拍動検出装置、および拍動検出方法
【課題】拍動検出装置を装着している人が運動量を増大する方向に急激に体動を変化させた場合でも正確に脈波を検出することができる拍動検出装置を提供する。
【解決手段】人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置1であって、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサー8と、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサー30と、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部(s1〜s6)と、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部(s7,s8)とを備えている。
【解決手段】人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置1であって、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサー8と、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサー30と、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部(s1〜s6)と、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部(s7,s8)とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体の拍動を検出する技術に関し、特に人体に装着した状態で使用されて体動中の拍動を精度良く検出するための拍動検出装置と拍動検出方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
拍動検出装置は、人体の心拍に由来する拍動を検出するための装置であって、例えば、腕や手指などに装着される脈波センサーからの信号(脈波信号)から、人体の体動の影響により発生する信号成分(体動影響信号)を雑音として除去し、心拍に由来する信号(拍動信号)のみを検出する装置である。そして、以下の特許文献1や2などには、体動信号を加速度センサーを用いて検出するとともに、体動信号を参照して適応フィルタを生成し、その適応フィルタを用いて体動影響信号を含んだ脈波信号から体動影響信号を除去する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−8908号公報
【特許文献2】特開2002−224055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の拍動検出装置では、静止状態にある人が急に歩き出したり、歩いている人が急に走り出したりするなど、運動量が増大する方向に体動が急激に変化すると、脈波を正確に検出できない、という課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためのものであって、その目的は、拍動検出装置を装着している人が運動量を増大する方向に急激に体動を変化させた場合でも正確に脈波を検出することができる拍動検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、その特徴は、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部と、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部とを備えていることである。
【0007】
また、本発明は、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーとを備えたコンピュータにより、人体の拍動に由来する拍動信号を検出するための拍動検出方法にも及んでおり、当該方法に係る主たる発明の特徴は、前記コンピュータが体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリングステップと、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定ステップとを実行することにある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である腕時計型脈拍計の外観図である。
【図2】上記脈拍計を装着した状態を示す図である。
【図3】上記脈拍計の機能ブロック図である。
【図4】本発明の比較例における拍動検出処理のブロック図である。
【図5】上記脈拍計を構成する脈波センサーが出力する脈波信号のデータ(A)と上記脈拍計を構成する体動センサーが出力する体動信号のデータ(B)を示す図である。
【図6】上記比較例の拍動検出処理によって抽出される除去信号データ(A)と、拍動信号データ(B)を示す図である。
【図7】本発明における拍動検出処理のブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施例における拍動検出処理において使用されるローパスフィルタのブロック図(A)と、当該ローパスフィルタの仕様図(B)である。
【図9】上記第1の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図10】上記第1の実施例の拍動検出処理によって抽出される除去信号データ(A)と、拍動信号データ(B)を示す図である。
【図11】上記脈拍計が第1の実施例の拍動検出処理に基づいて脈拍数を表示する処理の流れ図である。
【図12】上記第1の実施例の拍動検出処理に基づいて計測される脈拍数と上記比較例の拍動検出処理に基づいて計測される脈拍数とを示す図である。
【図13】本発明の第2の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図15】本発明の第4の実施例の拍動検出処理の概略図であり、上記脈波信号のデータから2軸方向のノイズ成分を個別に除去する処理の手順を示す図である。
【図16】本発明の第4の実施例の拍動検出処理の概略図であり、上記脈波信号のデータから3軸方向のノイズ成分を個別に除去する処理の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===本発明の特徴===
本明細書では、上記主たる発明に加え、それ以外の発明についても明らかにする。当該それ以外の発明の特徴を以下に列挙する。
【0010】
前記フィルタ係数設定部は、前記適応フィルタの係数を初期値にリセットすること。
所定の体動変化の前後の体動信号を所定の適応フィルタ係数に対応付けして記憶する体動記憶部を備え、前記フィルタ係数設定部は、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、当該変化が前記所定の体動変化に該当する場合、体動適応フィルタの係数を当該変化に対応する値に設定すること。
【0011】
前記体動センサーは、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力し、前記脈波信号フィルタリング部は、前記脈波センサーが出力する第1の脈波信号と当該第1の脈波信号とに最も影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を第2の脈波信号として、当該第2の脈波信号と次に影響する方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を出力すること。
【0012】
また、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力する上記拍動検出装置が腕に装着された状態で使用されるのであれば、前記体動センサーは、手首から肘に向かう方向を前記最も影響がある軸方向とするとともに、当該腕を地面に対して平行に伸ばすとともに、その腕の手のひらも地面に対して平行となるようにした場合、当該方向と地面の双方に対して直交する方向を次に影響がある軸方向とすること。
【0013】
フィルタ係数設定部は、前記体動信号に帯域通過フィルタを適応した信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。あるいは、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。あるいは、前記フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の振幅に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。
【0014】
前記フィルタ係数設定部は、適応フィルタの係数を設定すると、所定期間が経過するまでは適応フィルタの係数を設定しないこと。
【0015】
前記拍動信号に基づいて脈拍数を計測する脈拍計測部と、当該脈拍数を表示する表示部とを備えたこと。
【0016】
===拍動検出装置の実施形態===
本発明の一実施形態として腕時計型の脈拍計を挙げる。図1に当該脈拍計1の外観図を示した。この脈拍計1は、一般的なデジタル腕時計と同様の外観を有し、人の手首に装着するためのリストバンド2を備え、ケース3の前面には時刻や脈拍数を初め、各種情報を文字や数字によって表示するための液晶表示器(LCD)4が配置されている。また、ケース3の周囲やケース3前面のフレーム部分にはこの脈拍計を操作するための各種ボタン5が配設されている。
【0017】
ここで、図示したように時計の数字を正立表示させた状態における時計の12時方向を上方とすると、ケース3の下方には、着脱可能なコネクタ6が装着されている。そして、コネクタ6の内部接点がケース3側の接点を介してケース3内の電子回路に接続されている。
【0018】
また、コネクタ6の内部接点に接続するケーブル7がコネクタ6の外部に案内され、そのケーブル7の先端には脈波センサー8が接続されている。それにより、脈波センサー8からの信号(脈波信号)が、ケーブル7、およびコネクタ6を経由してケース3内の電子回路に入力される。
【0019】
この脈拍計1は、例えば、装着者がウオーキングやジョギングをしているときの拍動を検出し、その検出した拍動に基づく脈拍数をLCD4に表示出力して装着者に提示する用途に用いられる。図2に上記脈拍計1を左手100に装着し、脈拍の計測が可能となっている状態を示した。この図において、脈波センサー8は、指101に巻かれたサポータ9によって指101に接触した状態で固定されている。なお、脈波センサー8としては、赤外線や可視光の光源と受光センサーとを備えて、ヘモグロビンの吸光特性を利用して脈波を検出する光センサー、あるいは脈波を振動として検出する圧電センサーなどを採用することができる。
【0020】
===拍動検出装置の構成===
図3に上記脈拍計1のケース3内に内蔵されている電子回路のハードウエア構成をブロック図にして示した。脈拍計1のハードウエア構成は、時刻やストップウオッチなどの計時に関わる機能と拍動を検出する機能に特化されたコンピュータであり、MPU21、RAM22、ROM23からなるコンピュータ本体をコントローラとし、そのコントローラを動作させるための基準クロックを生成するための発振回路28と、その基準クロックから計時用のクロックを生成する分周回路29を備えている。また、ユーザインタフェースに関わる構成として、MPU21からの指示に従って情報をLCD4に表示するためのLCD表示装置24、操作ボタン5からの操作信号をMPU21に入力するための入力装置25、圧電スピーカ26にアラーム音などを音声出力するための音声出力装置27を備えている。
【0021】
そして、このハードウエア構成を備えたコンピュータを脈拍計として機能させるために、上記脈波センサー8と人体の体動を検出するための体動センサー30、および脈波センサー8からの脈波信号、および体動センサー30からの体動信号を増幅する脈波信号増幅回路31、および体動信号増幅回路32、それぞれの増幅回路(31,32)を経て増幅された脈波信号、および体動信号を所定のサンプリング周期ごとに個別にサンプリングして数値化した脈波信号データ、および体動信号データに変換する2系統のA/D変換回路(33,34)を備えている。なお、体動センサー30は、本実施形態では、3軸の加速度センサーを用いており、その3軸方向は、図2に示したように、ケース3前面の法線方向をZ軸、時計の6時から12に向かう方向をY軸としている。X軸はこれら2軸と直交する方向であり、脈拍計1を装着した状態で、手首から肘に向かう方向にほぼ一致する。
【0022】
MPU21は、入力装置25からの操作信号にしたがってROM23に記憶されている所定のプログラムを実行するとともに、その実行結果やA/D変換回路(33,34)からのデータなどをRAM22に書込んだり、その書き込んだデータをRAM22から読み出したりする。また、LCD表示装置24を制御して計時機能に関わる情報や処理の実行結果などをLCD4に表示させる。
【0023】
上記実施形態において、本発明が対象とする拍動検出装置における脈波信号フィルタリング部、フィルタ係数設定部は、上記MPU21が脈波信号データと体動信号データを所定のプログラムを処理することで実現される。例えば、脈波信号フィルタリング部の要部は、FIRフィルタなどによって構成される適用フィルタを用いて脈波信号から体動に相関するノイズ成分を除去することで拍動を検出するものであり、その適応フィルタは、MPU21が所定のプログラムを実行することで実現されるデジタルフィルタである。
【0024】
===本発明の比較例===
ここで、本発明の比較例として、適用フィルタを用いた一般的な拍動検出アルゴリズムについて説明する。図4に、比較例における拍動検出アルゴリズムによる情報処理(拍動検出処理)について、処理ステップ毎にブロックにして示した。なお、当該図において、各信号m(n)、t(n)、k(n)における「n」は、n回目にサンプリングされたデータを示している。
【0025】
まず、脈波センサー8が検出した脈波信号をサンプリングして得た脈波信号データp(n)には、検出すべき目的信号である拍動信号成分m(n)と体動に関連するノイズ成分t(n)とが含まれている(s1)。そこで、体動センサー30からの体動信号をサンプリングして得た体動信号データk(n)にフィルタ係数(h)を乗算した適用フィルタを適用して得た信号h・k(n)を体動影響信号、すなわちノイズの予測値として脈波信号データp(n)から減算し(s2〜s4)、その残差データe(n)を拍動信号m(n)とするものである(s5)。
【0026】
図5(A)(B)と図6(A)(B)は、上記比較例の拍動検出装置における信号処理前と後について、それぞれ信号波形と高速フーリエ変換(FFT)による周波数解析結果を示すグラフである。各グラフの上段の曲線(41a〜41d)は、各サンプリング時点におけるデータを時系列に従ってプロットした点を繋げて得た信号波形で、グラフの横軸は時間軸となる。また、グラフの下段の棒グラフ(42a〜42d)は周波数解析結果であり横軸は周波数となる。そして、これらの図では、静止状態にある人が突然走り出すといった、体動が急激に増大するように変化する状況において拍動を検出しようとした過程が示されている。なお、これらの図に示した信号波形(41a〜41d)や周波数解析結果(42a〜42d)は、上記実施形態と同じハードウエアにおいて、MPU21に図4に示した比較例における拍動検出処理アルゴリズムに基づく処理を実行させて得たものである。
【0027】
図5、図6の各グラフは、16Hzのサンプリング周波数で16秒間に取得された信号についての波形(41a〜41d)と周波数解析結果(42a〜42d)が示されており、図5(A)と(B)は、それぞれ脈波センサーから出力された脈波信号データと体動センサーから出力された体動信号データを示している。脈波信号データの波形41aには、体動に由来するノイズ成分が重畳し、FFTの結果42aを見ても拍動を示す周波数成分を特定することができない。体動信号データの波形41bは、その時系列において、体動変化に伴って振幅がある時点43で急激に増大しており、周波数解析結果42bでは、主として体動変化後の周波数成分(44)と、その倍周波数成分(45)とが見られる。
【0028】
図6(A)は、体動信号データと適応フィルタ係数(h)とをもとに生成した信号のデータを示しており、図5(A)に示した脈波信号データから除去すべきノイズ成分となるものである。この比較例では、除去すべき信号データの波形41cにおいて、体動の変化後のノイズ成分46が増大している。図6(B)は、図5(A)の脈波信号データからこの除去信号データを減算した信号データを示している。当該図6(B)に示した信号曲線41dでは、図6(A)における除去信号41c中の体動変化直後の振幅の大きなノイズ信号46を減算しているため、この振幅の大きなノイズ成分が重畳されてしまっている(符号47)。周波数解析結果42dを見ても、ピーク48が複数存在し、心拍に由来する周波数を特定することができない。
【0029】
ここで、比較例において拍動信号を上手く検出できなかった理由について考察してみると、更新時点(n)における適応フィルタの係数h(n)は、更新前の係数h(n−1)にステップ数μを加算した値となる。すなわち、
h(n)=h(n−1)+μ
の式で求められる。そして、このステップ数μは、体動の強さを記述する加速度Pwの二乗に依存し、例えば、α、βを定数として、
μ=α/(β+Pw2)
などと表すことができる。
【0030】
体動が増大するように変化すると、Pw2が増加し、その結果、μが小さな値となる。それによって、体動の変化によってフィルタ係数h(n)を大きく更新すべきところ、その更新前後のh(n−1)とh(n)との差が小さくなり、体動変化前の係数に近い値の係数の適応フィルタが適用されてしまい、ノイズ信号の予測値が体動変化後の実際のノイズ信号に追従できないためと仮定できる。
【0031】
とくに、上記実施形態のように腕に拍動検出装置を装着する場合では、静止状態、歩行状態、走行状態の各体動状態で腕の振り方が異なるため、体動変化の前後で体動信号と脈波信号から除去すべきノイズ信号との相関性が極めて大きく変化している、と考えることもできる。
【0032】
いずれにしても、図5、6に示したグラフは実測値に基づいており、比較例の拍動検出装置では、体動が大きく増大するように変化する場合には正確に拍動信号を検出することができない、という事実がある。
【0033】
===本発明における拍動検出アルゴリズム===
図7に、本発明の拍動検出装置における拍動検出処理を処理ステップ毎にブロックにして示した。本発明における拍動検出処理には、比較例における各処理ステップ(s1〜s6)に加え、体動が大きく増大するように変化する状態を検出する体動変化検出処理s7と、その体動変化を検出した場合に、適応フィルタの係数を所定の値に強制的に設定するフィルタ再設定処理s8が含まれていることに特徴がある。
【0034】
すなわち、MPU21は、図4に示した比較例における拍動検出処理に含まれる各ステップ(s1〜s6)処理を実行することで脈波信号フィルタリング部として機能するとともに、図7における体動変化検出処理s7とフィルタ再設定処理s8を実行することでフィルタ係数設定部として機能する。
【0035】
以下では、その体動変化の検出方式や拍動を検出するまでの処理手順、あるいは適応フィルタの設定方式などに応じていくつかの実施例を挙げる。
【0036】
===第1の実施例===
本発明の第1の実施例は、体動変化の検出方式に関わる実施例であり、帯域通過フィルタを用いて体動変化を検出するとともに、増加方向に閾値以上の体動変化を検出したならば、適応フィルタの係数を初期値であるゼロに再設定、すなわちリセットするものである。
【0037】
図8(A)(B)に当該第1の実施例における体動変化検出方式に採用した帯域フィルタのブロック図と仕様図とを示した。図示したように、第1の実施例では、1段のIIRローパスフィルタ50を用いている。(A)に図示したブロック図に従うと、このIIRローパスフィルタ50は、フィードフォワードフィルタ係数がa(k)、フィードバックフィルタ係数がb(k)であり、入力信号と出力信号をそれぞれx(n)、y(n)とすると、
y(n)={Σa(k)・x(n−k)}−{Σb(k)・y(n−k)}
で表される。ここでは、x(n)が体動信号データとなり、この体動信号データがローパスフィルタ処理後の体動信号データy(n)として出力される。ローパスフィルタ50の仕様は、サンプリング周波数Fsmp=16Hz、帯域通過周波数Fp=1Hz、ストップバンド端周波数Fs=1.5〜2Hzとしている。そして、パスバンド端減衰量Ap=3dB、ストップバンド端減衰量As=5dBであり、弱めのローパスフィルタとした。また、当該第1の実施例では、体動変化を検出するのに当たり、体動信号データが加速度であり、高い振動数で周期的に正負が逆転する値であることから、入力信号x(n)は、体動信号データを二乗したデータであり、その二乗した体動信号データに対してローパスフィルタを適用して出力y(n)を得ている。
【0038】
図9は、第1の実施例における体動変化検出方式を説明するための図であり、安静と歩行や走行、歩行と走行など、緩やかな体動と激しい体動とが周期的に変化したときの体動信号データの二乗値と、上記ローパスフィルタを適用した後の体動信号データと、当該ローパスフィルタ適用後の体動信号データについて現時点と32タップ前のデータとの比を示している。(A)は、体動が周期的に増減する様子を示すための図であり、体動信号データの二乗を示す波形51において、振幅が小さな期間51aと大きな期間51bとが周期的に現れていることがわかる。(B)は、(A)の一部拡大図であり、体動が増大するように変化する前後、すなわち、二乗した体動信号データ51おいて、振幅が小さな期間51aから大きな期間51bに移行する前後を拡大して示している。
【0039】
適応フィルタをゼロに初期化する時点を決定するためには、ローパスフィルタ適用後の体動信号データ52と、前記比のデータ53の双方に対して閾値(54a、54b)を設定し、双方のデータ(52,53)のいずれか、あるいは双方のデータ(52、53)がともに閾値(54a,54b)以上となった時点を適応フィルタを初期化するリセット時点とすればよい。第1の実施例では、図中黒丸で示したように、双方(52,53)が閾値(54a,54b)以上となった時点をリセット時点55としている。
【0040】
図10に第1の実施例の拍動検出アルゴリズムによる信号処理の結果を示した。ここで、信号処理前の脈波信号データと体動信号データは図5(A)(B)に示したもの(41a,41b)と同様である。図10(A)は、脈波信号から除去すべき信号データの波形61aと周波数解析結果62aを示しており、同図(B)は、図5(A)に示した脈波信号データから当該信号データを除去して得た拍動信号データの波形61bと周波数解析結果62bである。
【0041】
図10(A)(B)と、図6(A)(B)示した比較例における信号処理結果とを比べると、図10(A)に示した第1の実施例では、ノイズ成分波形61aにおいて、体動変化に伴う信号強度の増大がなく、同図(B)に示した拍動信号データ61bにもノイズ信号の重畳がない。そして、周波数解析結果62bには拍動に相当する一つのピーク63が示されており、拍動に由来する周波数を確実に特定することができる。
【0042】
図11は、上記腕時計型脈拍計1における脈拍数表示処理の流れ図であり、MPU21が第1の実施例の拍動検出アルゴリズムに従って脈波信号データと体動信号データを処理して拍動信号を抽出し、最終的にその拍動信号に基づく脈拍数をLCDに表示出力するまでの処理の流れ図を示している。
【0043】
まず、脈拍計1を装着した利用者が脈拍計測を開始するための所定のボタン操作を行うと、MPUは脈波信号データと体動信号データをRAMに書き込むことで取得する(s11→s12)。そして、体動信号でデータを加工し、その加工後のデータを体動の変化状態を示すデータとして取得する(s13,s14)。第1の実施例では、体動信号の加工処理は、ローパスフィルタであり、取得する体動変化状態は、体動信号データを二乗したデータにローパスフィルタを適用し、その適用後のデータである。
【0044】
そして、この加工後のデータを参照し、閾値を超えて増大するような体動変化を検出した場合、すなわち、加工後のデータ、あるいは現時点における加工後のデータ値と32タップ前の加工後のデータとの比データ、あるいは加工データと比データの両方が閾値以上であることを検出した場合、適応フィルタの係数をゼロにリセットし(s15→s16)、適応フィルタを最初から作り直す。そして、このリセットされた適応フィルタによって体動信号データからノイズ成分を抽出するとともに、脈波信号データからこのノイズ成分を除去するフィルタリング処理を行い拍動信号データを抽出する(s17)。なお、前記の比データは、例えば32タップ前の加工後のデータとの差分を計算したものであってもよい。
【0045】
次に、拍動信号データに対してFFT処理を施して(s18)、拍動を表現する周波数を特定し(s19)、その周波数から脈拍数を計算する(s20)。計算した脈拍数をLCD4に表示出力する。そして、利用者による脈拍計測の終了指示に相当する操作情報を受け取るまで以上の一連の処理(s1〜s21)を続ける(s22→s1)。
【0046】
図12は、上記腕時計型脈拍計1における脈拍数表示の推移を示すグラフであり、第1の実施例と上記比較例のそれぞれの拍動検出アルゴリズムに基づいて拍動信号データを検出して脈拍数を計測した場合の推移を示している。
【0047】
図中の2つの曲線は、第1の実施例における拍動検出アルゴリズムを用いて計測した脈拍数の推移71と、比較例における拍動検出アルゴリズムを用いて計測した脈拍数の推移72であり、15分の間に安静状態にある期間Ts、歩行状態にある期間Tw、走行状態にある期間Trを周期的に設け、上記腕時計型脈拍計1を装着した被験者がその周期に従って体動を変化させたときに脈拍計に表示された脈拍数をプロットしたものである。
【0048】
比較例72では、体動が増大するように変化したときに脈拍数の計測ができずエラーを示す「脈拍ゼロ」73を表示した。一方、第1の実施例では、体動変化に伴う計測の失敗がなく、精度良く脈拍数を計測し続けることができた。
【0049】
===第2の実施例===
本発明の第2の実施例も、体動変化の検出方式に関わる実施例であり、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化を検出するものである。そして、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出した場合、適応フィルタの係数をゼロに初期化するものである。この実施例では、過去所定回数のサンプリング機会のそれぞれにおいて取得した体動信号データの値を累積した値やその累積値をそのサンプリング機会の回数で除算した移動平均値などを体動変化を検出するためのデータとして利用することができる。なお、当該実施例においても、体動変化を検出する際に、体動信号データを二乗した値を使用している。そして、その体動信号データの二乗値について移動平均を求めている。
【0050】
図13は、第2の実施例における体動変化検出方式の説明図であり、体動信号データの波形と体動信号データの過去16回サンプリング分の移動平均値の推移を示している。図9と同様に体動信号データ81は体動が周期的に増減する状態(81a,81b)が示されており、(A)は長期的な体動信号データ81とそのデータの移動平均値82の推移を示している。(B)は、(A)の一部拡大図であり、体動が増大するように変化する前後(81a、81b)を拡大して示している。そして、第2の実施例においては、移動平均値に閾値83を設け、この閾値83を越えた時点を図中黒丸で示したリセット時点84として検出している。
【0051】
===第3の実施例===
本発明の第3の実施例は、上記第1、第2の実施例と同様に、体動変化の検出方式に関わる実施例である。この実施例では、体動信号データの振幅に基づいて体動変化を検出している。そして、その振幅の絶対値が所定の閾値を越えた時点をリセット時点としている。
【0052】
図14に第3の実施例における体動変化検出方式の説明図を示した。この図では、周期的に体動が増減する状態に対応する体動信号データ91の推移と振幅の絶対値92の推移とを示しており、(A)は長期的な体動信号データ91と前記振幅92の絶対値を示しており、(B)は、(A)の一部拡大図で、体動が増大するように変化する前後(91a,91b)を拡大して示している。ここでも図中黒丸で示したように、振幅の絶対値92が所定の閾値93を越えた時点をリセット時点94としている。
【0053】
===第4の実施例===
ところで、体動は一方向に限定されるものではない。そのため、体動センサーがノイズに最も影響する方向の体動を検出するように設置されていないと、上手くノイズを除去することができない可能性がある。第4の実施例は、このような可能性を考慮した拍動検出処理に関するものである。
【0054】
第4の実施例では、少なくとも2軸方向の体動を検出する体動センサーを用い、まず、体動に最も影響する軸方向の体動信号に基づいて拍動信号を抽出し、その上で、この拍動信号を新たな脈波信号として次に影響する体動信号をノイズ成分として除去する。このようにして、2軸、あるいは3軸方向の体動信号を順次除去することで、最終的に正確な拍動を検出することが可能となる。
【0055】
図15、図16に当該第4の実施例における拍動検出処理手順を示した。図15は2軸方向のノイズ成分を除去する処理手順であり、図16は3軸方向全てのノイズ成分を除去するための処理手順である。また、これらの図では、体動に最も影響する軸をx軸として、以下、y軸、z軸の順番に影響するものとしている。図15に示したように、2軸方向のノイズ成分を除去する場合は、脈波センサー8からの脈波信号に基づく脈波信号データ(第1脈波信号データ:s31)とx軸方向の体動信号データ(s32)とを用いて図7に示した拍動信号検出処理(s33)を行い、その結果抽出された拍動信号データを第2の脈波信号データとして(s34)、この第2脈波信号データとy軸方向の体動信号データ(s35)とを用いて拍動検出処理を再度行い(s36)、その結果出力された拍動信号データを最終的な拍動信号データとして採用する(s37)。
【0056】
3軸方向全ての体動信号を使用する場合は、図15に示した最終的な拍動信号データ(s37)を第3の脈波信号データとし(s37b)、この第3脈波信号データとz軸方向の体動信号データs38とを用いて3度目の拍動検出処理を行い(s39)、この処理s39によって抽出した拍動信号データを最終的な拍動信号データとする(s40)。
【0057】
なお、上記実施形態、すなわち時計型脈拍計1における拍動検出装置では、その用途がウオーキングやジョギング時の検出脈拍計測であることから、体動信号は、主に腕の振り方やその速さに影響されることになる。実験などを通して知見したところによると、図2に示した3軸方向において、最も腕の振り方に影響する軸方向はx軸方向であり、次に影響されるのはy方向であり、z軸方向は想定される用途ではほとんど影響しない。したがって、腕に装着するタイプの拍動検出装置では、x軸、y軸、z軸の順に体動信号データを処理していくことが望ましい。
【0058】
===その他の実施例===
<適応フィルタに再設定する係数について>
上記第1〜3の実施例では、体動が閾値を越えて増大するように変化したことを検出すると、適応フィルタの係数をゼロに再設定していたが、当該係数は、体動に由来するノイズを抽出することができる所定値であればよい。例えば、安静時、歩行時、走行時など、所定の体動状態についてあらかじめ係数を用意しておき、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、その変化が所定の体動変化(例えば、歩行状態から走行状態など)に該当する場合、体動適応フィルタの係数を変化後の体動に対応する値に再設定する。このようにすることでも有効にノイズ成分を抽出できる。なお、体動の状態を特定するためには、体動信号データの振幅などを参照すればよい。
【0059】
<適応フィルタ係数の再設定期間について>
例えば、体動が閾値を越えて増大するように変化する度に、適応フィルタの係数をゼロに再設定すると、その再設定処理によってハードウエアの負荷が増大し、他の処理に支障を来す可能性がある。例えば、脈拍計は、過去所定期間分の拍動信号データから現時点の脈拍を求めているため、頻繁に再設定処理が行われると、再設定の時点から再び脈拍を数え直すことになる。それによって、脈拍をリアルタイムで表示することができなくなる。
【0060】
そこで、適応フィルタの係数をゼロや所定の係数に再設定した後は、所定期間、係数を再設定しないようにすることが望ましい。この再設定の禁止期間は、MPU内のリアルタイムクロックを用いて計測してもよいし、サンプリング周期にサンプリングの回数を乗算することで計測してもよい。そして、リアルクロックを用いる場合は、係数を再設定した時点を起点として所定の残存時間がセットされている減算タイマーを起動させればよい。サンプリングの周期と回数を用いる場合には、所定のサンプリング回数をROMなどに記憶させておき、係数の再設定時点から、脈波信号データや体動信号データなどのサンプリングデータが所定の回数分入力されるまで適応フィルタの係数を再設定しなければよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、人体の拍動に関連する情報を出力する装置に適用可能であり、例えば、脈拍系や血圧計、心電計のように、拍動の時系列変化を波形などによって表示出力する装置など、生体情報を扱う装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 腕時計型脈拍計、4 液晶表示器、5 操作ボタン、8 脈波センサー、
21 MPU、22 RAM、23 ROM、24 LCD表示装置、
25 入力装置、28 発振回路、29 分周回路、30 体動センサー、
33,34 A/D変換回路、50 ローパスフィルタ
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体の拍動を検出する技術に関し、特に人体に装着した状態で使用されて体動中の拍動を精度良く検出するための拍動検出装置と拍動検出方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
拍動検出装置は、人体の心拍に由来する拍動を検出するための装置であって、例えば、腕や手指などに装着される脈波センサーからの信号(脈波信号)から、人体の体動の影響により発生する信号成分(体動影響信号)を雑音として除去し、心拍に由来する信号(拍動信号)のみを検出する装置である。そして、以下の特許文献1や2などには、体動信号を加速度センサーを用いて検出するとともに、体動信号を参照して適応フィルタを生成し、その適応フィルタを用いて体動影響信号を含んだ脈波信号から体動影響信号を除去する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−8908号公報
【特許文献2】特開2002−224055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の拍動検出装置では、静止状態にある人が急に歩き出したり、歩いている人が急に走り出したりするなど、運動量が増大する方向に体動が急激に変化すると、脈波を正確に検出できない、という課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためのものであって、その目的は、拍動検出装置を装着している人が運動量を増大する方向に急激に体動を変化させた場合でも正確に脈波を検出することができる拍動検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、その特徴は、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部と、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部とを備えていることである。
【0007】
また、本発明は、拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーとを備えたコンピュータにより、人体の拍動に由来する拍動信号を検出するための拍動検出方法にも及んでおり、当該方法に係る主たる発明の特徴は、前記コンピュータが体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリングステップと、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定ステップとを実行することにある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態である腕時計型脈拍計の外観図である。
【図2】上記脈拍計を装着した状態を示す図である。
【図3】上記脈拍計の機能ブロック図である。
【図4】本発明の比較例における拍動検出処理のブロック図である。
【図5】上記脈拍計を構成する脈波センサーが出力する脈波信号のデータ(A)と上記脈拍計を構成する体動センサーが出力する体動信号のデータ(B)を示す図である。
【図6】上記比較例の拍動検出処理によって抽出される除去信号データ(A)と、拍動信号データ(B)を示す図である。
【図7】本発明における拍動検出処理のブロック図である。
【図8】本発明の第1の実施例における拍動検出処理において使用されるローパスフィルタのブロック図(A)と、当該ローパスフィルタの仕様図(B)である。
【図9】上記第1の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図10】上記第1の実施例の拍動検出処理によって抽出される除去信号データ(A)と、拍動信号データ(B)を示す図である。
【図11】上記脈拍計が第1の実施例の拍動検出処理に基づいて脈拍数を表示する処理の流れ図である。
【図12】上記第1の実施例の拍動検出処理に基づいて計測される脈拍数と上記比較例の拍動検出処理に基づいて計測される脈拍数とを示す図である。
【図13】本発明の第2の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施例の拍動検出処理の過程で取得される各種信号データの波形を示す図である。
【図15】本発明の第4の実施例の拍動検出処理の概略図であり、上記脈波信号のデータから2軸方向のノイズ成分を個別に除去する処理の手順を示す図である。
【図16】本発明の第4の実施例の拍動検出処理の概略図であり、上記脈波信号のデータから3軸方向のノイズ成分を個別に除去する処理の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===本発明の特徴===
本明細書では、上記主たる発明に加え、それ以外の発明についても明らかにする。当該それ以外の発明の特徴を以下に列挙する。
【0010】
前記フィルタ係数設定部は、前記適応フィルタの係数を初期値にリセットすること。
所定の体動変化の前後の体動信号を所定の適応フィルタ係数に対応付けして記憶する体動記憶部を備え、前記フィルタ係数設定部は、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、当該変化が前記所定の体動変化に該当する場合、体動適応フィルタの係数を当該変化に対応する値に設定すること。
【0011】
前記体動センサーは、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力し、前記脈波信号フィルタリング部は、前記脈波センサーが出力する第1の脈波信号と当該第1の脈波信号とに最も影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を第2の脈波信号として、当該第2の脈波信号と次に影響する方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を出力すること。
【0012】
また、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力する上記拍動検出装置が腕に装着された状態で使用されるのであれば、前記体動センサーは、手首から肘に向かう方向を前記最も影響がある軸方向とするとともに、当該腕を地面に対して平行に伸ばすとともに、その腕の手のひらも地面に対して平行となるようにした場合、当該方向と地面の双方に対して直交する方向を次に影響がある軸方向とすること。
【0013】
フィルタ係数設定部は、前記体動信号に帯域通過フィルタを適応した信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。あるいは、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。あるいは、前記フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の振幅に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すること。
【0014】
前記フィルタ係数設定部は、適応フィルタの係数を設定すると、所定期間が経過するまでは適応フィルタの係数を設定しないこと。
【0015】
前記拍動信号に基づいて脈拍数を計測する脈拍計測部と、当該脈拍数を表示する表示部とを備えたこと。
【0016】
===拍動検出装置の実施形態===
本発明の一実施形態として腕時計型の脈拍計を挙げる。図1に当該脈拍計1の外観図を示した。この脈拍計1は、一般的なデジタル腕時計と同様の外観を有し、人の手首に装着するためのリストバンド2を備え、ケース3の前面には時刻や脈拍数を初め、各種情報を文字や数字によって表示するための液晶表示器(LCD)4が配置されている。また、ケース3の周囲やケース3前面のフレーム部分にはこの脈拍計を操作するための各種ボタン5が配設されている。
【0017】
ここで、図示したように時計の数字を正立表示させた状態における時計の12時方向を上方とすると、ケース3の下方には、着脱可能なコネクタ6が装着されている。そして、コネクタ6の内部接点がケース3側の接点を介してケース3内の電子回路に接続されている。
【0018】
また、コネクタ6の内部接点に接続するケーブル7がコネクタ6の外部に案内され、そのケーブル7の先端には脈波センサー8が接続されている。それにより、脈波センサー8からの信号(脈波信号)が、ケーブル7、およびコネクタ6を経由してケース3内の電子回路に入力される。
【0019】
この脈拍計1は、例えば、装着者がウオーキングやジョギングをしているときの拍動を検出し、その検出した拍動に基づく脈拍数をLCD4に表示出力して装着者に提示する用途に用いられる。図2に上記脈拍計1を左手100に装着し、脈拍の計測が可能となっている状態を示した。この図において、脈波センサー8は、指101に巻かれたサポータ9によって指101に接触した状態で固定されている。なお、脈波センサー8としては、赤外線や可視光の光源と受光センサーとを備えて、ヘモグロビンの吸光特性を利用して脈波を検出する光センサー、あるいは脈波を振動として検出する圧電センサーなどを採用することができる。
【0020】
===拍動検出装置の構成===
図3に上記脈拍計1のケース3内に内蔵されている電子回路のハードウエア構成をブロック図にして示した。脈拍計1のハードウエア構成は、時刻やストップウオッチなどの計時に関わる機能と拍動を検出する機能に特化されたコンピュータであり、MPU21、RAM22、ROM23からなるコンピュータ本体をコントローラとし、そのコントローラを動作させるための基準クロックを生成するための発振回路28と、その基準クロックから計時用のクロックを生成する分周回路29を備えている。また、ユーザインタフェースに関わる構成として、MPU21からの指示に従って情報をLCD4に表示するためのLCD表示装置24、操作ボタン5からの操作信号をMPU21に入力するための入力装置25、圧電スピーカ26にアラーム音などを音声出力するための音声出力装置27を備えている。
【0021】
そして、このハードウエア構成を備えたコンピュータを脈拍計として機能させるために、上記脈波センサー8と人体の体動を検出するための体動センサー30、および脈波センサー8からの脈波信号、および体動センサー30からの体動信号を増幅する脈波信号増幅回路31、および体動信号増幅回路32、それぞれの増幅回路(31,32)を経て増幅された脈波信号、および体動信号を所定のサンプリング周期ごとに個別にサンプリングして数値化した脈波信号データ、および体動信号データに変換する2系統のA/D変換回路(33,34)を備えている。なお、体動センサー30は、本実施形態では、3軸の加速度センサーを用いており、その3軸方向は、図2に示したように、ケース3前面の法線方向をZ軸、時計の6時から12に向かう方向をY軸としている。X軸はこれら2軸と直交する方向であり、脈拍計1を装着した状態で、手首から肘に向かう方向にほぼ一致する。
【0022】
MPU21は、入力装置25からの操作信号にしたがってROM23に記憶されている所定のプログラムを実行するとともに、その実行結果やA/D変換回路(33,34)からのデータなどをRAM22に書込んだり、その書き込んだデータをRAM22から読み出したりする。また、LCD表示装置24を制御して計時機能に関わる情報や処理の実行結果などをLCD4に表示させる。
【0023】
上記実施形態において、本発明が対象とする拍動検出装置における脈波信号フィルタリング部、フィルタ係数設定部は、上記MPU21が脈波信号データと体動信号データを所定のプログラムを処理することで実現される。例えば、脈波信号フィルタリング部の要部は、FIRフィルタなどによって構成される適用フィルタを用いて脈波信号から体動に相関するノイズ成分を除去することで拍動を検出するものであり、その適応フィルタは、MPU21が所定のプログラムを実行することで実現されるデジタルフィルタである。
【0024】
===本発明の比較例===
ここで、本発明の比較例として、適用フィルタを用いた一般的な拍動検出アルゴリズムについて説明する。図4に、比較例における拍動検出アルゴリズムによる情報処理(拍動検出処理)について、処理ステップ毎にブロックにして示した。なお、当該図において、各信号m(n)、t(n)、k(n)における「n」は、n回目にサンプリングされたデータを示している。
【0025】
まず、脈波センサー8が検出した脈波信号をサンプリングして得た脈波信号データp(n)には、検出すべき目的信号である拍動信号成分m(n)と体動に関連するノイズ成分t(n)とが含まれている(s1)。そこで、体動センサー30からの体動信号をサンプリングして得た体動信号データk(n)にフィルタ係数(h)を乗算した適用フィルタを適用して得た信号h・k(n)を体動影響信号、すなわちノイズの予測値として脈波信号データp(n)から減算し(s2〜s4)、その残差データe(n)を拍動信号m(n)とするものである(s5)。
【0026】
図5(A)(B)と図6(A)(B)は、上記比較例の拍動検出装置における信号処理前と後について、それぞれ信号波形と高速フーリエ変換(FFT)による周波数解析結果を示すグラフである。各グラフの上段の曲線(41a〜41d)は、各サンプリング時点におけるデータを時系列に従ってプロットした点を繋げて得た信号波形で、グラフの横軸は時間軸となる。また、グラフの下段の棒グラフ(42a〜42d)は周波数解析結果であり横軸は周波数となる。そして、これらの図では、静止状態にある人が突然走り出すといった、体動が急激に増大するように変化する状況において拍動を検出しようとした過程が示されている。なお、これらの図に示した信号波形(41a〜41d)や周波数解析結果(42a〜42d)は、上記実施形態と同じハードウエアにおいて、MPU21に図4に示した比較例における拍動検出処理アルゴリズムに基づく処理を実行させて得たものである。
【0027】
図5、図6の各グラフは、16Hzのサンプリング周波数で16秒間に取得された信号についての波形(41a〜41d)と周波数解析結果(42a〜42d)が示されており、図5(A)と(B)は、それぞれ脈波センサーから出力された脈波信号データと体動センサーから出力された体動信号データを示している。脈波信号データの波形41aには、体動に由来するノイズ成分が重畳し、FFTの結果42aを見ても拍動を示す周波数成分を特定することができない。体動信号データの波形41bは、その時系列において、体動変化に伴って振幅がある時点43で急激に増大しており、周波数解析結果42bでは、主として体動変化後の周波数成分(44)と、その倍周波数成分(45)とが見られる。
【0028】
図6(A)は、体動信号データと適応フィルタ係数(h)とをもとに生成した信号のデータを示しており、図5(A)に示した脈波信号データから除去すべきノイズ成分となるものである。この比較例では、除去すべき信号データの波形41cにおいて、体動の変化後のノイズ成分46が増大している。図6(B)は、図5(A)の脈波信号データからこの除去信号データを減算した信号データを示している。当該図6(B)に示した信号曲線41dでは、図6(A)における除去信号41c中の体動変化直後の振幅の大きなノイズ信号46を減算しているため、この振幅の大きなノイズ成分が重畳されてしまっている(符号47)。周波数解析結果42dを見ても、ピーク48が複数存在し、心拍に由来する周波数を特定することができない。
【0029】
ここで、比較例において拍動信号を上手く検出できなかった理由について考察してみると、更新時点(n)における適応フィルタの係数h(n)は、更新前の係数h(n−1)にステップ数μを加算した値となる。すなわち、
h(n)=h(n−1)+μ
の式で求められる。そして、このステップ数μは、体動の強さを記述する加速度Pwの二乗に依存し、例えば、α、βを定数として、
μ=α/(β+Pw2)
などと表すことができる。
【0030】
体動が増大するように変化すると、Pw2が増加し、その結果、μが小さな値となる。それによって、体動の変化によってフィルタ係数h(n)を大きく更新すべきところ、その更新前後のh(n−1)とh(n)との差が小さくなり、体動変化前の係数に近い値の係数の適応フィルタが適用されてしまい、ノイズ信号の予測値が体動変化後の実際のノイズ信号に追従できないためと仮定できる。
【0031】
とくに、上記実施形態のように腕に拍動検出装置を装着する場合では、静止状態、歩行状態、走行状態の各体動状態で腕の振り方が異なるため、体動変化の前後で体動信号と脈波信号から除去すべきノイズ信号との相関性が極めて大きく変化している、と考えることもできる。
【0032】
いずれにしても、図5、6に示したグラフは実測値に基づいており、比較例の拍動検出装置では、体動が大きく増大するように変化する場合には正確に拍動信号を検出することができない、という事実がある。
【0033】
===本発明における拍動検出アルゴリズム===
図7に、本発明の拍動検出装置における拍動検出処理を処理ステップ毎にブロックにして示した。本発明における拍動検出処理には、比較例における各処理ステップ(s1〜s6)に加え、体動が大きく増大するように変化する状態を検出する体動変化検出処理s7と、その体動変化を検出した場合に、適応フィルタの係数を所定の値に強制的に設定するフィルタ再設定処理s8が含まれていることに特徴がある。
【0034】
すなわち、MPU21は、図4に示した比較例における拍動検出処理に含まれる各ステップ(s1〜s6)処理を実行することで脈波信号フィルタリング部として機能するとともに、図7における体動変化検出処理s7とフィルタ再設定処理s8を実行することでフィルタ係数設定部として機能する。
【0035】
以下では、その体動変化の検出方式や拍動を検出するまでの処理手順、あるいは適応フィルタの設定方式などに応じていくつかの実施例を挙げる。
【0036】
===第1の実施例===
本発明の第1の実施例は、体動変化の検出方式に関わる実施例であり、帯域通過フィルタを用いて体動変化を検出するとともに、増加方向に閾値以上の体動変化を検出したならば、適応フィルタの係数を初期値であるゼロに再設定、すなわちリセットするものである。
【0037】
図8(A)(B)に当該第1の実施例における体動変化検出方式に採用した帯域フィルタのブロック図と仕様図とを示した。図示したように、第1の実施例では、1段のIIRローパスフィルタ50を用いている。(A)に図示したブロック図に従うと、このIIRローパスフィルタ50は、フィードフォワードフィルタ係数がa(k)、フィードバックフィルタ係数がb(k)であり、入力信号と出力信号をそれぞれx(n)、y(n)とすると、
y(n)={Σa(k)・x(n−k)}−{Σb(k)・y(n−k)}
で表される。ここでは、x(n)が体動信号データとなり、この体動信号データがローパスフィルタ処理後の体動信号データy(n)として出力される。ローパスフィルタ50の仕様は、サンプリング周波数Fsmp=16Hz、帯域通過周波数Fp=1Hz、ストップバンド端周波数Fs=1.5〜2Hzとしている。そして、パスバンド端減衰量Ap=3dB、ストップバンド端減衰量As=5dBであり、弱めのローパスフィルタとした。また、当該第1の実施例では、体動変化を検出するのに当たり、体動信号データが加速度であり、高い振動数で周期的に正負が逆転する値であることから、入力信号x(n)は、体動信号データを二乗したデータであり、その二乗した体動信号データに対してローパスフィルタを適用して出力y(n)を得ている。
【0038】
図9は、第1の実施例における体動変化検出方式を説明するための図であり、安静と歩行や走行、歩行と走行など、緩やかな体動と激しい体動とが周期的に変化したときの体動信号データの二乗値と、上記ローパスフィルタを適用した後の体動信号データと、当該ローパスフィルタ適用後の体動信号データについて現時点と32タップ前のデータとの比を示している。(A)は、体動が周期的に増減する様子を示すための図であり、体動信号データの二乗を示す波形51において、振幅が小さな期間51aと大きな期間51bとが周期的に現れていることがわかる。(B)は、(A)の一部拡大図であり、体動が増大するように変化する前後、すなわち、二乗した体動信号データ51おいて、振幅が小さな期間51aから大きな期間51bに移行する前後を拡大して示している。
【0039】
適応フィルタをゼロに初期化する時点を決定するためには、ローパスフィルタ適用後の体動信号データ52と、前記比のデータ53の双方に対して閾値(54a、54b)を設定し、双方のデータ(52,53)のいずれか、あるいは双方のデータ(52、53)がともに閾値(54a,54b)以上となった時点を適応フィルタを初期化するリセット時点とすればよい。第1の実施例では、図中黒丸で示したように、双方(52,53)が閾値(54a,54b)以上となった時点をリセット時点55としている。
【0040】
図10に第1の実施例の拍動検出アルゴリズムによる信号処理の結果を示した。ここで、信号処理前の脈波信号データと体動信号データは図5(A)(B)に示したもの(41a,41b)と同様である。図10(A)は、脈波信号から除去すべき信号データの波形61aと周波数解析結果62aを示しており、同図(B)は、図5(A)に示した脈波信号データから当該信号データを除去して得た拍動信号データの波形61bと周波数解析結果62bである。
【0041】
図10(A)(B)と、図6(A)(B)示した比較例における信号処理結果とを比べると、図10(A)に示した第1の実施例では、ノイズ成分波形61aにおいて、体動変化に伴う信号強度の増大がなく、同図(B)に示した拍動信号データ61bにもノイズ信号の重畳がない。そして、周波数解析結果62bには拍動に相当する一つのピーク63が示されており、拍動に由来する周波数を確実に特定することができる。
【0042】
図11は、上記腕時計型脈拍計1における脈拍数表示処理の流れ図であり、MPU21が第1の実施例の拍動検出アルゴリズムに従って脈波信号データと体動信号データを処理して拍動信号を抽出し、最終的にその拍動信号に基づく脈拍数をLCDに表示出力するまでの処理の流れ図を示している。
【0043】
まず、脈拍計1を装着した利用者が脈拍計測を開始するための所定のボタン操作を行うと、MPUは脈波信号データと体動信号データをRAMに書き込むことで取得する(s11→s12)。そして、体動信号でデータを加工し、その加工後のデータを体動の変化状態を示すデータとして取得する(s13,s14)。第1の実施例では、体動信号の加工処理は、ローパスフィルタであり、取得する体動変化状態は、体動信号データを二乗したデータにローパスフィルタを適用し、その適用後のデータである。
【0044】
そして、この加工後のデータを参照し、閾値を超えて増大するような体動変化を検出した場合、すなわち、加工後のデータ、あるいは現時点における加工後のデータ値と32タップ前の加工後のデータとの比データ、あるいは加工データと比データの両方が閾値以上であることを検出した場合、適応フィルタの係数をゼロにリセットし(s15→s16)、適応フィルタを最初から作り直す。そして、このリセットされた適応フィルタによって体動信号データからノイズ成分を抽出するとともに、脈波信号データからこのノイズ成分を除去するフィルタリング処理を行い拍動信号データを抽出する(s17)。なお、前記の比データは、例えば32タップ前の加工後のデータとの差分を計算したものであってもよい。
【0045】
次に、拍動信号データに対してFFT処理を施して(s18)、拍動を表現する周波数を特定し(s19)、その周波数から脈拍数を計算する(s20)。計算した脈拍数をLCD4に表示出力する。そして、利用者による脈拍計測の終了指示に相当する操作情報を受け取るまで以上の一連の処理(s1〜s21)を続ける(s22→s1)。
【0046】
図12は、上記腕時計型脈拍計1における脈拍数表示の推移を示すグラフであり、第1の実施例と上記比較例のそれぞれの拍動検出アルゴリズムに基づいて拍動信号データを検出して脈拍数を計測した場合の推移を示している。
【0047】
図中の2つの曲線は、第1の実施例における拍動検出アルゴリズムを用いて計測した脈拍数の推移71と、比較例における拍動検出アルゴリズムを用いて計測した脈拍数の推移72であり、15分の間に安静状態にある期間Ts、歩行状態にある期間Tw、走行状態にある期間Trを周期的に設け、上記腕時計型脈拍計1を装着した被験者がその周期に従って体動を変化させたときに脈拍計に表示された脈拍数をプロットしたものである。
【0048】
比較例72では、体動が増大するように変化したときに脈拍数の計測ができずエラーを示す「脈拍ゼロ」73を表示した。一方、第1の実施例では、体動変化に伴う計測の失敗がなく、精度良く脈拍数を計測し続けることができた。
【0049】
===第2の実施例===
本発明の第2の実施例も、体動変化の検出方式に関わる実施例であり、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化を検出するものである。そして、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出した場合、適応フィルタの係数をゼロに初期化するものである。この実施例では、過去所定回数のサンプリング機会のそれぞれにおいて取得した体動信号データの値を累積した値やその累積値をそのサンプリング機会の回数で除算した移動平均値などを体動変化を検出するためのデータとして利用することができる。なお、当該実施例においても、体動変化を検出する際に、体動信号データを二乗した値を使用している。そして、その体動信号データの二乗値について移動平均を求めている。
【0050】
図13は、第2の実施例における体動変化検出方式の説明図であり、体動信号データの波形と体動信号データの過去16回サンプリング分の移動平均値の推移を示している。図9と同様に体動信号データ81は体動が周期的に増減する状態(81a,81b)が示されており、(A)は長期的な体動信号データ81とそのデータの移動平均値82の推移を示している。(B)は、(A)の一部拡大図であり、体動が増大するように変化する前後(81a、81b)を拡大して示している。そして、第2の実施例においては、移動平均値に閾値83を設け、この閾値83を越えた時点を図中黒丸で示したリセット時点84として検出している。
【0051】
===第3の実施例===
本発明の第3の実施例は、上記第1、第2の実施例と同様に、体動変化の検出方式に関わる実施例である。この実施例では、体動信号データの振幅に基づいて体動変化を検出している。そして、その振幅の絶対値が所定の閾値を越えた時点をリセット時点としている。
【0052】
図14に第3の実施例における体動変化検出方式の説明図を示した。この図では、周期的に体動が増減する状態に対応する体動信号データ91の推移と振幅の絶対値92の推移とを示しており、(A)は長期的な体動信号データ91と前記振幅92の絶対値を示しており、(B)は、(A)の一部拡大図で、体動が増大するように変化する前後(91a,91b)を拡大して示している。ここでも図中黒丸で示したように、振幅の絶対値92が所定の閾値93を越えた時点をリセット時点94としている。
【0053】
===第4の実施例===
ところで、体動は一方向に限定されるものではない。そのため、体動センサーがノイズに最も影響する方向の体動を検出するように設置されていないと、上手くノイズを除去することができない可能性がある。第4の実施例は、このような可能性を考慮した拍動検出処理に関するものである。
【0054】
第4の実施例では、少なくとも2軸方向の体動を検出する体動センサーを用い、まず、体動に最も影響する軸方向の体動信号に基づいて拍動信号を抽出し、その上で、この拍動信号を新たな脈波信号として次に影響する体動信号をノイズ成分として除去する。このようにして、2軸、あるいは3軸方向の体動信号を順次除去することで、最終的に正確な拍動を検出することが可能となる。
【0055】
図15、図16に当該第4の実施例における拍動検出処理手順を示した。図15は2軸方向のノイズ成分を除去する処理手順であり、図16は3軸方向全てのノイズ成分を除去するための処理手順である。また、これらの図では、体動に最も影響する軸をx軸として、以下、y軸、z軸の順番に影響するものとしている。図15に示したように、2軸方向のノイズ成分を除去する場合は、脈波センサー8からの脈波信号に基づく脈波信号データ(第1脈波信号データ:s31)とx軸方向の体動信号データ(s32)とを用いて図7に示した拍動信号検出処理(s33)を行い、その結果抽出された拍動信号データを第2の脈波信号データとして(s34)、この第2脈波信号データとy軸方向の体動信号データ(s35)とを用いて拍動検出処理を再度行い(s36)、その結果出力された拍動信号データを最終的な拍動信号データとして採用する(s37)。
【0056】
3軸方向全ての体動信号を使用する場合は、図15に示した最終的な拍動信号データ(s37)を第3の脈波信号データとし(s37b)、この第3脈波信号データとz軸方向の体動信号データs38とを用いて3度目の拍動検出処理を行い(s39)、この処理s39によって抽出した拍動信号データを最終的な拍動信号データとする(s40)。
【0057】
なお、上記実施形態、すなわち時計型脈拍計1における拍動検出装置では、その用途がウオーキングやジョギング時の検出脈拍計測であることから、体動信号は、主に腕の振り方やその速さに影響されることになる。実験などを通して知見したところによると、図2に示した3軸方向において、最も腕の振り方に影響する軸方向はx軸方向であり、次に影響されるのはy方向であり、z軸方向は想定される用途ではほとんど影響しない。したがって、腕に装着するタイプの拍動検出装置では、x軸、y軸、z軸の順に体動信号データを処理していくことが望ましい。
【0058】
===その他の実施例===
<適応フィルタに再設定する係数について>
上記第1〜3の実施例では、体動が閾値を越えて増大するように変化したことを検出すると、適応フィルタの係数をゼロに再設定していたが、当該係数は、体動に由来するノイズを抽出することができる所定値であればよい。例えば、安静時、歩行時、走行時など、所定の体動状態についてあらかじめ係数を用意しておき、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、その変化が所定の体動変化(例えば、歩行状態から走行状態など)に該当する場合、体動適応フィルタの係数を変化後の体動に対応する値に再設定する。このようにすることでも有効にノイズ成分を抽出できる。なお、体動の状態を特定するためには、体動信号データの振幅などを参照すればよい。
【0059】
<適応フィルタ係数の再設定期間について>
例えば、体動が閾値を越えて増大するように変化する度に、適応フィルタの係数をゼロに再設定すると、その再設定処理によってハードウエアの負荷が増大し、他の処理に支障を来す可能性がある。例えば、脈拍計は、過去所定期間分の拍動信号データから現時点の脈拍を求めているため、頻繁に再設定処理が行われると、再設定の時点から再び脈拍を数え直すことになる。それによって、脈拍をリアルタイムで表示することができなくなる。
【0060】
そこで、適応フィルタの係数をゼロや所定の係数に再設定した後は、所定期間、係数を再設定しないようにすることが望ましい。この再設定の禁止期間は、MPU内のリアルタイムクロックを用いて計測してもよいし、サンプリング周期にサンプリングの回数を乗算することで計測してもよい。そして、リアルクロックを用いる場合は、係数を再設定した時点を起点として所定の残存時間がセットされている減算タイマーを起動させればよい。サンプリングの周期と回数を用いる場合には、所定のサンプリング回数をROMなどに記憶させておき、係数の再設定時点から、脈波信号データや体動信号データなどのサンプリングデータが所定の回数分入力されるまで適応フィルタの係数を再設定しなければよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、人体の拍動に関連する情報を出力する装置に適用可能であり、例えば、脈拍系や血圧計、心電計のように、拍動の時系列変化を波形などによって表示出力する装置など、生体情報を扱う装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 腕時計型脈拍計、4 液晶表示器、5 操作ボタン、8 脈波センサー、
21 MPU、22 RAM、23 ROM、24 LCD表示装置、
25 入力装置、28 発振回路、29 分周回路、30 体動センサー、
33,34 A/D変換回路、50 ローパスフィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、
拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、
人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、
体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部と、
体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部と、
を備えたことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記フィルタ係数設定部は、前記適応フィルタの係数を初期値にリセットすることを特徴とする拍動検出装置。
【請求項3】
請求項1において、所定の体動変化の前後の体動信号を所定の適応フィルタ係数に対応付けして記憶する体動記憶部を備え、前記フィルタ係数設定部は、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、当該変化が前記所定の体動変化に該当する場合、体動適応フィルタの係数を当該変化に対応する値に設定することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記体動センサーは、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力し、前記脈波信号フィルタリング部は、前記脈波センサーが出力する第1の脈波信号と当該第1の脈波信号に最も影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を第2の脈波信号として、当該第2の脈波信号と次に影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を出力することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項5】
請求項4において、腕に装着された状態で使用され、前記体動センサーは、手首から肘に向かう方向を前記最も影響がある軸方向とするとともに、腕を地面に対して平行に伸ばすとともに、その腕の手のひらも地面に対して平行となるようにした場合、前記手首から肘に向かう方向と地面の双方に対して直交する方向を次に影響がある軸方向とすることを特徴とする拍動検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、前記体動信号に帯域通過フィルタを適応した信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の振幅に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、前記フィルタ係数設定部は、適応フィルタの係数を設定すると、所定期間が経過するまでは適応フィルタの係数を設定しないことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、前記拍動信号に基づいて脈拍数を計測する脈拍計測部と、当該脈拍数を表示する表示部とを備えたことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項11】
拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーとを備えたコンピュータにより、人体の拍動に由来する拍動信号を検出するための拍動検出方法であって、
前記コンピュータは、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリングステップと、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定ステップとを実行する、
ことを特徴とする拍動検出方法。
【請求項1】
人体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、
拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出して出力する脈波センサーと、
人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーと、
体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリング部と、
体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定部と、
を備えたことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記フィルタ係数設定部は、前記適応フィルタの係数を初期値にリセットすることを特徴とする拍動検出装置。
【請求項3】
請求項1において、所定の体動変化の前後の体動信号を所定の適応フィルタ係数に対応付けして記憶する体動記憶部を備え、前記フィルタ係数設定部は、体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出するとともに、当該変化が前記所定の体動変化に該当する場合、体動適応フィルタの係数を当該変化に対応する値に設定することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記体動センサーは、少なくとも2軸方向の体動に基づく体動信号を個別に出力し、前記脈波信号フィルタリング部は、前記脈波センサーが出力する第1の脈波信号と当該第1の脈波信号に最も影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を第2の脈波信号として、当該第2の脈波信号と次に影響する軸方向の体動信号とに基づく前記拍動信号を出力することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項5】
請求項4において、腕に装着された状態で使用され、前記体動センサーは、手首から肘に向かう方向を前記最も影響がある軸方向とするとともに、腕を地面に対して平行に伸ばすとともに、その腕の手のひらも地面に対して平行となるようにした場合、前記手首から肘に向かう方向と地面の双方に対して直交する方向を次に影響がある軸方向とすることを特徴とする拍動検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、前記体動信号に帯域通過フィルタを適応した信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の加算値に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかにおいて、フィルタ係数設定部は、過去所定期間分に出力された体動信号の振幅に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出することを特徴とした拍動検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかにおいて、前記フィルタ係数設定部は、適応フィルタの係数を設定すると、所定期間が経過するまでは適応フィルタの係数を設定しないことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかにおいて、前記拍動信号に基づいて脈拍数を計測する脈拍計測部と、当該脈拍数を表示する表示部とを備えたことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項11】
拍動信号とノイズ信号とが混在した脈波信号を検出する脈波センサーと、人体の体動に伴う体動信号を検出して出力する体動センサーとを備えたコンピュータにより、人体の拍動に由来する拍動信号を検出するための拍動検出方法であって、
前記コンピュータは、体動信号に基づいて適応フィルタを生成して脈波信号中のノイズ信号を抽出するとともに、脈波信号から当該ノイズ信号を除去した拍動信号を出力する脈波信号フィルタリングステップと、体動信号に基づいて体動変化が所定の閾値を超えて増大したことを検出すると、適応フィルタの係数を所定値に設定するフィルタ係数設定ステップとを実行する、
ことを特徴とする拍動検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図9】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図9】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−172645(P2010−172645A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21236(P2009−21236)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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