説明

押出材の製造方法および製造装置

【課題】押し出しながら偏肉を修正できる押出材の製造方法を提供する。
【解決手段】押出材の内周面を成形するマンドレル22が複数の脚部24a,24b,24c,24dによって支持され、前記脚部24a〜24dの内部に冷媒用通路26a,26b,26c,26dが設けられた押出ダイスを用いて押出成形するに際し、前記各冷媒用通路26a,26b,26c,26dに流通させる冷媒の流通状態を制御して複数の脚部24a,24b,24c,24dの冷却能のバランスを変化させることにより、前記マンドレル22の軸線の傾き状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、断面寸法を変化させながら押出成形することができる押出材の製造方法および押出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
押出の軸方向に断面形状が変化する可変断面押出材の押出成形する方法として、押出ダイスに可動部分を設け、その可動部分を移動させながらビレットを押し出す方法が知られている(特許文献〜3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の押出用ダイスは、中空材の外周面を成形する雌型および内周面を成形する雄型を、それぞれ固定部と、固定部に対して押出方向に垂直な方向に移動可能な可動部とで構成したものである。
【0004】
特許文献2に記載の押出用ダイスは、中空材の内周面を成形する第1のコア部を有する固定ダイスと、外周面を成形するダイス孔を有する第1のダイスと、押出方向と交差する方向に移動可能となされた第2のダイスとを備えている。前記第2のダイスは、第1のダイスダイス孔の一部を遮断する遮断部および固定ダイスの第1のコア部に押出方向に重なり合う第2のコア部を有している。そして、第2のダイスの移動により第1のコア部を第2のコア部の重なり面積を変化させて、可変断面押出材を成形するものである。
【0005】
特許文献3に記載の押出用ダイスは、固定ダイスと単数または複数個の可動ダイスとを備え、可動ダイスの少なくとも1つが押出方向に対して傾斜した方向に移動可能となされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−326311号公報
【特許文献2】特開2003−326310号公報
【特許文献3】特許第3630227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載された押出用ダイスで可変断面押出材を成形する場合、ダイスの加工精度、押出プレスの精度、素材の均一性、押出時のダイス温度および素材温度の均一性等によって、押出材の偏肉量が左右される。このため、寸法精度の高い押出材を成形するには上記の諸条件を全て均一にしなければならない。ひいては、コスト増の原因となっている。
【0008】
また、押出中に偏肉が判明した場合は、押出を中断しなければ偏肉原因を解消できない。即ち、押し出しながら微調整することができないという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、断面寸法を変化させながら押出成形することができ、例えば押し出しながら偏肉を修正できる押出材の製造方法およびその関連技術の提供を目的とする。
【0010】
即ち、本発明は下記[1]〜[19]に記載の構成を有する。
【0011】
[1]押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスを用いて押出成形するに際し、
前記各冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して複数の脚部に対する冷却能のバランスを変化させることにより、前記マンドレルの軸線の傾き状態を制御することを特徴とする押出材の製造方法。
【0012】
[2]押し出しながら冷却能のバランスを変化させる前項1に記載の押出材の製造方法。
【0013】
[3]偏肉が生じた押出材の厚肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に強めるように冷媒の流通状態を制御し、マンドレルの軸線の傾き状態を修正して偏肉を軽減ないし解消する前項1または2に記載の押出材の製造方法。
【0014】
[4]偏肉が生じた押出材の薄肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に弱めるように冷媒の流通状態を制御し、マンドレルの軸線の傾き状態を修正して偏肉を軽減ないし解消する前項1〜3のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【0015】
[5]前記冷媒の流通状態の制御を、冷媒温度の昇降および冷媒流量の増減のうちの少なくとも一方によって行う前項1〜4のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【0016】
[6]前記冷媒の流通状態の制御を脚部毎に独立して行う前項5に記載の押出材の製造方法。
【0017】
[7]前記冷媒の流通状態の制御を流通経路の選択によって行う前項1〜6のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【0018】
[8]前記冷媒用通路の開口部は開閉自在であり、一部の開口部を閉塞することにより流通経路の選択を行う前項7に記載の押出材の製造方法。
【0019】
[9]前記冷媒用通路の開口部において、冷媒の給排設定により流通経路の選択を行う前項7または8に記載の押出材の製造方法。
【0020】
[10]前記マンドレルは先端面に開口部を有する冷媒用通路を備え、該冷媒用通路は脚部の冷媒用通路に連通し、前記マンドレルの開口部から冷媒の給排を行う前項1〜9のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【0021】
[11]押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスと、
前記押出ダイスの冷媒用通路の開口部に配置され、開口部の開閉を切り換えるバルブと、
前記バルブに連通して配置され、前記開口部を介して冷媒用通路に冷媒の給排を行う冷媒給排装置とを備えることを特徴とする押出装置。
【0022】
[12]前記押出ダイスは、脚部の冷媒用通路に連通し、マンドレルの内部を通って先端面に開口する冷媒用通路を有する、前項11に記載の押出装置。
【0023】
[13]前記バルブの切り換えおよび冷媒給排装置の給排は、脚部毎に独立して設定可能となされている前項11または12に記載の押出装置。
【0024】
[14]前項11〜13のいずれかに記載の押出装置を用いて押出成形するに際し、
バルブの開閉切り換えと冷媒給排装置における冷媒の給排切り換えとの組み合わせにより、押出ダイスの冷媒用通路における冷媒の流通経路を設定するとともに、
前記冷媒給排装置における冷媒の給排量により、流通停止を含む冷媒用通路における冷媒流量を設定することを特徴とする押出材の製造方法。
【0025】
[15]前記冷媒給排装置において、温度調節された冷媒を冷媒用通路に供給する前項14に記載の押出材の製造方法。
【0026】
[16]前記冷媒流量および冷媒温度のうちの少なくとも一方を脚部毎に独立して設定する前項15に記載の押出材の製造方法。
【0027】
[17]押出中に、冷媒の流通経路、冷媒流量、冷媒温度のうちの少なくとも1つを変更する前項14〜16のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【0028】
[18]押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスを用いて押出成形するに際し、
押出中に押出材の寸法を測定し、その測定値に基づいて前記各冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して複数の脚部に対する冷却能のバランスを制御しながら押し出すことを特徴とする押出システム。
【0029】
[19]測定値により押出材の偏肉を検出したときに、その偏肉が解消されるように複数の脚部に対する冷却能のバランスを制御する前項18に記載の押出システム。
【発明の効果】
【0030】
上記[1]に記載の押出材の製造方法においては、脚部に設けた冷媒用通路に冷媒を流通させることにより脚部の変形抵抗値が回復して強度が高まるために、脚部はたわみにくくなる。加えて、冷媒の流通状態の制御により複数の脚部の冷却能のバランスを変化させると、相対的に強く冷却した脚部が熱収縮し、マンドレルの軸線がその脚部の側に引き寄せられる。即ち、複数の脚部の冷却能のバランスを変化させることは、マンドレルの軸線の傾き状態を変化させることであり、かかるマンドレルの軸線の傾き状態の変化により、押出材の断面寸法を変化させることができる。
【0031】
上記[2]に記載の押出材の製造方法によれば、押出中に冷却能のバランスを変化させることにより、押し出しながら押出材の断面寸法を変化させることができる。
【0032】
上記[3]に記載の押出材の製造方法によれば、偏肉が発生した押出材に対し、厚肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に強めるように脚部の冷却能のバランスを調節することにより、マンドレルの軸線の傾き状態が修正されるので、偏肉を軽減ないし解消することができる。
【0033】
上記[4]に記載の押出材の製造方法によれば、偏肉が発生した押出材に対し、薄肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に弱めるように脚部の冷却能のバランスを調節することにより、マンドレルの軸線の傾き状態が修正されるので、偏肉を軽減ないし解消することができる。
【0034】
上記[5]に記載の押出材の製造方法によれば、冷媒用通路に流通させる冷媒温度の昇降、あるいは冷媒流量の増減に応じて冷却能の強弱が調節され、冷却能のバランスを変化させることができる。
【0035】
上記[6]に記載の押出材の製造方法によれば、複数の脚部に対してより細かく精度の高い冷却制御を行うことができる。ひいては、押出材の断面寸法の僅かな変化にも対応することができる。
【0036】
上記[7][8][9]に記載の各押出材の製造方法によれば、冷媒の流通経路の選択によって冷却能のバランスを変化させることができる。
【0037】
上記[10]に記載の押出材の製造方法によれば、マンドレルを内部から冷却してベアリング部の摩耗や焼き付きを抑制できる。さらに、冷媒は押出材の内部に排出されるので、押出直後に押出材を内部から冷却することができる。
【0038】
上記[11]に記載の押出装置によれば、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の押出方法を実施して、断面寸法を変化させた押出材、例えば偏肉が解消された押出材を製造することができる。
【0039】
上記[12]に記載の押出装置によれば、上記[10]に記載の押出方法を実施して、断面寸法を変化させた押出材、例えば偏肉が解消された押出材を製造することができる。
【0040】
上記[13]に記載の押出装置によれば、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の押出方法を実施するに際し、複数の脚部に対してより細かく精度の高い冷却制御を行うことができる。
【0041】
上記[14]に記載の押出材の製造方法においては、押出ダイスの脚部に設けた冷媒用通路に対し、冷媒の流通経路の設定と流通停止を含む冷媒流量の設定により、脚部に対する冷却能を設定することができる。
【0042】
上記[15]に記載の押出材の製造方法によれば、冷媒用通路に供給する冷媒温度の調整により、脚部に対する冷却能を変化させることができる。
【0043】
上記[16]に記載の押出材の製造方法によれば、複数の脚部に対する冷却能を独立して変化させることができるので、複数の脚部に対する冷却能のバランスを変化させることができる。
【0044】
上記[17]に記載の押出材の製造方法によれば、押し出しながら脚部に対する冷却能を変化させることができる。
【0045】
上記[18]に記載の押出システムによれば、押出中に測定した押出材の寸法に基づいて押出ダイスの複数の脚部の冷却能のバランスを制御することで、押し出しながら押出材の寸法を制御することができる。
【0046】
上記[19]に記載の押出システムによれば、押し出しながら偏肉を軽減または解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の押出材の製造方法を実施するための押出装置の断面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3A】ポートホールダイスの雄型においてマンドレルの軸線が傾いた状態を示す断面図である。
【図3B】図3Aの雄型を組み合わせたポートホールダイスの断面図である。
【図3C】図3Bのポートホールダイスで製造し、偏肉を生じた押出材の断面図である。
【図4A】ポートホールダイスの雄型においてマンドレルの軸線が傾いた状態を示す断面図である。
【図4B】図4Bのポートホールダイスを用いて製造し、偏肉を生じた押出材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の説明において、押出材および押出材料の進む方向を下流または下流側と称し、逆方向を上流または上流側と称する。
【0049】
図1は、本発明の押出材の製造方法を実施するためのポートホールダイスを含む押出
装置を示している。図2は図1のポートホールダイスの断面図である。
【0050】
ポートホールダイス(10)は、中空部(2)を有する押出材(1)の外周面を成形する雌型(11)と内周面(2a)を成形する雄型(20)とが組み合わされてなり、前記雄型(20)が本発明の押出ダイスに対応する。
【0051】
雌型(11)は、中央部にベアリング孔(12)を有し、ベアリング孔(12)の上流側には溶着室用凹部(13)が形成され、下流側にはリリーフ孔(14)が形成されている。
【0052】
前記雄型(20)は、ダイス基盤(21)の中央から下流側にマンドレル(22)が突出し、このマンドレル(22)の周囲に押出方向に貫通する4個のポートホール(23)を有している。隣接する各ポートホール(23)(23)間には前記マンドレル(22)を基端部で支持する脚部(24)が形成されている。4個のポートホール(23)は周方向の均等位置に形成され、脚部(24)は、第1脚部(24a)と第3脚部(24c)とが対向位置に在り、第2脚部(24b)と第4脚部(24d)とが対向位置に在る。前記マンドレル(22)の先端側の周面には押出材(1)の内周面(2a)を成形するベアリング部(25)が突設されている。
【0053】
前記雄型(20)は内部に冷媒用通路(26)を有している。前記冷媒用通路(26)は、各脚部(24a)(24b)(24c)(24d)を貫通して押出の軸心で合流して互いに連通する第1通路(26a)、第2通路(26b)、第3通路(26c)、第4通路(26d)と、これらの通路(26a)(26b)(26c)(26d)の合流点で連通してマンドレル(22)の中心を通る第5通路(26e)とから構成されている。第1通路(26a)、第2通路(26b)、第3通路(26c)および第4通路(26d)は、それぞれダイス基盤(21)の外周面に第1開口部(27a)、第2開口部(27b)、第3開口部(27c)および第4開口部(27d)を有し、これらの開口部(27a)(27b)(27c)(27d)に連通接続したチューブ(28)上にバルブ(29)および冷媒給排装置(30)が配置されている。各開口部(27a)(27b)(27c)(27d)は、前記バルブ(29)により、閉塞、大気に連通(開放)、冷媒給排装置(30)に連通、の3通りに切り換えることができる。また、冷媒給排装置(30)への連通状態において、冷媒給排装置(30)を介して、冷媒(C)を外部から所望の流量で通路内に供給することも、通路内の冷媒(C)を吸引して所望の流量で外部に排出することもできる。一方、マンドレル(22)の第5開口部(27e)は常時開放されて大気に連通している。
【0054】
前記雌型(11)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(11)のベアリング孔(12)内に雄型(20)のマンドレル(22)のベアリング部(25)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(11)の溶着室用凹部(13)の一部が雄型(20)のダイス基盤(21)の端面で塞がれてポートホール(23)に連通する溶着室を形成する。そして、各ポートホール(23)に流入した押出材料は溶着室で合流し、成形用間隙から中空の押出材(1)として押出される。
【0055】
ところで、雄型(20)を構成するダイス鋼は、温度が高くなるほど変形抵抗値が低下するとともに熱膨張する。押出時に雄型(20)が加熱されると、脚部(24)は熱膨張して体積が拡大するとともに変形抵抗値が低下するので、押出圧力を受けてたわみ易くなる。そして、各脚部のたわみ量にばらつきによりマンドレル(22)を支持する力のバランスが崩れると、マンドレル(22)の軸線が傾いて押出材(1)に偏肉、即ち所期する肉厚に対して過不足部分が発生する。たわみ量のばらつきはダイス温度や押出圧力の僅かなばらつきによって生じ、かつ押出中にこれらが変動するとたわみ量も変動するので、複数の脚部(24)の内部に一様に冷媒を流通させて冷却するだけでは偏肉を解消することは難しい。
【0056】
本発明は、脚部(24)の内部に冷媒を流通させて変形抵抗値を回復させて強度を高めてたわみにくくしている。加えて、複数の脚部(24)を一様に冷却するのではなく偏肉の発生状況に応じた冷却制御を行い、各脚部(24)の熱収縮による体積変化でたわみ量を制御し、マンドレル(22)の軸線の傾き状態を修正して偏肉の軽減ないし解消を行う。ある脚部(24)の冷却を相対的に強めるとその脚部(24)は熱収縮して短くなり、たわみ量が減少してマンドレル(22)の軸線はその脚部(24)の側に引き寄せられ、その結果、雌型(11)のベアリング孔(12)との間の成形用間隙が狭くなる方向に変化する。従って、偏肉が生じた押出材(1)の厚肉部分に対応する脚部(24)(厚肉部分に最も近い脚部を含む)の冷却を強めるように脚部(24)の冷却能のバランスを調節すれば、マンドレル(22)の軸線の傾き状態が修正されて偏肉が軽減ないしは解消される。
【0057】
なお、本発明における「偏肉が生じた押出材の厚肉部分に対応する脚部」とは、厚肉部分に最も近い脚部を含んでいる。同様に、「薄肉部分に対応する脚部」は薄肉部分に最も近い脚部を含んでいる。
【0058】
本実施形態においては、複数の脚部(24a)(24b)(24c)(24d)に対し、バルブ(29)の切り換えと冷媒給排装置(30)による給排切り換えとの組み合わせによって冷媒の流通経路(流通方向を含む)を制御し、さらに冷媒給排装置(30)における冷媒の温度制御および流量制御を加える。
【0059】
〔制御例1〕
図3Aおよび図3Bは、4つの脚部(24a)(24b)(24c)(24d)に冷媒を流通させずに押出を行い、実線で表されるマンドレル(22)の軸線が、図面の下側に表される第3脚部(24c)側に傾き、雌型(11)との成形用間隙は第1脚部(24a)側で広く第3脚部(24c)側で狭くなった状態を示している。また、図面の左右方向、即ち、第2脚部(24b)と第4脚部(24d)の方向の傾きは無い。このようにマンドレル(22)の軸線が下側に傾いた状態で押し出すと、図3Cに示す押出材(1)は、第1脚部(24a)側の肉厚(Ta)が第3脚部(24c)側の肉厚(Tc)よりも厚くなり、第2脚部(24b)側の肉厚(Tb)と第4脚部(24d)側の肉厚(Td)とは等しくなっている。
【0060】
前記マンドレル(22)の軸線の傾きは、第1脚部(24a)のマンドレル(22)を押す力が第3脚部(24c)のマンドレル(22)を押す力を上回っているために生じている。従って、第1脚部(24a)の押す力が相対的に弱くなるようにすれば、マンドレル(22)の軸線が第1脚部(24a)側に移動して破線で表される正常位置に修正され、偏肉が解消されることになる。具体的には、第1脚部(24a)に対する冷却を強めて熱収縮させると、第1脚部(24a)が短くなってたわみ量が減少し、その結果マンドレル(22)を押す力を弱めることができる。また、左右方向に偏肉は生じていないので、第2脚部(24b)および第4脚部(24d)は現状を維持する。
【0061】
このような冷却能のバランス状態は、4つの脚部のうちの第1脚部(24a)の第1通路(26a)にのみ冷媒を流通させることにより実現できる。第1通路(26a)にのみ冷媒を流通させるには、第2開口部(27b)、第3開口部(27c)および第4開口部(27d)を閉塞するようにバルブ(29)を設定し、第1開口部(27a)を冷媒給排装置(30)に連通させて第1通路(26a)に冷媒を供給する。第2〜第4開口部(27b)(27c)(27d)開口部は閉じられているので、第1通路(26a)に供給した冷媒は、第2〜第4通路(26b)(26c)(26d)に入ることができず、先端が開放されているマンドレル(22)内部の第5通路(26e)に入り第5開口部(27e)から排出される。これにより、第1脚部(24a)のみが冷却されて第2〜第4脚部(24b)(24c)(24d)は冷却されない。
【0062】
また、第5通路(26e)はマンドレル(22)の軸心に設けられており、マンドレル(22)は周方向に均一な冷却を受けるので、軸線の移動に影響を与えない。脚部(24)の冷却のみに着目すると、マンドレル(22)の第5通路(26e)は冷媒の排出路として利用されるのであるが、第5通路(26e)に冷媒を流通させることにより、ベアリング部(25)を冷却して摩耗や焼き付きを抑制し、かつ押出直後の押出材(1)を内部から冷却するという効果が付加される。
【0063】
冷却の程度は、冷媒温度の昇降および/または冷媒流量の増減によって調節することができるので、偏肉量に応じてこれらを適宜調節すれば良い。冷媒流量は各冷媒用通路を流れる単位時間あたりの冷媒量として規定することができる。冷媒温度および冷媒流量は、脚部毎に独立して制御できるので、複数の脚部に対してより細かく精度の高い冷却制御を行うことができる。ひいては、押出材の断面寸法の僅かな変化にも対応することができる。
【0064】
また、同様の方法により他の任意の脚部に冷媒を流通させることができる。
【0065】
〔制御例2〕
図4Aは、4つの脚部(24a)(24b)(24c)(24d)に冷媒を流通させずに押出を行い、マンドレル(22)の軸線が第1脚部(24a)と第2脚部(24b)の間の右上方向に傾いている状態を示している。このため、図4Bに示すように、押出材(1)は、第1脚部(24a)と第2脚部(24b)の間に対応する右上部分(P)が薄肉となり、その対向位置である第3脚部(24c)と第4脚部(24d)との間に対応する左下部分(P)が厚肉となっている。このような偏肉に対しては、第3脚部(24c)および第4脚部(24d)を冷却すれば軸線の傾きを正常位置に修正することができる。従って、第1開口部(27a)および第2開口部(27b)を閉じて、第3開口部(27c)および第4開口部(27d)から第3通路(24c)および第4通路(24d)に冷媒を供給し、第1通路(24a)および第2通路(24b)に冷媒が進入しないようにすれば偏肉を軽減ないし解消することができる。供給した冷媒はマンドレル(22)先端の第5開口部(27e)から排出される。
【0066】
上述した2つの制御例は、脚部に冷媒を流通させていない状態を仮の冷却条件とし、この仮の冷却条件で偏肉が発生した場合の対処方法であり、特定の脚部に冷媒を流通させることは、仮の冷却条件よりも冷却を強めることを示している。従って、例えば、4つの脚部に冷媒を流通させた状態で偏肉が生じたならば、特定の脚部に流通させる冷媒温度を下げるまたは冷媒流量を増加することによってその特定の脚部の冷却を強めることができる。また、冷却の強弱は相対的なものであるから、他の脚部に供給する冷媒温度の上昇または冷媒流量の減少によって冷却を弱め、特定の脚部の冷却を相対的に強めることによっても偏肉を軽減ないし解消することができる。例えば、偏肉が生じた押出材の薄肉部分に対応する脚部の冷却を弱めるようにしても偏肉を軽減ないし解消することができる。
【0067】
〔他の制御方法〕
前記バルブ(29)および冷媒給排装置(30)は4つの開口部(27a)(27b)(27c)(27d)で独立して制御可能であり、バルブ(29)の切り換えと冷媒の給排を組み合わせることにより種々の流通経路を設定することができる。
【0068】
例えば、第1開口部(27a)および第3開口部(27c)を閉じ、第2開口部(27b)を大気に開放するようにバルブ(29)を調節し、第4開口部(27d)を冷媒給排装置(30)に連通させて冷媒を供給すれば、冷媒は第4通路(24d)から第2通路(24b)を通って第2開口部(27b)から排出される。
【0069】
また、脚部(24)のいずれかの開口部(27a)(27b)(27c)(27d)から吸引すれば、押出材(1)の中空部(2)の冷媒(空気を含む)がマンドレル(22)の第5開口部(27e)から第5通路(26e)に引き込まれ、吸引した開口部に対応する脚部(24a)(24b)(24c)(24d)を通り、開口部から排出させることができる。即ち、上述した2つの制御例とは逆方向に冷媒を流通させることができる。この逆方向の冷媒流通においても、任意の開口部(27a)(27b)(27c)(27d)を閉塞することにより、対応する脚部(24a)(24b)(24c)(24d)に冷媒を流通させないようにすることができる。
【0070】
また、冷媒の供給と吸引を組み合わせることによっても流通経路を選択することができる。例えば、第3開口部(27c)および第4開口部(27d)を閉塞し、第1開口部(27a)で供給を行うとともに第2開口部(27b)で吸引を行えば、冷媒は第1脚部(24a)から第2脚部(24b)に流通し、第3脚部(24c)、第4脚部(24d)およびマンドレル(22)には流通しない。
【0071】
さらに、冷媒はダイスとの熱交換により冷媒用通路(26)を進むに従って温度が上昇して冷却能力が低下していくため、どのような流通経路を選択した場合でも、冷媒の供給口付近の冷却が最も強く、排出口付近の冷却が最も弱くなる。例えば第1開口部(27a)から第1通路(24a)に供給した冷媒を、第3通路(24c)を通って第3開口部(27c)に排出させれば、第1脚部(24a)は第3脚部(24c)よりも強く冷却され、自ずと冷却能に差が生じる。このような流通中の冷却能力の低下もまた、複数の脚部に対する冷却能のバランスの制御に利用することができる。
【0072】
脚部の冷却条件は押出中に変更することができるので、押出中に偏肉を調査してその結果を冷却条件にフィードバックすれば押出中に偏肉を修正することができる。以下は、偏肉を解消するためのフィードバック制御例である。
(1)冷却条件の初期設定として、4つの開口部から同一温度の冷媒を同一流量で供給しながら押出を行う。
(2)押し出された押出材から試験用サンプルを採取して寸法を測定し、偏肉量を調べる。
(3)偏肉を検知した場合は、肉厚の厚い部分に最も近い脚部の冷却が最も強くなるように冷却条件を変更する。偏肉位置によっては、2番目に近い脚部の冷却が2番目に強くなるように冷却条件を変更する。冷却能のバランス調節は相対的な調節であるから、強く冷却したい脚部への冷媒流量の増加または冷媒温度の低下であっても良いし、弱く冷却したい脚部(肉厚の薄い部分)への冷媒流量の減少または冷媒温度の上昇であっても良い。
(4)偏肉が修正されるまで(2)(3)のステップを繰り返す。なお、偏肉が生じていない場合は、同じ冷却条件で押出を続行して押出材の断面寸法を維持する。
【0073】
以上は、押出材の偏肉を解消することを目的とした制御例である。しかし、本発明の方法は、偏肉を解消して周方向における肉厚を一定にすることに限定されるものではない。マンドレルの軸線の傾き状態を変化させることは、押出材の断面における寸法を変化させることであるから、複数の脚部の冷却能のバランスを制御することによって意図的に厚肉部分や薄肉部分を生じさせることが可能である。また、押し出しながら断面寸法を変化させることが可能であるから、押出方向に沿って断面形状が変化する可変断面の押出材を成形することもできる。
【0074】
さらに、本発明の押出材の製造方法は、その適用範囲を偏肉の軽減ないし解消のみに限定するものではない。上記構成の押出装置においては、押出ダイスの脚部の冷媒用通路の開口部に配置したバルブの開閉切り換えと冷媒給排装置における冷媒の給排切り換えとの組み合わせにより、押出ダイスの冷媒用通路における冷媒の流通経路が設定され、前記冷媒給排装置における冷媒の給排量により、冷媒用通路における冷媒流量(流通停止を含む)が設定され、要すればさらに冷媒温度を調節することにより、脚部の冷却能を任意に設定できるので、押出におけるダイスの脚部の冷却制御に広く利用できる。
【0075】
〔冷媒〕
本発明において使用する冷媒は気体、液体のいずれでも良いが、非酸化性の冷媒を推奨できる。非酸化性冷媒を用いるのは、押出材(1)の内周面(2a)を酸化させないためである。気体冷媒として、空気、窒素ガス、アルゴンガスを例示でき、液体冷媒として、水、液体窒素を例示できる。液体冷媒は中空部(2)内で気化し、気化熱によっても冷却効果が得られる。冷媒としては上に挙げた液体冷媒と気体冷媒の混合物でも良く、液体冷媒と気体冷媒の混合物の場合には冷却効果の調節が容易である。更には液体冷媒と気体冷媒の混合物の中でも気体冷媒中に液体冷媒の粒を浮揚させた混合物、いわゆるミストにしたものを用いても良い。冷媒として該ミストを用いた場合には調節した冷却効果を安定化する効果が得られる。なお、冷媒として室温の空気を用いる場合は、冷媒の貯蔵タンクを必要としないので押出の周辺装置を簡略化できる。
【0076】
さらに、冷媒をマンドレル側から供給して脚部に排出させる場合は、押出材(1)の先端側に供給手段を設けて積極的に供給すれば、冷却効果を高めることができる。具体的には、冷媒供給用ノズルを中空部(2)に向けて配置し、中空部(2)内に吐出した冷媒を第5開口部(27e)から吸引させる。押出材(1)の進行ともにノズルを移動させるようにすれば、押し出しながら冷媒を供給することができる。
【0077】
〔押出ダイス〕
本発明の押出ダイスにおいて脚部の数は何ら限定されない。また、マンドレルを支持する脚部に冷媒用通路が設けられていれば足り、マンドレルの冷媒用通路は必須の構成要件ではない。従って、マンドレルに冷媒用通路が設けられていない押出ダイス、およびこの押出ダイスを用いて脚部の冷却能または冷却能のバランスを制御して押出材を製造する方法も本発明に含まれる。
【0078】
一方、図示した実施形態のように、マンドレルの脚部の冷媒用通路に連通する冷媒用通路を設けた場合は、マンドレルの冷却も同時に行えるという効果が付加される。また、冷媒の流通経路の選択肢が増えるので、脚部の冷却能のバランスをより高い精度で制御することができる。
【0079】
また、複数の脚部の全てに冷媒用通路が設けられていることにも限定されず、冷媒用通路が設けられていない脚部が存在している場合も本発明に含まれる。一部の脚部に冷媒用通路が設けられていれば、相対的に冷却能の強弱を形成できるのでマンドレルの軸線を変化させることができるからである。しかし、全ての脚部に冷媒用通路が存在する方が、流通経路の選択肢が増えるのでより高い精度で冷却制御を行うことができるという点で好ましい。
【0080】
さらに、押出材の断面形状は、図示例の円筒管や周方向における肉厚が一定の管材にも限定されない。所期形状として周方向における肉厚が一定ではなく肉厚が変化する、異形断面の押出材も本発明の適用対象である。かかる異形断面押出材において、肉厚の厚い部分や薄い部分は、マンドレルの不本意な傾きによって生じた偏肉による厚肉部分や薄肉部分には該当しない。上述した制御例における偏肉とは、所期する肉厚に対して過不足が生じた状態であり、偏肉による厚肉部分や薄肉部分と、所期形状としての厚肉部や薄肉部とは明確に区別される。従って、例えば、所期形状としての厚肉部において肉厚不足が生じた場合は、偏肉による薄肉部分であり、冷却状態の制御により相対的に冷却を弱める対象となる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の方法は、押し出しながら押出材の断面寸法を変化させることができるので、中空押出材の偏肉の解消に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…押出材
2a…内周面
10…ポートホールダイス
11…雌型
20…雄型(押出ダイス)
22…マンドレル
24…脚部
24a…第1脚部
24b…第2脚部
24c…第3脚部
24d…第4脚部
25…ベアリング部
26…冷媒用通路
26a…第1通路
26b…第2通路
26c…第3通路
26d…第4通路
26e…第5通路
27a…第1開口部
27b…第2開口部
27c…第3開口部
27d…第4開口部
27e…第5開口部
29…バルブ
30…冷媒給排装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスを用いて押出成形するに際し、
前記各冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して複数の脚部に対する冷却能のバランスを変化させることにより、前記マンドレルの軸線の傾き状態を制御することを特徴とする押出材の製造方法。
【請求項2】
押し出しながら冷却能のバランスを変化させる請求項1に記載の押出材の製造方法。
【請求項3】
偏肉が生じた押出材の厚肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に強めるように冷媒の流通状態を制御し、マンドレルの軸線の傾き状態を修正して偏肉を軽減ないし解消する請求項1または2に記載の押出材の製造方法。
【請求項4】
偏肉が生じた押出材の薄肉部分に対応する脚部の冷却を相対的に弱めるように冷媒の流通状態を制御し、マンドレルの軸線の傾き状態を修正して偏肉を軽減ないし解消する請求項1〜3のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【請求項5】
前記冷媒の流通状態の制御を、冷媒温度の昇降および冷媒流量の増減のうちの少なくとも一方によって行う請求項1〜4のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【請求項6】
前記冷媒の流通状態の制御を脚部毎に独立して行う請求項5に記載の押出材の製造方法。
【請求項7】
前記冷媒の流通状態の制御を流通経路の選択によって行う請求項1〜6のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【請求項8】
前記冷媒用通路の開口部は開閉自在であり、一部の開口部を閉塞することにより流通経路の選択を行う請求項7に記載の押出材の製造方法。
【請求項9】
前記冷媒用通路の開口部において、冷媒の給排設定により流通経路の選択を行う請求項7または8に記載の押出材の製造方法。
【請求項10】
前記マンドレルは先端面に開口部を有する冷媒用通路を備え、該冷媒用通路は脚部の冷媒用通路に連通し、前記マンドレルの開口部から冷媒の給排を行う請求項1〜9のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【請求項11】
押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスと、
前記押出ダイスの冷媒用通路の開口部に配置され、開口部の開閉を切り換えるバルブと、
前記バルブに連通して配置され、前記開口部を介して冷媒用通路に冷媒の給排を行う冷媒給排装置とを備えることを特徴とする押出装置。
【請求項12】
前記押出ダイスは、脚部の冷媒用通路に連通し、マンドレルの内部を通って先端面に開口する冷媒用通路を有する、請求項11に記載の押出装置。
【請求項13】
前記バルブの切り換えおよび冷媒給排装置の給排は、脚部毎に独立して設定可能となされている請求項11または12に記載の押出装置。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載の押出装置を用いて押出成形するに際し、
バルブの開閉切り換えと冷媒給排装置における冷媒の給排切り換えとの組み合わせにより、押出ダイスの冷媒用通路における冷媒の流通経路を設定するとともに、
前記冷媒給排装置における冷媒の給排量により、流通停止を含む冷媒用通路における冷媒流量を設定することを特徴とする押出材の製造方法。
【請求項15】
前記冷媒給排装置において、温度調節された冷媒を冷媒用通路に供給する請求項14に記載の押出材の製造方法。
【請求項16】
前記冷媒流量および冷媒温度のうちの少なくとも一方を脚部毎に独立して設定する請求項15に記載の押出材の製造方法。
【請求項17】
押出中に、冷媒の流通経路、冷媒流量、冷媒温度のうちの少なくとも1つを変更する請求項14〜16のいずれかに記載の押出材の製造方法。
【請求項18】
押出材の内周面を成形するマンドレルが複数の脚部によって支持され、前記脚部の内部に冷媒用通路が設けられた押出ダイスを用いて押出成形するに際し、
押出中に押出材の寸法を測定し、その測定値に基づいて前記各冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して複数の脚部に対する冷却能のバランスを制御しながら押し出すことを特徴とする押出システム。
【請求項19】
測定値により押出材の偏肉を検出したときに、その偏肉が解消されるように複数の脚部に対する冷却能のバランスを制御する請求項18に記載の押出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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