説明

拡散増強化合物、及びその単独使用又は血栓溶解剤との併用

本発明は、拡散増強化合物、及び心筋梗塞又は脳卒中などの血栓形成による障害の治療のための、拡散増強化合物の単独使用又は血栓溶解薬剤との併用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2009年6月22日に出願された米国特許仮出願第61/213,575号の利益を主張するものであり、本出願において、その出願の内容全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、拡散増強化合物、及び心筋梗塞又は脳卒中などの血栓形成による障害の治療のための、拡散増強化合物の単独使用又は血栓溶解薬剤との併用に関する。
【0003】
[発明の背景]
血栓は、傷害のない血管又はわずかに傷害された血管において止血過程が不適切に活性化したものである。大血管における血栓(壁在性血栓)は、血管内の血流を減少させる。小血管(閉塞性血栓)では、血流が完全に中断されることにより、血管から血液供給を受ける組織が死に至る場合がある。血栓が分離し、浮遊するようになった場合、塞栓と称される。
【0004】
凝血塊が発達するリスクを高める状態としては、心房細動(不整脈の一形態)、心臓弁置換、近時の心臓発作、無活動期間の延長(下記の深部静脈血栓症を参照)、及び遺伝子又は疾患関連血液凝固能力欠損が挙げられる。
【0005】
凝血塊の予防及び治療により、脳卒中、心臓発作及び肺塞栓症のリスクが減少する。血栓の形成及び存在する血栓の成長を阻害するために、ヘパリン及びワルファリンがしばしば使用される。ヘパリン及びワルファリンは、成熟凝固因子を形成するために必要な酵素であるビタミンKエポキシド還元酵素を阻害することによって血液凝固を減少させることができる。
【0006】
急性虚血性脳卒中(AIS)は、患者の95%超が治療されないままとなっている潜在的に深刻な疾患である。急性虚血性脳卒中の患者数は、毎年、米国で70万人、世界全体では1500万人を超えると推定されている[1、2]。AISに関連する臨床的障害を解消し得る新たな薬理学的治療薬が必要とされている。虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する血管内の閉塞によって生じる。
【0007】
出血性脳卒中は、脳卒中の症例の約17%を占める。出血性脳卒中は、弱まった血管が破裂したときに生じる。
【0008】
組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)は、タンパク質の血栓溶解薬剤(凝血塊破壊薬物)である。tPAは、心臓発作又は脳卒中を患う特定の患者において使用するために承認されている。この薬物は、ほとんどの心臓発作又は脳卒中の原因となる凝血塊を溶解することができる。tPAは、米国食品医薬品局によって虚血性脳卒中の急性(緊急)処置のために承認されている唯一の薬物である。詳細には、症候の発現から最初の3時間以内において虚血性脳卒中を治療するために承認されている[3]。
【0009】
tPAは、迅速に投与されれば、虚血性脳卒中の影響を顕著に軽減し、永久的障害を減少させることができる。しかしながら、tPAの治療の開始がしばしば遅れることがある。その理由は、患者に脳卒中様の症候が現れたとき、その脳卒中が凝血塊により生じた脳卒中(虚血性脳卒中)であるか、又は血管の破裂によって生じた脳卒中(出血性脳卒中)であるか、すぐには明らかにならないためである。tPAは、虚血性脳卒中に対してしか与えることができないため、tPAを投与する前に脳卒中の種類を判定しなければならない。
【0010】
全ての脳卒中の80%超が虚血性脳卒中であるが、tPA又は任意の血栓溶解剤をすぐに投与することはできない。その理由は、tPA又は任意の血栓溶解剤によって、出血性脳卒中がさらに悪影響を及ぼす可能性があるためである。所与の患者が、出血性脳卒中に罹患しているか又は虚血性脳卒中に罹患しているかを判定することは、即時治療にとって「門(gate)」となる、時間のかかる診断である。このことは結果として、tPAを最初の症候から3時間以内に与えなければならないことと合わせると、tPAを受けられるのは脳卒中患者のほんの一部でしかないということになる。
【0011】
tPAは、ウサギ小血塊塞栓性脳卒中モデル(RSCEM)を含めた多くの急性虚血性脳卒中の前臨床モデルにおいて有効であり[4]、このモデルは、有用な手段であり、有効な治療の予測因子となり得るものであり、最終的にはヒト臨床試験における機能的有効性をもたらすことも可能である[2、4〜7]。RSCEMにおいて、治療の有効性を評価するときに使用される主なエンドポイントは、機能的挙動である。これは、ヒトの脳卒中についてのNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale、NIH脳卒中スケール)の運動機能要素に基づく[8、9]。
【0012】
脳浮腫は、脳の細胞内又は細胞外空間内のいずれかに、過剰な流体が存在することである。この障害は、脳の膨張及び頭蓋内圧の上昇を引き起こす。頭部損傷、脳炎、膿瘍、酸素欠乏、腫瘍、脳卒中、及び毒性因子が、最も一般的な脳浮腫の原因である。脳浮腫に対する現行の治療手法として、マンニトール、利尿剤、及びコルチコステロイドを挙げることができる。使用されている主なコルチコステロイドの一つはデキサメタゾン(デカドロン(Decadron))である。
【0013】
カロテノイドは、イソプレノイド単位からなる炭化水素の1つのクラスである。分子骨格は共役炭素−炭素二重結合及び単結合からなり、ペンダント基を有し得る。クロセチン及びトランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)などのカロテノイドは、水中の酸素の拡散率を増加させることが知られている。
【0014】
米国特許第6,060,511号は、トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)及びその使用に関する。この特許は、酸素拡散率の向上及び出血性ショックの治療などにおけるTSCの様々な使用を包含する。
【0015】
米国特許出願第10/647,132号は、双極性トランスカロテノイド塩(BTCS)を含む双極性トランスカロテノイド(BTC)を製造するための合成方法、及びその使用方法に関する。
【0016】
米国特許出願第11/361,054号は、改善されたBTC合成方法及び当該BTCの新規使用に関する。
【0017】
米国特許出願第12/081,236号は、末梢血管疾患の前処置としての、また末梢血管疾患の治療における、双極性トランスカロテノイドの使用に関する。
【0018】
米国特許出願第12/289,713号は、小分子拡散を増強させる治療薬の新たなクラスに関する。
【0019】
[発明の概要]
本発明は、虚血性脳卒中、心筋梗塞、肺塞栓症、又は深部静脈血栓症を有する哺乳動物の治療方法であって、拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、及び血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与することを含む方法に関する。また、本発明は、虚血性脳卒中であるか出血性脳卒中であるかが不明である脳卒中を有する哺乳動物の治療方法であって、i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、ii)脳卒中が虚血性脳卒中であるかを判定すること、及び虚血性脳卒中と判定された場合に、iii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0020】
また、本発明は、出血性脳卒中、脳浮腫、又はTIAを有する哺乳動物の治療方法であって、拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与することを含む方法に関する。
【0021】
[発明の詳細な説明]
本発明は、拡散増強化合物、及び、心筋梗塞又は脳卒中などの血栓形成による障害を治療するための、拡散増強化合物と血栓溶解薬剤との併用に関する。
【0022】
本発明の化合物及び組成物
血栓溶解剤
血栓溶解剤は、心筋梗塞(心臓発作)、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症及び肺塞栓症において、閉塞した動脈、即ち、血栓を除去し、影響を受けた組織(例えば、心筋、脳、脚)の永久損傷及び死を回避するために使用される。また頻度は少ないが、長期療法において使用されるカテーテルの閉塞を除去するために使用される。
【0023】
留意すべきは、出血性脳卒中において、血栓溶解剤を用いる療法は禁忌となることである。その理由は、出血性脳卒中の状況で血栓溶解剤を使用することは、頭蓋内空間への出血を長引かせ、さらなる損傷を引き起こしかねないからである。
【0024】
血栓溶解薬物としては、以下が挙げられる。
組織プラスミノーゲン活性化因子−t−PA−アルテプラーゼ(アクチベース(Activase))、
レテプラーゼ(レタベース(Retavase))、
テネクテプラーゼ(TNKアーゼ(TNKase))、
アニストレプラーゼ(エミナーゼ(Eminase))、
ストレプトキナーゼ(カビキナーゼ(Kabikinase)、ストレプターゼ(Streptase))、
ウロキナーゼ(アボキナーゼ(Abbokinase))。
【0025】
これらの薬物は、臨床的に適切と判定された直後に投与される場合に最も効果的である。これらの薬物は、抗凝固薬である静脈内用ヘパリン又は低分子量ヘパリンと組み合わせて与えることもできる。
【0026】
拡散増強化合物
本発明の拡散増強化合物は、米国特許出願第10/647,132号、米国特許出願第11/361,054号、米国特許出願第12/081,236号及び米国特許出願第12/289,713号(これらの特許出願のぞれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載された化合物を包含する。
【0027】
包含される化合物は、式:
YZ−TCRO−ZY
(式中、
Y=カチオン、
Z=カチオンと結合している極性基、
TCRO=トランスカロテノイド骨格)
を有する双極性トランスカロテノイド化合物であり、例えばTSCである。
【0028】
より具体的に、本発明は、トランスカロテノイドジエステル、ジアルコール、ジケトン及び二酸を含むトランスカロテノイド、双極性トランスカロテノイド(BTC)、並びに双極性トランスカロテノイド塩(BTCS)化合物に関し、さらに構造:
YZ−TCRO−ZY
(式中、
Y(2つの末端は同一であり得、又は異なり得る)は、H、又はH以外のカチオン(好ましくは、Na又はK又はLi)である。Yは、好適には、一価の金属イオンである。また、Yは有機カチオン、例えば、R、R(式中、RはH又はC2n+1(ここでnは1〜10、好適には1〜6である))であってもよい。例えば、Rは、メチル、エチル、プロピル又はブチルであり得る。
Z(2つの末端は同一であり得、又は異なり得る)は、H、又はカチオンと結合している極性基である。任意選択でカロテノイド(又はカロテノイド関連化合物)の末端炭素を含み、この基は、カルボキシル(COO)基、又はCO基(例えば、エステル、アルデヒド又はケトン基)、又はヒドロキシル基であり得る。また、この基は、スルフェート基(OSO)又はモノホスフェート基(OPO)、(OP(OH)O)、ジホスフェート基、トリホスフェート、又はその組合せであり得る。またこの基は、COOR(ここで、RはC2n+1である)のエステル基であり得る。
TCROは、トランスカロテノイド又はカロテノイド関連骨格(好適には、100個未満の炭素)であり、直鎖状であり、ペンダント基(下記に定義)を有し、通例、「共役」又は交互の炭素−炭素二重結合及び単結合を含む(一実施形態においては、TCROは、リコペンにおけるように完全に共役していない)。ペンダント基(X)は、通例、メチル基であるが、下記に説明するように他の基でもよい。好適な実施形態では、骨格の単位は、それらの配置が分子の中心で逆転するような様式で連結している。炭素−炭素二重結合を囲む4つの単結合は、全て同じ平面に存在する。ペンダント基が炭素−炭素二重結合の同じ側に存在する場合、この基はシス(「Z」としても知られる)と称される。ペンダント基が炭素−炭素二重結合の反対側に存在する場合、この基はトランス(「E」としても知られる)と称される。本件を通して、異性体はシス及びトランスと称される。
本発明の化合物は、トランスである。シス異性体は、通例、不利であり、拡散率の増加が得られない。一実施形態においては、骨格が直鎖状のままである場合、シス異性体を利用することができる。ペンダント基の配置は、分子の中心点に対して対称であってもよく、又は分子の左側が、中心炭素に対するペンダント基の種類又は空間関係のいずれかの観点で分子の右側と同じに見えないように非対称であってもよい。)
を有するそのような化合物の合成に関する。
【0029】
ペンダント基X(同一であり得、又は異なり得る)は、水素(H)原子、又は10個以下の炭素、好適には4個以下の炭素(任意選択でハロゲンを含有する)を有する直鎖状又は分岐鎖の炭化水素基、又はハロゲンである。また、Xは、エステル基(COO−)又はエトキシ/メトキシ基であり得る。Xの例は、メチル基(CH)、エチル基(C)、フェニル基又は環にペンダント基を有する若しくは有しない単環芳香族、ハロゲン含有アルキル基(C1〜C10)、例えばCHCl、又はハロゲン(Cl又はBrなど)又はメトキシ(OCH)又はエトキシ(OCHCH)である。ペンダント基は同一であり得、又は異なり得るが、利用されるペンダント基は骨格を直鎖状に維持しなければならない。
【0030】
多くのカロテノイドが天然に存在するが、カロテノイド塩は天然には存在しない。共有米国特許第6,060,511号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)は、トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)に関する。TSCは、天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させて、次いで抽出を行ってトランス異性体を主に選択することによって作製された。
【0031】
カロテノイド又はカロテノイド塩のシス及びトランス異性体の存在は、水溶液に溶解させたカロテノイド試料の紫外−可視スペクトルを調べることによって決定し得る。スペクトルを考慮すると、最高ピークの吸光度の値は、380〜470nmの可視波長の範囲に生じる(数値は使用する溶媒及びBTC又はBTCSの鎖長に依存する。ペンダント基の付加又は鎖長の違いによって、このピークの吸光度は変化するが、当業者は、これらの分子の共役骨格構造に対応する可視範囲の吸光度ピークの存在を認識するであろう。)。この値は、220〜300nmのUV波長範囲に生じるピークの吸光度で割って、トランス異性体の純度レベルを決定するために使用することができる。トランスカロテノイドジエステル(TCD)又はBTCSが水中に溶解するとき、可視波長範囲の最高ピークは、380nm〜470nmの間(実際の化学構造、骨格の長さ及びペンダント基に依存する)となり、UV波長範囲のピークは220〜300nmの間となる。M.Craw及びC.Lambert、Photochemistry and Photobiology、Vol.38(2)、241〜243(1983)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によれば、計算の結果(ここではクロセチンを分析している)は3.1となり、精製後は6.6に増加した。
【0032】
UV及び可視波長範囲用に設計されたキューベットを使用して、共有米国特許第6,060,511号のトランスクロセチンナトリウム塩(天然に存在するサフランを水酸化ナトリウムと反応させて、次いで抽出を行ってトランス異性体を主に選択することによって作製されたTSC)について、Craw及びLambertの分析を実施すると、平均して約6.8の値が得られる。本発明の合成TSCについて、この試験を実施すると、その比率は7.0超(例えば、7.0〜8.5)、好適には7.5超(例えば、7.5〜8.5)、最も好適には8超である。合成された物質は、「より純粋な」又は高度に精製されたトランス異性体である。
【0033】
本発明の化合物及び組成物の処方及び投与
拡散増強化合物の処方及び投与についての詳細な説明は、共有米国特許出願第12/081,236号及び第12/289,713号(各出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に見出され得る。
【0034】
TSCなどの拡散増強化合物は、様々な経路で投与され得る。例えば、賦形剤を含む他の化合物と共に処方することができる拡散増強化合物は、適切な用量で、静脈内注射又は点滴、筋肉内注射又は経口形態により、投与することができる。
【0035】
IV注射経路は、本出願の用途に対してTSCを与えるために好適な経路である。その理由は、患者が意識不明である可能性が十分にあるためである。通例、TSCなどの拡散増強化合物は、血栓が存在すると考えられる場合又は患者が出血している場合にできるだけ早く投与される。
【0036】
シクロデキストリン
いくつかの製薬を投与するために、吸収性/溶解性/医薬品有効成分(API)の濃度の増強を補助する別の化合物の添加が必要となる。そのような化合物は、賦形剤と呼ばれ、シクロデキストリンが賦形剤の例である。シクロデキストリンは、澱粉由来の環状炭水化物鎖である。シクロデキストリンは、グルコピラノース単位の数によって互いの構造が異なる。母体シクロデキストリンは、6個、7個及び8個のグルコピラノース単位を含有しており、それぞれアルファ、ベータ、及びガンマシクロデキストリンと称される。シクロデキストリンは、1891年に最初に発見され、数年にわたり製剤の一部として使用されてきた。
【0037】
シクロデキストリンは、アルファ−D−グルコピラノースの環状(アルファ−1,4)連結オリゴサッカリドであり、比較的疎水性の中心空洞と親水性の外表面とを含有する。製薬産業において、シクロデキストリンは、水に難溶性の薬物の水溶性を向上させるために、及びその生物学的利用性及び安定性を向上させるために錯形成剤として主に使用されてきた。加えてシクロデキストリンは、胃腸又は目の刺激を減少又は防止するために、不快な匂い又は味を減少又は除去するために、薬物−薬物相互作用又は薬物−添加物相互作用を防止するために、また更には油又は液体薬物を微晶質又は非晶質粉末に変換するために使用される。
【0038】
BTC化合物は水溶性であるが、シクロデキストリンの使用によってその溶解性をより向上させて、より少量の薬物溶液で所与の投与量を投与することが可能になる。
【0039】
本発明の化合物と共に使用することができる多数のシクロデキストリンが存在する。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,727,064号を参照のこと。好適なシクロデキストリンは、γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン及び2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、又はBTCの溶解性を増強する他のシクロデキストリン類である。
【0040】
TSCとガンマ−シクロデキストリンとの併用は、TSCの水への溶解性を3〜7倍向上させる。倍率は、シクロデキストリンとの活性成分の溶解性を向上させる他の例に見られる程には大きくないが、より少量の投与でヒト(又は動物)へのTSCの非経口投与を可能にすることは重要である。TSC及びガンマ−シクロデキストリンの投与量は、結果として、溶液1mlあたり44ミリグラム程度のTSCを含有する水溶液となり、好適な範囲は溶液1mlあたり20〜30mgとなった。溶液は等モル量である必要はない。ガンマシクロデキストリンを組み込むことにより、筋肉内注射されたときにTSCを血流内に吸収させることも可能になる。吸収が迅速であり、TSCの有効血中濃度に迅速に到達する(ラットで示されている)。
【0041】
シクロデキストリン処方物は、他のトランスカロテノイド及びカロテノイド塩と共に使用することができる。本発明は、塩でないカロテノイド(例えば、クロセチン、クロシン又は上記した中間化合物などの酸形態)及びシクロデキストリンの新規組成物も包含する。別言すると、塩でないトランスカロテノイドも、シクロデキストリンと共に処方することができる。浸透圧のためにマンニトールを加えることができ、又はシクロデキストリンBTC混合物を等張食塩水に加えることもできる(下記参照)。
【0042】
使用されるシクロデキストリンの量は、トランスカロテノイドを含有するものの、トランスカロテノイドを放出しない程度の量である。好適には、シクロデキストリンのBTC、例えばTSCに対する比率は、4対1又は5対1である。米国特許出願第61/350,804号(その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)も参照のこと。
【0043】
シクロデキストリン−マンニトール
TSCなどのトランスカロテノイドは、上記のシクロデキストリン及びマンニトールなどの非代謝性糖(例えば、血液の浸透圧と同じ浸透圧に調整するためのd−マンニトール)と共に処方することができる。溶液1mlあたり20mg超のTSCを含有する溶液を、このようにして作製することができる。この溶液を、希釈のために、更には適切な浸透圧を維持するために、等張食塩水又は他の等張性溶液に添加してもよい。
【0044】
マンニトール/酢酸
TSCなどのBTCSは、d−マンニトールなどのマンニトール及びpHを調整するために酢酸又はクエン酸などの穏やかな緩衝剤と共に処方することができる。溶液のpHは約8〜8.5とすべきである。この溶液は、等張性溶液に近似させるべきであり、そのようにすることで、血流に直接注射することができる。
【0045】
水+食塩水
TSCなどのBTCSは、水(好適には注射用水)に溶解することができる。この溶液を、次いで、水、生理食塩水、乳酸リンゲル液又はリン酸緩衝液で希釈し、得られた混合物を点滴又は注射することができる。
【0046】
緩衝剤
グリシン、重炭酸塩、又は炭酸ナトリウムなどの緩衝剤を、TSCなどのBCTの安定性のために約50mMの濃度で処方物に加えることができる。
【0047】
TSC及びガンマ−シクロデキストリン
TSCのシクロデキストリンに対する比率は、TSC:シクロデキストリン溶解性データに基づく。例えば、pH8.2+/−0.5において20mg/ml TSC、8%ガンマシクロデキストリン、50mMグリシン、2.33%マンニトール、又は10mg/ml TSC及び4%シクロデキストリン、又は5mg/ml TSC及び2%シクロデキストリン。これらの成分の比率は、当業者にとって明らかなように、ある程度変更することもできる。
【0048】
マンニトールを使用して、浸透圧を調整することができ、マンニトールの濃度は、他の成分の濃度に応じて変化する。グリシンは、一定に保たれる。TSCは、より高いpHにおいて、より安定である。約8.2+/−0.5のpHが、安定性及び生理学的適合性のために必要とされる。グリシンの使用により、凍結乾燥に適合性になる。或いは、TSC及びシクロデキストリンは、グリシンに代えて50mMの重炭酸緩衝液を使用して処方される。
【0049】
ガンマ−シクロデキストリンのエンドトキシン除去
商業的に入手し得る医薬品等級シクロデキストリンは、静脈内注射には適合しないエンドトキシン濃度を有する。静脈内注射を目的としたBTC処方物においてシクロデキストリンを使用するためには、エンドトキシンレベルを減少させなければならない。
【0050】
血栓が存在すると判定された後は、治療有効量、即ち、凝血塊溶解量の血栓溶解薬剤、例えばtPAを、投与することもできる。血栓溶解剤の処方物は、当業者にとって周知である。tPAなどの血栓溶解剤は、通例、IV注射により投与される。拡散増強薬物が既に投与されている場合、血栓溶解剤の投与の利点は、症候の発現後、最初の90分以内で最も高くなるが、症候の発現から6時間後、9時間後、又は更には12時間後まで延長され得る。
【0051】
血栓溶解剤及び/又は拡散増強薬物は、抗凝固薬である静脈内用ヘパリン又は低分子量ヘパリンと組み合わせて与えることもできる。ヘパリン及びワルファリンは、血栓の形成及び存在する血栓の成長を阻害するためにしばしば使用される。
【0052】
一実施形態において、血栓溶解薬剤は、IV投与用の拡散増強化合物と一緒に処方される。
【0053】
本発明の化合物及び組成物の使用
トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)などの拡散増強化合物は、単独投与、又は組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などの血栓溶解剤との併用投与により、血栓に関連する障害を軽減させることができる。
【0054】
脳卒中
所与の摘出された血管において、脳組織への血流は、2種の方法、
1.血管内の詰まり(虚血性脳卒中)、
2.脳への血液の漏出を引き起こす血管破裂(出血性脳卒中)
により妨害され得る。
【0055】
脳卒中に対する有益な治療は、
(1)出血性脳卒中又は虚血性脳卒中のいずれかを治療するために使用され得る薬物、或いは、
(2)血栓溶解剤を与えるためのウィンドウ、例えば、tPAを与えるために承認された3時間のウィンドウ時間を増加させ得る薬物
であろう。
【0056】
虚血性脳卒中
虚血性脳卒中は、全ての症例の約83パーセントを占める。虚血性脳卒中は、血液を脳に供給する血管内の閉塞により生じる。この種の閉塞の根底にある状態は、血管壁に裏打ちされる脂肪性沈着物の発達である。この状態はアテローム性動脈硬化症と呼ばれる。これらの脂肪性沈着物は、2種の閉塞と関連している。
【0057】
脳血栓症とは、血管の詰まった部分で発達する血栓(凝血塊)のことである。
【0058】
脳塞栓症とは、概して、循環系の別の場所、通常は心臓並びに胸の上部及び首の大動脈で形成される凝血塊のことである。凝血塊の一部が破れ落ち、血流内に入り、脳の血管を通って、通過できない程に小さい血管に到達するまで移動する。塞栓の第2の重要な原因は、心房細動として知られる不規則な心拍である。これにより、凝血塊が心臓で形成され、分離し、脳まで移動し得る状態が作られる。
【0059】
また、TIAとも呼ばれる、一過性の虚血性発作は、小さな又は前兆的な脳卒中である。TIAにおいては、虚血性脳卒中を示唆する状態が表れ、典型的な脳卒中の前兆となる徴候が現れる。しかし、症候は短時間で起こり、正常な機構を通して解決することも多い。短時間で症候が消えたとしても、TIAは、重大な脳卒中が生じる可能性の指標であり得る。虚血性脳卒中を防止するために即時に措置をとるべきである。TIAの徴候を示す患者又は脳卒中のリスクのある患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0060】
脳卒中犠牲者のための新たな薬物を見出すために、虚血性脳卒中の様々な動物モデルが使用される。一つのモデルでは、複数の血管(中大脳動脈、2本の頸動脈)が2時間結紮される。次いで、結紮糸が除去され、薬物が与えられ、24時間後に動物(この事例ではラット)が屠殺される。脳切片が染色され、損傷(虚血)組織の量を決定するために検査が行われる。このモデルでは、ラットで0.1mg/kgのTSC投与量で虚血性組織の量に著明な低減(約60%)が示された。
【0061】
コラゲナーゼ酵素を用いて血管の脳内への漏出を引き起す出血性ショックのラットモデルでは、0.1mg/kgのTSCの投与により、脳内へ出血する血液の量が増加しないことが示された。実際に、この投与により、その出血容積の減少が引き起こされた。より重要であり得ることは、TSCが、出血性脳卒中により引き起こされた浮腫の量を約50%減少したことが示されたことである。このように、TSCは、上記の(1)の分類を満たす薬物、即ち、いずれの種類の脳卒中においても更なる損傷を引き起こす恐れがなく使用し得る薬物と考えられる。
【0062】
TSCとtPAの併用は、下記で説明するRSCEMモデルを使用した機能的挙動を有効に改善する。RSCEMは、ウサギの脳血管に凝血塊を注射して、脳虚血を作り出し挙動障害をもたらすことによって作製される。生じた挙動障害は、二分法評価スケール及び統計的量子解析技法を利用して定量的に測定することができる。
【0063】
下記の実施例1では、RSCEMモデルにおいて塞栓形成の1時間以内にTSCを投与することにより、臨床評価スコアが著しく改善することが示されている。更にこの研究では、TSAが血栓溶解剤tPAと併用して安全に投与することが可能であり、併用療法によっても、塞栓形成がなされたウサギにおける機能的挙動の著しい改善が行われることが示されている。TSC及びtPAの同時投与は、TSCを単独で与えるのと同じように、凝血塊によって引き起こされた心臓発作の治療に有益である。
【0064】
TSCなどの拡散増強化合物の早期使用により、虚血性脳卒中を治療するために後でtPAなどの血栓溶解剤を与える機会のウィンドウを増加させることができる。本データでは、RSCEMモデルにおいて、TSCが、tPAの処置ウィンドウ時間を少なくとも3時間延長させ得ることが教示される。この時間は、この動物モデルにおいてtPA単独では有効でない時間である。この時間は、ヒトでは3〜4倍に増幅されると考えられる。したがって、TSCなどの拡散増強化合物を、最初の脳卒中の症候後、最初の3〜4時間以内にヒトに与えた場合には、tPAなどの血栓溶解薬剤を、最初の脳卒中の症候から9時間後、又は更には最大12時間後に与えることが可能となる。虚血性脳卒中の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射若しくは点滴によって、又は経口によって、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。TSC単独の治療も、脳卒中に有効な治療である。
【0065】
出血性脳卒中
出血性脳卒中は、脳卒中の症例の約17パーセントを占める。出血性脳卒中は、弱くなった血管が破裂し、周辺の脳内に出血することから生じる。血液が蓄積し、周囲の脳組織を圧迫する。2種類の出血性脳卒中は、脳内出血及びクモ膜下出血である。
【0066】
出血性脳卒中は弱くなった血管が破裂するときに生じる。通常、2種類の弱くなった血管、動脈瑠及び動静脈奇形(AVM)が、出血性脳卒中の原因となる。動脈瑠は、血管の弱くなった領域が風船様に拡大することである。未処置のままでは、動脈瑠は、弱まり続けて終に破裂し、脳内へ出血する。動静脈奇形(AVM)は、異常に形成された血管の集まりである。これらの血管のいずれか1つが破裂する可能性があり、これも脳内への出血の原因となる。
【0067】
BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、出血性脳卒中の治療に使用され得る。化合物は、種々の経路で投与することができ、IV注射又は点滴、或いは経口が挙げられる。IV注射又は点滴経路は、出血性脳卒中に対し拡散増強化合物を与えるために有利な経路である。その理由は、患者が意識不明である可能性が十分にあるためである。TSCなどの拡散増強化合物は、通例、患者が出血している場合にできるだけ早く投与されるが、出血が静まった後でも与えることができる。出血性脳卒中の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は点滴、或いは経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0068】
脳浮腫
脳浮腫は、脳の細胞内空間及び/又は細胞外空間に、水が過剰に蓄積することである。脳浮腫は4つの種類に区別されている。
【0069】
(1)血管原性脳浮腫
この浮腫は、血液脳関門(BBB)を構成する緊密な血管内皮接合が破壊されることで引き起こされる。これにより、通常、排除された血管内タンパク質及び流体が、脳内の実質性細胞外空間に浸透する。血漿成分が一旦BBBを通過すると、浮腫が広がる。これは、非常に早く、広範囲に及び得る。水が白質に侵入すると、この水は繊維路に沿って細胞外を移動し、灰白質にも影響を及ぼす場合がある。この種の浮腫は、外傷、腫瘍、病巣性炎症、脳虚血の後期、及び高血圧性脳障害に応答して見られる。
【0070】
BBB機能障害の要因となる機構のいくつかとしては、動脈性高血圧症又は外傷による物理的破壊、血管作用性及び内皮性破壊化合物(例えば、アラキドン酸、興奮性神経伝達物質、エイコサノイド、ブラジキニン、ヒスタミン及び遊離ラジカル)の腫瘍促進性放出がある。いくつかの特別な血管原性脳浮腫の小分類として、以下が挙げられる。
【0071】
A.静水圧脳浮腫(Hydrostatic cerebral edema)
この形態の脳浮腫は、急性の悪性高血圧症に見られる。これは、流体の浸出を伴った大脳毛細血管に対する圧力が、毛細血管から細胞外流体に直接伝達することによるものと考えられる。
【0072】
B.脳腫瘍由来の脳浮腫
脳の癌性グリア細胞(グリオーマ)は、血液脳関門の接合を弱める血管内皮成長因子(VEGF)の分泌を増加させ得る。デキサメタゾン(コルチコステロイド化合物)が、VEGF分泌の減少に有益であり得る。
【0073】
C.高地脳浮腫
高地脳浮腫(又はHACE)は、(時に致命的となる)高山病の重篤な形態である。HACEは、血液脳関門におけるミトコンドリアが豊富な内皮細胞への低酸素の影響によって、毛細血管から流体が漏出し、脳組織が膨張した結果である。
【0074】
症候としては、頭痛、調節障害(運動失調)、衰弱、意識レベルの低下(失見当識、記憶喪失、幻覚、精神病的行動及び昏睡を含む)を挙げることができる。高地脳浮腫は、一般に、高地で1週間以上経過した後に生じる。重篤な事例では、即時に治療しなければ死に至る場合がある。即時の下山(2000〜4000フィート)が、必要とされる救命措置である。治療のために処方され得る幾つかの医薬(例えば、デキサメタゾン)もあるが、その使用には適切な医学訓練が必要となる。HACEを患った者はいずれも、適切な追跡処置を受けるために医療施設に避難しなければならない。
【0075】
登山者はまた、肺に影響する高地肺水腫(HAPE)に罹患する場合もある。高地肺水腫は、初期段階ではHACEほどに生命を脅かすものでないが、低地への下山ができなかったり又は医学的処置を受けることができなければ、死に至る場合もある。
【0076】
(2)細胞毒脳浮腫
この種の浮腫では、BBBは無傷のままである。この浮腫は、細胞代謝の乱れによるものであり、グリア細胞膜におけるナトリウム及びカリウムポンプが十分に機能しなくなる。その結果、ナトリウムと水が、細胞に保持される。灰白質及び白質内には、膨張した星状細胞が存在する。細胞毒浮腫は、様々な中毒(ジニトロフェノール、トリエチルスズ、ヘキサクロロフェン、イソニアジド)に見られ、ライ症候群、重篤な低体温、早期虚血、脳症、早期脳卒中、又は低酸素、心停止、偽脳腫瘍及び脳毒において見られる。
【0077】
(3)浸透圧脳浮腫
通常の脳脊髄液(CSF)及び脳の細胞外液(ECF)のオスモル濃度は、血漿のオスモル濃度より、わずかに大きい。過度の水分取り込み(又は低ナトリウム血症)、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、血液透析、又は高浸透圧性高血糖性状態(HHS)、従前の高浸透圧性非ケトン性アシドーシス(HONK)における血糖の急速な低下により、血漿が希釈されたとき、脳のオスモル濃度が血清のオスモル濃度を超え、異常な圧力勾配降下をもたらし、これによって水が脳に流入して浮腫が引き起こされる。
【0078】
(4)間質性脳浮腫
間質性脳浮腫は、閉塞性水頭症において生じる。この形態の浮腫は、CSF−脳関門の破裂によるものであり、CSFが脳内に浸出し、白質の細胞外空間に広がる。流体がタンパク質をほとんど含有しない点で、血管原性浮腫とは区別される。
【0079】
BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、脳浮腫の治療に使用することができる。化合物は、IV注射又は経口を含む、種々の経路で投与することができる。IV注射経路は、脳浮腫のためにTSCを与えるには好適な経路である。その理由は患者が意識不明であることが十分にあり得るためである。通例、TSCなどの拡散増強化合物は、脳浮腫が検出された後、できるだけすぐに投与される。脳浮腫の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は点滴、或いは経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0080】
別の実施形態において、脳浮腫の治療には、マンニトール、利尿剤、及びコルチコステロイドの1種又は複数を含めることができる。好適なコルチコステロイドは、デキサメタゾンである。
【0081】
心筋梗塞
心筋梗塞(MI、又は急性心筋梗塞の場合はAMI)は、一般に心臓発作として知られるものであり、心臓の一部への血液の供給が中断され、一部の心臓細胞の死が引き起こされたときに生じる。これは最も一般的には、動脈壁における脂質(コレステロールなど)及び白血球細胞(特にマクロファージ)の不安定な集合物である脆弱なもろい動脈硬化巣の破裂に続く、冠状動脈の閉鎖(封鎖)によるものである。結果として生ずる虚血(血液供給の制限)及び酸素不足は、相当な期間にわたって治療されない場合、心臓筋肉組織(心筋)の損傷及び/又は死(梗塞)を引き起こす可能性がある。
【0082】
BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、単独で、又は血栓溶解剤と併用して、心筋梗塞の治療として使用することができる。TSCなどの拡散増強化合物は、種々の経路で投与することができる。例えば、他の化合物と共に処方することが可能な本化合物は、適当な投与量で、静脈内注射又は点滴、筋肉内注射、或いは経口形態により、投与することができる。IV注射経路は、心筋梗塞のためにTSCなどの拡散増強化合物を与えるにあたって好適な経路である。その理由は患者が意識不明であることが十分にあり得るためである。通例、拡散増強化合物は、できるだけすぐに投与される。心筋梗塞の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は点滴、或いは経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0083】
血栓が存在すると考えられる場合、治療有効量、即ち、凝血塊溶解量の血栓溶解薬剤、例えばtPAを投与することもできる。血栓溶解剤の処方物は、当業者にとって周知である。tPAなどの血栓溶解剤は、通例、IV注射により投与される。拡散増強薬物が既に投与されている場合、血栓溶解剤の投与の利点は、症候の発現後、最初の90分以内で最も高くなるが、症候の発現から9時間後、又は更には12時間後まで延長され得る。
【0084】
血栓溶解薬物は、抗凝固薬である静脈内用ヘパリン又は低分子量ヘパリンと組み合わせて与えることもできる。
【0085】
深部静脈血栓症
深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis)(deep−vein thrombosis又はdeep venous thrombosisとしても知られる)は、深部静脈に凝血塊(「血栓」)が形成されることである。これは、血栓性静脈炎(凝血塊形成を伴う静脈の炎症)の一形態である。
【0086】
深部静脈血栓症は、一般に、脚の静脈(大腿部静脈、膝窩静脈など)又は骨盤の深部静脈に影響を及ぼす。時には、腕の静脈が影響を受ける(自発性の場合、これは、パジェット・シュロッター病として知られる)。
【0087】
BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、深部静脈血栓症の治療として、血栓溶解剤と併用することができる。BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、深部静脈血栓症の治療として、血栓溶解剤と併用することができる。TSCなどの拡散増強化合物は、種々の経路で投与することができる。例えば、他の化合物(賦形剤)と共に処方することが可能な本化合物は、適当な投与量で、静脈内注射又は点滴、筋肉内注射、或いは経口形態により、投与することができる。
【0088】
IV注射経路は、深部静脈血栓症のためにTSCなどの拡散増強化合物を与えるにあたって好適な経路である。その理由は患者が意識不明であることが十分にあり得るためである。通例、拡散増強化合物は、できるだけすぐに投与される。深部静脈血栓症の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は点滴、或いは経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0089】
治療有効量、即ち凝血塊溶解量の、血栓溶解薬剤、例えばtPAも投与することができる。血栓溶解剤の処方物は、当業者にとって周知である。tPAなどの血栓溶解剤は、通例、IV注射により投与される。拡散増強薬物が既に投与されている場合、血栓溶解剤の投与の利点は、症候の発現後、最初の90分以内で最も高くなるが、症候の発現から9時間後、又は更には12時間後まで延長され得る。
【0090】
血栓溶解薬物は、抗凝固薬である静脈内用ヘパリン又は低分子量ヘパリンと組み合わせて与えることができる。
【0091】
肺塞栓症
肺塞栓症(PE)は、肺動脈又はその分岐の一つが封鎖されることであり、通常は、深部静脈血栓(静脈由来の凝血塊)がその形成部位から分離し、肺の一方に動脈血液供給へ移動し、又は塞栓を形成したときに生ずる。この過程は、血栓性塞栓症と呼ばれる。
【0092】
BTCS化合物(例えば、TSC)などの拡散増強化合物は、肺塞栓症の治療として、単独で使用する、又は血栓溶解剤と併用することができる。本化合物は、種々の経路で投与することができる。例えば、他の化合物と共に処方することが可能な本化合物は、適当な投与量で、静脈内注射又は点滴、筋肉内注射、或いは経口形態により、投与することができる。
【0093】
IV注射経路は、肺塞栓症のためにTSCなどの拡散増強化合物を与えるにあたって好適な経路である。その理由は患者が意識不明であることが十分にあり得るためである。通例、拡散増強化合物は、できるだけすぐに投与される。肺塞栓症の徴候を示す患者には、TSCなどの拡散増強化合物を、例えば、IV注射又は点滴、或いは経口により、0.1〜2mg/kgの範囲の投与量で与えるべきである。
【0094】
血栓が存在すると考えられる場合には、治療有効量、即ち、凝血塊溶解量の血栓溶解薬剤、例えばtPAが投与される。血栓溶解剤の処方物は、当業者にとって周知である。tPAなどの血栓溶解剤は、通例、IV注射により投与される。拡散増強薬物が投与される場合、血栓溶解剤の投与の利点は、症候の発現後、最初の90分以内で最も高くなるが、症候の発現から9時間後、又は更には12時間後まで延長され得る。
【0095】
血栓溶解薬物は、抗凝固薬である静脈内用ヘパリン又は低分子量ヘパリンと組み合わせて投与することができる。
【0096】
以下の実施例は、例証であり、本発明の組成物及び方法を制限するものではない。当業者にとって明白な、通常使用する種々の条件及びパラメータの他の適切な変更及び適応も、本発明の趣旨及び範囲内である。
【実施例】
【0097】
実施例1
虚血性脳卒中におけるトランスクロセチン酸ナトリウムと組織プラスミノーゲン活性化因子
動物モデルの一般的説明:
方法:使用したモデルは、ウサギであり、RSCEMとしても知られるモデルである。雄ニュージーランド白ウサギに、イソフルランを使用して麻酔をかけ(5%で誘導、2%でフェイスマスクによる保持)、右の頚動脈の分岐を露出し、外部頚動脈を分岐の丁度末端で結紮し、この部位でカテーテルを共通の頸動脈へと挿入し、結紮糸で締めた。切開をカテーテルの周辺で閉じ、末端は首の外側にアクセス可能とした。カテーテルをヘパリン添加食塩水で満たし、注射キャップで蓋をした。ウサギを、通常の挙動を示すようになるまで、最短2時間かけて、麻酔から回復させた。その後、従前に詳細に記載されたように[4、10、11]、ドナーとなるウサギから抜き取った血液から微小凝血塊を調製し、37℃で凝血させた。微小凝血塊を、PBSに再懸濁し、次いで洗浄し、沈殿させ、続いて上清を吸引し、トレーサー量の15μmの放射標識マイクロスフェアで微小凝血塊をスパイクした。一定分量を取り出して、粒子の比活性を決定した後、適当量のPBS溶液を添加することで、所定の重量の凝血塊粒子を迅速にカテーテルに通して注射して、シリンジとカテーテルとの両方を5mlの生理食塩水でフラッシュした。
【0098】
量子用量反応解析:挙動解析には、従前に記載されたように、量子用量反応データ解析技法を使用した[4、10、11]。広範囲の病巣体積を誘導させて、正常動物及び様々な挙動欠損を有する異常動物の両方を作製する。3通り以上の異なる用量の微小凝血塊を使用して、それぞれの量子解析曲線を作成した。未処置の場合は、曲線の低端(少数の微小凝血塊では、十分に明らかな神経学的機能障害を引き起こさない)及び高端(多数の微小凝血塊は、不可避的に脳症又は死を引き起こす)である。各動物は、正常又は異常(死に至った動物を含む)のいずれかで評価し、評価者間変動は非常に低い(<5%)。挙動的に正常なウサギは、機能的障害の徴候を何ら示さなかったが、挙動的に異常なウサギは、バランスの喪失、頭の傾き、旋回、及び/又は四肢の麻痺を示した。この単純な評価系において、一群の動物についての複合的結果は非常に再現性のあるものである。簡潔に述べると、脳内の凝血塊の数と神経学的障害(昏睡又は死)との間の定量的関係を評価すると、ロジスティック(S字状)曲線は、コンピュータによって量子用量反応データに適合される(図1及び図2参照)。
【0099】
これらのパラメータは、一群の動物の50%において神経学的機能障害を生じさせる微小凝血塊の量(mg単位)の尺度である(P50)。P50値は、次いで、従前に記載されたように計算し[4、10、11]、平均±SEMとして表す。試験した各処置条件について、別個に曲線を作成する。量子曲線の右側に対する統計学的に有意なシフト又はP50値の増加が、挙動改善又は神経学的防御の指標である。データはt−検定を使用して解析した。
【0100】
特別な研究の実施:
薬物処置:試験物質を投与するために、処置期間中、ウサギをプレキシグラス保定器内に入れた。ウサギに、ビヒクル又はTSC(0.25mg/kg)のボーラス静脈内注射を、耳辺縁の静脈を使用して、0.22ml/kgの用量で1分間与えた。血栓溶解剤研究のために、塞栓形成から1又は3時間後に、tPA(3.3mg/kg)を、従前の記載[4]と同様にして、20%は1分間にわたるボーラスIV注射により与え、続いて残りは30分間かけて点滴することにより与えた(Genentech,Inc.(South San Francisco、CA;ロット745047、705409))。量子解析を構成するために、ウサギは、塞栓形成後の処置を受けた後において生存することができた場合、研究に含めた。他のウサギはすべて、本研究及び更なる解析から除外した。
【0101】
結果:
(1)TSCは塞栓形成1時間後の挙動を改善する
この一連の研究では、塞栓形成から24時間後に測定された挙動機能に対するTSC(0.25mg/kg)投与の効果を判定した。RSCEMを使用した場合、TSCにより、ビヒクル対照(P50=1.01±0.23mg、n=34)と比較して、P50値2.84±1.01mg(n=24)となり、挙動パフォーマンスが有意に(p<0.05)増加した。図1に、挙動に対するTSCの効果についての量子曲線を示す。
【0102】
【化1】

【0103】
(2)TSC併用研究:tPA 1時間延長
図1には、tPAを塞栓形成から1時間後に与えたときの、挙動及びグループP50値に対するtPAの効果も、グラフで示している。tPAは、挙動を有意に改善し、1.01±0.23mg(n=34)のP50値を有していたビヒクル対照群と比較して、グループP50値を2.48±0.17mg(n=21、p<0.05)に有意に増加させた。併用研究においては、TSCとtPAとの両方を、塞栓形成から1時間後に投与した。塞栓形成から24時間後に測定したグループP50値は、3.95±0.73mg(n=26)となり、対照と有意に異なったP50(p<0.05)となった。薬物の併用による相乗効果の傾向はあったが、TSC(p=0.372)又はtPA(p=0.087)と比較して統計学的な有意性には至らなかった。
【0104】
(3)TSC併用研究:tPA 3時間延長
下記の図2に、tPAを塞栓形成から3時間後に投与したときの、挙動及びグループP50値に対するtPAの効果をグラフで示している。tPAは、挙動を有意に改善せず(p>0.05)、1.01±0.23mg(n=34)のP50値を有していたビヒクル対照群と比較して、グループP50値が1.00±0.56mg(n=27)という結果になった。併用研究においては、TSCを、塞栓形成から1時間後に投与し、tPAを塞栓形成から3時間後に与えたとき、グループP50値は、2.43±0.24mg(n=20)となり、対照とは有意に異なったP50(p<0.05)となった。
【0105】
【化2】

【0106】
結果の概要
図1及び図2は、脳で測定された凝血塊重量の関数として異常なウサギを示す。結果は、各グループのウサギの数(n)に対する平均±SEMとして示す。ビヒクルと標識された曲線(図1及び図2の点線)は、1.01±0.23mg(n=34)の凝血塊用量を有するウサギの50%(P50値)が異常であることを示している。塞栓形成1時間後のTSC(0.25mg/kg)処置(図1及び図2の実線(soid line)は、P50値を2.84±0.51mg(n=24、p>0.05)に増加させた。塞栓形成後1時間で投与したときのtPA(図1及び図2の破線)は、P50値を有意に増加させたが、塞栓形成から3時間後に与えたときは有効でなかった(図2、破線)。TSC(1時間)とtPA(やはり1時間、図1)又は(3時間、図2)のいずれかとの併用は、有意に挙動を改善し、P50値を増加させた。
【0107】
これらのデータは、以下のグラフでも比較し得る。
【0108】
【化3】

【0109】
【化4】

【0110】
図3は、塞栓形成から1時間以内に投与したとき、TSC投与により、臨床評価スコアが有意に改善することも示している。さらに研究は、TSCが、血栓溶解剤tPAと併用して安全に投与することができ(図4)、当該併用療法によって、塞栓形成されたウサギにおいて有意な挙動改善がもたらされることを示している。データは、TSCが、tPAに対する処置ウィンドウをRSCEM動物モデルにおいて少なくとも3時間延長し得ることを教示している。この時間は、この動物モデルにおいてtPA単独では有効でない時間である。更に、データは、このモデルにおいて塞栓形成後1時間以内にTSCを単独で投与した場合においても、統計学的に有効であることを示している。ここでも、このウサギモデルにおける時間は、ヒトにおける時間を見積もるためには、3〜4倍増幅し得ると考えられる。
【0111】
前述したように、tPAは、脳卒中だけでなく心臓発作に対する処置でもある。この動物モデルは虚血性脳卒中に関するものであるが、凝血塊によって引き起こされる心臓発作に対してもより良好な処置に関する何らかの示唆を提供し得る。例えば、1時間後のデータ(図3)は、TSC又はtPAの同等の効果を示す。これらの2つの薬物が一緒に投与された場合にさらに良好な結果が示されるかどうかを判定するために、追加の研究を行い、この研究においては、凝血塊をウサギの脳に注射してから1時間後の時間で、両方の薬物を注射した。この結果を図5に示す。
【0112】
【化5】

【0113】
3種類の薬物処置(tPA単独、TSC単独、tPA/TSC併用)の全てで、ウサギの状態の改善における統計学的に有意な結果が示された。また興味深いことに、個々の薬物を単独で与えたときとの統計学的な差異はなかったとはいえ、2つの薬物の併用により、薬物のいずれかを単独で与えたときよりも良好と思われる利益がもたらされたことが分かる。しかし、tPAは、脳卒中の最初の症候から3時間以内という、その使用が制限される時間内に与えなければならない点に留意すべきである。しかしながら、TSCは、どのような種類の脳卒中が起こったかが不明であっても与えることができる。
【0114】
実施例2
出血性脳卒中におけるトランスクロセチン酸ナトリウム処置
背景
虚血性脳卒中における早期介入の主なリスクは、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)療法の事例のように、出血性脳卒中及び/又は出血性変化から生じた傷害を悪化させる可能性があるということである。したがって、本研究では、早期TSC処置が出血性脳卒中の状態において結果に悪影響を及ぼすかどうかを評価するために、頭蓋内出血(ICH)モデルにおけるTSCの効果を調べた。
【0115】
12匹の雄のスプラーグ−ドーリー(Sprague−Dawley)ラット(Taconic,Inc.)(重量250〜300グラムの間)を、自由に摂食させ、12時間の明暗サイクルに維持した。ラットを、TSC(総用量0.091mg/kg)の静脈内点滴を受けたTSC処置群(n=6)、及び、0.9%生理食塩水の静脈内点滴を受けた対照群、の2つの群のうち1つにランダムに分けた。
【0116】
ICHのコラゲナーゼ注射モデルを利用した。動物を、5%ハロタンを使用して気管内挿管により5分間麻酔した。麻酔は、50%のFiO2を用い、通気で補助しながら、1〜1.5%ハロタン下の状態で維持した。尾動脈にカニューレを挿入して、血圧及び動脈血ガスをモニターし、直腸温度プローブにより体温をモニターした。右大腿静脈にカニューレを挿入し、TSC及び食塩水を投与するために微量注射注入ポンプに接続した。体温は加熱パッドで37℃に維持した。ラットを、頭蓋にわたり正中切開を入れた状態で定位フレームに固定し、ブレグマに対して0.2mm前方及び3.5mm右側の位置にドリルで直径1mmの頭蓋骨孔を設けた。26ゲージ針を、右大脳基底核に定位的(5.5mm腹側)に挿入し、5μLのコラゲナーゼ(0.05U細菌コラゲナーゼ;IV型、Sigma Chemical Co.)を、微量注入ポンプを使用して1μL/分の速度で点滴した。針を更に5分間、線条体内に保って、コラゲナーゼが頭蓋骨孔内に逆流しないようにした。針を取り出した後、開頭部を骨ろうで密封し、傷を縫合糸で閉じた。
【0117】
TSCを、ICHから3時間後に静脈内注射し、最終総用量を0.091mg/kgとした。使用したTSC処方物は、無菌凍結乾燥TSC注射用製剤であって、無菌注射用水で再構成し、脱イオン水で希釈し、希釈炭酸ナトリウムでpH8.0とした。TSC投与量の容積と同じ容積で与えられた生理食塩水(0.9%)を対照ビヒクルとして使用した。無作為な割り当てを行い、TSC又は食塩水のいずれかを、コラゲナーゼ注射から3時間後に始めて動物に静脈内点滴した。TSCの静脈内用量については、最初にボーラス注射として0.1mL投与し、続いて0.01mL/分の速度で60分間点滴し、点滴の休止から30分後、第2のボーラス注射0.1mLを与えた。手術及び投薬後、ラットを回復させた。対照として食塩水で処置した動物を使用し、同じICH手順を施して、食塩水を(TSCの代わりに)注射した。ICHから48時間後に評価した結果には、血腫容積、注射した線条体内の出血容積を表すヘモグロビン内容物、及び、組織浮腫を含めた。
【0118】
動物を、コラゲナーゼ注入から48時間後に、ハロタン深麻酔下、斬首することによって安楽死させた。脳を解剖し、冠状に切片化した(2mm厚)。メタモフ(Meta Morph)画像解析ソフトウェアを使用して、各切片の出血面積を測定し、各切片の凝血塊面積を合計し、切片の厚さを掛けることによって血腫総容積を算出した。組織浮腫指標は、両方の脳半球について測定を行い、比較することによって、各ラットについて算出した(浮腫指標=(R−L)×100/L、Rは右脳半球容積であり、Lは左脳半球容積である)。出血容積指標は、注射を受けた脳半球のヘモグロビン内容物を測定することによって定量化した。各動物から集めた同側の大脳半球に蒸留水(1mL)を添加し、次いで1分間ホモジナイズし、パルス超音波処理器で2分間氷上で超音波処理し、13000rpmで30分間遠心分離した。ヘモグロビン含有上清を収集した後、800μLのドラブキン(Drabkin)試薬を200μLの一定分量に添加し、暗野で15分間静置させた。この反応によって、ヘモグロビンはシアノメトヘモグロビンに変換され、その濃度は、溶液の光学密度(OD)から550nmの波長で評価することができる。増分した一定分量の血液を、食塩水処置対照群から麻酔後の心臓穿刺によって得た。この血液を、未処置のラットから得た新たにホモジナイズした脳組織に添加して、標準吸光度曲線を作成した。
【0119】
結果
ICH後の血腫容積/大きさ
TSCの血腫容積に対する影響を、雄ラットのICHコラゲナーゼ注射モデルで評価した。図6に、食塩水処理対照ラット及びTSC処置ラットにおいて生成された血腫の例を示す。
【0120】
【化6】

【0121】
更なる評価により、TSCが、ICH後の血腫容積又は大きさに有意に影響を及ぼさないことが実証された。血腫容積を、食塩水処置動物群(n=6)とTSC処置動物群(n=6)との間で比較した。図7に示すように、TSC処置群の血腫の大きさは、対照群と比較して、わずかに、但し統計学的に有意でない程度に、低減した。スチューデントt−検定を使用した群間の統計学的比較では、p>0.05が示され、これは統計学的に有意でなかった(n.s.)。
【0122】
【化7】

【0123】
ICH後の出血容積に対するTSCの効果
TSC処置動物は、ICHの評価後の出血容積の減少を示した。組織ヘモグロビンレベルを、食塩水処置対照動物群(n=6)とTSC処置動物群(n=6)との間で比較した。出血容積は、TSC処置群において、およそ20%減少した。統計学的比較では、図8に示すように、スチューデントt−検定を使用した2群間での有意差(統計学的有意性p<0.05)が示された。
【0124】
【化8】

【0125】
ICH後の組織浮腫に対するTSCの効果
TSCの組織浮腫に対する影響を、ラットのICHモデルで評価した。組織浮腫は、食塩水処置対照動物群(n=6)とTSC処置動物群(n=6)との間で比較した。組織浮腫は、TSC処置群でおよそ45%減少した。統計学的比較では、図9に示すように、スチューデントt−検定を使用した群間での有意差(統計学的有意性p<0.05)が示された。
【0126】
【化9】

【0127】
この出血性脳卒中モデルにおいて、血腫容積又は大きさは、TSC処置群と食塩水処置群との間で差がなかった。このことは、TSCが、ICH後の血腫の大きさに有意に影響を及ぼさないことを実証している。ヘモグロビン内容物で測定される出血容積は、TSC処置の場合、およそ20%減少し、この減少は統計学的に有意(p<0.05)であった。TSC処置では、組織浮腫は、実質的に45%減少し、統計学的に有意(p<0.05)であった。これらの知見は、TSCが、ICH後の神経傷害を悪化させず、有益であり得る、という概念と一致する。
【0128】
このように、TSCは、両方の種類の脳卒中のこれらの動物モデルにおいて有益な効果を示すことから、脳卒中が虚血性のものか出血性(hermorrhagic)のものかを最初に確定することなく脳卒中の患者に与えることができる。
【0129】
参考文献
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2. Lapchak, P.A. and D.M. Araujo, Advances in ischemic stroke treatment: neuroprotective and combination therapies. Expert Opin Emerg Drugs, 2007. 12(1): p. 97−112.
3. Group, N.r.−P.S.S., Tissue plasminogen activator for acute ischemic stroke. The National Institute of Neurological Disorders and Stroke rt−PA Stroke Study Group. N Engl J Med, 1995. 333(24): p. 1581−7.
4. Lapchak, P.A., D.M. Araujo, and J.A. Zivin, Comparison of Tenecteplase with Alteplase on clinical rating scores following small clot embolic strokes in rabbits. Exp Neurol, 2004. 185(1): p. 154−159.
5. Lapchak, P.A., et al., Neuroprotective effects of the spin trap agent disodium−[(tert− butylimino)methyl]benzene−1,3−disulfonate N−oxide (generic NXY−059) in a rabbit small clot embolic stroke model: combination studies with the thrombolytic tissue plasminogen activator. Stroke, 2002. 33(5): p. 1411−5.
6. Lapchak, P.A., et al., Transcranial near−infrared light therapy improves motor function following embolic strokes in rabbits: An extended therapeutic window study using continuous and pulse frequency delivery modes. Neuroscience, 2007. 148(4): p. 907−914.
7. Lapchak, P.A., J. Wei, and J.A. Zivin, Transcranial infrared laser therapy improves clinical rating scores after embolic strokes in rabbits. Stroke, 2004. 35(8): p. 1985−8.
8. Broderick, J.P., et al., Finding the most powerful measures of the effectiveness of tissue plasminogen activator in the NINDS tPA stroke trial. Stroke, 2000. 31(10): p. 2335−41.
9. Clark, W.M., et al., The rtPA (alteplase) 0− to 6−hour acute stroke trial, part A (A0276g) : results of a double−blind, placebo−controlled, multicenter study. Thrombolytic therapy in acute ischemic stroke study investigators. Stroke, 2000. 31(4): p. 811−6.
10. Lapchak, P.A., Memantine, an uncompetitive low affinity NMDA open−channel antagonist improves clinical rating scores in a multiple infarct embolic stroke model in rabbits. Brain Res, 2006. 1088(1): p. 141−7.
11. Lapchak, P.A., The phenylpropanoid micronutrient chlorogenic acid improves clinical rating scores in rabbits following multiple infarct ischemic strokes: synergism with tissue plasminogen activator. Exp Neurol, 2007. 205(2): p. 407−13.
12. Lapchak, P.A., et al., Therapeutic window for nonerythropoietic carbamylated−erythropoietin to improve motor function following multiple infarct ischemic strokes in New Zealand white rabbits. Brain Res: 2008. 1238: p208−14.
【0130】
当業者には、本発明の化合物及び組成物の両方並びに関連する方法に、開示された本発明を逸脱することなく多数の変更及び付加がなされ得ることが、容易に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性脳卒中を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、
ii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項2】
心筋梗塞を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、
ii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項3】
肺塞栓症を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、
ii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項4】
深部静脈血栓症を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、
ii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項5】
虚血性脳卒中であるか出血性脳卒中であるかが不明である脳卒中を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること、
ii)前記脳卒中が虚血性脳卒中であるかを判定すること、及び虚血性脳卒中であると判定された場合に、
iii)血栓溶解薬剤を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項6】
出血性脳卒中を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項7】
脳浮腫を有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項8】
TIAを有する哺乳動物の治療方法であって、
i)拡散増強化合物を前記哺乳動物に投与すること
を含む方法。
【請求項9】
前記拡散増強化合物が双極性トランスカロテノイドである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記拡散増強化合物が双極性トランスカロテノイド塩である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記双極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンと共に処方される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記拡散増強化合物がTSCである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記血栓溶解薬剤が、tPA、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記血栓溶解薬剤がtPAである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記拡散増強化合物が症候の発現から4時間以内に投与され、前記血栓溶解薬剤が症候の発現から12時間以内に投与される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記拡散増強化合物が症候の発現から3時間以内に投与され、前記血栓溶解薬剤が症候の発現から9時間以内に投与される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記拡散増強化合物が脳卒中の症候の発現から4時間以内に投与され、前記血栓溶解薬剤が脳卒中の症候の発現から12時間以内に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
前記拡散増強化合物が脳卒中の症候の発現から3時間以内に投与され、前記血栓溶解薬剤が脳卒中の症候の発現から9時間以内に投与される、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530702(P2012−530702A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516071(P2012−516071)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/001794
【国際公開番号】WO2010/151314
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(504322138)ディフュージョン・ファーマシューティカルズ・エルエルシー (8)
【Fターム(参考)】