説明

持続放出性製剤

【課題】副作用が少なく所望の溶解プロフィールを与える塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤を提供すること。
【解決手段】治療上有効量の塩酸ベンラファキシン細粒剤を充填した硬質ゼラチンカプセルからなる持続放出性製剤。ここで、細粒剤は、塩酸ベンラファキシン、微結晶セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有し、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースでコーティングされている。1日1回の投与で所望の溶解プロフィールが得られ、悪心や嘔吐の発生が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸ベンラファキシン(venlafaxine)の持続放出性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、持続放出性の医薬製剤は、ヒドロゲル錠剤技術によって圧縮錠として製造されてきた。これらの徐放性錠剤という医薬製剤を製造するには、有効成分を、メチルセルロース、エチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースエーテルと、必要に応じて他の賦形剤を用いて調合し、得られた混合物を錠剤に圧縮成形することが行われてきた。このような錠剤を経口投与すると、錠剤中のセルロースエーテルが消化系の水分で水和して膨潤し、それによって有効成分が水分と接触することが制限される。セルロースエーテルが水分によって徐々に除去されるにつれて、水がゲルマトリクスにより深く浸透し、有効成分がゆっくり溶解し、ゲルを通じて拡散することによって、体吸収されるようになる。鎮痛薬/抗炎症薬であるエトドラク[ロジン(Lodine)]の徐放性製剤の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
医薬品工業の分野では、錠剤の製造が容易でなければ、持続放出性または徐放性を与える医薬カプセル製剤を調製するのが普通である。この場合、持続放出性カプセル製剤は、例えば、薬物を1種またはそれ以上の結合剤と混合して均一な混合物を形成し、これを水または溶媒(例えば、エタノール)で湿潤させて押出し可能な可塑物を形成し、これから径の小さい(典型的には、1mm)の円筒形の薬物/マトリクスを押出し、適当な長さに切断し、標準的な細粒化装置を用いて細粒剤に成形することによって製造される。これらの細粒剤は、溶解を遅らせるために、乾燥後にフィルムコーティングしてもよい。フィルムコーティングした細粒剤は、所望の治療効果を得るのに必要な量をゼラチンカプセルに充填する。所望の放出速度および血中レベルを得るために、様々な速度で薬物を放出する細粒剤を組み合わせてゼラチンカプセルに充填してもよい。特許文献2には、プロパノロールを微結晶セルロースと混合してなるフィルムコーティング細粒剤を充填した硬質ゼラチンカプセルからなる徐放性医薬組成物が開示されている。ここで、フィルムコーティングは、エチルセルロース、所望によりヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび/または可塑剤からなる。
【特許文献1】米国特許第4,966,768号
【特許文献2】米国特許第4,138,475号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベンラファキシン(すなわち、1−[2−(ジメチルアミノ)−1−(4−メトキシフェニル)エチル]シクロヘキサノール)は、うつ病の治療に用いられる神経薬理学的な手段における重要な薬物である。ベンラファキシンおよびその酸付加塩は、米国特許第4,535,186号に開示されている。塩酸ベンラファキシンは、現在のところ、成人に対して、圧縮錠の形態で、75〜350mg/日の投与量および1日に2〜3回の分割量で投与されている。塩酸ベンラファキシンの錠剤を治療で投与する際には、急速に溶解すると、投与直後に有効成分の血漿レベルが急速に上昇した後、数時間で血漿レベルが減少する。なぜなら、投与してから約12時間後に治療上有効な血漿レベル以下に達するまで、有効成分が除去または代謝されるからである。かくして、さらに薬物を投与する必要性が生じる。毎日複数回投与する方法を用いた場合の最も一般的な副作用は悪心であり、塩酸ベンラファキシンで治療している患者の約45%が経験する。また、約17%の患者は嘔吐を起こす。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、塩酸ベンラファキシンを有効な医薬成分として含有するカプセル剤形態の持続放出性製剤が提供される。この製剤は、一回量で24時間にわたって治療上有効な血清レベルを与える。
【0006】
本発明の塩酸ベンラファキシン製剤を投与することによって、時間に対して平坦な薬物血漿濃度プロフィールが得られ、それによって、毎日多数回投与して得られる場合に比べて、より堅実で治療上有効な血漿レベルの範囲を制御し得る方法が提供される。言い換えれば、本発明は、従来の塩酸ベンラファキシン速放性錠剤を毎日多数回投与することによって生じる血漿薬物レベルの急峻なピークやトラフ(濃度の高い所や低い所)をなくす方法を提供する。本質的には、塩酸ベンラファキシンの血漿レベルは、本発明の持続放出性製剤を投与してから約5〜約8時間(最適には約6時間)は上昇し、次いで、24時間の残りの期間はピーク血漿レベルから延びる実質的に直線的な減少によって低下し、24時間全体にわたって少なくとも薬物の治療上有効な閾値レベルを維持する。これとは対照的に、従来の塩酸ベンラファキシン速放性錠剤は、2〜4時間でピーク血漿レベルを与える。従って、本発明の用途態様によれば、塩酸ベンラファキシンを用いた治療を必要とする患者に、1日1回の塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤を投与することによって、塩酸ベンラファキシンを毎日多数回投与する錠剤の薬物速度論的な利用に伴う複数の血漿レベルピークやトラフを緩和する方法が提供される。
【0007】
本発明の1日1回投与用の塩酸ベンラファキシン製剤を用いると、調節によって、毎日複数回投与に伴う悪心のレベルや嘔吐の発生が減少する。塩酸ベンラファキシンの持続放出性に関する臨床試験において、試験の間に悪心を起こす割合は最初の一週間を過ぎれば大きく減少した。ベンラファキシンの持続放出性は、2回の8週間および1回の12週間にわたる臨床研究において、従来の塩酸ベンラファキシン錠剤に比べて、統計的に有意な向上を示した。かくして、このような本発明の用途態様によれば、塩酸ベンラファキシンを用いた治療を必要とする患者に、塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤を治療上有効量で1日1回投与することからなる、塩酸ベンラファキシンの投与に伴う悪心のレベルや嘔吐の発生を減少させる方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤が得られる。この持続放出性製剤は、1日1回の投与で血漿薬物レベルの急峻なピークやトラフを生じない所望の溶解プロフィールを与えるので、毎日多数回投与する従来の速放性錠剤を用いた場合に生じる悪心や嘔吐などの副作用を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1−[2−(ジメチルアミノ)−1−(4−メトキシフェニル)エチル]シクロヘキサノール塩酸塩は多形である。今日までに単離されて特性決定された形態のうち、形態Iは結晶化による速度論的な生成物であると考えられ、結晶化溶媒中で加熱することによって形態IIに変換することができる。形態IおよびIIは、それらの融点によって区別することはできないが、それらの赤外スペクトルおよびX線回折パターンにいくつかの差異を示す。形態Iまたは形態IIなどの多形体のいずれを本発明の製剤に用いてもよい。
【0010】
本発明の持続放出性製剤は、微結晶セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースと混合した1−[2−(ジメチルアミノ)−1−(4−メトキシフェニル)エチル]シクロヘキサノール塩酸塩からなる。ビーズまたは細粒剤として形成され、薬物を含有する製剤は、完成品について重量/重量(w/w)の基準で、一般的には約2%〜約12%、より好ましくは約5%〜約10%の所望コーティングレベルを与えるように、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物でコーティングされる。なお、最良の結果は約6%〜約8%(w/w)で得られる。より詳しくは、本発明の持続放出性細粒剤は、すべて重量/重量の基準で、約30%〜約40%の塩酸ベンラファキシン、約50%〜約70%の微結晶セルロース,NF(アメリカ国民医薬品集)、約0.25%〜約1%のヒドロキシプロピルメチルセルロース,USP(米国薬局方)および約5%〜約10%のフィルムコーティングからなる。また好ましくは、これら細粒剤は、約35%の塩酸ベンラファキシン、約55%〜約60%の微結晶セルロース,NF[アビセル(Avicel)PH101]、約0.5%のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208,USP[K3、ダウ(Dow)、(2%水溶液の粘度が3cps、メトキシ基の含有量が19%〜24%およびヒドロキシプロポキシ基の含有量が4%〜13%)]および約6%〜約8%のフィルムコーティングからなる。
【0011】
フィルムコーティングは、重量/重量の基準で、80%〜90%のエチルセルロース,NFおよび10%〜20%のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2910,USPからなる。このエチルセルロースは、エトキシ基の含有量が44.0%〜51.0%であり、5%水溶液の粘度が50cpsであることが好ましい。このヒドロキシプロピルメチルセルロースは、メトキシ基の含有量が28.0%〜30.0%で、かつ、ヒドロキシプロポキシ基の含有量が7.0%〜12.0%であり、2%水溶液の粘度が6cpsのUSP2910であることが好ましい。ここで用いられるエチルセルロースは、アクアロン(Aqualon)HG2834である。
【0012】
フィルムコーティングの典型例としては、4.81重量%のエチルセルロースおよび0.85重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムコーティング、4.04重量%のエチルセルロースおよび0.714重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムコーティング、2.48重量%のエチルセルロースおよび0.437重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムコーティングなどが挙げられる。
【0013】
上記名称の特定商品と同一の化学的および物理的な特性を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208および2910USP、ならびに、エチルセルロース,NFの等価物は、発明の概念を変更することなく、製剤中に代用してもよい。
【0014】
本発明の好ましい毎日1回投与用の塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤は、37.3重量%の塩酸ベンラファキシン、62.17重量%の微結晶セルロースおよび0.5重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208を含有し、24時間にわたって所望の放出速度を与える溶解プロフィールを有するコーティング細粒剤を与えるのに充分な量の、15重量%のエチルセルロース・タイプHG2834および85重量%のヒドロキシプロピル−メチルセルロース・タイプ2910からなる混合物でコーティングされた細粒剤からなる。この持続放出性製剤は、例えば、24時間にわたって、150ng/mlまでのより低いピーク血清レベルおよび持続した治療上有効な血漿レベルを与えることができる。
【0015】
塩酸ベンラファキシンを含有する持続放出性製剤が得られたことは、ベンラファキシンの塩酸塩が水に易溶性であることが判明したので、全く予想されなかった。持続放出性錠剤をヒドロゲル技術によって製造する数多くの試みは、圧縮錠が物理的に不安定であり(圧縮性が劣ったり、キャッピングの問題が発生する)、溶解の研究では非常に急速に溶解したので、実を結ばないことが判明した。ヒドロゲルを用いた徐放性製剤として調製された錠剤は、典型的には、2時間で40%〜50%、4時間で60%〜70%および8時間で85%〜100%が溶解した。
【0016】
良好な押出しが可能である適当な造粒用混合物を与える処方を見い出すために、様々な等級の微結晶セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース、様々な割合の塩酸ベンラファキシンおよび充填剤、様々な結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、メチルセルロース、水、および様々な分子量範囲のポリエチレングリコールを用いて、数多くの細粒剤を調製した。押出し工程では、発熱によって押出物が乾燥し、押出した円筒状物を細粒剤に変換するのが困難であった。塩酸ベンラファキシンおよび微結晶セルロースの混合物にヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208を添加することによって、細粒剤の製造が実用化された。
【実施例】
【0017】
以下の実施例は、本発明の持続放出性製剤の製造を例示するものであって、本発明を限定することを意図したものではない。
【0018】
実施例1
塩酸ベンラファキシンの持続放出性カプセル製剤44.8部(遊離塩基は88.4%)の塩酸ベンラファキシン、74.6部の微結晶セルロース,NFおよび0.60部のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208,USPの混合物に、41.0部の水を添加して配合する。この可塑性材料を押出し、細粒化し、乾燥させて、薬物を含有する非コーティング細粒剤を得る。
【0019】
38.25部のエチルセルロース・タイプHG2834,NFおよび6.75部のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2910,USPを、塩化メチレンおよび無水エタノールの1:1(v/v)混合物中で、フィルムコーティング剤の溶液が完成するまで撹拌する。
【0020】
非コーティング細粒剤の流動床に、非コーティング細粒剤1部あたり0.667部のコーティング溶液を添加して、コーティングレベルが3%の持続放出性フィルムコーティング細粒剤を得る。
【0021】
この細粒剤を分級して、粒経が0.85〜1.76mmのコーティング細粒剤を得る。分級したフィルムコーティング細粒剤は、常法によって、硬質ゼラチンカプセルに充填する。
【0022】
実施例2
非コーティング細粒剤1部あたり1.11部のフィルムコーティング溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、コーティングレベルが5%の持続放出性フィルムコーティング細粒剤を得る。
【0023】
実施例3
非コーティング細粒剤1部あたり1.33部のフィルムコーティング溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、コーティングレベルが6%の持続放出性フィルムコーティング細粒剤を得て、これを硬質ゼラチンカプセルに充填して塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤を得る。
【0024】
実施例4
非コーティング細粒剤1部あたり1.55部のフィルムコーティング溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、コーティングレベルが7%の持続放出性フィルムコーティング細粒剤を得て、これを硬質ゼラチンカプセルに充填して塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤を得る。
【0025】
コーティングレベルの許容性に関する試験は、カプセルに充填する前に、完成したコーティング細粒剤の溶解速度を分析することで行う。溶解試験は、USP装置1(バスケット)を用いて、37℃の純水中、100rpmで行う。表1に示した溶解速度によれば、カプセル剤の形態である本発明の持続放出性製剤の薬物成分につき、24時間にわたって治療上有効な血中濃度を与える。なお、コーティング細粒剤の薬物放出速度が遅すぎて、所望の溶解プロフィールに適合しない場合には、非コーティング細粒剤またはコーティングレベルの低い細粒剤を一部添加して充分に混合すれば、血中の薬物レベルを急速に上昇させるための充填物が得られる。逆に、薬物放出速度が速すぎるコーティング細粒剤は、さらにフィルムコーティングを施すことによって、所望の溶解プロフィールが得られる。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すような溶解速度を有するコーティング細粒剤(塩酸ベンラファキシン含有)を、所望の単位用量レベルを与えるのに必要な量で、硬質ゼラチンカプセルに充填する。ここで用いた標準的な単位用量の速放性錠剤は、25mg、37.5mg、50mg、75mgおよび100mgのベンラファキシンに相当する量の塩酸ベンラファキシンを与える。本発明においては、ここで用いた錠剤と同様の量から約150mgまでの塩酸ベンラファキシンを与えるように、コーティング細粒剤をカプセルに充填する。
【0028】
塩酸ベンラファキシン持続放出性カプセル剤の溶解は、米国薬局方(USP)に規定されているように、装置1を用いて、0.9リットルの水中、100rpmで測定する。溶解媒体の濾過試料を、指定された時間に採取する。透明な溶液の吸光度を溶解媒体に対して240〜450nmで測定する。ベースラインは、450nmから400nmまで描いて、240nmまで延長する。最大吸光度の波長(約274nm)における吸光度は、このベースラインに関して測定する。6個の硬質ゼラチンカプセルに、理論量の塩酸ベンラファキシン細粒剤を充填し、溶解度を測定する。標準試料は、塩酸ベンラファキシンの標準溶液と、ゼラチンカプセル補正溶液とからなる。ベンラファキシンの放出率(%)は、次式から求める。
【0029】
【数1】

【0030】
ここで、Asは試料製剤の吸光度、Wrは参照標準の重量(mg)、Sは参照標準の強度(小数値)、V1は製剤を溶解するのに用いる溶解媒体の容量(ml)、0.884は遊離塩基の割合、Arは標準製剤の吸光度、V2は参照標準溶液の容量(ml)、およびCはカプセルクレーム(capsule claim)(mg)である。
【0031】
表2は、ヒト男性被験者に対して、従来の速放性錠剤(75mg/個)を12時間毎に1個ずつ、持続放出性カプセル剤(75mg/個)を24時間毎に2個ずつ、および持続放出性カプセル剤(150mg/個)を24時間毎に1個ずつ投与した場合におけるベンラファキシンの血漿レベル(ng/ml)の時間的変化を示す。被験者は、すでに投与プロトコルに従って塩酸ベンラファキシンを服用しており、それゆえ、投与を開始する時間0におけるベンラファキシンの血漿レベルは0ではない。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、2個の塩酸ベンラファキシン持続放出性カプセル剤(75mg/個)および1個の塩酸ベンラファキシン持続放出性カプセル剤(150mg/個)は、非常に類似した血漿レベルを与えた。また、いずれの持続放出性カプセル剤についても、24時間後の血漿レベルが、塩酸ベンラファキシン速放性錠剤(75mg/個)を12時間毎に2個ずつ投与した場合における24時間後の血漿レベルと非常に類似していることがわかる。
【0034】
さらに、持続放出性カプセル剤を用いて得られるベンラファキシンの血漿レベルは、従来の速放性錠剤を12時間毎に投与して得られるピークレベルまで上昇していない。塩酸ベンラファキシン速放性錠剤を用いて現在治療中の患者に持続放出性カプセル剤を上記の特定量で投与した場合、ベンラファキシンの血漿レベルは、約6時間±2時間でピーク(150ng/mlより若干低い)に達する。速放性錠剤を投与した場合、ベンラファキシンの血漿レベルは、2時間でピーク(200ng/mlより若干高い)に達し、その後は急速に低下する。
【0035】
表3は、初期血漿レベルが0であるヒト男性被験者におけるベンラファキシンの血漿レベル(ng/ml)を示す。やはり、塩酸ベンラファキシン持続放出性カプセル剤を上記の特定量で投与した場合、ベンラファキシンの血漿レベルは、約6時間でピークに達する。速放性錠剤(50mg/個)を1個投与した場合、ベンラファキシンの血漿レベルは、約4時間でピークに達する。なお、比較のために述べると、従来の速放性錠剤(50mg/個)を投与した場合におけるベンラファキシンの血漿レベルは、従来の速放性錠剤(150mg/個)を投与した場合に予想される血漿レベルの約3分の1である。
【0036】
【表3】

【0037】
ベンラファキシンの血漿レベルは、以下の方法で測定した。ヘパリン処理した採血管に被験者の血液試料を採取し、これらの採血管を数回静かに反転させた。できるだけ迅速に、これらの採血管を2500rpmで15分間遠心した。血漿をピッペットでプラスチックチューブに入れ、分析が終了するまで−20℃で保存した。
【0038】
プラスチックチューブ中における1mlの各血漿試料に、150μlの保存内部標準溶液(150μg/ml)を添加した。飽和ホウ酸ナトリウム溶液(0.2ml)を各チューブに添加し、ボルテックスミキサーにかけた。5mlのエチルエーテルを各チューブに添加した後、蓋をして、高速度で10分間振盪した。これらのチューブを3000rpmで5分間遠心した。水層をドライアイスで凍結させ、有機層を透明なネジ蓋のチューブに移した。0.3mlの0.01NHCl溶液を各チューブに添加し、高速度で10分間振盪した。水層を凍結させ、有機層を除去して捨てた。50μlの移動層(アセトニトリル:0.1M一塩基性リン酸アンモニウム緩衝液(pH4.4)=23:77)を各チューブに添加し、ボルテックスミキサーにかけ、50μlの試料を、ウォーターズ・ラムダ・マックス(Waters Lambda Max)481検出器(229nm)またはその同等品を装備した高速液体クロマトグラフィー装置のスペルコ・スペルコイル(Supelco Supelcoil)LC−8−DB、5cm×4.6mm、5μカラムに注入した。様々な濃度の塩酸ベンラファキシンの溶液を標準として用いた。
【0039】
こうして、ヒドロゲル錠剤技術では達成することができない塩酸ベンラファキシンの徐放性製剤による所望の溶解速度は、フィルムコーティング細粒剤を含有するカプセル製剤の形態である本発明の持続放出性製剤によって達成された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤が得られる。この持続放出性製剤は、1日1回の投与で血漿薬物レベルの急峻なピークやトラフを生じない所望の溶解プロフィールを与えるので、毎日多数回投与する従来の速放性錠剤を用いた場合に生じる悪心や嘔吐などの副作用を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸ベンラファキシン、微結晶セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有し、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースでコーティングされた治療上有効量の細粒剤を充填した硬質ゼラチンカプセルからなることを特徴とする、塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤。
【請求項2】
細粒剤が、37.3重量%の塩酸ベンラファキシン、0.5重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208および62.17重量%の微結晶セルロースを含む、請求項1記載の持続放出性製剤。
【請求項3】
フィルムコーティングがエチルセルロース(全重量の4.81%)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(全重量の0.85%)からなる請求項1記載の持続放出性製剤。
【請求項4】
フィルムコーティングがエチルセルロース(全重量の4.04%)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(全重量の0.714%)からなる請求項1記載の持続放出性製剤。
【請求項5】
フィルムコーティングがエチルセルロース(全重量の2.48%)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(全重量の0.437%)からなる請求項1記載の持続放出性製剤。
【請求項6】
37.3重量%の塩酸ベンラファキシン、62.17重量%の微結晶セルロースおよび0.5重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース・タイプ2208を含有し、24時間にわたって所望の放出速度を与える溶解プロフィールを有するコーティング細粒剤を与えるのに充分な量の、85重量%のエチルセルロース・タイプHG2834および15重量%のヒドロキシプロピル−メチルセルロース・タイプ2910からなる混合物でコーティングされた細粒剤からなる毎日1回投与用の塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤。
【請求項7】
24時間にわたって、150ng/mlまでのより低いピーク血清レベルおよび持続した治療上有効な血漿レベルを与える請求項6記載の塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤。
【請求項8】
24時間にわたってベンラファキシンの治療上有効な血漿濃度を与え、4〜8時間でベンラファキシンのピーク血漿レベルを与えるための医薬として用いるための塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤。
【請求項9】
4〜8時間でベンラファキシンのピーク血漿レベルを与え、毎日の複数回投与による治療上の代謝に伴う患者の血漿中の薬剤濃度のトラフおよびピークを除くための塩酸ベンラファキシンの持続放出性製剤。
【請求項10】
150ng/ml未満のベンラファキシンのピーク血漿レベルを与える、請求項8または請求項9記載の持続放出性製剤。
【請求項11】
塩酸ベンラファキシン、微結晶セルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースでコーティングされた細粒剤である、請求項8〜10いずれか1項記載の持続放出性製剤。
【請求項12】
塩酸ベンラファキシン含有量が30重量%〜40重量%であり、微結晶セルロース含有量が50重量%〜70重量%であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース含有量が0.25重量%〜1重量%である、請求項11記載の持続放出性製剤。
【請求項13】
コーティング剤が、80重量%〜90重量%のエチルセルロースおよび10重量%〜20重量%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するフィルムコーティング剤であり、該コーティング剤が製剤の全重量の2%〜12%である、請求項11または請求項12記載の持続放出性製剤。

【公開番号】特開2008−156374(P2008−156374A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64149(P2008−64149)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【分割の表示】特願平9−60781の分割
【原出願日】平成9年3月14日(1997.3.14)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】