説明

指向性を持つ表面弾性波液体噴霧装置

【課題】表面弾性波を用いた液体噴霧装置において、噴霧の指向性を向上させる。
【解決手段】表面弾性波を用いた液体の霧化は、装置の小型化、省エネルギー化が可能であるという特徴を有するが、発生する霧は無指向性で、大きく散乱して霧化される。本発明では、対向型の表面弾性波素子間に溝を作製し、対向する表面弾性波を分離することで、発生する噴霧流の幅を大幅に削減し、指向性を持たせることに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴微粒化噴霧装置、特に、表面弾性波素子を用いた噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を細かい粒子状にして噴霧する装置には、圧力エネルギーを用いてノズルから噴霧する装置、圧電素子を振動させて超音波の作用により噴霧する装置、などが知られている。
【0003】
その中で、圧電体上に櫛歯電極を配し、高周波電圧を作用させて表面弾性波を駆動して、液体に超音波を作用させて噴霧する装置が開発されており、他のものに比較して、小型で省エネルギー、かつ半導体プロセスを使用して作製することで低コスト化も期待される。(たとえば非特許文献1)
【0004】
従来の表面弾性波を用いた噴霧器は、均一な霧を多量に発生させることを目的としており、霧を安定的に連続供給できるように液体保持機構を備えるものが報告されている。例えば、特許文献1は圧電基板上に多孔質の保水材を配した噴霧器が記載されている。また特許文献2では基板上に配した穴に液体を保持した噴霧器が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、対向型の櫛歯電極を用いることで、対向して伝播する表面弾性波の作用により、特別な保持機構を有すること無く電極間の中心部分に液体を保持出来ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献1】特開2011−121050
【特許文献2】特開平7−116574
【特許文献3】特許公開2008−238058
【非特許文献1】Qi et.al.,Physics of Fluids,Vol.20,074103(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの場合も発生する霧は液体保持部から大きく散乱して発生し、発生する霧の方向を制御する機能は有しない。
【0007】
本発明は、簡単な構造で、従来の表面弾性波噴霧器では大きく散乱する噴霧流を、一方向に収束して発生させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
対向型の櫛歯電極は、対向する表面弾性波を駆動し、中央に配された液滴に作用して、液滴内に漏洩表面弾性波による音響流を発生させ、その音響流が充分に大きいと液滴表面から微粒化された液体が噴霧される。
【0009】
漏洩表面弾性波が駆動する音響流は、基板表面鉛直方向から表面弾性波の進行方向に傾きを持ち、その角度は表面弾性波の伝播速度と液体中の音速により決まり、レイリー角とよばれる(図2参照)。例えば、128度回転Y板X伝搬ニオブ酸リチウム基板と水の組み合わせでは、レイリー角は約22度である。
【0010】
液体に対して表面弾性波を一方向から入射させた場合、液体内に発生する音響流はレイリー角の方向に沿って発生するため、噴霧される霧もこの方向を中心として発生する。すなわち、表面弾性波進行方向と同方向の指向性を少なからず持つ。
【0011】
[0006]で言及したような、対向型の櫛歯電極を用いた場合でも、電極間の液体には対向するレイリー角をもつ音響流が生ずるため、発生する噴霧流は図2(a)に示すように大きく散乱する。
【0012】
請求項1の発明は、対向する櫛歯電極の間に、表面弾性波の伝播を阻害する不連続面を配して、対向する音響流をそれぞれ独立に液滴に作用させて、発生する噴霧流に指向性を持たせるものである。
【0013】
請求項2の発明は、対向する櫛歯電極の間に溝を設けることで、対向する表面弾性波の伝播を阻害し、図2(b)に示すように溝の両側にそれぞれ独立し液滴中心上方に向けたベクトルを持つ音響流のみを発生させ、発生する噴霧流を液滴中心鉛直方向に収束させるものである。
【0014】
請求項3の発明は、対向する櫛歯電極に印可する電圧を制御することで、得られる噴霧流に指向性を持たせるものである。例えば、図2(b)において、右側の櫛歯電極に印可する電圧を左の櫛歯電極より強くすると、液滴内に生成される音響流の合成ベクトルは液滴中心鉛直方向より左に傾くので、発生する噴霧流も鉛直より左方向に発生させることが出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、機械的な可動部を用いずに、細い噴霧流を制御して、所望の方向へ発生させる事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る表面弾性波噴霧装置の構成概念を説明する斜視図。
【図2】同上表面弾性波噴霧装置における噴霧流の収束を説明する部分断面図。
【図3】同上表面弾性波噴霧装置における表面弾性波の伝送係数と反射係数の溝の深さによる変化のグラフ。
【図4】同上表面弾性波噴霧装置を用いて実際に噴霧流が収束されることを示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る表面弾性波液体噴霧装置の実施の形態について添付の図面を参照して説明する。
【0018】
本発明に係る表面弾性波液体噴霧装置の一つの実施形態の構成を図1に示す。該液体噴霧装置1は、圧電性を有する128度回転Y板X伝搬ニオブ酸リチウム基板2、基板上にアルミニウムで形成された対向する櫛歯電極3、対向する櫛歯電極間の基板上の溝4、溝上に配された液滴5、高周波交流電源6を有している。
【0019】
高周波交流電源6により、櫛歯電極3に櫛歯電極間隔で決まる共振周波数の交流電圧を印可すると、基板上に表面弾性波が駆動される。本実施形態においては、櫛歯間隔0.1mmで共振周波数は19.9MHzであるから、高周波交流電源6により、19.9MHz、振幅約100Vppの正弦波を印可した。
【0020】
発生する表面弾性波の伝送係数と反射係数は、図3に示すように基板上の溝4の有無と深さにより変化する。伝送係数は溝の深さが表面弾性波の一波長200μmより深い場合、0.1以下と溝がない場合の1/5程度で、溝を越えて伝搬する波がほとんどないことがわかる。
【0021】
このことは、図2に示すように、対向する表面弾性波により駆動された、対向するベクトルを持つ音響流が、溝の両側に分離されることを意味し、これにより溝上方に向かう流れのベクトルが形成され、液滴表面で発生する噴霧流もこのベクトルの方向、すなわち溝から上方に収束される。
【0022】
図4に示す、溝がない場合(図4(a))と、溝深さ136μmの場合(図4(b))に形成される噴霧流の写真から、溝を形成することで、噴霧流の幅を3mmから0.8mmまで削減できることがわかる。
【0023】
本実施例では、圧電基板に128度回転Y板X伝搬ニオブ酸リチウム基板を用いているが、レイリー波を駆動する圧電基板、例えば、タンタル酸リチウムや水晶でも同様である。
【0024】
また、櫛歯電極を作製する材料は、本実施例のアルミニウムの他、例えば、金や銅などの導電性物質であれば同様の機能が得られる。
【符号の説明】
【0025】
1 表面弾性波噴霧装置
2 圧電基板
3 櫛歯電極
4 溝
5 液滴
6 高周波電源
7 レイリー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電特性を有する圧電基板と、その基板上に作製された櫛歯電極からなり、表面弾性波を発生させて基板上の液滴を微粒化して噴霧する液滴噴霧装置において、前記櫛歯電極が液滴をはさんで対向するように配され、その中間部に表面弾性波伝播を阻害する不連続面を有する液滴噴霧装置。
【請求項2】
前記対向型櫛歯電極間に溝を配することにより、対向する表面弾性波により液滴内に生じる対向する音響流を溝の両側に分離して発生させることで、液滴から発生する噴霧流の噴霧幅を大幅に削減した前記請求項1に記載の液滴噴霧装置。
【請求項3】
前記対向型櫛歯電極に印可する電圧を制御し、液滴内に生じる対向する音響流の強度を変化させて、液滴から発生する噴霧流に指向性を持たせた前記請求項1ないし2に記載の液滴噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99734(P2013−99734A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256793(P2011−256793)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り The 16th International Conference on Solid−State Sensors,Actuators and Microsystems 講演予稿集 第3回マイクロ・ナノ工学シンポジウム 講演予稿集
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】