説明

押釦スイッチ用部材およびその製造方法

【課題】薄型で、キートップがベースシートから浮き上がらず、かつ、より高い接着力にてキートップとベースシートとが固着された押釦スイッチ用部材を提供すること。
【解決手段】ベースシート3と、そのベースシート3上に1以上のキートップ2を固着した押釦スイッチ用部材1であって、キートップ2とベースシート3との接触面において、キートップ2とベースシート3とが相溶した融着部分を形成することにより、キートップ2とベースシート3とが固着されている押釦スイッチ用部材1としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦スイッチ用部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、PDA、リモートエントリーキーあるいはスマートエントリーキー等の電子機器は、更なる薄型化が要求されている。電子機器の薄型化を実現するためには、当該電子機器に設けられている押釦スイッチの薄型化が必要とされている。
【0003】
以下、携帯電話を電子機器の一例に挙げ、説明する。従来の押釦スイッチ用部材としては、例えば、次のような構造を有するものが知られている。図7は、従来から公知の押釦スイッチ用部材50の断面図である。押釦スイッチ用部材50は、ベースシート53上に複数のキートップ52が等間隔で配置されている。キートップ52の押し込みによって、ベースシート53の裏方向に配置されるスイッチ(不図示)を押圧する必要から、通常、ベースシート53は、弾性に富む軟質の材料から構成される。キートップ52は、接着層60を介してベースシート53に固着されている。また、ベースシート53のキートップ52に対向する面とは逆側の面には、スイッチ(不図示)を押圧するための押圧子58が接着層59を介して固着されている。
【0004】
ベースシート53にキートップ52を固着するために接着剤を用いる場合には、液だれ等が生じないように、ベースシート53とキートップ52との接着面の一部に接着剤を塗布して接着される。そのため、その接着領域を制御することが難しく、キートップ52の端が接着されずに、ベースシート53の面から浮くという問題がある。また、別の方法として、両面テープにてベースシート53とキートップ52を接着する方法も知られている。この場合には、両面テープの両側の接着面の全面でベースシート53とキートップ52とが接着される。しかし、押釦スイッチ用部材50が、両面テープの厚さの分だけ厚くなってしまうという問題がある。
【0005】
このような問題を解決すべく、ベースシートとキートップの少なくとも一方に、印刷層として形成され、ベースシートとキートップに対し、軟化又は溶融状態で接した硬化体でなる印刷接着層を設ける方法も知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2007−66818号公報(請求項1、段落0045等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1にて開示される従来技術は、まず、樹脂、ワックスあるいはゴム等からなる印刷接着層が軟化または溶融状態でベースシートとキートップに接触する。印刷接着層は、その状態で硬化するので、ベースシートとキートップとが接着される。しかし、そのような接着層だけでは十分な接着強度が得られないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、薄型で、キートップがベースシートから浮き上がらず、かつ、より高い接着力にてキートップとベースシートとが固着された押釦スイッチ用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、ベースシートと、そのベースシート上に1以上のキートップを固着した押釦スイッチ用部材であって、キートップとベースシートとの接触面において、キートップとベースシートとが相溶した融着部分を形成することにより、キートップとベースシートとが固着されている押釦スイッチ用部材としている。
【0009】
このような押釦スイッチ用部材とすることで、接着層自体の硬化によってキートップとベースシートとが接着されているのではなく、キートップ自体およびベースシート自体の表面を溶かして互いを融合させて接着されているため、融着部分は一体化された相溶領域となる。すなわち、キートップとベースシートとの間が、所望の接着領域の全面にて、高い接着強度で固着された押釦スイッチ用部材とすることができる。
【0010】
また、別の発明では、上述の発明に加え、ベースシートをポリウレタンフィルムまたは、ポリエチレンテレタレートフィルムとし、融着部分は、沸点が150℃から230℃未満のケトン系溶剤、エーテル系溶剤若しくはエステル系溶剤を介在させて形成された部分としている。
【0011】
このような押釦スイッチ用部材とすることで、融着部分に塗布した有機溶剤のうち、余剰の有機溶剤のみが乾燥工程にて除去される。一方、融着に必要な有機溶剤は、有機溶剤の塗布面に残留するため、融着工程において、有機溶剤を塗布していない部材の表面も溶解できる。
【0012】
また、別の発明では、上述の発明に加え、沸点が150℃から230℃未満のケトン系溶剤は、主成分としてイソホロンまたはシクロヘキサノンを含む溶剤としている。
【0013】
このような有機溶剤を採用することで、接着する部材をより効率よく溶解できる。接着する部材を溶解することで、キートップとベースシートとの間に相溶状態の領域が形成されるため、接着強度が向上する。
【0014】
また、別の発明では、ベースシートと、そのベースシート上に1以上のキートップを固着した押釦スイッチ用部材の製造方法であって、キートップを固着するベースシートの一部およびキートップの裏面の少なくとも一方に、有機溶剤を塗布する有機溶剤塗布ステップと、有機溶剤の一部を加熱により除去して接着能力を保ちつつ液だれしないようにする乾燥ステップと、キートップとベースシートとの接触界面の温度が60℃以上でキートップに使用されている樹脂の荷重たわみ温度以下の範囲の温度にて、キートップとベースシートとを融着して、キートップとベースシートとが相溶した融着部分を形成する熱融着ステップとを有する押釦スイッチ用部材の製造方法としている。
【0015】
このような製造方法を採用することで、接着層自体の硬化によって2つの部材が接着されているのではなく、接着する部材自体の表面を溶かして互いを融合させて接着されるため、融着部分が一体化されている。すなわち、キートップとベースシートとの間が、所望の接着領域の全面にて、高い接着強度で固着された押釦スイッチ用部材とすることができる。
【0016】
また、別の発明では、上述の発明に加え、有機溶剤塗布ステップは、有機溶剤を含む溶剤浸透層を、印刷にて形成する。
【0017】
このような製造方法を採用することで、有機溶剤の塗布領域をより精度よく制御できる。また、有機溶剤を均一に塗布することが可能となる。
【0018】
また、別の発明では、上述の発明に加え、溶剤浸透層は、複数層設けられ、キートップに接する第1の溶剤浸透層は、ベースシートよりもキートップと親和性が高く、ベースシートに接する第2の溶剤浸透層は、キートップよりもベースシートと親和性が高いものとしている。
【0019】
このような製造方法を採用することにより、キートップとベースシートとの間の接着強度を向上させることができる。
【0020】
また、別の発明では、上述の発明に加え、ベースシートをポリウレタンフィルムとし、キートップをポリカーボネート製のキートップとした押釦スイッチ用部材の製造方法であって、第1の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリカーボネート系インク若しくはアクリル系インクとを含む層であり、第2の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとウレタン系インクとを含む層としている。
【0021】
このような製造方法をキートップとベースシートとに採用することにより、キートップとベースシートとの間の接着強度を向上できる。
【0022】
また、別の発明では、上述の発明に加え、ベースシートをポリエチレンテレフタレートフィルムとし、キートップをポリカーボネート製のキートップとした押釦スイッチ用部材の製造方法であって、第1の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリカーボネート系インク若しくはアクリル系インクとを含む層であり、第2の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリエステル系インクを含む層としている。
【0023】
このような製造方法を採用することにより、また、キートップとベースシートとの溶解度パラメータ値が離れていても、接着強度を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、薄型で、キートップがベースシートから浮き上がらず、かつ、より高い接着力にてキートップとベースシートとが固着された押釦スイッチ用部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、押釦スイッチ用部材1を操作面側から見た状態の平面図である。図2は、図1のA−A線にて押釦スイッチ用部材1を切断した際の断面図である。
【0026】
押釦スイッチ用部材1は、図1に示すように、それぞれ個別に操作可能とするために、所定の間隔をあけて配置される複数のキートップ2を有する。各キートップ2は、ベースシート3上に融着されている。
【0027】
キートップ2は、樹脂製のキーであり、単一成形体であるか複数の層から成る成形体であるかを問わない。複数の層から成るキートップ2を採用する場合、キートップ2は、キートップ2コアの表面が樹脂シートで被覆されている部材をいい、被覆領域がキートップコアの一部であるか全部であるかを問わない。本発明に係る押釦スイッチ部材(不図示)に用いられる樹脂製のキートップ2の材料には、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂等の樹脂を使用できる。また、アクリル樹脂としては、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸メチル(PMA)、ポリアクリル酸エチル(PEA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)若しくはポリメタクリル酸エチル(PEMA)等が、特に好ましい。本実施の形態では、ポリカーボネート製またはアクリル製のキートップ2を用いている。
【0028】
キートップ2には、ベースシート3と接着する面(裏面)に、キートップ2の材質と同じ樹脂を含む印刷層4が形成されたものを用いことができる。印刷層4は、硬化した状態であり、キートップ2自体よりも、有機溶剤により溶解されやすい。したがって、キートップ2の接着面が有機溶剤に溶解されやすい状態とすることができる。
【0029】
また、本実施の形態では、ポリウレタン製のベースシート3を用いている。ここで、ベースシート3とは、キートップ2を固定配列するためのシート状の部材をいい、後述のEL素子を備えたシート、エラストマーシート等のシートを含む。また、キートップ2を押し込んだ際に、下方のスイッチ部材(不図示)を押し込むことを可能とするように、ベースシート3は、柔軟な弾性体であることが好ましい。さらに、ベースシート3は、熱可塑性フィルムであっても熱硬化性フィルムであっても良いが、汎用性、透明性、成形性、表面硬度およびコストを考慮すると、ウレタン樹脂あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等からなるベースシート3が好適に用いられる。
【0030】
エレクトロルミネセンス(Electroluminescence: EL)素子は、前記ベースシートに、ITOや導電性ポリマーから成る透明電極、硫化亜鉛等の無機蛍光体をバインダ中に分散させた発光層、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム等の誘電率の高いフィラーをバインダ中に分散させた誘電体層、カーボンや銀から成る対向電極の順に積層され、ELシートとして形成される。このように形成されたEL素子は、透明電極と対向電極の間に交流電圧を印加することにより、蛍光体が励起され発光層から発光する。このように、EL素子は、薄膜状のEL発光体に電圧をかけて発光させるものなので、極めて薄い構成部材とすることができる。このため、ELシートは、キートップ2部材の下方に容易に配置できる。EL素子は、上記のような無機EL素子の他、ジアミン類等の有機物を薄い基板等に蒸着させ電圧をかけて発光させる有機EL素子でも良い。
【0031】
キートップ2およびベースシート3の界面は、両部材が相溶した融合状態の領域となっている。そのため、接着部材が溶融状態から硬化して、キートップ2とベースシート3との間に介在するだけで接着している状態よりも、キートップ2とベースシート3とを強力に接着することができる。
【0032】
次に、第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造方法について説明する。図3は、第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【0033】
本実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造方法は、まず、ベースシート3の表面に有機溶剤をスプレーにて塗布する(ステップS101:有機溶剤塗布ステップ)。その後、5分間60℃にて乾燥を行う(ステップS102:乾燥ステップ)。次に、加飾印刷が表面に施されたキートップ2をベースシート3上へ配置する(ステップS103:配置ステップ)。そのキートップ2が配置された状態で、加熱しながら加圧することで、熱融着する(ステップS104熱融着ステップ)。
【0034】
ポリウレタン製のベースシート3と、ポリカーボネート製のキートップ2とを用いる場合には、ベースシート3の表面に塗布する有機溶剤として、ケトン系、エーテル系あるいはエステル系の有機溶剤を用いることができる。その中でも、特にケトン系の有機溶剤を用いると、ベースシート3とキートップ2との間の接着強度がより向上する。
【0035】
上述のケトン系の有機溶剤としては、ベースシート3およびキートップ2の材質が有する溶解度パラメータ(以後、SP値という。)と近いSP値を有する有機溶剤を用いることができる。近いSP値を有する有機溶剤とは、SP値の違いが、絶対値として2(cal/cm1/2以内の有機溶剤を指し、特に好ましくは、溶解度パラメータの違いが、絶対値として1(cal/cm1/2以内の有機溶剤をいう。さらに、該有機溶剤としては、後述の乾燥ステップにおける乾燥温度よりも沸点が高い有機溶剤を用いることが好ましい。本実施の形態では、SP値が10(cal/cm1/2のポリウレタンと、SP値が9.8(cal/cm1/2のポリカーボネートとを接着するために、SP値が9.09(cal/cm1/2であるイソホロン、あるいは、SP値が9.9(cal/cm1/2であるシクロヘキサノン等が好適に用いられる。さらに、そのような有機溶剤の沸点は、150℃以上230℃未満であることが好ましい。230℃未満の沸点を有する有機溶剤を用いることにより、後述の乾燥ステップにおいて高温で乾燥した際に、ベースシート3およびキートップ2が寸法変化や反り等を生じにくくできる。また、150℃以上の沸点を有する溶剤を用いることにより、乾燥ステップにおける乾燥時間を短くできることに加えて、熱融着ステップにおいて溶剤が揮発しやすくなるため、製品に溶剤が残留しにくく、溶剤臭が残りにくくなる。
【0036】
また、熱融着の温度は、キートップ2とベースシート3との接触界面の温度が60℃以上でキートップ2の材質の荷重たわみ温度以下であることが好ましい。さらに、キートップ2とベースシート3との接触界面の温度が80℃以上でキートップ2の材質の荷重たわみ温度以下で熱融着するのがより好ましい。また、キートップ2とベースシート3との接触界面の温度が100℃以上キートップ2の材質の荷重たわみ温度以下で熱融着するのが、特に好ましい。熱融着の温度がキートップ2とベースシート3との接触界面の温度が荷重たわみ温度以下の場合には、キートップ2が熱により変形しにくく外観を良好に維持できる。一方、ベースシート3は、押釦スイッチの外側に露出する面が少ないため、ベースシート3の荷重たわみ温度よりも高くキートップ2の荷重たわみ温度以下の温度で熱融着を行うことで、押釦スイッチ部材1の良好な外観を保ちつつ、ベースシート3とキートップ2とを高い接着強度で接着することができる。ここで、荷重たわみ温度とは、JISK7191等の試験法に基づき測定される値であって、一定の荷重を加えて変位が一定値になる温度をいう。例えば、本実施の形態で用いられるポリカーボネートの荷重たわみ温度は、120℃〜150℃であり、アクリルの荷重たわみ温度は、85℃〜105℃である。
【0037】
また、有機溶剤の塗布方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等で塗布できる。あるいは、噴霧により有機溶剤を塗布してもよいし、他の物質に有機溶剤を含ませたものを塗布しても良い。例えば、印刷用インクに有機溶剤を含ませて、印刷により有機溶剤を塗布しても良い。印刷方法としては、特に制限されないが、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット、凸版印刷、凹版印刷、静電印刷あるいはパッド印刷等の印刷方式を採用できる。また、有機溶剤は、複数回塗布してもよい。
【0038】
ステップS102は、有機溶剤の乾燥ステップであり、塗布した有機溶剤のうち、余剰な有機溶剤を蒸発させるために乾燥させるステップである。塗布した有機溶剤の一部を除去することにより、ベースシート3の表面の余剰な有機溶剤が垂れず、有機溶剤を塗布したベースシート3の重ね置きが可能となる。しかし、有機溶剤の沸点が乾燥温度よりも十分に高いので、ベースシート3上に塗布した全ての有機溶剤が揮発することなく、一部の有機溶剤は、ベースシート3の表面に残存した状態となる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、それらを組み合わせる乾燥方法があるが、常温にて必要な有機溶剤がベースシート3の表面に残るように、加熱乾燥することが好ましい。例えば、60℃で5分間の加熱乾燥を行うことで余剰な有機溶剤を除去できる。
【0039】
ポリウレタン製のベースシート3と接着されるポリカーボネート製のキートップ2は、例えば、キートップ2の裏面にポリカーボネート系のインクを含む印刷層4が形成されたものを好適に用いことができる。ポリカーボネート系のインクを含む印刷層4は、ポリカーボネート樹脂を主に含み、硬化した層である。印刷層4は、有機溶剤により溶解されやすいので、キートップ2の接着面に、キートップ2と同じ樹脂を含む印刷層4を設けることにより、キートップ2の接着面が有機溶剤に溶解されやすい状態となる。
【0040】
次に、キートップ2をベースシート3上に配置する。すると、ベースシート3に塗布された有機溶剤により、ベースシート3の表面と、キートップ2の裏面とがその有機溶剤に溶解する。
【0041】
次に、キートップ2が配置されたベースシート3を、ベースシート3側から、表面温度を160℃に加熱した加熱圧着治具(以後、ホットスタンプという。)を用いて、圧力2MPaにて20秒間、加熱および加圧する。なお、キートップ2が配置されたベースシート3を加熱および加圧するための治具は、キートップ2に接する面あるいはベースシート3に接する面のいずれか一方の材質が、キートップ2の材質よりも低硬度であることが好ましい。そのような治具を用いることにより、キートップ2に均一な圧力で加圧できるため、キートップ2とベースシート3とが各部分に関わらず、均一に接着される。有機溶剤が塗布されたキートップ2とベースシート3とを加熱および加圧することにより、ポリウレタンとポリカーボネートとの相溶が進み、ベースシート3とキートップ2との界面がポリウレタンとポリカーボネートとが融着した状態となる。加熱および加圧を停止し室温まで冷却すると、その相溶状態のまま相溶部が硬化し、ベースシート3とキートップ2との間に融着部分が形成される。このため、ベースシート3とキートップ2とが強力に接着される。
【0042】
なお、キートップ2が配置されたベースシート3を加熱および加圧する場合の圧力は、0.5MPa以上10MPa以下であり、さらに好ましくは、0.8MPa以上2.5MPaである。10MPa以下で加圧した場合には、キートップ2またはベースシート3に必要以上の荷重が加わらず、部分的にも伸びや割れが生じにくい。また、0.5MPa以上で加圧した場合には、キートップ2とベースシート3とが均一に密着しやすく接着ムラが生じない。また、熱融着の温度、圧力および融着時間が長ければ長いほどキートップ2とベースシート3との間の接着力を向上できるが、各部材の変形あるいは変色等を防ぐために、特に融着時間が短時間であることが望ましい。短時間で接着界面温度がキートップ2とベースシート3との熱融着温度に到達するために、予め加熱された治具を用いて熱融着することが好ましい。
【0043】
(第2の実施の形態)
次に、第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1について説明する。
【0044】
第2の実施の形態の平面図は、第1の実施の形態と同様である。また、図4は、第2の実施の形態に係る押釦スイッチの断面図である。
【0045】
第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1は、ベースシート3とキートップ2との間に、キートップ2側から第1の溶剤浸透層5および第2の溶剤浸透層6がこの順で形成されている。第1の溶剤浸透層5および第2の溶剤浸透層6は、スクリーン印刷にて、所望の接着領域(すなわち、ベースシート3のキートップ2に対向する面のうち、キートップ2が接触する領域)にのみ印刷パターンとして形成される。
【0046】
第1の溶剤浸透層5および第2の溶剤浸透層6(以後、溶剤浸透層5,6という)は、有機溶剤を保持する固形成分からなる層である。また、固形成分内に有機溶剤を保持させることにより、溶剤浸透層5,6は、ベースシート3上に印刷にて形成される。そのため、有機溶剤の塗布領域および塗布量を精度よく制御できる。固形成分としては、無機顔料、有機顔料、あるいは樹脂バインダを用いることができる。
【0047】
また、溶剤浸透層5とベースシート3との親和性および溶剤浸透層6とキートップ2との親和性は、キートップ2とベースシート3との親和性よりも高いものとしている。そのため、溶剤浸透層5,6を介して、キートップ2とベースシート3との間の接着強度を向上させることができる。さらに、キートップ2の部材と同じ部材の固形成分を含む溶剤浸透層5とすることで、溶剤浸透層5は、キートップ2の表面に好適に形成される。同様に、ベースシート3と同じ部材の固形成分を含む溶剤浸透層6とすることにより、溶剤浸透層6は、ベースシート3の表面に好適に形成される。また、印刷により形成された溶剤浸透層5,6は、有機溶剤により溶解されやすいため、後述の溶解および相溶が生じやすくなる。
【0048】
第1の溶剤浸透層5は、キートップ2に接する層であり、キートップ2の材質と同じポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート系インク100質量部に対して、イソホロン10質量部を含む層である。また、第2の溶剤浸透層6は、ベースシート3に接する層であり、好適には、ベースシート3の材質と同じポリウレタンを含むポリウレタン系インク100質量部に対して、ケトン系有機溶剤であるイソホロン10質量部を含む層である。
【0049】
このような構造の押釦スイッチ用部材1は、キートップ2がベースシート3から剥がれにくい。なぜなら、ウレタン系インクは柔軟であるため、ポリウレタン製のベースシート3が変形すると、その変形に追従し、ベースシート3とキートップ2との間の変形量の差を緩和できるからである。
【0050】
次に、第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造方法を説明する。図5は、第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造工程を説明するためのフローチャートである。
【0051】
第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造工程では、まず、ポリウレタン製のベースシート3に、第2の溶剤浸透層6を印刷にて形成する(ステップS201:有機溶剤塗布ステップ)。次に、第2の溶剤浸透層6の有機溶剤の一部を除去する(ステップS202:第1の乾燥ステップ)。そして、第2の溶剤浸透層6と同じ領域に、第1の溶剤浸透層5を印刷にて形成する(ステップS203:有機溶剤塗布ステップ)。そして、第1の溶剤浸透層5に含まれている有機溶剤の一部を乾燥にて除去する(ステップS204:第2の乾燥ステップ)その後のステップ(S205〜S206)は、第1の実施の形態のステップS103以降と同様である。
【0052】
ステップS201では、イソホロンを10質量部加えたウレタン系インク100質量部にて、第2の溶剤浸透層6をスクリーン印刷で形成する。次に、ステップS202では、第2の溶剤浸透層6に含まれる余剰な有機溶剤を除去するために、第1の実施の形態のステップS102と同様の条件で、加熱する。次に、ステップS203では、第2の溶剤浸透層6と同一の領域に、イソホロンを10質量部加えたポリカーボネート系インク100質量部を用いて、第1の溶剤浸透層5をスクリーン印刷にて形成する。印刷機にて溶剤浸透層5,6を形成することにより、第2の溶剤浸透層6を形成した領域と同一の領域に、第1の溶剤浸透層5を形成できる。また、スクリーン印刷を用いると、有機溶剤の塗布領域をより精度よく制御できると共に、適正な有機溶剤量で均一に塗布領域へ有機溶剤を塗布できる。
【0053】
(第3の実施の形態)
次に、第3の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1について説明する。
【0054】
第3の実施の形態の平面図は、第1の実施の形態と同様である。図6は、第3の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の断面図である。
【0055】
第3の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1では、ベースシート3に、複数のキートップ2が所定の間隔をおいて固着されている。しかし、キートップ2の裏面の全面で固着されるのではなく、例えば、キートップ2の外縁0.3mm幅(図6の領域7)を除く領域にて、キートップ2が、ベースシート3に固着されている。
【0056】
また、キートップ2と、ベースシート3とが固着されている部分には、溶剤浸透層8が設けられている。しかし、キートップ2の裏面のうち外縁部分は、溶剤浸透層8が存在しない。例えば、0.3mmの間隔で隣接するキートップ2が存在する場合に、キートップ2の外縁の0.3mm(図6の領域7)には、溶剤浸透層8が形成されていない。すなわち、隣接する接着領域は、0.9mmの間隔で設けられていることになる。なお、第3の実施の形態において、溶剤浸透層8は、キートップ2の裏面に設けられるものとしたが、このような形態に限らない。例えば、溶剤浸透層8が、ベースシート3の表面に設けられていてもよい。
【0057】
このように、キートップ2の裏面全面を接着領域とせずに、キートップ2の外縁を非接着領域とすることで、よりよいクリック感が得られる押釦スイッチ用部材1となる。これは、隣接する接着領域までのベースシート3の距離が十分に確保できるため、キートップ2を押圧した場合にベースシート3が弾性変形可能となるため、小さい力で下方に撓みやすくなるためである。
【0058】
第3の実施の形態に係る押釦スイッチ部材1の製造工程の有機溶剤塗布ステップは、第2の実施の形態の有機溶剤塗布ステップと同様に、スクリーン印刷にて行われる。有機溶剤塗布ステップ以外の製造工程は、第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材1の製造ステップと同様であるため、説明を省略する。
【0059】
以上、本発明に係る押釦スイッチ用部材およびその製造方法についての好適な実施の形態について説明したが、本発明は、上述の各実施の形態に何ら限定されることなく、種々変形した形態にて実施可能である。
【0060】
例えば、各実施の形態では、キートップ2とベースシート3の接着について述べたが、他の部材を接着する手段として用いてもよい。例えば、押圧子、タッチパネル、あるいは、フレーム等をベースシート3に接着するために用いてもよい。また、キートップ2以外の部材に関しても、接着領域同士の間隔を設ける、すなわち、非接着領域を設けることにより、クリック感を向上させるあるいは、操作性を向上させることができる場合がある。
【0061】
また、各実施の形態では、有機溶剤をベースシート3に塗布したが、キートップ2の裏面に有機溶剤を塗布する形態でも良い。同様に、有機溶剤を含む溶剤浸透層5,6を、キートップ2の裏面に設けても良い。また、溶剤浸透層は、1層以上何層設けても良い。また、化学反応を生じない2つ以上の異なる有機溶剤を用いてもよい。また、キートップ2の裏面に有機溶剤を含む溶剤浸透層としてインキを用いる場合には、加飾層を兼ねることも可能である。
【0062】
なお、各実施の形態において、キートップ2が配置されたベースシート3を、ベースシート3側から加熱および加圧するものとしているが、このような形態に限らない。キートップ2側のみが加熱されていてもよいし、両方が加熱されていてもよい。しかし、キートップ2またはベースシート3のいずれか一方に接する治具が、乾燥ステップと同じ温度に加温され、他方に接する治具が熱融着するために必要な温度に加温されていることにより、歩留まりを向上できる。
【0063】
また、本実施の形態で記載されている温度、寸法および配合比率等を具体的に記載しているが、これらの数値に限らず、他の数値でも良い。例えば、ベースシート3およびキートップ2の材質を変化させることで、各パラメータは変化しうるものである。また、本明細書に記載した各数値は、その数値に限られるものではなく、誤差あるいは公差を含むものとする。
【実施例1】
【0064】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0065】
本実施例では、ベースシートに相当するポリウレタンシートと、キートップに相当するポリカーボネート片との接着強度の測定を行った。具体的には、ポリウレタンシートと、ポリカーボネート片とを用いて、塗布する有機溶剤の種類、その有機溶剤の塗布方法、乾燥条件および接触界面の温度を変化させて各試験片を作製し、その接着強度を測定した。
【0066】
(有機溶剤別接着強度測定方法)
まず、厚さ0.1mmのポリウレタンシート部材の片面側全面に、各有機溶剤をスプレーにて塗布した。塗布後、有機溶剤を塗布したポリウレタンシートを、温度60℃にて5分間乾燥させた。
【0067】
次に、ポリカーボネート系インク層が形成されているポリカーボネート片を用意した。ポリカーボネート片のインク層が形成されている面を、ポリウレタンシートの有機溶剤が塗布された面に対向させて、ポリウレタンシート側から温度160℃で加熱し、圧力2Paにてポリカーボネート片とポリウレタンシートを20秒間加圧した。
【0068】
作製した試験片を、ポリカーボネートおよびポリウレタンシートのつかみ部を残して、幅10mmに裁断した。そのつかみ部を180度折り返し、端部を試験機で把持した。そして、つかみ部の端部を、速度60mm/minにて180度剥離方向に引っ張ることにより、引張試験を行った。試験は3回行い、接着強度の平均値を求めた。
【0069】
試験片同士が破壊または剥離した時の接着強度の平均値により以下の基準で評価した。
○・・・接着強度の平均値が、1.0kgf/cm以上
△・・・接着強度の平均値が0.8kgf/cm以上1.0kgf/cm未満
×・・・接着強度の平均値が0.8kgf/cm未満
【0070】
【表1】

【0071】
実施例1〜2、比較例1〜2
ケトン化合物であって、かつ沸点が乾燥温度(60℃)よりも90℃以上高いイソホロンおよびシクロヘキサノンを有機溶剤として用いた実施例1および実施例2では、ポリウレタンシートとポリカーボネート片との間に高い接着強度を示した。一方、ケトン化合物ではあるが、沸点が乾燥温度より19℃若しくは56℃高いブタノンおよびメチルペンタノンを有機溶剤として用いた比較例1および比較例2では、ポリウレタンシートとポリカーボネート片との間の接着強度は低かった。この理由として、比較例1および比較例2では、乾燥ステップにおいて有機溶剤成分の大部分が揮発してしまったためであると考えられる。
【0072】
比較例3〜5
芳香族化合物であるメシチレン、キシレンおよびトルエンを有機溶剤として用いた比較例3〜5は、有機溶剤の沸点の温度に関わらずポリウレタンシートとポリカーボネート片との間の接着強度は低かった。
【0073】
(乾燥時間別接着強度測定方法)
有機溶剤塗布ステップおよび乾燥ステップ以外は、前述の有機溶剤別接着強度測定方法と同様に試料を作製した。有機溶剤塗布ステップでは、ポリウレタンシートの片面側全面に、ポリカーボネート系インク(プロール社製、ノリファン(登録商標)HTR)100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクを用いて印刷した。印刷後、乾燥ステップにて乾燥時間を変化させた各試料を作製した。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例3〜4、比較例6〜9
実施例2と乾燥時間が同一である実施例3の試料は、有機溶剤をスプレーで塗布した場合にも、印刷にて塗布した場合にも、良好な接着強度を示した。乾燥時間が35分の実施例4の試験片も、十分に高い接着強度を示した。一方、乾燥時間が1時間以上の比較例6〜9の各試験片は、低い接着強度を示した。表2から明らかなように、乾燥時間が長くなると、ポリウレタンシートの表面に塗布した有機溶剤成分の大部分が揮発してしまうために、接着強度が低下する傾向が認められた。
【0076】
(クリック感測定方法)
次に、実施例3と同様の試料作成方法で用意した試料であって、ポリカーボネートをキートップ形状の成形品とした。また、ポリウレタンシートをベースシートとした。キートップの接着領域から、隣接した他のキートップの接着領域までの間の距離を変化させて、実施例5〜8の試料についてクリック感の測定を行った。
【0077】
(判定基準)
試験片を押圧した感触により以下の基準で評価した。
○・・・クリック感良好
△・・・小さいがクリック感はある
×・・・クリック感なし
【0078】
【表3】

【0079】
実施例5〜8
キートップの接着領域が互いに隣接している場合には、キートップの外周を非接着領域として、接着領域同士の距離を大きくした方が、クリック感は良好であった。特に、接着領域同士の距離を0.6mm以上とすることにより、非常に良好なクリック感を得ることができた。
【0080】
(2層以上の溶剤浸透層を設けた場合の接着強度測定試験方法)
次に、2層以上の溶剤浸透層を設けた場合の接着強度を測定するために、有機溶剤塗布ステップ以外は、前述の有機溶剤別接着強度測定方法と同様にて実施例9から実施例12の試料を作製した。有機溶剤塗布ステップでは、所定のシートの片面側に、所定のインク100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクを用いて、第2の溶剤浸透層をスクリーン印刷にて形成した。さらに、第2の溶剤浸透層と同一の領域に、第1の溶剤浸透層を設けた。
【0081】
(評価方法)
まず、ベースシートを平滑な面に固定した。キートップの端を把持し、キートップを押圧面に対して垂直に引っ張った。各条件につき4試料の測定を行い、キートップとベースシートとが剥がれるまでの間に記録した最大応力の平均値を接着強度として記録した。
【0082】
(判定基準)
キートップとベースシートとの接着強度を以下の基準で評価した。
○・・・最大応力の平均値が、2kgf/cm以上
△・・・最大応力の平均値が、1.6kgf/cm以上2kgf/cm未満
×・・・最大応力の平均値が、1.6kgf/cm未満
【0083】
【表4】

【0084】
実施例9
ポリウレタンシートの表面に、第2の溶剤浸透層としてウレタン系インク(セイコーアドバンス社製、RUX)100質量部に対してRUX硬化材10質量部とイソホロンを10質量部加えたインクにて、キートップの貼付け部分にのみ印刷を施した。印刷を施したシートを60℃で30分乾燥させた後で、第1の溶剤浸透層として、ポリカーボネート系インク(プロール社製、HTR)100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクにて、第2の溶剤浸透層を形成し領域と同一の領域に印刷を行い、60℃で30分乾燥させた。その印刷部分にポリカーボネート製のキートップを配置し、ポリウレタンシート面から温度が160℃、圧力が2MPaにて20秒間加圧および加熱して、実施例9の試験片を作成した。実施例9の試験片のベースシートとキートップとは、特に高い接着強度で接着していた。
【0085】
実施例10
PETシートの一方の面に、第2の溶剤浸透層としてポリエステル系インク(セイコーアドバンス社製、PALマット)100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクにて、キートップの貼り付け部にのみ印刷を施した。印刷を施したシートを60℃で30分間乾燥させた後で、第1の溶剤浸透層として、ポリカーボネート系インク(プロール社製、HTR)100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクにて、第2の溶剤浸透層が形成された領域と同一の領域に印刷を行い、60℃で30分間乾燥させた。その印刷部分にポリカーボネート製のキートップを配置し、PETシート面から、温度が160℃、圧力が2MPaにて20秒間加圧および加熱することにより、実施例10の試験片を作製した。PETシートとポリエステル系インクとの親和性が高いため、PETシートとポリカーボネート製のキートップとは、良好な接着強度で接着できた。
【0086】
実施例11
ポリカーボネート製キートップの裏面に、第1の溶剤浸透層として、アクリル系インク(セイコーアドバンス社製、CAV)100質量部に対してイソホロンを10質量部を加えたインクにて、キートップの貼り付け部分にのみ印刷を施し、80℃で30分間乾燥させた。第2の溶剤浸透層として、ウレタン系インク(セイコーアドバンス社製、SG740)100質量部に対してSG740用硬化剤を10質量部と、イソホロン10質量部とを加えたインクにて、第1の溶剤浸透層と同一の形状にウレタンシートに印刷した。印刷を施したシートを60℃で30分間乾燥させた後に、第1の溶剤浸透層と第2の溶剤浸透層とが重なるように、キートップをウレタンシートに配置した。そしてウレタンシート面側から、温度が160℃、圧力が2MPaにて20秒間加熱および加圧することにより、実施例11の試験片を作製した。実施例11の試験片のベースシートとキートップとは、良好な接着強度で接着されていた。
【0087】
実施例12
アクリル製キートップの裏面に、第1の溶剤浸透層として、アクリル系インク(セイコーアドバンス社製、CAV)100質量部に対してイソホロンを10質量部加えたインクにて、キートップの貼り付け部分にのみ印刷を施し、80℃で30分間乾燥させた。また、第2の溶剤浸透層として、ウレタン系インク(セイコーアドバンス社製、SG740)100質量部に対してSG740用硬化剤を10質量部と、イソホロン10質量部とを加えたインクにて、第1の溶剤浸透層と同一の形状にウレタンシートに印刷した。印刷を施したシートを60℃で30分間乾燥させた後に、第1の溶剤浸透層と第2の溶剤浸透層とが重なるように、キートップをウレタンシートに配置した。そしてウレタンシート面側から、温度が150℃、圧力が1.5MPaにて10秒間加熱および加圧することにより、実施例12の試験片を作製した。実施例12の試験片のベースシートとキートップとは、良好な接着強度で接着されていた。
【0088】
(接触界面の温度別接着強度測定試験方法)
次に、接触界面の温度を変えた場合の、接着強度を測定した。実施例13〜実施例17の試料は、前述の実施例9と同じキートップ、ウレタンシート、第1の溶剤浸透層および第2の溶剤浸透層にて作製した。
【0089】
(評価方法)
まず、ベースシートを平滑な面に固定した。キートップの端を把持し、キートップを垂直に引っ張った。ホットスタンプの表面温度を変化させることで、キートップとベースシートとの融着面の界面温度を変化させた。各条件につき5試料の測定を行い、キートップとベースシートとが剥がれるまでの間に記録した最大応力の平均値を接着強度として記録した。なお、判定基準は、2層以上の溶剤浸透層を設けた場合の接着強度測定試験方法と同様であるため、省略する。
【0090】
【表5】

【0091】
実施例13〜16
キートップとベースシートとの融着面の界面温度が、60℃よりも高い実施例13〜16の試験片のベースシートとキートップとは、良好な接着強度で接着されていた。特に、キートップとベースシートとの融着面の界面温度が、60℃よりも20℃以上高い実施例13〜実施例15の試験片の、ベースシートとキートップとは、大変良好な接着強度で接着されていた。
【0092】
一方、キートップとベースシートとの融着面の界面温度が、60℃よりも低い実施例17の試験片は、実施例13〜実施例16よりも低い接着力で、ベースシートとキートップとが接着されていた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、例えば、押釦スイッチ用部材を搭載した携帯電子端末を製造あるいは使用する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材の平面図である。
【図2】図1のA−A線で切断された断面を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図1に示す押釦スイッチ用部材の製造工程を説明するフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材の断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材の製造工程を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る押釦スイッチ用部材の断面図である。
【図7】従来の押釦スイッチ用部材の構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1 押釦スイッチ用部材
2 キートップ
3 ベースシート
5 第1の溶剤浸透層
6 第2の溶剤浸透層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースシートと、そのベースシート上に1以上のキートップを固着した押釦スイッチ用部材であって、
上記キートップと上記ベースシートとの接触面において、上記キートップと上記ベースシートとが相溶した融着部分を形成することにより、上記キートップと上記ベースシートとが固着されていることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項2】
前記ベースシートをポリウレタンフィルムまたは、ポリエチレンテレタレートフィルムとし、
前記融着部分は、沸点が150℃から230℃未満のケトン系溶剤、エーテル系溶剤若しくはエステル系溶剤を介在させて形成された部分であることを特徴とする請求項1に記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項3】
前記沸点が150℃から230℃未満のケトン系溶剤は、主成分としてイソホロンまたはシクロヘキサノンを含む溶剤であることを特徴とする請求項2に記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項4】
ベースシートと、そのベースシート上に1以上のキートップを固着した押釦スイッチ用部材の製造方法であって、
上記キートップを固着する上記ベースシートの一部および上記キートップの裏面の少なくとも一方に、有機溶剤を塗布する有機溶剤塗布ステップと、
上記有機溶剤の一部を加熱により除去して接着能力を保ちつつ液だれしないようにする乾燥ステップと、
上記キートップと上記ベースシートとの接触界面の温度が60℃以上でキートップに使用されている樹脂の荷重たわみ温度以下の範囲の温度にて、上記キートップと上記ベースシートとを融着して、上記キートップと上記ベースシートとが相溶した融着部分を形成する熱融着ステップと、を有することを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤塗布ステップは、前記有機溶剤を含む溶剤浸透層を、印刷にて形成することを特徴とする請求項4に記載の押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項6】
前記溶剤浸透層は、複数層設けられ、
前記キートップに接する第1の溶剤浸透層は、前記ベースシートよりも前記キートップと親和性が高く、
前記ベースシートに接する第2の溶剤浸透層は、前記キートップよりも前記ベースシートと親和性が高いことを特徴とすることを特徴とする請求項5に記載の押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項7】
前記ベースシートをポリウレタンフィルムとし、前記キートップをポリカーボネート製のキートップとした押釦スイッチ用部材の製造方法であって、
前記第1の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリカーボネート系インク若しくはアクリル系インクとを含む層であり、
前記第2の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとウレタン系インクとを含む層であることを特徴とする請求項6に記載の押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項8】
前記ベースシートをポリエチレンテレフタレートフィルムとし、前記キートップをポリカーボネート製のキートップとした押釦スイッチ用部材の製造方法であって、
前記第1の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリカーボネート系インク若しくはアクリル系インクとを含む層であり、
前記第2の溶剤浸透層は、イソホロンまたはシクロヘキサノンとポリエステル系インクを含む層であることを特徴とする請求項6に記載の押釦スイッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−9946(P2010−9946A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168128(P2008−168128)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】