説明

押釦カバー部材及びその製造方法

【課題】可撓性の素材からなる部分と金属製の部分とからなる押釦カバー部材において、両者が接合面で強固に接着された押釦カバー部材の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】金属製の筒部4と、弾性樹脂からなり筒部の片側開口を封鎖し周縁部で筒部の外周面と接合されている封鎖部6とで構成される押釦カバー部材2であって、封鎖部がオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とし、筒部と封鎖部とが、塩素化ポリオレフィン、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート及び有機ジイソシアネート化合物を含有する樹脂組成物を介して接着されてなる押釦カバー部材であり、筒部材の外周面に、前記樹脂組成物の被膜を形成し、インサート成型によりオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂を射出して押釦カバー部材の形状に成型する工程を含み、インサート成型における金型の温度を50〜60℃に設定する押釦カバー部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦式のスイッチボックスにおいて、スイッチボックス内への水の侵入を防止するために用いられる押釦カバー部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押釦式のスイッチボックスにおいては、スイッチボックス内への水の侵入を防止するために、押釦を覆って外部と遮断する押釦カバー部材が用いられることがある。この場合、押釦カバー部材を介して押釦が押されるので、押釦カバー部材の押される部分は可撓性の素材からなることが望ましい。また、押釦カバー部材は望ましくは着脱自在にスイッチボックスに直接あるいは所定の部材を介するなどして固定されることとなるので、スイッチボックスあるいはその所定の部材との接合部は金属製であることが好ましい。
【0003】
従って、押釦カバー部材は可撓性の素材からなる部分と金属製の部分から構成されることになり、両者の接合面では強固な接着強度が求められる。
【0004】
従来は、この可撓性の素材として加硫により固化するゴム系の樹脂が用いられてきた。この場合、ゴム系の樹脂を金属製の部分に合体させて成型したのち樹脂を固化させて押釦カバー部材が得られる。この方法は成型に手間がかかり、固化後もバリ取りなどの後処理を要するので能率的な成型方法が求められている。
【0005】
このため、可撓性の素材として熱可塑性エラストマーを用いインサート成型(例えば、特許文献1参照)により可撓性の素材からなる部分と金属製の部分とからなる成型体を得ることが試みられたが、インサート成型における接合強度はアンカー効果や埋設に依存することが多いので両者の接合面で強固な接着強度を得ることが難しいのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
[特許文献1]特開平07−178771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、可撓性の素材からなる部分と金属製の部分とからなる押釦カバー部材において、両者が接合面で強固に接着された押釦カバー部材及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、内周面にメスネジが形成されている金属製の筒部と、弾性樹脂からなり前記筒部の片側開口を封鎖し周縁部で前記筒部の外周面と接合されている封鎖部とで構成される押釦カバー部材であって、前記封鎖部がオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とし、前記筒部と前記封鎖部とが、塩素含有率が10〜50重量%である塩素化ポリオレフィン100重量部、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート0.01〜10重量部及び有機ジイソシアネート化合物2〜40重量部を含有する樹脂組成物を介して接着されてなる押釦カバー部材であることにある。
【0009】
前記弾性樹脂は、オレフィン系樹脂をマトリックスとし、架橋したオレフィン系共重合体ゴムを島状のドメインとする分散形態を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーであり得る。
【0010】
また、本発明の要旨とするところは、内周面にメスネジが形成されている金属製の筒部と、弾性樹脂からなり前記筒部の片側開口を封鎖し周縁部で前記筒部の外周面と接合されている封鎖部とで構成される押釦カバー部材を製造する方法であって、
内周面にメスネジが形成された筒部材と、塩素含有率が10〜50重量%である塩素化ポリオレフィン100重量部、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート0.01〜10重量部及び有機ジイソシアネート化合物2〜40重量部を含有する樹脂組成物を準備する工程、
前記筒部材の外周面に前記樹脂組成物の被膜を形成する工程、
インサート成型によりオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂を射出して前記押釦カバー部材の形状に成型する工程を含み、
前記インサート成型における金型の温度を50〜60℃に設定することを特徴とする押釦カバー部材の製造方法であることにある。
【0011】
前記押釦カバー部材の製造方法においては、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、オレフィン系樹脂をマトリックスとし、架橋したオレフィン系共重合体ゴムを島状のドメインとする分散形態を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーであり得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、可撓性の素材からなる部分と金属製の部分とからなる押釦カバー部材において、両者が接合面で強固に接着された押釦カバー部材及びその効率的な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で得られる押釦カバー部材の構成の態様の一例を示す断面図である。
【図2】本発明で得られる押釦カバー部材を用いたスイッチボックスの構成の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で得られる押釦カバー部材は、スイッチボックスの押釦を防水目的でカバーするために用いられる。スイッチボックスは、スイッチ作動子を備えるスイッチ本体とそのスイッチ本体を収納する箱体と、その箱体に移動可能に収納される押釦を備えるものである。押釦はスイッチ押しの動作によりスイッチ作動子を押しやるように配されている。
【0015】
図1に示すように、本発明で得られる押釦カバー部材2は、金属製の筒部4と、筒部4の片側開口を封鎖し押釦の被押圧面を覆うこととなる封鎖部6を有する。筒部4の内周面にはメスネジ8が形成されている。封鎖部6は弾性樹脂からなり、その中央部7が円盤状あるいはドーム状であり、周縁部で筒部4の外周面と接合されている。
【0016】
図2は押釦カバー部材2が装着されたスイッチボックス10の態様の一例である。スイッチボックス10はスイッチ作動子12を備えるスイッチ本体14と、スイッチ本体14を収納する箱体18と、押釦16を備える。押釦16は箱体18に図面視上下に移動可能に収納され、スイッチ押しの動作によりスイッチ作動子12に当接しスイッチ作動子12を押しやりスイッチを作動させる。
【0017】
押釦カバー部材2は、外周面にオスネジ30が形成された筒部材22を介して箱体18に締結されている。すなわち、箱体18の開口24に筒部材22を挿入し、筒部材22を筒部4に螺入して、筒部材22に設けられたフランジ26と筒部4の端面28とで開口24の開口縁部25を挟持し締結することにより、押釦カバー部材2が箱体18に締結される。
【0018】
押釦16は直接には筒部材22に収納され、不図示の付勢手段により箱体18の外側に向けて付勢されている。押釦カバー部材2の中央部7を介して押釦16を押すことによりスイッチ作動子が図面視下方に押しやられてスイッチが作動する。
【0019】
スイッチボックス10のかかる構成により、水がスイッチボックス10の内部に侵入することが防止される。
【0020】
なお、押釦16が箱体18に収納される構成は図2に示す態様に限定されず、押釦カバー部材2により押釦16が付勢状態で箱体18の外部と遮断される構成であればよい。
【0021】
押釦カバー部材2においては、封鎖部6がオレフィン系のエラストマーを主成分とする樹脂からなり、筒部4と封鎖部6とが接着剤を介して接合されている。オレフィン系のエラストマーを用いることにより、耐水性、柔軟性、繰り返し変形に対する耐久性に優れる押釦カバー部材が得られる。
【0022】
この接着剤としては、塩素含有率が10〜50重量%である塩素化ポリオレフィン100重量部、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート0.01〜10重量部及び有機ジイソシアネート化合物2〜40重量部を含有する樹脂組成物であることが、封鎖部6と筒部4との強固な接着が得られてさらに好ましい。この樹脂組成物は、例えば株式会社フロント研究所製のFRV#2000S、やFT#2000Kとして入手可能である。
【0023】
有機ジイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を二つ有しておれば、特に限定されず、例えば、イソホロンジイソシアネート、へキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0024】
押釦カバー部材2の成型はインサート成型によることが製造コストのうえで好ましい。インサート成型とは、成型品に取り付けられる金属部品をあらかじめ金型内にセットし、成型と同時に成型品に嵌め込む成型方法である。
【0025】
本発明においては、あらかじめ筒部4の接合面に対応する表面にこの樹脂組成物を塗付してその表面にこの樹脂組成物の被膜を形成したのちインサート成型することが強固な接着強度が得られて好ましい。このとき、金型の温度を50〜60℃にして射出成形することが強固な接着強度が得られて好ましい。金型の温度がこの範囲を下回ると強固な接着強度が得られない。金型の温度がこの範囲を上回っても強固な接着強度が得られない
【0026】
インサート成型用の樹脂としては、オレフィン系熱可塑性エラストマーが用いられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、アイソタクチックポリプロピレンとアタクチックポリプロピレンとの混合物;アタクチックポリプロピレンのハードセグメントと水素添加スチレンブタジエンゴムのソフトセグメントとからなるオレフィン系熱可塑性エラストマー;エチレン−プロピレン−ブテン共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等の結晶性オレフィン重合体をハードセグメントとし、これに部分架橋したエチレン−プロピレン共重合体ゴム、不飽和エチレン−プロピレン−非共役ジエン三元共重合体ゴム等のモノオレフィン共重合体ゴムをソフトセグメントとし、これらを均一に配合し混合してなるオレフィン系エラストマー;エチレン−スチレン−ブチレン共重合体からなるオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0027】
また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系樹脂をマトリックスとし、架橋したオレフィン系共重合体ゴムを島状のドメインとする分散形態を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーであって、ドメインの少なくとも一部に、オレフィン系樹脂が分散しているオレフィン系熱可塑性エラストマーが強固な接着強度を得るうえでまたさらに好ましい。このオレフィン系熱可塑性エラストマーにはパラフィン系オイルのような鉱物油系ゴム用軟化剤が混入されていることが好ましい。このオレフィン系熱可塑性エラストマーは、例えば三菱化学株式会社製の「サーモラン」(登録商標)として入手が可能である。
【0028】
上記オレフィン系共重合体ゴムとしては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン−ブテン−非共役ジエン共重合体ゴム、プロピレン−ブタジエン共重合体ゴム等の、オレフィンを主成分とする無定型ランダム共重合体の弾性体が好ましい。
【0029】
上記オレフィン系樹脂としては、プロピレン系樹脂、エチレン系樹脂、結晶性ポリブテン−1樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系樹脂が挙げられる。なかでも、プロピレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、及びプロピレンを主成分とする共重合体樹脂が挙げられる。
【0030】
本発明で用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマーには着色剤、充填剤、酸化防止剤、可塑剤等の添加物が添加されていてもよい。
【0031】
実施例1
成形用樹脂として三菱化学株式会社製の「サーモラン(動的架橋タイプ)」を用い、インサート成型により、図1に示す形状の押釦カバー部材2を得た(外径35mm、高さ20mm)。成型に際しては筒部4を構成する金属部材にあらかじめ厚さ200μmの接着剤の被膜を形成し、その後インサート成型した。
接着剤としては株式会社フロント研究所製成型用接着剤FRV#2000Sを用いた。
射出成型条件:シリンダ温度;200(リヤ)〜220℃(フロント)
ノズル温度;220℃
金型温度;55℃
スクリュー回転数;50rpm
射出圧力;50Mpa
【0032】
実施例2
ソフトセグメントとして沸騰ヘプタンに可溶なアタクチックポリプロピレン50重量%と、 ハードセグメントとして、沸騰ヘプタン不溶性のアイソタクチックポリプロピレン50重量%との混合物からなる軟質ポリプロピレンを成型用樹脂として用いたほかは実施例1と同様にして押釦カバー部材2を得た。
【0033】
比較例1
金型温度を45℃としたほかは実施例1と同様にして押釦カバー部材2を得た。
【0034】
比較例2
金型温度を65℃としたほかは実施例1と同様にして押釦カバー部材2を得た。
【0035】
比較例3
成型用樹脂としてウレタン系熱可塑性エラストマーを用いたほかは実施例1と同様にして押釦カバー部材2を得た。
【0036】
比較例4
成型に際して筒部4を構成する金属部材に接着剤層を設けなかったことを除けば、実施例1と同様にして押釦カバー部材2を得た。
【0037】
実施例、比較例で得られた押釦カバー部材2の筒部4と樹脂部(封鎖部6)との接着強度を比較評価した結果を表1に示す。接着強度は押釦カバー部材2の筒部4と樹脂部(封鎖部6)とを指でめくるように剥がそうとしたときの剥がれ具合で評価した。
◎・・・筒部4と樹脂部(封鎖部6)とが強固に接着されており剥がれなかった。
○・・・強く剥がそうとすると剥がれる場合が10〜20%の頻度であった。
×・・・剥がそうとする力が弱くとも剥がれた。
××・・接着していなかった
なお、強い、弱いは相対的なものである。
【0038】
【表1】

【符号の説明】
【0039】
2:押釦カバー部材
4:筒部
6:封鎖部
8:メスネジ
10:スイッチボックス
12:スイッチ作動子
14:スイッチ本体
18:箱体
16:押釦
22:筒部材
30:オスネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にメスネジが形成されている金属製の筒部と、弾性樹脂からなり前記筒部の片側開口を封鎖し周縁部で前記筒部の外周面と接合されている封鎖部とで構成される押釦カバー部材であって、前記封鎖部がオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とし、前記筒部と前記封鎖部とが、塩素含有率が10〜50重量%である塩素化ポリオレフィン100重量部、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート0.01〜10重量部及び有機ジイソシアネート化合物2〜40重量部を含有する樹脂組成物を介して接着されてなる押釦カバー部材。
【請求項2】
前記弾性樹脂がオレフィン系樹脂をマトリックスとし、架橋したオレフィン系共重合体ゴムを島状のドメインとする分散形態を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載の押釦カバー部材。
【請求項3】
内周面にメスネジが形成されている金属製の筒部と、弾性樹脂からなり前記筒部の片側開口を封鎖し周縁部で前記筒部の外周面と接合されている封鎖部とで構成される押釦カバー部材を製造する方法であって、
内周面にメスネジが形成された筒部材と、塩素含有率が10〜50重量%である塩素化ポリオレフィン100重量部、トリス(イソシアナトフェニル)チオホスフェート0.01〜10重量部及び有機ジイソシアネート化合物2〜40重量部を含有する樹脂組成物を準備する工程、
前記筒部材の外周面に前記樹脂組成物の被膜を形成する工程、
インサート成型によりオレフィン系熱可塑性エラストマーを主成分とする樹脂を射出して前記押釦カバー部材の形状に成型する工程を含み、
前記インサート成型における金型の温度を50〜60℃に設定することを特徴とする押釦カバー部材の製造方法。
【請求項4】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、オレフィン系樹脂をマトリックスとし、架橋したオレフィン系共重合体ゴムを島状のドメインとする分散形態を有するオレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項3に記載の押釦カバー部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−244703(P2010−244703A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88789(P2009−88789)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(597129687)サンテクノス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】