説明

拡散接合方法

【課題】従来の剥離材の使用を不要とし、大量生産向きで、拡散接合作業のコストダウンを行うことができる拡散接合方法を提供する。
【解決手段】接合材1を加圧状態で加熱する拡散接合方法において、窒素を含有する接合材1の加圧受面1Mに、アルミニウム含有合金からなる剥離材11を突合せ、この突合せ状態で、剥離材11から加圧受面1Mを加圧する。加熱により接合材から窒素ガスが発生し、この窒素ガスと剥離材11のアルミニウムとにより、剥離材11の加圧受面1Mに突き合わせた面側に、アルミニウム窒化物が形成され、アルミニウム窒化物は脆いため、この箇所で接合材1と剥離材11とを分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムナイトライド界面析出法を利用して加圧側との剥離を可能とした拡散接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散接合は、広く工業製品の組み立て接合に使用され、例えば、複数の接合材を積層して、加圧治具と接合しないように、加圧治具と接合材との間に剥離材を介して接合作業が行われ、このような拡散接合方法を利用して、特にガスや液体の微細な通路を内部に持つマイクロリアクタ,マイクロ熱交換機,燃料電池のセパレータ等の製作を行うことができる。
【0003】
上記のように接合材を加圧する際には、接合しようとする部材同士は接合し、その接合材と加圧治具とは接合しないことが必要であり、このような加圧治具との接合を防止するため、上記剥離材が使用される。
【0004】
そして、従来、剥離材として、セラミックス(アルミナ、AlN、BN)の板を用いたり、セラミックス粒子(アルミナ、AlN、BN)などの粉末を塗布したりすることが一般的である。
【0005】
また、高融点金属は、融点が高いために、接合材と相互拡散が困難なことから、拡散接合し難い。そこで、金属の剥離材として、高融点金属(タングステン、モリブデン)が使用されることもある。
【0006】
このようなことから、拡散接合法で接合材同士を接合する際には、剥離材の選定が非常に重要となっている。
【0007】
現在、剥離材に要求される事項として、セラミックスや高融点金属を用いたものは、価格が高いため、価格が安い材料が望まれている。また、接合材とセラミックスでは、両者に熱伝導などの熱的物性に大きな差があり、その結果、接合材を加熱した際、接合対の温度分布が大きく、接合材を均熱することが困難である。これに対して接合対全体を均一に加熱できるように、接合材と熱的物性の差が少ない剥離材が求められている。さらにまた、剥離材による汚染が少ないものが望ましい。
【0008】
ところで、拡散接合と類似するロー材を用いた接合において、金属製触媒担体の製造方法および金属製触媒担体(例えば特許文献1)には、ハニカム構造体と外周とのクリアランス形成のため、その界面に窒化アルミニウムの皮膜を形成することを特徴とし、そのため、窒化アルミニウム形成温度領域(600℃)で30分以上維持して加熱することが記載されている。
【0009】
しかし、上記特許文献1にはハニカム構造体の組成についての記載がなく、外套材として、SUS430フェライト系ステンレス鋼材との記載のみであり、これを本発明のような拡散接合にそのまま適用することは困難である。
【0010】
ところで、金属材料を大気中で加熱した際の表面に形成される酸化皮膜については、耐酸化性材料の開発の必要性から、広く検討されている。そして、鉄鋼材料の酸化については、ステンレス鋼便覧(日刊工業新聞社,2004年,頁375〜378)に詳細に記載されている。
【0011】
例えば、Fe-Cr合金の酸化について、そのCr濃度が表面に形成される酸化物とその構造を決定する。また、Fe-Al合金の酸化についても、そのアルミニウム濃度が表面に形成される酸化物とその構造を決定することが記載されているが、合金を窒素中で加熱した際の合金の窒化についての記載はない。
【特許文献1】特開2005−81305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の剥離材の使用を不要とすれば、簡便にして、剥離材による汚染を少なくして接合作業が行える。その結果、大量生産向きで、拡散接合作業のコストダウンを行うことができる。
【0013】
そこで、本発明は、従来の剥離材の使用を不要とし、大量生産向きで、拡散接合作業のコストダウンを図ることができる拡散接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、接合材を加圧状態で加熱する拡散接合方法において、窒素を含有する前記接合材の加圧受面に、アルミニウム含有合金からなる剥離材を突合せ、この突合せ状態で、前記剥離材から前記加圧受面を加圧する方法である。
【0015】
また、請求項2の発明は、アルミニウム含有ニッケル合金又はアルミニウム含有鉄合金である方法である。
【0016】
また、請求項3の発明は、前記剥離材がアルミニウムを2質量%以上含有する方法である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の構成によれば、加熱により接合材から窒素ガスが発生し、この窒素ガスと剥離材中のアルミニウムとにより、剥離材の加圧受面に突き合わせた面側に、アルミニウム窒化物が形成され、このアルミニウム窒化物は脆いため、この箇所で接合材と剥離材とを分離することができる。
【0018】
また、請求項2の構成によれば、加熱により、接合材から発生した窒素ガスと、アルミニウム含有ニッケル合金又はアルミニウム含有鉄合金のアルミニウムとにより、アルミニウム窒化物が形成され、接合材と剥離材とを簡単に分離することができる。また、接合材が鉄鋼材料などの場合、この剥離材は接合材との熱的物性の差が少ない。
【0019】
また、請求項3の構成によれば、剥離材のアルミニウムが2質量%未満では、アルミニウム窒化物が形成されないか、ほとんど形成されないため、接合強さが低下せず、これに対して、アルミニウムを2質量%以上含むことにより、接合材と剥離材とを分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる拡散接合方法を採用することにより、従来にない拡散接合方法が得られ、その拡散接合方法を夫々記述する。
【0021】
表面に形成する表面皮膜の種類は、金属材料の組成によって異なる。例えば、鉄鋼材料にアルミニウムを添加した合金では、アルミニウムの添加量の増加に伴って変化する。アルミニウム量が少ないときには、鉄鋼材料中にアルミニウムは固溶し、材料内に均一にアルミニウムは分布している。材料中のアルミニウム量が2質量%以上になると、窒素雰囲気中での加熱でアルミニウムは窒素と反応し易いことから、アルミニウム窒化物が合金表面に形成されることを見出した。このアルミニウム窒化物材料は、拡散接合時、剥離材としてよく使用される。
【0022】
一般的に、鉄鋼材料を拡散接合する際は、真空中で加熱することが多く、鉄鋼材料を、真空中で加熱すると、加熱した材料から、窒素ガスが放出される。
【0023】
鉄鋼材料は主に大気中で溶解され、鉄鋼中に窒素が固溶出来る。従って、鉄鋼材料中の窒素の溶解量は作製時の窒素分圧に依存する。この材料を、溶解時よりも低い窒素分圧中での加熱時に、材料に固溶した窒素が放出される。鉄鋼材料を拡散接合する際には、真空中または不活性ガス中で800℃〜1300℃に加熱する。この温度領域で、材料から窒素が放出される。
【0024】
鉄鋼材料とアルミニウム含有鉄鋼材料とを接触させて、加熱した際、鉄鋼材料から放出された窒素ガスが原因で、鉄鋼材料とアルミニウム含有鉄鋼材料との界面に、アルミニウム窒化物が形成される。アルミニウム窒化物が界面に形成されると、セラミックスで脆いこともあり、その界面の接合強さは極端に低くなる。
【0025】
一方、鉄鋼材料と鉄鋼材料の接合界面に未接合部の空隙が形成されることがある。この空隙には窒素ガスが満たされる。しかし、この窒素ガスは、材料に固溶でき、また、空隙の収縮等の接合過程を阻害しない。
【0026】
真空中で鉄鋼材料を加熱した際、窒素を放出する材料について、鉄鋼材料は窒素を固溶する。その結果、引張試験の際、降伏点を発現する理由として、転位の回りに固溶した窒素原子が集まり、転位の移動を阻害するコットレル雰囲気を形成することが、原因としてよく知られている。
【0027】
降伏現象の発現を阻止するには、鉄鋼材料中に、微量のAl、Tiを添加する。この微量の添加によって、鉄鋼材料中の窒素はAlN、TiN等の化合物として、鉄鋼材料中に存在し、固溶した窒素はなくなる。鉄鋼材料中に、Ti、Alを添加した材料では、真空中加熱した際、その材料から窒素放出はない。
【0028】
発明者は鋭意研究の結果、上記の知見を得て、本発明に至った。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例に使用した材料の組成を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
「実施例1」
上記表1に示したSUS304ステンレス鋼を加熱した場合の放出ガスについて確認を行った。図1に示すように、SUS304ステンレス鋼からなる接合材1は、直径12mmの円柱状のものを用いた。尚、加熱前の接合材1の窒素量は、0.05質量%であった。
【0032】
そして、拡散接合時と同じ真空度(3×10-3Pa)で加熱し、加熱雰囲気中のガスを質量ガス分析器でガス分析することで、残留ガスの組成を知ることができる。放出ガスを測定した結果、接合材1では、放出されるガスの大半は、水蒸気と水素であり、800℃未満までは窒素の量は極微量であったが、800℃を超えてから、窒素ガスが放出され、高温になるほど窒素の放出が多くなることが確認された。また、加熱を停止し、冷却すると同時に、窒素量は減少する。
尚、拡散接合装置を分子ターボポンプで排気することにより、上記真空度(3×10-3Pa)とした。
【0033】
「比較例1」
同様にして、上記表1に示したSUS321ステンレス鋼を加熱した場合の放出ガスについて確認を行った。図1に示すように、SUS321ステンレス鋼からなる比較材2は、直径12mmの円柱状のものを用いた。比較材2を真空加熱し、放出ガスを測定した結果、比較材2では、窒素ガスの放出はなかった。このように、比較材2のような微量のチタン添加鉄鋼材料では、窒素がTiNとして材料中に存在し、材料に固溶した窒素はなく、その結果、真空加熱しても、窒素が放出されない。
【0034】
「実施例2」
[SUS304ステンレス鋼とアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)との接合]
図2に示すように、前記接合材1,1同士及びこれらの間にアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3を挟んで拡散接合する実験を行った。すなわち、この実施例2は、真空中で加熱した際、窒素ガスを放出する上記接合材1を使用した接合実験である。
【0035】
接合材1は上記と同様に直径12mmの円柱状のものを用い、接合面となる側は研磨処理を行った。この研磨処理により、接合面の表面粗さは、最大表面粗さを、2〜4μmとした。尚、後述するアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3の接合面も同様に研磨処理した。
【0036】
【表2】

【0037】
上記の表2において、接合例1は、前記接合材1,1同士の拡散接合を示し、接合例2〜接合例4は、接合材1,1の間に、上記表1に記載のアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3を挟んで拡散接合を行ったものを示す。表2では、接合材1とアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3と接合材1といった組み合わせを「接合対」という。また、アルミニウム含有鉄合金3は、接合材1と直径の等しい円板型のもの(表には「円盤」と記載)を用いた。
【0038】
また、表2に記載したように、接合条件は、真空容器内に接合対を収納し、該真空容器内を真空(3×10-3Pa)に排気した後、高周波誘導加熱法で、1100℃に加熱し、この加熱状態で、接合面に接合圧力10MPaを加え、20分間保持して拡散接合した。
【0039】
上記表2に記載のように、SUS304ステンレス鋼同士の接合である接合例1では、接合強さが600MPaとなり、母材並みの接合強さが得られた。
【0040】
また、アルミニウム含有鉄合金3がFe-1Alである接合例2では、接合例1と同様な接合強さが得られたが、他の接合例3及び接合例4では、接合対を約1mの高さから床に落とすだけで、破断した。この接合破面を電子顕微鏡で観察した結果、接合破面にアルミニウムの窒化物が検出された。尚、アルミニウム含有鉄合金3は、接合例3ではFe-3Al、接合例4ではFe-5Alである。
【0041】
このように接合例3及び接合例4の接合が弱いのは、接合中に、SUS304ステンレス鋼から窒素ガスが放出され、アルミニウム窒化物を形成し、このアルミニウム窒化物が脆いため、その形成個所で破断されるためである。
【0042】
図3及び図4を用いて、前記接合例4における接合破面の状態を説明する。図3は、SUS304ステンレス鋼側の破面を、エネルギー分散型X線分光器付き走査型電子顕微鏡で観察した顕微鏡写真である。この接合破面(SUS304ステンレス鋼側)の走査型電子顕微鏡写真では、右上部の未接合部領域と、左下部の接合部の破断箇所の領域が観察される。未接合部では、ステンレス鋼の結晶粒界が明確に観察された。一方、左下部の破断領域では、複雑な破断形態を示す。これらの領域の2箇所で、エネルギー分散型X線分光器を用いて元素分析を行った結果を図4に示す。
【0043】
図4の未接合部のスペクトル1の結果では、鉄、クロム、ニッケルのピークが観察される。一方、破断箇所での分析結果を示すスペクトル2では、鉄、クロム、ニッケルのピークの他、大きなアルミニウムのピークと窒素のピークが観察される。
【0044】
以上の結果、SUS304ステンレス鋼とFe-5Alの接合部の破断箇所では、多量のアルミニウムと窒素が検出されたことから、AlN化合物が形成されたことが分かる。このAlN化合物は、熱膨張係数が接合材1よりも小さく、また、脆いこともあって、この化合物の形成層で破壊し易く、その破面は、脆弱な様相を示したと考えられる。
【0045】
この実施例2から、拡散接合に用いるアルミニウム含有鉄合金材料がアルミニウムをほぼ2質量%以上含む場合、真空加熱により窒素ガスを放出する材料との接合により、接合界面にアルミニウムの窒化物が生じ、接合箇所が脆くなることが分かった。したがって、本発明では、アルミニウムを2質量%以上含む鉄合金を剥離材11とした。
【0046】
尚、図1に示すように、この例の加圧受面1Mは、アルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3を挟む接合材1の面であり、この接合材1の加圧受面1Mが、アルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3に突き合わされる。
【0047】
「比較例2」
(SUS321ステンレス鋼とアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)との接合)
上記実施例2に対して、前記比較材2を用いた実験を行った。この比較例2は、真空中で加熱した際、窒素ガスを放出しないSUS321ステンレス鋼を使用した際の接合実験である。
【0048】
図5に示すように、比較材2は上記と同様に直径12mmの円柱状のものを用い、接合面となる側は研磨処理を行った。この研磨処理により、接合面の表面粗さは、最大表面粗さを、2〜4μmとした。また、アルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3の接合面も同様に研磨処理し、上記実施例2と同じものを用いた。
【0049】
【表3】

【0050】
上記の表3において、接合例5は、前記比較材2,2同士の拡散接合を示し、接合例6〜接合例8は、比較材2,2の間に、表3に記載のアルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)3を挟んで拡散接合を行った。
【0051】
また、表3の「接合条件」に記載したように、上記実施例2と同一の接合条件により拡散接合を行った。
【0052】
上記表3に記載のように、SUS321ステンレス鋼とSUS321ステンレス鋼の接合である接合例5では、接合強度が600MPaとなり、母材並みの接合強さが得られた。
【0053】
また、アルミニウム含有鉄合金3が、接合例6ではFe-1Al、接合例7ではFe-3Al、接合例8ではFe-5Alであり、これらの接合例6〜接合例8も接合強さに変化はなかった。これは、SUS321ステンレス鋼の材料から接合中での窒素の放出がなく、接合界面でアルミニウム窒化物が形成されないためである。
【0054】
「実施例3」
(SUS304ステンレス鋼とアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)との接合)
図2に示すように、上記接合材1とアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4とを用いた実験を行った。この実施例3は、真空中で加熱した際、窒素ガスを放出する接合材1を使用した接合実験である。
【0055】
上記実施例2と同一構成の接合材1を用い、また、アルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4は、接合材1と直径の等しい円板型のもの(表には「円盤」と記載)を用い、この円板型のアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4の接合面も接合材1と同様に研磨処理した。
【0056】
【表4】

【0057】
上記の表4において、接合例9〜接合例12は、接合材1,1の間に、表4に記載のアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4を挟んで拡散接合を行ったものを示す。
【0058】
また、表4の「接合条件」に記載したように、上記実施例2と同一の接合条件により拡散接合を行った。
【0059】
上記表4に記載のように、アルミニウム含有ニッケル合金4が、接合例9ではNi-0Al、接合例10ではNi-0.7Al、接合例11ではNi-2.4Al、接合例12ではNi-9.7Alである。これらのうち接合例9と接合例10では、接合例1と同一の接合強さが得られ、一方、接合例11と接合例12では、接合対を約1mの高さから床に落とすだけで、破断した。この接合破面を電子顕微鏡で観察した結果、接合破面にアルミニウム窒化物が検出された。
【0060】
この実施例3から、拡散接合に用いるアルミニウム含有ニッケル合金材料がアルミニウムをほぼ2質量%以上含む場合、真空加熱により窒素ガスを放出する材料との接合により、接合界面にアルミニウムの窒化物が生じ、接合箇所が脆くなることが分かった。したがって、本発明では、アルミニウムを2質量%以上含むニッケル合金を剥離材11とした。
【0061】
尚、図1に示すように、この例の加圧受面1Mは、アルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4を挟む接合材1の面であり、この接合材1の加圧受面1Mが、アルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4に突き合わされる。
【0062】
「比較例3」
(SUS321ステンレス鋼とアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)との接合)
図5に示すように、上記比較材2と上記アルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4とを用いた実験を行った。この比較例3は、真空中で加熱した際、窒素ガスを放出しないSUS321ステンレス鋼を使用した際の接合実験である。また、上記比較例2と同一構成の比較材2を用い、また、実施例3と同一構成のアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4を用いた。
【0063】
【表5】

【0064】
上記の表5において、接合例13〜接合例16は、比較材2,2の間に、上記表5に記載のアルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)4を挟んで拡散接合を行ったものを示す。
【0065】
また、表5の「接合条件」に記載したように、上記実施例2と同一の接合条件により拡散接合を行った。
【0066】
上記表5に記載のように、アルミニウム含有ニッケル合金4が、接合例13ではNi-0Al、接合例14ではNi-0.7Al、接合例15ではNi-2.4Al、接合例16ではNi-9.7Alであり、これら接合例13〜接合例16では、接合例5と同様に、母材並みの接合強さが得られた。
【0067】
このように窒素ガスを放出しないSUS321ステンレス鋼を使用した際の接合、アルミニウムの含有量に係らず、アルミニウム窒化物が発生せず、母材並の接合強さを得ることができた。
【0068】
「実施例4」
(実用材料の接合)
実用材料として、上記表1に示したFe-20Cr-3AlとS25Cを用いた。
【0069】
この実施例4において、アルミニウム含有鉄合金3としてFe-20Cr-3Alを用い、前記実施例2と同様に接合実験(接合例17)を行った。すなわち、接合対はSUS304/Fe-20Cr-3Al/SUS304であり、Fe-20Cr-3Alがアルミニウム含有鉄合金3である。
【0070】
【表6】

【0071】
結果は、上記の表6に示すように、アルミニウム含有合金が、アルミニウムの含有量のみに依存し、他の元素(この例ではCr)の影響はないことが分かった。アルミニウムは、材料構成元素の中で最も窒化物を形成し易い元素であり、アルミニウムの成分量のみに依存することになる。
【0072】
次に、下記の表7に示すように、接合対をS25C/Fe-20Cr-3Al/S25Cにして同一の接合実験(接合例18)を行った。このように接合材1たる機械構造用鋼S25C間に、アルミニウム含有鉄合金3である円板型のFe-20Cr-3Alを挟んで接合した。機械構造用鋼S25Cから窒素が放出されるため、接合界面にAlN化合物を形成し、その接合強さは大幅に低下する。尚、アルミニウム含有合金を挿入しない機械構造用鋼S25C同士の拡散接合部の引張強さは、570MPaであった。
【表7】

【0073】
「実施例5」
次に、窒素含有合金からなり拡散接合時に窒素を放出する前記接合材1と、アルミニウムを2質量%以上含むアルミニウム含有合金からなる剥離材11とを用いた拡散接合の例を示す。
【0074】
図6に示すように、前記接合材1と前記剥離材11とは、ほぼ薄板で平板状をなし、接合材1を複数枚(4枚)重ね合わせたものを複数組(3組)形成し、これらの間と両側とに剥離材11を配置した積層体を形成し、この状態で両側の剥離材11を介して加圧し、実施例2と同一条件で拡散接合を行った。この場合、剥離材11と突合せた接合材1の面が加圧受面1Mである。尚、接合材1より剥離材11は面積が大きい。
【0075】
こうすると、加熱により、接合材1から窒素ガスが発生し、この窒素ガスと剥離材11中のアルミニウムとにより、剥離材11の加圧受面1Mに突き合わせた面側に、アルミニウム窒化物が形成され、アルミニウム窒化物は脆いため、この箇所で接合材1と剥離材11とを分離することができ、図6(C)に示すように、4枚の接合材1,1,1,1が拡散接合されたものが3組形成された。
【0076】
次に、本発明に好適な接合材1について考察するに、ステンレス鋼では、高温に加熱するとステンレス鋼中のクロムと炭素が炭化物を形成し、粒界に析出する。その結果、粒界近傍のクロム濃度が低下して、耐食性が低下する。その耐食性の防止策として、クロムと炭素の化合物の形成を阻止するため、クロムより、炭化物形成傾向が強いMo、Nb、Ti、Zr等が添加される。これらの元素は、炭化物形成と同時に窒化物を形成する。
【0077】
そして、各種の鉄鋼材料は、一般的に大気中で溶解、製造される。その結果、鉄鋼材料中には、大気中の窒素分圧に平衡する窒素が固溶している。従って、これらの鉄鋼材料を減圧した雰囲気中で加熱すると、鉄鋼材料から窒素が放出され、ジーベルトの法則に従い、加熱雰囲気の窒素分圧と平衡する固溶度までに減少し、鉄鋼材料中の窒素量は減少する。一方、炭素による降伏現象発現による塑性加工性の低下、腐食性能の低下を抑制するため、Mo、Nb、Ti、Zr等を添加した材料は、本材料を減圧した雰囲気中で加熱しても、これら元素を含む鉄鋼材料は窒素の放出がないか、極端に少なくなる。
【0078】
したがって、クロムより、炭化物形成傾向が強いMo、Nb、Ti、Zr等を添加することにより、窒化物が形成され、真空加熱をしても、窒素を放出しない材料は、本発明の接合材1に用いるには不向きであり、それ以外は本発明に適用することができる。
【0079】
拡散接合は、真空の他、アルゴン等の不活性ガス中でも行われる。大気圧のアルゴン中で鉄鋼材料を加熱した際、アルゴン中の窒素分圧がゼロであることから、アルゴン中加熱においても、鉄鋼材料から窒素ガスが放出される。
【0080】
鉄鋼材料の接合では、窒素ガスは不活性なことから、当然、窒素ガス中での拡散接合も問題ない。
【0081】
本発明での接合雰囲気は、真空に限定するものではなく、アルゴン等の不活性ガス中や、窒素ガス中においても有効である。このような不活性ガスや窒素ガスを用いた雰囲気とすることにより、真空雰囲気と同様にアルミニウム窒化物を形成することができる。
【0082】
従来のアルミナ等のセラミックスを剥離材として使用した時には、接合対に通電できず、接合対への直接通電による加熱は不可能であった。
【0083】
本方法では、剥離材11であるアルミニウム含有鉄合金3やアルミニウム含有ニッケル合金4などが導電性を有する金属であるから、直接通電して拡散接合体を直接加熱でき、拡散接合体をヒータ加熱法よりも効率的に加熱することができる。
【0084】
このように本実施例では、請求項1に対応して、接合材1を加圧状態で加熱する拡散接合方法において、窒素を含有する接合材1の加圧受面1Mに、アルミニウム含有合金からなる剥離材11を突合せ、この突合せ状態で、剥離材11から加圧受面1Mを加圧するから、加熱により接合材1から窒素ガスが発生し、この窒素ガスと剥離材11のアルミニウムとにより、剥離材11の加圧受面1Mに突き合わせた面側に、アルミニウム窒化物が形成され、アルミニウム窒化物は脆いため、この箇所で接合材1と剥離材11とを分離することができる。
【0085】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、剥離材11がアルミニウム含有ニッケル合金4又はアルミニウム含有鉄合金3であるから、加熱により、接合材1から発生した窒素ガスと、アルミニウム含有ニッケル合金又はアルミニウム含有鉄合金のアルミニウムとにより、アルミニウム窒化物が形成され、接合材1と剥離材11とを簡単に分離することができる。また、接合材1が鉄鋼材料などの場合、この剥離材11は接合材1との熱的物性の差が少ないという利点を有する。
【0086】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、剥離材11のアルミニウムが2質量%未満では、アルミニウム窒化物が形成されないか、ほとんど形成されないため、接合強さが低下せず、剥離材11がアルミニウムを2質量%以上含むことにより、接合材1と剥離材11とを分離することができる。
【0087】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、拡散接合における加熱は、拡散接合装置中で、高周波誘導加熱装置を用いて行ったが、これ以外でも、拡散接合では、モリブデン、タングステンヒータを用いたヒータ加熱、それに接合材料に直接電流を通電して、接合部を加熱する方法を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例を示す接合材と円板型のアルミニウム含有鉄合金又はアルミニウム含有ニッケル合金の斜視図である。
【図2】同上、接合対の斜視図である。
【図3】同上、接合破面(SUS304ステンレス鋼側)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】同上、未接合部と破断箇所の分析結果を示すスペクトル分析図である。
【図5】同上、他の接合対の斜視図である。
【図6】同上、接合材を積層した接合対の側面図であり、図6(A)は接合材を重ね合わせる前、図6(B)は拡散接合中、図6(C)は拡散接合後の状態を示す。
【符号の説明】
【0089】
1 接合材
1M 加圧受面
2 比較材
3 アルミニウム含有鉄合金(Fe-XAl)
4 アルミニウム含有ニッケル合金(Ni-XAl)
11 剥離材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合材を加圧状態で加熱する拡散接合方法において、窒素を含有する前記接合材の加圧受面に、アルミニウム含有合金からなる剥離材を突合せ、この突合せ状態で、前記剥離材から前記加圧受面を加圧することを特徴とする拡散接合方法。
【請求項2】
前記剥離材がアルミニウム含有ニッケル合金又はアルミニウム含有鉄合金であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合方法。
【請求項3】
前記剥離材がアルミニウムを2質量%以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の拡散接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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