説明

指股編成方法および編地

【課題】 着用感が向上した指袋を有する編地の指股を編成する指股編成方法、およびその編地を提供する。
【解決手段】 互いに隣接する指袋21a,21bのうち少なくともいずれか一方の基端部22a,22bに、編幅が増加する編幅増加部分23を形成し、前記編幅増加部分23の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、各指袋21a,21bの基端部22a,22bに連なる胴部を編成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指袋を有する編地の指股を編成する指股編成方法、および複数の指袋を有する編地に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、指袋1を有する編地の一部分を示す正面図である。従来の技術では、指袋1を有する手袋などの編地を編成する過程において、隣接する指袋1の指股2で編目を重ねずに胴部分の編成を行うと、指股2に孔が開いてしまうので、隣接する指袋1の指股2を形成する基端部3同士を重ねて編成している(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特公昭50−18105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示すように、各指袋1の中間部の幅がそれぞれW1,W2に形成されているとき、重ねて編成される基端部3の幅は、これらW1,W2よりもそれぞれ小さなW3,W4となってしまうので、指股2における指袋1の周長が短くなって、着用したときに指が不所望に圧迫されて、着用感が悪くなる。
【0005】
したがって本発明の目的は、指が不所望に圧迫されることがなく、着用感が向上した指袋を有する編地の指股を編成する指股編成方法、およびその編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右方向に延び、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能であり、かつ前後の針床間で目移しが可能な横編機を用いて、それぞれが筒状編地で形成される指袋および胴部を有する編地の指股を編成する指股編成方法であって、
互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうち少なくともいずれか一方の基端部に、編幅が増加する編幅増加部分を形成し、前記編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、各基端部に連なる胴部を編成することを特徴とする指股編成方法である。
【0007】
また本発明は、それぞれが筒状編地で形成される指袋と胴部とを有する編地であって、
互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうち少なくともいずれか一方の基端部には、編幅が増加する編幅増加部分が形成され、前記編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、各基端部が連なる胴部が編成されていることを特徴とする編地である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の本発明によれば、互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうちの少なくとも一方の基端部に形成される編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせることによって、指股に孔が形成されてしまうことがなく、また基端部において指袋の周長が中間部よりも小さくなってしまうことが防止された指袋を有する編地を横編機によって編成することができる。編成された編地は、装着したときに指が不所望に圧迫されることがなく、着用感が向上する。
【0009】
また請求項2記載の本発明によれば、互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうちの少なくとも一方の基端部に形成される編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わさることによって、指股に孔が形成されてしまうことがなく、また基端部において指袋の周長が中間部よりも小さくなってしまうことが防止されるので、装着したときに指が不所望に圧迫されることがなく、着用感が向上した編地となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の一形態の指股編成方法で編成される編地20を模式的に示す平面図であり、図2は、図1の切断面線III−IIIから見た指袋21a,21bの基端部22a,22bにおける断面を模式的に示す図であり、図3は編成工程図である。本実施の形態の指股編成方法は、手袋および靴下の編成に用いられる。図1において、記号「δ」はひねり目を表し、記号「○」および「◎」はニットを表し、記号「∧」は掛け目を表し、前針床を「FB」で表し、後針床を「BB」で表し、前針床FBの編針をA〜Ωで表し、後針床BBの編針a〜ωで表している。本実施の形態では、左右方向に延び、少なくとも前後方向に互いに対向する前後一対の針床FB,BBを備え、給糸装置19が設けられるキャリッジを針床上を左右に移動させることによって前記編針が進退可能に構成され、前および後針床FB,BBの少なくとも一方が左右にラッキング可能であり、前後の針床FB,BB間で編目の目移しが可能である横編機を用いて編地20を編成する。本実施の形態の横編機では、筒状の編地を編成するときには、たとえば、前針床FBの一端から奇数番目の編針A,C,…,Y,Σを前側編地を編成するために用い、後針床BBの一端から偶数番目の編針b,d,…,z,ωを後側編地を編成するために用いて編成を行うようにしている。理解を容易にするために、編成に使用する針の本数を実際よりも少なくし、平編組織で周回編成によって筒状編地を編成する場合に適用して、それぞれが筒状編地で形成され、かつ相互に隣接する指袋21のうちの一方の指袋21aの基端部22aにおける編幅を2つの編目分増加する場合について説明する。
【0011】
第1工程で、左右方向(コース方向)に給糸装置19を往復移動させ、編針b〜l,K〜Aの順に給糸装置19から供給される編糸をニットして、指袋21aを筒状に編成する。第2工程で、給糸装置19を右方に移動させて、編針b〜lによって編糸をニットした後、第3工程で給糸装置19を左方に移動させて、編針Mに編糸を係止してひねり目を形成する。第4工程で、給糸装置19を右方に移動させて、編針nに編糸を係止して掛け目を形成し、第5および第6工程で、それぞれ第3および第4工程と同様な動作を繰り返す。
【0012】
第7工程で、給糸装置19を左方に移動させて、編針nが係止する編糸部分に、編糸をニットしてニットループを形成する。また第7工程では、給糸装置19をさらに左方に移動させて、編針K〜Aの順によって編糸をニットする。以上第3〜第7工程によって、増し目を形成するための基礎となる編み出し編目を形成する。
【0013】
第8工程で、左右方向に給糸装置19を往復移動させ、編針M,nを含めて編針b〜n,M〜Aの順に編糸をニットすることによって増し目が形成され、編幅を1つの編目分増加させる。第9工程で、第8工程と同様な動作を繰り返して、編針b〜p,O〜Aの順にニットする周回編成を行うことによって、編幅を1つの編目分増加させる。以上の第3〜第9工程によって、指袋21aの基端部22aに、編幅が増加した編幅増加部分23を形成することができる。
【0014】
第10工程で、左右方向に給糸装置19を往復移動させ、編針Σ〜Q、r〜ωの順に編糸をニットして、指袋21bを筒状に編成する。第11工程で、矢印で示すように、編針Q〜Σに係止された編糸をこれらに対向する編針q〜σに、目移しする。第12工程で、前針床FBを右側に4ピッチラッキングさせて、編針Aに編針eを対向させる。
【0015】
第13工程で、編針q〜ωに係止された編糸をこれらに対向する編針M〜Xに目移しする。このとき「◎」で示すように、前針床の編針M,Оでは、編幅増加部分23の編目と、指袋21bの基端部22bの編目とが係止された状態となる。第14工程で、前針床FBを左側に4ピッチラッキングさせ、元の位置に戻す。
【0016】
第15工程で、編針M〜Xのうち、左端から偶数番目の編針N,P,R,T,V,Xから、これらに対向する編針n,p,r,t,v,xに、目移しを行う。このとき「◎」で示すように、編針n,pでは、編幅増加部分23の編目と、指袋21bの基端部22bの編目とが重ね合わされた状態となる。第11〜第15工程によって、図2に示すように、指袋21bの基端部22bを、指袋21aの編幅増加部分23の内側に入り込ませることができる。各指袋21a,21bの中間部の幅がそれぞれW5,W6に形成されているとき、編目が重ねて編成される基端部22a,22bの幅は、これらW5,W6と等しくすることができるので、指股25における指袋21a,21bの周長が短くなってしまうことが防止される。
【0017】
第16工程では、左右方向に給糸装置19を往復移動させ、編針b〜x,W〜Aの順に編糸をニットして、各指袋21a,21bの基端部22a,22bに連なる筒状の胴部を周回編成する。
【0018】
以上のように横編機によって指袋21a,21bを有する編地20を編成すれば、編成された編地20において、隣接する指袋21a,21bの基端部22a,22bの編目が重ね合わされるので、指股に孔が形成されてしまうことがなく、また基端部22a,22bにおいて各指袋21a,22bの周長が胴部分よりも小さくなってしまうことが防止することができ、指が圧迫されることがなく、着用感が向上する。
【0019】
前述した実施の形態では、隣接する指袋のうちの一方の基端部の編幅を増加させたが、隣接する編袋の両者の基端部の編幅を増加させてもよく、また3つの指袋が隣接する場合には、真ん中の指袋の両側に編幅増加部分23を形成してもよく、また基端部における編幅の増やし方は前述した方法に限らず他の方法を用いてもよい。また1コースあたり編幅を1つの編目ずつではなく、複数の編目増加させてもよく、また編幅を増やす目数は2目に限らない。
【0020】
また前述した指袋のうちの一方は、筒状編地で形成される胴部であってもよい。すなわち図4(1)および(2)に示すような手袋30および靴下40において、前記編成方法は、小指用の指袋31dと3本胴部32との指股や、親指用の指袋31eと4本胴部33との指股編成にも適用可能である。
【0021】
手袋を編成する場合では、薬指用、人差し指用、中指用の指袋31a,31b,31c、およびこれらの基端部に連なる3本胴部32を図3に示す編成工程と同様に編成した後、この3本胴部32と小指用の指袋31dとの少なくとも一方の基端部に、編幅が増加する編幅増加部分23を形成し、この編幅増加部分23の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、3本胴部32と小指用の指袋31dの基端部が連なる4本胴部33を、図3に示す編成工程と同様にして編成する。また同様に、4本胴部33と親指用の指袋31eとについても同様に編成して5本胴部34を編成する。編幅を増加すると、3,4および5本胴部32,33,34の編幅が増加するので、これら胴部分の編成を開始するときに編目を重ねて編幅を減少させる。
【0022】
各指袋31a,31b,31cは、この順番に編成されてもよく、あるいは異なる順番で編成されてもよい。また各指袋31a,31b,31cのうち、隣接する2つの指袋に編幅増加部分23を形成してもよく、あるいは、中指用の指袋31bの両側にのみ編幅増加部分23を形成してもよい。
【0023】
また靴下を編成する場合では、親指用、人差し指用、中指用、薬指用の指袋41a,41b,41c,41dと、およびこれらの基端部に連なる4本胴部42を図3に示す編成工程と同様に編成した後、この4本胴部42と小指用の指袋31eとを図3に示す編成工程と同様にして編成して5本胴部43を編成する。編幅を増加すると、4および5本胴部42,43の編幅が増加するので、これら胴部分の編成を開始するときに編目を重ねて編幅を減少させる。
【0024】
各指袋41a,41b,41c,41dは、この順番に編成されてもよく、あるいは異なる順番で編成されてもよい。また各指袋41a,41b,41c,41dのうち、隣接する3つの指袋に編幅増加部分23を形成してもよく、隣接する指袋のうち、いずれか一方に編幅増加部分23が形成されればよい。
【0025】
以上のような手袋30および靴下40は、指袋の基端部において周長が短くなってしまうことがないので、指が不所望に圧迫されることがなく、着用感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の一形態の指股編成方法で編成される編地20を模式的に示す平面図である。
【図2】図1の切断面線III−IIIから見た指袋21a,21bの基端部22a,22bにおける断面を模式的に示す図である。
【図3】編成工程図である。
【図4】図4(1)は手袋30の一部を示す平面図であり、靴下40の一部を示す平面図である。
【図5】指袋1を有する編地の一部分を示す正面図である。
【符号の説明】
【0027】
20 編地
1,21,21a,21b,31a〜31e 指袋
3,22a,22b 基端部
23 編幅増加部分
2,25 指股
FB 前針床
BB 後針床
A〜Ω,a〜ω 編針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延び、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床の少なくとも一方が左右にラッキング可能であり、かつ前後の針床間で目移しが可能な横編機を用いて、それぞれが筒状編地で形成される指袋および胴部を有する編地の指股を編成する指股編成方法であって、
互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうち少なくともいずれか一方の基端部に、編幅が増加する編幅増加部分を形成し、前記編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、各基端部に連なる胴部を編成することを特徴とする指股編成方法。
【請求項2】
それぞれが筒状編地で形成される指袋と胴部とを有する編地であって、
互いに隣接し、かつ少なくとも一方が指袋を形成する筒状編地のうち少なくともいずれか一方の基端部には、編幅が増加する編幅増加部分が形成され、前記編幅増加部分の内側に他方の基端部の編目を重ね合わせて、各基端部が連なる胴部が編成されていることを特徴とする編地。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−248415(P2008−248415A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89724(P2007−89724)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】