説明

抜け毛および若白髪の治療および予防のための組成物

サイムリン、サイモシンアルファ−1、サイモシンベータ−4のファミリーの、有効量の胸腺ペプチド、および医薬品賦形剤、医薬品希釈剤または医薬品担体を含有する、ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための組成物。初期の脱毛、抜け毛、脱毛症の治療および予防のための方法および医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜け毛および若白髪の治療および予防のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胸腺は、胸腺を除かれた動物が著しい免疫欠乏症を発症して死亡するという1960年代の研究までは、よく理解された組織ではなかった。その後、胸腺はT細胞性免疫の発現と調節に関与することが知られている。胸腺は、胸腺ペプチドと呼ばれる、様々な非細胞のホルモン様生成物の分泌を通して胸腺の調節機能を発揮するようである。
【0003】
サイムリン(Thymulin)は、亜鉛と結合して活性化し、その血漿中濃度が概日リズムに従い、朝早い時間がピークとなるノナペプチド(nonapeptide)である(Safieh−Garabedianら、Thymulin and its role in immunomodulation;J.Autoimmunity 1992,5:547−555; Mocchegianiら、Presence of links between zinc and melatonin during the circadian cycle in old mice:effects on thymic endocrine activity and on survival;J.Neuroimmunology 1988,86:111−122)。サイムリンがウイルス性疾患、慢性痛および癌の患者に好都合に作用することを最近の研究は示した。このように、サイムリンは、神経内分泌系と免疫系との間の伝達の役割を担うのではないかと推測されている。サイムリンはまた、ACTH,PRL,GH,TSHおよびLHの下垂体からの放出に影響を及ぼす(Hadleyら、Thymulin stimulates corticotrophin release and cyclic nucleotide formation in the rat anterior pituitary gland;Neuroimmunomodulation 1997,4:62−9; Brown OAら、Thymulin stimulates prolactin and thyrotropin release in an age−related manner;Mechanisms of Ageing and Development 1998,104:249−62; Brown OAら、Growth hormone−releasing activity of thymulin on pituitary somatotropes is age dependent;Neuroendocrinology 1999,69:20−27; Goya RGら、Thymulin and the neuroendocrine system、Peptides 2004,25:139−142)。しかしながら、下垂体ホルモンそれ自身が、サイムリンの分泌を調節するという証拠がある(Dardenneら、Neuroendocrine control of thymic hormonal production. Prolactin stimulates in vivo and in vitro the production of thymulin by human and murine thymic epithelial cells, Endocrinology 1989,125:3−12)。
【0004】
サイモシン(Thymosin)アルファ−1(TA1)は、28aaペプチドで、リンパ球分化を調節し、抗体およびサイトカインの生産の刺激に関わっている。つまり、内皮細胞遊走、血管形成および創傷治癒に関わっている(Corderoら、Thymic Peptides and Preparations:an Update;Arch lmmun Therap Exp 1999,47:77−82; Malinda KMら、Thymosin alpha 1 stimulates endothelial cell migration, angiogenesis and wound healing;J Immunol 1998,160:1001−6)。さらに、提案されている治療の応用は、耐感染性の増進ならびにウイルス感染および癌の治療を含んでいる(Hannappelら、The Thymosins:Prothymosin alpha, parathymosin, and beta−thymosins:structure and function;Vitamins and Hormones 2003,66:257−296)。
【0005】
サイモシンベータ−4(TB4)は、ほとんどのヒト細胞中に高濃度で存在し、血小板中がもっとも高濃度である。赤血球はサイモシンベータ−4(β4)を含有していない(Huff Tら、beta−Thymosins, small acidic peptides with multiple functions;Intern. J Biochem & Cell Biol 2001,33:205−220)。多くの生物学的効果がこのペプチドについて報告されているが、最も知られているのは、G−作用重合(G−action polymerization)の阻害および細胞遊走の刺激である(Huff Tら、beta−Thymosins, small acidic peptides with multiple functions;Intern. J Biochem & Cell Biol 2001,33:205−220)。サイモシンベータ−4は、創傷治癒を促進し、炎症反応を減少させ、ならびに再上皮形成(reepithelialisation)および血管形成を増加させることが分かっている(Malinda KMら、Thymosin beta4 accelerates wound healing;J Invest Dermatol. 1999,113:364−8, Philp Dら、Thymosin beta4 promotes angiogenesis, wound healing, and hair follicle development, Mech Ageing and Develop 2004,125:113−115)。サイモシンベータ−4は、周期に関連して、毛包幹細胞中に発現し、ラットの発毛を刺激することが示された(Philp Dら、Thymosin beta4 increases hair growth by activation of hair follicle stem cells;The FASEB J Express 記事 doi:10.1096/fj.03−0244fje published オンライン発行 2003年12月4日)。WO03/063775は、発毛促進と脱毛症治療のための、サイモシンベータ−4およびそのペプチドの使用を開示している。
【0006】
胸腺ペプチドは強力な生物学的メディエイター(biological mediators)であることは明らかである。それにもかかわらず、胸腺ペプチドの効果の全容はまだ分かっていない。それゆえに、最先端技術が問題としてそれ自身を示しており、胸腺ペプチドに基づいた、さらなる組成および治療的応用を提供することが本発明の目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/063775号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Safieh−Garabedianら、Thymulin and its role in immunomodulation;J.Autoimmunity 1992年,5:547−555
【非特許文献2】Mocchegianiら、Presence of links between zinc and melatonin during the circadian cycle in old mice:effects on thymic endocrine activity and on survival;J.Neuroimmunology 1988年,86:111−122
【非特許文献3】Hadleyら、Thymulin stimulates corticotrophin release and cyclic nucleotide formation in the rat anterior pituitary gland;Neuroimmunomodulation 1997年,4:62−9
【非特許文献4】Brown OAら、Thymulin stimulates prolactin and thyrotropin release in an age−related manner;Mechanisms of Ageing and Development 1998年,104:249−62
【非特許文献5】Brown OAら、Growth hormone−releasing activity of thymulin on pituitary somatotropes is age dependent;Neuroendocrinology 1999年,69:20−27
【非特許文献6】Goya RGら、Thymulin and the neuroendocrine system、Peptides 2004年,25:139−142
【非特許文献7】Dardenneら、Neuroendocrine control of thymic hormonal production. Prolactin stimulates in vivo and in vitro the production of thymulin by human and murine thymic epithelial cells, Endocrinology 1989年,125:3−12
【非特許文献8】Corderoら、Thymic Peptides and Preparations:an Update;Arch lmmun Therap Exp 1999年,47:77−82
【非特許文献9】Malinda KMら、Thymosin alpha 1 stimulates endothelial cell migration, angiogenesis and wound healing;J Immunol 1998年,160:1001−6
【非特許文献10】Hannappelら、The Thymosins:Prothymosin alpha, parathymosin, and beta−thymosins:structure and function;Vitamins and Hormones 2003年,66:257−296
【非特許文献11】Huff Tら、beta−Thymosins, small acidic peptides with multiple functions;Intern. J Biochem & Cell Biol 2001年,33:205−220
【非特許文献12】Malinda KMら、Thymosin beta4 accelerates wound healing;J Invest Dermatol. 1999年,113:364−8
【非特許文献13】Philp Dら、Thymosin beta4 promotes angiogenesis, wound healing, and hair follicle development, Mech Ageing and Develop 2004年,125:113−115
【非特許文献14】Philp Dら、Thymosin beta4 increases hair growth by activation of hair follicle stem cells;The FASEB J Express 記事 doi:10.1096/fj.03−0244fje published オンライン発行 2003年12月4日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抜け毛および若白髪の治療および予防のための、有効量の胸腺ペプチド、特に、サイムリン、サイモシンアルファ−1(TA1)およびサイモシンベータ−4(TB4)を含有する医薬品組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態においては、医薬品組成物は、退行期抑制による脱毛および休止期脱毛の治療のために、有効量のサイムリンおよび/またはサイモシンアルファ−1を含有する。さらに、その医薬品組成物は、慢性休止期脱毛、非瘢痕性脱毛症、脱毛症、抜け毛、急性の抜け毛、非瘢痕性脱毛および初期の脱毛(balding)の治療に適用される。
【0011】
本発明の他の実施形態では、ヒト毛包色素沈着および/またはメラニン顆粒生産を刺激するための、有効量のサイムリンを含有する医薬品組成物が提供される。
【0012】
またさらに別の実施形態では、本開示は、毛包細胞を毛周期における成長期段階に、より長く維持するための、有効量のサイムリンおよび/またはサイモシンアルファ−1を含有する医薬品組成物を提供する。
【0013】
好ましい実施形態においては、本開示は、そのように適用すれば通常、全身性副作用がより少ないので、有効量の胸腺ペプチドが局所適用のために処方されることを意図している。さらに好ましい実施形態は、有効量の胸腺ペプチドが経口投与用に処方される組成を意図している。心理的緊張の場合には、処方の静脈への適用が意図される。好ましい投薬量はまだ検討されなければならないが、有効濃度および好ましい投薬量を実施例から得ることができる。本発明の胸腺ペプチドは、局所適用において、1pg/mL〜1000ng/mL、好ましくは10pg/mL〜100ng/mLの濃度で組成物中に存在しなければならないことが意図されている。経口投与または静脈注射、皮下注射、筋肉内注射もしくは腹腔内注射のための組成物は、休止期脱毛、初期の脱毛、抜け毛、脱毛症の治療のために、投薬量として1pmol/kg〜1nmol/kgの範囲の投与となるように胸腺ペプチドを含有することになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、分析試料#1の実験的設計の概略説明図である。
【図2】図2は、分析試料#2の実験的設計の概略説明図である。
【図3】図3は、分析試料#3の実験的設計の概略説明図である。
【図4】図4(A)−図4(C)は、分析試料#1における、サイムリン、TA1およびTB4の各濃度によって達成された平均の伸びを、0日(day 0)と比較して百分率で示すグラフである。
【図5】図5は、分析試料#2における、サイムリンおよびTB4によって達成された平均の伸びを、0日(day 0)と比較して百分率で示すグラフである。
【図6】図6(A)−図6(C)は、分析試料#3における、サイムリン、TA1およびTB4によって達成された平均の伸びを、0日(day 0)と比較して百分率で示すグラフである。
【図7】図7は、サイムリン、TA1およびTB4によって得られ、イメージJ(image J)によって測定されたグループの平均相対黒ずみ度(the mean relative darkening)を示す線図である。
【図8】図8(A)−図8(C)は、分析試料#1および#3における、各種毛包調合剤による、毛周期の異なるステージでの毛包の割合を示す線図である。
【図9】図9は、Ki67陽性細胞の平均百分率と測定の標準誤差(SEM)を示す線図である。
【図10】図10は、抗サイムリン抗体(anti−thymulin antibodies)を使用する(希釈 1:1000)、ヒト真皮(頭皮)および表皮の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図11】図11は、抗サイムリン抗体を使用する(希釈 1:1000)、ヒト毛包(基底膜に近接する表皮)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図12】図12は、抗サイムリン抗体を使用する(希釈 1:1000)、毛幹の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図13】図13は、抗サイモシンアルファ−1抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト真皮および表皮(髄質、皮質および外毛根鞘)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図14】図14は、抗サイモシンアルファ−1抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト毛包の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図15】図15は、抗サイモシンアルファ−1抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト毛幹(内毛根鞘)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図16】図16は、抗サイモシンベータ−4抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト真皮および表皮(外毛根鞘)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図17】図17は、抗サイモシンベータ−4抗体を使用する(希釈 1:500)、基底膜に近接する表皮および真皮(一部分のみ)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率200倍。
【図18】図18は、抗サイモシンベータ−4抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト毛包(細胞質)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率100倍。
【図19】図19は、抗サイモシンベータ−4抗体を使用する(希釈 1:500)、ヒト毛包の近位部(髄質(pulp)中のマトリクス細胞)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率200倍。
【図20】図20(a)、図20(b)は、プロラクチンの毛包の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。
【図21】図21(a)、図21(b)は、各々サイムリンを100pg/mL(a)、10ng/mL(b)処置されたプロラクチンの毛包の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。
【図22A】図22Aは、ウサギポリクローナル(polyclonal)抗サイモシン抗体を使用する(希釈 1:100、イムンディアグノスティック(Immundiagnostik) Ak 9510)、アセトン固定後のヒト毛幹の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率40倍。
【図22B】図22Bは、ウサギポリクローナル抗サイモシン抗体aa75−109を使用する(希釈 1:1000、イムンディアグノスティック Ak 9540)、アセトン固定後のヒト毛幹(毛根鞘)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率40倍。
【図22C】図22Cは、ウサギポリクローナル抗サイモシン抗体aa101−109を使用する(希釈 1:200、イムンディアグノスティック Ak 9540)、アセトン固定後のヒト毛幹(毛根鞘)の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率40倍。
【図23】図23(A)、図23(B)は、ポリクローナルウサギ抗ヒトサイモシン抗体(polyclonal rabbit anti−human thymosin antibodies)を使用する(希釈 1:100)、ヒト真皮および表皮(頭皮)ならびに毛包の免疫組織学的染色を示す電子顕微鏡写真のデジタル画像である。倍率40倍。および相当する対照である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、ヒト脱毛および白髪の治療および予防のための方法および組成物に関する。特に、本開示は、ファミリーサイムリン(family thymulin)、サイモシンアルファ−1およびサイモシンベータ−4の胸腺ペプチドの有効量、ならびに医薬品賦形剤、医薬品希釈剤または医薬品担体を含有する組成物を提供する。いくつかの好ましい実施形態において、本開示は、毛包細胞を毛周期における成長期状態により長く維持するための、そして特に、退行期抑制による脱毛および休止期脱毛の治療のための、有効量のサイムリンおよび/またはサイモシンアルファ−1を含有する医薬品組成物を提供する。それゆえ、本開示は、慢性休止期脱毛、非瘢痕性脱毛症、脱毛症、抜け毛、急性の抜け毛、非瘢痕性脱毛および初期の脱毛(balding)の治療のための、サイムリンおよびTA1を含有する医薬品組成物を包含する。いくつかの好ましい実施形態において、本開示は、ヒト毛包色素沈着および/またはメラニン顆粒生産を刺激するための、有効量のサイムリンを含有する医薬品組成物を提供する。
【0016】
サイモシンベータおよび局所的に適用される胸腺抽出物は、ラットの発毛を促進することが長く主張されてきたが、我々は、それらがヒト頭髪の発毛を刺激できることは全く証明されていなかったことに注目する。それゆえ、我々は、胸腺ペプチドがヒトの発毛および/または色素沈着を変えるかどうかを、インビトロで研究してきた。その代わりに、テストされたすべての胸腺ペプチド、サイムリン、サイモシンアルファ−1(TA1)、サイモシンベータ−4(TB4)は、無血清条件下で組織培養された(organ−cultured)ヒト頭髪毛包(HF)の毛幹生産を、顕著に抑制することを我々は発見した。しかしながら、サイムリンまたはTA1で処置された毛包は、賦形剤で処置された対照の毛包より長く成長期に留まった。それにもかかわらず、TA1で処置された毛包は、毛母体のケラチン生成細胞の増殖が、対照の毛包より少ないことが示された。定量的マッソン−フォンタナ組織化学は、さらに、サイムリンで処置された毛包は、対照より顕著に多くのメラニン顆粒を有することを明らかにした。TA1およびTB4は、HFメラニン形成に影響を及ぼさなかった。三つの胸腺ペプチドすべての免疫組織化学は、ヒト頭皮部位において特異な免疫活性を示すように思われた。サイムリンおよびTA1は、表皮中およびHF内毛根鞘中(特に、ヘンレ層(Henle’s layer)および髄質、毛球の末梢側)に見られる最も強い免疫活性を持つ同様のパターンに従う。TB4免疫活性は、より多くの広がりを持ち、毛包(HF)の外毛根鞘、皮膚鞘(dermal sheath)および皮膚乳頭もまた含んだ。毛母体ケラチン生成細胞のみが、三つの胸腺ペプチドすべてに対して陰性であるように思われた。さらに我々は、サイムリンがヒト毛包色素沈着を刺激することを開示する。ここで、これらの総合データは、胸腺ペプチドがヒト毛包生物学を変えることの最初の明確な証拠を提供し、ならびに、実際の毛幹形成もまた阻害されるけれども、サイムリンおよびTA1が退行期抑制によって休止期脱毛を減少させることを示唆する。
【0017】
休止期脱毛は、しばしば急性発症を伴う、広がった脱毛によって特徴付けられる非瘢痕性脱毛症の一つの形である。休止期脱毛は、身体のすべての部分の毛に影響を及ぼし得るが、ほとんどの場合は、頭髪脱毛のみが症状を現す。休止期脱毛の病態生理学の理解は、毛周期の知識を必要とする。すべての毛は、アナゲンと呼ばれる成長期、細胞自然死(アポトーシス)駆動の退行(退行期)、およびテロゲンと呼ばれる休止期を持っている(Pausら、 The biology of hair follicles,NEJM 1999,341:491−497)。頭皮においては、個人差が大きいけれども、成長期は約3年続き、一方、休止期はおおよそ3ヶ月続く。休止期の間、休止期毛(resting hair)は、新しい成長期毛の成長によって押し出されるまで毛包中にとどまっている。ほとんどの人の場合、いつでも、頭髪の5〜15%が休止期にある。新しい成長期毛が成長し始めるまで脱毛は生じない。新生毛は休止期毛を強制的に毛包の外に押し出す役割をしている。休止期毛の脱毛のメカニズムは、新生の成長期毛から独立して起き得る活動的な過程であることを、最近の証拠は示唆している。
【0018】
急性および慢性休止期脱毛の両方の症状は進展した脱毛であり、頭皮全体の脱毛に広がる。急性休止期脱毛は、6ヶ月未満の脱毛の持続として定義される。患者は通常、単に、毛髪の抜け落ちるのが速い、または残った毛髪が薄くなっているようであるとの不満のみを訴える。休止期脱毛および急性脱毛の原因は、以下のような原因の可能性がある。生理的ストレス、乾癬および脂漏性皮膚炎のような頭皮の丘診落屑性発疹症、アレルギー性接触皮膚炎、予防接種、重症感染症(HIV)、発熱性疾患や大手術および重症外傷のような急性疾患、そしてまた、悪性腫瘍、特にリンパ増殖性悪性腫瘍、全身性紅斑性狼瘡(全身性エリテマトーデス)、末期腎不全または肝疾患のような慢性疾患、妊娠および出産(母子両方に影響し得る)、甲状腺機能低下症、エストロゲン含有薬剤の投薬中止のようなホルモンの変化、厳しい食事制限、拒食症、低タンパク質摂取量、および慢性鉄欠乏、セレン、ヒ素およびタリウムのような重金属、のような食事の変化を挙げることができる。急性休止期脱毛は、男女両性どちらにも起こりうる。しかし、産後期のホルモンの変化は休止期脱毛の一般的原因であるので、女性は、この状態を経験する、より大きな傾向を有し得る。加えて、より多くの女性がこの状態に対する医学的治療を捜し求めるように、女性は、男性よりも脱毛は厄介なことであると認識しがちである。急性休止期脱毛の患者は、通常、比較的突然に脱毛が始まることを訴える。抽出毛(extracted hairs)の25%超が休止期であれば、休止期脱毛との診断結果が裏付けられる。しかしながら、各患者の頭髪は、個々人特有の成長周期を持っている。いつでも、非常に長い成長期を持ち、および休止期毛の割合が小さい患者がいる。最もよく引用される医薬は、ベータ遮断薬、抗凝血剤、レチノイド(過剰のビタミンAを含む)、プロピルチオウラシル(甲状腺機能低下症を引き起こす)、カルバマゼピン、および予防接種である。このように、このタイプの医薬はそれ自身で問題を示している。
【0019】
毛は、ケラチンと呼ばれるタンパク質でできている。毛それ自身は、外キューティクル(an outer cuticle)、中間皮質(middle cortex)および中央髄質(central medulla)が3年で整えられる。もし毛が着色されていれば、それは、色素、すなわち、メラニン(黒または茶)かまたはフェオメラニン(pheomelanin)(赤または黄)の存在のためである。もしこれらの色素が欠如していれば、毛は白色である。白髪は、胡麻塩頭(グレイヘア)に与えられた言葉であり、それは、白色と着色毛の混合によって作り出される錯覚である。毛は毛包から成長する。毛包の壁は、毛の外毛根鞘を形成する。毛包の下方部分は、毛成長の源である、胚マトリックス(germinal matrix)を含む毛球を形成するために外に広がっている。皮膚組織は、皮膚乳頭を形成する毛包に突き出ており、そしてこれは、成長に必要な酸素、エネルギーおよびアミノ酸を供給するための毛細血管網を有している。メラニン形成細胞は、乳頭の上部に存在し、皮質中に分布している色素顆粒を生産する。毛包中において、3つの層を有する内毛根鞘は毛を取り囲んでいる。ヘンレ層は一つの細胞の厚さであり、外毛根鞘に向かって伸びている。ハクスレー層は、二つまたは三つの細胞の厚さであり、鞘(sheath)の中央に存在する。内毛根鞘のキューティクルは、毛のキューティクルと結合する。毛と内毛根鞘の両者は同じ速度で成長するが、内毛根鞘は、毛包への途上で約3分の2が崩壊し、そのため、毛のみが皮膚表面から現れてくる。切られていない毛は先端を有する。
【0020】
本発明は、脱毛に即効性を持つ最初の医薬組成物を提供する。毛成長を促進はしないが、試験された胸腺ペプチド(サイムリン、サイモシンアルファ−1、サイモシンベータ−4)は、無血清条件下において、組織培養されたヒト頭皮毛包の毛幹生成を顕著に阻害した。一方、個人間変動は予想通り明白であり、最も興味深いことに、サイムリンおよび/またはTA1で処理された毛包は、賦形剤で処理された対照の毛包より長く成長期に留まった。このように、胸腺ペプチドは、男女両方の休止期脱毛および脱毛を抑制する、医薬組成物の有効成分として使用し得る。最も重要なことは、それはさらに、サイムリンの適用が増加した色素沈着およびメラミン顆粒生産を導き、その結果として、若白髪に対する有効成分であることが判明したことである。
【0021】
一つの実施形態において、本開示は、脱毛を避けるための使いやすい局所治療組成物および治療を提供する。
【0022】
他の実施形態において、本開示は、毛の光沢の増加および毛の白髪化の減少のための局所適用の治療組成物を提供する。
【0023】
本開示のさらなる実施形態は、局所適用のために設計されたいろいろな処方における、胸腺ペプチドの局所適用を通した脱毛の治療によって示される。
【0024】
本開示の別の実施形態は、経口投与のために設計されたいろいろな処方における、胸腺ペプチドの経口適用を通した脱毛の治療によって示される。
【0025】
本発明の他の態様は、胸腺ペプチド、特に、経口適用のために設計されたいろいろな処方におけるサイムリンおよびTA1、さらに、任意に補酵素Qおよびアセチルカルニチンと組み合わせられた、これらの経口適用を通した脱毛および若白髪の治療によって示される。
【0026】
本発明のまた別の態様は、胸腺ペプチド、特に、局所適用のために設計されたいろいろな処方におけるサイムリンおよびTA1、さらに、任意に、局所適用のために設計されたいろいろな処方における補酵素Qおよびアセチルカルニチンと組み合わせられた、これらの局所適用を通した脱毛および白髪のための組成物および治療によって示される。
【0027】
本発明の診断方法の態様は、休止期脱毛、発症しつつある脱毛症、初期の脱毛および抜け毛の診断のための組成物におけるサイムリン、TA1およびTB4の使用によって示される。
【実施例】
【0028】
本発明は、インビトロでの、サイモシンアルファ−1(TA1)、サイモシンベータ−4(TB4)およびサイムリンのヒト毛包に対する影響の研究によって、ならびに次のパラメーターの研究および評価によって成し遂げられた。すなわち、そのパラメーターは、さまざまな毛周期ステージでの、毛幹の伸び、メラニン形成/色素沈着、細胞増殖の割合、細胞自然死(アポトーシス)、および細胞の割合である。その結果はさらに、ヒト頭皮およびヒト毛包中の胸腺ペプチドの量および分布の研究および評価、すなわち、免疫組織化学およびエライザ(ELISA)によって確認された。
【0029】
実施例1
1.患者
ヒト成長期VI毛包は、所定の美容整形手術を受ける異なった3個人から得られた頭皮から分離された。すべての実験は、ヘルシンキガイドライン(Helsinki guidelines)にしたがって実施された。
【0030】
【表1】

【0031】
2.ヒト毛包の単離および維持(培養)
毛包は、(Philpott MPら、Human hair growth in vitro;J Cell Science 1990,97(Pt 3):463−71)に記載の通りに単離された。単離された毛包(HFs)は、2mMol/LのL−グルタミン(Invitrogen、ペイズリー、UK)、10ng/mLのヒドロコルチゾン(Sigma−Aldrich、タウフキルヒェン、ドイツ)、10μg/mLのインスリン(Sigma−Aldrich)、および1%の抗生物質/抗真菌薬混合物(Gibco、カールスルーエ、ドイツ)が補充された、無血清のウイリアムズE培地(Biochrom、ケンブリッジ、UK)を補って維持された。毛包は、500μLの培地(0日(day 0))の24−ウェルプレートに設置され、二酸化炭素(CO2)インキュベーター(培養器)(5% CO、37℃)中で、いかなる処理もせずに一晩培養された。次の日(1日目)培地は交換され、検体が各ウェルに添加された(5μLの貯蔵液が495μLの培地に添加された)。培地または検体の入った培地は48時間ごとに交換された。
【0032】
3.実験設計
分析試料#1 培養HF429:
毛包は、マイクロタイタープレートのウェル中で成長させられ(1ウェルあたり3毛包(3毛包/ウェル))、図1に示された培地および検体で9日間処理された。その後、伸び、メラニン形成および毛周期の段階が決定された。
【0033】
分析試料#2 培養HF441:
毛包培養物(3毛包/ウェル)は、図2に示されるように様々な濃度で、培地および検体の組み合わせで9日間処理され、続いて、伸びおよび毛周期の段階が決定された。
【0034】
分析試料#3 培養HF446:
8個の毛包培養物(3毛包/ウェル)は、説明されているように、様々な濃度の検体で2日間処理され、続いて、2つのウェルが瞬間冷凍および切片化(セクショニング;sectioning)された。6つのウェルが9日間まで処理された後、瞬間冷凍および切片化(sectioned)された。検体および濃度の分配は図3に示された通りであった。2日後に測定されたパラメーター(変数)は、増殖/細胞自然死であり、9日後に測定されたパラメーターは、伸び、増殖/細胞自然死の細胞の割合および毛周期の段階であった。
【0035】
分析試料#4 胸腺ペプチドに抗する抗体で処理されたヒト頭皮の処理:
58歳男性の瞬間冷凍されたヒト頭皮(側頭部)切片が、次のように処理された。TBS中、15分間の3%Hでの内因性ペルオキシダーゼ(endogenous peroxidase)の阻害、続いての、TBS中、5分間の3回の洗浄、およびTBS中、20分間の10%ヤギ血清(Dako Cytomation,グロストルップ、デンマーク;カタログ番号 50114121)での前インキュベーション、4℃で一晩の1次抗体でのインキュベーション(ウサギ抗サイモシン1、抗サイモシンβ4、抗サイムリン(Immundiagnostik AG、ベンスハイム、ドイツ − カタログ番号 各々 A9530.2,A9510.2,A9522.2);抗サイモシン1および抗サイモシンβ4は、2%ヤギ血清(Dako Cytomation)を含むTBS中で、1:500に希釈された。抗サイムリンは1:1000に希釈された。)である。さらに続いて、TBS中での洗浄、および2%ヤギ血清を含むTBS中で1:200に希釈された2次抗体(ヤギ抗ウサギビオチン化抗体、Jackson Immunoresearch,PA,USA;カタログ番号 111−065−045)での、室温下45分間のインキュベーションである。続いて、アビジン/ビオチン複合ペルオキシダーゼ(Vector Laboratories,バーリンゲイム、CA、USA;カタログ番号 PK−6100)での30分間の処理、その後さらなるTBS中での洗浄である。その後の、AEC+基質(Vector Laboratories,バーリンゲイム、CA、USA;カタログ番号 SK−4200)での5分間の処理、およびTBS中での洗浄である。メイヤーズハイエマラム(Mayer’s Haemalaun)(Chroma Muenster,ドイツ;カタログ番号 2E038)により対比染色が行われ、アクアマウント(Aquamount)(DAKO Cytomation,カタログ番号 S3025)で貼り付けられた(mounting)。
【0036】
分析試料#5 −エライザ− ヒト毛包中の胸腺ペプチド量:
3試料が試験された:分析試料5a:61歳女性患者の後頭部の毛包20;分析試料5b:5aと同じ女性患者の同じ部位の毛包20;分析試料5c:女性患者(58歳)の側頭部の毛包20。20の切開された毛包は、1%(w/v)TRITONTMX(Fluka,Sigma Aldrich、タウフキルヒェン、ドイツ;カタログ番号 93420)を含むリン酸緩衝液中に浸漬された。550D1 PBSが添加され、試料は、超音波破壊と遠心分離によって乳化された。上澄み液がエライザ(ELISA)に使用された。希釈された抗原、サイムリン、サイムシンα1およびサイムシンβ4(すべて Immundiagnostik AG、ベンスハイム、ドイツ、カタログ番号 各々 A9530AG.1,A9510AG1およびA9522AG.1)の試料が陽性対照として使用された。サイムリン、サイムシンα1およびサイムシンβ4は、市販のエライザキット(サイムリン EIA − カタログ番号 K9810;サイムシンα1 エライザ − カタログ番号 K9510:サイムシンβ4 EIA − カタログ番号 K9520 − すべて Immundiagnostik AG、ベンスハイム、ドイツ)を使用して決定された。
【0037】
分析試料#6サイムリン(PRL+TSH)による下垂体ホルモン発現の刺激:
61歳女性患者の後頭部の毛包が、上述のように、9日間培養され、そして培地およびサイムリン10pg/mL(ヒトサイムリン、カタログ番号 A9530AG.1;Immundiagnostik AG、ベンスハイム、ドイツ)で処理され、その後、瞬間冷凍および切片化された。染色は次の手順にしたがって実行された。
【0038】
A.プロラクチン:TBS中、室温下、10分間の0.5%トリトン(Triton)X(Fluka,Sigma Aldrich、タウフキルヒェン、ドイツ;カタログ番号 93420)での前処理、TBS中、各5分間の3回の洗浄、メタノール中、15分間3回の0.6%Hでの処理、TBS中での洗浄。3%BSA含有TBS中、20分間の10%ウサギ血清(Dako Cytomation,カタログ番号 X0902)での前インキュベーション、1次抗体(ヤギ抗ヒトプロラクチン、Santa Cruz Biotechnology,Inc.,サンタクルツ、CA、USA;カタログ番号 SC−7805)でのインキュベーション、4℃一晩のTBS+2%ウサギ血清(Dako Cytomation,カタログ番号 X0902)中での、1:100への希釈。その後、TBS中で洗浄する。TBS中、室温下45分間の、2%ウサギ血清で1:200に希釈された2次抗体(ウサギ抗ヤギビオチン化抗体、Dako Cytomation,カタログ番号 E0466)でのインキュベーション。30分間のアビジン/ビオチン複合アルカリフォスファターゼ(Vector Laboratories,バーリンゲイム、CA、USA;カタログ番号 AK−5000)での処理、その後のTBS中での洗浄。その後の、ファストレッドタブレット(Fast Red Tablets)(Sigma−Aldrich、カタログ番号 F4648−50SET)での6分間の処理。メイヤーズハイエマラム(Mayer’s Haemalaun)(Chroma Muenster,カタログ番号 2E038)での対比染色、およびアクアマウント(Aquamount)(DAKO Cytomation,カタログ番号 S3025)での貼り付け(mounting)。
【0039】
B.TSH:TBS中、20分間の10%ヤギ血清(Dako Cytomation,カタログ番号 50114121)での前インキュベーション、その後の1次抗体(マウス抗ヒトTSH、Dianova、 ハンブルグ、ドイツ、カタログ番号 DLN07830)でのインキュベーション、4℃一晩のTBS+2%ヤギ血清(Dako Cytomation,カタログ番号 50114121)中での、1:20への希釈。その後のTBS中での洗浄。TBS中、室温下45分間の、2%ヤギ血清で1:200に希釈された2次抗体(ヤギ抗マウスビオチン化抗体、Beckman Coulter,Inc.,フラトン、CA、USA;カタログ番号 IM0816)でのインキュベーション。30分間の、アルカリフォスファターゼと一体となったアビジン/ビオチン複合体(Vector Laboratories,バーリンゲイム、CA、USA;カタログ番号 AK−5000)での処理、その後のTBS中での洗浄。その後の、ファストレッドタブレット(Fast Red Tablets)(Sigma−Aldrich、カタログ番号 F4648−50SET)での6分間の処理。メイヤーズハイエマラム(Mayer’s Haemalaun)(Chroma Muenster,カタログ番号 2E038)での対比染色、およびアクアマウント(Aquamount)(DAKO Cytomation,カタログ番号 S3025)での貼り付け(mounting)。
【0040】
陽性対照および陰性対照が1次抗体無しで処理された毛包であったので、両方の分析において、ヒト下垂体が設定された。
【0041】
4.伸びの測定:
毛幹の長さ測定は、接眼計測レチクル(eyepiece measuring reticule)を有する単対物双眼顕微鏡を使用して、個々の毛包で1日おきに行われた。毛包の長さは、毛球の基部と毛髪線維の切断端部との間の距離として定義された(Philpott MPら、Human hair growth in vitro;J Cell Science 1990,97(Pt3):463−71)。
【0042】
5.メラニン形成の測定
フォンタナ・マッソン(Fontana Masson)染色が培養期間の最後に実行され、瞬間冷凍切片の写真が撮られた。その写真が、皮膚乳頭の両側の最も暗い領域に置かれた、150×150ドットからなる2つの正方形の密度測定によって分析された(イメージJ(Image J)、公有財産、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health,USA)で開発された)。フォンタナ・マッソン染色において、固定された切片が、10%の硝酸銀(Merck & Co., Inc., Whitehouse Station, NJ,USA;カタログ番号 1.01512.0100)を含む溶液で暗闇中40分間処理され、続いて、5%チオ硫酸ナトリウム(Merck & Co., Inc.;カタログ番号 1.06512.2500)を含有する溶液中での1分間の成長、および3分間の蒸留水による複数回の洗浄が行われた。ニュートラルロット(Neutralrot)(Chroma Muenster,ドイツ;カタログ番号 2E038)による対比染色が行われた。その後、キシロール中で脱水され、Euキット(Eukitt)(O.Kindler GmbH,フライブルグ,ドイツ;カタログ番号 E115)で覆われた。
【0043】
6.増殖細胞および細胞自然死を受ける細胞の割合の評価
9日後、Ki67/TUNEL染色が行われ、写真が撮られた。増殖細胞、休止細胞および細胞自然死を受ける細胞が、Auber’s line近傍で別々に数えられた。結果は百分率で表される。Ki−67/TUNEL染色において、固定された切片が、30%TdT−酵素(Chemicon International, Inc.,テメキュラ,CA,USA;カタログ番号 S1707)を含有する溶液中で60分間インキュベートされた。68mLの蒸留水で希釈された2mLの停止緩衝液(stop buffer)(Chemicon International, Inc.;カタログ番号 S7110)が、反応を止めるために10分間で添加された。これに続いて、10%ヤギ血清(Dako Cytomation,カタログ番号 50114121)での20分間の前インキュベートを行い、さらに、2%ヤギ血清を含むPBS中で、マウス−抗ヒトKi−67抗体(Chemicon International, Inc.;カタログ番号 S7110)1:20でインキュベートした。その後、固定された切片は、PBS中で洗浄され、2%ヤギ血清を含むPBS中で、抗−ジゴキシゲニン抗体(Chemicon International, Inc.;カタログ番号 S7110)(59DI抗体溶液および5601停止溶液、30分間)、およびヤギ抗−マウス−IgG−ローダミンレッド(Jackson Immuno Research,サフォーク,UK;カタログ番号 115−295−062)1:200で処理された。PBSで洗浄後、DAPITM(10g/mL)(Roche,バーゼル,スイス;カタログ番号 236276)で対比染色し、さらにPBSで洗浄してフルオロマウント(Fluoromount)(Southern Biotech,バーミングハム,ALA,USA;カタログ番号 0100−01)を使用して貼り付ける。
【0044】
7.毛周期段階の評価
フォンタナ・マッソン染色の写真記録が、すでに明確になっている形態学的基準(Stenn KSら、Controls of Hair Follicle Cycling;Physiol Rev 2001,81:449−494、 Muller−Rover Sら,A Comprehensive Guide for the Accurate Classification of Murine Hair Follicles in Distinct Hair Cycle Stages;J Invest Dermatol 2001,117:3−15)にしたがって、毛周期の段階分けに使用された。成長期ならびに初期、中期および後期退行期の毛包の割合が決定された。
【0045】
8.統計分析
すべてのデータが、両側の対応のないt−検定(two−tailed unpaired t−test)(SPSS 分析ソフトウェア SPSS Inc.,シカゴ、USA)で分析された。伸びの決定のために、値域の上端および下端における2つの外れ値が除外され、メラニン形成の測定において、値域の上下両端における1つの外れ値が除外された。結果は、測定の平均値および標準誤差(SEM)として与えられた。
【0046】
結果
3つの独立した実験の顕微解剖された成長期VIの毛包が、様々な濃度において、培地のみ、またはサイムリン、TA1もしくはTB4で処理された。伸びが1日おきに測定され、成長率が計算された。異なる群の伸びが互いに比較され、伸びの結果がスチューデントt−検定(Student’s t−test)を用いて分析された。TA1、TB4およびサイムリンによる処理は、統計的に顕著に長く続く毛成長を与えなかった。その代わりに、TB4(100ng/mLおよび1000ng/mL)、TA1(100および1000ng/mL)およびサイムリン(100pg/mL)による処理は、毛成長を対照と比較して顕著に減少させる結果となり、一方、胸腺ホルモンに応答するHF(毛包)に相当な個人間の差が観察された。
【0047】
最初の実験(分析試料#1)において、各群の相対伸びは、9日間で74.11〜103.17%の間であった。100ng/mLのサイモシンβ4、および100pg/mLのサイムリンで処理された毛包は、顕著な毛成長の欠如(p<0.05)を示した。第2の実験(分析試料#2)では、2つの物質のみが、単一の濃度のみで試験された。我々は、相対的毛成長のいかなる顕著な差も検出できなかった。各群の伸びは、43.30〜58.90%の間であった。第3の実験(分析試料#3)では、各群の相対伸びは、69.90〜94.36%の間であった。100および1000ng/mLのサイモシンα1、ならびに1000ng/mLのサイモシンβ4での処理は、顕著に低い毛成長率を生じさせた(p<0.05)。分析試料#1,#2および#3の結果間の差は、また、胸腺ペプチドへのヒト頭髪毛包の応答における、個人間変動を示した。0日目と比較した百分率での平均伸びの結果が、以下の表2−4および図4(A)−図4(C)に図表としてまとめられている。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
分析試料2で得られた結果は表4−7および図5に示される。
【0052】
【表5】

【0053】
サイムリン、TA1およびTB4によって得られた分析試料#3における0日目と比較した百分率での平均伸びが、表4および図6(A)−図6(C)に示される。
【0054】
【表6】

【0055】
2.サイムリンによる処理は、顕著に多くのメラニンをもたらす(分析試料#1)。
顕微解剖された成長期VIの毛包が上記のように処理された。培養期間の最後において、フォンタナ・マッソン染色が行われ、瞬間冷凍切片で写真が撮られた。その写真が、皮膚乳頭の両側の最も暗い領域に置かれた、150×150ドットからなる2つの正方形の暗さ(明るさ)測定によって分析された(暗=小さい指数、明=高い指数)。異なる群の濃淡が互いに比較され、その結果がスチューデントt−検定を用いて分析された。その結果が以下の表5および図7に示される。
【0056】
【表7】

【0057】
10pg/mLのサイムリンで処理された群は、対照群より、より顕著に染色されたことを、統計的分析は示している。それゆえ、平均暗さ(明るさ)の75.73という値は、相対的に、この部分がより多くのメラニン顆粒を含んでいたことを示している。
【0058】
3.毛周期段階への胸腺ホルモンの影響:サイムリンおよびTA1は成長期においてHFsを保持すると思われる(分析試料#1、#2および#3)
フォンタナ・マッソン染色の写真記録が、すでに明確になっている形態学的基準(Stenn KSら、Controls of Hair Follicle Cycling;Pysiol Rev 2001,81:449−494、 Muller−Rover Sら,A Comprehensive Guide for the Accurate Classification of Murine Hair Follicles in Distinct Hair Cycle Stages;J Invest Dermatol 2001,117:3−15)にしたがって、毛周期の段階分けに使用された。成長期ならびに初期、中期および後期退行期の毛包の割合が、異なる分析試料において決定された。異なる3つの分析試料を比較することで、サイムリン10pgおよび100pg/mLで処理された各群は、常に対照群より成長期のHFsの比率が高いことが明確にされた。
【0059】
100ngのTB4で処理された群は、試験された両方の分析試料(分析試料#1および#3)において、対照と比較して、退行期におけるより高い細胞比率を持っている。毛周期の異なる段階での毛包の割合が図8(A)−図8(C)に示される。成長期は毛周期における毛成長の段階であること、毛包は退行期(この変化に付随して起きる形態学的変化で標識を付された)の段階に達したとき、短期間で成長が停止すること、その後、毛包は毛包の休息期である休止期の段階に入ること、に注意すべきである。一旦、毛包が退行期に入れば、毛の成長は終了し、毛は抜け落ちることになる。その結果、図8(A)−図8(C)は、3つの物質の各々2つの濃度で9日間処理した後の、ヒト毛周期の異なる段階における毛包の割合を示す。それゆえに、その結果は、3つの分析試料すべてで、両方のサイムリンで処理された群、および両方のサイモシンアルファ−1で処理された群において、対照群より多くの毛包が存在することを支持している。したがって、このことは、サイムリンおよびサイモシンアルファ−1の両者がヒト毛包をより長く成長期の段階に保持することにより、毛包が退行期の段階へ入ることを防止すること、およびそれゆえに、サイムリンおよびサイモシンアルファ−1の両者が脱毛を防止できること、を示している。
【0060】
4.より正確には、100ng/mLおよび1000ng/mLのサイモシンα1で9日間処理されたヒト毛包は、対照に比較して増殖細胞の割合の顕著な減少を示した(分析試料#3)
9日後、Ki67/TUNEL染色が行われ、写真が撮られた。成長期毛包において、増殖細胞および細胞自然死を受ける細胞が、Auber’sライン(line)近傍で別々に数えられた。結果は百分率で表される。統計分析は、100ng/mLのサイモシンα1、および1000ng/mLのサイモシンα1で処理された群においては、対照と比較して、顕著に(p<0.05)少ない割合の細胞が細胞自然死することを示す。2日間処理された毛包群は、小さすぎて統計分析できないことを証明するのみであった。結果は、Ki67陽性細胞の平均百分率をSEM(標準誤差)とともに示す表6および図9にまとめられている。
【0061】
【表8】

【0062】
5.ヒト頭皮および人毛中の胸腺ホルモンの免疫組織化学的染色は、特異な見え方の染色を示す(分析試料#4)
写真から明らかなように、胸腺ホルモンに対するすべての抗体は、人の皮膚の結合場所に特異なパターンとして認められるようである。サイムリン染色は、表皮中で最も印象的であり、特に、基底膜に近い(図11)。毛包に関しては、内毛根鞘、特にヘンレ層が染色されている。しかしながら、髄質、皮質および外毛根鞘(最小の、IRSに近い)もまた、いくらか染色されている(図12および図13)。染色は毛球が毛幹に融合するところから始まり、マトリクス細胞は染色されないことは注目に値する。サイモシンアルファ1染色も同じパターンを生じる:表皮中が強い染色で、基底膜で最も強く(図14)、IRSの染色は毛球端で始まる(図15および図16)。髄質および皮質の染色はほとんどなく、ORSの染色は全くなかった(抗サイムリンとは反対に)。TB4染色は前の2つより、より至る所を染色する。真皮、特に、細胞質パターン(図18)の基底膜に近い表皮(図17)の強い染色がある。毛においては、染色はIRS中が最も強く、しかし、ORS、髄質、皮膚鞘(dermal sheath)、および皮膚乳頭(図19)でも起きる。興味深いことに、染色されない唯一の場所は、毛球(bulb)(図20)中のマトリクス細胞の領域であり、抗サイムリンおよび抗サイモシンアルファ−1で染色されない領域である。
【0063】
図22A−図22Cは、目的物のアセトン固定を伴うまたは伴わない、およびサイモシンペプチドに対して異なる抗血清を使用しての、内因性サイモシン様ペプチドについての頭皮および毛球の免疫組織学的試験を示す。図22Aは、ウサギ由来のポリクローナル抗サイモシンアルファ−1抗体(Immundiagnostik AG、ベンスハイム、DE−Ab カタログ番号 9510)を使用しての、サイモシン様ペプチドについての毛幹の免疫染色を示す;図22Bは、アミノ酸75−109に対する、部位特異的抗サイモシンアルファ−1抗体(Immundiagnostik AG、ベンスハイム、DE−Ab カタログ番号 9540)を使用しての、内毛根鞘の図である;図22Cは、アミノ酸101−109に対する、部位特異的抗サイモシンアルファ−1抗体(Immundiagnostik AG、ベンスハイム、DE−Ab カタログ番号 9570)を使用しての、内毛根鞘の図である;図23A,Bは、抗サイモシンアルファ−1抗体を使用しての、ヒト真皮およびヒト表皮の切片染色および組織染色を示す。免疫組織学的試験は、毛成長および毛周期の制御において、サイモシンアルファ−1または少なくともサイモシン様ペプチドは生理学的な役割を持つという多くの証拠を含んでいる。
【0064】
6.サイムリンは、下垂体ホルモンを産生するためにヒト毛包を刺激し得る(分析試料#6)
これらのごく予備的な結果は、サイムリンはプロラクチンを産生するために毛包を刺激するかもしれないことを示すが、このことがTSHについても当てはまるということの兆候はない。しかしながら、スライド、それは他の試験からの部分的に不完全な毛包を持つ「低品質の」スライドであったが、そのスライドは、明白に最初の培養に、およびそれに続く染色方法に悩まされた。非処理毛包中のプロラクチンに対する免疫反応性は、以前の研究結果に一致して、IRSとORSとの間の領域に存在する(Foitzik Kら:Human Scalp Hair Follicles Are Both a Target and a Source of Prolactin, which Serves as an Autocrine and/or Paracrine Promotor of Apoptosis−Driven Hair Follicle Regression;Am J Pathol 2006,168:748−756)。10pg/nLおよび100pg/nLのサイムリンで刺激されたごくわずかの毛包において、IRS中の付加的な染色がいくらか存在した。
【0065】
TSHに対する免疫反応性は、サイムリン処理された毛包と対照の毛包との間でいかなる差異も示さなかった。
これらの研究はほんのごくわずかのスライドで行われ、毛包中において、サイムリンが下垂体ホルモンの産生を刺激できるかどうかについて、ごくわずかあえてやってみた、ということをまた、強調すべきである。
【0066】
7.エライザは、サイムリンおよびTA1が、顕微解剖されたヒト毛包中に存在することを示した(分析試料#5)
サイムリンは、3試料のうち2つで検出された。3番目の試料は無効であった。
【0067】
試料#5a 無効
試料#5b 0.157ng/mL
試料#5c 0.089ng/mLのTA1が、次の濃度のすべての3試料中で検出された。
試料#5a 2.604ng/mL(外挿データ)
試料#5b 5.003ng/mL
試料#5c 0.439ng/mL(外挿データ)
サイムリンβ4:全試料が無効であった。
記:試料#5aおよび#5bは、同じ個人からのものである。
【0068】
まとめ
胸腺ホルモンに応答するHF中に個体差が存在するものの、3物質のすべてはインビトロでヒト毛包に異なる影響を持つことを、これらの研究は示した。
【0069】
3分析試料すべての中で、サイムリンがまさに毛幹の伸びに関して異なる結果を示した。一見したところ、分析試料#2中で毛幹を伸長させ、分析試料#1中で顕著に伸長を抑制する傾向であった。メラニン含有量は、10pg/mLのサイムリンで処理されたHFs中で顕著に上昇した。非常に興味深いことは、サイムリンで処理された後の毛周期の成長期段階に、対照群中より、常により多くの毛包が存在することである。この結果は、試験された3個人すべてで一致した。これらの成長期毛包において、サイムリン処理された群は、対照(1個人のみが試験された)より低い増殖細胞の割合を示したが、顕著なレベルでは無かった。サイムリンの免疫組織化学は、主に、IRS(ヘンレ層)、髄質、および毛マトリクス細胞の不足した皮質ならびに皮膚乳頭中での染色を示した。ORSは、単に最小の染色のみを示す。ヒト頭皮は、主に表皮中、基底膜で最も強く染色を示した。これらの試験は、プロラクチンを発現するために、サイムリンがヒト毛包を刺激することを示唆する。我々は、TSHについては同じことを示すことができない。エライザは、ヒト毛包はサイムリンを含有することを示した。
【0070】
サイモシンアルファ1は、両分析試料において、どちらの濃度でも、分析試料#3(両濃度)では顕著なレベルで、毛幹の伸びを阻害した。ここで適用された方法でのメラニン形成へのいかなる影響も、我々は見出せなかった。9日間の処理の後、サイモシンアルファ1群において、対照群より多くの成長期の毛包が存在し、このことは、両方の試験された個人およびすべての濃度に当てはまった。これらの成長期毛包の試験において、対照群より顕著に少ない、細胞の増殖が存在した(両濃度)。興味深いことに、まさに、サイムリン処理された群と同じ傾向に我々は気付いた。サイモシンアルファ1の染色は、基底膜近くが最も強い、表皮のサイムリン染色に似た写真を示した。毛包は、毛幹から始まるIRS中の最も強力な染色を示し、毛マトリクス細胞、皮膚乳頭およびORSの染色はない(サイムリンとは反対に)。エライザは、ヒト毛包中のサイモシンアルファ1の存在を裏付けた。
【0071】
6つの組織培養中の2つにおいて、TB4は顕著に毛成長を阻害した。このことは、試験された両濃度で起きたが、全試験を通して常に起きたわけでは無い。事実、分析試料#1において、1000ng/mLの濃度で処理された毛包にいくらか伸びの増加があったが、顕著なレベルではなかった。しかしながら、分析試料#3において、同じ濃度が伸びの顕著な遅延を示した。適用された方法での我々の分析試料において、メラニン形成、毛周期段階および増殖細胞の量へのいかなる影響も、我々は見い出すことができなかった。サイモシンβ4処理細胞は、我々の分析試料の毛周期段階において、いかなる大きな差異も示さなかったが、9日後の1000ng/mLで処理された群中では、対照群中より成長期段階に常により多くの細胞が存在することは、注目に値することである。TB4の両濃度のどちらかで処理された成長期の毛包は、対照より増殖細胞が少なかったが、顕著なレベルではなかった。TB4の染色は、真皮の、特に細胞質パターン中の基底膜に近い表皮の強力な染色を示した。毛において、染色はIRS中が最も強いが、ORS、髄質、真皮の鞘および皮膚乳頭の中にもまた存在する。染色されないただ一つの場所は、毛球中のマトリクス細胞の領域である。エライザは両分析試料で失敗した。
【0072】
インビトロで毛幹の伸びに対する試験された胸腺ペプチドの、特筆すべきおよび望ましい効果は確認できなかったけれども、3つのタンパク質すべては、毛および毛周期の異なる成分に顕著に影響を及ぼすことを、我々は確かに証明した。Philpら(The FASEB J Express 記事 doi:10.1096/fj.03−0244fje オンライン発行 2003年12月4日)およびMalinda KMら(Thymosin alpha 1 stimulates endothelial cell migration, angiogenesis and wound healing;J Immunol 1998,160:1001−6)の報告によるところの我々の期待とは反対に、試験された単一のペプチドは培養された毛包の伸びを顕著に促進しなかった。実際、少数例で、成長速度の顕著な減少があった。(非常に限られた)研究を見渡すと、伸びの加速は、以前の研究で言及された、ペプチドが毛成長を促進するという機構ではないことが明らかである。このパラドックスに対する可能な説明は、サイムリンおよびサイモシンアルファ1で処理された毛包は、2つとも、成長期の段階を引き延ばしているように、および/または毛包が退行期に入るのを防でいるように思われる観測の中にあるかもしれない。3つの分析試料すべてにおいて、9日間の処理後における、試験された濃度すべての両ペプチドの群は、対照群よりも高い割合の成長期の毛包を持っていた。これが達成された機構によって仮説を立てるべきである。成長期の「対照群より高い」毛包の数とサイモシンβ4との間の、そのような特筆すべき相互関係を我々は見い出すことはできなかった。興味深いことに、これは、そのような相互関係が作られたただ1つの試験されたペプチドである(Philp Dら、Thymosin beta4 increases hair growth by activation of hair follicle stem cells;The FASEB J Express 記事 doi:10.1096/fj.03−0244fje オンライン発行 2003年12月4日)。しかしながら、これらの研究結果とは対照的に、3つの分析試料すべてにおいて1000ng/mLのTB4で処理された群は、成長期に、同じまたはより多くの毛包を持っているので、我々の結果は有効ではない。対照群との差異は、他のペプチドと同じように全く目立たない。興味深いことに、すべての物質が、これらの成長期毛包中の増殖細胞の率が対照群より低いことを示した(サイモシンアルファ1の顕著なレベルのみが、伸びへの阻害効果を説明できる事実である)。
【0073】
我々は、研究された1分析試料の毛包中のメラニン含有量に対するサイムリンの影響を示した。この結果は、臨床的に顕著に重要なことであり得、それは、これまでに述べられたことの無い全くの新発見である。発症機序について解明することは、まさに、さらなる研究の正当な理由となる。さらに、胸腺ペプチドのメラニン形成への影響について、さらなる手がかりを開示し得る、メラニン形成の付加的試験が適用されるべきである。染色は試験された胸腺ペプチドに対して特異的であることの確認が残されているが、エライザおよび免疫組織化学は、毛包中およびヒト頭皮中の胸腺ペプチドの存在を裏付けた。
【0074】
これらの結果を考慮すると、もし、サイムリンのメラニン形成への影響が繰り返され得るならば、TB4のより低い濃度(1ng/mLおよび10ng/mL)で毛培養を繰り返すこと、すでに収集されたデータ上で、メラニン形成のさらなる試験を行うこと(活性メラニン細胞の数を数えることなど)、および最終的に、証明のために他の個人からの毛の毛培養を繰り返すことは明らかである。さらに、GHがサイムリンの分泌を刺激する(Timsit Jら、GH and IGF−1 stimulate hormonal function and proliferation of thymic epithelial cells;J Clin Endocrinol Metab 1992,75:183−8)ので、GH処理された毛包はサイムリンによって、対照群より、より激しく染色されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイムリン、サイモシンアルファ−1、サイモシンベータ−4のファミリーの有効量の胸腺ペプチド、および医薬品賦形剤、医薬品希釈剤または医薬品担体を含有する、
ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための組成物。
【請求項2】
有効量の前記サイモシンアルファ−1および前記医薬品賦形剤、前記医薬品希釈剤または前記医薬品担体を含有する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
有効量の前記サイモシンベータ−4および前記医薬品賦形剤、前記医薬品希釈剤または前記医薬品担体を含有する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
有効量の前記サイムリンおよび前記医薬品賦形剤、前記医薬品希釈剤または前記医薬品担体を含有する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
毛周期の成長期において、毛包細胞をより長く維持する、有効量の前記サイムリンおよび/または前記サイモシンアルファ−1を含有する、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
毛髪の退行期抑制による脱毛および休止期脱毛を治療するための、有効量の前記サイムリンおよび/または前記サイモシンアルファ−1を含有する、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
慢性休止期脱毛、非瘢痕性脱毛症、脱毛症、抜け毛、急性の抜け毛、初期の脱毛(balding)の治療のための、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヒト毛包色素沈着および/またはメラニン顆粒生産を刺激するための、有効量の前記サイムリンを含有する、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
有効量の前記胸腺ペプチドは局所適用のために処方される、ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための、
請求項1〜8いずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
有効量の前記胸腺ペプチドは経口投与のために処方される、ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための、
請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
投薬濃度1pg/mL〜1000ng/mL、好ましくは10pg/mL〜100ng/mLの胸腺ペプチドを含有する、ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための、
請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記胸腺ペプチドはヒドロゲルに含まれている、ヒト脱毛および/または白髪の治療および予防のための、
請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
休止期脱毛、初期の脱毛、抜け毛、脱毛症の診断および予防のための組成物中における、サイムリン、サイモシンアルファ−1、サイモシンベータ−4に抗する抗体の使用。
【請求項14】
サイムリン、サイモシンアルファ−1、サイモシンベータ−4のファミリーの有効量の胸腺ペプチド、および医薬品賦形剤、医薬品希釈剤または医薬品担体の、ヒト脱毛および/または白髪を患う患者への適用を含む、
ヒト脱毛および/または白髪の処理および予防のための方法。
【請求項15】
前記患者は、初期の脱毛、抜け毛および脱毛症のいずれかを患っている、
請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図23】
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【公表番号】特表2011−504917(P2011−504917A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535404(P2010−535404)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066542
【国際公開番号】WO2009/068688
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(509041991)イムンディアグノスティック アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】