説明

担持触媒の製造方法

【課題】担持させることのできる触媒成分の種類が制限されず、また触媒活性に優れ、使用時の触媒成分の脱離が抑制されると共に、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な担持触媒を製造する方法を提供すること。
【解決手段】樹脂からなる粒子状の担体と、前記担体の表面に担持される触媒成分とを有する担持触媒の製造方法であって、前記触媒成分を水系媒体に分散させる分散工程と、前記触媒成分を分散させた水系媒体と前記担体を構成する樹脂の水溶性初期縮合物とを混合する混合工程と、前記水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物とする重合工程とを有するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担持触媒の製造方法に係り、特に樹脂からなる粒子状の担体の表面に触媒成分が担持されてなる担持触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒は触媒活性を有する金属成分を主成分とし、特に金属成分として貴金属が用いられている。このような金属成分からなる触媒成分は、担体の表面に担持されて用いられている。担体の表面に触媒成分を担持させることで、触媒効率を向上させることができ、また触媒成分の有効利用により担持量を低減することができ、特に触媒成分が高価な貴金属である場合に有効である。また、触媒成分は反応終了後に反応生成物等から分離、回収するため、触媒成分を担体の表面に担持させることで、反応終了後の反応生成物等からの分離、回収が容易となる。
【0003】
このような担体としては、例えば微粉状の活性炭が用いられている。活性炭に触媒成分を担持させる代表例である活性炭にパラジウムを担持させたパラジウム−活性炭触媒は、活性炭を予め酸又は塩基類で処理し、その後に塩化パラジウム、硝酸パラジウム等の水溶性パラジウム塩の水溶液に浸漬し、蒸発乾固、還元処理することにより製造されている。還元処理としては、通常のH還元の他、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等の液相還元剤による還元が行われている。活性金属として白金やルテニウムを用いたものも同様な方法で製造されている。
【0004】
また、担体材料として、例えばアルミナやシリカが用いられている。アルミナ担体については、金属イオンとの吸着を利用するものが知られており、酸または塩等の共存イオンにより担持量がコントロールされている。一方、シリカ担体については、金属イオン、特に錯イオンを吸着する能力がないことから金属イオンの所在制御が困難であり、また通常の含浸法では担体内部まで金属が侵入してしまい、しかも均一性に欠けるものしか得ることができない。
【0005】
このため、金属塩溶液を添加した溶剤を瞬時に蒸発させて金属塩をシリカ担体の表面に強制的に付着させる方法や、金属塩が含浸されたシリカ担体をアルカリ溶液で処理することにより非水溶性貴金属化合物を沈殿させ、シリカ担体の表面に担持させる方法が検討されている。さらに、これらの方法では必ずしも分散性や均一性を満足しないため、シリカ担体をアミノ基を有するシラン化合物と反応させて改質した後、貴金属塩の水溶液と接触させることにより貴金属イオンをシリカ表面に固定し、還元処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、担体としてセルロースを含有するものが提案されている。セルロースとしては、例えばリンター、パルプ、再生繊維等のセルロース質原料に化学的処理(酸加水分解、アルカリ酸化分解等)、および/もしくは機械的処理(粉砕、磨砕等)を施すことにより製造されたものが用いられている。セルロース担体への触媒成分の担持は、例えばセルロース担体を核として、そのまわりに結合液を利用して触媒成分を被覆する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、担体に触媒成分を担持する方法として、触媒成分を溶媒に溶解または懸濁させた後、担体としての微粒粉末に触媒成分を担持させる方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭64−85141号公報
【特許文献2】特開平5−329380号公報
【特許文献3】特開平8−89817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、触媒成分塩の水溶液に活性炭を浸漬し、還元処理するものについては、使用時に担体から触媒成分が脱離することがあり、その分離、回収が困難となることがある。また、アルミナやシリカに吸着、改質等により触媒成分を担持させるものについては、担持させることのできる触媒成分の種類が制限される。さらに、セルロースを含有する担体に触媒成分を担持させるものについては、担体と触媒成分との接着力が弱く、使用時に担体から触媒成分が脱離することがあり、その分離、回収が困難となることがある。また、触媒成分を溶媒に溶解または懸濁させて担体としての微粒粉末に担持させるものについても、担体から触媒成分が脱離することがあり、その分離、回収が困難となることがある。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、担持させることのできる触媒成分の種類が制限されず、また触媒活性に優れ、使用時の触媒成分の脱離が抑制されると共に、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な担持触媒を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の担持触媒の製造方法は、樹脂からなる粒子状の担体と、前記担体の表面に担持される触媒成分とを有する担持触媒の製造方法であって、前記触媒成分を水系媒体に分散させる分散工程と、前記触媒成分を分散させた水系媒体と前記担体を構成する樹脂の水溶性初期縮合物とを混合する混合工程と、前記水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物とする重合工程とを有することを特徴とする。
【0011】
前記触媒成分としては、例えば金属、金属酸化物、および有機金属化合物の中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、前記水溶性初期縮合物は、例えばアミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物とからなるものとすることができる。
【0012】
また、前記水溶性初期縮合物は、例えば前記アミノ基を含む化合物と前記アルデヒド化合物とを塩基性条件下で反応させて得られるものであり、前記重合工程は、例えば酸触媒を加えて前記水溶性初期縮合物を重合させることにより前記粒子状の非水溶性縮合物として析出させるものである。
【0013】
前記分散工程における前記水系媒体への前記触媒成分の分散は、例えばメディア式微粒化機器により行ってもよいし、また例えば高圧式微粒化機器により行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、担持させることのできる触媒成分の種類が制限されず、また触媒活性に優れ、使用時の触媒成分の脱離が抑制されると共に、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な担持触媒を製造することができる。特に、混合工程や重合工程に先立って触媒成分を水系媒体に分散させる分散工程を行うことで、重合工程で得られる担体としての粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることができると共に、この粒子状の非水溶性縮合物が過度に凝集することを抑制でき、触媒活性に優れる担持触媒を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の担持触媒の製造方法について詳細に説明する。
本発明の担持触媒の製造方法は、樹脂からなる粒子状の担体と、この担体の表面に担持される触媒成分とを有する担持触媒を製造する方法であって、分散工程、混合工程、および重合工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明では、まず混合工程や重合工程に先だって分散工程を行う。分散工程は、担体の表面に担持させる触媒成分を水系媒体に分散させるものである。このように混合工程や重合工程に先だって分散工程を行うことで、触媒成分の凝集をほぐして微粒子状とすることができ、後工程である重合工程で得られる担体としての粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることができると共に、この粒子状の非水溶性縮合物の過度な凝集も抑制でき、結果として触媒活性に優れる担持触媒を容易に製造することができるようになる。
【0017】
混合工程や重合工程に先だって分散工程を行うことの作用機構は必ずしも明らかではないが、予め分散工程で触媒成分を水系媒体に分散させておくことで、重合工程で得られる粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることができると共に、この表面に担持された微粒子状の触媒成分の存在により粒子状の非水溶性縮合物同士の過度な凝集を抑制でき、結果として触媒活性に優れる担持触媒を容易に製造することができると考えられる。
【0018】
分散工程に用いられる触媒成分としては触媒活性を有するものであれば特に制限されるものではなく、最終的に担持触媒として使用する際の触媒反応の種類に応じて適宜選択することができる。このような触媒成分としては、具体的には金属、金属酸化物、および有機金属化合物の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが用いられ、例えばチタン、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミニウム、白金等の金属ならびにその酸化物および錯体等の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが用いられる。また、これらのうちの2種以上を含有する複合体を用いることもできる。
【0019】
このような触媒成分は、一次粒子径が1μm以下であることが好ましく、例えば1nm以上100nm以下であることが好ましいが、必ずしもこのようなものに限られるものではない。また、触媒成分としては、例えばいわゆる金属ナノ粒子触媒も好適に用いることができる。
【0020】
また、触媒成分を分散させる分散媒としての水系媒体としては、例えば蒸留水、イオン交換水等を好適に用いることができるが、一部に水に可溶な有機溶媒を含んでいてもよい。このような有機溶媒としては、次工程である混合工程で混合する水溶性初期縮合物や、その後の重合工程で好適に加えられる酸触媒等を溶解できるものであることが好ましく、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール等のアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルオキシド等の極性溶媒を用いることができる。
【0021】
水系媒体への触媒成分の分散は適切に行う必要がある。例えば水系媒体中に最大粒径が1μmを超えるような触媒成分が認められなくなるように行うことが好ましい。触媒成分の最大粒径が1μmを超える場合、重合工程において粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることが困難となるおそれがあり、また粒子状の非水溶性縮合物が過度に凝集するおそれがあり、結果として触媒活性に優れる担持触媒を得られないおそれがある。なお、水系媒体中の触媒成分の最大粒径は、公知のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置、例えばLA950(堀場製作所社製、商品名)を用いて測定される。
【0022】
水系媒体への触媒成分の分散方法は必ずしも限定されるものではないが、触媒成分の最大粒径を上記範囲内としやすいことから、例えばメディア式微粒化機器や高圧式微粒化機器を用いて行うことが好ましい。
【0023】
メディア式微粒化機器としては、例えばダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、商品名)、DCPミル(アイリッヒ社製、商品名)、SCミル(三井鉱山社製、商品名)、スーパービスコミル、ナノミル、ファインミル(日本ニューマチック社製、商品名)等を用いることができる。メディア式微粒化機器を用いる場合、ポットの容量やこのポットに充填するメディアの径、充填率等によっても異なるものの、例えば容量250mlのポットを用い、メディアとして2mm径のものを充填率60%で用いた場合、分散処理を12時間以上とすることで、触媒成分の最大粒径を上記範囲内とすることができる。
【0024】
また、高圧式微粒化機器としては、例えばHOMOGENIZER(三和機械社製、商品名)、超高圧ホモジナイザー;M−110−E/H,M−140K,M−210C−E/H,M−610等(みずほ工業社製、商品名)、ナノマイザー;YSNM−1500AR,YSNM−1500−0025N等(吉田機械興業社製、商品名)、エマルジフレックス;EmulsiFlex−C3,C5,C50等(Avestin社、商品名)、ゴーリンホモジナイザーAPV等(ラニー社製、商品名)、マイクロフルイダイザー、マイクロフルイデックス等(インターナショナル社製、商品名)、アルティマイザー(スギノマシン社製、商品名)、ナノマイザー(ナノマイザー社製、商品名)、NS型高圧ホモジナイザー(Niro−Soavi.S.p.A社製、商品名)、HC3−5等(三丸機械社製、商品名)等を用いることができる。高圧式微粒化機器を用いる場合についても、連続式か非連続式かによって、また処理圧力によっても異なるものの、例えば非連続式のものを用いた場合、50MPaの処理圧力で3回以上の分散処理を行うことで、触媒成分の最大粒径を上記範囲内とすることができる。
【0025】
混合工程は、分散工程で触媒成分を分散させた水系媒体と、担体を構成する樹脂の水溶性初期縮合物とを混合するものである。水溶性初期縮合物としては、例えばアミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物とからなるものを用いることができる。
【0026】
なお、水溶性初期縮合物とは、例えばアミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物との縮合反応により得られる初期縮合物あって、比較的重合度が低いために水溶性となるものである。すなわち、アミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物とを縮合反応させた場合、縮合反応を繰り返して徐々に溶解性が低下し、最終的には非水溶性となる。しかし、反応初期の重合度の低いものについては水溶性の化合物となり、本発明でいう水溶性初期縮合物となる。ここで、水溶性とは、目視で透明であることが確認できるものをいう。
【0027】
水溶性初期縮合物を得るために用いられるアミノ基を含む化合物としては、例えば尿素、メラミン、グアナミン、アニリン、またはこれらの化合物が挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、また2種以上が併用されていてもよい。
【0028】
例えばメラミン化合物としては、例えばメラミンのアミノ基の水素をアルキル基、アルケニル基、フェニル基で置換したものが挙げられ、具体的には下記一般式(1)で示されるものが挙げられる。
【化1】

[式中、置換基、R、R、R、R、RおよびRは各々互いに独立しており、それら置換基の1ないし5個は、C1−20のアルキル基、C2−20のアルケニル基(該アルキル基またはアルケニル基は、その構造中に任意に脂環式構造またはフェニル基を有していても良く、また2個の該アルキル基またはアルケニル基が同一窒素原子上にある場合はその窒素原子と一緒になって3〜8員の含窒素複素環を形成しても良い)またはフェニル基を表し、そして残りの置換基は水素原子を表す。]
【0029】
1−20のアルキル基、C2−20のアルケニル基またはフェニル基で表される場合の置換基、R、R、R、R、RおよびRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert− ブチル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、sec−ペンチル基、tert− ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、ベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、1−フェニルプロピル基、3−フェニルプロピル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、2−ペンテニル基、3−ヘキセニル基、スチリル基及びフェニル基、そして、同一窒素原子上の2個の置換基がその窒素原子と一緒になって複素環を形成した場合の環構造としてはアジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環及びピペリジン環等が挙げられる。
【0030】
さらに、メラミン化合物としては、例えばメラミンのアミノ基をヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルキル(オキサアルキル)基、アミノアルキル基で置換したものを用いることができる。このようなものとしては、例えば下記一般式(2)で示されるものが挙げられる。
【化2】

[但し、X、X′およびX″は−NH、−NHRおよび−NRR′からなる群から選択されるものであり、その場合X、X′およびX″は同時には−NHではなく、RおよびR′はヒドロキシ−C2−10−アルキル、ヒドロキシ−C2−4−アルキル−(オキサ−C2−4−アルキル)、(n=1〜5)およびアミノ−C2−12−アルキルからなる群から選択されるものである。]
【0031】
ヒドロキシ−C2−10−アルキル基としては、望ましくは2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシ−n−プロピル、2−ヒドロキシイソプロピル、4−ヒドロキシ−n−ブチル、5−ヒドロキシ−n−ペンチル、6−ヒドロキシ−n−ヘキシル、3−ヒドロキシ−xy−2,2−ジメチルプロピルのようなヒドロキシ−C2−6−アルキル、望ましくは2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシ−n−プロピル、2−ヒドロキシイソプロピルおよび4−ヒドロキシ−n−ブチルのようなヒドロキシ−C2−4−アルキル、とくに望ましくは2−ヒドロキシエチルおよび2−ヒドロキシイソプロピルが挙げられる。
【0032】
ヒドロキシ−C2−4−アルキル−(オキサ−C2−4−アルキル)基としては、望ましくはn=1〜4であるようなもの、とくに望ましくはn=1または2であるようなもの、例えば5−ヒドロキシ−3−オキサ−ペンチル、5−ヒドロキシ−3−オキサ−2,5−ジメチル−ペンチル、5−ヒドロキシ−3−オキサ−1,4−ジメチル−ペンチル、5−ヒドロキシ−3−オキサ−1,2,4,5−テトラメチル−ペンチル、8−ヒドロキシ−3,6−ジオキサ−オクチルが挙げられる。
【0033】
アミノ−C2−12−アルキル基としては、望ましくは2−アミノエチル、3−アミノプロピル、4−アミノブチル、5−アミノペンチル、6−アミノヘキシル、7−アミノヘプチルならびに8−アミノオクチルのようなアミノ−C2−8−アルキル基、とくに望ましくは2−アミノエチルおよび6−アミノヘキシル、極めて望ましくは6−アミノヘキシルが挙げられる。
【0034】
一方、アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、フルフラール等を用いることができるが、通常は安価でアミノ基を含む化合物との反応性に優れるホルムアルデヒドあるいはパラホルムアルデヒドが好適に用いられる。
【0035】
アルデヒド化合物は、例えばアミノ基を含む化合物1モルに対して有効アルデヒド基あたり1.1モル以上6.0モル以下、特に1.2モル以上4.0モル以下となるアルデヒド化合物を使用することが好ましい。アルデヒド化合物の配合量がアミノ基を含む化合物の配合量に対して少なすぎる場合、最終的に三次元架橋により非水溶性化させて析出させることが困難となる。また、アルデヒド化合物の配合量がアミノ基を含む化合物の配合量に対して多すぎる場合、未反応物として系内に残存し、各種汚染の原因となるおそれがある。
【0036】
水溶性初期縮合物は、例えば上記したアミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物とを所定の割合で混合し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリエチルアミン等の塩基性触媒を用いて縮合反応させることにより容易に得ることができる。
【0037】
重合工程は、混合工程で触媒成分と水溶性初期縮合物とを混合したものにおいて、水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物として析出させるものである。このとき、粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分が付着することで、粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分が微粒子状に担持された担持触媒を得ることができる。また、
この表面に担持された微粒子状の触媒成分により、粒子状の非水溶性縮合物の過度な凝集が抑制された担持触媒を得ることができる。
【0038】
なお、非水溶性縮合物とは、水溶性初期縮合物の縮合反応をさらに進めることにより重合度が高くなった結果、溶解性が低下し非水溶性となったものである。ここで、非水溶性とは、目視で透明であることが確認できないものであればよい。また、触媒成分は、主として粒子状の非水溶性縮合物の表面に担持されているが、一部は粒子状の非水溶性縮合物の内部に取り込まれていてもよい。
【0039】
重合工程では、水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物として析出させるために酸触媒を使用することが好ましく、例えば反応系がpH6以下となるように酸触媒を添加することが好ましく、特に反応系がpH2〜5となるように酸触媒を添加することが好ましい。pHが6より高いと粒子状の非水溶性縮合物の粒度分布が広くなり、また粒子状の非水溶性縮合物も凝集しやすくなるために好ましくない。
【0040】
重合工程で用いる酸触媒としては、例えば塩酸等の無機酸、酢酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ポリオキシエチレンおよびその誘導体のスルホン化物等の有機酸が挙げられる。
【0041】
また、酸触媒としては1分子中に塩基を中和することのできる水素原子が2個以上含まれている多塩基酸を用いることもできる。このようなものとしては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸類、またマレイン酸、フマル酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸類、さらにはフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸類、そして硫酸等の無機酸類といった二塩基酸が挙げられる。また、多塩基酸としては、例えばトリカルバリル酸、ベンゼントリカルボン酸等のトリカルボン酸類、そしてリン酸、ヒ酸、ホウ酸等の無機酸といった三塩基酸が挙げられる。さらに、多塩基酸としては、例えばベンゼンテトラカルボン酸等の四塩基酸、ベンゼンヘキサカルボン酸等の六塩基酸が挙げられる。
【0042】
このような本発明の担持触媒の製造方法によれば、担持させることのできる触媒成分の種類が制限されず、また使用時の触媒成分の脱離が抑制され、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な担持触媒を製造することができる。特に、混合工程や重合工程に先だって分散工程を行うことで、担体としての粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることができると共に、この粒子状の非水溶性縮合物の過度な凝集も抑制でき、結果として触媒活性に優れる担持触媒を容易に製造することができる。
【0043】
本発明の担持触媒の製造方法によれば、具体的には平均粒子径(メジアン径D50)が30μm以上100μm以下の担持触媒を容易に製造することができる。ここで、担持触媒は、例えば触媒成分が表面に担持された粒子状の非水溶性縮合物が複数個凝集することにより形成される葡萄の房状のものであって、この個々の粒子状の非水溶性縮合物の粒子径が1μm以上20μm以下程度のものである。なお、担持触媒の平均粒子径(メジアン径D50)は粒度分布において0μmからの積算体積が50%となる粒径を意味するものであり、例えばレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定されるものである。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の担持触媒の製造方法について、実施例を参照して具体的に説明する。
【0045】
(実施例1)
容量250mlのボールミル用ポット(メディア:2mm径ジルコニアボール、充填率60%)に、触媒成分としてのパラジウム触媒含有酸化鉄微粒子(Pd量2.2%、比表面積26m/g、平均粒子径0.05μm)20質量部と水80質量部とを仕込み、12時間以上分散処理して触媒成分の分散液を調製した。なお、グラインドゲージを用いてツブの状態を確認したところ、ツブの存在は認められなかった、さらに、触媒成分の分散液における触媒成分の最大粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置[LA950(堀場製作所社製、商品名)]で測定したところ0.77μmであった。
【0046】
攪拌モータ、還流コンデンサー、および温度計を具備する300mlのセパラブルフラスコにメラミン7.6g、37%ホルマリン14.6g、硫酸ナトリウム0.090g、および水128.2gを仕込み、25%アンモニア水にてpHを8.5に調整した。この混合液を攪拌しながら昇温し、温度を70℃に保って30分間反応させることにより水溶性初期縮合物としてのメラミン樹脂の初期縮合物の水溶液を調製した。
【0047】
その後、この水溶性初期縮合物の水溶液の温度を50℃に下げ、先に調製した触媒成分の分散液3.24gを混合した。次いで、この触媒成分と水溶性初期縮合物との混合液を50℃に保ちつつ10質量%パラエントルエンスルホン酸水溶液を添加してpHを5.1に調整した後、50℃で3時間、さらに90℃に昇温して1時間の縮合反応を行って水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物を析出させると共に、その表面に触媒成分を付着させ担持させた。この縮合反応により得られた反応液を濾過、洗浄、乾燥し、担体としての粒子状の非水溶性縮合物(メラミン樹脂)の表面に触媒成分としてのパラジウム触媒含有酸化鉄微粒子が担持された褐色の担持触媒を得た。
【0048】
この担持触媒の平均粒子径(メジアン径D50)をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置[LA950(堀場製作所社製、商品名)]で測定したところ67.8μmであった。また、この担持触媒を詳細に観察したところ、5μm程度の粒径の球状粒子が集まって葡萄の房状の粒子となっているのが観察された。さらに、この担持触媒を用いて鈴木カップリング反応のモデル反応系で反応させたところ、実用的な速度で反応が進行することが確認された。
【0049】
(実施例2)
水溶性初期縮合物の水溶液の調製において、メラミンの配合量を5.8gとし、さらにベンゾグアナミンを1.7g追加した以外は実施例1と同様にして担持触媒を作製した。このようにして製造された担持触媒の平均粒子径(メジアン径D50)は72.3μmであった。また、この担持触媒を詳細に観察したところ、5μm程度の粒径の球状粒子が集まって葡萄の房状の粒子となっているのが観察された。さらに、この担持触媒を用いて鈴木カップリング反応のモデル反応系で反応させたところ、実用的な速度で反応が進行することが確認された。
【0050】
(実施例3)
触媒成分と水溶性初期縮合物とを混合し、pHを調製した後の縮合反応を、50℃で3時間、さらに70℃に昇温して1時間とする以外は実施例1と同様にして担持触媒を作製した。このようにして製造された担持触媒の平均粒子径(メジアン径D50)は45.5μmであった。また、この担持触媒を詳細に観察したところ、5μm程度の粒径の球状粒子が集まって葡萄の房状の粒子となっているのが観察された。さらに、この担持触媒を用いて鈴木カップリング反応のモデル反応系で反応させたところ、実用的な速度で反応が進行することが確認された。
【0051】
(実施例4)
触媒成分の分散液の調製を、ボールミルを用いて行う代わりに高圧式微粒化機器を用いて行った以外は実施例1と同様にして担持触媒を作製した。すなわち、触媒成分としてのパラジウム触媒含有酸化鉄微粒子20質量部と水80質量部とを配合して攪拌モータで5分間攪拌した後、EmulsiFlex−C5(Avestin社、商品名)を用いて50MPaの処理圧力で3回通過させて触媒成分の分散液を調製し、以降は実施例1と同様にして担持触媒を作製した。なお、触媒成分の分散液における触媒成分の最大粒径は0.4μmであった。
【0052】
このようにして製造された担持触媒の平均粒子径(メジアン径D50)は65.7μmであった。また、この担持触媒を詳細に観察したところ、5μm程度の粒径の球状粒子が集まって葡萄の房状の粒子となっているのが観察された。さらに、この担持触媒を用いて鈴木カップリング反応のモデル反応系で反応させたところ、実用的な速度で反応が進行することが確認された。
【0053】
(比較例1)
攪拌モータ、還流コンデンサー、および温度計を具備する300mlのセパラブルフラスコに触媒成分としてのパラジウム触媒含有酸化鉄微粒子0.65gと水128.2gとを仕込み、100rpmの攪拌速度で10分間撹拌混合した。なお、この混合液における触媒成分の最大粒径は3.3μmであった。
【0054】
次いで、この混合液にメラミン7.6g、37%ホルマリン14.6g、および硫酸ナトリウム0.090gを添加し、25%アンモニア水にてpHを8.5に調整した。その後、実施例1と同様の反応条件で、水溶性初期縮合物を生成させた後、この水溶性初期縮合物を重合させた。その結果、水溶性初期縮合物をさらに重合させる際の50℃での縮合反応中、非水溶性縮合物が過度に凝集して担持触媒を得ることができなかった。
【0055】
以上の結果から、混合工程および重合工程に先だって分散工程を行うことで、担体としての粒子状の非水溶性縮合物の表面に触媒成分を微粒子状にして担持させることができると共に、この粒子状の非水溶性縮合物の過度な凝集も抑制でき、結果として触媒活性に優れる担持触媒を容易に製造できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる粒子状の担体と、前記担体の表面に担持される触媒成分とを有する担持触媒の製造方法であって、
前記触媒成分を水系媒体に分散させる分散工程と、
前記触媒成分を分散させた水系媒体と前記担体を構成する樹脂の水溶性初期縮合物とを混合する混合工程と、
前記水溶性初期縮合物をさらに重合させて粒子状の非水溶性縮合物とする重合工程と
を有することを特徴とする担持触媒の製造方法。
【請求項2】
前記触媒成分は、金属、金属酸化物、および有機金属化合物の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の担持触媒の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性初期縮合物は、アミノ基を含む化合物とアルデヒド化合物とからなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の担持触媒の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性初期縮合物は、前記アミノ基を含む化合物と前記アルデヒド化合物とを塩基性条件下で反応させて得られるものであり、前記重合工程は、酸触媒を加えて前記水溶性初期縮合物を重合させることにより前記粒子状の非水溶性縮合物として析出させるものであることを特徴とする請求項3記載の担持触媒の製造方法。
【請求項5】
前記分散工程における前記水系媒体への前記触媒成分の分散は、メディア式微粒化機器により行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の担持触媒の製造方法。
【請求項6】
前記分散工程における前記水系媒体への前記触媒成分の分散は、高圧式微粒化機器により行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の担持触媒の製造方法。

【公開番号】特開2010−99588(P2010−99588A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273144(P2008−273144)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】