説明

振動コンベヤ

【課題】アクチュエータによるトラフの振動を、前進と後退の速度に差が生じるように行ってトラフに投入した搬送物を搬送する振動コンベヤに改良を加えてトラフを登り傾斜或いは下り傾斜の状態に傾けても搬送物の搬送を支障なく効率的に行える振動コンベヤの提供。
【解決手段】アクチュエータ4で駆動して振動させるトラフ2の搬送面に、トラフ長手方向に定ピッチで段差部8を形成し、前後の段差部8、8間の各搬送面2aを搬送方向前方に向かってトラフが水平なときに上り勾配となる斜面にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラフに投入した搬送物を、トラフを振動させて搬送する振動コンベヤに関する。詳しくは、トラフを登り傾斜或いは下り傾斜の状態に傾けても搬送物の搬送を支障なく効率的に行える振動コンベヤに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、構造の簡素化や低コスト化などを図れる振動コンベヤとして、流体圧作動のアクチュエータなどでトラフを前進と後退(戻り)の速度に差が出るように水平に振動させてトラフ内に投入した搬送物を搬送する振動フィーダを下記特許文献1によって先に提案している。
【0003】
その振動フィーダは、トラフの前進を遅く、後退を早くして後退時に搬送物が搬送面上で滑って元の位置に残り、前進時にトラフと一緒に動く動作が繰り返されるようにして搬送物を移動させる。また、トラフと一緒に戻り易い搬送物については、トラフの前進を早く、後退を遅くして前進時に動慣性で搬送物を搬送面上で滑らせる。このような搬送原理でトラフ内の搬送物を移動させるので、一般的な電磁振動式フィーダなどで問題になっている調整の煩わしさが無く、構造の簡素化やコスト低減なども図れる。
【0004】
ところが、上記の搬送原理でトラフ内の搬送物を移動させる振動フィーダは特に、搬送方向前方に向かって前上がりや前下がりの傾斜をトラフにつけると、まともな搬送が行えなくなると言う問題がある。トラフに例えば前上がりの傾斜をつけると、搬送面の傾斜の影響で搬送物がスリップして搬送物に搬送力が十分に伝わらず、搬送効率が極端に悪化する。この問題は、搬送物が例えばボール状で転がり易いものであったり、表面の摩擦係数が極端に小さいものであったりすると特に顕著になる。また、トラフを前下がりの状態に配置したときには転がり易い搬送物が自然に転がって流れ、搬送の制御ができない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−142948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、アクチュエータによるトラフの振動を、トラフの前進と後退の速度に差が生じるように行って搬送物を搬送する振動コンベヤに改良を加え、トラフを登り傾斜或いは下り傾斜の状態に傾けても搬送物の搬送を支障なく効率的に行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明においては、トラフの搬送面に、トラフ長手方向に定ピッチで段差部を形成し、段差部間の搬送面を搬送方向前方に向かってトラフが水平なときに上り勾配となる斜面にした。なお、この発明は、トラフを傾斜させたときに搬送効率低下の問題が特に顕著に起こる振動コンベヤ、即ち、アクチュエータによるトラフの振動を前進と後退の速度に差が生じるように行ってトラフに投入した搬送物をトラフの前方に向かって搬送する振動コンベヤに適用する。
【0008】
この振動コンベヤは、以下に列挙するものが好ましい。
(1)前後の段差部の高さ寸法Hと段差部間の距離Lとの比率H/Lを1/1〜1/8に設定したもの。
(2)アクチュエータによるトラフの振動の振幅を15〜35mmに設定したもの。
(3)前後の段差部間の距離を、搬送物のサイズの2〜3倍程度にしたもの。
(4)前後の段差部間の搬送面の傾斜角θは、前後の段差部の高さ寸法Hと段差部間の距離Lの好ましいとした比率H/L=1/1〜1/8から、自ずと好ましい角度が定まる。
H/Lを例えば1/5(θ=11.3°)に設定したコンベヤは、図5に示すコンベヤの上向き傾斜角αを40°程度にして搬送を行うことができる。また、H/Lを例えば1/1(θ=45°)に設定したコンベヤは、図6に示すコンベヤの下向き傾斜角δを50°程度にして搬送を行うことができる。なお、コンベヤを下向き傾斜にして使用するときには、搬送物が搬送面から自然に転がり落ちることがないように下向き傾斜角δを考慮して搬送面の傾斜角θを設定する。
【発明の効果】
【0009】
この発明の振動コンベヤは、トラフが前進するときに搬送面上の搬送物が段差部に受け支えられるので、搬送物のスリップが起こり難く、トラフから搬送物に加えられる推進力の伝達ロスが減少して搬送効率が向上する。
【0010】
なお、段差部による搬送物の受け支えは、直接的な受け支えである場合と、搬送物を介しての間接的な受け支えである場合の2通りが考えられる。いずれにしても、搬送物を段差部で支えて搬送方向に向けて押すので、トラフが前上がりの状態に傾斜していてもコンベヤの使用時の傾斜角度が極端に大きくなければ実用上問題のない搬送を行うことができる。
【0011】
また、前後の段差部間の搬送面を、トラフが水平状態のときに前上がりとなる斜面にしたので、トラフを前下がりの状態に傾斜させてコンベヤを使用することも可能になる。搬送面は、コンベヤのトラフをトラフが水平なときの搬送面の傾斜角度(ここではこれをθとする)と同一角度θで前下がりの状態に傾斜させたときに傾きがゼロになって水平になる。この搬送面がコンベヤの使用状態において水平になっているときや前上がりに傾斜しているときには、転がり易い搬送物でも転がりによる前方への移動は起こらず、また、転がり難い搬送物の場合は、搬送面が水平よりマイナス5°〜10°位になっても搬送の制御が可能になって、コンベヤを支障なく使用することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面の図1乃至図4に基づいて、この発明の振動コンベヤの実施の形態を説明する。この振動コンベヤ1は、搬送路を形成するトラフ2と、このトラフ2を前後方向スライド自在に支える支持手段3と、トラフ2を駆動する流体圧で作動させるアクチュエータ4と、このアクチュエータ4の往復運動をトラフ2に伝える連結具5と、2個の流量制御弁6から成る。
【0013】
加振アクチュエータ4は、L型マウント7などで適当な位置に固定される。
【0014】
支持手段3は、アクチュエータ4上に固定する取付金具3aを有しており、その取付金具3a上にベアリング3bを介してスライドレール3cを取付け、そのスライドレール3cでトラフ2を支える構造になっている。ベアリング3bは、スライドレール3cの摺動抵抗と摩耗を低減させる働きをする好ましい構造要素であるが、必須ではない。支持手段3もトラフ2を往復運動可能に支えるものであればよく、図示のものに限定されない。
【0015】
アクチュエータ4は、2つの入力ポート4bを有するシリンダ4aの内部に出力ロッド4cを有するピストン(図示せず)とそのピストンを一方向に付勢して作動停止時に原位置に復帰させるスプリング(これも図示せず)を挿入し、さらに、シリンダの胴筒の長手途中に排出ポート4dを設けたエアー振動シリンダである。シリンダの内部はピストンによって第1圧力室と第2圧力室に仕切られており、その第1、第2の各圧力室に流量制御弁6を通ったエアーが同時に導入される。排出ポート4dは、第1圧力室に連通するものと第2圧力室に連通するものがそれぞれ設けられておりピストンが原位置にあるときには一方の排出ポート(例えば、第1圧力室側に設けた図1の左側のポート)がピストンによって塞がれ、他方の排出ポート(図1の右側のポート)は開いて第2圧力室を外部に連通させている。この状態で、第1、第2の各圧力室に同時にエアーが導入されると、ピストンは排出ポート4dが開いている第2圧力室側(図中右側)に向けて押し動かされ、それにより、それまで閉じていた図1の左側の排出ポート4dが開き、それまで開いていた図1の右側の排出ポート4dはピストンによって閉じられる。これによりピストンが移動してきた第2圧力室の圧力が上昇し、このために、ピストンが今度は第1圧力室側に押されて初期の状態に戻り、この動作が繰り返されてアクチュエータが往復運動(振動)を起こす。例示の加振アクチュエータ4は、前掲の特許文献1や特許第3699306号公報に詳しく開示されているので、これ以上の説明は省く。
【0016】
なお、トラフ2を運動させるアクチュエータは、例示のエアー振動シリンダに限定されない。リニアモータ、カムを組み込んだ振動モータ、電磁振動手段などで代替することもできる。
【0017】
この発明の振動コンベヤは、トラフ2の構造に特徴がある。例示のトラフ2は、搬送面にトラフ長手方向に定ピッチPで段差部8を形成し、前後の段差部8、8間の搬送面2aをトラフを水平にしたときに搬送方向前方に向かって上り勾配となる斜面にしている。
【0018】
段差部の寸法は、搬送物の大きさや形状に左右される。前後の段差部8、8間の距離L(図4参照)は、搬送物のサイズの約2〜3倍、段差部8が搬送面2aとなす角βは製作上90°が好ましかった。
【0019】
また、図4に示す段差部8の高さ寸法Hは、前後の段差部間の距離Lの1/1〜1/8が好ましかった。さらに、アクチュエータによるトラフの振動の振幅は15〜35mmが好ましかったが、この振幅はアクチュエータの振動力とトラフ全体の慣性力によって決定され、条件によっては好ましい数値が変わる。
【実施例1】
【0020】
この発明の振動コンベヤの効果を確認するために比較試験を行った。その試験について述べる。
試験は、搬送面の段差部の高さH=6mm、前後の段差部間の距離L=30mm(H/L=1/5)としてその段差部を定ピッチでトラフの搬送面に設けた振動コンベヤ(発明品)(図1)と、トラフに平坦な搬送面を設けた振動コンベヤ(比較品)を用いて行った。
【0021】
搬送物はM5のナット(対角寸法11mm)とした。また、発明品、比較品のどちらの振動コンベヤも、駆動源として図1のエアー振動シリンダを有するものを採用し、振動数300回/分、振動振幅約20mmの条件でそのナットの連続搬送を行った。
【0022】
試験は、各振動コンベヤのトラフを水平に向けた状態で発明品の搬送効率が比較品に比べてどれだけ向上するかを実測して調べた。その結果、比較品は搬送速度が105mm/秒であったのに対し、発明品の搬送速度は150mm/秒となり、搬送速度が43%向上して搬送効率が非常に良くなった。
【実施例2】
【0023】
実施例1で使用した発明品と比較品の振動コンベヤを用いてトラフを前上がりの方向に傾斜させ、前述のM5のナットの搬送においてトラフの傾斜角をどこまで上昇させられるかを調べた。その結果、比較品は、傾斜角3°が限界であったが、発明品はα=40°(H/L=1/5)の傾斜での搬送も可能であった(図5参照)。
【実施例3】
【0024】
実施例1で使用した発明品と比較品の振動コンベヤを用いてボール状搬送物の搬送を試みた。トラフはどちらのコンベヤも水平配置とした。この試験では、比較品は、搬送物が後ろ向きに転がってまともな搬送ができなかった。これに対し、発明品はこのボール状搬送物も搬送することができた。
【実施例4】
【0025】
搬送面の段差部の高さHと前後の段差部間の距離Lについて、H/L=1/1とした振動コンベヤ(発明品2)とH/L=1/5とした振動コンベヤ(発明品1:実施例1で使用したもの)を図6に示す前下がり傾斜にしてM5のナットの搬送を試みた。その結果、発明品1は傾斜角δが約−18°まで搬送可能であり、発明品2はトラフの前下がりの傾斜角δが約−50°でも搬送が可能であった。
【0026】
なお、ボールの搬送はH/L=1/5の発明品1は約−8°まで、発明品2は約−40°まで可能であった。
【0027】
以上の試験結果に、アクチュエータによるトラフの振動を前進と後退の速度に差が生じるように行ってトラフに投入した搬送物をトラフの前方に向かって搬送する振動コンベヤにおいて、トラフの搬送面に段差を形成することの有効性がよく現れている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の振動コンベヤの一例を示す側面図
【図2】図1の振動コンベヤに採用したトラフの斜視図
【図3】図2のトラフの縦断断面図
【図4】搬送面の段差部を拡大して示す断面図
【図5】この発明の振動コンベヤを角度αで前上がり傾斜にした側面図
【図6】この発明の振動コンベヤを角度δで前下がり傾斜にした側面図
【符号の説明】
【0029】
1 振動コンベヤ
2 トラフ
2a 搬送面
3 支持手段
3a 取付金具
3b ベアリング
3c スライドレール
4 アクチュエータ
4a シリンダ
4b 入力ポート
4c 出力ロッド
4d 排出ポート
5 連結具
6 流量制御弁
7 L型マウント
8 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ(4)でトラフ(2)を水平方向又はトラフ長手方向に振動させ、その振動をトラフの前進と後退の速度に差が生じるように行ってトラフ(2)に投入した搬送物をトラフの前方に向かって搬送する振動コンベヤにおいて、前記トラフ(2)の搬送面に、トラフ長手方向に定ピッチで段差部(8)を形成し、前後の段差部(8、8)間の各搬送面(2a)を搬送方向前方に向かってトラフが水平なときに上り勾配となる斜面にしたことを特徴とする振動コンベヤ。
【請求項2】
各段差部(8)の高さ寸法(H)と前後の段差部間の距離(L)との比率H/Lを1/1〜1/8に設定した請求項1に記載の振動コンベヤ。
【請求項3】
アクチュエータ(4)によるトラフ(2)の振動の振幅を15〜35mmに設定した請求項1又は2に記載の振動コンベヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−119171(P2007−119171A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312995(P2005−312995)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(591233506)日精工機株式会社 (2)
【Fターム(参考)】