液と同濃度の、クエン酸−酢酸水溶液(コントロール1)、酢酸水溶液(コントロール2)、クエン酸水溶液(コントロール3)を用いて同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
抗菌活性の程度は、集落の形成が確認された培養開始からの日数により判断することができる。表2に示すように、梅調味液発酵液(実施例1)は何れの供試菌に対しても抗菌活性を示すことが明らかとなった。また、梅調味液発酵液(実施例1)の結果はクエン酸−酢酸水溶液(コントロール1)及び酢酸(コントロール2)の結果と同等であったことから、梅調味液発酵液の抗菌活性は、梅調味液発酵液中の酢酸に依存することが推察された。
【0112】
なお、クエン酸(コントロール3)については、殺菌水(コントロール4)と同様、供試菌の育成を抑制する効果が認められなかったことから、抗菌活性を有していないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】第2発明の実施形態に係る抗菌性物質の製造工程を説明するための図である。
【図2】第3発明の実施形態に係るバイオリアクターの概念図である。
【図3】第3発明において、酸素を供給する手段の具体例を示す図である。
【図4】実施例1(酢酸発酵液)によるバシルス サブチリスに対する抗菌作用を示す図である。
【図5】実施例1(酢酸発酵液)によるエスシェリシア コリに対する抗菌作用を示す図である。
【図6】実施例2(アルコール発酵液)によるバシルス サブチリスに対する静菌作用を示す図である。
【図7】実施例2(アルコール発酵液)によるエスシェリシア コリに対する静菌作用を示す図である。
【符号の説明】
【0114】
10…梅調味液、12…酵母、14…酢酸菌、16…発酵液、18…エタノール、20…酢酸、22…抗菌性物質、30…脱塩装置、32…前処理装置、36…アルコール発酵装置、38…酢酸発酵装置、40…後処理装置、42…塩、50…固定化酵母、60…固定化酢酸菌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生した梅調味液を原料とし、これを発酵させて得られた発酵液。
【請求項2】
前記発酵がアルコール発酵であり、前記発酵液がエタノールを含有するエタノール発酵液である請求項1に記載の発酵液。
【請求項3】
前記エタノールの含有量が、前記エタノール発酵液の全量を基準(100重量%)として2重量%以上である請求項2に記載の発酵液。
【請求項4】
前記発酵が酢酸発酵であり、前記発酵液が酢酸を含有する酢酸発酵液である請求項1に記載の発酵液。
【請求項5】
前記酢酸の含有量が、前記酢酸発酵液の全量を基準(100重量%)として0.03重量%以上である請求項4に記載の発酵液。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の発酵液を含有する抗菌性物質。
【請求項7】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生する梅調味液を原料とし、該梅調味液に酵母を添加してアルコール発酵を行ない、エタノールを生成する工程を備える発酵液の製造方法。
【請求項8】
更に、前記梅調味液の塩分の含有量を1重量%以下に調整し、脱塩調味液を調製する工程を備える請求項7に記載の発酵液の製造方法。
【請求項9】
更に、前記脱塩調味液から得たアルコール発酵液に酢酸菌を添加して酢酸発酵を行い、酢酸を生成する工程を備える請求項8に記載の発酵液の製造方法。
【請求項10】
前記酵母の添加と前記酢酸菌の添加が同時に行われ、前記アルコール発酵と前記酢酸発酵が並行して行われる請求項9記載の発酵液の製造方法。
【請求項11】
前記発酵液中の酢酸の含有量を0.03重量%以上に調整する工程を更に備える請求項6〜10のいずれか1項に記載の発酵液の製造方法。
【請求項12】
梅干しを調味液に漬け込んで味梅干しを製造する際に副生した梅調味液を脱塩する脱塩手段と、
脱塩された梅調味液をアルコール発酵する第1発酵手段と、
第1発酵手段で生産されたアルコールを酢酸発酵する第2発酵手段と、
を備えた抗菌性物質の製造システム。
【請求項13】
前記第1発酵手段が、固定化された酵母を備えた請求項12に記載の抗菌性物質の製造システム。
【請求項14】
前記第2発酵手段が、固定化された酢酸菌を備えた請求項12又は13に記載の抗菌性物質の製造システム。
【請求項15】
更に、前記第2発酵手段に酸素を供給する手段を備えた請求項12〜14のいずれか1項に記載の抗菌性物質の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−82513(P2007−82513A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278772(P2005−278772)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(591112142)株式会社東農園 (8)
【Fターム(参考)】