説明

抗菌性組成物、その製造方法及びその利用

【課題】生分解性等の乳酸ポリマーの特性をもつと共に高い抗菌性をもつ組成物を提供する。
【解決手段】乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩とを組合せて組成物をつくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性組成物、その製造方法及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗菌性は多くの分野で必要とされてきており、種々の抗菌剤(防カビ剤、抗菌剤等も含む)が提案されている。
それらのなかで、乳酸を編合重合したポリ乳酸は容易に加水分解して生分解性や生体吸収性を有することから手術糸等の医療用材料として使用されている。これらのポリ乳酸はそれ自体が成形性をもつに十分な高い重合度をもっているが、近年相対的に低い重合度をもつもの即ち乳酸オリゴマーについての検討もなされている(たとえば特許文献1)。
【0003】
特許文献1では乳酸オリゴマーの抗菌性と共に、徐放性及び洗浄効果に着目しているが、抗菌性についていえば必ずしも十分とはいえないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−139867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生分解性等の乳酸の重合体のもつ特性を維持した上で、その抗菌性を顕著に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩からなることを特徴とする抗菌性組成物である。
本発明の第2は、乳酸と乳酸金属塩とを混合し、該混合物を加熱して系外に水分を除去することにより脱水縮合してオリゴマーを形成することを特徴とする抗菌性組成物の製造方法である。
本発明の第3は、上記の抗菌性組成物を、物品に混入、含浸もしくは被覆することを特徴とする物品に抗菌性を付与する方法である。
【発明の効果】
【0007】
乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩とを組合せることにより、抗菌性が大幅に向上すると共に、成形性重合体又は塗膜形成性重合体に混入した場合にも、それらの成形性や品質を損うことなく顕著に向上した抗菌性をそれぞれの物品に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の抗菌性組成物は、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩とを必須成分として含む。
乳酸オリゴマーの金属塩を構成する金属としては、従来からイオン状態で抗菌作用を示すことが知られている銀、銅、亜鉛、金、白金、錫、ニッケル、鉄等を用いうるが、銅、亜鉛及び鉄が好ましく、特に銅が好ましい。
【0009】
本発明の抗菌性組成物は、遊離乳酸と乳酸金属塩とを混合し、この混合物を加熱して脱水縮合反応させることによって製造することができる。加熱温度は脱水縮合反応が起こるに十分な温度であればよく、通常100〜200℃の温度が用いられる。系外に生成した水分を出して縮合反応を促進させるために系を減圧状態に保つことが好ましい。
乳酸としては、D体、L体、DL体のいずれを用いてもよい。
【0010】
乳酸に対する乳酸金属塩の使用割合によって生成するオリゴマーの重合度を制御することができる。本発明では遊離の乳酸1重量部に対し乳酸金属塩を0.1〜1.0重量部、特に0.2〜0.5重量部用いることが好ましい。
【0011】
乳酸オリゴマーの金属塩は通常オリゴマー1分子当り1個の金属原子を有する。
オリゴマーの平均重合度は約2〜100程度、好ましくは約5〜50である。通常、上記の方法で得られる組成物はほぼ同じ重合度と重合度分布をもった乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマー金属塩との混合物である。
【0012】
尚、予め、遊離の乳酸を用いた自己重縮合反応によって乳酸オリゴマーをつくり、そのカルボキシル末端(の一部)に銅イオンをイオン交換反応によって導入して本発明の抗菌性組成物を製造することも可能である。
【0013】
本発明の抗菌性組成物は、通常、乳酸オリゴマー1重量部に対し乳酸オリゴマーの金属塩が0.1〜1.0重量部、好ましくは0.2〜0.5重量部含まれている。かなり少ない金属塩含量であっても、その共存によって抗菌性が大幅に向上する。
【0014】
本発明の抗菌性組成物である乳酸オリゴマーとその金属塩の混合物は、低融点(通常100℃以下)の固体状物であり、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等の成形性重合体や塗膜形成性重合体との混合が容易であり、それらに混入してもそれらの成形性や塗膜形成性や得られる物品の品質を損うことはほとんどない。特に熱硬化性エラストマーの1種であるシリコーンゴムに混入して成形品又は塗膜をつくることは好ましい使用態様の1つである。
【0015】
上記した成形性ないし塗膜形成性重合体への抗菌性組成物の混入量は0.5〜3重量%程度が好ましい。このようにして得られた成形体や塗膜は2以上の抗菌活性値(JIS Z 2801)を示す。
【0016】
本発明の抗菌性組成物は、従来抗菌剤が用いられている種々の用途に用いることができるが、特に衣類、使い捨てマスク、防じん・防毒マスク、防じんフィルタ等の各種繊維製品、各種紙製品、プラスチック加工品等の各種成形品等が好ましい用途として例示される。
次に実施例によって本発明を例証する。
【0017】
実施例における抗菌性の試験は次のとおりである。
(1)試験方法1:菌液吸収法(JIS L 1902)
菌の種類:大腸菌(菌株・IFO 03301 (独)製品評価技術基盤機構)
試験片 :約18mm正方形、サンプル各3検体、
標準布6検体(JIS L 8003)
生菌数測定法:混釈平板培養法
【0018】
試験操作:
減菌済の標準布3検体に、試験菌液0.2mlをつけ、洗い出し液20mlと共に撹拌して、生菌数を測定した。
また、減菌済の標準布3検体とサンプル各3検体に、試験菌液0.2mlをつけ、培養し(条件:37±1℃、18±1hrs)、洗い出し液20mlと共に撹拌してから、生菌数を測定した。
【0019】
評価法 :
(a)試験成立の判定基準
増殖値[F]>1.5
F=Mb−Ma
Ma:標準布の試験菌接種直後の3検体の生菌数の常用対数の平均値
Mb:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数の平均値
【0020】
(b)活性値
静菌活性値 S=Mb−Mc
殺菌活性値 L=Mb−Mc
Mc:抗菌加工試料の18時間培養後の3検体の生菌数の
常用対数の平均値
(2)試験方法2:フィルム密着法(JIS Z 2801)
【実施例1】
【0021】
1000mlの四つ口フラスコにDL−乳酸500gと乳酸銅1gを入れ、温度計、減圧口、窒素ガス流入口、及び減圧用シール付き撹拌棒を取り付け窒素雰囲気下で、145℃で3時間加熱し、DL−乳酸に含まれる水を除去した。次いで145℃、150mmHgで3時間、150℃、15mmHgで3時間加熱・減圧し、最終的に185℃、15mmHgで1.5時間の条件下で脱水縮合反応を行い、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの銅塩からなる混合物を得た。分子量を測定したところ、ほぼ500〜3000の範囲で分布しており、平均重合度は乳酸オリゴマーが約20、乳酸オリゴマーの銅塩も約20であった。
【0022】
比較例1:
乳酸銅を用いないこと以外は、実施例1と同様にして乳酸オリゴマーを得た。
抗菌性試験のため、実施例1で得た乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの銅塩との混合物と比較例1で得た乳酸オリゴマーの、それぞれの溶液(溶媒:アセトニトリル)に、局方ガーゼ(290×290mm)を浸漬し、次いで乾燥して溶媒を除去して、添着量0.5重量%のサンプルを調整した。
実施例1及び比較例1のサンプルについての菌数測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
次に、JISによる評価法に従い、
下記に示す式で、静菌活性値、殺菌活性値を算出した。
静菌活性値:S=logB−logC
殺菌活性値:L=logA−logC
結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【実施例2】
【0026】
実施例1で得た乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの銅塩との混合物を液状シリコーンゴム、0.1重量%、0.5重量%、1重量%、2重量%及び3重量%添加し、成形し、加熱して硬化させて、厚さ0.1mm、縦横170×200mmのシートを得た。液状シリコーンゴム単独の場合と成形性及びシート品質は実質上同じであった。
【0027】
このシートについて、JIS Z 2801に従って、大腸菌を用いて、抗菌性試験を行った。
結果を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
実施例1と同一のサンプルと黄色ブドウ球菌(NBRC 12732、グラム陽性菌)を用いて、JIS Z 2801(フィルム密着性)に従って抗菌性の試験を行った。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
実施例と比較例の上記の結果から、乳酸オリゴマー単独に比し、乳酸オリゴマーの金属塩を混入することによって抗菌性が大幅に向上すること、及びシリコーンゴム等に本発明の組成物を混入した場合も、成形性や品質を損うことなく優れた抗菌性が付与されることがわかる。
【実施例3】
【0032】
極細径ガラス繊維をラウンドプリーツ状に一体抄紙成形して、防じんマスク用の円筒形状の成形フィルタ(「αリングフィルタ」と称する)をつくった。
実施例1と同様にして、乳酸・乳酸銅オリゴマーをつくり、濃度を調整した乳酸・乳酸銅オリゴマーのエタノール溶液をつくった。
【0033】
このエタノール溶液にαリングフィルタを浸漬して乾燥し、乳酸・乳酸銅オリゴマーを添着したαリングフィルタを調整した。
オリゴマーの添加量は、0.5%、1.5%及び3.2%(αリングフィルタの重量当りの量)である。
次いで、JIS L 1902に従って抗菌性の試験を行った。
試験結果を表5に示す。
【0034】
【表5】

【実施例4】
【0035】
お椀状の繊維布帛フィルタを着用者の顔面に接する板状フェルト接顔体にとりつけた使い捨て防じんマスクを用意した。
実施例1と同様にして、乳酸・乳酸銅オリゴマーをつくり、乳酸・乳酸銅オリゴマーのエタノール溶液(2mg/ml)をつくった。
【0036】
このエタノール溶液を上記マスクにスプレーで数回塗布し、0.04%、0.06%及び0.13%(対マスク重量)のオリゴマーを塗布した。
次いで、JIS L 1902に従って抗菌性の試験を行った。
菌数測定結果を表6に示す。
【0037】
【表6】

【0038】
活性値の結果を表7に示す。
【0039】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩からなることを特徴とする抗菌性組成物。
【請求項2】
乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩の平均重合度が2〜100である請求項1記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
金属塩が銅塩、亜鉛塩又は鉄塩である請求項1又は2記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
乳酸オリゴマー1重量部に対し乳酸オリゴマーの金属塩が0.1〜1.0重量部存在する請求項1〜3のいずれか1項記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
乳酸と乳酸金属塩とを混合し、該混合物を加熱して系外に水分を除去することにより脱水縮合してオリゴマーを形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の抗菌性組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の抗菌性組成物を物品に混入、含浸もしくは被覆することを特徴とする物品に抗菌性を付与する方法。
【請求項7】
物品が繊維製フィルタである請求項6の方法。

【公開番号】特開2010−150239(P2010−150239A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258728(P2009−258728)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000162940)興研株式会社 (75)
【Fターム(参考)】