説明

持続した薬物放出またはムコ粘着のための活性剤およびキトサンを含む製薬組成物

本発明は、生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物であって、前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、FA 0.25〜0.80のキトサンを含むことを特徴とする製薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物のような生理学的活性剤と、組成物からの活性剤の放出を延長させ、または、粘膜に接触して組成物を保持させる放出持続剤またはムコ粘着剤とを含む製薬組成物に関する。具体的には、キトサンを含有する放出持続剤またはムコ粘着剤を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、キチンの完全なまたは部分的な脱アセチル生成物である。
【0003】
キチンは、無脊椎動物の殻および菌類の中に存在する、(C8Hl3NO5)nの式で表わされる天然の窒素性ムコ多糖類である。具体的には、小エビ、カニ、テナガエビおよびロブスターのような甲殼類の殻の主要成分である。さらに、キチンは、ポリN-アセチル-D-グルコサミンである。このように、キチンは、(1→4)で結合する2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコース(GlcNac:A-ユニット)から成る。キチンの物理的構造は規則性が高く、最も豊富な形態は、甲殻類食品産業の廃物として入手可能なα-キチンである。α-キチンにおける鎖は逆平行であり、広範囲にわたって水素結合している。他の形態は、例えば、ヤリイカLoligo属の甲および珪藻類Thalassiosira fluviatilisの棘毛から単離可能なβ-キチンである。β-キチンにおける鎖は平行であり、α-キチンと比較して少ない水素結合である。
【0004】
キチンは、酸性のpH値でさえ水に不溶であり、また、ほとんどの有機溶媒に不溶である。これは、キチンを用いる応用を制限させる。
【0005】
キチンのN-アセチル基は開裂可能であり、キトサンとして知られる生成物を生じる。キトサンは、例えば、製薬および化粧品組成物において、また、充てん剤、吸着剤、キャリアーおよび担体として多くの用途が知られている。
【0006】
キトサンは、様々な相対的存在量および連鎖である、(1→4)で結合するA-ユニットおよび2-アミノ-2-デオキシ-(β-D-グルコース(GlcN:D-ユニット)ユニットから成る水溶性多糖類の一種として知られている。
【0007】
ここで、キチンとキトサンとの間の区別は、希酸溶液へのキチンの不溶性および同希酸溶液へのキトサンの可溶性に基づく(Roberts, G.A.F.," Chitin Chemistry" (1991), 第6-7頁(非特許文献1)参照)。
【0008】
Roberts(上述)の第6頁に記載された完全な水溶性キトサンの定義は、一般的に、D-ユニットの遊離アミノ基がプロトン化されている場合、キトサンは水のみに可溶であるという事実と関連する。そのようなプロトン化は、例えば、酢酸のような調節された量の酸を添加することによって達成可能である。しかしながら、キトサンは、酸の添加なしに水に可溶になるような、異なる塩の形態、すなわち、D-ユニットにおけるプロトン化されたアミノ基および負電荷の対イオン(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、クロライドまたは他の陰イオン)を有する形態として調製することも可能である。そのようなキトサン塩の調製工程は、文献に記載されている(例えば、Draget等, Biomaterials 13:635-638(1992)(非特許文献2)、Varum等,Carbohydrate Polymers28:187-193(1995)(非特許文献3)、および米国特許出願第5,599,916号(特許文献1)参照)。
【0009】
キトサンの特徴づけに用いる1つのパラメーターは、FA、すなわち、DユニットよりもAユニットの単糖ユニットの相対断片(fraction)である。
【0010】
キトサンの構造を説明するために、以下に、様々なAおよびD-ユニット組成を有する3つの異なるキトサンの化学的構造の概略を示す。
DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD
完全にN-脱アセチル化されたキトサン分子の一部である。
(FA=0.00)

DDDADDADDDDDAADDADDDDDADADDDDAADDDDADDDD
部分的にN-アセチル化されたキトサン分子の一部である。
(FA=0.25)

DAAADDADDDDAAAADADDADDADDDDADAAAADDAADAA
部分的にN-アセチル化されたキトサン分子の一部である。
(FA=0.50)
【0011】
親水性およびプロトン化可能なアミノ基を有する1つのモノマー残基と、疎水性アセチル基を有する他のモノマー残基との存在は、前記2つのモノマーの相対量が変更可能な場合、他の分子、細胞ならびにその他の生物学的および非生物学的物質との相互作用と同様に、溶液およびゲルならびに固体状態において、キトサンの物理的性質に影響を与える。しかし、キトサンの商業的な使用は、これまで、アセチル化されたユニットが低い断片であるキトサン試料(FA<0.15)に制限されていた。これは、他のキトサンを大規模に調製する安価な方法が欠如していることや、FAが高いキトサンの機能特性の科学的理解が制限されていることが原因である。
【0012】
キチンからのキトサン生成においては、脱アセチル化に加えて、脱重合も生じ、広範囲のアセチル化度および広範囲の分子量を有するキトサンが生成可能であることに注目すべきである。しかしながら、一般的に、商業的に入手可能なキトサンが有する1つの残された問題は、それが生理的なpH値で不溶なことである。
【0013】
キチンからのキトサン生成は、一般的に、均一系反応または不均一系反応のいずれかで実行される。前記均一系反応において、キチンをアルカリに懸濁し、前記懸濁液を氷で冷却し、溶液中にキチンをもたらす。不均一系反応において、粒子状のキチンを熱アルカリ溶液(一般的に、水酸化ナトリウム)に分散させる。均一系反応の場合、得られるキトサンのFAは、一般的に、0.3〜0.7である。不均一系反応の場合、得られるキトサンのFAは、一般的に、0〜0.15の範囲である。異なる脱アセチル化度のキトサンが必要な場合は、キトサンの再アセチル化を行う必要がある。均一系反応の場合、残存しているN-アセチル基は、一般的に、前記キトサン生成物の重合性主鎖に沿ってランダムに位置する。不均一系反応の場合、不溶キチンのような物質の小さな断片は、前記重合性主鎖に沿ったアセチル基のランダム分布を有する酸溶性断片と共に前記生成物中に最も多く存在している。
【0014】
脱アセチル工程の先行技術の記述は、米国特許出願第4195175号(特許文献2)、Varum等, "Advances in Chitin chemistry"第127-136頁,Ed. C. J. Brine, 1992(非特許文献4)、Ottoy等, Carbohydrate Polymers 29, 17-24 (1996)(非特許文献5)、Sannan等, Macromol. Chem. 176 ,1191-1195 (1975)(非特許文献6)、Sannan等, Macromol. Chem. 177,3589-3600(1976)(非特許文献7)、Kurita等, Chemistry Letters 1597-1598(1989)(非特許文献8)、および、中国特許出願第2101079号(特許文献3)を参照できる。
【0015】
近年、いくつかの応用において、より多くアセチル化されたキトサン断片に関する性能増強が発見された(Smidsrod等, in" Chitin and Chitosan - Chitin and Chitosan in Life Science"第1〜11頁(非特許文献9)、Eds. T. Uragami等, Kodansha Scientific, Japan(2001)(ISDN 4-906464-13-0)(非特許文献10)参照)。重要な点は、中性のpH値における可溶性の向上、リソチームによる制御可能な分解率、疎水性表面(例えば、脂肪粒子および細胞表面)との強い相互作用、それによって得られる脂肪結合特性および凝集の増進、オイル-イン-ウォーター-エマルジョンへの不安定化効果の増進、ならびに、多くの化粧品、機能性食品および生物医学の応用における有用性の増進である。
【0016】
より多くアセチル化されたキトサンは、また、より効果的にバクテリアの細胞に凝集することが近年示された(Strand等. Biomacromolecules,2 ,126- 133 (2001)(非特許文献11)参照)。
【特許文献1】米国特許出願第5,599,916号
【特許文献2】米国特許出願第4195175号
【特許文献3】中国特許出願第2101079号
【非特許文献1】Roberts, G.A.F.," Chitin Chemistry" (1991), 第6-7頁
【非特許文献2】Draget等, Biomaterials 13:635-638(1992)
【非特許文献3】Varum等, Carbohydrate Polymers28:187-193(1995)
【非特許文献4】Varum等, "Advances in Chitin chemistry"第127-136頁,Ed. C. J. Brine, 1992
【非特許文献5】Ottoy等, Carbohydrate Polymers 29, 17-24(1996)
【非特許文献6】Sannan等, Macromol. Chem. 176 ,1191-1195(1975)
【非特許文献7】Sannan等, Macromol. Chem. 177 ,3589-3600(1976)
【非特許文献8】Kurita等, Chemistry Letters 1597-1598(1989)
【非特許文献9】Smidsrod等, in" Chitin and Chitosan - Chitin and Chitosan in Life Science"第1〜11頁
【非特許文献10】Eds. T. Uragami等, Kodansha Scientific, Japan(2001)(ISDN 4-906464-13-0)
【非特許文献11】Strand等, Biomacromolecules,2 ,126-133(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、より多くアセチル化されたキトサンの公知の調製工程は、工業生産にスケールアップするには不適当であるという欠点を有する。
【0018】
このように、例えば、膨潤なしの不均一脱アセチル工程のためには、水溶性キトサンから未反応のキチンを分離するために、生成物を酸で抽出することが必要であり、これは、多くアセチル化されたキトサン生成物の収量の減少に加えて、脱水を伴う。
【0019】
多く脱アセチル化されたキトサンの再アセチル化は、脱アセチル工程に加えて、キトサンの可溶化、無水酢酸やメタノールのような有機化学品の使用、および、最終生成物の単離を伴う。
【0020】
均一脱アセチル工程は、氷の添加によるキチンの可溶化、および、溶液からのキトサンの単離を含む。さらに、非常に高い粘性を有するキチン溶液となることを避けるために、反応媒体において大量のアルカリ水溶液が必要である。このため、この均一脱アセチル工程は、不均一脱アセチル工程の生成物と比較して、より高価な生成物を生じる結果となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
近年、出願人は、キチンの不均一脱アセチル反応が、延長された低温アルカリ性膨潤段階の最初に行われるならば、重合性鎖に沿った残りのN-アセチル基の、よりランダムな分布を伴うキトサン生成物が得られることを発見した。これは、脱アセチル化度を所望の程度に低くまたは高くでき、必要ならば、脱重合度を従来の生成物より低いものとし、また、必要ならば、生理的なpHにおける水溶性を増進させるものである。この新規なキトサン生成工程は、WO 03/011912に開示されており、ここにその開示の全てを引用して組み入れる。
【0022】
この新規な工程を用いれば、所望のFAのキトサンが生成される。具体的には、中性のpHにおいて水溶性であり、比較的高いFA値であるキトサンが生成される。
【0023】
キトサンが、製薬組成物における放出持続剤として用いられていることが知られているにもかかわらず、意外にも、我々は、放出持続効果が使用するキトサンのFAに依存し、高いFAのキトサンが放出期間の延長に有用であることを発見した。従って、1種類以上のFA値である1種類以上のキトサンを適切に選択することで、所望の薬物放出プロファイルを伴う製薬組成物が製造可能となる。
【0024】
また、我々は、キトサンが、粘膜と接触する薬物組成物の保持だけでなく、薬物の前記組成物からの持続した放出に有用なムコ粘着剤として使用可能なことを発見した。
【0025】
従って、ある態様において、本発明は、放出持続剤またはムコ粘着剤が、FA 0.25〜0.80、好ましくは0.30〜0.60、さらに好ましくは0.33〜0.55のキトサンを含むことを特徴とする、生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
さらなる態様において、本発明は、放出持続剤またはムコ粘着剤が異なるFA値である少なくとも2種類のキトサンを含み、少なくとも1種類のキトサンが、好ましくは0.25〜0.80、より好ましくは0.30〜0.60、さらに好ましくは0.33〜0.55の範囲のFA値であることを特徴とする、生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物を提供する。
【0027】
一般的に、本発明の製薬組成物は、例えば、経口または直腸のような、消化管への投与に適切な形態である。代表的な形態は、タブレット、溶錠、カプセル、粉末、ゲル、溶液、分散液、懸濁液およびシロップを含む。好ましくは、タブレット、カプセルおよび溶液である。また、本発明の組成物は、生理学的に許容される担体ならびに添加剤、例えば、香味料、溶媒(特に水)、充てん剤、安定剤、酸化防止剤、pH調節剤、粘性調節剤、甘味料および着色剤等のような従来の処方成分を含んでもよい。前記組成物は、従来の処方技術によって調製してもよい。
【0028】
本発明の組成物の最も好ましい投与経路は経口であるが、代替の投与経路は、鼻、目および粘膜(例えば、腟、舌下等)への投与である。この目的のために、前記組成物は、一般的に、粉末、噴霧剤、溶液、クリーム、軟膏、膣坐剤、懸濁液、分散液およびフィルム等の形態をとってもよい。この方法により(特に鼻に)投与する一般的な薬物は、インシュリン、ホルモン、エンケファリン、ワクチンおよび他のペプチド薬を含んでもよい。
【0029】
さらに、本発明の組成物は、キトサンおよび/または前記生理学的活性剤が、例えば、ナノ粒子、リポソーム、ミセル、逆ミセルまたは細分化(fragmented)した立方もしくは六方相液晶のような、固体または液晶ミクロ-もしくはナノ-構造中に存在するように処方してもよい。さらに、キトサン自体は、生理学的活性剤をカプセル(さらにナノ-またはミクロ粒子中)に包むために使用してもよい。そのようなキトサン(いずれのFA)の使用は、新規であり、本発明のさらなる態様を形成する。
【0030】
しかしながら、本発明の組成物において、前記キトサンおよび前記活性剤は、分子レベルで混合することが特に好ましい。これは、前記活性剤およびキトサンの溶液から溶媒を除去することによって達成してもよい。分子レベルで混合されたキトサンおよび生理学的活性剤を含む組成物は、新規であり、本発明のさらなる態様を形成する。この態様において、本発明は、例えば、前記活性剤およびキトサン溶液から溶媒を除去することで製造される、分子レベルで混合されたキトサンと生理学的活性剤との固体混合物を含む製薬組成物を提供する。そのような組成物において、キトサンは、本発明の他の態様に基づくキトサンまたはキトサン混合物が好ましいが、これには限定されない。
【0031】
本発明の組成物における生理学的活性剤は、所望の薬物化合物または薬物化合物の混合物でもよく、特に、消化管からの吸収に持続した有効性を有する薬物化合物が望ましい。前記生理学的活性剤は、特に好ましくは、比較的低分子量(例えば、500g/molまで)の化合物または7,000g/molまでの分子量を有するタンパク質もしくはペプチドである。具体的には、鎮痛剤、消炎剤、ホルモン、駆虫薬、抗腫瘍剤、降圧剤、反かいよう薬および抗うつ剤であってもよい。また、具体的には、末梢および中枢の神経系に影響する薬物、腎機能に影響する薬物、電解質代謝に影響する薬物、胃腸の機能に影響する薬物、癌の化学療法に使用する薬物、心臓脈管薬、ならびに、血液および血液形成組織に作用する薬物であってもよい。特に好ましい薬物化合物は、例えば、アセチルサリチル酸および他のNSAID(例えば、イブプロフェン)、抗生物質(例えば、ペニシリン)および抗凝血剤(例えば、バファリン)のような酸性の水溶性薬である。本発明の組成物における前記生理学的活性剤の含量は、もちろん、前記活性剤の性質、治療される症状の程度、ならびに、治療を受ける患者の年齢、性別および体重に依存する。しかしながら、一般的に、前記含量は、従来の製剤と比較して、同様の活性剤の含量の10%以内となる。
【0032】
本発明の組成物において使用されるキトサンは、完全に水溶性のキトサンであることが好ましく、投与が経口でない場合、消化管または投与部位のpHにおいて水溶性であるキトサンがより好ましく、pH3〜7、好ましくはpH5〜7、さらに好ましくはpH6〜7で水溶性であるキトサンがさらに好ましい。
【0033】
ここで用いられる「完全に水溶性のキトサン」は、例えば、1% w/vキトサンの1% w/v酢酸溶液として、97重量%以上が完全に希酸溶液に溶解可能なキトサンを意味している。
【0034】
使用されるキトサンは、WO 03/011912で説明された工程を用いて生成されることが好ましい。
【0035】
より好ましくは、異なるFA値であるキトサンの組み合わせが用いられる。例えば、FA値が少なくとも0.1異なる少なくとも2種類のキトサンが好ましく、少なくとも0.2異なるキトサンがより好ましく、少なくとも3種類のそのようなキトサンがさらに好ましい。この形態において、これらのキトサンは、最も豊富に使用されていると考えられるキトサン1重量部に対して、少なくとも0.5重量部を用いることが好ましい。
【0036】
使用されるキトサンのFA値は、0.25より大きいことが好ましい。しかしながら、2種類以上のキトサンを使用する場合、1種類以上のキトサンのFA値は0.25以下、0.2以下(例えば、0.05〜0.19)であってもよい。
【0037】
本発明で使用するキトサンは、例えば、1,000〜5,000,000g/molの非常に広範囲の重量平均分子量(Mw)を有してもよい。しかしながら、好ましいMwは、10,000〜3,000,000g/molであり、特に好ましくは、20,000〜2,000,000g/molである。
【0038】
所望の放出持続効果および/またはムコ粘着効果の達成に十分な量のキトサンが用いられる。これは、一般的に、いずれの溶媒またはケーシングの重量を除いて、前記組成物の5〜98重量%であってよく、20〜90重量%であることが好ましい。薬物に対するキトサンの重量比は、薬物の性質、キトサンのFAおよび分子量、薬物投与形態(すなわち、タブレット、溶液等)、ならびに、所望の薬物放出プロファイルのような要因に依存して広範囲に変更してもよい。特に好ましくは、キトサンは、薬物分子あたり、1グルコサミンユニットから1キトサン分子が供給される。しかしながら、キトサンの薬物に対する重量比は、一般的に、20:1〜0.5:1の範囲であり、10:1〜1:1の範囲が好ましく、5:1〜2:1の範囲が特に好ましい。
【0039】
本発明は、制限されない実施例および添付図面を以下に参照することによって、さらに例示される。
【0040】
図1は、(□)キトサン非含有、(△)キトサン(3%(w/v))含有のアセトアミノフェン(154mM NaCl中10mM、pH 4.5)を含む溶液(10ml)から、154mM NaCl(pH 4.5)を含む1Lのリザーバーへのアセトアミノフェン放出の経過時間のプロットである。
【0041】
図2Aおよび2Bは、(□)キトサン非含有、(△)キトサン(3%(w/v))含有のサリチル酸塩(154mM NaCl中30mM、pH4.5)溶液(10ml)から、154mM NaCl(pH4.5)を含む1Lのリザーバーへのサリチル酸塩放出の経過時間のプロットである。図2Bは、前記薬物放出初期の経過時間を示す。
【実施例1】
【0042】
アセチルサリチル酸を含むカプセル
7.5g アセチルサリチル酸
25g FA0.45のキトサン*
十分量のラクトース
* WO 03/011912に記載の工程により調製
前記成分を混合し、硬質ゼラチンカプセルに充填した。各カプセルは、75mgのアセチルサリチル酸を含み、この薬物組成物の主な効果は、抗凝固性の予防である。
【実施例2】
【0043】
イブプロフェンを含むカプセル
20g イブプロフェン
17g FA0.36のキトサン*
十分量のラクトース
* WO 03/011912に記載の工程により調製
前記成分を混合し、硬質ゼラチンカプセルに充填した。各カプセルは、200mgのイブプロフェンを含み、この組成物は、鎮痛剤として用いられる。
【実施例3】
【0044】
鼻からのデリバリーのためのインシュリン製剤
10mL インシュリンウルトラタード100 IE/ml(ノボ ノルディスク社製)
300mg FA0.46のキトサングルタミン酸塩
キトサングルタミン酸塩(FA0.46)を、従来の方法によってキトサン(FA0.46)(WO 03/011912に記載の工程を用いて調製)およびグルタミン酸から調製した。キトサングルタミン酸塩を、インシュリンウルトラタードで溶解した。インシュリンウルトラタードは結晶質インシュリンの懸濁液である。前記懸濁液を鼻からの配送システムに充填した。
【実施例4】
【0045】
比較研究
WO 03/011912に記載の工程で生成したキトサンを解重合すると同時に、3Mエタノール性HC1を用いてキトサン塩酸塩に変換することによって、この実施例で用いられたキトサンを調製した(FA0.41、[η]=1060ml/g)。過剰のエタノール性キトサンを除去し、前記キトサンを過剰の70%エタノールおよび96%エタノールで洗浄し、最後に乾燥させて、キトサン塩酸塩を得た。固有粘度を、数平均分子量40,000に対応する200ml/gとした(Anthonsen等、1993, Carbohydr. Polym.(1993)22 193-201)。
【0046】
30mMのサリチル酸を蒸留水に溶解し、等モル量の水酸化ナトリウムを添加し、さらに、塩化ナトリウムを最終濃度が154mMとなるように添加した。pHは4.5に調節した。
【0047】
10mMのアセトアミノフェンをpH4.5で154mMのNaClに溶解した。
【0048】
サリチル酸塩またはアセトアミノフェンを含む各溶液を、透析膜(d=14.3mm、10-12kDaをカットオフ)を備えた小さなガラスバイアル(10ml)に添加した。前記ガラスバイアルを、154mMのNaCl(pH4.5)を含む1リットルのリザーバー中に置いた。3.0mlのサンプルを前記リザーバーから定期的に回収し、吸光度を297.0nm(サリチル酸)および243.3nm(アセトアミノフェン)で測定した。各実験は、6回平行して行った。
【0049】
同様の実験を、3(w/v)%のキトサンを添加したアセトアミノフェンおよびサリチル酸塩溶液で行った。
【0050】
中性薬物(アセトアミノフェン)
透析膜を通るアセトアミノフェンの拡散を、キトサンの存在下および不在下で2日間行い、結果を添付図面の図1に示した。中性薬物アセトアミノフェンの放出プロファイルにおけるキトサンの有無による差異は検出されなかった。
【0051】
負電荷薬物(サリチル酸塩)
透析膜を通るサリチル酸塩の拡散をアセトアミノフェンと同様の方法で行い、結果を添付図面の図2に示した。図2のデータと図1とを比較した場合、負電荷薬物放出のキトサンの有無による明確な差異が見られた。
【実施例5】
【0052】
キトサンからのアセチルサリチル酸の放出
アセチルサリチル酸(100mg)およびキトサン(様々なアセチル化度)(250mg)を、pH2のHCl希釈水溶液(10ml)に添加した。前記混合物を80℃で30分間撹拌し、室温まで冷却し、透析管(12-14kDaをカットオフ)へ移し、pH7のトリスバッファー(100ml)に対して透析した。前記透析におけるアセチルサリチル酸の量を、UVによって決定した。
【0053】
キトサン非含有の実験を比較例として行った。
【0054】
前記透析におけるアセチルサリチル酸の量を、最大検出量に対する割合として表1に示す。
【0055】
【表1】

【実施例6】
【0056】
キトサンからのイブプロフェンの放出
イブプロフェン(100mg)およびキトサン(様々なアセチル化度)(250mg)を、pH2のHCl希釈水溶液(10ml)に添加した。前記混合物を80℃で30分間撹拌し、室温まで冷却し、透析管(12-14kDaをカットオフ)へ移し、pH7のトリスバッファー(100ml)に対して透析した。前記透析におけるイブプロフェンの量を、UVによって決定した。
【0057】
前記透析におけるイブプロフェンの量を、最大検出量に対する割合として表2に示す。
【0058】
【表2】

【実施例7】
【0059】
ワルファリン/キトサン塩の調製
0.1M酢酸水溶液(20ml)のキトサン(0.50g、FA=0.40)の懸濁液を、前記キトサンが溶解するまで30分間加熱還流した。酸性の混合物を、1M NaOHを用いて中和した。ワルファリン(0.38g、1.2mmol)を添加し、混合物をさらに1時間還流しながら絶えず撹拌した。反応混合物を真空でエバポレイトし、最後に凍結乾燥させ、前記塩を白色粉末(1.09g)として得た。
【実施例8】
【0060】
アモキシシリン/キトサン塩の調製
0.1M酢酸水溶液(20ml)のキトサン(0.50g、FA=0.40)の懸濁液を、前記キトサンが溶解するまで30分間加熱還流した。酸性の混合物を、1M NaOHを用いて中和した。アモキシシリン(0.52g、1.2mmol)を添加し、混合物をさらに1時間還流しながら絶えず撹拌した。反応混合物を真空でエバポレイトし、最後に凍結乾燥させ、前記塩を緑色/黄色粉末(1.17g)として得た。
【実施例9】
【0061】
アンホテリシンB/キトサン塩の調製
0.1M酢酸水溶液(20ml)のキトサン(0.50g、FA=0.40)の懸濁液を、前記キトサンが溶解するまで30分間加熱還流した。酸性の混合物を、1M NaOHを用いて中和した。アンホテリシンB(0.75g、0.80mmol)を添加し、混合物をさらに1時間還流しながら絶えず撹拌した。反応混合物を真空でエバポレイトし、最後に凍結乾燥させ、前記塩を黄色粉末(1.42g)として得た。
【実施例10】
【0062】
ワルファリン/キトサンからのワルファリン放出
前記ワルファリン/キトサン塩(上記実施例7より)(1.09g)を、pH7.4のバッファー溶液(10ml)へ懸濁させた。透析管をpH7.4(100ml)バッファー溶液へ移す前に、前記懸濁液を撹拌しながら透析管(12-14kDaをカットオフ)へと移した。様々な時間で2mlの透析サンプルを取り出し、UV装置を用いてUV-吸光度を293nmで測定した。比較例として、ワルファリン(0.38g、1.2mmol)をpH7.4のバッファー溶液(10ml)に溶解させ、透析管(12-14kDaをカットオフ)へ移した。様々な時間に2mlの透析サンプルを取り出し、UV装置を用いてUV-吸光度を293nmで測定した。透析におけるワルファリンの量を、最大検出量に対する割合として表3に示す。
【0063】
【表3】

【実施例11】
【0064】
プラバスタチン(Pravastatin)/キトサン塩の調製
プラバスタチンタブレット(ブリストル マイヤーズ スクイブ社製)(それぞれ20mgのプラバスタチンナトリウムを含む40錠のタブレット)をモーターおよび乳棒を用いて粉砕し、粉末混合物を50mLの水へ添加した。前記混合物をpH2の1M HClに滴下し、前記混合物をクロロホルム(3x75mL)で抽出した。集めた有機相を乾燥させ(MgSO4)、濾過を行い、真空でエバポレイトし、プラバスタチンを白色粉末(0.72g)として得た。
【0065】
キトサン(0.50g、FA=0.40)の0.1M酢酸(20ml)懸濁液を、前記キトサン溶解するまで0.5時間加熱還流した。酸性の混合物を、1M NaOHを用いて中和した。プラバスタチン(0.53g、1.2mmol)を添加し、混合物をさらに1時間還流しながら絶えず撹拌した。反応混合物を真空でエバポレイトし、最後に凍結乾燥させ、前記塩を茶色粉末(1.10g)として得た。
【実施例12】
【0066】
ノルフロキサシンの有効性に対するキトサンの効果
ノルフロキサシン(100mg)およびキトサン(FA=0.35、η=1250)(250mg)を、pH2のHCl希釈水溶液(10ml)へ添加した。前記混合物を80℃で2時間撹拌し、室温まで冷却し、pH7のトリスバッファー(100ml)に対して透析した。前記透析におけるノルフロキサシンの量は、UVによって決定した。
【0067】
キトサン非含有の実験を比較例として行った。
【0068】
透析におけるノルフロキサシンの量を、最大検出量に対する割合として示す。結果は表4に示す。
【0069】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、(□)キトサン非含有、(△)キトサン(3%(w/v))含有のアセトアミノフェン(154mM NaCl中10mM、pH 4.5)を含む溶液(10ml)から、154mM NaCl(pH 4.5)を含む1Lのリザーバーへのアセトアミノフェン放出の経過時間のプロットである。
【図2】図2Aおよび2Bは、(□)キトサン非含有、(△)キトサン(3%(w/v))含有のサリチル酸塩(154mM NaCl中30mM、pH4.5)溶液(10ml)から、154mM NaCl(pH4.5)を含む1Lのリザーバーへのサリチル酸塩放出の経過時間のプロットである。図2Bは、前記薬物放出初期の経過時間を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物であって、前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、FA 0.25〜0.80のキトサンを含むことを特徴とする製薬組成物。
【請求項2】
生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物であって、前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、異なるFA値である少なくとも2種類のキトサンを含むことを特徴とする製薬組成物。
【請求項3】
前記キトサンのFA値が、少なくとも0.2異なる請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1種類以上のキトサンが、0.25以下のFA値である請求項1および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
FA 0.25〜0.80のキトサンを含む請求項2および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
FA 0.30〜0.60のキトサンを含む請求項1〜5に記載の組成物。
【請求項7】
FA 0.33〜0.55のキトサンを含む請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、固体または液晶ミクロ-もしくはナノ-構造中に存在する請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、ナノ粒子、リポソーム、ミセル、逆ミセルまたは細分化した(fragmented)立方もしくは六方相液晶中に存在する請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記生理学的活性剤が、500g/molまでの分子量を有する化合物である請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記生理学的活性剤が、7,000g/molまでの分子量を有するタンパク質またはペプチドである請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記生理学的活性剤が、鎮痛剤、消炎剤、ホルモン、駆虫薬、抗腫瘍剤、降圧剤、反かいよう薬、抗うつ剤およびコレステロール減少剤からなる群から選択される請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記生理学的活性剤が、酸性の水溶性薬である請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記生理学的活性剤が、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、抗生物質および抗凝血剤からなる群から選択される請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
pH3〜7で完全に水溶性であるキトサンを含む請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記キトサンが、pH6〜7で完全に水溶性である請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
1,000〜5,000,000g/molの重量平均分子量を有するキトサンを含む請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
10,000〜30,000,000g/molの重量平均分子量を有するキトサンを含む請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
20〜90重量%のキトサンを含む請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
キトサンおよび前記生理学的活性剤を20:1〜0.5:1の重量比で含む請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
分子レベルで混合されたキトサンと生理学的活性剤との固体混合物を含む製薬組成物。
【請求項22】
FA 0.25〜0.80のキトサンを含む請求項21に記載の組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物であって、前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、FA 0.40〜0.80の間のキトサンを含むことを特徴とする製薬組成物。
【請求項2】
生理学的活性剤および放出持続剤またはムコ粘着剤を含む製薬組成物であって、前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、異なるFA値である少なくとも2種類のキトサンを含むことを特徴とする製薬組成物。
【請求項3】
前記キトサンのFA値が、少なくとも0.2異なる請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記1種類以上のキトサンが、0.40以下のFA値である請求項1および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記1種類以上のキトサンが、0.25以下のFA値である請求項1および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
FA 0.25〜0.80のキトサンを含む請求項2および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
FA 0.40〜0.80の間のキトサンを含む請求項2および3のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
FA 0.40〜0.60の間のキトサンを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
FA 0.40〜0.55のキトサンを含む請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、固体または液晶ミクロ-もしくはナノ-構造中に存在する請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記放出持続剤またはムコ粘着剤が、ナノ粒子、リポソーム、ミセル、逆ミセルまたは細分化した(fragmented)立方もしくは六方相液晶中に存在する請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記生理学的活性剤が、500g/molまでの分子量を有する化合物である請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記生理学的活性剤が、7,000g/molまでの分子量を有するタンパク質もしくはペプチドである請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記生理学的活性剤が、鎮痛剤、消炎剤、ホルモン、駆虫薬、抗腫瘍剤、降圧剤、反かいよう薬、抗うつ剤およびコレステロール減少剤からなる群から選択される請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記生理学的活性剤が、酸性の水溶性薬である請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記生理学的活性剤が、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、抗生物質および抗凝血剤からなる群から選択される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
pH3〜7で完全に水溶性であるキトサンを含む請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記キトサンが、pH6〜7で完全に水溶性である請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
1,000〜5,000,000g/molの重量平均分子量を有するキトサンを含む請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
10,000〜30,000,000g/molの重量平均分子量を有するキトサンを含む請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
20〜90重量%のキトサンを含む請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
キトサンおよび前記生理学的活性剤を20:1〜0.5:1の重量比で含む請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
分子レベルで混合されたキトサンと生理学的活性剤との固体混合物を含む製薬組成物。
【請求項24】
FA 0.40〜0.80の間のキトサンを含む請求項23に記載の組成物。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−516988(P2006−516988A)
【公表日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502249(P2006−502249)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000477
【国際公開番号】WO2004/069230
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(504031676)アドバンスド バイオポリマーズ エーエス (2)
【Fターム(参考)】