説明

振動ジャイロ素子、ジャイロセンサー及び電子機器

【課題】両側音叉型の振動ジャイロ素子において、駆動用検出腕の機械的振動漏れによる影響を解消又は軽減して検出精度及び感度を向上させる。
【解決手段】振動ジャイロ素子11は支持部12から互いに逆向きに延出する各1対の駆動用振動腕13a,13bと検出用振動腕14a,14bとを備え、駆動用振動腕は駆動モードでXY面内方向に共振周波数fで屈曲振動し、検出モードではY軸周りの回転によるコリオリ力によってZ軸方向に逆相で屈曲振動し、検出用振動腕がZ軸方向に駆動用振動腕とは逆相で屈曲振動する。検出用振動腕はXY面内方向に共振周波数f<fで屈曲振動するように設定され、共振周波数fは駆動モードにおいて各検出用振動腕から出力される検出信号の値S1,S2との差|S1−S2|を小さくするように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲振動片を用いた振動ジャイロ素子、それを用いたジャイロセンサー及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計や家電製品、各種情報・通信機器やOA機器等の電子機器には、電子回路のクロック源として圧電振動子、圧電振動片とICチップとを搭載した発振器やリアルタイムクロックモジュール等の圧電デバイスが広く使用されている。また、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の各種電子機器には、角速度、角加速度、加速度、力等の物理量を検出するために、屈曲振動片を用いた圧電振動ジャイロ等のセンサーが広く使用されている。
【0003】
例えば、基部から一方の側に平行に延長する1対の駆動用振動腕と、その反対側に平行に延長する1対の検出用振動腕とを備える両側音叉型の屈曲振動片が知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。図10は、従来の両側音叉型屈曲振動片からなる振動ジャイロ素子及び検出回路の典型例を概略的に示している。同図において、振動ジャイロ素子1は、中央の支持部2から一方の側に平行に延出する1対の駆動用振動腕3a,3bと、それとは反対側に平行に延出する1対の検出用振動腕4a,4bとを有する。
【0004】
駆動用振動腕3a,3bは、その表面に形成した駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、その主面と同じXY面内で互いに逆向きに屈曲振動する。この駆動モードの状態で振動ジャイロ素子1が長手方向のY軸周りに回転すると、その角速度に応じたコリオリ力の作用で、前記駆動用振動腕は主面に垂直なZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動し、これに共振して検出用振動腕4a,4bが同じくZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。
【0005】
このとき、前記各検出用振動腕の表面に形成した検出電極間にそれぞれ発生する電位差を検出回路5により取り出すことによって、振動ジャイロ素子1の前記回転及びその角速度等が求められる。検出回路5は、例えばチャージアンプ6a,6bからなる電流電圧変換回路、差動アンプ7からなる差動増幅回路、ハイパスフィルター8からなる同期検波回路、及びACアンプ9で構成される。前記差動増幅回路は、前記各検出電極からそれぞれ対応する電流電圧変換回路を経て入力した検出信号の差分を増幅して出力する。
【0006】
同様の両側音叉型として、連結片からそれぞれ上下方向に延出する各1対の第1及び第2の振動片と、連結片から上下方向に延出する支持片とを有する角速度センサが知られている(例えば、特許文献3を参照)。この角速度センサは、角速度の検出精度を向上させるために、一方の振動片ではコリオリ力と同方向に漏れ振動が発生し、他方の振動片ではコリオリ力と逆方向に漏れ振動が発生するように、駆動振動周波数と検出振動周波数とを決定することによって、漏れ振動による電気信号が相殺している。
【0007】
また、高精度の角速度検出を可能にする電極構造を備えた両側音叉型の圧電振動ジャイロからなる角速度検出装置が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。この圧電振動ジャイロは、水晶等の圧電性結晶材料からなる矩形断面の振動腕がコリオリ力でZ軸方向に振動する際に、該断面の第1及び第2角部に電荷が集中して発生することに着目し、該角部を覆うように第1及び第2電極を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−340559号公報
【特許文献2】特開2007−93400号公報
【特許文献3】特開平9−329444号公報
【特許文献4】特開平9−311041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように1対の検出用振動腕を有する振動ジャイロ素子は、各検出用振動腕からそれぞれ出力される検出信号を差動増幅することによって、それらに同程度に含まれるノイズ等の不要な信号成分を有効に除去することができる。しかしながら、各検出用振動腕の検出信号に含まれる不要な信号成分がアンバランスな場合は、それらを十分に除去することができないため、検出精度が低下する虞がある。
【0010】
一般に振動ジャイロ素子は、水晶等の圧電単結晶材料のウエハをフォトエッチングして所望の外形を加工し、その表面に電極膜をパターニングして形成される。しかしながら、圧電単結晶材料はエッチング異方性を有するため、ウエットエッチングで加工した振動腕の断面は理想的な矩形でなく、左右に非対称な形状になる。また、外形加工の際にフォトマスクの位置合わせにずれがあると、振動腕の断面が厚さ方向に上下で非対称になる虞がある。その結果、駆動モードにおいて駆動用検出腕から機械的振動漏れが生じ、振動ジャイロ素子が回転していないにも拘わらず、検出用振動腕から検出信号が出力される場合がある。
【0011】
また、各対の振動腕は左右で振動がアンバランスになる虞がある。かかるアンバランスな振動の結果、各検出用振動腕からの検出信号に不要な信号成分がアンバランスに含まれる虞がある。このようなアンバランスな不要な信号成分は、検出回路において差動増幅する際に有効に除去できないため、検出精度を低下させる虞がある。
【0012】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、両側音叉型の振動ジャイロ素子において、駆動用検出腕から機械的振動漏れにより生じる各検出用振動腕の検出信号のアンバランスを解消して、検出精度及び感度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の振動ジャイロ素子は、上記目的を達成するために、
支持部と、
支持部から並んで延出する1対の駆動用振動腕と、
支持部から駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する1対の検出用振動腕とを備え、
前記1対の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動する駆動モードと、
振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記1対の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向とは逆相で屈曲振動し、前記1対の検出用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつ駆動用振動腕とは逆相で屈曲振動する検出モードとを有し、
前記1対の検出用振動腕が、面内方向に互いに逆向きに駆動用振動腕の共振周波数fより低い所定の共振周波数fで屈曲振動するように設定され、駆動モードにおいて一方の検出用振動腕から出力される検出信号の値S1と他方の検出用振動腕から出力される検出信号の値S2との差|S1−S2|を小さくするように、共振周波数fを設定したことを特徴とする。
【0014】
本願発明者らは、後述するように、検出用振動腕を駆動モードと同じ面内方向に互いに逆向きに、即ち面内モードで屈曲振動させた場合の共振周波数を利用することによって、各検出用振動腕からの検出信号にアンバランスに含まれる不要な信号成分を有効に除去し又は大幅に低減し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0015】
各検出用振動腕から出力される検出信号の値の差|S1−S2|が、各検出用振動腕にアンバランスに作用している駆動用振動腕の機械的振動漏れの差であることから、検出用振動腕の共振周波数fと駆動用振動腕の共振周波数fとをf<fとし、かつ|S1−S2|を小さくするように共振周波数fを設定することによって、駆動用振動腕の機械的振動漏れが振動ジャイロ素子の検出感度及び/又は精度に及ぼす影響を実質的に解消し又は大幅に低減することができる。
【0016】
また、本発明の振動ジャイロ素子は、
支持部と、
支持部から並んで延出する1対の駆動用振動腕と、
支持部から駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する1対の検出用振動腕とを備え、
前記1対の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動する駆動モードと、
振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記1対の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に互いに逆向きにかつコリオリ力の作用方向とは逆相で屈曲振動し、前記1対の検出用振動腕が面外方向に互いに逆向きにかつ駆動用振動腕とは逆相で屈曲振動する検出モードとを有し、
前記1対の検出用振動腕が、面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動するように設定され、共振周波数fが、
<f、及び、|(f−f)/f|≧0.3
を満足することを特徴とする。
【0017】
このように共振周波数f、fを設定することによって、各検出用振動腕からの検出信号の値の差|S1−S2|、即ち各検出用振動腕にアンバランスに作用している駆動用振動腕の機械的振動漏れの差を小さくすることができるので、振動ジャイロ素子の検出感度及び/又は精度を向上させることができる。
【0018】
或る実施例では、共振周波数fが、|(f−f)/f|≧0.4を満足することによって、駆動用振動腕の機械的振動漏れが各検出用振動腕の検出信号に及ぼす作用のアンバランスを解消し、振動ジャイロ素子の検出感度及び/又は精度をより一層向上させることができる。
【0019】
別の実施例では、駆動用振動腕の長さLdに対する支持部の長さLbをLb/Ld≧2の範囲に設定することによって、駆動用振動腕の機械的振動漏れが各検出用振動腕の検出信号に及ぼす影響を低減し、振動ジャイロ素子の検出感度及び/又は精度を更に向上させることができる。
【0020】
更に別の実施例では、駆動用振動腕の長さLdに対する支持部の長さLbをLb/Ld≧3の範囲に設定することによって、駆動用振動腕の機械的振動漏れの影響を更に低減することができる。
【0021】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の振動ジャイロ素子を備えることにより、検出感度及び/又は精度の高いジャイロセンサーが提供される。
【0022】
更に本発明の別の側面によれば、上述した本発明の振動ジャイロ素子を備えることにより、検出感度及び/又は精度の高いジャイロセンサー等のセンサー装置を備えた高性能かつ高精度な電子機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例による振動ジャイロ素子及びその駆動モードにおける振動モードを示す平面図。
【図2】(A)図は図1の振動ジャイロ素子の検出モードにおける振動モードを、(B)図は検出用振動腕の面内方向の振動モードをそれぞれ示す説明図。
【図3】図1の振動ジャイロ素子に接続される検出回路の典型例を示す回路図。
【図4】駆動用振動腕の共振周波数50kHzと面内モードにおける検出用振動腕の共振周波数との差に関する、駆動モードにおける各検出用振動腕の振動漏れ信号の差を示す線図。
【図5】駆動用振動腕の共振周波数50kHzに対する面内モードにおける検出用振動腕の共振周波数との差の比率に関する、駆動モードにおける各検出用振動腕の振動漏れ信号の差の変化率を示す線図。
【図6】駆動用振動腕の共振周波数100kHzに対する面内モードにおける検出用振動腕の共振周波数との差の比率に関する、駆動モードにおける各検出用振動腕の振動漏れ信号の差の変化率を示す線図。
【図7】駆動用振動腕の共振周波数50kHzにおいて、駆動用振動腕の長さと支持部の長さとの比Lb/Ldに関する、駆動モードにおける各検出用振動腕の振動漏れ信号の差を示す線図。
【図8】駆動用振動腕の共振周波数100kHzにおいて、駆動用振動腕の長さと支持部の長さとの比Lb/Ldに関する、駆動モードの各検出用振動腕の振動漏れ信号の差を示す線図。
【図9】(A)図は図1の振動ジャイロ素子の製造過程において水晶ウエハ上に形成した金属マスクを示す平面図、(B)図はそのIX−IX線における拡大断面図である。
【図10】従来の振動ジャイロ素子及び検出回路の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。尚、添付図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の参照符号を付して示す。
【0025】
図1は、例えば角速度センサーに使用される本発明の第1実施例の振動ジャイロ素子11を概略的に示している。振動ジャイロ素子11は両側音叉型屈曲振動片からなり、中央の概ね矩形の支持部12と、該支持部から一方の側に並んで平行に延出する1対の駆動用振動腕13a,13bと、それとは反対側に並んで平行に延出する1対の検出用振動腕14a,14bとを有する。前記各振動腕は、その長さを短くしても高次振動モードの発生を抑制して振動周波数を安定させ得るように、それぞれ先端に錘部15a,15b,16a,16bが設けられている。前記各駆動用振動腕と支持部12及び錘部15a,15bとの結合部には、左右両側に振動腕側に向けて狭幅のテーパ部17a,17b,18a,18bがそれぞれ形成されている。同様に、前記各検出用振動腕と支持部12及び錘部16a,16bとの結合部には、左右両側に振動腕側に向けて狭幅のテーパ部19a,19b,20a,20bがそれぞれ形成されている。
【0026】
駆動用振動腕13a,13bの表面には、駆動モードにおいて該駆動用振動腕をその表裏主面に沿う面内方向に例えば該主面に平行なXY面内で屈曲振動させるために、駆動電極(図示せず)が形成されている。検出用振動腕14a,14bの表面には、検出モードにおいて該検出用振動腕がその表裏主面に交わる例えば該主面に垂直なZ軸方向に屈曲振動する際に発生する電位差を検出するために、検出電極(図示せず)が形成されている。駆動モードにおいて、前記駆動電極に所定の交流電圧を印加すると、駆動用振動腕13a,13bは、図1に矢示するように面内方向に逆向きに即ち互いに接近離反する向きに屈曲振動する。
【0027】
この状態で振動ジャイロ素子11が長手方向のY軸周りに回転すると、その角速度に応じて発生するコリオリ力の作用により、駆動用振動腕13a,13bは前記主面に垂直な面外方向即ちZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。図2(A)に示すように、前記各駆動用振動腕の振動方向は、コリオリ力の作用方向21a,21bに関して逆相である。このZ軸方向の振動に共振して、検出用振動腕14a,14bが検出モードで、同じくZ軸方向に互いに逆向きに屈曲振動する。このとき、前記各検出用振動腕の振動方向は、駆動用振動腕13a,13bの振動方向とは逆相になる。
【0028】
この検出モードにおいて、各検出用振動腕14a,14bの前記検出電極間に発生する電位差を取り出すことによって、振動ジャイロ素子11の前記回転及びその角速度等が求められる。図3は、振動ジャイロ素子11に接続されて、ジャイロセンサの一部を構成する検出回路の一例を示している。検出回路22は、チャージアンプ23a,23b、差動アンプ24、ハイパスフィルター25、及びACアンプ26から構成される。前記各検出電極は、実際には振動ジャイロ素子11の支持部12上に引き出された接続電極(図示せず)を介して、検出回路22に接続されている。
【0029】
差動アンプ24は、前記各検出電極からそれぞれ対応するチャージアンプ23a,23bを経て入力した検出信号の差分を増幅して出力する。これにより、理想的には各検出用振動腕14a,14bにおいて同程度に発生したノイズ等の不要な信号成分を検出信号から有効に除去することができ、高い検出精度が得られる。しかしながら、各検出用振動腕14a,14bからの検出信号に不要な信号成分がアンバランスに含まれる場合は、それらを有効に除去することができないため、検出精度が低下する虞がある。
【0030】
本発明によれば、検出用振動腕14a,14bを単独で、検出モードのZ軸方向ではなく、図2(B)に示すように駆動モードと同じ面内方向に互いに逆向きに屈曲振動させた場合、即ち面内モードの共振周波数を利用することによって、前記各検出用振動腕からの検出信号にアンバランスに含まれる不要な信号成分を有効に除去し又は大幅に低減する。検出用振動腕14a,14bの面内モードの共振周波数fは、駆動用振動腕13a,13bの駆動モードの共振周波数fに関連して、以下に説明するように設定する。
【0031】
先ず、前記検出用振動腕の面内モードの共振周波数fを前記駆動用振動腕の駆動モードの共振周波数fに対して、常にf<fを満足するように設定する。前記駆動用振動腕の駆動モードの共振周波数fを50kHz一定とし、前記検出用振動腕の共振周波数fを概ね±50kHzの範囲で変化させて設計した図1の振動ジャイロ素子11について、駆動モードで駆動用振動腕13a,13bを振動させたときに検出用振動腕14a,14bからそれぞれ出力される検出信号を測定した。この駆動モードにおける検出信号は、前記駆動用振動腕の振動が支持部12を伝搬して前記各検出用振動腕にZ軸方向の振動を生じさせた機械的振動漏れによる振動漏れ信号である。
【0032】
以下の表1は、この測定結果を表している。同表において、左欄は、面内モードにおける前記検出用振動腕の共振周波数fと前記駆動用振動腕の駆動モードの共振周波数fとの差Δf=f−fである。右欄は、一方の検出用振動腕14aの振動漏れ信号S1と他方の検出用振動腕14bの振動漏れ信号S2との差を電圧値mVp1−p2で表している。同表から、振動漏れ信号の差は、f>fの範囲では比較的大きくかつ周波数差と共に増大しており、f<fの範囲でないと小さくできないことが分かる。
【0033】
【表1】

【0034】
図4は、この振動ジャイロ素子11について、f<fの範囲で、面内モードでの周波数差Δf=f−fに関する、駆動モードにおいて各検出用振動腕から出力される振動漏れ信号の差|S1−S2|をppm表示で示している。同図から、周波数差Δfが−15kHzを超えて小さくなると、振動漏れ信号の差が急激に小さくなり始めていることが分かる。そして、−20kHzを超えると、振動漏れ信号の差は、検出信号への影響が実質的に解消したか極めて小さい程度まで縮小している。従って、本実施例では、前記駆動用振動腕の共振周波数f=50kHzに対して、前記検出用振動腕をその面内モードにおける共振周波数fが−20kHz以上小さくなるように設計することによって、前記駆動用振動腕の機械的振動漏れが検出感度及び/又は精度に及ぼす影響を実質的に解消し又は大幅に低減することができる。
【0035】
図5は、同じ共振周波数f=50kHzの振動ジャイロ素子11について、前記検出用振動腕の共振周波数fに関する振動漏れ信号の差|S1−S2|の変化率を示している。同図において、横軸は、前記駆動用振動腕の共振周波数fに対する面内モードでの周波数差Δf=f−fの比、F=(f−f)/f(%)である。縦軸は、F=1%の場合の振動漏れ信号の差|S1−S2|(ppm)を基準値mとして、これに対する振動漏れ信号の差m=|S1−S2|の比、M=m/mを振動漏れ変化率として表している。
【0036】
上記説明及び表1、図4から分かるように、F=1%の場合の振動漏れの差mは相当大きいから、振動漏れ変化率が小さいほど、振動漏れ信号の差mは小さく、検出感度及び精度の向上に好ましい。同図から、面内モードでの前記両振動腕の共振周波数をf<fとし、かつ周波数差の比をF≦−50%とした場合に、振動漏れ変化率は0.8以下に小さくなることが分かる。更に、周波数差の比F≦−75%の場合、振動漏れ変化率を0.6以下に小さくでき、F≦−84%では、振動漏れ変化率を0.5以下に小さくすることができる。f=50kHzであるから、F=−50%、−75%、−84%は、Δf=−25kHz、−37.5kHz、−42kHzにそれぞれ相当する。
【0037】
図6は、共振周波数f=100kHzとした同じ振動ジャイロ素子11について、前記検出用振動腕の共振周波数fに関する振動漏れ信号の差|S1−S2|の変化率を示している。同図において、横軸及び縦軸は図5と同じである。同図から、面内モードでの前記両振動腕の共振周波数をf<fとし、かつ周波数差の比をF≦−30%にすると、振動漏れ変化率は0.9以下に小さくなることが分かる。更に、周波数差の比F≦−60%の場合、振動漏れ変化率を0.8以下に小さくでき、F≦−70%では、振動漏れ変化率を0.7以下に小さくすることができる。f=100kHzであるから、F=−30%、−60%、−70%は、Δf=−30kHz、−60kHz、−70kHzにそれぞれ相当する。
【0038】
また、振動ジャイロ素子11の長手方向即ちY軸方向に沿って駆動用振動腕13a,13bの長さLdに対する支持部12の長さLbの寸法比が、駆動モードにおける前記駆動用振動腕から検出用振動腕14a,14bへの振動漏れに影響し得ることが知られている。ここで、前記駆動用振動腕の長さLdは、前記駆動用振動腕の長さLdは、図1に示すように、該振動腕の全長から錘部15a,15b及びテーパ部17a,17b,18a,18bの長さを除いた、その共振周波数を直接決定する部分の長さとする。
【0039】
そこで、駆動用振動腕の長さと支持部の長さとの寸法比Lb/Ldに関する、振動漏れ信号の差|S1−S2|(ppm)をシミューレーションにより測定した。図7は、駆動用振動腕の共振周波数f=50kHzの場合のシミューレーション結果を示している。同図から分かるように、支持部12の長さLbを駆動用振動腕の長さLdに対して約1.6倍以上に大きくすることによって、振動漏れ信号の差は、検出信号への影響が実質的に解消したか極めて小さい程度まで縮小している。
【0040】
図8は、駆動用振動腕の共振周波数f=100kHzの場合のシミューレーション結果を示している。同図から、支持部12の長さLbを駆動用振動腕の長さLdに対して約2倍以上、好ましくは約2.4倍以上に大きくすることによって、振動漏れ信号の差は、検出信号への影響が実質的に解消したか極めて小さい程度まで縮小することが分かる。
【0041】
一般に本実施例のような振動ジャイロ素子は、例えば水晶ウエハからフォトエッチングを利用した加工方法を用いて製造することができる。しかしながら、水晶等の単結晶圧電材料はエッチング異方性エッチング異方性を有するため、振動腕の断面が理想的な矩形ではなく、左右に非対称な形状になる。また、屈曲振動片の外形加工において、フォトマスクの位置合わせにずれがあると、振動腕の断面が厚さ方向に上下で非対称になる虞がある。その結果、各対の振動腕は左右で振動がアンバランスになる虞がある。更に、かかるアンバランスな振動は、各検出用振動腕からの検出信号に不要な信号成分がアンバランスに含まれる結果となり、それらを検出回路において差動増幅する際に有効に除去できないため、検出精度を低下させる虞がある。
【0042】
本実施例の振動ジャイロ素子11は、以下の加工方法を用いることによって、水晶ウエハから高精度に製造することができる。先ず、水晶ウエハの表裏全面に例えばCrの上にAuを積層した2層構造の金属膜を形成し、その上にフォトレジストを塗布しかつこれを露光、現像して振動ジャイロ素子1の外形に対応したレジストパターンに形成する。前記レジストパターンから露出した前記金属膜をウエットエッチングして、前記水晶ウエハの表裏両面に金属パターンを形成する。
【0043】
図9(A)(B)は、このようにして水晶ウエハ31の表裏両面に形成した金属パターン32を示している。同図において、想像線33a,33bは、振動ジャイロ素子1の駆動用振動腕13a,13bから錘部15a〜16a,15b〜16b及びテーパ部17a〜20a,17b〜20bを除いた左右側辺を表している。金属パターン32は、駆動用振動腕13a,13bの左右側辺33a,33bに対応する部分が所望の位置よりも外側に僅かに広く形成されている。
【0044】
次に、図9(B)に示すように、レーザー光34を水晶ウエハ31の表面又は裏面のいずれか片側から照射して、駆動用振動腕13a,13bの左右側辺33a,33bに対応する前記部分のみをアブレーション加工する。レーザー光は透明なかつ薄い水晶ウエハ31を透過するので、該ウエハ表裏両面の金属パターン32,32を同時に、かつ表裏でアライメントずれを実質的に生じることなく正確に加工することができる。
【0045】
特に、左右の駆動用振動腕13a,13bの間隔Ddを、図9(A)に示すように、レーザー光34のスポット径RLと一致させるのが好ましい。これにより、前記駆動用振動腕の隣り合う側辺33a,33bに沿って一方向にレーザー光34を一回走査するだけで、表裏両面の金属パターン32,32の前記両側辺に対応する部分を同時に加工することができる。
【0046】
次に、このように加工した金属パターンをマスクとして前記水晶ウエハをウエットエッチングし、振動ジャイロ素子11の外形形状を有する素子片を形成する。得られた前記素子片の表面に電極膜を被着させ、フォトエッチング技術を用いてパターニングし、前記駆動電極、検出電極、及びこれら電極から引き出される配線等を形成する。
【0047】
本実施例によれば、このようにして表裏両面の金属パターン32,32の前記駆動用振動腕の左右側辺33a,33bに対応する前記部分について、表裏のアライメントをより正確に合わせることができるので、駆動用振動腕13a,13bをより所望の矩形形状に近い断面形状に加工することができる。また、表裏両面の金属パターン32,32の特定の部分のみをレーザー光で加工するので、工程全体として、前記金属パターン全体をレーザー光で加工する場合に比して、加工時間を大幅に短縮しかつ加工コストを低減することができる。尚、上記実施例では、駆動用振動腕13a,13bのみをレーザー光照射により加工したが、検出用振動腕14a,14bも同様に加工することができる。
【0048】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、上述した両側音叉型以外の構造を有する振動ジャイロ素子にも、同様に適用することができる。また、本発明の振動ジャイロ素子は、水晶以外にタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、又はシリコン半導体材料から形成することができる。更に本発明の振動ジャイロ素子は、上述したように圧電素子を利用した圧電駆動式のものに限らず、静電引力を利用した静電駆動式、電磁力(ローレンツ力)による磁気駆動式、交流電圧の印加によるクーロン力で駆動する方式等、各種駆動方式のものを採用することができる。
【0049】
更に本発明は、前記振動ジャイロ素子を適当なパッケージ等に実装することによって、ジャイロセンサーに適用することができる。更に、このジャイロセンサーを搭載することによって、デジタルスチールカメラ、ビデオカメラ、ナビゲーション装置、車体姿勢検出装置、ポインティングデバイス、ゲームコントローラー、携帯電話、ヘッドマウントディスプレイ等の電子機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,11…振動ジャイロ素子、2,12…支持部、3a,3b,13a,13b…駆動用振動腕、4a,4b,14a,14b…検出用振動腕、5,22…検出回路、6a,6b,23a,23b…チャージアンプ、7,24…差動アンプ、8,25…ハイパスフィルター、9,26…ACアンプ、15a,15b,16a,16b…錘部、17a〜20a,17b〜20b…テーパ部、31…水晶ウエハ、32…金属パターン、33a,33b…想像線、側辺、34…レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、
前記支持部から並んで延出する1対の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する1対の検出用振動腕とを備え、
前記1対の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記1対の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向とは逆相で屈曲振動し、前記1対の検出用振動腕が前記面外方向に互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕とは逆相で屈曲振動する検出モードとを有し、
前記1対の検出用振動腕が、前記面内方向に互いに逆向きに前記駆動用振動腕の共振周波数fより低い所定の共振周波数fで屈曲振動するように設定され、前記駆動モードにおいて一方の前記検出用振動腕から出力される検出信号の値S1と他方の前記検出用振動腕から出力される検出信号の値S2との差|S1−S2|を小さくするように、前記共振周波数fを設定したことを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項2】
支持部と、
前記支持部から並んで延出する1対の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する1対の検出用振動腕とを備え、
前記1対の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記1対の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向とは逆相で屈曲振動し、前記1対の検出用振動腕が前記面外方向に互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕とは逆相で屈曲振動する検出モードとを有し、
前記1対の検出用振動腕が、前記面内方向に互いに逆向きに所定の共振周波数fで屈曲振動するように設定され、前記共振周波数fが、
<f、及び、|(f−f)/f|≧0.3
を満足することを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項3】
前記共振周波数fが、|(f−f)/f|≧0.4を満足することを特徴とする請求項2記載の振動ジャイロ素子。
【請求項4】
前記駆動用振動腕の長さLdに対する前記支持部の長さLbをLb/Ld≧2の範囲に設定したことを特徴とする請求項2又は3記載の振動ジャイロ素子。
【請求項5】
前記駆動用振動腕の長さLdに対する前記支持部の長さLbをLb/Ld≧3の範囲に設定したことを特徴とする請求項4記載の振動ジャイロ素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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