説明

抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法

【課題】素子の耐久性の向上を図る。
【解決手段】抵抗変化型素子20に1回以上の第1のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子20の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるセットと、抵抗変化型素子20に1回以上の第1のパルス電圧とは異なる第2のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子20の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるリセットと、の実行によって抵抗変化型素子20の抵抗状態を変化させるものにおいて、リセットを実行する際には、第2のパルス電圧のパルス幅を徐々に大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗変化型メモリに用いられる抵抗変化型素子の抵抗状態を低抵抗状態から高抵抗状態にするリセットを実行する際にはパルス電圧(リセット電圧)を徐々に大きくしていき、抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態にするセットを実行する際には、リセットを行なった後により高い電圧でセットを実行する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、抵抗変化型素子の抵抗状態を低抵抗状態から高抵抗状態にするリセットを実行する際にリセット電圧を徐々に上昇させる技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Y.S. Chen, H.Y. Lee, P. S. Chen, P. Y. Gu, C. W. Chen, W. P. Lin, W. H. Liu, Y. Y. Hsu, S. S. Sheu, P.C. Chiang, W. S. Chen, F. T. Chen, C.H. Lien, and M.-J. Tsai, 「Highly Scalable Hafinium Oxide memory with Improvements of Resistive Distribution and Read Disturb Immunity」, IEEE International Electron Device Meeting, pp. 5.5.1-5.5.4, 2009
【非特許文献2】H. Y. Lee, Y. S. Chen, P. S. Chen, P. Y. Gu, Y. Y. Hsu, S. M. Wna, W. H. Liu, C. H. Tsai, S. S.Sheu, P. C. Chiang, W.P. Lin, C. H. Lin, W. S. Chen, F. T. Chen, Ch. H. Lien, and M.-J. Tsai, 「Evidence and solution of Over-RESET Problem for HfOX Based Resistive Memory with Sub-ns Switching Speed and High Endurance」, IEEE International Electron Device Meeting, pp. 19.7.1-19.7.4, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抵抗変化型メモリでは、これに用いられる抵抗変化型素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に変化させるいわゆるセットや抵抗状態を低抵抗状態から高抵抗状態に切り替えるいわゆるリセットの繰り返しによってデータの書き込みや読み出しが行なわれるため、抵抗変化型素子の耐久性をより向上させることが重要な課題の一つとされている。
【0005】
本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法は、素子の耐久性の向上を図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法は、
抵抗変化型素子に1回以上の第1のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるセットと、前記抵抗変化型素子に1回以上の前記第1のパルス電圧とは異なる第2のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を前記高抵抗状態から前記低抵抗状態に切り替えるリセットと、の実行によって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を変化させる抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記リセットを実行する際、前記第2のパルス電圧のパルス幅を徐々に大きくする、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法では、抵抗変化型素子に1回以上の第1のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるセットと、抵抗変化型素子に1回以上の第1のパルス電圧とは異なる第2のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるリセットと、の実行によって抵抗変化型素子の抵抗状態を変化させるものにおいて、リセットを実行する際には、第2のパルス電圧のパルス幅を徐々に大きくする。これにより、パルス幅を変更せずにリセットを実行するものに比して、抵抗変化型素子の耐久性(セット,リセットが可能な回数)の向上を図ることができる。
【0009】
こうした本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法において、前記リセットを実行する際、前回の前記リセット時の前記第2のパルス電圧の印加回数が所定回数以上のときには、前記第2のパルス電圧のパルス幅を、前回の前記リセット時の最初の前記第2のパルス電圧のパルス幅より大きく且つ前回の前記リセット時の最後の前記第2のパルス電圧のパルス幅以下のパルス幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。この場合、前記リセットを実行する際、前回の前記リセット時の前記第2のパルス電圧の印加回数が前記所定回数未満のときには、前記第2のパルス電圧のパルス幅を、前回の前記リセット時の最初の前記第2のパルス電圧のパルス幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。
【0010】
また、本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法において、前記リセットを実行する際、前記第2のパルス電圧のパルス幅を、前回の前記リセット時の最後の前記第2のパルス電圧のパルス幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。
【0011】
また、本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法において、前記セットを実行する際、前記第1のパルス電圧の振幅を徐々に大きくする、ものとすることもできる。
【0012】
セットを実行する際に第1のパルス電圧の振幅を徐々に大きくする態様の本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法において、前記セットを実行する際、前回の前記セット時の前記第1のパルス電圧の印加回数が第2の所定回数以上のときには、前記第1のパルス電圧の振幅を、前回の前記セット時の最初の前記第1のパルス電圧の振幅より大きく且つ前回の前記セット時の最後の前記第1のパルス電圧の振幅以下の振幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。この場合、前記セットを実行する際、前回の前記セット時の前記第1のパルス電圧の印加回数が前記第2の所定回数未満のときには、前記第1のパルス電圧の振幅を、前回の前記セット時の最初の前記第1のパルス電圧の振幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。
【0013】
また、セットを実行する際に第1のパルス電圧の振幅を徐々に大きくする態様の本発明の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法において、前記セットを実行する際、前記第1のパルス電圧の振幅を、前回の前記セット時の最後の前記第1のパルス電圧の振幅から徐々に大きくする、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としての抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法に用いられる抵抗変化型素子20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】この抵抗変化型素子20の耐久性を測定するための測定装置30の構成の概略を示す構成図である。
【図3】抵抗変化型素子20のセットとリセットとを1回ずつ交互に実行する場合のセット,リセット,読み出しの様子を示す説明図である。
【図4】抵抗変化型素子20のセットとリセットとを1回ずつ交互に実行する場合の抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を示す説明図である。
【図5】固定パルス方法のセット,リセット,ベリファイの様子を示す説明図である。
【図6】固定パルス方法の抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を示す説明図である。
【図7】電圧増加パルス方法のセット,リセット,ベリファイの様子を示す説明図である。
【図8】電圧増加パルス方法の抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を示す説明図である。
【図9】電圧増加パルス方法のセット,リセット時の電圧と回数との関係を示す説明図である。
【図10】リセットルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図11】電圧増加パルス方法のセット,復帰パルス幅増加方法のリセット,ベリファイの様子を示す説明図である。
【図12】電圧増加パルス方法のセット,復帰パルス幅増加方法のリセットの抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を示す説明図である。
【図13】電圧増加パルス方法のセットに用いるパルス電圧,復帰パルス幅増加方法のリセットに用いるパルス幅の書き換え回数毎の値との関係を示す説明図である。
【図14】セットルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図15】復帰電圧増加方法のセット,復帰パルス幅増加方法のリセット,ベリファイの様子を示す説明図である。
【図16】復帰電圧増加方法のセット,復帰パルス幅増加方法のリセットの抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を示す説明図である。
【図17】復帰電圧増加方法のセットに用いるパルス電圧,復帰パルス幅増加方法のリセットに用いるパルス幅の書き換え回数毎の値との関係を示す説明図である。
【図18】読み出し時間を50nsと仮定したときのセット,リセットに要した時間を示す説明図である。
【図19】読み出し時間を50nsと仮定したときのセット,リセット時の最大電流を示す説明図である。
【図20】2万回書き込んだ後に85℃におけるデータ保持特性の一例を示す説明図である。
【図21】モデルの説明に用いる説明図である。
【図22】それぞれの方法と書き換え回数との関係を示す説明図である。
【図23】1回目から4千回目までの高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)とそれぞれの平均と分散比とを示すと共に、1回目のベリファイ読み出し時間を50nsと仮定したときの平均時間を示す説明図である。
【図24】電圧増加パルス方法のセット,幅増加パルス方法のリセット,ベリファイの様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としての抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法に用いられる抵抗変化型素子20の構成の概略を示す構成図である。抵抗変化型素子20は、抵抗変化型メモリ(Resistive RAM:ReRAM)に組み込まれて用いられる。図1中、左側の図は抵抗変化型素子20の初期状態を示し、中央の図は抵抗変化型素子20の抵抗状態が低抵抗状態(Low Resistance State:LRS)のときを示し、右側の図は抵抗変化型素子20の抵抗状態が高抵抗状態(High Resistance State:HRS)のときの図を示す。抵抗変化型素子20は、図1中左側に示すように、チタン(Ti)や白金(Pt)などの金属によって形成された上部電極22と、チタン(Ti)や白金(Pt)などの金属によって形成された下部電極24と、ハフニウム酸化物(HfOx)やチタン酸化物(TiOx),ニッケル酸化物(NiOx),銅酸化物(CuOx)などの金属酸化物によって形成され上部電極22と下部電極24とによって挟まれた中間層26と、によって構成されている。この抵抗変化型素子20は、初期状態では、中間層26が金属酸化物となっているため、抵抗が高い状態となっている。そして、この状態で上部電極22に所定の電圧が印加されるいわゆるフォーミング(Forming)が行なわれると、中間層26の金属の濃度が高いフィラメントが成長してそのフィラメントによって上部電極22と下部電極24とが結ばれることによって抵抗が低い低抵抗状態になると考えられる。また、抵抗変化型素子20の抵抗状態が低抵抗状態のときに、上部電極22にフォーミングとは逆方向のパルス電圧が印加されるいわゆるリセット(Reset)が行なわれると、フィラメントが破壊されて抵抗が高い高抵抗状態になると考えられる。さらに、抵抗変化型素子20の抵抗状態が高抵抗状態のときにフォーミングと同一方向のパルス電圧が印加されるいわゆるセット(Set)が行なわれると、フィラメントが成長して低抵抗状態となると考えられる。
【0017】
図2は、この抵抗変化型素子20の耐久性を測定するための測定装置30の構成の概略を示す構成図である。測定装置30は、抵抗変化型素子20の上部電極22側の端子22aに電圧を印加するための電圧印加装置32と、上部電極22側の端子22aの電位を検出するための電位検出装置34と、上部電極22側の端子22aと電圧印加装置32との接続と上部電極22側の端子22aと電位検出装置34との接続とを切り替えるスイッチ36と、抵抗変化型素子20の下部電極24のドレインに接続されたnチャネルMOSトランジスタ38と、nチャネルMOSトランジスタ38のソースと接地とに接続されたオシロスコープ40と、nチャネルMOSトランジスタ38のゲートと基板電圧とに電圧を印加するための電圧印加装置42と、全体をコントロールするためのパーソナルコンピュータ50と、を備える。この測定装置30では、パーソナルコンピュータ50によって各種処理を実行することにより、抵抗変化型素子20のセット,リセット,読み出しなどを行なっている。また、電位検出装置34やオシロスコープ40などの検出値を用いて抵抗変化型素子20の抵抗値を求めている。
【0018】
次に、こうして構成された測定装置30を用いて抵抗変化型素子20の耐久性を測定する処理について説明する。なお、以下の説明において、フォーミングに用いる電圧や、セット,リセットに用いるパルス電圧の振幅やパルス幅,抵抗変化型素子20の故障の判定に用いる回数などは、例示した値に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0019】
まず、抵抗変化型素子20のセットとリセットとを1回ずつ交互に実行する場合(以下、ケース1と称することがある)について説明する。フォーミング(Forming)は、スイッチ36によって抵抗変化型素子20の上部電極22と電圧印加装置32とを接続した状態で電圧印加装置22によって上部電極22の電位Vcellを0Vから4Vに引き上げることによって行なった。また、セットは、上部電極22側の端子22aに2Vで50nsのパルス電圧を印加することによって行ない、リセットは、上部電極22側の端子22aに−2Vで20nmのパルス電圧を印加することによって行なった。さらに、読み出しは、上部電極22側の端子22aに0.1Vの電圧を印加することによって行なった。
【0020】
この場合のセット,リセット,読み出しの様子を図3に示し、抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を図4に示す。セット後の抵抗値はリセット後より低くなっているが、この抵抗変化型素子20を抵抗変化型メモリに組み込んで用いる(センスアンプなどで読み出すことになる)ことを考えると、抵抗値の閾値を設けなければならないため、この場合にはそれを決定することができない。したがって、いわゆるベリファイ・プログラミングの方法を構築することが望まれる。
【0021】
まず、ベリファイ・プログラミングにおける簡易な方法として、同一のパルス電圧を一定の閾値を超えるまで加え続ける固定パルス方法(Fixed Pulse)(以下、ケース2と称することがある)を考案した。この方法では、同一のパルス電圧を20回以上加え続けてもセット用またはリセット用の閾値を超えなければ抵抗変化型素子20が故障したと判定するものとした。実施例では、低抵抗状態(LRS)の閾値としては、例えば50kΩなどを用いるものとし、高抵抗状態(HRS)の閾値としては200kΩを用いるものとした。
【0022】
この場合のセット,リセット,ベリファイの様子を図5に示し、抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を図6に示す。抵抗変化型素子20が故障するまでは高抵抗状態と低抵抗状態とに分かれている。図6から、4万回程度までは正常に書き込み(抵抗状態を変化させること)ができたが、4万4千回程度でリセットを行なうことができずに抵抗変化型素子20が故障していることが分かる。
【0023】
次に、セットやリセットにおける書き込み(抵抗状態を変化させること)の失敗時にパルス電圧を上昇させる(振幅を大きくする)電圧増加パルス方法(Incremental Voltage: IV)(以下、ケース3と称することがある)を考案した。ここでは、セット,リセットのパルス電圧をそれぞれ2V,−2Vとし、書き込みに失敗するとパルス電圧を50mVずつ上昇させるものとして説明する。即ち、1回目のセットにおいて5回のパルス電圧を必要とするときには、2回目のセットでは2.2V(=2V+50mV×4)から書き込みを開始することになる。リセットについても同様である。なお、この方法でも、固定パルス方法と同様に、1回のセットやリセットの間に20回書き込みに失敗したときに抵抗変化型素子20が故障したと判定するものとした。この場合のセット,リセット,ベリファイの様子を図7に示し、抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を図8に示す。この方法では、図8から、固定パルス方法に比して高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)との比が大きくなったものの、書き換えの回数は固定パルス方法と同様に4万8千回程度となっていることが分かる。また、この場合のセット,リセット時の電圧と回数との関係を図9に示す。この場合、図9から、セットに用いるパルス電圧は書き込み失敗時に上昇しているが、リセットに用いるパルス電圧は抵抗変化型素子20の故障まで変化していないことが分かる。したがって、この例では、リセットでは書き込みに失敗していないと考えられる。
【0024】
次に、セットについては電圧増加パルス方法と同様に書き込みの失敗時にパルス電圧を上昇させ、リセットについては書き込みの失敗時にパルス電圧のパルス幅を増加させる復帰パルス幅増加方法(Incremental Pulse Width with Turnback:IPWWT)(以下、ケース4と称することがある)を考案した。ここでは、リセットに用いるパルス電圧を−2Vで固定すると共に書き込み失敗時にパルス幅を20nsずつ増加させ、さらに、失敗回数が4回以上のときには次回のリセットのパルス幅を今回のリセット開始時より40nsだけ増加させた値から開始し、失敗回数が4回未満のときには次回のリセットのパルス幅を今回のリセット開始時と同一のパルス幅から開始するものとした。なお、上述したように、リセットに用いるパルス幅は適宜変更可能である。例えば、失敗回数が4回以上のときには、次回のリセットの最初のパルス幅を、今回のリセットの最初の値より40nsだけ増加させた値とするものに限られず、20nsや60nsなどだけ増加させた値とするなど、今回のリセットの最初の値より大きく且つ今回のリセットの最後の値以下の値とするものであればよい。以下、この場合の処理について、図10に例示するリセットルーチンを用いて説明する。このルーチンは、パーソナルコンピュータ50によって実行される。
【0025】
リセットルーチンが実行されると、パーソナルコンピュータ50は、リセットに用いるパルス電圧のパルス幅tresetに初期値tinitial(ここでは20ns)を設定し(ステップS100)、パルス幅tresetのパルス電圧を用いてリセットを行ない(ステップS110)、ベリファイリードを行ない(ステップS120)、抵抗変化型素子20の抵抗値Rをリセットの完了としてもよいか否かを示す目標値(実施例は20kΩとした)と比較する(ステップS130)。
【0026】
そして、抵抗変化型素子20の抵抗値Rが目標値以下のときには、パルス幅tresetを20nsだけ増加させることによってパルス幅tresetを更新して(ステップS140)、ステップS110に戻る。
【0027】
抵抗変化型素子20の抵抗値Rが目標値より高いときには、ベリファイ回数Nverifyを値4(次回のリセットの初期値を更新するか否かを判定するための閾値Nref1)と比較し(ステップS150)、ベリファイ回数Nverifyが値4未満のときには、そのまま本ルーチンを終了する。一方、ベリファイ回数Nverifyが値4以上のときには、初期値tinitialに40nsを加えることによって初期値tinitialを更新して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。なお、初期値tinitialの更新に用いる値は、40nsに限定されるものではなく、値0より大きく且つ現在のパルス幅(今回のリセット時の最後のパルス幅)tresetから更新前の初期値tinitialを減じた値以下の範囲内で適宜設定可能である。即ち、今回のリセット時のベリファイ回数Nverifyが値4以上のときには、次回のリセット時に、パルス幅tresetを、今回のリセット時の最初のパルス幅treset(=tinitial)より大きく且つ今回のリセット時の最後のパルス幅treset以下の値から徐々に大きくするものであればよいのである。
【0028】
この場合のセット,リセット,ベリファイの様子を図11に示し、抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を図12に示し、セットに用いるパルス電圧とリセットに用いるパルス幅の書き換え回数毎の値との関係を図13に示す。この場合、図12から、10万回程度まで書き込みに成功しているが分かる。また、図13から、セットに用いるパルス電圧が単調増加し、リセットに用いるパルス幅は増加したり元に戻ったりすることを繰り返しながら徐々に増加していることが分かる。この方法により、電圧増加パルス方法と同様にパルス幅を単調に増加させるものに比して書き込み速度が遅くなるのを低減することができる。
【0029】
上述の復帰パルス幅増加方法によって書き換え回数の増加(耐久性の増加)を図ることはできたが、この抵抗変化型素子20の書き換え回数を更に増加させることができればより好ましい。特に、ケース4では、セット電圧が高いために、リセットが若干困難になっているとも考えられる。このため、セットに用いるパルス電圧について復帰パルス幅増加方法と同様に変化させる復帰電圧増加方法(以下、ケース5と称することがある)を更に考案した。ここでは、セットのパルス幅を50nsで固定すると共に書き込み失敗時にパルス電圧を50mVずつ上昇させ、さらに、失敗回数が4回以上のときには次回のセットのパルス電圧を今回のセット開始時より100mVだけ増加させた値から開始し、失敗回数が4回未満のときには次回のセットのパルス電圧を今回のセット開始時と同一のパルス電圧から開始するものとした。なお、上述したように、セットに用いるパルス電圧の振幅は適宜変更可能である。例えば、失敗回数が4回以上のときには、次回のセットの最初のパルス電圧の振幅を、今回のセットの最初の値より100mVだけ増加させた値とするものに限られず、50mVや150mVなどだけ増加させた値とするなど、今回のセットの最初の値より大きく且つ今回のセットの最後の値以下の値とするものであればよい。以下、この場合の処理について、図14に例示するセットルーチンを用いて説明する。このルーチンは、パーソナルコンピュータ50によって実行される。
【0030】
セットルーチンが実行されると、パーソナルコンピュータ50は、セットに用いるパルス電圧Vsetに初期値Vset_base(例えば2.0Vなど)を設定すると共にベリファイ回数Nverifyを値0にリセットし(ステップS200)、ベリファイ回数Nverifyを値1だけインクリメントし(ステップS210)、ベリファイ回数Nverifyを値20(抵抗変化型素子20の故障か否かを判定するための閾値)と比較する(ステップS220)。
【0031】
そして、ベリファイ回数Nverifyが値20より小さいときには、抵抗変化型素子20の抵抗値Rrramをセットの完了としてもよいか否かを示す閾値Rset_thと比較する(ステップS230)。
【0032】
抵抗変化型素子20の抵抗値Rrramが閾値Rset_th以上のときには、パルス電圧Vsetに50mVを加えることによってパルス電圧Vsetを更新して(ステップS240)、ステップS210に戻る。
【0033】
抵抗変化型素子20の抵抗値Rrramが閾値Rset_th未満のときには、ベリファイ回数Nverifyを値4(次回のセットの初期値を更新するか否かを判定するための閾値)と比較し(ステップS250)、ベリファイ回数Nverifyが値4未満のときには、そのまま本ルーチンを終了する。一方、ベリファイ回数Nverifyが値4以上のときには、初期値Vset_baseに100mVを加えることによって初期値Vset_baseを更新して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。なお、初期値Vset_baseの更新に用いる値は、100mVに限定されるものではなく、値0より大きく且つ現在のパルス電圧(今回のセット時の最後のパルス電圧)Vsetから更新前の初期値Vset_baseを減じた値以下の範囲内で適宜設定可能である。即ち、今回のセット時のベリファイ回数Nverifyが値4以上のときには、次回のセット時に、パルス電圧Vsetを、今回のセット時の最初のパルス電圧Vset(=Vset_base)より大きく且つ今回のセット時の最後のパルス電圧Vset以下の値から徐々に大きくするものであればよいのである。
【0034】
ステップS220でベリファイ回数Nverifyが値20以上のときには抵抗変化型素子20の故障と判定して(ステップS270)、本ルーチンを終了する。
【0035】
この場合のセット,リセット,ベリファイの様子を図15に示し、抵抗変化型素子20の抵抗値の測定結果を図16に示し、セットに用いるパルス電圧とリセットに用いるパルス幅の書き換え回数毎の値との関係を図17に示す。図16から分かるように、上述の方法に比して、書き換え回数が大幅に向上している。また、図17から分かるように、セットに用いるパルス電圧は、急上昇せずにセットが困難なときだけ上昇している。また、読み出し時間を50nsと仮定したときのセット,リセットに要した時間を図18に示し、セット,リセット時の最大電流を図19に示す。図18から分かるように、セット,リセットの時間はそれぞれ最初の4万回程度では平均138ns,70nsである。このことから、NANDフラッシュメモリの1万倍以上高速であることが分かる。図19から、電流は、抵抗変化型素子20の故障直前に大きくなっており、最後にリセットに失敗していることが分かる。また、参考のために、この方法では2万回書き込んだ後に85℃におけるデータ保持特性の一例を図20に示す。
【0036】
次に、抵抗変化型素子20を組み込んだ抵抗変化型メモリについて説明する。一般に、抵抗変化型メモリは、そのサイズによって動作するモデルが異なると言われている。以下、抵抗変化型素子20の下部電極24を50nmとすると共にフィラメントの直径を10nmとして抵抗変化型素子20が故障するモデルを考える。図21は、このモデルの説明に用いる説明図である。フィラメントの幅はパルス幅に比例し、フィラメントの長さはパルス電圧の振幅に比例すると考える。このモデルにおいて、摩耗したデバイスの低抵抗状態(LRS)には長いパルスを加え、高抵抗状態(HRS)には高い電圧のパルスを加えることによって抵抗変化型素子20を回復させることができる。また、低抵抗状態(LRS)でスイッチングを多く行なうと、フィラメントが初期に比して太くなると考えられ、高抵抗状態(HRS)でスイッチングを多く行なうと、フィラメントが初期に比して短くなると考えられる。
【0037】
摩耗したデバイスの低抵抗状態(LRS)ではリセットに用いるパルス幅が十分に長くないと、上部電極22の界面からフィラメントが取り除かれずにリセットに失敗する。したがって、復帰パルス増加方法は、摩耗した低抵抗状態(LRS)の抵抗変化型素子20を回復することができると考えられる。
【0038】
一方、摩耗したデバイスの高抵抗状態(HRS)では、セットに用いるパルス電圧が十分に高くないと、フィラメントが十分に上部電極22まで成長せずにセットに失敗する。したがって、電圧を増加させる方法で摩耗した高抵抗状態(HRS)である抵抗変化型素子20を回復させることができる。ここで、電圧を増加させると、フィラメントの幅が急激に造作してしまう。したがって、高抵抗状態(HRS)からセットを実行するために過剰な電圧を加えるとフィラメントが太くなってしまい、リセットに失敗する。また、リセットのパルス幅が長すぎると、高抵抗状態(HRS)でのフィラメントが短くなり過ぎてセットに失敗する。したがって、これらの過剰なセットやリセットを防止することと書き込み時間を短縮するために、上述の復帰パルス幅増加方法と復帰電圧増加方法とによって抵抗変化型素子20の抵抗状態を変化させるのが好ましい。
【0039】
図22は、それぞれの方法と書き換え回数との関係を示す説明図であり、図23は、1回目から4万回目までの高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)とそれぞれの平均と分散比とを示すと共に、1回目のベリファイ読み出し時間を50nsと仮定したときの平均時間を示す説明図である。図22から、復帰パルス幅増加方法によるリセットと復帰電圧増加方法によるセットの組み合わせ(ケース5)により、簡易な同一のパルス電圧の繰り返す固定パルス方法(ケース2)に比して書き換え回数は50倍以上になっていることが分かる。また、図23から、復帰パルス幅増加方法によるリセットと復帰電圧増加方法によるセットの組み合わせ(ケース5)により、セット,リセット毎の抵抗のばらつきが十分に抑えることができていることが分かる。
【0040】
以上説明した実施例の抵抗変化型素子20の抵抗状態変化方法によれば、抵抗変化型素子20に1回以上の第1のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子20の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるセットと、抵抗変化型素子20に1回以上の第1のパルス電圧とは異なる第2のパルス電圧を印加することによって抵抗変化型素子20の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるリセットと、の実行によって抵抗変化型素子20の抵抗状態を変化させるものにおいて、リセットを実行する際には、第2のパルス電圧のパルス幅を徐々に大きくするから、パルス幅を変更せずにリセットを実行するものに比して、抵抗変化型素子20の耐久性(セット,リセットが可能な回数)の向上を図ることができる。
【0041】
実施例の抵抗変化型素子20の抵抗状態変化方法では、リセットについては、書き込み失敗時にパルス電圧を上昇させ且つ次回のリセット時には今回のリセット時の最後のパルス電圧から開始する電圧増加パルス方法(ケース3)(図7参照)や、書き込み失敗時にパルス幅を増加させ且つ次回のリセット時には今回のリセット時の失敗回数に応じて今回のリセット時の最初のパルス幅または今回のリセット時の最初のパルス幅より40nsなど増加させたパルス幅から開始する復帰パルス幅増加方法(ケース4,5)(図11,図14参照)を実行するものとして説明したが、書き込み失敗時にパルス幅を増加させ且つ次回のリセット時には今回のリセット時の最後のパルス幅から開始する幅増加パルス方法を実行するものとしてもよい。セットについては電圧増加パルス方法を用いると共にリセットについては幅増加パルス方法を用いる場合のセット,リセット,ベリファイの様子を図24に示す。
【0042】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、半導体産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
20 抵抗変化型素子、22 上部電極、22a 端子、24 下部電極、26 中間層、30 測定装置、32 電圧印加装置、34 電位検出装置、36 スイッチ、38 nチャネルMOSトランジスタ、40 オシロスコープ、42 電圧印加装置、50 パーソナルコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗変化型素子に1回以上の第1のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態に切り替えるセットと、前記抵抗変化型素子に1回以上の前記第1のパルス電圧とは異なる第2のパルス電圧を印加することによって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を前記高抵抗状態から前記低抵抗状態に切り替えるリセットと、の実行によって前記抵抗変化型素子の抵抗状態を変化させる抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記リセットを実行する際、前記第2のパルス電圧のパルス幅を徐々に大きくする、
ことを特徴とする抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。
【請求項2】
請求項1記載の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記リセットを実行する際、前回の前記リセット時の前記第2のパルス電圧の印加回数が所定回数以上のときには、前記第2のパルス電圧のパルス幅を、前回の前記リセット時の最初の前記第2のパルス電圧のパルス幅より大きく且つ前回の前記リセット時の最後の前記第2のパルス電圧のパルス幅以下のパルス幅から徐々に大きくする、
抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。
【請求項3】
請求項1記載の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記リセットを実行する際、前記第2のパルス電圧のパルス幅を、前回の前記リセット時の最後の前記第2のパルス電圧のパルス幅から徐々に大きくする、
抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記セットを実行する際、前記第1のパルス電圧の振幅を徐々に大きくする、
抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。
【請求項5】
請求項4記載の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記セットを実行する際、前回の前記セット時の前記第1のパルス電圧の印加回数が第2の所定回数以上のときには、前記第1のパルス電圧の振幅を、前回の前記セット時の最初の前記第1のパルス電圧の振幅より大きく且つ前回の前記セット時の最後の前記第1のパルス電圧の振幅以下の振幅から徐々に大きくする、
抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。
【請求項6】
請求項4記載の抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法であって、
前記セットを実行する際、前記第1のパルス電圧の振幅を、前回の前記セット時の最後の前記第1のパルス電圧の振幅から徐々に大きくする、
抵抗変化型素子の抵抗状態変化方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図15】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−48004(P2013−48004A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29664(P2012−29664)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高速不揮発メモリ機能技術開発/不揮発アーキテクチャの研究開発」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものとする。
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】