説明

押出積層成形体

【課題】ABS樹脂を用い、耐湿性や耐候性に優れ、木質・木調の外観を持ち、衝撃を受けても割れにくい、薄手の樹脂押出積層成形体の提供。
【解決手段】芯材部と表層部とを有し、芯材部と表層部とを合わせた全体厚さは0.5mm以上4mm以下であり、表層部の厚さは0.2mm以上かつ全体厚さの半分以下である樹脂押出積層成形体であって、芯材部は木粉の含有量が5重量%以下であるABS樹脂組成物からなり、表層部は木粉の含有量が15重量%以下であるAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂押出積層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築資材としての樹脂押出成形体に関し、とくに木質・木調の外観を持つ、薄手の樹脂押出積層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木材に替わる建築用資材である木質・木調様資材として、木粉を配合した熱可塑性樹脂の押出成形体がフェンス、デッキ、バルコニー、手すり、サイディング、ルーバーなどに使用されている。これらの押出成形体では、より木質・木調感を出すために、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂に木粉が多量に配合充填されている成形用樹脂組成物が使われている。
【0003】
しかしながら、木粉の含有量が多いと成形体の強度が低下し、成形体の厚さを厚くしないと、衝撃受けた場合に割れてしまうことが多かった。そのため通常、成形体の厚さは5mm以上に成形され、厚さが4mm以下の薄手の成形体は木質・木調様資材としてはほとんど製作されていなかった。木粉入りの木質・木調様資材としての薄手の成形体は軽量化や他の材料との組み合わせが容易であり、さらにコストの面からも薄手の資材が望まれていた。
【0004】
また、多量の木粉の配合充填は、樹脂押出成形体の耐湿性や耐候性の低下をもたらす。そのため、成形体を芯材部と表層部の多層積層体とし、芯材部は木粉配合量の多い樹脂組成物を使用し、表層部は木粉配合量のより少ない樹脂組成物を使用することで、耐湿性や耐候性の向上を図ることが提案されている(特許文献1〜3を参照)。また、成形性、耐衝撃性や表面特性に優れるABS樹脂も良く使われるが、ABS樹脂を使用した場合には、ABS樹脂自体にも吸湿性があり、耐候性についてもより改良が望まれている。
【0005】
さらには、木粉が多量に含有されていると、組成物の流動性が乏しく、薄手の成形体を製造することが難しい。そのうえ、木粉が多量に配合されている成形用樹脂組成物の押出成形では押出機での混練を必要とし、さらに組成物の流動性が乏しく、二軸スクリューによる押出機などを用いる必要があり、一般の押出成形体の成形機との共用はできなかった。そして、木粉が多量に配合されている樹脂組成物は押出機による成形に先立つ乾燥が不十分であると、木粉の含有水分による成形工程でのトラブルも多かった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−301670号公報
【特許文献2】特開2002−338699号公報
【特許文献3】特開2004−174721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明の課題は、ABS樹脂を用い、耐湿性や耐候性に優れ、木質・木調の外観を持ち、衝撃を受けても割れにくい、薄手の樹脂押出積層成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は種々検討の結果、芯材部と表層部とを有し、芯材部と表層部とを合わせた全体厚さは0.5mm以上4mm以下であり、表層部の厚さは0.2mm以上かつ全体厚さの半分以下である樹脂押出積層成形体であって、芯材部は木粉の含有量が5重量%以下であるABS樹脂組成物からなり、表層部は木粉の含有量が15重量%以下であるAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物から構成することで、薄手の樹脂押出積層成形体を得ることができ、上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
また、表層部は有色顔料樹脂組成物が混合されたAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物からなることが好ましい。ここで、有機顔料組成物とは、有色顔料を熱可塑性樹脂に配合し、溶融混練し、ペレット化したいわゆるマスターバッチと称されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂押出積層成形体は、芯材部が木粉の含有量が5重量%以下であるABS樹脂組成物からなり、木粉の含有量が15重量%と比較的多い表層部の厚さは、全体の厚さの半分以下であるため、強度に優れ、全体の厚さが4mm以下であるにもかかわらず、衝撃を受けても割れにくい薄手の樹脂押出積層成形体とすることができる。さらに、木粉の含有量の少ないABS樹脂組成物により芯材部が構成され、表層部も木粉の含有量が15重量%以下のAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物であり、各樹脂組成物の流動性もよく、押出成形作業性にも優れ、薄手の成形体とすることができる。
【0011】
また、木粉の含有量が少ないため、耐湿性、耐候性に優れ、かつ綺麗な木質・木調の外観を持つものとなり、フェンス、デッキ、バルコニー、手すり、サイディング、ルーバーなどに木質・木調の建築材として好適に適用できる。表層部は、芯材部に比較して木粉の含有量は多いが、15重量%以下の含有量のAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物としているため外観は木質・木調を持ち、強度にも優れ、薄手の樹脂押出積層成形体とすることができ、さらに耐候性にも優れたものとなっている。そのため、外部からの衝撃受ける場合が多い外装用建築材でも薄手の樹脂押出積層成形体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のABS樹脂とは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体からなる熱可塑性樹脂であり、AAS樹脂とはASA樹脂とも称され、ABS樹脂のブタジエンゴムをアクリルゴム系に代替したものであり、AES樹脂とは同じくEPDMゴム(エチレンプロピレンゴム)系に代替したものであり、耐衝撃性に優れた高機能スチレン系樹脂として、ABS樹脂と共に市販供給されているものである。
【0013】
樹脂組成物に配合される木粉としては、針葉樹、広葉樹などの木材を粉砕したものであり、粒径は特に限定されるものではないが20〜250メッシュ程度のものが使用される。木材を粉砕したもの以外にも、植物繊維の粉砕品も用いることができ、樹皮、廃木材、竹、穀物殻などを粉砕したものも使用できる。
【0014】
芯材部を構成する樹脂組成物は、ABS樹脂を主成分とし、木粉の含有量は5重量%以下としたものである。木粉の含有量が5重量%を超えると、強度が低下し、ABS本来の強度を維持できず、薄手の樹脂押出積層成形体を得ることができないばかりでなく、吸湿性に劣り樹脂押出積層成形体も耐候性に問題を生じる。そのため、芯材部を構成する樹脂組成物は木粉の含有量をなるべく少なくして、芯材部を構成する樹脂組成物に樹脂押出積層成形体の再生樹脂を混ぜて使用する場合では、木粉の含有量の多い表層部が混入しても、木粉の含有量が上限の5重量%を超えないように調整する必要がある。
【0015】
表層部を構成する樹脂組成物は、AAS樹脂もしくはAES樹脂を主成分とし、木粉の含有量は15重量%以下としたものである。表層部を構成する樹脂組成物は、樹脂押出積層成形体の木質・木調の外観・風合いを持たせるため、芯材部に比較し、より多くの木粉を含有させ、0.5重量%以上含有させることが好ましい。しかし、樹脂本来の強度を維持して薄手の樹脂押出積層成形体を可能にし、吸湿性や耐候性を維持するためには含有量は15重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。また15重量%を超えると、強度が低下し薄手の樹脂押出積層成形体とすると割れやすくなるばかりでなく、樹脂組成物の溶融粘度が大きくなり、成形時の流動性に劣り、精度良く薄い表層部を成形することができなくなる。
【0016】
芯材部や表層部を構成する樹脂組成物には、通常の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の添加剤が配合されるほか、必要に応じて炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレーなどの無機質充填剤を配合してもよい。このような、木粉および添加剤や必要に応じて配合された無機質充填材を含む樹脂組成物は、それぞれ成形加工に先立ち、これらをブレンダーやミキサーでドライブレンドし、そのまま成形加工工程に供してもよいし、さらに押出機などにより溶融混練し、樹脂組成物をペレット化して成形加工工程に供してもよい。
【0017】
さらに樹脂組成物には、木質・木調をより強調するために、有色顔料を加えることが好ましい。有色顔料としては通常の樹脂成形品に用いられる各種の有機または無機の顔料が用いられる。有機顔料は成形加工に先立ち、上記のように、木粉と共に樹脂組成物に直接加え着色樹脂組成物とし、成形工程に供してもよい。しかし、木質・木調の外観・風合いをより効果的に現出させるためには、有色顔料を熱可塑性樹脂に配合し、溶融混練し、ペレット化した有色顔料樹脂組成物(マスターバッチ)を、表層部を構成する樹脂組成物のペレットとドライブレンドして、押出成形加工に供して表層部を構成させることが好ましい。
【0018】
有色顔料樹脂組成物において、有色顔料と配合する熱可塑性樹脂は、必ずしも表層部を構成する樹脂組成物のAAS樹脂やAES樹脂と同じものでなくともよく、AAS樹脂やAES樹脂に溶融混合するものであればよい。また、異なる溶融粘度の複数の有色顔料樹脂組成物を組み合わせることにより、流動性の相異により、木質・木調の外観・風合いを現出させることもできる。
【0019】
本発明では木粉の含有量は芯材部を構成するABS樹脂組成物で5重量%以下、表層部を構成するAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物で15重量%以下、好ましくは10重量%以下であるため、強度があり、薄手の樹脂押出積層成形体としても外部からの衝撃を受けても割れにくい。さらに、これらの樹脂組成物は流動性にも優れ、押出成形においての成型加工性がよく、これらの樹脂組成物を使用した樹脂押出積層成形体は精度良く成形できるため、薄手の積層成形体とすることが可能である。本発明における樹脂押出積層成形体は薄手の成形体であり、芯材部と表層部とを合わせた全体厚さが0.5mm以上4mm以下、好ましくは3mm以下であり、表層部の厚さが0.2mm以上かつ全体厚さの半分以下である樹脂押出成形体である。木粉の含有量の多い表層部の厚さが全体厚さの半分を超えると強度が低下し、好ましくない。このように、衝撃を受けても割れにくい薄手の樹脂押出積層成形体とすることで軽量化でき、外装材としての取り付け工事も簡単である。また、使用する原料樹脂の量が少なくてすみコスト面でも有利である。
【0020】
また軽量化やコスト面ばかりでなく、アルミニウムなどの金属材料と組み合わせて使用するにも好都合である。手すりなどは、安全上の面からアルミニウムとの組み合わせが一般的であるが、このような場合、樹脂積層成形体の全体厚さを2mm以下とし、表層部を0.2〜0.4mm程度とした成形体とし、内部の中空部にアルミニウムの引き抜き成形品をはめ込んだものとすることができる。そのため、手すり以外でもデッキ材など強度が要求されるものでは、アルミニウムの部分を厚くして十分な強度を得ることができる。そして、外観もアルミニウムの塗装や酸化皮膜の着色では得られない、木質・木調の外観・風合いを持たせることができる。
【0021】
樹脂押出積層成形体は、芯材部用樹脂押出機で芯材部を構成する樹脂組成物を、表層部用樹脂押出機で表層部を構成する樹脂組成物を、それぞれ溶融混練し、多層多重ダイを通して一体に押出して成形することができる。
【0022】
芯材部の上に表層部を積層し一体化するには、多層多重ダイを通して押出成形するほか、芯材部と表層部を別々のダイを使用し、芯材部を押出成形した後、その上に表層部をラミネートして一体化することもできる。押出成形時にダイを通した後、さらにサイジングを行い、成形品の形状をより正確に整えることも有効である。さらに、ダイを通した後、後加工としてのエンボス加工や、サンディング加工により表面を粗面化し、木質・木調の外観・風合いをさらに強調することもできる。
【0023】
また、後加工として、サンドペーパーにより表面を研摩し、成形体の流れに沿った筋状の粗面化を施すことにより、木質・木調の外観・風合いを一層の際立たせることもできる。
【0024】
図1に樹脂押出積層形成体をルーバーとした例を示す。ルーバー1は芯材部2と表層部3とからなり、芯材部2と表層部3との全体厚さは2mmであり、表層部2の厚さは0.9mmである。ルーバー1の表面4は表層部3により木質・木調の外観を現出しており、芯材部2の内側は中空部5となっている。芯材部2を構成するABS樹脂組成物は木粉の含有量を3重量%とし、表層部3を構成するAAS樹脂組成物は木粉を8重量%の含有量としたところ、各樹脂の特性を失うことなく、強度、耐湿性を維持していた。そのため、全体厚さが2mmの薄手の樹脂押出積層体でありながら、ドライバーの先で突いて外部の衝撃を与えても割れにくいものとなっていた。さらに、耐候性を損なうことなく、木質・木調の外観・風合いも現出していた。さらに、有色顔料樹脂組成物を併用した場合には外観・風合いを強調することができる。そして、耐候性にも優れているために、薄手の樹脂積層成形体にもかかわらず、経時した後も、同様に外部の衝撃を与えても割れにくいものとなっていた。
【0025】
また、ABS樹脂組成物の木粉含有量を5重量%、AAS樹脂組成物の木粉含有量を10重量%としたものも同様の結果であり、AAS樹脂の代わりにAES樹脂を用いた場合も同様であった。
【0026】
一方、上記と同じ寸法のルーバーを、芯材部を木粉の含有量を8重量%としたABS樹脂組成物で、表層部を木粉の含有量を25重量%としたAAS樹脂組成物を用いて同様に押出成形したルーバーは、ドライバーの先で突いて衝撃を与えると、上記ルーバーはひび割れが簡単に発生した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】は本発明の樹脂押出成形体からなるルーバーである。
【符号の説明】
【0028】
1 ルーバー
2 芯材部
3 表層部
4 ルーバー表面
5 ルーバー内部の中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材部と表層部とを有し、芯材部と表層部とを合わせた全体厚さは0.5mm以上4mm以下であり、表層部の厚さは0.2mm以上かつ全体厚さの半分以下である樹脂押出積層成形体であって、芯材部は木粉の含有量が5重量%以下であるABS樹脂組成物からなり、表層部は木粉の含有量が15重量%以下であるAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂押出積層成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂押出積層成形体において、表層部は有色顔料樹脂組成物が混合されたAAS樹脂組成物もしくはAES樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂押出積層成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−83054(P2010−83054A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255900(P2008−255900)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(391022027)美濃化学工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】