説明

抗HIV抗体

本発明の目的は、高親和性抗HIV抗体を提供することである。本発明によれば、HIVのgp120糖タンパク 本発明の目的は、高親和性抗HIV抗体を提供することである。本発明によれば、HIVのgp120糖タンパク質と結合し、かつ、解離定数がKD=1.0×10−9(M)以下の抗体又はその断片、前記抗体又はその断片を含有する医薬組成物、GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫を、配列番号6に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として免疫し、得られる動物又は子孫から抗体を採取することを特徴とする、抗HIV抗体又はその断片の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、HIVの外皮膜に存在し分子量約120kDを有する糖タンパク質gp120に高親和性に結合する抗体及びその産生細胞に関する。また、本発明は、上記抗体を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
後天性免疫不全症候群(AIDS)は、HIV(Human Immunodeficiency Virus)の感染後、徐々に感染者の免疫能が低下して合併症を起こすようになった状態を意味する。
HIVは宿主の体内に侵入すると、CD4陽性細胞、特にCD4Tリンパ球(ヘルパーT細胞)に感染する。CD4陽性細胞への感染に関与するタンパク質は、HIVの外被糖タンパク質gp120である。gp120は、HIVの外皮膜に存在し、分子量約120キロダルトン(kD)を有する糖タンパク質であり、細胞表面のCD4を特異的受容体として結合する。そして、HIVはCD4リンパ球に感染後、細胞内に侵入し、脱外被を起こして核酸(RNA)を遊離する。その後、逆転写酵素によるDNA合成、転写、翻訳がなされ、ウイルスタンパク質が合成される。ウイルスタンパク質は細胞膜に移動してウイルス粒子となり放出される。
HIVは抗原変異が激しいため、ワクチンを作製することが困難であり、現在有効なワクチンは開発されていない。また、HIV遺伝子は感染細胞内の染色体に組み込まれるため、感染したHIVを完全に取り除くという根本的治療は極めて困難である。
現在、AIDSの発病を遅らせ、延命効果が認められる薬剤としてAZT(アジトチミジン)などがあり、有効性が期待できる治療薬も次々と開発されつつある。しかしながら、まだ決定的な治療薬は確立していない。
一方、HIVを効果的に中和する能力を持ち、AIDSの予防や診断に役立つ抗体を得るために種々の試みがなされている。gp120はHIVの感染にとって最も重要な分子の一つであるため(McDougal et al.,Science,231,382−385(1986))、HIVの感染の効果的な抑制、感染予防及び診断には、gp120を標的とすることができる。これまでに、HIVのgp120の前駆体であるgp160のアミノ酸配列のうち、第308−331番目以内にある一つのエピトープを認識する「0.5β」と呼ばれる抗体が作製されている(特許第2797099号公報)。しかし、抗原との結合力をさらに高めるには、HIVのgp120と反応して、効果的にウイルスを中和することができる高親和性抗体を開発することが必要である。
【発明の開示】
本発明は、HIVを中和する能力を有する高親和性抗体、及び該抗体を含む医薬組成物を提供することを目的とする。また、後天性免疫不全症候群の治療に用いられる医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために誠意研究を行った結果、GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いてgp120により免疫すると、HIVの活性を中和し、かつHIVと高親和性に結合する抗体を産生することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)HIVのgp120糖タンパク質と結合し、かつ、解離定数がKD=1.0×10−9(M)以下の抗体又はその断片。
上記抗体又はその断片は、gp120糖タンパク質のうち第308−330番目のアミノ酸配列(例えば配列番号6に示されるもの)の少なくとも一部を認識することができる。
本発明の抗体又はその断片は、非ヒト哺乳動物からの血清から採取する抗体、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
本発明の抗体又はその断片は、例えば受託番号がFERM BP−08644であるハイブリドーマ細胞〔表示名:「Anti−NL43mono.Clone No.G2−25ハイブリドーマ細胞」、寄託先:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))、寄託日:2004年2月25日〕により産生される。
(2)上記抗体又はその断片のV領域を含む、ヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片。
(3)配列番号6に示すアミノ酸配列のうち少なくとも一部を含むポリペプチドを抗原として免疫したGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫から採取される、高親和性抗体産生細胞。
また本発明は、受託番号がFERM BP−08644である、HIVのgp120糖タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞を提共する。
(4)GANPトランスジェニック非ヒト動物又はその子孫を、配列番号6に示すアミノ酸配列のうち少なくとも一部を含むポリペプチドを抗原として免疫し、得られる動物又は子孫から抗体を採取することを特微とする、抗HIV抗体又はその断片の製造方法。
(5)上記(3)記載の高親和性抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合細胞、又は受託番号がFERM BP−08644で表されるモノクローナル抗体産生細胞を培養し、得られる培養物から抗体を採取することを特徴とする、抗HIV抗体又はその断片の製造方法。
(6)上記(1)記載の抗体又はその断片、及び上記(2)記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つを含有する医薬組成物。
本発明の医薬組成物は、後天性免疫不全症候群の治療薬として使用することが可能である。
(7)上記(1)記載の抗体若しくはその断片、又は上記(2)記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体若しくはそれらの断片と、HIVのgp120糖タンパク質とを反応させることを特徴とするHIVの検出方法。
(8)上記(1)記載の抗体又はその断片、及び上記(2)記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つを含有するHIV検出用キット。
【図面の簡単な説明】
図1は、B細胞におけるGANPの発現の増加を示す図である。
図2は、ELISAを用いて各抗体によるgp120(308−330)ペプチドを検出した結果を示す図である。
図3は、各クローンの解離定数を測定した結果を示す図である。
図4は、各抗HIVモノクローナル抗体のエンベロープに対する結合能を評価した結果を示す図である。
図5は、各抗HIVモノクローナル抗体のエンベロープに対する結合能を評価した結果を示す図である。
図6は、各抗HIVモノクローナル抗体の中和活性試験結果を示す図である。
図7は、各抗HIVモノクローナル抗体の中和活性試験結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
1.概要
本発明の抗体は、GANPトランスジェニック哺乳動物に、HIVのgp120の一部、特にgp120のアミノ酸配列のうち第308−330のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として免疫することにより得られたものである。gp120のアミノ酸配列のうち第308−330番目の配列(「gp120(308−330)」という)を認識する抗体は、ウイルス中和活性、及び感染細胞による合胞体形成抑制活性を有することが知られているが(Skinner MA.et al.,AIDS Res.Hum.Retroviruses(1988),4(3),187−197)、本発明の抗体は、gp120(308−330)と高親和性に結合することを特徴とするものである。
ここで、GANPとは、胚中心結合核タンパク質(Germinal center−associated nuclear protein)と呼ばれている核タンパク質である。GANPは、遺伝子に変異を誘導するプロセスにおいて直接的及び間接的に必要な分子である。また、GANPは、遺伝子変異を修復する際に、高親和性の抗体が得られるようにV領域の変異の誘導を促す能力を保有していることから、GANPをコードする遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物(「GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物」という)は、このGANP遺伝子の導入によって、獲得性免疫の高親和性抗体産生を促進することができる。また、このGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、速やかに抗原に対する結合力の高い抗体を産生することができる。従って、上記トランスジェニック非ヒト哺乳動物を、HIVのgp120のアミノ酸配列のペプチド(例えばgp120(308−330))を抗原に用いて免疫することで、従来は得られないような高親和性の抗体を簡便に得ることができる。
上述の通り、本発明により、HIV中和活性、感染細胞の合胞体形成抑制作用を有し、従来は得られないような高親和性の抗HIV抗体を得ることができる。そして、得られた抗体を含む医薬組成物は、AIDSの治療に用いることができる。
上記抗体を産生する細胞は、gp120で免疫したGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物から得られた脾臓B細胞又はリンパ節細胞単独でもよく、B細胞又はリンパ細胞とミエローマ細胞とを融合させたハイブリドーマ細胞でもよい。本発明は、上記抗体を産生する細胞についても提供する。
さらに、HIV感染を確認する臨床検査においては、HIVを高感度に検出することが重要である。その検出手段として、本発明の高親和性抗HIV抗体を用いることができる。従って、本発明は、抗HIV抗体を含むHIV検出キットを提供するものである。
2.抗原の調製
HIVのgp120はデータベース等から配列情報を得ることが可能であり(PRF 1102247A,http://www.genome.ad.jp/dbget−bin/www_bget?prf:1102247A)、そのアミノ酸配列は配列番号5に示されるものである。
そして、gp120(308−330)のポリペプチド配列は、

で表される23アミノ酸残基であり(Lee Ratner et al.,Nature 313,277−284,1985)、このアミノ酸配列のうちの少なくとも一部(全部又は一部)を含むポリペプチド又はペプチド(単にペプチドともいう)抗原として使用することができる。
ここで、抗原に用いる上記配列番号6で示されるペプチド配列の「アミノ酸配列の少なくとも一部」とは、長さに特に限定されるものではない。例えば23アミノ酸残基のうち連続する8アミノ酸残基以上、例えば8、10、12、16、20、23アミノ酸残基が挙げられる。また、選択する場所は、配列番号6の中の連続したアミノ酸であれば特に限定されず、任意の場所を選択することができる。例えば、7〜8アミノ酸残基を抗原に用いる場合には、配列番号6で示される23残基のアミノ酸配列を、N末端から順に7〜8アミノ酸ずつ3つの領域に渡ってアミノ酸配列を選択してもよく、N末端から1アミノ酸ずつC末端側にずらした領域の配列を選択してもよい。
抗原には、配列番号6及び上記のアミノ酸配列の少なくとも一部を、単独又は混合して用いることができる。
また、上記ペプチドをキャリアタンパク質と結合させ、該ペプチドを側鎖として多数持つように抗原を作製してもよい。この場合は、上記ペプチドのN末端に、キャリアタンパク質を結合させるためのシステイン残基を付加することができる。
ペプチドの作製方法は、化学合成でも、大腸菌などを用いる生化学的合成でもよく、これらは当業者に周知の方法を用いることができる。
本発明のペプチドの化学合成を行う場合は、ペプチドの合成の周知方法によって合成することができる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合戍法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(島津製作所製PSSM−8など)を使用してもよい。
反応後は、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などの通常の精製法を組み合わせて本発明のペプチドを精製することができる。
本発明のペプチドの生化学的合成を行う場合は、まず、該ペプチドをコードするDNAを設計し合成する。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得、該組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得ることができる(Sambrook J and Russel D.Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd edition,CSHL Press,2001)。
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミドDNAとしては、大腸菌、枯草菌又は酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージが挙げられる。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
組換えベクターの作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位等に挿入してベクターに連結すればよい。
形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。ヤギ等の哺乳動物を宿主として使用することも可能である。
宿主への組換えベクターの導入方法は公知であり、任意の方法(例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等)が挙げられる。
本発明において、本発明のペプチドは、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
培養法は、当分野において周知である(前記Sambrookら、Molecular Cloningを参照)。
培養後、目的ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりペプチドを抽出する。また、目的ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、ペプチドの単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
本発明においては、in vitro翻訳によるペプチド合成を採用することもできる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。例えば、鋳型DNAとしては、翻訳開始点の上流にプロモーターとリボゾーム結合部位を有している該ペプチドをコードするDNA、あるいは翻訳開始点の上流に転写に必要なプロモーター等が組み込まれたDNAが挙げられる。in vitro翻訳システムは、市販のシステム、例えばExpresswayTMシステム(Invitrogen社)、PURESYSTEM(登録商標;ポストゲノム研究所)、TNTシステム(登録商標;Promega社)などを用いることができる。in vitro翻訳システムによるペプチド合成後は、上記の一般的な生化学的方法を単独又は組み合わせることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
上記のように得られたペプチドに結合させるキャリアタンパク質としては、牛血清アルブミン(BSA)、keyhole limpet hemocyanin(KLH)、human thyroglobulin,ニワトリガンマグロブリンを挙げることができる。
3.GANP
GANPは、酵母Sac3タンパク質とホモロジーを有する210kDの核タンパク質である(WO00/50611号公報)。そして、SAC3はアクチン形成の抑制物質として特徴づけられている。また、GANPは、濾胞樹状細胞(follicular dendritic cells:FDC)により囲まれる胚中心(germinal center,GC)B細胞において選択的にアップレギュレートされ、リン酸化依存性RNAプライマーゼ活性を有し、B細胞の細胞周期調節に関与しているタンパク質である(Kuwahara,K.et al.,(2000)Blood 95,2321−2328)。
本発明においては、GANPタンパク質のアミノ酸配列を、マウスについて配列番号2に、ヒトについて配列番号4に示す。また、GANPタンパク質をコードする遺伝子(GANP遺伝子という)の塩基配列を、マウスについて配列番号1に、ヒトについて配列番号3に示す。なお、上記アミノ酸配列及び塩基配列は、国際公開WO00/50611号公報にも記載されている。
またGANPタンパク質は変異体でもよく、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であってRNAプライマーゼ活性を有するタンパク質であってもよい。例えば、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列のうち1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失しており、1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されており、及び/又は1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記GANPタンパク質と同様のRNAプライマーゼ活性を有するGANP変異型タンパク質を使用することもできる。
「RNAプライマーゼ活性」とは、RNA複製において、5’→3’方向に進む鎖の伸長とは逆向きの鎖(ラギング鎖)を合成する際に、伸長の開始点となる短いプライマーのRNAを合成する酵素活性を意味する。通常はαプライマーゼと呼ばれるDNAポリメラーゼαと結合する分子が用いられるが、胚中心B細胞では第二のプライマーゼであるGANPプライマーゼも誘導されている。
GANPタンパク質は、上記配列番号2若しくは4に示すアミノ酸配列又はこれらの変異型アミノ酸配列のほか、N末端側の一部の配列(例えば配列番号2に示すアミノ酸配列の1〜600番、好ましくは139〜566番)又はこれらの変異型アミノ酸配列を有するものも含まれる。
本発明において、動物に導入するためのGANP遺伝子は、上記GANPタンパク質、N末側の一部の配列、又は変異型タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。そのような遺伝子として、例えば配列番号1又は3に示す塩基配列を有するものを使用することができる。配列番号1又は3に示す塩基配列のうち、コード領域のみの塩基配列であってもよい。また、上記配列番号1又は3に示す塩基配列に相補的な配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、RNAプライマーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することも可能である。
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイズさせた後の洗浄時の条件であって塩(ナトリウム)濃度が150〜900mMであり、温度が55〜75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が250〜450mMであり、温度が68℃での条件をいう。
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等:タカラバイオ社製)を用いて行うことができる。
変異遺伝子の詳細並びに取得方法は国際公開WO00/50611号公報にも記載されている。
なお、抗μ抗体及び抗CD−40モノクローナル抗体でB細胞をin vitro刺激すると、GANP発現のアップレギュレーションのみならず、GANPタンパク質のアミノ酸配列のうち特定のセリン残基(例えば502番目のセリン:S502)のリン酸化を引き起こす。この反応は、GANPのRNAプライマーゼ活性についてキーとなる反応である(Kuwahara,K.et al.(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98,10279−10283)。GANPタンパク質のN末端側のRNAプライマーゼドメインはセリン残基を含んでおり、そのリン酸化はin vitroにおいてCdk2によって触媒される。C末端側ドメインにより、GANPはMCM3複製ライセンシング因子に結合する(Kuwahara,K.et al.,(2000)Blood 95,2321−2328;Abe,E.et al.(2000)Gene 255,219−227)。
なお、GANP遺伝子欠損マウスは胎生致死であるが、CD19−Creマウスとflox−ganp遺伝子のマウスを交配して作製したB細胞に選択的にGANP遺伝子を欠損したconditional targetingマウスを作製して、T細胞依存性抗原であるnitrophenyl(NP)−ニワトリガンマグロブリン抗原で免疫してNP−ハプテン特異的な抗体産生を調べたところ、高親和性抗体産生が著しく障害されており、GANP分子が抗体の親和性亢進に重要な機能をしていることが明らかになった。
4.GANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物
gp120による免疫の対象となる動物は、GANP遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物であり、当該トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、好ましくは、導入したGANP遺伝子をB細胞で発現することができる。
(1)GANP遺伝子とその関連分子
GANP遺伝子とその関連分子で形成される複合体は、遺伝子に変異を誘導するプロセスで直接および間接的に必要な分子である。GANPタンパク質は、遺伝子変異を修復する際に、高親和性の抗体が得られるようにV領域の変異の誘導を促す能力を保有していることから、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、このGANP遺伝子又はその変異遺伝子の導入によって、獲得性免疫の高親和性抗体産生を促進することができる。また、この遺伝子を過剰に発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、速やかに抗原に対する結合力の高い抗体を産生することができる。従って、上記トランスジェニック非ヒト哺乳動物を所定の抗原で免疫することで、従来では得られないような高親和性の抗体を簡便に得ることができる。その結果、難治性の病原微生物や異物を排除できるポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を得ることができる。また、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いてヒト型化抗体を作製することによって、あるいは、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物が産生する抗体のV領域を含む一本鎖抗体を作製することによって、抗体療法の効力を飛躍的に高めることが可能となる。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、GANP又はその変異遺伝子の導入によって、B細胞で高親和性抗体の産生を促進することができ、前記高親和性抗体産生細胞はアポトーシスを誘導するシグナルに対して抵抗性を有する。
(2)GANP遺伝子導入用哺乳動物
本発明における「哺乳動物」とは、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター及びモルモット等の任意の非ヒト哺乳動物を意味し、好ましくはマウス、ウサギ、ラットまたはハムスターであり、特に好ましくはマウスである。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、未受精卵、受精卵、精子およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)の細胞に対して、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより、GANP遺伝子を導入することにより作製することができる。また、上記遺伝子導入方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などに目的とするGANP遺伝子を転移させ、細胞培養、組織培養などに利用することもできる。さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞と公知の細胞融合法により融合させることにより、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製することもできる。
GANP遺伝子を対象動物に導入させる際、当該遺伝子を対象となる動物の細胞で発現させうるプロモーターの下流に連結した遺伝子構築物として導入することが好ましい。具体的には、目的とするGANP遺伝子を有する各種哺乳動物由来のGANP遺伝子を発現させうる各種プロモーターの下流に、GANP遺伝子を連結したベクターを、対象となる哺乳動物の受精卵(例えば、マウス受精卵)にマイクロインジェクションすることによって、目的とするGANP遺伝子を高発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製することができる。
(3)発現ベクター
GANP遺伝子の発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルス又はバキュロウイルスなどの動物又は昆虫ウイルスなどが用いられる。
遺伝子発現の調節を行うプロモーターとしては、たとえばウイルス由来遺伝子のプロモーター、各種哺乳動物(ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)および鳥類(ニワトリなど)由来遺伝子のプロモーターなどを使用することが可能である。
ウイルス由来遺伝子のプロモーターとしては、例えばサイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス等由来遺伝子のプロモーターが挙げられる。
各種哺乳動物及び鳥類由来遺伝子のプロモーターとしては、例えば、アルブミン、インスリンII、エリスロポエチン、エンドセリン、オステオカルシン、筋クレアチンキナーゼ、血小板由来成長因子β、ケラチンK1,K10およびK14、コラーゲンI型およびII型、心房ナトリウム利尿性因子、ドーパミンβ−水酸化酵素、内皮レセプターチロシンキナーゼ、ナトリウムカリウムアデノシン3リン酸化酵素、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインI及びIIA、メタロプロティナーゼ1組織インヒビター、MHCクラスI抗原、平滑筋αアクチン、ポリペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)、βアクチン、α及びβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1及び2、ミエリン基礎タンパク、血清アミロイドPコンポーネント、ミオグロビン、レニンなどの遺伝子のプロモーターが挙げられる。
上記ベクターは、トランスジェニック非ヒト哺乳動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結するターミネターを有していてもよい。その他、GANP遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核生物遺伝子のイントロンの一部をプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間、あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも所望により可能である。
本発明の好ましい態様では、免疫グロブリンプロモーターの下流にGANP遺伝子を連結することにより、あるいはヒト免疫グロブリン遺伝子イントロンエンハンサー部分をGANP遺伝子の5’側に連結することにより、GANP遺伝子をB細胞で選択的に発現させることができる。
(4)GANP遺伝子の導入
受精卵細胞段階におけるGANP遺伝子の導入は、例えば対象の哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに過剰に存在するように確保することが好ましい。遺伝子導入後の作出動物の胚芽細胞においてGANP遺伝子が過剰に存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てにGANP遺伝子を過剰に有することを意味する。そして、遺伝子を受け継いだこの種の動物の子孫は、その胚芽細胞および体細胞の全てにGANP蛋白質を過剰に有する。
本発明においては、導入遺伝子を相同染色体の一方に持つヘテロ接合体を取得し、ヘテロ接合体同士を交配することで導入遺伝子を相同染色体の両方に持つホモ接合体を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が導入されたGANP遺伝子を安定に保持する。そして、GANP遺伝子を過剰に有することを確認して、通常の飼育環境で繁殖継代することができる。
トランスジェニック対象動物が有する内在性の遺伝子とは異なる遺伝子である外来性GANP遺伝子を対象非ヒト哺乳動物(好ましくはマウスなど)、又はその先祖の受精卵(バッククロス)に転移する際に用いられる受精卵は、同種の雄哺乳動物と雌哺乳動物を交配させることによって得られる。
受精卵は自然交配によっても得られるが、雌哺乳動物の性周期を人工的に調節した後、雄哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌哺乳動物の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば、初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG))、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG))を、例えば腹腔注射などにより投与する方法が好ましい。
得られた受精卵に、前述の方法により外来性GANP遺伝子を導入した後、雌哺乳動物に人工的に移植・着床することにより、外来性遺伝子を組み込んだDNAを有する非ヒト哺乳動物が得られる。雌哺乳動物に黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)を投与後、雄哺乳動物と交配させることにより受精能を誘起された偽妊娠雌哺乳動物に、受精卵を人工的に移植・着床させる方法が好ましい。遺伝子を導入する全能性細胞としては、マウスの場合、受精卵や初期胚を用いることができる。また培養細胞への遺伝子導入法としては、トランスジェニック非ヒト哺乳動物個体の産出効率や次代への導入遺伝子の伝達効率を考慮した場合、DNAのマイクロインジェクションが好ましい。
遺伝子を注入した受精卵は、次に仮親の卵管に移植され、個体まで発生し出生した動物を里親につけて飼育させたのち、体の一部(マウスの場合には、例えば、尾部先端)からDNAを抽出し、サザン解析やPCR法により導入遺伝子の存在を確認することができる。導入遺伝子の存在が確認された個体を初代(Founder)とすれば、導入遺伝子はその子(F1)の50%に伝達される。さらに、このF1個体を野生型動物または他のF1動物と交配させることにより、2倍体染色体の片方(ヘテロ接合)または両方(ホモ接合)に導入遺伝子を有する個体(F2)を作製することができる。
あるいは、GANP蛋白質高発現トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、上記したGANP遺伝子をES細胞(embryonic stem cell)に導入することによって作製することもできる。例えば、正常マウス胚盤胞(blastocyst)に由来するHPRT陰性(ヒポキサンチングアニン・フォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を欠いている)ES細胞に、GANP遺伝子を導入する。当該GANP遺伝子がマウス内在性遺伝子上に相同組み換えを起こさせ、インテグレートされたES細胞をHATセレクション法により選別する。次いで、選別したES細胞を、別の正常マウスから取得した受精卵(胚盤胞)にマイクロインジェクションする。得られた胚盤胞を、仮親としての別の正常マウスの子宮に移植する。その後、仮親マウスからキメラトランスジェニックマウスが生まれる。生まれたキメラトランスジェニックマウスを正常マウスと交配させることにより、ヘテロトランスジェニックマウスを得ることができる。そして、ヘテロトランスジェニックマウス同士を交配することにより、ホモトランスジェニックマウスが得られる。
本発明においては、上記したトランスジェニック非ヒト哺乳動物に限らず、その子孫、並びにトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫の一部も本発明の範囲内である。トランスジェニック非ヒト哺乳動物の一部としては、当該トランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫の組織、器官及び細胞などが挙げられ、器官または組織としては、脾臓、胸腺、リンパ節、骨髄あるいは扁桃腺などが挙げられ、細胞としてはB細胞などが挙げられる。
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、B細胞をさらに活性化する哺乳動物と交配することも可能であり、これによりさらに高親和性抗体を産生することが可能である。
最近、MRL/lprマウスでB細胞が末梢のリンパ節での活性化の際に胚中心を経過した後、T細胞領域でさらにV領域の突然変異誘導が亢進していることが報告されている。また、本発明者らもMRL/lprマウスにおいてGANP遺伝子がIgプロモーター、エンハンサーの下流に結合して作製したganpトランスジェニックマウスに見られるのと同等の高い発現が、非免疫の状態で見られることを見出している。このことは、正常では自己の抗原に対しては高親和性の抗体はできないのに対して、この自己免疫疾患マウスでは、GANP分子の異常な活性化が起こるために、自己の抗原に対しての高親和性抗体が産生されることとなる可能性が示唆される。
そこで、上記B細胞をさらに活性化する動物として、自己免疫疾患マウスであるとされるMRL/lpr,NZB,(NZBxNZW)F1などを用いれば、さらに高い変異誘導を期待できる。
以上のことを利用したMLR/lprマウスのGANPトランスジェニックマウスを作製することによって、スーパー高親和性抗体産生マウスを作出できる可能性がある。すなわち、本発明のGANP遺伝子過剰発現トランスジェニック非ヒト哺乳動物とさまざまな自己免疫疾患モデル動物との交配により、高親和性抗体を産生できる哺乳動物を作製することができる。
5.HIV gp120に対する高親和性抗体の作製
(1)高親和性抗体
本発明において「抗体」とは、抗原であるgp120のアミノ酸配列第308−330番目のペプチドに結合し得る抗体分子全体(ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良い)またはその断片を意味する。また、本発明の抗体のアイソタイプは特に限定されず、例えば、IgG(IgG、IgG、IgG、IgG)、IgM、IgA(IgA、IgA)、IgD又はIgEである。
本発明では、抗原に対する反応性が高い抗体のことを高親和性抗体という。「高親和性」とは、抗体が抗原と結合する結合能が高いことを意味し、抗体の結合能が一般のマウスなどの動物を用いて作製した抗体と比較して高く、また逆に当該抗原から解離することが遅い抗体のことをいう。これはエピトープに対して、立体的に密接して結合する能力が高く特異的であることを意味すると共に、抗体が結合することによってエピトープのみならずその抗原の構造の変換をきたすことによって結果的に強力な活性、例えば毒素中和活性、HIVの感染性阻止、不活性化などの生物活性を示すことも包含している。
抗体の結合能(親和性)は、スキャッチャード解析やBiacoreと呼ばれる表面プラズモン共鳴センサーにより、解離定数(KD)、解離速度定数(Kdiss)、結合速度定数(Kass)として測定することができる。Biacore装置は、センサーチップ、マイクロ流路系、SPR検出系の3つの技術を統合して分子結合の強さ、速さ、選択性を測定するというものであり、標識を使わずにリアルタイムで生体分子の検出と複数個の分子間での相互作用のモニタリングを行うことができる。Biacore装置としては、例えばBiacore3000、Biacore2000、BiacoreX、BiacoreJ、BiacoreQ(いずれもBiacore社)などが挙げられる。
上記Biacoreによって、抗体の親和性を示すパラメーター、すなわち解離定数(KD)、解離速度定数(Kdiss)[1/Sec]及び結合速度定数(Kass)[1/M.Sec]を測定する。
抗体は、解離定数(KD値)が小さい値であるほど親和性が高いという点で好ましい。抗体の結合能(親和性)は、Kdiss及びKassの2つのパラメーターにより決定され、
KD[M]=Kdiss/Kass
により表わされる。
抗原の種類等複数の要因によって、得られる抗体の親和性は異なるが、KD値は1×10−9(M)以下であることが好ましく、1.5×10−10(M)以下であることがより好ましく、1.0×10−10(M)以下(特に9.9×10−11(M)以下)であることがさらに好ましい。
本発明においては、作製された抗体が上記いずれかの作用又は性質を発揮する抗体であるときに、高親和性であると判断される。
本発明の抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体及び活性フラグメント)は、種々の方法のいずれかによって製造することができる。このような抗体の製造法は当該分野で周知である。
(2)ポリクローナル抗体の作製
上記の通り作製した抗原をGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物に投与する。哺乳動物は特に限定されものではなく、例えばラット、マウス、ウサギなどを挙げることができるが、GANPトランスジェニックマウス、又はGANPトランスジェニックウサギが好ましい。
抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントを用いないときは、5〜50mgであり、アジュバントを用いるときは0.5〜2mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント、トレハロースダイマイコレート(TDM)、リポ多糖(LPS)、シリカアジュバント、市販の免疫賦活薬等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から6〜60日後に酵素免疫測定法(ELISA[enzyme−linked immunosorbent assay]又はEIA[enzyme immunoassay])放射性免疫測定法(RIA[radioimmuno assay])等で抗体価を測定し、所望の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
(3)モノクローナル抗体の作製
(a)抗体産生細胞の採取
前記のように作製した抗原を、GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。抗原の動物一匹あたりの投与量はアジュバントを用いないときは、0.05〜2mgであり、アジュバントを用いるときは0.05〜2mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント、BCG、トレハロースダイマイコレート(TDM)、リポ多糖(LPS)、シリカアジュバント等が挙げられるが、抗体の誘導能等の関係から、FCAとFIAとを組み合わせて使用することが好ましい。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫動物は、抗原の初回免疫後、さらに、追加免疫を数回行い、適当な日数を経過した後に部分採血を行い、上記方法で抗体価を測定することが好ましい。本発明の方法で産生される抗体は高親和性抗体であるため、上記免疫は初回のみで十分である可能性がある。免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは1〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞などが挙げられるが、脾臓細胞、又は局所リンパ節細胞が好ましい。
上記のようにして得られる本発明の高親和性抗体産生細胞も本発明に含まれる。
(b)細胞融合
例えば、GANPトランスジェニックマウスを用いた場合、ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えば、P3−X63.Ag8(X63)、P3−X63.Ag8.U1(P3U1)、P3/NS I/1−Ag4−1(NS1)、Sp2/0−Ag14(Sp2/0)等のマウスミエローマ細胞株を挙げることができる。ミエローマ細胞の選択に当たっては、抗体産生細胞との適合性を適宜考慮する。
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地などの動物細胞用培地中で、1×10〜1×10個/mlの抗体産生細胞と2×10〜2×10個/mlのミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在の下で融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトン(D)のポリエチレングリコールなどを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
(c)ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI−1640培地などに適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、gp120に反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、ELISA、EIA、RIAなどによってスクリーニングすることができる。
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行う。gp120に強い反応性を示す抗体であって、親和性を示す値がKD=1×10−9(M)以下である抗体を産生するハイブリドーマを選択し、樹立する。
(d)モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマを培養し、得られる培養物からモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法、又は腹水形成法等を採用することができる。「培養」とは、上記ハイブリドーマをシャーレやディッシュで生育すること、または上記ハイブリドーマを下記のように腹腔内で増殖することを意味する。また、「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくはその破砕物、又は腹水のいずれをも意味するものである。
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI−1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×10個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
(e)モノクローナル抗体の結合領域の利用
モノクローナル抗体はHIV抗原に結合することで感染阻止、およびHIVウイルスの中和、排除を行う活性を有するが、その際にはH鎖ではどのV領域遺伝子を用いているか、どのD領域の遺伝子、J領域遺伝子を用いているか、さらにN配列が挿入されているか、またどのL鎖のV領域遺伝子を用いているか、J領域遺伝子を用いているかが高親和性抗体作製の基盤になる。しかし、結合親和性に関しては、これらに加えて、末梢のリンパ組織で誘導されるV領域遺伝子の体細胞突然変異の程度によって大きく変化する。ここではモノクローナル抗体の抗原結合に関わる領域、すなわちH鎖とL鎖のそれぞれ3つのCDR領域の構造によって、体細胞突然変異の程度が決まる。したがって、本発明で得られる高親和性の結合領域の情報を用いれば、ヒトのEBウイルスでトランスフォームした記憶B細胞株で抗HIV抗体産生細胞を樹立して、そのV領域にここで得られている情報を直接遺伝子操作技術で導入することによって高親和性抗体を得ることも可能である。
(4)抗体断片、ヒト型化抗体又はヒト化抗体
上記の抗体の断片及びV領域の一本鎖抗体も本発明の範囲内である、抗体の断片としては、前述したポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab’)、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilized Fv)、あるいはdAb(single domain antibody)等が挙げられる。一本鎖抗体は、V(L鎖可変領域)とV(H鎖可変領域)をリンカーでつないだ構造を持つ。
本発明の高親和性抗体は、ヒト型化抗体やヒト抗体でも良い。これらの抗体は、免疫系をヒトのものと入れ換えた哺乳動物を用いて、該哺乳動物を免疫して、通常のモノクローナル抗体と同様に直接ヒト抗体を作製することができる。
ヒト型化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(complementarity determining region;CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものを、CDRはマウス由来のものからなる再構成した可変領域を作製する。
次にこれらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である。
ヒト抗体は、一般にV領域の抗原結合部位、すなわち超過変領域(Hyper Variable region)についてはその特異性と結合親和性が問題となるが、構造的にどの動物で作製してもかまわない。一方V領域のその他の部分や定常領域の構造は、ヒトの抗体と同じ構造をしていることが望ましい。ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。
(5)抗体の特性
本発明のGANPトランスジェニック非ヒト哺乳肋物より産生される抗体は、以下の(i)〜(iv)の少なくとも1つの性質を有する。
(i)HIVの外被膜にある分子量120kDの糖タンパク質抗原gp120と結合して、HIVを中和する。
(ii)HIVに感染された細胞の表面に結合することによって、感染された細胞と感染されないT細胞により誘発される合胞体の形成を阻止する。
(iii)gp120(308−330)の領域の少なくとも一部のエピトープを認識する。
(iv)gp120(308−330)領域の少なくとも一部に対し、高親和性(KD=1×10−9(M)以下)に結合する。
合胞体とは、感染細胞が非感染細胞を取り込んで一つの細胞になることをいう。in vitroでHIVを細胞と培養すると、合胞体が形成されることがあり、このような合胞体は、生存できずに死滅する。HIVの中でも合胞体を作りやすいSI型HIVの感染者では、CD4リンパ球の減少が早く、エイズへの進展が早く起こることが知られている。
6.医薬組成物
本発明の高親和性抗体は、AIDSの病原であるHIVを抗原として、その活性を中和させる作用を有するため、AIDSの治療又は予防用医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物は、本発明の高親和性抗体又はその断片を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。
本発明の薬剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該薬剤に含有される活性成分である高親和性抗体の種類などにより異なるが、通常成人一人当たり、一回につき10μgから1000mg、好ましくは10μgから100mgの範囲で投与することができるが、この範囲に限定されるものではない。体液量は、体重を60kgとすると5リットルと産出できる。抗体の有効な濃度はin vitroの実験では5〜50μg/mlである場合が多く、単純に計算すると25〜250mgの抗体が少なくとも数日間体内で存在することが望ましい。
例えば、注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの割合で、好ましくは50μg〜50mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
7.HIV検出キット
本発明の高親和性抗体は、疾患の診断、治療又は予防のための薬剤として有用である。
本発明の抗体を用いたHIV感染の検出は、被験者から採取した検体、例えば唾液や血液等と本発明の抗体又はその断片とを抗原抗体反応によって結合させ、結合した抗体量により検体中の目的とする抗原の量を測定することにより行う。抗体量の検出は、公知の免疫学的測定法に従って行えばよく、例えば、免疫沈降法、免疫凝集法、標識免疫測定法、免疫比懸濁法などを用いることができる。特に、標識免疫測定法が簡便且つ高感度という点で好ましい。標識免疫測定法では、検体中の抗体価は標識抗体を用いて直接検出した標識量で表すほか、既知濃度あるいは既知抗体価の抗体を標準液として相対的に表してもよい。すなわち、標準液と検体を測定計により測定し、標準液の値を基準にして検体中の抗体価を相対的に表すことができる。標識免疫測定法としては、公知の測定法、例えばELISA法、EIA法、RIA法、蛍光免疫測定法(Fluoroimmunoassay:FIA)、化学発光免疫測定法(Luminescence immunoassay)などを任意に利用することができる。
また、本発明の高親和性抗体を利用することにより、AIDS治療薬の薬効評価を高感度に行うことができる。本発明の高親和性抗体を利用した薬効評価方法は、AIDS患者あるいはヒトリンパ細胞を移入して作製したAIDSモデル動物(SCID−Huマウス)に対して薬剤を投与後、これら生体中のHIVあるいは各モデル動物に対する免疫不全ウイルスの量を本発明の抗体を用いて検出し、その量を比較することにより、生体中の抗原の量を通してAIDS治療薬としての薬効を評価することができる。その際、従来の抗体に比べて2倍から100倍の感度を有することが期待できる。
本発明の高親和性抗体は、各種疾患診断用キットの形態で提供することができる。該キットは、本発明の診断方法や本発明の薬効評価方法に使用することができる。また、輸血製剤や、生体サンプルのHIVウイルス感染有無のチェックをするための、高感度で、敏速で、簡便なキットとして使用できる。本発明のキットは以下の(a)及び(b)から選ばれる少なくとも一つ以上を含む。
(a)本発明の抗体又はその標識物
(b)前項(a)記載の抗体又はその標識物を固定した固相化試薬
ここで、抗体の標識物とは、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、または化学発光化合物によって標識されたものを意味する。
本発明のキットは、上記の構成要素の他、本発明の検出を実施するための他の試薬、例えば標識物が酵素標識物の場合は、酵素基質(発色性基質等)、酵素基質溶解液、酵素反応停止液、あるいは検体用希釈液等を含んでいても良い。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
本実施例は、通常免疫に用いられることの多いBalb/cマウス、野生型(WT)マウス及びGANPトランスジェニック(Tg)マウスの3種のマウスに、免疫抗原としてHIVの中和活性が期待できるHIV24NL43(308−330)のペプチドをキャリアー蛋白に結合したものを免疫した。それぞれのマウスの中から各2匹を用いて細胞融合を行い、ELISA法、Biacoreによる測定にてスクリーニングし、陽性ハイブリドーマを得た。さらに各ハイブリドーマから得られた精製抗体を用いて、ELISA法およびBiacoreを用いた解析を実施した。
その結果、GANPトランスジェニック(Tg)マウスから得られたモノクローナル抗体(3クローン)は、かなりの高親和性モノクローナル抗体であり、親和性の指標となる解離定数は高いものではKD(KD=k diss/k ass)=9.90×10−11(M)であった。
【実施例1】
GANPトランスジェニック(Tg)マウスの作製
マウスへの導入用遺伝子は、pLGベクターのEcoRIサイトに5.3kbのマウスGANP遺伝子を挿入して作製した。このベクターはヒト免疫グロブリンイントロンエンハンサー領域(2kb EcoRIフラグメント)を持ち、B細胞での強力な発現を行う、特異的ベクターである。この遺伝子を直線化してマウスに遺伝子導入を行った。マウスGANP全長cDNAを含む線状化したpLG vector(Koike,M.et al.Int.Immunol.7,21−30(1995))をC57BL/6マウスの受精卵にマイクロインジェクションした。マウスの尾のゲノムDNAおよび以下のプライマー及び反応液を用いて導入遺伝子の存在についてスクリーニングした(図1、上パネル)。図1上パネルにおいて、5.3kb付近のバンドはGANP遺伝子のものである。

反応液組成:

反応条件:
[98℃ 5sec;59℃ 5sec;72℃ 10sec]×35サイクル
4℃
GANP mRNAの発現が亢進しているか否かは、RT−PCRで確認した。
全RNAは、脾臓又は脾臓B細胞からTrizol(Invitrogen)を用いて抽出し、RT−PCRは、2種のプライマー1−5’及び1−3’を用いて行い、cDNAを合成した(Kuwahara,K.et al.,Blood 95,2321−2328(2000))。GANP転写物はアガロースゲル電気泳動により検出した。β−アクチン転写物は対照として用いた。
その結果、GANPトランスジェニックマウスは、B細胞でGANPの発現の増加を示し(図1、下パネル)、骨髄、脾臓及びリンパ節の細胞の表層マーカー分析において、B系細胞の通常の分化を示した。
【実施例2】
抗体の作製
(1)材料
(a)動物:Balb/cマウス、野生型(WT)マウスとGANPトランスジェニック(Tg)マウス
(b)免疫抗原:HIV24NL43 ペプチドKLHコンジュゲーション
(c)ELISA抗原:HIV24NL43 ペプチド(配列:CNNTRKSIRI QRGPGRAFVTIGKI(配列番号9))
(d)ミエローマ細胞:P3−X63.Ag8.U1
(e)2次抗体:HRP標識抗マウス抗体IgG・A・M
(2)方法
上記3種のマウスの各5匹に、免疫抗原としてNL43ペプチド(キャリアータンパク質:KLH)を、2週間おきに3回免疫し、3回免疫後採血抗血清を用いて抗体価をELISA法にて測定した。
この中から、力価の高いマウス各2匹から抗体産生細胞(脾細胞)を採取し、脾細胞とP3U1ミエローマ細胞との細胞融合を実施した。GANP−Tgマウスの脾細胞数が0.2×10/ウェルになるようにまきこみ、それぞれ、Balb/cマウス:5448クローン、野生型(WT)マウス:1888クローン、GANPトランスジェニック(Tg)マウス:2016クローンをHAT培地にて培養した。
HAT培養9日後の培養上清を用いて、NL43ペプチド(1マイクロg/mL)を固相化抗原としてELISA法を実施した。GANP−TgマウスおよびWTの培養上清の母集団のそれぞれから、ELISAの結果にて490nm吸光度1.50以上のクローンを選出し、HT培地にてクローニングを実施した。
HT培養9日後の培養上清を用いて、NL43ペプチド(1マイクロg/mL)を固相化抗原としてELISA法を実施した結果、Balb/cマウスは3クローン(クローン名:B1−10,B2−24,B2−27)、野生型(WT)マウスは9クローン(クローン名:W1−2,W1−7,W1−8,W1−10,W1−21,W1−43,W1−45,W1−63,W1−84)、GANPトランスジェニック(Tg)マウスは8クローン(クローン名:G1−22,G1−68,G1−124,G1−165,G1−181,G2−231,G2−10,G2−25)のハイブリドーマを樹立した。
このうち、G2−25は「Anti−NL43mono.Clone No.G2−25ハイブリドーマ細胞」と称し、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に、2004年2月25日付でFERM BP−08644としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
GANP−Tgマウス、WTのそれぞれのクローンをRPMI培地にて培養し、さらに、無血清培地であるSFM培地にて培養し、Protein G精製によって、抗ペプチドモノクローナル精製抗体を作製した。
【実施例3】
親和性測定
上記実施例2で作製した各モノクローナル抗体を用いで、以下の評価検討を実施した。
抗体の親和性を評価するにあたり、ELISA法とBiacoreによる解析を実施した。
まず、ELISA法は、HIV24NL43 ペプチド 1マイクロg/mLをそれぞれ固相化抗原として用い、室温にて1時間固相化した。PBSTween20洗浄後、2.0%skimmilkにてブロッキングを実施した。さらにPBSTween20洗浄後、評価する抗ペプチドモノクローナル抗体(0.457〜1マイクロg/mL)を用いて、室温にて1時間反応させた。次に、サンプルをPBSTween20洗浄後、HRP標識抗マウスIgG・A・Mと室温にて1時間反応させた。さらに、PBSTWeen20洗浄し、オルトフェニレンジアミン(OPD)にて5分間発色させ、2N硫酸を月いて反応を停止した。
吸光度は、ELISA PLATE READERを用いて、490nmにて測定した。
ELISAの結果を図2に示す。
GANP−Tgマウスを用いることにより、極めて高い結合能を有する3つの抗体が作製された(図2、吸光度1.4〜2.1付近)。これらのモノクローナル抗体のクローン名は、吸光度の高い順にG1−181、G2−10、G2−25である。
次に、Biacoreを用いて物理化学的結合能を調べた。
Biacoreによる解析は、HIV24NL43ペプチドをリガンドとしてBiacoreセンサーチップに結合させたものに、アナライト溶液として、抗ペプチドモノクローナル抗体を用いて、それぞれの結合速度定数(k ass)、解離速度定数(k diss)、そして親和性の指標となる解離定数KD(KD=k diss/k ass)を算出した。KDが低い程、親和性は高いと評価される。
抗体の親和性の総合評価として、各クローンの解離定数とELISAの結果を合わせて、図3に示す。図3において、クローンと解離定数との関係は以下の通りである。

抗体の結合親和性を検討するにはBiacoreによる感度測定による方法が現在のところ最も有効であるが、この際の解離定数は単位時間当たりに結合する抗体の結合速度定数を結合した抗体の解離定数で割った数値として便宜的に算出される。抗体の活性はこのペプチドに対する親和性に加えて、抗体がどれだけ短時間で抗原に結合しうるかも重要な要素である。生体内でできるだけ速やかにウイルスと結合し、その結果ウイルス抗原の分子構造に変化を加えて、一層強固な結合状態に入ることも期待できる。G1−181クローンは解離定数算出ではそれほど高いとはいえないものの、結合定数のプロファイルでは最も急速に多くの抗原分子と結合するという点で優れている。
通常、モノクローナル抗体作製のために用いるBalb/cマウスから得られた抗体は、解離定数KD=4.97×10−6〜5.68×10−9(M)で、低親和性でかつ少数の抗体しか得ることができず、陰性コントロールの野生型(WT)マウスにおいても、解離定数KD=2.81×10−5〜3.11×10−9(M)の範囲までしか得られず、限界があった。
これらに対して、GANPトランスジェニック(Tg)マウスにおいては、解離定数KD=9.90×10−11(M)という高親和性抗体(G2−10)を得ることができ、この親和性は、Balb/cマウスのクローンの57倍、野生型(WT)マウスの31倍も高親和性であるといえる。
【実施例4】
モノクローナル抗体とNL43エンベロープとの結合
上記実施例2で作製した抗HIVペプチド(NL43)モノクローナル抗体が実際のNL43(HIVのエンベロープタンパク質)に対してin vitroで結合能を有するかを明らかにするために、結合アッセイを実施した。
(1)材料
(a)抗HIV(NL43)精製抗体
実施例2で作製した抗体を用いた。具体的には、以下に示す抗体を使用した。
Balb/cマウス:3クローン(クローン名:B1−10,B2−24,B2−27)、
野生型(WT)マウス:9クローン(クローン名:W1−2,W1−7,W1−8,W1−10,W1−21,W1−43,W1−45,W1−63,W1−84)
GANPトランスジェニック(Tg)マウス:8クローン(クローン名:G1−22,G1−68,G1−124,G1−165,G1−181,G1−231,G2−10,G2−25)
また、対照として70Z/3 2−28、0.5β及びanti−CD19を用いた。
(b)プラスミドベクター
pLP−IRES2−EGFP(Clontech社)、pLP−NL4−3 envelope−EGFPを使用した。本ベクターを用いることにより、単一のRNAからの目的遺伝子(NL43)とEGFP両方の翻訳が可能となるので、蛍光を示す細胞のほぼ100%はNL43を発現する。
(c)遺伝子導入試薬
Effectene Transfection Reagent(QIAGEN)を使用した。
(d)2次抗体
APC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BD Pharmingen)を使用した。
(2)方法
結合アッセイは、エンベロープ(NL43)の発現をモニターするために、ヒト胎児腎癌細胞株(293T細胞)にGFPを導入し、その細胞に抗HIV(NL43)精製抗体とAPC標識2次抗体を反応させ、細胞表面を染色する。次にフローサイトメトリーによりtwo−color解析を行い、その蛍光強度によりエンベロープへの結合能をみるものである。
GFP遺伝子の細胞への導入は、ヒト胎児腎癌細胞株(293T細胞)を10cmディッシュに400000個播き、1日培養した後、Effectene Transfection Reagentを用い、pLP−IRES2−EGFP(Clontech社)又はpLP−NL4−3−EGFPをそれぞれ5μg導入した。36時間培養した後、細胞を集め細胞表面染色を行った。細胞表面染色は、各10μg/mLの抗HIV(NL43)精製抗体と、APC標識ヤギ抗マウスIgG抗体を50倍希釈したものを用いて、それぞれ氷上にて30分反応させた。
各抗HIVモノクローナル抗体のエンベロープへの結合能を、FACS Caliburを用いて平均蛍光強度(MFI)を算出することにより評価した。
(3)結果
結合アッセイの結果を図4及び図5に示す。図4及び5は、GFP陽性(+)と陰性(−)のそれぞれにゲートをかけた場合の平均蛍光強度(MFI)を棒グラフにしたものである。棒グラフは、pLP−NL4−3 envelope−EGFPを導入させた細胞において、GFP陽性でのAPC平均蛍光強度(MFI)が高いほど、エンベロープに有効に結合することを示す。結合アッセイの結果、GANPトランスジェニック(Tg)マウスにおいて作製したモノクローナル抗体(例えばG1−22、G1−68、G2−10、G2−25クローン)は、エンベロープへの結合能を有することがわかった。
【実施例5】
モノクローナル抗体の中和活性
実施例4で使用した精製抗体を用いて、実際にそのモノクローナル抗体がHIV−1ウイルスの感染を阻止する能力を有するかを確認するために、ヒトCD4陽性細胞における中和活性実験(ウイルス感染阻止実験)を行った。
(1)材料
(a)抗HIV(NL43)精製抗体
実施例4で用いた各抗HIV(NL43)精製抗体を使用した。また、対照として70Z/3 2−28及び0.5βを用いた。
(b)HIV−1保存株
非働化した牛胎児血清10%を添加したRPMI−1640培地にてPM1細胞を増殖させ、−80℃で保存したものを使用した。
(c)βガラクトシダーゼ検出キット
βガラクトシダーゼ検出キットは、Galacto−star(TROPIX)を使用した。エイズウイルス感染阻止(中和活性)実験において、本キットは、CD4細胞(MAGI/CCR5)から産生されるβガラクトシダーゼを化学発光基質(Reed−Muench方法)を用いて検出することによって、CD4細胞の生死(生細胞数)を判定するものである。
(2)方法
CD4細胞(MAGI/CCR5)を1日培養した後、一定のエイズウイルスを加えると、エイズウイルスにより感染した細胞からは、βガラクトシダーゼは検出されなくなる。このシステムにおいて、抗体の中和活性の測定は、エイズウイルス添加直前に、効力が異なる抗HIV(NL43)精製抗体を上記MAGI/CCR5細胞にあらかじめ添加しておき、エイズウイルスを添加したときにエイズウイルスの感染を阻止できるか否かを、βガラクトシダーゼの産生量を指標として評価するものである。
この感染測定システムは、ウイルス感染に必要なウイルス量を高感度に決定することを可能とする。MAGI/CCR5細胞による予備検討により、添加するウイルス量は、ウイルスの50%終末点(TCID50)を目安として、500と決定した。
細胞をHIVに感染させるために、MAGI/CCR5細胞を1×10/ウエルになるように96プレートで培養した。1日後、各抗体50μLを添加し、37℃で30分間インキュベートした。続いて10μg/mLのDEAE−dextranに反応させたHIV−1溶液50μLを添加し、インキュベートした。添加したそれぞれの抗体濃度は、0.5、5又は50μg/mLの3濃度で実施した。2日後、βガラクトシダーゼ活性をGalacto−star(TROPIX)を用いて測定した。
(3)結果
中和活性実験の結果を図6及び図7に示す。各抗体の中和活性を測定した結果、GANPトランスジェニック(Tg)マウスにおいて作製したG2−10及びG2−25クローンは、各濃度において表1に示すHIV中和活性を持つことがわかった。

実際に治療用抗体として利用する際には、微量で感染阻止する能力を有することが重要となるため、G2−10及びG2−25による上記の値は、非常に低濃度でHIV感染防止能力を示し、有効なHIV治療薬として利用可能と考えられる。
中和活性測定の陽性コントロールにはHIVエンベロープそのものを免疫して作製されたとして用いている抗体(0.5β)を用いた(第2797099号特許)。0.5βの0.5μg/mLにおいての中和活性能力は86.5±3.0に及ぶが、上記2クローン、特にG2−25におけるin vitro感染阻止能力は、その抗体(0.5β)と同等またはそれ以上であるといえる。
これに対して、野生型(WT)マウスにおいて作製した9クローンの抗体の中和活性は、低濃度0.5μg/mLにおいてほとんど中和活性が認められなかった。
実施例4及び5の結果は、GANPトランスジェニック(Tg)マウスで作製した抗エイズペプチド(NL43)モノクローナル抗体が、実際にin vitroでHIV−1ウイルスエンベロープに対して結合し(実施例4)、その結合が強力な中和活性(感染阻止力)を有することを示している(実施例5)。更に重要なことは解離定数KD値(9.90×10−11)を示すことから、一度結合するとその後長期間ウイルスと結合し続けることのできる高親和性抗体グループであるという点である(実施例3)。
このように強力なウイルス中和効果を持ち、抗原と解離する速度が著しく低い高親和性モノクローナル抗体は、これまでに多くの研究室で試みられてきたHIV−1ウイルスの遺伝子配列から推定するペプチド配列を基に作製した通常のモノクローナル抗体作製技術では得ることのできない優れたものである。野生型C57BL/6マウスに免疫して作製したモノクローナル抗体では50μg/mlの濃度で初めて高い中和活性を示すのに対して、GANPトランスジェニック(Tg)マウス由来のG2−10,G2−25モノクローナル抗体は両者ともわずか0.5μg/ml濃度においてそれらに匹敵する中和活性を発揮している。単純計算ではタンパク質濃度あたり100倍の中和活性を示し、また、その結合が10オーダーの長期間に渡って持続することが期待できる。
これらのマウス抗HIV−1モノクローナル抗体は、(a)ウイルスペプチド配列に特異的な高親和性抗体であること、(b)実際にin vitroでHIV−1ウイルスエンベロープに対して結合すること、(c)in vitroでのヒトCD4陽性細胞へのHIV−1ウイルス感染を阻止できること、(d)従来法と異なる遺伝子変異マウスによって作製していることから新たなエピトープに対する抗体である可能性があること、(e)この新たなVH領域は更にバイオテクノロジーによる遺伝子改変を加えることによって更に強力な抗体を作製する基盤情報を提供するという長所を有している。
GANPトランスジェニック(Tg)マウスを用いてエイズウイルスの感染阻止作用を持つ高親和性抗体が速やかに得られるということは、これまでの研究成果とその応用の計画が正当であることを証明したものである。従って、本発明は、感染症に脅かされている現代において画期的な治療法開発につながる発明である点で極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号7:プライマー
配列番号8:プライマー
【産業上の利用可能性】
本発明により、GANP遺伝子トランスジェニック非ヒト哺乳動物から得られる、高親和性抗HIV抗体、及び該抗体を含む医薬組成物が提供される。本発明の抗体は、KD=1.0×10−9(M)以下の高親和性を有しているため、本発明の抗体を含む医薬組成物は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療薬として使用することができる。
さらに、本発明により、該抗体を産生する細胞、及び該抗体を利用したHIVの検出キットも提供される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVのgp120糖タンパク質と結合し、かつ、解離定数がKD=1.0×10−9(M)以下の抗体又はその断片。
【請求項2】
gp120糖タンパク質のうち第308−330番目のアミノ酸配列の少なくとも一部を認識することができる請求項1記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
第308−330番目のアミノ酸配列が配列番号6に示されるものである請求項2記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
受託番号がFERM BP−08644であるハイブリドーマ細胞により産生される、HIVのgp120糖タンパク質に対するモノクローナル抗体又はその断片。
【請求項6】
請求項4又は5記載の抗体又はその断片のV領域を含む、ヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片。
【請求項7】
配列番号6に示すアミノ酸配列のうち少なくとも一部を含むポリペプチドを抗原として免疫したGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫から採取される、高親和性抗体産生細胞。
【請求項8】
受託番号がFERM BP−08644である、HIVのgp120糖タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞。
【請求項9】
GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその子孫を、配列番号6に示すアミノ酸配列のうち少なくとも一部を含むポリペプチドを抗原として免疫し、得られる動物又は子孫から抗体を採取することを特徴とする、抗HIV抗体又はその断片の製造方法。
【請求項10】
請求項7記載の細胞とミエローマ細胞との融合細胞、又は請求項8記載のモノクローナル抗体産生細胞を培養し、得られる培養物から抗体を採取することを特徴とする、抗HIV抗体又はその断片の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体又はその断片、及び請求項6記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つを含有する医薬組成物。
【請求項12】
後天性免疫不全症候群の治療薬である請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体若しくはその断片、又は請求項6記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体若しくはそれらの断片と、HIVのgp120糖タンパク質とを反応させることを特徴とするHIVの検出方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗体又はその断片、及び請求項6記載のヒト型化抗体若しくはヒト抗体又はそれらの断片からなる群から選択される少なくとも1つを含有するHIV検出用キット。

【国際公開番号】WO2005/058963
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516264(P2005−516264)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003046
【国際出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(801000050)財団法人くまもとテクノ産業財団 (38)
【Fターム(参考)】