説明

押花絵の製作方法

【課題】生の草花から簡単な手順で押花を製作できるとともに、当該押花を素材とした原色鮮やかな押花絵の製作方法を提供する。
【解決手段】草花形成工程と、乾燥促進工程と、草花を吸湿性紙の上に重畳された通気性マット上に載置し、所定温度で一定時間加熱して草花を乾燥させる草花乾燥工程と、押花配置工程と、押花密封工程と、を有し、草花乾燥工程では、一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器を用い、所定温度に保持された伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された吸湿性紙で吸収することを特徴とする押花絵の製作方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生の草花を用いた押花絵の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、押花を作成するためには、押花絵の素材として予め生の草花を乾燥状態にする必要であった。また、美しい押花絵を製作するためには、当然のことながら素材としての押花に変色や変形の無いことが重要な要素となる。
【0003】
押花を製作する際には、生の草花を乾燥する場合に最も草花の変色や変形が生じ易い。このため、生の草花から押花を製作する際に、変色や変形を防止して乾燥させる必要がある。また、一般的には、生の草花に温風を吹きつけることにより乾燥させて押花を製作することが行われていた。
【0004】
上記押花の製作方法として、本願出願人は、変色や変形の無い押花を作成するために、起立状態とした通気性素材よりなる板状挟持体を複数枚重合し、各板状挟持体間で押花素材を挟持し、板状挟持体の下方から上方へ向けて温風を吹き付け、板状挟持体の通気性を利用して板状挟持体の端面から内部に通過させ、その間に挟持した押花素材を乾燥させるようにした乾燥押花製造用具を開示している。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−301394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記従来の技術では、生の草花を乾燥させて押花を作るための装置が必要であり、例えば、個人として少量の押花を用いた押花絵を製作するにはあまりに大掛かりとなりすぎる。また、美しい押花絵を製作するためには、生の草花を乾燥させて押花を作るだけではなく、乾燥した押花から押花絵を製作するためのノウハウも必要となる。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、生の草花から押花を製作するために特別な装置を必要とせず、簡単な手順で原色鮮やかな押花絵の製作方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は、複数の生の草花を複数の吸湿性紙の間に交互に挟み込み、最上段の吸湿性紙の上から重石を載せて立体的な生の草花を略平板状に形成する草花形成工程と、前記草花形成工程で略平板状に形成された草花を、吸湿性薄膜紙に裏返しに載置し、草花の水分含有量の多い部分を重量物で押圧することで草花から外に水分を滲み出させて前記吸湿性薄膜紙で予め吸収する乾燥促進工程と、前記乾燥促進工程により前記滲出した水分が除去された草花を、前記吸湿性紙の上に重畳された通気性マット上に載置し、所定温度で一定時間加熱して草花を乾燥させる草花乾燥工程と、表面を布張りした弾力性のある押花絵台紙の前記押花の配置面に、予めエチレンガスを吸着する多孔性微粒子と顔料とを塗布し、その後前記押花を配置する押花配置工程と、透光性を有する透明硬質板と気体を通し難い性質を持つ遮光性皮膜とにより押花を配置した押花絵台紙を挟持し、空気を外部に吸引しながら前記透明硬質板と前記遮光性皮膜との周縁部を接合することで、前記押花絵台紙の配置面に配置された前記押花を固定状態に密封する押花密封工程と、を有し、前記草花乾燥工程では、一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器を用い、所定温度に保持された前記伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、前記通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された前記吸湿性紙で吸収することを特徴とする押花絵の製作方法とした。
【0009】
また、請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の押花絵の製作方法において、前記押花配置工程では、前記多孔性微粒子を塗布し、塗布した多孔性微粒子の上に顔料をさらに塗布することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る本発明は、請求項1又は2に記載の押花絵の製作方法において、前記草花乾燥工程では、前記伝熱板の温度を100〜140℃に保持するとともに、当該伝熱板の草花への押圧時間を60〜180秒の間に規定していることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る本発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の押花絵の製作方法において、前記草花乾燥工程により変色した草花の色を、原色に近い状態に復色させる草花復色工程を有し、当該草花復色工程は、前記草花乾燥工程において変色した草花に、乳酸溶液を含浸させた布を載せて、前記押花乾燥工程における前記所定温度よりも低温に加熱された前記伝熱板を押圧して一定時間加熱することにより、変色した草花を原色に近い状態に復色させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生の草花を効率よく乾燥させて直接押花絵を製作することが出来るので、製作に要する労力や時間を著しく軽減しつつ、原色鮮やかな美しい押花絵を製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る実施形態の生の草花を略平板状に形成する草花形成工程を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施形態の生の草花を乾燥させる乾燥促進工程を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施形態の生の草花を乾燥させる草花乾燥工程を説明する図である。
【図4】本発明に係る実施形態の押花絵台紙の構造を説明する断面図である。
【図5】本発明に係る実施形態の押花絵台紙への押花を配置する押花配置工程を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施形態の押花絵台紙へ配置された押花を密封する密封工程を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施形態の完成した押花絵を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、複数の生の草花を複数の吸湿性紙の間に交互に挟み込み、最上段の吸湿性紙の上から重石を載せて立体的な生の草花を略平板状に形成する草花形成工程と、草花形成工程で略平板状に形成された草花を、吸湿性薄膜紙に裏返しに載置し、草花の水分含有量の多い部分を重量物で押圧することで草花から外に水分を滲み出させて吸湿性薄膜紙で予め吸収する乾燥促進工程と、乾燥促進工程により前記滲出した水分が除去された草花を、吸湿性紙の上に重畳された通気性マット上に載置し、所定温度で一定時間加熱して草花を乾燥させる草花乾燥工程と、表面を布張りした弾力性のある押花絵台紙の前記押花の配置面に、予めエチレンガスを吸着する多孔性微粒子と顔料とを塗布し、その後押花を配置する押花配置工程と、透光性を有する透明硬質板と気体を通し難い性質を持つ遮光性皮膜とにより押花を配置した押花絵台紙を挟持し、空気を外部に吸引しながら透明硬質板と遮光性皮膜との周縁部を接合することで、押花絵台紙の配置面に配置された押花を固定状態に密封する押花密封工程と、を有し、草花乾燥工程では、一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器を用い、所定温度に保持された伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された吸湿性紙で吸収することを特徴とする押花絵の製作方法を提供するものである。
【0015】
すなわち、本願発明における押花絵の製作方法は、草花形成工程、乾燥促進工程、草花乾燥工程の順で実行することにより、生の草花から押花絵に用いる素材である乾燥した押花を製作することができる。さらに、押花配置工程、押花密封工程の順で実行することにより押花絵を製作することができる。
【0016】
そして、上記草花乾燥工程において、一定温度を保持することが可能な伝熱板(例えば、アイロン等の放熱板)を有する加熱機器(例えば、アイロン等)を用い、所定温度に保持された伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された前記吸湿性紙で吸収している。このように、乾燥させる草花の表面から水分が蒸発することを防ぐことで、乾燥させる草花の表面に透明感がある生の草花に近い状態の押花を製作することができ、このため、この押花を素材として用いた押花絵は、原色鮮やかな美しい押花絵とすることができる。
【0017】
また、上記押花配置工程では、多孔性微粒子(例えば、タルクなど)を塗布し、塗布した多孔性微粒子の上に顔料をさらに塗布することを特徴とする。これにより、完成した押花絵は、長期間変色が起こらず美しい状態を保つことができる。さらに、多孔性微粒子を塗布することで、例えば、パステル(顔料を水溶性のつなぎ剤で固めたもの)などによる彩色が容易となる。
【0018】
また、上記草花乾燥工程では、伝熱板(アイロン等の放熱板)の温度を100〜140℃に保持するとともに、当該伝熱板の草花への押圧時間を60〜180秒の間に規定している。つまり、規定された伝熱板の温度(100〜140℃)や草花への押圧時間(60〜180秒)の範囲のうち、例えば、伝熱板の温度を110℃に維持し、約90秒間草花の表面を加熱することで、厚みの薄い草花はほぼ乾燥状態とすることができ、押花絵の素材に適した状態になる。また、厚みの厚い草花は、完全な乾燥状態ではなく、若干の水分が含まれる半乾燥状態となるが、十分に押花絵の素材として用いることができる。
【0019】
さらに、草花乾燥工程で乾燥させる草花が、伝熱板(アイロン等の放熱板)よりも大きい場合は、伝熱板の加熱温度を130℃に維持し、約90秒間草花の表面を移動させながら加熱することで、押花絵の素材に適した、乾燥または半乾燥状態の押花とすることができる。すなわち、草花の大きさや厚みに応じて、伝熱板(アイロン等の放熱板)の温度や草花の表面への押圧時間は、規定した所定の範囲内(伝熱板の温度100〜140℃、押圧時間60〜180秒)で適宜変更することで、押花絵の素材に適した押花を製作することができる。
【0020】
また、草花乾燥工程により変色した草花の色を、原色に近い状態に復色させる草花復色工程を有し、当該草花復色工程は、前記草花乾燥工程において変色した草花に、乳酸溶液を含浸させた布を載せて、前記押花乾燥工程における前記所定温度よりも低温に加熱された前記伝熱板を押圧して一定時間加熱することにより、変色した草花を原色に近い状態に復色させることができる。
【0021】
すなわち、上述した草花乾燥工程において、生の草花を乾燥させて製作された押花に、アントシアン系の赤い花などが含まれる場合は、赤い花が暗紫色に変色する場合がある。この場合は、乳酸を含浸させた布を変色した花の部分に載せて、草花乾燥工程における所定温度よりも低い温度(例えば、70〜80℃)で一定時間(例えば、数秒間)加熱することで、花の色を元の赤色に復色させることができる。
[1.草花形成工程]
【0022】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照して生の草花を略平板状に形成する草花形成工程を説明する。図1は生の草花を略平板状に形成する草花形成工程を説明する図である。
【0023】
図1に示すように、生の草花1は、枝や柄、葉や花が八方に立体的に広がっているため、このままでは押花絵の作成には用いることができない。そこで、複数の草花1を、吸湿性紙である新聞紙で形成した複数の新聞紙シート2に交互に挟み、最上部の新聞紙シート2に、例えば、5〜20kgの重量の重石3を載せて所定時間(例えば、2〜20時間)放置する。これにより、所定時間放置後の草花1は略平板状に形成される。なお、上記新聞紙シート2は、新聞紙の全紙を4つ折りにし、その4つ折りにした全紙を3枚程上下に重ねて形成されたものである。
【0024】
具体的に説明すると、図1に示すように、まず、机20の水平面に新聞紙シート2を1枚敷く。次に、その新聞紙シート2の上に生の草花1を、葉や花が重ならないように広げて載置する。そして、草花1の上に1枚の新聞紙シート2を重ねて載置し、その新聞紙シート2の上に再び草花1を載置して、草花1の上に再び1枚の新聞紙シート2を載置する。このように、複数の草花1を交互に複数の新聞紙シート2の間に繰り返し挟みこんで積み上げる。最後に、木の板や書籍(例えば、辞書)などの新聞紙シート2と同程度の大きさの所定重量(例えば、5〜20kg)の重石3を準備し、最上段の新聞紙シート2の上に載置し、この状態で例えば2〜12時間程放置する。
【0025】
以上の草花形成工程により、生の草花1は略平板状に形成される。上記草花形成工程では、草花1に細い木の枝等が含まれていた場合でも、押花絵の素材となるように草花1を略平板状に形成することができる。なお、草花形成工程においては、吸湿性紙である新聞紙を用いて説明したが、本発明はこれに限らす、吸湿性に優れた紙であれば吸湿性紙として用いることができる。
[2.乾燥促進工程]
【0026】
草花形成工程を終えたら、新聞紙シート2に挟んでいた草花1を取り出し、草花1中の水分の含有量の多い部分を、重量物を用いて強く押圧し、草花1から外に水分を滲み出させる乾燥促進工程を実行する。以下、図2を用いて生の草花の乾燥促進工程を説明する。図2は、生の草花の乾燥促進工程を説明する図である。
【0027】
図2に示すように、吸湿性薄膜紙としてのティシュペーパー4を机20の水平面に広げ、その上に草花形成工程を終えた草花1を裏返しにして載置する。そして、盛り上がって見える草花1の葉の葉脈、柄及び茎などを、重量物としてのゴム槌5で強く押圧する。これにより、草花1は組織の表皮が破れて、中の水分が外に滲み出し、ティシュペーパー4で吸い取られる。このとき、草花の葉が大きくて、草花1から外に滲み出した水分が、草花1の下に敷いたティシュペーパー4に吸い取り難い場合は、別途用意したティシュペーパー4により、草花1の外に滲み出した水分を拭き取ることで水分を除去することができる。
【0028】
このように、乾燥促進工程は、草花1の水分含有量の多い部分(例えば、草花1の葉の葉脈、柄及び茎)を重量物であるゴム槌5で押圧し、草花1から外部に強制的に染み出させた水分を吸湿性薄膜紙であるティシュペーパー4で吸収して、草花1に含まれる水分を除去する作業である。これにより、草花1はさらに平板上に形成され、後に行う草花1を乾燥させて押花を製作する前の有効な乾燥促進対策となる。さらに、草花1の裏面を重量物であるゴム槌5で押圧するため、草花の表面を傷つけることがなく、押花絵を完成した際に人目に触れる草花1の表面を美しく仕上げることができる。
【0029】
また、乾燥促進工程において、草花1の葉の葉脈、柄及び茎などを押圧する重量物としては、ゴム槌5意外にも、木槌や牛乳瓶の胴などを用いることもできる。つまり、ある程度の重量があり、草花1を破損させることなく水分を多く含む部分を選択的に押圧できるものであればよい。
[3.草花乾燥工程]
【0030】
以下に、乾燥促進工程を終えた草花1を乾燥させる草花乾燥工程を、図3を用いて説明する。図3は草花1の草花乾燥工程を説明する図である。
【0031】
草花乾燥工程では、図3(a)に示すように、台座7(例えば、アイロン台)の上に、吸湿性紙としての新聞紙シート2を敷き、その上に、通気性に優れた通気性マットとしてのウレタンマット6(サイズは10×250×345mm)を2枚重ねで新聞紙シート2の上に重畳して敷設する。そして、ウレタンマット6の上に、乾燥促進工程を終えた草花1を、表面を上にして載置する。
【0032】
このウレタンマット6は、一般的な三次元網目構造のウレタンフォームを特殊な処理により通気性を高めたものであり、空気清浄機のエアフィルターなどに用いられるものである。なお、本実施形態においては、ウレタンマット6(サイズは10×250×345mm)を二枚重ねで使用しているが、十分な厚み(例えば20mm以上)があれば一枚のウレタンマット6でも構わない。さらに、ウレタンマット6に限らず、通気性に優れたマットであれば、スポンジマット等を用いてもよい。
【0033】
そして、図3(b)に示すように、草花1の上から、所定温度(100〜140℃のうち、例えば、110℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで、一定時間(60〜180秒のうち、例えば、約90秒)の間草花1の表面を押圧して加熱する。これにより、草花1の内部に含まれる水分は、草花1の裏面から蒸発して水蒸気となり、通気性のよいウレタンマット6を通過して、その下に敷設された吸湿性紙としての新聞紙シート2に吸収される。
【0034】
なお、本実施形態においては、一定温度を保持することが可能な伝熱面8aを備えたアイロン8を加熱機器として用いているが、草花1を乾燥させる加熱機器は、アイロン8に限らず一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器であればよい。
【0035】
このように、草花1の表面を所定温度(例えば、110℃)で一定時間(例えば、約90秒)押圧することで十分に草花1を完全乾燥することができるが、草花1の厚みがあり水分の含有量が多い場合は半乾燥状態(例えば、乾燥率70%〜80%)になる場合がある。この場合でも、押花絵の素材として用いることができる。詳細は後述の押花密封工程(図6参照)で説明するが、押花絵を完成する際に、該押花絵には乾燥剤15と脱酸素剤16も同封されるため、半乾燥状態の草花1は押花絵の状態で乾燥が進行することになる。
【0036】
また、草花1の表面がアイロン8の伝熱面8aより大きい場合は、伝熱面8aの加熱温度を130℃に調節し、草花1の表面全体に伝熱面8aをスライドさせて押圧することにより、伝熱面8aを移動中に伝熱面8aが接しない草花1の表面温度の低下防ぐことができる。
【0037】
また、高温(110℃又は130℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで草花1の表面を押圧することで、加熱されて温度上昇する草花1は、草花1が黒色や褐色に変色する酵素活性領域の温度(例えば、60℃〜80℃)を瞬時に通過することができる。これにより、酵素活性領域の温度(例えば、60℃〜80℃)を緩やかに通過することで生じる活性化した酵素による草花1の変色を防止することができる。さらに、高温(110℃又は130℃)のアイロン8による加熱により、草花1に含まれる酵素を死滅させることができるので、酵素を含まない乾燥した押花を製作することができる。
【0038】
また、草花1の表面をアイロン8の伝熱面8aにより押圧して加熱することにより、草花1の表面からの水蒸気の発生を抑えるとともに、草花1の裏面から発生した水蒸気は、ウレタンマット6を通過して新聞紙シート2に吸収される。このように、草花1の表面からの水分の蒸発を抑えることで、草花の表面に凹凸が生じることを防いて滑らかな状態とすることができ、表面に透明感があり、生の草花に近い乾燥した押花を製作することができる。
【0039】
また、草花1の表面を所定温度(例えば、110℃)で一定時間(例えば、約90秒)押圧することにより、草花1の葉に含まれる葉緑素が熱変性して、鮮やかな緑色に変化する効果が得られる。このように、草花1の表面を押圧して加熱することにより乾燥させた草花1の表面は、該草花1を押花絵の素材として用いた場合に、経時的変化による色あせなどの変色が生じにくい。
【0040】
さらに、従来の温風(例えは、常温〜40℃)による乾燥では、草花1の最深部の毛細管に存在する水分を完全に脱水することは困難であった。この結果、水分が残留したままの草花1を素材として押花絵を製作すると、経時的変化に伴い押花絵に変色を生じる場合がある。つまり、草花1の最深部の毛細管に残留した水分が、押花絵の経時的変化による変色の原因となっていた。しかしながら、本実施形態の草花乾燥工程においては、高温(110℃又は130℃)のアイロン8により、草花1の表面を押圧して加熱することで草花1を乾燥させるので、草花1の最深部の毛細管に存在する水分までを脱水することができる。このため、本実施形態における草花乾燥工程により乾燥させた草花1を素材として製作した押花絵は、経時的変化による変色を防ぐことができる。
【0041】
上述してきたように、本実施形態においては、所定温度(100〜140℃)に加熱したアイロン8の伝熱面8aで一定時間(60〜180秒)草花1の表面を押圧して加熱することで草花1を乾燥させる。これにより、従来の温風による乾燥では実現できなかった、草花1の組織の深部における水分を蒸発させ、それに伴い酵素なども死滅させることができる。このため、押花絵の素材として用いた場合に、色彩鮮やかな押花絵の状態を長期間保つことができる。
【0042】
ここで、所定温度(例えば、略110℃)のアイロン8による加熱により、草花1の花の色がアントシアン系の赤い色のときは、花の色が暗紫色に変化する場合がある。その場合は、乳酸を所定の配合(約10%)で配合した複色液を含侵させた布を変色した花の上に載せ、略70〜80℃に加熱したアイロン8の伝熱面8aで数秒間押圧すれば、元の赤色に複色することができる。この赤い花の色の複色を赤花処理という。
【0043】
さらに、同じアイロン8による加熱でも草花1を構成する花の色が白い色のときは、花の色が半透明化となる場合がある。これは、白い花の色は、白色の色素があるのではなく、水分がエマルジョンになっていることから白色に見えるだけである。このため、水分を蒸発させると花の色が半透明化になってしまう。この場合は、花の裏面に白色塗料をスプレーして元の白色に複色すればよい。この白い花の色の複色を白花処理という。
【0044】
このように、本実施形態においては、アイロン8の加熱により草花乾燥工程において、草花1を構成する花の色が変色した場合は、変色した花の色を本来の色に戻す複色作業が行われる。
【0045】
以上、上述した草花形成工程、乾燥促進工程及び草花乾燥工程が終われば、生の草花1から乾燥した押花を製作することができる。なお、以下の説明においては、草花1と押花は本来同じものであるため同じ符号を付して押花1として説明する。
[4.押花配置工程]
【0046】
以下、押花製作手段により製作した押花1を用いた押花絵の製作について、図4及び図5を用いて説明する。図4は押花1を配置する押花絵台紙の構造を説明する断面図である。図5は押花1の押花絵台紙への配置を説明する図である。
【0047】
押花1を配置するための押花絵台紙として用いられるキャンバス9は、図4に示すように構成されている。すなわち、キャンバス9は、通気性に優れた短い紙繊維を軽く押し固めたクッション性を有する不織布9b(厚さは2mm)を2枚重ねて、表面を織り目の細かい布9cで巻回して形成している。これにより、キャンバス9の押花1が配置される面は、織り目の細かい布9cで布張りされていることになる。
【0048】
なお、本実施形態においては、クッション性を有する不織布9bを2枚重ねてキャンバス9を構成しているが、不織布9bの厚みが十分な厚み(例えば、5mm以上)の場合は、不織布9bは1枚でもよいし、また、押花1が厚い場合は、不織布9bの枚数を2枚以上重ねて用いてもよい。
【0049】
上述した構成のキャンバス9を用いて、まず、図5(a)に示すように、キャンバス9の布張りされた押花配置面9aには、押花1を配置する前に、多孔性微粒子としての含水珪酸マグネシウムを含有するタルク10(Talc:滑石)が全面に塗布される。この多孔性微粒子としてのタルク10の粉末の粒度は5〜20μm程度である。タルク10は粒度の細かい粉末であるため、タルク10はスポンジ12によりキャンバス9の押花配置面9aの全面に均一に塗布される。
【0050】
タルク10の粉末をキャンバス9の押花配置面9aに塗布するのは、完成した押花絵を、仕上げ用の額縁等に入れて鑑賞する場合に生じる押花1の経時的変化を抑制するためである。すなわち、タルク10の粉末で塗布することで、押花1は長期間変色を起こさず、その商品価値を著しく高める結果となる。これは、押花1から発生する植物老化促進ガスの一種であるエチレンガスをタルク10が吸着して除去するからである。
【0051】
次に、図5(b)に示すように、押花配置面9aに塗布されたタルク10の白い粉の上を顔料11で彩色する。この顔料11による彩色は、押花配置面9aに配置した押花1が映えるように、押花配置面9aの任意の位置又は全面に対して、タルク10と同様な粉末状の顔料11をスポンジ12により彩色する。また、押花配置面9aは、織り目の細かい布9cであるため、パステル12a(顔料11を水溶性のつなぎ剤で固めたもの)を用いて押花配置面9aを彩色することもできる。また、顔料11による彩色の前に、タルク10の粉末をキャンバス9の押花配置面9aの全面に予め塗布することにより、顔料11による任意の彩色がし易いという効果がある。
【0052】
最後に、図5(c)に示すように、押花1をキャンバス9の押花配置面9aに構図よく配置する。このように、クッション性のあるキャンバス9に押花1を配置することで、押花1が木の枝や厚い花で構成されていた場合でも、後述の押し花密封工程(図6参照)において、透明硬質板13とキャンバス9の押花配置面9aとにより固定された押花1を傷めてしまうことを防止することができる。
[5.押花密封工程]
【0053】
上記押花配置工程により、キャンバス9の押花配置面9aへの押花1の配置が終了すると、次に、キャンバス9上に配置された押花1を密封する押花密封工程を行う。以下、図6を参照して押花密封工程を説明する。図6は、押花密封工程を説明する図である。
【0054】
図6に示すように、押花配置面9aへの押花1の構図よい配置を終えると、キャンバス9の押花配置面9aの裏面に乾燥剤15と脱酸素剤16とを当接させて、これを透明硬質板13と遮光性皮膜であるアルミ箔14とで挟み込む。
【0055】
すなわち、キャンバス9の押花1の押花配置面9aは、透明硬質板13で覆われ、キャンバス9の押花配置面9aの裏面は、乾燥剤15と脱酸素剤16とを当接させて遮光性皮膜であるアルミ箔14で覆われる。そして、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17を接着剤(例えば、シリコン)で接着するとともに、周縁部17の一部である吸引口18aから内部の空気を吸引ポンプ18で吸引する。
【0056】
吸引ポンプ18による吸引は、キャンバス9の押花配置面9aに配置した押花1が、透明硬質板13とキャンバス9の押花配置面9aとで圧着されて固定されるまで行われ、その後、内部空気の吸引口18aを、接着剤であるシリコンで接着することにより、キャンバス9の押花配置面9aに配置された押花1は、押花配置面9aの裏面に配置された乾燥剤15と脱酸素剤16とともに、透明硬質板13とアルミ箔14とで密封されることになる。なお、密封後に内部に少量の空気が残留していても、同時封入した脱酸素剤16の作用により酸素が除去されるので、最終的に密封後は無酸素状態とすることができる。
【0057】
このように、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17を接着する際に、接着剤としてシリコンを用いることで、透明硬質板13とアルミ箔14の周縁部17は半永久的に接着され、その内部は外部から遮断されて密封状態を保つことができる。
【0058】
また、上記のキャンバス9の裏面に当接された乾燥剤15は、無水塩化カルシウム(粉状)とタルク10等とを所定の配分(例えば、無水塩化カルシウム:タルク10=50%:50%)で混合した混合物である。そして、水蒸気のみを通し水を通さない不織布で作った封筒状の袋に充填されている。
【0059】
乾燥剤15を無水塩化カルシウムとタルク10との混合とした理由は、同上袋入れ作業を円滑にするためで、無水塩化カルシウムだけではその吸湿性のために流動性がなく作業が困難だからである。一般に、無水塩化カルシウム(粉状)とタルク10等との混合物で構成された乾燥剤15は、シート状乾燥剤と称される。
【0060】
上述した押花密封工程により、変色や退色の起こり易い押花1の乾燥末期を無酸素状態で徐々に乾燥させることができるため、押花1の変色や退色を可及的に低減させることができる。これにより、押花1を採取した当時の原色を可及的に鮮やかに保持した押花絵を製作することができるとともに、採取した当時の原色を長期間維持することができる
【0061】
上記密封工程を終えると、図7に示す押花絵30が完成する。この後、完成した押花絵30は、例えば、額縁などに入れられて飾られることになる。
【0062】
上述してきたように、本実施形態における押花絵の製作方法によれば、生の草花から一連の作業工程により押花絵を直接製作することができる。また、押花絵の製作に要する労力や時間を著しく軽減することもできる。特に、草花乾燥工程において、高温(110℃又は130℃)のアイロン8により、草花1の表面を押圧して加熱して草花1を乾燥させるので、完成した押花絵は、経時的変化による変色を起こしにくく、なおかつ、表面に透明感のあり原色鮮やかな美しい押花絵を製作することが可能となる。
【0063】
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。

【符号の説明】
【0064】
1 押花
2 新聞紙シート
3 重石
4 テッシュペーパ
5 重量物
6 ウレタンマット
7 アイロン台
8 アイロン
9 キャンバス
10 タルク
11 顔料
12 スポンジ
13 透明硬質板
14 アルミ箔
15 乾燥剤
16 脱酸素剤
17 周縁部
18 吸引ポンプ
20 机
30 押花絵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の生の草花を複数の吸湿性紙の間に交互に挟み込み、最上段の吸湿性紙の上から重石を載せて立体的な生の草花を略平板状に形成する草花形成工程と、
前記草花形成工程で略平板状に形成された草花を、吸湿性薄膜紙に裏返しに載置し、草花の水分含有量の多い部分を重量物で押圧することで草花から外に水分を滲み出させて前記吸湿性薄膜紙で予め吸収する乾燥促進工程と、
前記乾燥促進工程により前記滲出した水分が除去された草花を、前記吸湿性紙の上に重畳された通気性マット上に載置し、所定温度で一定時間加熱して草花を乾燥させる草花乾燥工程と、
表面を布張りした弾力性のある押花絵台紙の前記押花の配置面に、予めエチレンガスを吸着する多孔性微粒子と顔料とを塗布し、その後前記押花を配置する押花配置工程と、
透光性を有する透明硬質板と気体を通し難い性質を持つ遮光性皮膜とにより押花を配置した押花絵台紙を挟持し、空気を外部に吸引しながら前記透明硬質板と前記遮光性皮膜との周縁部を接合することで、前記押花絵台紙の配置面に配置された前記押花を固定状態に密封する押花密封工程と、
を有し、
前記草花乾燥工程では、一定温度を保持することが可能な伝熱板を有する加熱機器を用い、所定温度に保持された前記伝熱板を一定時間草花の表面から押圧することにより、草花の表面からの水蒸気の発生を防止するとともに草花の裏面から水蒸気を発生させ、発生した水蒸気を、前記通気性マットを通過して当該通気性マットの下に敷設された前記吸湿性紙で吸収することを特徴とする押花絵の製作方法。
【請求項2】
前記押花配置工程では、
前記多孔性微粒子を塗布し、塗布した多孔性微粒子の上に顔料をさらに塗布することを特徴とする請求項1記載の押花絵の製作方法。
【請求項3】
前記草花乾燥工程では、前記伝熱板の温度を100〜140℃に保持するとともに、当該伝熱板の草花への押圧時間を60〜180秒の間に規定していることを特徴とする請求項1又は2に記載の押花絵の製作方法。
【請求項4】
前記草花乾燥工程により変色した草花の色を、原色に近い状態に復色させる草花復色工程を有し、
当該草花復色工程は、前記草花乾燥工程において変色した草花に、乳酸溶液を含浸させた布を載せて、前記押花乾燥工程における前記所定温度よりも低温に加熱された前記伝熱板を押圧して一定時間加熱することにより、変色した草花を原色に近い状態に復色させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の押花及び押花絵の製作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−25025(P2012−25025A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165685(P2010−165685)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(596155166)有限会社杉野押花研究所 (8)
【Fターム(参考)】