説明

抵抗膜式タッチパネル構造体

【課題】難燃性が向上した輸送機器搭載に適したタッチパネル構造体を提供する。
【解決手段】
(a)
ポリカーボネート(PC)フィルムおよびポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが接着剤層を介して貼り合わせた複合フィルムであって、この複合フィルムのPCフィルム側表面にはハードコート層が形成されかつPET/フィルム側表面には導電性層が形成された上部基板層および
(b)
ガラスシートまたはポリカーボネート(PC)シートの表面に導電性層が形成された下部基板層より構成され、
(c)
前記上部基板層と前記下部基板層とはそれぞれの導電性層が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わせた構造を有する、難燃性の改良されたタッチパネル構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗膜式タッチパネル構造体に関する。さらに詳しくは、難燃性が改良された抵抗膜式タッチパネル構造体に関する。より具体的には、本発明は、航空機などの輸送機の搭載に適し、かつ輸送機の難燃基準に適合した抵抗膜式タッチパネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、指入力またはペン入力によるモバイル情報端末として抵抗膜式タッチパネルの用途が拡大しつつある。抵抗膜式タッチパネルは、特殊なペンを使用しないで、指または通常のペンで容易に入力でき、しかも低コスト化が比較的簡単であるという利点を有している。一方抵抗膜式タッチパネルは、上部基板と下部基板との間にスペーサーによる空気層を有し、上部基板と下部基板の表面に形成された透明導電性膜を物理的に接触(タッチ)させることによって接触位置を感知する構造となっている。このタッチパネルの上部基板および下部基板の基板材料として、ガラス、高分子フィルム、プラスチックシートなどが使用され、それぞれの基板材料の組合に基づいて、種々の利点および欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
殊に、上部基板(タッチ面)の材料として高分子フィルム(例えばPETフィルムの如きポリエステルフィルム)は、割れない、軽量である、薄い、屈曲性にすぐれているなどの多くの利点のために広く利用されてきた。上部基板として高分子フィルムを使用した場合、その優れた屈曲性のために局所的なタッチ圧が容易に感知される。一方上部基板として、PETフィルム基板を使用することは前述したように種々の利点を有しているが、実際のタッチパネル構造体の実装に当たってはさらに改良すべき問題点を有している。
その問題点の1つは、PETフィルムを上部基板として使用したタッチパネル構造体は、PETフィルムが最表面層として使用されているため、UL94における輸送機器の内装材料の規格の難燃基準に適合していないことである。この規格における燃焼時間は15秒以下であるが、PETフィルムを上部基板として使用した場合、燃焼時間はこの基準を満足しない。
PETフィルムの難燃性を改良するためには、ハロゲン系の難燃剤やリン系の難燃剤をPETフィルム中に配合すればよいが、これら難燃剤の使用は、そのこと自体が輸送用機器の内装材料として不適当であるばかりでなく、これら難燃剤の配合は、PETフィルムの透明性の低下や耐熱性の劣化を招来することになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明は、PETフィルムの上部基板材料としての優れた利点を損なうことなく、難燃性を改善するための簡単でかつ経済的な手段について研究を進めた。その結果、PETフィルムの最表面にポリカーボネートフィルムを積層させかつその厚みを一定範囲とすることにより、(i)難燃剤を使用しないで難燃性基準をクリアできる、(ii)従来使用されている導電性層(例えばITO膜)を有するPETフィルムをそのまま使用できる、(iii)押圧するタッチ感知に特に支障がない、(iv)透明性が維持される および(v)加工が簡単でありコストの上昇が最小限の抑制される、などの予想外の利点が得られることを見出し本発明に到達した。
本発明によれば、下記、(1)〜(7)の抵抗膜式タッチパネル構造体が提供される。
(1)(a)厚さ100〜250μmのポリカーボネート(PC)フィルムおよび厚さ100〜200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが接着剤層を介して貼り合わせた複合フィルムであって、この複合フィルムのポリカーボネート(PC)フィルム側表面にはハードコート層が形成されかつポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム側表面には導電性層が形成された上部基板層および
(b)ガラスシートまたはポリカーボネート(PC)シートの表面に導電性層が形成された下部基板層より構成され、
(c)前記上部基板層と前記下部基板層とはそれぞれの導電性層が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わせた構造を有する、難燃性の改良された抵抗膜式タッチパネル構造体。
【0005】
(2)UL94における輸送機器規格の難燃基準に適合する前記(1)記載のタッチパネル構造体。
(3)該ポリカーボネートフィルムおよびポリカーボネートシートは難燃性を実質的に含有しない前記(1)記載のタッチパネル構造体。
(4)該下部基板層は、ガラスシートの表面に導電性層が形成されたものである前記(1)記載のタッチパネル構造体。
(5)該下部基板層における導電性層が形成された反対側の表面には、EMI層(電磁波シール層)が形成されている前記(1)記載のタッチパネル構造体。
(6)該導電性層がITO(Indium Tin Oxide)膜である前記(1)記載のタッチパネル構造体。
(7)航空機搭載用の前記(1)記載のタッチパネル構造体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抵抗膜式タッチパネル構造体は、前記した構成に基づいて下記(a)〜(e)の利点が得られる。
(a)
従来上部基板として一般的に使用されているPETフィルムをそのまま上部基板として使用する構造であるから、製造工程や資材を大巾に変更することなく、簡単な改良で実装することができる。
(b)
上部基板としてPETフィルムを使用しているので、PETフィルムの屈曲性、軽量性、剛性などのタッチ面としての優れた特性をそのまま保持できる。
(c)
タッチ面(表面)側にポリカーボネートフィルムを貼り合せた構造により難燃性が向上し、ポリカーボネートフィルムの貼り合せによってタッチパネルとしての押圧特性に特に支障を及ぼさず、透明性も維持される。
(d)
ポリカーボネートフィルムの貼りポリカーボネートフィルムされるので、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤などの難燃剤を使用する必要がない。
(e)
UL94規格、殊に同規格の輸送機器の内装材料における難燃基準に適合するので、航空機などの輸送機器の搭載用のタッチパネル構造体として利用価値が優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明の抵抗膜式タッチパネル構造体についてさらに詳細に説明する。先ずタッチパネル構造体の基本的構成について図面により説明する。
図1は本発明の抵抗膜式タッチパネル構造体のタッチ面の表面から直角方向の断面構造を示す模式図であり、特に上部基板層1と下部基板層2の基本的部材を図示したものである。
図1において、上部基板層1と下部基板層2とは、それらの両端部における接着剤層8により結合した断面構造を有している。図1の上方の面がタッチ面である。また上部基板層1と下部基板層2とは、一定の間隔の空隙が保持されるように、スペーサーが存在するが、図面にはスペーサーは示されていない。タッチパネル構造体は、上方のタッチ面を指やペンで押圧することにより、上部基板層1が局所的に屈曲し、上部基板層1の導電性層7と、下部基板層2の導電性層9とが部分的に接触し、その位置を電気的に感知する構造となっている。
【0008】
下部基板層2は、下部基板10の片面の表面に導電性層9が形成されている。この下部基板10としては、ガラスシートまたはポリカーボネート(PC)シートが使用される。ガラスシートは0.5〜2.5mm、好ましくは0.6〜1.8mmの厚さを有するものが望ましく、ポリカーボネート(PC)シートは0.3〜2.5mm、好ましくは0.5〜2mmの厚さを有するものが使用される。このPCシートは、2価フェノールとしてビスフェノールAを使用して重合したポリカーボネート樹脂からえられたものが、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び入手容易性の点から好ましい。
前記下部基板10の片面の表面には導電性層9が形成されている。この導電性層9は、通常タッチパネル構造体の導電性層として使用されているものであればよく、例えばITO膜(Indium Tin Oxide膜)やZnO膜の如き酸化金属膜、ITO微粉末層、カーボンナノファイバー層及び導電性高分子膜が挙げられるが、これらの中で酸化金属膜、特にITO膜が好ましい。これら導電性膜は、10〜50nmの厚さを有しているものが好適である。ITO膜は、通常スパッタリング法やCVD方式によって下部基板10の表面に形成される。
【0009】
上部基板層1は図1の上方面(タッチ面)から順に、ハードコート層3/ポリカーボネート(PC)フィルム4/接着剤層5/ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム6/導電性層7より構成されている。上部基板層1において上部基板としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム6が使用される。このPETフィルムは、100〜200μm、好ましくは120〜190μmの厚さを有するものが有利である。
PETフィルム6の片面の表面には導電性層7が形成されている。この導電性層7は、前述した下部基板層2の導電性層9に例示したものの中から選択される。PETフィルム6の片面の表面に形成される導電性層7はITO膜であるが好ましい。
【0010】
上部基板層1は、PETフィルム6の導電性層7が形成されている面の反対面には、PCフィルム4が接着剤層5を介して貼り合わされた構造を有し、さらにそのPCフィルム4のタッチ面側(上方面)にはハードコート層3が形成されている。PCフィルム4は、80〜250μm、好ましくは100〜200μmの厚みを有するものが望ましい。このPCフィルム4は、PETフィルム6よりもタッチ面側に積層されかつ前記厚みを有することによって難燃性が付与される。PCフィルム4の厚みが80μmよりも薄いと難燃性の基準が不充分であり、一方250μmよりも厚くなると、透明性が低下しまたタッチ面の屈曲性が低下することになるので望ましくない。PCフィルム4は、2価フェノールとしてビスフェノールAを使用し重合したポリカーボネート樹脂がから得られたものが好ましい。
【0011】
PCフィルム4とPETフィルム6とは、接着剤層5を介して貼り合わされている。この接着剤層5を形成する接着剤としては、PCフィルム4とPETフィルム6とを接着しうるものであって透明性を有するものであればよい。具体的には、例えばアクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂およびポリエステル樹脂などが例示できる。接着剤層の厚みは、1〜20μm、好ましくは2〜15μmが好ましい。
PCフィルム4のタッチ面側にはハードコート層3が形成されている。PCフィルム4は表面硬度が小さく傷つき易いので、ハードコート層3の形成により表面硬度が改善される。ハードコート層3としては、熱硬化性または活性エネルギー硬化性のいずれの樹脂も使用することができる。熱硬化性樹脂としては、オルガノポリシロキサンなどのシリコーン樹脂およびメラミン系樹脂が挙げられる。活性エネルギー硬化性樹脂としては、例えば、ペンタエリスリトール系ポリ(メタ)アクリレートとイソシアヌレート系ポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。硬化させるための活性エネルギー線としては紫外線(UV)が使用され、その際、光重合開始剤を用いることが望ましい。PCフィルム4の表面にハードコート層を形成させる手段は、例えば、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法、フローコート法、ロールコート法が採用できるが ディップ法およびスピンコート法が面精度の点から好ましい。
【0012】
ハードコート層3の厚みは、1〜50μm、好ましくは2〜40μmであるのが耐摩耗性、耐擦傷性の点から望ましい。
必要に応じて、前記ハードコート層3の表面には、反射防止層を形成させてもよい。反射防止層の成分としては、無機酸化物、フッ化物、窒化物などが例示できるが具体的には二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、フッ化マグネシウム、窒化ケイ素などがある。反射防止層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法が挙げられる。
また、本発明のタッチパネル構造体における下部基板層2における導電性層9が形成された反対面の表面にはEMI層(電磁波シール層)が形成されていてもよい。このEMI層は図1の構造では下部基板10の最下面の表面に形成されるが図1には示されていない。EMI層の形成によりタッチパネル構造体ならびに本構造体下に置かれたLCD等の作動により、発信される電磁波が大幅に低減される。
また、本発明のタッチパネル構造体の下部基板層2における導電9が形成された反対側表面には視野角調整フィルム(一般的には覗き見防止フィルム)が形成されていてもよい。この視野角調整フィルムは図1の構造では下部基板10の最下面に形成されるが図1には示されていない。更には上述のEMI層上に視野角調整フィルムを形成してもよい。視野角調整フィルムを粘着剤を介して貼合した本発明タッチパネル構成体は覗き見防止効果があり、プライバシー保護になる。
前述した上部基板層1および下部基板層2は、いずれも導電性層側の表面抵抗値が200〜3000Ω/□、好ましくは300〜800Ω/□を有すること、並びに光透過性(波長550nm)が80%以上、好ましくは88%以上であることがタッチパネル構造体の特性のために望ましい。
【0013】
本発明のタッチパネル構造体は、UL94の輸送機器(米国連邦航空規格)における燃焼テストにおける15秒以下を満足するものとなる。従って本発明のタッチパネル構造体は、特に航空機搭載用の内装材料として難燃基準に適合したものでありその利用価値は甚大である。
以下実施例および比較例を掲げ本発明を具体的に説明する。
【比較例】
【0014】
サイズ350mm×220mm(約15インチ)の標準的構成のタッチパネルを作成した。即ち上部電極として、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートにハードコート層を施し反対面にITO層をスパッタリング法で表面抵抗500Ω/□なるように付加したものを上部基板層(上部電極)とした。下部基板層(下部電極)として容易に購入できる1.8 mmのITO層を付与した導電性ガラスを用いた。その表面抵抗は400Ω/□であった。その下部電極の導電層の表面には上部電極と下部電極がタッチ以外時に絶縁を保つべく2mmピッチのドットスペーサーを設けた。上部電極とこの下部電極を周辺のスペーサーを介し接着させタッチパネルとした。周辺のスペーサー厚みは約120μmであった。
このタッチパネルをUL規格に基づく燃焼試験を行った。タッチパネルは短辺エッジをバーナーより30 mmの所に設け燃焼試験を実施した。着火後60秒で漸く消火した。
【実施例1】
【0015】
帝人化成株式会社製の厚さ200μmのポリカーボネートフィルムに数μmの厚さのアンチグレア・ハードコート層を施した。このフィルムのハードコート層反対面に粘着剤を介し、比較例のタッチパネル上面全面に貼合し新規タッチパネルを作成した。
このタッチパネルをUL規格従い比較例と同様の燃焼試験を行ったところ、着火後12秒で消火した。
【実施例2】
【0016】
実施例1に於けるタッチパネルにおいて、下部電極として厚さ1mmの帝人化成株式会社製のポリカーボネートシートにITOをスパッタ法で500Ω/□なるべく付与させたものを使用した。ドットスペーサーも実施例1と同じく設定した。これを比較例と同じくタッチパネルとした後、実施例1のポリカーボネートフィルムを全面に貼合し新規タッチパネルを作成した。
このタッチパネルをUL規格に従って燃焼試験を行ったところ、着火後5秒で消火した。着火しない場合も有るくらい耐燃焼性に優れたタッチパネルで合った。
【実施例3】
【0017】
実施例1に於ける下部電極ガラスにITO層によるEMI(電磁シールド)層を施したものを使用した。このEMI層は厚さ約2000Åであった。
このタッチパネルをUL規格に従い燃焼試験を行ったところ、着火後12秒で消火した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の抵抗膜式タッチパネル構造体のタッチ面の表面からの直角断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0019】
1
上部基板層
2
下部基板層
3
ハードコート層
4
ポリカーボネートフィルム
5
接着剤層
6
ポリエチレンテレポリカーボネートフィルム性層
7
接着剤層
8
導電性層
9
下部基板







【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
厚さ100〜250μmのポリカーボネート(PC)フィルムおよび厚さ100〜200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが接着剤層を介して貼り合わせた複合フィルムであって、この複合フィルムのポリカーボネート(PC)フィルム側表面にはハードコート層が形成されかつポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム側表面には導電性層が形成された上部基板層および
(b)
ガラスシートまたはポリカーボネート(PC)シートの表面に導電性層が形成された下部基板層より構成され、
(c)
前記上部基板層と前記下部基板層とはそれぞれの導電性層が互いに向い合うようにスぺーサーを介して貼り合わせた構造を有する、難燃性の改良された抵抗膜式タッチパネル構造体。
【請求項2】
UL94における輸送機器規格の難燃基準に適合する請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項3】
該ポリカーボネートフィルムおよびポリカーボネートシートは難燃剤を実質的に含有しない請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項4】
該下部基板層は、ガラスシートの表面に導電性層が形成されたものである請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項5】
該下部基板層における導電性層が形成された反対側の表面には、EMI層(電磁波シール層)が形成されている請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項6】
該導電性層がITO(Indium
Tin Oxide)膜である請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項7】
該下部基板層における導電性層が形成された反対側の表面には、視野角調整フィルムを貼合して形成されている請求項1記載のタッチパネル構造体。
【請求項8】
航空機搭載用の請求項1記載のタッチパネル構造体。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−20473(P2010−20473A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179317(P2008−179317)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(504203354)株式会社タッチパネル研究所 (41)
【Fターム(参考)】