説明

指向性の有機発光ダイオードのための方法および装置

【課題】本発明の課題は、改善された放射出力、抽出効率および指向性を有する有機発光ダイオードを提供することである。
【解決手段】複数の有機層114、115、116を挟んでいる第1の金属電極110および第2の金属電極120を備えている有機発光ダイオードであって、高導電性の第2の金属電極が、これを貫通する孔125の格子を備えている。孔125は、SiO、SiNまたは空気で充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオードのための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)の抽出効率を向上させることによって、LEDの全体の効率が向上する。また、LEDの指向性を向上させることによって、プロジェクタのような特定の用途におけるLEDの利用価値がより高まる。いくつかの異なる構成が、GaAsおよびGaN LEDに関して考察されている(例えば非特許文献1〜3参照)。
【0003】
有機発光ダイオード(OLED)の分野での抽出効率の改善についても議論されており(例えば、非特許文献4参照)、その議論の内容は、参照により本出願に組み込まれている。
【非特許文献1】J. K. Hwangら、Phys. Rev. B60, 4688頁
【非特許文献2】Y. Xuら、J. Opt. Soc. Am. B16 465(1999)
【非特許文献3】R. K. Leeら、J. Opt. Soc. Am B17 1438(1999)
【非特許文献4】P. A. Hobsonら、Advanced Materials, 14, 19, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、改善された放射出力、抽出効率および指向性を有する有機発光ダイオードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、有機物の層を挟んだ2つの金属電極を使用していて、そのうちの一方が金属電極が陰極として、もう一方の金属電極が陽極として働くOLEDを提供することによって、有機発光ダイオード(OLED)の全放射出力、抽出効率および指向性を改善することができる。光は、上記2つの金属電極のうちの一方の、適切に孔が設けられている電極を通ってアウトカプリングし、これにより、高い指向性が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1に、本発明による有機発光ダイオード(OLED)の断面図を示す。金属電極110および120は、高導電性の金属からなっている。金属電極110または120のいずれかが陽極であって、もう一方が陰極であることを留意されたい。通常陰極として働く金属電極は低い仕事関数を有していて、電子注入のための低いエネルギーバリアを提供し、その一方で、通常陽極として働く金属電極は高い仕事関数を有していて、ホール注入のための低いエネルギーバリアを提供する。
【0007】
金属電極110および120によって、有機層115、116および114を挟んでいる。有機層115、116および114は通常、約1.75の平均屈折率を有していて、低分子または高分子(ポリマー)をベースとすることができる。金属電極120が陽極である場合には、層115は通常、例えばジアミンからなる薄い輸送層(HTL)であり、層116は通常、陰極である金属電極110に隣接する有機電子輸送層(ETL)である。金属電極120が陰極である場合には、層115は通常、有機電子輸送層(ETL)であり、層116は通常、例えばジアミンからなる薄いホール輸送層(HTL)である。層114は発光層である。本発明によれば、金属電極120は、孔125を有するパターン化された表面であり、格子、例えば図2の上面図に示す三角格子225を形成している。孔125は、空気、SiO、SiNもしくは別の適切な光学的に透明な誘電体材料で充填されていてよいことを留意されたい。孔125を形成するために、当業者に公知の様々な方法を使用することができる。本発明によれば、孔は、例えば円形、楕円形、三角形または六角形の断面を有していてよい。本発明によれば、別の多角形の断面も使用することができる。
【0008】
図3に、本発明による一態様の全放射出力(TRP)を示す。ここに示すTRPは、その態様についてのTRPの比であり、金属電極を有していない極めて長い均一な有機材料における双極子のTRPで除算したものである。TRPは、通常、OLEDをモデル化するために使用される、有限差分時間領域法を用いて計算することができる。これについては、J. K. HwangらによるPhysical Review B、60、4688、1999またはH.Y. RyuらによるJounal of the Optical society of Korea、6、59、2002を参照されたい。これらの文献における開示内容は、参照により本出願に組み込まれる。計算のために、発光層114を、2000の平面双極子を有する平面としてかつこれらの双極子が平面上でランダムな配向を有しているものとして近似する。平面双極子は異なる相で励起され、これにより、任意の場所および配向共振を低減する。金属電極110および120を、計算のために、損失のない完全導電体とみなす。この態様では、格子定数をaとし、有機層115、114および116の全厚tは約0.8125a、孔125の半径は約0.36a、双極子の平面と電極110との距離tは約0.5aである。
【0009】
図3の曲線310は、a/λ[λは自由空間波長]が0.326の時に、TRPがほぼ8倍に増大していることを示している。OLEDの内部量子効率が改善されている。金属電極110および120がミラーとして機能するので、双極子の平面が、電極110および120の中間に位置している場合に、TRPの最大値が得られる。電極110は、本質的に完全なミラーとして機能し、電極120は、孔125があることにより不完全なミラーとして機能する。電界の最大値は通常、金属電極110および120の中央点もしくは中央点付近に位置している。
【0010】
図4の曲線410は、本発明による一態様の、全放射出力に対する半角30度の円錐内に放射する出力の比を示す。比の最大値は、a/λが約0.313の時に53%で得られ、a/λが高くなると比は急速に低下する。a/λの値は、全厚tを有する有機層114、115および116において、2つの金属電極110および120の間に存在しうる最低次のモードとして予測不能ではなく、金属電極110および120において波動関数がゼロとなる境界条件が必要とされる場合には、λ/2波長モード(半波長モード)である。λは有機層内での光学波長である。したがって、λ/2=λ/2n=tである[nは、有機層114、115および116の平均屈折率]。t=αa[aは格子定数]とすれば、a/λ=1/2nα=0.35となり、これは、図3および図4に示されている結果におおよそ相当する。
【0011】
図5aに、本発明による一態様の、a/λが約0.313で励起された単一水平双極子の放射パターン(指向特性)510を示す。放射パターン510は高指向性であり、放射出力は、前方の90度の方向から±約17度内で中央から半分に低下している。本出願では、「高指向性の」という言葉は、出力の少なくとも40%が、半角約30度の円錐内に放射している本発明の態様を指す。図5Bは、光が高導電性の金属電極を介してアウトカプリングされない場合の、a/λが約0.313で励起された単一水平双極子の放射パターンを示す。光は、半角約60度の円錐内に放射されている。
【0012】
図6に、金属電極110から隔置された双極子の平面についての、層115、114および116を合わせた厚みに対するt/aの様々な値に対応する、a/λの関数としての全放射出力を示す。金属電極120の孔125の半径は、r=約0.36a[aは格子定数]である。全放射出力に対する曲線610、620、630および640はそれぞれ、t/aが0.5、0.25、0.688および0.125である場合に相当している。TRPの最大値は、曲線610、620、630および640において、a/λが約0.313の時に得られる。0.375、0.438および0.5のt/a値に対するTRPの差は約5%より小さく、TRPはこれら3つの値に対して約8.3となっている。したがって、発光層114は通常、上述のように、金属電極110と金属電極120との間の中間に配置されている。
【0013】
図7に、金属電極120に設けらかつ空気で充填された孔125の三角格子の、a/λの関数としてのTRPを、図3とは別のパラメータを用いて示す。孔125の半径は、曲線710、720、730および740に対してそれぞれ、0.24a、0.3a、0.36aおよび0.42aとなっている。孔125の半径が増加するにつれ、TRPのピークは、a/λの値が低い方へと移動することが明らかである。図8に、図7の構成における半角30度の円錐内への放射の抽出比を示す。曲線810、820、830および840はそれぞれ、孔125の半径0.24a、0.3a、0.36aおよび0.42aに対応している。
【0014】
図9に、金属電極120に設けられた空気で充填された孔125の正方格子のTRPを示す。曲線910は、孔125が約0.4aの半径rを有する円である場合に、曲線920は、孔125が約0.5aの辺を有する正方形の孔125である場合に対応している。図10に、図9の構成を有する正方格子についての半角30度の円錐内への抽出比を示す。曲線1010は、約0.4aの半径rを有する円形孔125に対応しており、曲線1020は、約0.5aの辺を有する正方形の孔125に対応している。曲線1010で示す円形の孔125を有する正方格子の抽出比は、r/aが約0.36、0.42である円形の孔125を有する三角格子の抽出比に類似している。曲線830、840および1010のピークは、比較的広く、通常重要な要素の1つである大きな製造可能性(製造し易さ)を示している。曲線1020で示す正方形の孔125を有する正方格子の抽出比は、図8の曲線820で示すr/aが約0.3である円形の孔を有する三角格子の抽出比と類似している。曲線1020および820はいずれも比較的狭いピークを示し、このような狭いピークがある場合は通常、厳しい製造許容誤差が要求されるので製造がより困難となる。図9の、正方形の孔125を用いた場合の曲線920のTRPは約10であり、これは、図7に示した曲線710、720、730および740で表される構成に相当するTRPと比較して約15%以上改善されたものである。
【0015】
本発明を、特定の実施態様と関連づけて説明したが、その説明に鑑みて、多くの代替、変更および変化が可能であることは当業者には明らかである。つまり、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその思想の範囲内にあるそのような全ての代替、変更および変化を包含することを意図している。
【0016】
以下に、本願の特に好ましい実施態様を示す。
1.複数の有機層と、
前記複数の有機層を挟んでいる、適切にパターン化された表面を有している高導電性の第1および第2の金属電極とを備えている有機発光ダイオードであって、
高導電性の前記第2の電極が、該高導電性の第2の電極を貫通する孔の格子を有する適切にパターン化された表面を有しており、これにより、前記有機発光ダイオードが、高指向性の放射パターンで発光するように動作可能となっている、有機発光ダイオード。
2.前記孔の格子が、孔の三角格子である、上項1に記載の装置。
3.前記孔の格子が、孔の正方格子である、上項1に記載の装置。
4.前記孔の格子の孔が、正方形の断面を有している、上項1に記載の装置。
5.前記孔の格子の孔が、円形の断面を有している、上項1に記載の装置。
6.前記高の格子のの孔が、SiO、SiNおよび空気から選択される材料で充填されている、上項1に記載の装置。
7.前記高導電性の第2の電極が陰極である、上項1に記載の装置。
8.前記複数の有機層の1つが発光層である、上項1に記載の装置。
9.前記複数の有機層が、ジアミンからなっている、上項1に記載の装置。
10.前記複数の有機層が、ポリマーをベースとしている、上項1に記載の装置。
11.有機発光ダイオードのための方法であって、
複数の有機層を設け、
該複数の有機層を挟む、第1および第2の高導電性の金属電極を設け、
前記第2の高導電性の金属電極が、該第2の高導電性の電極を貫通する高の格子を備えている適切にパターン化された表面を有しており、これにより、前記有機発光ダイオードが、高指向性の放射パターンで発光するように動作可能となっている、方法。
12.前記孔の格子が、孔の三角格子である、上項11に記載の方法。
13.前記孔の格子が、孔の正方格子である、上項11に記載の方法。
14.前記孔の格子が、正方形の断面を有している、上項11に記載の方法。
15.前記孔の格子が、円形の断面を有している、上項11に記載の方法。
16.前記孔の格子が、SiO、SiNおよび空気から選択される材料で充填されている、上項1に記載の方法。
17.前記第2の高導電性の電極が陰極である、上項11に記載の方法。
18.前記複数の有機層の1つが発光層である、上項11に記載の方法。
19.前記複数の有機層の1つがジアミンからなっている、上項11に記載の方法。
20.前記複数の有機層の1つがポリマーをベースとしている、上項11に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による一態様の有機発光ダイオードを示す図である。
【図2】本発明によるパターン化された電極を示す図である。
【図3】本発明による一態様の全放射出力とa/λとの関係を示す図である。
【図4】本発明による一態様の抽出比とa/λとの関係を示す図である。
【図5A】本発明による単一水平双極子の放射パターンである。
【図5B】高導電性の金属電極を通して光がアウトカプリングされる、従来の単一水平双極子の放射パターンである。
【図6】本発明による実施態様の全放射出力とa/λとn関係を示す図である。
【図7】本発明による実施態様の全放射出力とa/λとの関係を示す図である。
【図8】本発明による実施態様の抽出比とa/λとの関係を示す図である。
【図9】本発明による実施態様の全放射出力とa/λとの関係を示す図である。
【図10】本発明による実施態様の抽出比とa/λとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
100 有機発光ダイオード
110、120 金属電極
114、115、116 有機層
125 孔
225 格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有機層(114、115、116)と、
前記複数の有機層(114、115、116)を挟んでいる第1の金属電極(110)および第2の金属電極(120)とを備えている有機発光ダイオード(100)であって、
高導電性の前記第2の金属電極(120)が、該高導電性の第2の電極(120)を貫通する孔(125)の格子を有している適切にパターン化された表面を有しており、これにより、前記有機発光ダイオード(100)が、高指向性の放射パターンで発光するように動作可能となっている、有機発光ダイオード(100)。
【請求項2】
前記孔(125)の格子が、孔の三角格子(225)である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記孔(125)の格子が、孔の正方格子である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記孔(125)の格子の孔が、正方形の断面を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記孔(125)の格子の孔が、円形の断面を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記孔(125)の格子のの孔(125)が、SiO、SiNおよび空気から選択される材料で充填されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記高導電性の第2の電極(120)が陰極である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の有機層(114、115、116)の1つ(例えば114)が発光層である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記複数の有機層(114、115、116)がジアミンからなっている、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の有機層(114、115、116)がポリマーをベースとしている、請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−294617(P2006−294617A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107183(P2006−107183)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(506076606)アバゴ・テクノロジーズ・ジェネラル・アイピー(シンガポール)プライベート・リミテッド (129)
【Fターム(参考)】