説明

押出用ダイスの製造方法および押出用ダイス

【課題】押出用ダイスの製造において、ベアリング部に表面処理による特性を付与しつつ、表面処理コストを低減する。
【解決手段】ダイス(20)を、押出方向においてベアリング部(25)を含む主型(21)とベアリング部(25)を含まない副型(31)とに分割して成形し、成形した主型(21)のみに対して表面処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム等の金属の押出加工に用いる押出用ダイスの製造方法および押出用ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
押出材は、寸法精度や表面平滑度が優れ、かつ形状の自由性により、広い分野で用いられている。
押出加工に用いるダイスは、強度と耐摩耗性が要求されることから工具鋼を母材とし、さらにベアリング部の耐摩耗性を高めるために窒化処理等の処理によって表面を硬化させている(特許文献1、2参照)。
【0003】
図6は窒化処理が施される押出用ダイスの一例であり、中空材の外周面を成形する雌型(41)と内周面を成形する雄型(42)との組合せたポートホールダイス(40)である。前記雄型(42)は、前方に突出するマンドレル(43)と、このマンドレル(43)の周囲に押出方向に貫通する複数のポートホール(44)を有し、隣接するポートホール(44)(44)間には前記マンドレル(43)を基端部で支持するブリッジ(45)が形成されている。また、この雄型(42)の前面側には溶着室溶凹部(46)が設けられている。一方、雌型(41)は中央部に設けられたベアリング孔(47)と、このベアリング孔(47)の前方側に連なって設けられたリリーフ孔(48)と、後方側に連なって設けられた溶着室用凹部(49)とを備えている。そして、雌型(41)と雄型(42)とを組み合わせると、雌型(41)のベアリング孔(47)内に雄型(42)のマンドレル(43)のベアリング部が嵌り込んで両者の間に環状の成形用間隙が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−56368号公報
【特許文献2】特開2002−241921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化処理等の表面硬化処理は、ダイスを、窒素ガスを含む処理用ガス中で加熱保持することにより行われ、ベアリング部のみならずダイス全体に窒化処理が施されることになる。窒化処理コストはダイス重量と比例するため、ダイス全体を窒化処理することで多大なコストがかかっている。
【0006】
図6に示すように、ポートホールダイスの雄型(42)は、突出するマンドレル(43)を有しかつポートホール(44)とポートホール(44)を繋ぐブリッジ(45)を有することで雌型(41)よりも形状が複雑であり、かかる複雑形状のダイスには押出方向に相応の厚みが必要となる。このため、雄型(42)の重量は、ベアリング部を含むマンドレル(43)に対してその他の部分の占める割合が極めて大きく、このことが窒化処理コストを押し上げる原因となっている。しかも、硬化させたくない部分にはマスキングをした上で窒化処理をしなければならない(特許文献2参照)。
【0007】
かかる問題点は、窒化処理のみならず、バッチ式で行う表面処理に共通の問題点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、ベアリング部に表面処理による特性を付与しつつ、表面処理コストを低減できる押出用ダイスの製造方法および押出用ダイスを目的とする。
【0009】
即ち、本発明の押出用ダイスの製造方法および押出用ダイスは、下記[1]〜[5]に記載の構成を有する。
【0010】
[1]ダイスを、押出方向においてベアリング部を含む主型とベアリング部を含まない副型とに分割して成形し、成形した主型に対して表面処理を行うことを特徴とする押出用ダイスの製造方法。
【0011】
[2]前記ダイスは中空の押出材の外周部を成形する雌型と内周部を成形する雄型とを組み合わせたポートホールダイスであり、少なくとも雄型を主型と副型とに分割する前項1に記載の押出用ダイスの製造方法。
【0012】
[3]前記主型を副型よりも薄くなるように分割する前項1または2に記載の押出用ダイスの製造方法。
【0013】
[4]前記表面処理は窒化処理である前項1〜3のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【0014】
[5]押出方向においてベアリング部を含む主型とベアリング部を含まない副型とに分割され、前記主型に表面処理が施されていることを特徴とする押出用ダイス。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]に記載の発明によれば、ベアリング部を含む主型に表面処理が施され、副型には表面処理が施されないので、ベアリング部に表面処理による特性を付与しつつ、ダイス全体の表面処理コストを低減できる。
【0016】
上記[2]に記載の発明は、押出方向の厚みが大きいポートホールダイスの雄型を分割して主型に表面処理を施すものであるから、表面処理コストの低減効果が顕著である。
【0017】
上記[3]に記載の発明によれば、表面処理コストの低減効果が特に大きい。
【0018】
上記[4]に記載の発明によれば、ベアリング部を含む主型の表面を硬化させることができる。
【0019】
上記[5]に記載の発明によれば、ベアリング部を含む主型に表面処理が施されているので、ベアリング部にはその表面処理による特性が付与されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の押出用ダイスの一実施形態であるポートホールダイスを装備した押出工具と押出機の模式的断面図である。
【図2】図1のポートホールダイスの分解斜視図である。
【図3A】ポートホールダイスの雌型を後側から見た平面図である。
【図3B】図3Aの3B−3B線断面図である。
【図4A】ポートホールダイスの雄型の主型を前側から見た平面図である。
【図4B】図4Aの4B−4B線断面図である。
【図5A】ポートホールダイスの雄型の副型の後側から見た平面図である。
【図5B】図5Aの5B−5B線断面図である。
【図6】従来のポートホールダイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明における押出用ダイスとは、押出機の前端に配置される押出工具の構成部材のうちで、その押出材の専用となる部分である。ダイスの後方に配置するプレート、前方に配置するバッカーおよびボルスタ、これらを装填するダイリング等は、異なる形材の押出を行う際にも共用する構成部材であるから、本発明の押出用ダイスには含まれない。また、共用する構成部材の種類も限定されない。
【0022】
図1は、ポートホールダイス(1)を含む押出工具(2)の一例である。押出工具(2)において、ポートホールダイス(1)の後端面に隣接して材料流れを制御するプレート(3)が配置され、前端面に隣接してバッカー(4)が配置されている。前記ポートホールダイス(1)、プレート(2)およびバッカー(4)はダイリング(5)内に収容され、さらにその前にボルスタ(6)が配置されている。また、(7)は押出機のコンテナ、(8)はビレットである。
前記押出工具(2)の構成部材のうち、ポートホールダイス(1)が押出材毎に専用される部分であり、本発明における押出用ダイスに対応する。
【0023】
図2〜図5Bに示すように、前記ポートホールダイス(1)は、中空の押出材の外周面を成形する雌型(10)と内周面を成形する雄型(20)との組み合わせダイスである。
【0024】
雌型(10)は、中央部に設けられたベアリング孔(11)と、このベアリング孔(11)の前方側に連なって設けられたリリーフ孔(12)とを備え、ベアリング孔(11)の周囲には溶着室用凹部(13)が後端面に開口して設けられている。さらに、後端面の外周縁には雄型(20)との合わせ位置を決めるための係合凸部(14)が形成されている。
【0025】
雄型(20)は、押出方向において前方の雌型(10)に当接する主型(21)と後方のプレート(3)に当接する副型(31)とに二分割されている。
【0026】
前記主型(21)は、前方に突出するマンドレル(22)と、このマンドレル(22)の周囲に押出方向に貫通する4個のポートホール(23)を有し、隣接するポートホール(23)(23)間には前記マンドレル(22)を基端部で支持するブリッジ(24)が形成されている。前記マンドレル(22)の先端側の周面にはベアリング部(25)が突設されている。前記ブリッジ(24)は雌型(10)との合わせ面から後方に退入した位置から後方に設けられているため、マンドレル(22)の周囲には溶着室用凹部(26)が形成されている。また、外周面の前面側は径を小さくした段部(27)が形成され、この段部(27)に雌型(10)の係合凸部(14)が係合されるものとなされている。一方、副型(31)は、押出方向に貫通する4個のポートホール(33)を有し、隣接するポートホール(33)の間はブリッジ(34)を形成している。
【0027】
雄型(20)の主型(21)のポートホール(23)と副型(31)のポートホール(33)とは断面形状および位置が同一であって主型(21)および副型(31)の合わせ面は平面視同一形状であり、主型(21)と副型(31)とを合わせると両方の4つのポートホール(23)(33)が完全に一致して連通する。
【0028】
さらに、前記雌型(10)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(10)のベアリング孔(11)内に雄型(20)のマンドレル(22)のベアリング部(25)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(10)の溶着室用凹部(13)と雄型(10)の溶着室用凹部(26)とが合わさって溶着室を形成する。そして、4個のポートホール(33)(23)から流入したビレット(8)が溶着室で合流し、前記成形用間隙から中空の押出材が押し出される。
【0029】
上述したポートホールダイス(1)は、工具鋼からなる原材から、雌型(10)用、雄型(20)の主型(21)用、副型(31)用の素材をそれぞれ切り出し、切削加工により最終形状近くまで加工した上で、放電加工によりベアリング孔(11)およびベアリング部(25)を成形する。さらに、ベアリング孔(11)を含む雌型(10)およびベアリング部(25)を含む雄型(20)の主型(21)に対して窒化処理等の表面処理を施す。雄型(20)の副型(31)はベアリング部(25)を含まないので表面処理を施すことなくそのまま用いる。雄型(20)の主型(21)に表面処理を施し、副型(31)に表面処理を施さないことで、押出材を成形するべアリング部(25)に表面処理による特性、窒化処理であれば硬度を付与しつつ、雄型(20)の表面処理コストを低減できる。特に、ポートホールダイス(1)の雄型(20)は、マンドレル(22)、ポートホール(23)、ブリッジ(24)を有する複雑形状であるために押出方向の厚みが大きいことから、ダイスを分割して主型(21)にのみ表面処理を施すことによって表面処理コストを大幅に低減できる。ポートホールダイスに限らず、中空材を押出すホローダイスは、形状が複雑で押出方向の厚みが大きいことから、分割による上記効果は大きい。
【0030】
表面処理を施す主型(21)において、表面処理をしたくない部分があれば、その部分にマスキングをした上で処理を行う。分割することなくダイス全体に表面処理を施す場合に比べると、マスキングを要する面積も小さくて済むのでマスキングコストも低減できる。
【0031】
さらに、ダイスを分割することによって個々の型の厚みが薄くなるので、ダイス素材に対する切削加工において厚み方向の加工線が短くなる。そして、加工線が短くなったことで加工作業性が向上するとともに、寸法精度も向上する。
【0032】
前記ポートホールダイス(1)では雄型(20)のみを分割したが、雌型(10)を、ベアリング孔(11)を含む主型とベアリング孔(11)を含まない副型とに分割して、主型のみに表面処理を施すこともできる。図示例の雌型(10)は雄型(20)に比べて押出方向の厚みが小さいが、分割すれば相応の効果を得ることができる。複数のダイスで構成される組み合わせダイスにおいては、全てのダイスを主型と副型とに分割することは要さず、少なくとも一つのダイスを分割すれば本発明の方法を適用できる。前記ポートホールダイス(1)では、雌型(10)および雄型(20)の少なくとも一方を分割して主型に表面処理を施した場合は本発明に含まれる。
【0033】
本発明は、中空の押出材を成形するホローダイスに限定されるものではなく、中実の押出材を成形する平ダイスにも適用して分割による効果を得ることができる。
【0034】
いずれのダイスにおいても、ベアリング部を避けて分割する限り分割の位置や分割数は限定されない。副型が2個以上であっても良い。分割の位置、即ち分割された各型の厚さも限定されないが、表面処理コストの低減効果を確保するためにはベアリング部を含む主型がベアリング部を含まない副型よりも薄くなるように分割することが好ましい。主型の厚さと副型の厚さの合計を100%としたとき、主型の厚さを40〜50%の範囲に設定することが特に好ましい。主型の厚さとして40%以上を推奨するのは、ベアリング部の強度と寸法精度を確実に得る上で好ましいからであり、40%を下回って薄くなるほどベアリング部の強度と寸法精度の確保が困難となる。一方、主型の厚さとして50%以下を推奨するのは、主型が厚くなるほど表面処理コストの低減効果が少なくなるためである。
【0035】
図2等に示したポートホールダイス(1)の雄型(20)では、ベアリング部(25)を含む主型(21)を副型(31)よりも薄くなるように分割している。なお、図示例のポートホールダイス(1)において、雄型(20)の厚さは雌型(10)との合わせ面から雄型(20)の後端面までの距離として定義され、マンドレル(22)の突出高さは含まれない。従って、主型(21)の厚さは雌型(10)との合わせ面から副型(31)との分割線までの距離であり、副型(31)の厚さは分割線から後端面までの距離である。
【0036】
本発明の押出用ダイスの製造方法における表面処理は、ベアリング部のみに必要とされる処理である限り処理の種類を問わず適用できる。表面処理として、ボロン処理、窒化処理、軟窒化処理、ガス軟窒化処理、放電表面処理を例示できる。いずれの表面処理においても、ベアリング部を含む主型にのみ表面処理を施すことにより、ベアリング部に表面処理による特性を付与しつつ、ダイス全体の表面処理コストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、表面処理が施される押出用ダイスであれば、その形状に拘わらず適用して表面処理コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…ポートホールダイス(押出用ダイス)
10…雌型
11…ベアリング孔(ベアリング部)
20…雄型(押出用ダイス)
21…主型
25…ベアリング部
31…副型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスを、押出方向においてベアリング部を含む主型とベアリング部を含まない副型とに分割して成形し、成形した主型に対して表面処理を行うことを特徴とする押出用ダイスの製造方法。
【請求項2】
前記ダイスは中空の押出材の外周部を成形する雌型と内周部を成形する雄型とを組み合わせたポートホールダイスであり、少なくとも雄型を主型と副型とに分割する請求項1に記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項3】
前記主型を副型よりも薄くなるように分割する請求項1または2に記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項4】
前記表面処理は窒化処理である請求項1〜3のいずれかに記載の押出用ダイスの製造方法。
【請求項5】
押出方向においてベアリング部を含む主型とベアリング部を含まない副型とに分割され、前記主型に表面処理が施されていることを特徴とする押出用ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−194572(P2010−194572A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42008(P2009−42008)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】