説明

折板屋根受具

【目的】折板屋根の流れ方向で且つ長手方向が長尺な屋根板材において、その長手方向に熱伸縮が発生しても、良好に対応できる折板屋根受具とすること。
【構成】幅方向両側に2つの立上り案内面21,31がテーパー状に対向配置された前方側案内部2と、前方案内部2と同一構成で且つその長手方向端部の直交線に対して線対称に配置された後方案内部3とを有するハウジングAと、幅方向両側に弾性伸縮可能に突出する前方付勢部5と後方付勢部6が長手方向の前方側及び後方側に設けられたスライド部材Bと、屋根面固定用部材7とからなること。前方案内部2には、スライド部材Bの前方付勢部5が弾性付勢しつつ当接し、後方案内部3には、後方付勢部6が弾性付勢しつつ当接し、ハウジングA内にてスライド部材Bが長手方向に移動可能としてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折板屋根の流れ方向で且つ長手方向が長尺な屋根板材において、その長手方向に熱伸縮が発生しても、良好に対応できる折板屋根受具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折板屋根の流れ方向で且つ長手方向が長尺な屋根板材において、その長手方向に熱伸縮が発生しても、その熱伸縮に対応するための機能を具備した受具が種々開発されている。その折板屋根において、山部と谷部とが連続する折板屋根では、外気温度の変化によって、屋根板材の長手方向が長尺な場合、その長手方向に沿って伸縮する。
【0003】
この伸縮量は、夏等の高温時には極めて大きく、熱歪が発生することにより、特に馳部等の連結部の吊子及び支持具による固定箇所では、熱伸縮による大きな歪が現れて、きしみ音が出る音鳴り現象が発生していたので、これを解消すべく、熱伸縮に対応して適宜可動する可動型屋根受具(スライド型固定金具ともいう。)が開発されており、この種のものとして特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0004】
該可動型屋根受具は、施工時の温度条件並びに、完成後の使用状態における伸び側、縮み側の変位を吸収するため、確実にスライド代を確保する必要がある。しかし、施工時、スライド中央位置に吊子をセットした(センタリング)状態で可動型屋根受具を取り付けても、その後屋根葺き作業等を行うと、その段階で可動型屋根受具の吊子が勝手にスライドしてしまい、不適切な(伸縮吸収代が無い)位置で屋根板材に固定されることがしばしば生じ得る。
【0005】
この場合、伸縮代のない可動型屋根受具に熱伸縮力が集中し、可動型屋根受具が破損するおそれも生じていた。折板屋根の屋根板材によって施工された屋根で、特に大形建造物においては、従来の可動型屋根受具を使用しても、そのスライド性能が十分発揮されないことがあった。また、固定型屋根受具(拘束型固定金具ともいう。)に対して、屋根板材の過大な熱伸縮による荷重が働き、前記固定型屋根受具には損傷が引き起こされることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−255648
【特許文献2】特開2009−203718
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような破損については次の要因が考えられる。その折板屋根板材には、熱伸縮力以外に、屋根板材自身の重量、積雪荷重、風荷重、地震荷重等の様々の負荷が掛かる。これらの負荷が掛かった状態では、円滑にスライドしないことが生じ得る。また建物の供用期間中にはこれらの負荷により、スライド性能が低下することが考えられる。一般には熱伸縮に対応できるような可動型屋根受具については、特許文献1及び特許文献2に開示されているが、これらの特許文献1,2では上記の問題点や或は施工時、スライド中央位置から吊子がずれてしまうという不都合な点は解決されていない。
【0008】
また、一般に、二重屋根に使用される固定型屋根受具の方が熱伸縮による負荷は大きい。これは、二重屋根を使用する建物では、空調等を備えることが一般であり、そのために、躯体や二重屋根の下葺き用の屋根板材の温度条件の変動が小さく、上葺き用の屋根板材の温度変化がそのまま熱伸縮負荷として断熱具にかかることになる。また、上葺き屋根板材の下に断熱材があることで、熱が上葺き屋根板材の下に逃げにくくなるため、上葺き屋根板材の温度変動が大きくなり、可動型屋根受具の開発の要望がある。
【0009】
金属製の折板屋根の熱伸縮による場合には、その長さ位置、例えば、先端の50mの位置と、その箇所より20m内側では、伸縮量が相違し、伸縮量に応じたばね定数となって、これを変えるには現実的には困難である。そこで、どの位置でも、同じカが作用するものが望まれていた。その役割をなす原理機構として、ローラマイトばねが存在していることが判明しているが、如何にして応用するかは重要な課題であった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的等)は、折板屋根の流れ方向としての屋根板材の長手方向が長尺で、その長手方向に熱伸縮が発生しても、それを良好に追従することができ、特に、伸縮量の変化にかかわらず、どの位置でも、同じ力が作用するように開発し、その力で抵抗力を持たせるようにすることを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、幅方向両側に2つの立上り案内面がテーパー状に対向配置された前方側案内部と、該前方案内部と同一構成で且つその長手方向端部の直交線に対して線対称に配置された後方案内部とを有するハウジングと、幅方向両側に弾性伸縮可能に突出する前方付勢部と後方付勢部が長手方向の前方側及び後方側に設けられたスライド部材と、屋根面固定用部材とからなり、前記前方案内部には、前記スライド部材の前方付勢部が弾性付勢しつつ当接し、後方案内部には、前記後方付勢部が弾性付勢しつつ当接し、前記ハウジング内にて前記スライド部材が長手方向に移動可能としてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。
【0012】
請求項2の発明を、請求項1において、前記前方案内部と前記後方案内部とは、幅方向がハウジングの長手方向中間箇所で最大としてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1において、前記前方案内部と前記後方案内部とは、幅方向がハウジングの長手方向中間箇所で最小としてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項4の発明を、請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記前方付勢部及び前記後方付勢部の先端にガイドシューが設けられてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。請求項5の発明を、請求項1,2,3又は4の少なくとも1項において、前記ハウジングは1層屋根の構造物上に設置可能としてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。
【0014】
請求項6の発明を、請求項1,2,3又は4の少なくとも1項において、前記ハウジングは、2層屋根とする下部屋根に下部取付具が具備されてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。請求項7の発明を、請求項1,2,3,4,5又は6の少なくとも1項において、前記屋根面固定用部材としての吊子が設けられ、前記スライド部材上に固着されてなる折板屋根受具としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明においては、ハウジングに対してスライド部材が長手方向に移動することで、前方案内部側で前方付勢部によって抵抗力が増加又は減少する。後方案内部側では前記前方案内部とは反対に抵抗力の増加に対しては減少し、減少に対しては増加する。これによって、スライド部材は、前方付勢部と後方付勢部との弾性力の総和が常時一定となる。これによって、折板屋根の熱伸縮に応じて良好に追従することができる利点がある。特に、本発明の折板屋根受具では、定荷重無反発バネに近い値となるような構成部材にできる最大の利点がある。
【0016】
請求項2の発明では、前方案内部と後方案内部との連続する空隙部の構成を簡単にすることができる。請求項3の発明では、前方案内部と後方案内部との連続する部位の幅方向を最小とすることにより、ハウジングの長手方向中間箇所の肉厚を大きくすることができ、力学的強度を強くすることができる。
【0017】
請求項4の発明では、前方付勢部及び後方付勢部の先端は円滑面を有するガイドシューが設けられてなることにより、スライド部材の長手方向移動を円滑にすることができる。請求項5の発明では、1層屋根用としての折板屋根受具として提供できる。請求項6の発明においては、2層屋根の下部屋根の馳部に良好に取付ができる折板屋根受具にできる。請求項7の発明では、屋根部位に取付が簡易にできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態の一部断面にした側面図、(B)は(A)のX1−X1矢視断面図、(C)は(A)のY1−Y1矢視断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の分解斜視図である。
【図3】(A)は本発明の第1実施形態のスライド部材が前方側に移動した作動状態を示す横断平面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は(B)の(イ)部の力の状態を示す拡大図、(D) は本発明の第1実施形態のスライド部材が後方側に移動した作動状態を示す横断平面図である。
【図4】(A)は本発明の第2実施形態の横断平面図、(B)は本発明の第3実施形態の横断平面図、(C)は第1実施形態の変形例である。
【図5】(A)は本発明において1層タイプの折板曲形成屋根に対応する構成の正面略示図、(B) は本発明において2層タイプの折板曲形成屋根に対応する構成の正面略示図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1及び図3に示すように、主に、ハウジングA,スライド部材B,屋根面固定用部材7とから構成されている。また、本発明において、方向を示す文言が使用され、長手方向とは、本発明における折板屋根受具にて後述する折板屋根を構成する屋根板材を支持した状態における屋根板の長手方向と同一方向である。幅方向とは、長手方向に直交する方向のことである。長手方向及び幅方向については、図1に示されている。
【0020】
ハウジングAは、略直方体状に形成されたハウジング本体1の内部に空隙部Sが形成されている(図1参照)。ハウジング本体1は、強固な材質であることが必要であり、具体的には金属材である。該空隙部Sには、前方案内部2と、後方案内部3とが形成されている〔図1(A)参照〕。
【0021】
前方案内部2は、ハウジングAの長手方向に沿って対向する2つの立上り案内面21,21がテーパー状に対向配置されている。それぞれの勾配は角度θとする。同様に、ハウジングAの長手方向に沿って前記後方案内部3は、対向する2つの立上り案内面31,31がテーパー状に対向配置されている(図2参照)。ここで、前方案内部2と後方案内部3における前方及び後方とは、構成を理解し易くするために付された名称である。
【0022】
前方案内部2と後方案内部3とは、長手方向に沿って対称となるように配置されている。具体的には、ハウジングAの長手方向中間箇所を中心として、長手方向に直交する線を対称線Qとして前方案内部2と後方案内部3とが配置されている〔図1(B)参照〕。前方案内部2を構成する立上り案内面21,21と、後方案内部3を構成する立上り案内面31,31とはハウジング本体1の空隙部Sの内壁面がそのまま使用されたものである。
【0023】
前方案内部2の幅方向の両立上り案内面21,21は、前述したように長手方向に沿って、テーパを構成し対向配置されたものである。すなわり、両立上り案内面21,21は、幅方向において左右対称となるそれぞれ傾斜角度θを有している。また両立上り案内面21,21は、その最小間隔が、後述するスライド部材が収納可能な間隔を有している。前方案内部2は、ハウジングAにおいて長手方向の一端と他端が平行となる台形状の空隙を構成する。同様に後方案内部3は、ハウジングAにおいて長手方向の一端と他端が平行となる台形状の空隙を構成する。
【0024】
そして、前述したように、ハウジング本体1において、前方案内部2と後方案内部3とがハウジング本体1の長手方向中間箇所を直交する線を対称線Qとして線対称となるように配置され、前方案内部2と後方案内部3とが連通して一体的な空隙を構成する〔図1(B)参照〕。
【0025】
前方案内部2の一方側の立上り案内面21と、後方案内部3の立上り案内面31とは、ハウジング本体1の長手方向中間箇所で2つの面が屈曲して連続形成されるものであり、同様に、他方側の立上り案内面21と、後方案内部3の立上り案内面31についても、ハウジング本体1の長手方向中間箇所で2つの面が屈曲して連続形成されるものである。
【0026】
さらに、空隙部Sを構成する前方案内部2と後方案内部3は、前述したように、長手方向に沿って連続形成されたものである。空隙部Sの平面構成は、2つの実施形態が存在し、その第1実施形態としては、前方案内部2と後方案内部3とが幅方向がハウジングAの長手方向中間箇所(略中間箇所も含む)で最大となるものである。すなわち、2つの同一形状の台形の長辺側同士接続した形状となり、前方案内部2と後方案内部3との長手方向に沿って繋がる部分が最大幅となるように構成される実施形態である。
【0027】
また、空隙部Sの形状の第2実施形態として、前方案内部2と後方案内部3とは、幅方向がハウジングAの長手方向中間箇所で最小としてなる形状も存在する〔図4(A)参照〕。長手方向に沿って連続する箇所が最小幅となるように構成される実施形態とが存在する。すなわち、2つの同一形状の台形の短辺側同士接続した形状となり、前方案内部2と後方案内部3との長手方向に沿って繋がる部分が最小幅となるように構成される実施形態である。
【0028】
また、第3実施形態として、前方案内部2を構成する立上り案内面21,21とは略平行(平行も含む)とし、後方案内部3を構成する立上り案内面31、31についても略平行(平行も含む)としたものが存在する〔図4(B)参照〕。つまり、両立上り案内面21,21及び両立上り案内面31,31のテーパーを限りなくゼロにしたものである。
【0029】
ハウジングAのハウジング本体1は、幅方向において2部材となるように2分割されており(図2参照)、その2部材を接合してボルト等の固着具にて連結固着される。このような構成によって、ハウジングAとスライド部材Bとの組立が容易になる。また、ハウジングAは、2部材としないで、1部材として形成してもかまわない。さらに、ハウジングAにスライド部材Bを収納した後、該スライド部材BがハウジングA内に収納された状態を維持するためにカバー材11が装着される。
【0030】
該カバー材11は、長手方向に沿って溝孔11aが形成され、後述する屋根面固定用部材7とスライド部材Bとを連結するためのボルトが貫通する〔図1(A),(C)及び図2参照〕。さらに、ハウジング本体1の底部を構成する底板12が具備されている。該底板12は、ハウジング本体1の底部を構成すると共に、受具の脚部13,13が固着される。
【0031】
スライド部材Bは、直方体状のスライドベース4と、幅方向両側に弾性伸縮可能に突出する前方付勢部5と後方付勢部6とから構成される。スライドベース4は、長手方向に延在する長方形平面を有する略直方体状のブロックで、金属にて形成されたものである。該スライドベース4には、その上面で且つ長手方向中間箇所に、後述する屋根面固定用部材7が装着されるための装着孔41aが形成されている。
【0032】
該装着孔41aは、内螺子が形成されている。さらにスライドベース4の装着孔41aが形成された箇所には屋根面固定用部材7が載置される補助突出部42が形成されている。該補助突出部42は、スライドベース4の長手方向の中間箇所から水平方向に突出する直方体状の部位であり、屋根面固定用部材7を安定した状態で装着させる役目をなす。
【0033】
スライドベース4の幅方向両側に弾性伸縮可能に突出する前方付勢部5と後方付勢部6が長手方向の前方側及び後方側に設けられている〔図1(A),(B)参照〕。前方付勢部5は、バネ51と当接部材52とから構成される。後方付勢部6は、バネ61と当接部材62とから構成される。前記バネ51及びバネ61は、コイルバネが使用される。スライドベース4の長手方向の前方側及び後方側には前方取付孔43が形成され、後方側には後方取付孔44が形成されている。前方付勢部5のバネ51と、後方付勢部6のバネ61とは、同一長さで且つ同一の弾性力を有するものである。
【0034】
前方取付孔43には、前方付勢部5を構成するバネ51が挿通され、該バネ51の軸方向両端に当接部材52,52が装着されている。同様に、後方取付孔44には、後方付勢部6を構成するバネ61が挿通され、該バネ61の軸方向両端に当接部材62,62が装着されている。前方取付孔43及び後方取付孔44に挿通されるバネ51及びバネ61は、固定されるものではなく、それぞれに挿通された孔を摺動することができるようになっている〔図1(B),(C)参照〕。なお、バネ51及びバネ61の軸方向は、本発明における折板屋根受具の幅方向と一致する〔図1(B),(C)参照〕。
【0035】
そして、スライドベース4の前方取付孔43に装着された幅方向両側に突出するバネ51とその軸方向両端に装着された当接部材52,52は、均一のバネ定数を有するようになっている。同様に、スライドベース4の後方側に装着された幅方向両側に突出するバネ61とその軸方向両端に装着された当接部材62,62は、均一の弾性力を有するようになっている。
【0036】
スライド部材Bは、ハウジングAの空隙部Sに収納され、前記スライド部材Bの前方付勢部5の当接部材52,52が前方案内部2の両立上り案内面21,21に弾性付勢しつつ当接する〔図1(B)参照〕。また、後方付勢部6の当接部材62,62が後方案内部3の両立上り案内面31,31に弾性付勢しつつ当接する。
【0037】
さらに、当接部材52及び当接部材62には、ガイドシュー53及びガイドシュー63が装着される。該ガイドシュー53が立上り案内面21に当接し、ガイドシュー63が立上り案内面31に当接する。ガイドシュー53及びガイドシュー63は、立上り案内面21及び立上り案内面31に対して平行状態で当接する。ガイドシュー53及びガイドシュー63は、合成樹脂等により形成される。
【0038】
スライド部材Bは、ハウジングAの空隙部Sを長手方向に沿って所定範囲で前後に往復移動することができる。そして、空隙部Sの第1実施形態では、スライド部材Bが空隙部Sの長手方向中間の位置(中立位置ともいう)から前方に移動する場合には、前方付勢部5の両当接部材52,52は、前方案内部2の両立上り案内面21,21が前方に向かって間隔が次第に狭くなるので、バネ51が縮む。
【0039】
そのため、当接部材52,52を介して両立上り案内面21,21を弾性付勢により押圧することとなり、スライド部材Bの前方移動に対する抵抗付勢力Ftとして作用する〔図3(B)参照〕。また、後方付勢部6の両当接部材62,62は、後方案内部3の両立上り案内面31,31が前方に向かって間隔が次第に広くなるので、バネ61が伸びる。そのため、当接部材62,62を介して両立上り案内面31,31を弾性付勢により押圧することとなり、スライド部材Bの前方移動に推進付勢力Fsとして作用する〔図3(B)参照〕。
【0040】
また、スライド部材Bが空隙部Sの長手方向中間の位置(中立位置ともいう)から後方に移動する場合には、前方付勢部5の両当接部材52,52は、前方案内部2の両立上り案内面21,21が後方に向かって間隔が次第に広くなるので、バネ51が伸びる。
【0041】
そのため、当接部材52,52を介して両立上り案内面21,21を弾性付勢により押圧することとなり、スライド部材Bの後方移動に対する推進付勢力Fsとして作用する。また、後方付勢部6の両当接部材62,62は、後方案内部3の両立上り案内面31,31が後方に向かって間隔が次第に狭くなるので、バネ61が縮む。そのため、当接部材62,62を介して両立上り案内面31,31を弾性付勢により押圧することとなり、スライド部材Bの後方移動に抵抗付勢力Ftとして作用する〔図3(A)参照〕。
【0042】
このように、スライド部材BはハウジングAに対して、長手方向に沿って前後方向に移動するときに、抵抗付勢力Ftと推進付勢力Fsとが同時に作用する。そして、スライド部材BがハウジングAの空隙部Sのいずれの位置においても、抵抗付勢力Ftと推進付勢力Fsの総和とは同一である。
【0043】
抵抗付勢力Ft及び推進付勢力Fsによって、スライド部材Bにはかかる力を以下に説明する。ただし、抵抗付勢力Ftと推進付勢力Fsとは、方向が反対であるが、力の多きさは同一であるため、抵抗付勢力Ftのみについて説明する。
【0044】
前記抵抗付勢力Ftについては、次の式にて示される。
〔Ft=K・x=K・(L1−L1’)/2〕となる〔図3(A),(B)及び(C)参照〕。
【0045】
さらに、抵抗付勢力Ftによる立上り案内面21に沿う分力をfrとすると、
〔fr=μ・N=μ・Ft・cosθ=μ・K・cosθ・(L1−L1’)/2〕
前記「μ」は、当接部材52に装着されたガイドシュー53(及びガイドシュー63)と、前方案内部2(及び後方案内部3)の立上り案内面21(立上り案内面31)との間における摩擦係数である。
【0046】
したがって、前記スライド部材Bの移動方向にかかる抵抗力を移動抵抗力fr1 とすると、fr1=2・fr・cosθ=μ・K・cosθ・(L1−L1’)となる〔図3(B)参照〕。
【0047】
この移動抵抗力fr1に対して移動推進力fr2については、
fr2=2・fr・cosθ=μ・K・cosθ・(L2−L2’)となる。
fr1とfr2とは、同一の大きさであり、前述した軸方向に対して直交する方向で、且つ互いに反対方向に作用する力のことである。また前記軸方向とは、前述した前方及びバネ61の軸方向のことである。そして、前記軸方向に直交する方向とは、本発明における折板屋根受具の長手方向のことであると共に支持される屋根板材9の長手方向に一致する方向のことである。
【0048】
すなわち、スライド部材BがハウジングAの空隙部S内に中立の位置のときには、前方付勢部のバネ51及びバネ61の弾性力は同一で、両立上り案内面21,21及び両立上り案内面31,31には、同一の弾性力が作用して、停止状態にある。そして、屋根を構成する屋根板材9には、外気温度によって、熱伸縮が生じ、屋根面固定用部材7を介してスライド部材Bが長手方向の前方側又は後方側に移動しようとする。
【0049】
そして、スライド部材Bが前方側に移動した場合には、スライド部材Bの前方側では、移動抵抗力fr1が作用し、スライド部材Bの前方側移動に対して抵抗する力が発生し、また後方側では、移動推進力fr2が作用し、スライド部材Bの前方側移動を補助する力を発生する。移動抵抗力fr1と移動推進力fr2とは、同一の大きさで作用する方向が反対となり、打消し合う状態となり、スライド部材Bは、抵抗付勢力Ftと推進付勢力Fsが均衡の取れた状態になり、常時適正な摩擦力を備えたものにできる。なお、図3(D) は、本発明の折板屋根受具において、スライド部材BがハウジングAの後方側に移動した作動状態を示す横断平面図である。
【0050】
前記スライド部材Bのベース平坦面41には、屋根面固定用部材7が装着される。該屋根面固定用部材7を馳締用吊子とした場合では、取付基部71と馳締舌片部72とからなる。馳締舌片部72は、図1に示すように、首部72aの上端から馳締屈曲部72bが形成されている。該馳締屈曲部72bは、延長方向を長手方向として形成されている。前記首部72aは、取付基部71から略垂直状に立ち上がり形成されている〔図1(C)参照〕。
【0051】
折板屋根を構成する屋根板材9は、主板91の幅方向両側部分より立上り側部92,92が形成され、両立上り側部92,92の両端より頂部93,93が形成され、該頂部93,93の一方の端から下馳部94が形成され,他方の頂部93の端には上馳部95が形成されている〔図5(A)参照〕。前記屋根板材9は、金属製であり、具体的には金属板からロール成形等によって成形されたものである。
【0052】
そして、このような屋根板材9,9 …が複数並設され、隣接する屋根板材9,9 同士の下馳部94と上馳部95との間に、前記屋根面固定用部材7の馳締舌片部72における馳締屈曲部72bが介在され、前記下馳部94と前記上馳部95と前記馳締屈曲部72bを介して馳締結合され馳締外囲体が施工される。
【0053】
具体的には、前記屋根面固定用部材7の馳締屈曲部72bの内方側(又は下面側)に下馳部94が巻き込まれ、前記馳締屈曲部72bの外方側(上面側)に上馳部95が巻き付けるように覆う構造となる。屋根面固定用部材7の長手方向と、屋根板材9の長手方向とは一致している。すなわち、屋根板材9の熱伸縮における伸縮方向と、屋根面固定用部材7の馳締屈曲部72bの長手方向とが一致しているものである。前記下馳部94と上馳部95との総称として馳部ということもある。
【0054】
次に、本発明の折板屋根受具が2層屋根に使用される構成を説明する。前記ハウジングAには、2層屋根の下部屋根を構成する屋根板材9,9 …に取付可能な下部取付具8が具備されたものである。下部取付具8は、二層タイプの下部屋根の馳部を跨ぐ取付筐体部81に締付ボルト82が備わったものである〔図5(B)参照〕。そして、前記下部屋根の馳部に取付筐体部81が跨がるようにして載置され、前記締付ボルト82が締め付けられることによって、取付筐体部81が前記馳部に固着される。さらに、前記屋根面固定用部材7を介して、上部屋根が施工される。図5(B)において、符号100は、下部屋根を構成する構造材であり、101は前記下部屋根を支持する受具であり、102は屋根板材9,9を支持する吊子である。
【符号の説明】
【0055】
A…ハウジング、2…前方案内部、21…立上り案内面、3…後方案内部、
31…立上り案内面、B…スライド部材、4…スライドベース、5…前方付勢部、
53…ガイドシュー、6…後方付勢部、63…ガイドシュー、
7…屋根面固定用部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両側に2つの立上り案内面がテーパー状に対向配置された前方側案内部と、該前方案内部と同一構成で且つその長手方向端部の直交線に対して線対称に配置された後方案内部とを有するハウジングと、幅方向両側に弾性伸縮可能に突出する前方付勢部と後方付勢部が長手方向の前方側及び後方側に設けられたスライド部材と、屋根面固定用部材とからなり、前記前方案内部には、前記スライド部材の前方付勢部が弾性付勢しつつ当接し、後方案内部には、前記後方付勢部が弾性付勢しつつ当接し、前記ハウジング内にて前記スライド部材が長手方向に移動可能としてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項2】
請求項1において、前記前方案内部と前記後方案内部とは、幅方向がハウジングの長手方向中間箇所で最大としてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項3】
請求項1において、前記前方案内部と前記後方案内部とは、幅方向がハウジングの長手方向中間箇所で最小としてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項4】
請求項1,2又は3のいずれか1項の記載において、前記前方付勢部及び前記後方付勢部の先端にガイドシューが設けられてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項5】
請求項1,2,3又は4の少なくとも1項において、前記ハウジングは1層屋根の構造物上に設置可能としてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項6】
請求項1,2,3又は4の少なくとも1項において、前記ハウジングは、2層屋根とする下部屋根に下部取付具が具備されてなることを特徴とする折板屋根受具。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5又は6の少なくとも1項において、前記屋根面固定用部材としての吊子が設けられ、前記スライド部材上に固着されてなることを特徴とする折板屋根受具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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