説明

押出成形用水硬性組成物

【課題】押出成形性、耐凍害性に優れた押出成形用水硬性組成物を提供する。
【解決手段】水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セメント及び/又は石膏、骨材、補強繊維及び水を含む押出成形用水硬性組成物であって、前記水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースのメチル基の置換度が1.6〜2.5、ヒドロキシプロピル基の置換モル数が0.10〜0.26であり、かつメチル基とヒドロキシプロピル基のモル比(メチル基/ヒドロキシプロピル基)が6.1〜17.0であることを特徴とする押出成形用水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビルディング等に用いられるサイディング用の水硬性組成物、詳しくは押出成形用水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押出成形用水硬性組成物においては、アスベストを押出成形補強繊維として使用していたが、近年、法規制等によりアスベストは使用されていない。現在では、代替品として、パルプ繊維が使用されているが、繊維の分散性が悪く、混練時の摩擦熱のために、組成物の温度が上昇する。また、押出成形機内でも、スクリュー等との加圧や摩擦熱等で温度が上昇する。従来は、成形時の組成物の温度が40℃以上になるとバインダーであるセルロースエーテルが熱ゲル化を起こし、成形時の亀裂・蛇行等の原因となり成形が困難であった。
【0003】
これらの状態を踏まえ、特開平5−85799号公報(特許文献1)では、非アスベストセメント系押出成形用組成物に使用するセルロースエーテルに関し、熱ゲル化を起こさないようにすべく、メトキシ置換度(DS)が1.0〜2.5で、ヒドロキシアルキルモル置換度(MS)が0.25〜2.5と規定しており、特にヒドロキシアルキル基がヒドロキシエチル基の場合に有効であると述べられている。
【0004】
更に、特開平8−183647号公報(特許文献2)には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとして、メチル基及びヒドロキシプロピル基のモル比が4.5〜6.0であり、具体的にはDSが1.5以下のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた押出成形について記載されている。
【0005】
また、押出成形物に関しては、外気に晒されるため、特に寒冷地においては、耐凍害性が要求され、例えば特開平8−217569号公報(特許文献3)では、有機系中空微小球や無機系軽量骨材を使用した耐凍害性の向上について述べられている。しかし、これらの方法では耐凍害性の確保に限界があり、更なる向上が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平5−85799号公報
【特許文献2】特開平8−183647号公報
【特許文献3】特開平8−217569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、押出成形性、耐凍害性に優れた押出成形用水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いること、更に、その水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースとして、メチル基の置換度が1.6〜2.5、ヒドロキシプロピル基の置換モル数が0.10〜0.26であり、かつメチル基とヒドロキシプロピル基のモル比(メチル基/ヒドロキシプロピル基)が6.1〜17.0のものを用いることにより、押出成形性、耐凍害性に優れる押出成形用水硬性組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、前記特許文献1のDS、MSは一部本発明のDS、MSと重複するが、前記特許文献1のメチル基/ヒドロキシプロピル基のモル比とは異なる。
【0009】
従って、本発明は、水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セメント及び/又は石膏、骨材、補強繊維及び水を含む押出成形用水硬性組成物であって、前記水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースのメチル基の置換度が1.6〜2.5、ヒドロキシプロピル基の置換モル数が0.10〜0.26であり、かつメチル基とヒドロキシプロピル基のモル比(メチル基/ヒドロキシプロピル基)が6.1〜17.0であることを特徴とする押出成形用水硬性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、押出成形性、耐凍害性に優れた押出成形用水硬性組成物を得ることが可能である。本発明の押出成形用水硬性組成物は、住宅やビルディング等に用いられるサイディング用として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の押出成形用水硬性組成物は、水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セメント及び/又は石膏、骨材、補強繊維及び水を含むものである。
【0012】
本発明の水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、セメント及び/又は石膏、骨材、補強繊維等のみでは変形性と保水性に著しく乏しく、粘性付与成形助剤が添加されないと成形不能となるため添加するものである。気泡を巻き込む効果が高い水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、セルロースを塩化メチル、酸化プロピレンのエーテル化剤と反応させることにより、セルロースの水酸基の水素原子の一部をアルキル基と置換し、水素結合を消失させ、水溶性としたものである。
【0013】
この置換に対して、一般的に、セルロースのグルコース環単位当たり、メチル基やエチル基等で置換された水酸基の平均個数を「置換度(Degree of substitution)」(以下、「DS」という)といい、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロピル基の平均モル数を「置換モル数(Molar substitution)」(以下、「MS」という)という。
【0014】
具体的には、メチル基の置換度(DS)が1.6〜2.5のものが使用され、好適には1.7〜2.2、更に好適には1.7〜2.0で使用される。置換度が1.6より少ないと必要とする空気量が得られない。一方、置換度が2.5より大きくなると工業的に経済的な範囲で製造することが困難となる。
【0015】
また、ヒドロキシプロピル基の置換モル数(MS)が0.10〜0.26のものが使用され、好適には0.13〜0.25、更に好適には0.14〜0.25のものが使用される。置換モル数が0.10より少ないと必要とする空気量が得られない。一方、置換モル数が0.26より大きくなると工業的に経済的な範囲で製造することが困難となる。
【0016】
なお、セルロース分子に導入された置換基の種類及びその置換度・置換モル数の測定に関しては、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel−GC(水溶性セルロースエーテル中の置換基をヨウ化水素酸によりヨウ化アルキルとし、これをガスクロマトグラフィーにより定量する方法による手法)に準じて測定できる。
【0017】
更に、本発明においては、メチル基とヒドロキシプロピル基のモル比(DS/MS)が6.1〜17.0のものが使用され、好適には7.5〜15.0、更に好適には8.0〜12.5のものが使用される。上記モル比が小さすぎると経済的工業生産が困難である。一方、上記モル比が大きすぎると必要とする空気量が得られなかったり、比較的低温でゲル化を起こす。
【0018】
水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度は、20℃、2.0質量%水溶液として、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した場合に、5,000〜300,000mPa・sのものが使用され、好適には10,000mPa・s以上、更に好適には30,000mPa・s以上のものが経済的であるため多く使用される。粘度が低すぎると添加量を増やさなければならず経済的でなく、保水性や変形性に乏しくなる場合があり、高すぎると工業的生産が困難となるおそれがある他、却って成形性が悪くなる場合がある。
【0019】
水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースの添加量は、水を除いた全材料中の0.3〜2.0質量%の範囲で使用することが好ましく、より好適には0.5〜1.5質量%の範囲で使用する。使用量がこれより少ない場合は、保水性と変形性に乏しく、成形が困難となるおそれがあり、多すぎる場合は、粘性が高すぎ、成形性が悪くなり、ダイス部での付着が著しくなるため、成形物がささくれ立ったりするおそれがある。
【0020】
必要に応じて水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース以外に変性澱粉等の半合成水溶性高分子、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等の合成水溶性高分子、ウエランガム等の発酵多糖類等の増粘剤を使用したり、水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースを他のセルロースエーテル系増粘剤と組み合わせて本発明の目的を損なわない範囲で使用することは差し支えない。
【0021】
また、本発明に用いるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント、中庸熱ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカセメント等が使用できる。石膏も使用可能であり、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が使用される。これらの使用量は、目的とする強度が発現する量で良く、特に限定されるものではない。
【0022】
本発明の骨材としては、通常硅石粉やフライアッシュ等が使用される。軽量化するために、パーライトや有機質、無機質の中空微小球、スチレビーズ等が使用される場合もあるが、いずれにおいても、目的とする性状となるように水硬性物質と組み合わせて使用すればよい。なお、セメント及び/又は石膏と骨材とは、10:90〜99:1(質量比)の割合で使用することができる。
【0023】
更に、補強繊維としては、有機質繊維と無機質繊維とに大別されるが、有機質繊維の場合、パルプ繊維が好適に用いられる。パルプ繊維としては、広葉樹パルプが主として使用されているが、針葉樹パルプ、リンターパルプ、古紙等の使用も可能である。従来の比較的短繊維のパルプ繊維も使用可能である。その他、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維等も使用可能であり、これらは単独でも2種以上を組み合わせてもよい。無機質繊維としては、セピオライト、ワラストナイト、アタパルジャイト等が使用可能であり、これらも単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、有機質補強繊維と無機質補強繊維を混合して使用することも差し支えない。
【0024】
この補強繊維の使用量は、セメント及び石膏100質量部に対して0.1〜50質量部、特に0.15〜40質量部であることが好ましい。補強繊維が少なすぎると必要な強度が得られない場合があり、多すぎると必要な水量が増加して硬化しない場合がある。
【0025】
更に、本発明の押出成形用水硬性組成物には、塩化カルシウム、塩化リチウム、蟻酸カルシウム等の凝結促進剤や、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の凝結遅延剤、ポリカルボン酸系やメラミン系等の減水剤(分散剤)等の界面活性剤も使用することができる。これらは、水を加え混練した直後のフレッシュの物性を管理するためのものであり、目的に応じた物質を常用量で添加することができる。
【0026】
本発明の押出成形用水硬性組成物は、上記各成分を均一に混合したものに水を加え、更に混合することにより得ることができる。
ここで、水の量は、水以外の全ての成分の合計量100質量部に対して20〜60質量部とすることが好ましい。水が少なすぎると押出成形が困難となる場合があり、多すぎると押出成形性が悪化したり、硬化不良を起こす場合がある。
【0027】
得られた水硬性組成物は、押出成形用として用いられ、この場合の成形条件としては、通常、真空押出成形機を用いて吐出部に設けたダイスにより必要な形状に成形される。
また、得られた成形品は、蒸気養生又は湿空養生が行われ、所定の強度を得るため、更に高圧蒸気養生や焼成が行われる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、水溶性セルロースエーテルの置換度DS、置換モル数MSは、J.G.Gobler、E.P.Samsel and G.H.Beaber、Talanta、9、474(1962)に記載されているZeisel−GCに準じて測定した値を示し、粘度は20℃、2.0質量%水溶液として、ブルックフィールド型粘度計、20rpmで測定した値を示す。
【0029】
[実施例1〜7、比較例1〜4]
<使用材料>
水溶性セルロースエーテル:下記表1に示すヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)又はメチルセルロース(MC) 1.3質量部
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋マテリアル製) 37.5質量部
骨材:硅石粉(マルエス製) 37.5質量部
軽量骨材:パーライト平均粒径0.5mm(太平洋パーライト製) 19.0質量部
補強繊維:広葉樹パルプ繊維、平均繊維長1.5mm 5.0質量部
補強繊維:ポリプロピレン繊維、13dtex、繊維長6mm(萩原製) 1.0質量部
水:40.0質量部
【0030】
【表1】

【0031】
<調製>
上記水以外の材料(粉体)をヘンシェル型ミキサーにて予めブレンドし、所定量の水を撹拌しながら投入した。その後、ニーダーにて5分間混練を行い、押出成形を行った。押し出し成形時の成形性、凍結溶融試験を下記方法により測定し、これらの結果を表2に示した。
【0032】
<評価方法>
1.押出成形性
押し出し成形時の亀裂の有無及び蛇行の有無を目視にて確認した。
2.凍結融解試験
JIS A 6204 付属書2に準じた方法により行った。即ち、供試体を水中にて5±2℃から−18±2℃において凍結融解を繰り返し、試験前の一次共鳴振動数と300サイクル繰り返した後の一次共鳴振動数より相対動弾性係数を求めた。この相対動弾性係数が80以上であることが好ましい。
なお、供試体のサイズは、20mm×40mm×160mmとし、1週間の湿空養生後、160℃、10時間オートクレーブ養生し、更に24時間水中にて湿潤させたものを用いた。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表2に示した通り、本発明の所定の置換度を有する水溶性セルロースエーテルを使用した場合は、300サイクル後の相対動弾性係数の低下が少なく、耐凍害性に優れた組成物となる。
一方、比較例1の水溶性セルロースエーテルはメチル基のみであり、30℃での成形が不能であった。比較例2、3はヒドロキシプロピルメチルセルロースであるが、置換度が範囲から外れており、耐凍害性に劣る。比較例4はヒドロキシエチルメチルセルロースであり、やはり耐凍害性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セメント及び/又は石膏、骨材、補強繊維及び水を含む押出成形用水硬性組成物であって、前記水溶性ヒドロキシプロピルメチルセルロースのメチル基の置換度が1.6〜2.5、ヒドロキシプロピル基の置換モル数が0.10〜0.26であり、かつメチル基とヒドロキシプロピル基のモル比(メチル基/ヒドロキシプロピル基)が6.1〜17.0であることを特徴とする押出成形用水硬性組成物。

【公開番号】特開2008−201613(P2008−201613A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38289(P2007−38289)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】