説明

振動フィーダ

【課題】外乱の影響を受けることなく可動台の振動変位の急激な変化を抑制可能な振動フィーダを提供する。
【解決手段】可動台21と、加振電圧に応じた加振力を可動台21に与える加振力発生手段31と、加振力指令値および加振周波数指令値を生成する制御手段4と、加振力指令値および加振周波数指令値に基づいて加振電圧を決定して加振力発生手段31に出力する加振電圧発生部32とを備えた振動フィーダであって、可動台21の振動を検出する振動センサ33を具備し、制御部4が、振動検出信号と加振電圧との位相差を検出する位相差検出部57と、位相差の制御目標としての基準位相差を外乱による可動台21の固有振動数の変化と関連づけて決定する基準位相差決定部53と、位相差検出部57による位相差と基準位相差との偏差に基づいて加振周波数指令値を決定する加振周波数決定部58とを備えるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送物を載せる搬送面を有する可動台を振動させることによって被搬送物の搬送を行う振動フィーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被搬送物を載置させる可動台を振動させることによって被搬送物の搬送を行う振動フィーダとして多くのものが知られている。
【0003】
その中でも、特許文献1のように、可動台を弾性的に支持しつつこの可動台に対して振動を与えるための加振手段として電磁石を設けたものがある。こうした電磁石に対して与える電圧を正弦波状に変化させつつ、電圧の大きさ及び周波数を変化させることによって、加振力の大きさ及び加振周波数を変化させることができるようになっている。
【0004】
さらには、こうした振動フィーダにおいては、可動台の固有振動数に合致した加振周波数でもって加振力を与えて共振現象によって可動台の振動を増大させることによって、少ない電気エネルギでより大きな振動を発生させ、効率よく被搬送物の搬送を行うことができるようにしている。
【0005】
また、可動台の振動変位の大きさを検出しつつ、この検出値を基にして加振力の大きさを変化させることによって、振動変位を一定に保つ、いわゆる定振幅制御と組み合わせたものも提案されている。
【0006】
ここで、上記のような共振現象が生じる場合には、理論的には加振力の波形に対して、振動変位の波形は90°の位相遅れが生じることが知られている。さらには、こうした振動系の有する固有振動数に対して加振周波数が小さい場合には90°より小さな位相遅れが生じ、固有振動数に対して加振周波数が大きい場合には90°より大きな位相遅れが生じることが知られている。
【0007】
そこで、こうした理論を利用して、上記のような振動フィーダにおいては加振力と、振動変位との間の位相差情報を基にして加振周波数の補正を行うことで、加振周波数を固有振動数に一致させた状態を維持させるようにした、いわゆる共振点追尾制御を行うことを可能に構成したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−180526号公報(神鋼電機)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記共振点追尾制御をより精度良く実現しようとした場合には、可動台の振動変位が安定せず、より不安定な状態になる恐れがある。
【0010】
具体的には、加振周波数を固有振動数に近づいていく場合には急激に振動が上昇し、固有振動数を通過した後には急激に振動が減少することになる。そのため、固有振動数にほぼ一致させた領域で加振周波数の制御を行った場合には、固有振動数を跨いで加振周波数の増減が繰り返されることで、振動の急激な増大および減少が繰り返されることになる。こうした場合には、可動台の振動変位が不安定となって被搬送物を安定して搬送させることが困難となる恐れがある。
【0011】
さらには、上述したように、定振幅制御を同時に用いたとしても制御遅れにより振動の変化を吸収しきれず、場合によっては振動のハンチングなどの不具合が生じる恐れもある。
【0012】
加えて、可動台の固有振動数は一定とは限らず、以下のように外乱の影響によって変化することも考えられる。
【0013】
例えば、可動台は一般にバネ等を用いて弾性支持されているために、当該バネのヘタリ等の経時変化によってバネ定数が変化して支持条件が変化する場合がある。また、可動台の振幅が一定以上に大きくなる場合には、バネの作用長が長くなるように変化することでバネ定数が低下しているとみられる場合もある。
【0014】
さらに、振動フィーダにおいては搬送する被搬送物の重量変化や、可動台と被搬送物との摩擦力の発生によって、見かけ上可動台の重量が刻一刻と変化しているようにみられる場合もある。
【0015】
このように、経時変化、動作条件、被搬送物の重量等の外乱によって、可動台の重量や支持条件が変化して可動台の固有振動数が変化する。従って、加振周波数をできる限り一定に維持しようとした場合であっても、固有振動数が加振周波数の上から下、または下から上へと跨ぐようにして変化することもあり得る。このような場合においても、上記と同様に可動台の振動変位が大きく変動することになる。
【0016】
また、こうした現象が一度発生して振動が不安定になればなるほど、上記の外乱による影響がより強大に発生して可動台の固有振動数が大きく変動し、加振周波数との一致や離間を繰り返すことで振動変位の急激な変化をより生じやすくなる。このような場合には、上記と同様、定振幅制御を同時に行っても振動の変化を吸収しきれず、場合によっては振動のハンチングなどの不具合に発展する恐れもある。
【0017】
本発明は、このような課題を有効に解決することを目的としており、具体的にはエネルギ効率の高い共振点追尾制御を行うことを前提にしつつ、外乱の影響を受けることなく可動台の振幅の急激な変化を抑制することが可能な振動フィーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0019】
すなわち、本発明の振動フィーダは、被搬送物を載置可能な搬送面を有する可動台と、入力された加振電圧に対応した加振力を前記可動台に与える加振力発生手段と、加振力指令値および加振周波数指令値を生成する制御手段と、前記制御手段より入力される加振力指令値および加振周波数指令値に基づいて前記加振電圧の大きさおよび周波数を決定して当該加振電圧を前記加振力発生手段に出力する加振電圧発生部とを備えた振動フィーダであって、前記可動台の振動を検出可能な振動センサを具備するとともに、前記制御部が、前記振動センサから得られる検出信号と前記加振電圧発生部より得られる加振電圧との位相差を検出する位相差検出部と、当該位相差の制御目標としての基準位相差を、前記搬送面に載置させた被搬送物の重量変化などの外乱による前記可動台の固有振動数の変化と関連づけて決定する基準位相差決定部と、前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に基づいて前記加振周波数指令値を決定する加振周波数決定部とを備えており、前記外乱によって前記可動台の固有振動数が変化した際に、当該固有振動数の上下のいずれか一方のみで前記加振周波数が変動するように構成したことを特徴とする。
【0020】
このように構成すると、外乱の影響による急激な振動変位の変化を生じさせることなく、安定して可動台を振動させることができるため、被搬送物をより安定して搬送させることが可能となる。
【0021】
さらに、可動台に与える加振力の周波数をより高精度に制御して、より振動変位を安定させるためには、前記基準位相差決定部を、前記可動台の振動に対する前記振動センサによる検出の遅れ量、および前記加振電圧に対する前記加振力発生手段による加振力の発生の遅れ量にも基づいて、前記基準位相差を決定するように構成することが好適である。
【0022】
また、上記の加振周波数の制御をより簡便に行うためには、前記加振周波数決定部を、前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に応じた補正量を決定し、当該補正量を前記加振周波数指令値の現在値に上乗せすることで新たな加振周波数指令値を決定するように構成することが好適である。
【0023】
また、可動台の振動変位の変化をより小さく安定させるためには、前記加振周波数決定部を、前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差を段階的に減少させるように前記補正量を決定するよう構成することが好適である。
【0024】
また、外乱による影響を避けつつエネルギ効率を向上させるためには、前記基準位相差決定部を、前記加振力発生手段により前記可動台に対して与えられる加振力に対して、当該加振力によって前記可動台に生じる振動の位相が、−88°以上−87°以下、または、−93°以上−92°以下の範囲になるように前記基準位相差を決定するよう構成することが好適である。
【0025】
さらには、可動台の振動変位を一定に保ち、より安定して被搬送物の搬送を行うことができるようにするためには、前記制御部が、制御目標としての振幅設定値を設定する振幅設定部と、前記振幅設定値と前記振動センサから得られる検出信号の大きさに基づいて前記加振力指令値を決定する加振力決定部とをさらに備えているように構成することが好適である。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した本発明によれば、エネルギ効率の高い共振点追尾制御を行わせつつ、外乱の影響を受けることなく可動台の振幅の急激な変化を抑制して、被搬送物を安定して搬送させることができる振動フィーダを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る振動フィーダのシステム構成図。
【図2】同振動フィーダの機械装置部を拡大して示す側面図。
【図3】同振動フィーダにおける電磁コイルに与える電圧と、これにより生じる電流および振動変位との関係を模式的に示すグラフ。
【図4】同振動フィーダにおける振幅と加振周波数、位相差と加振周波数との関係を模式的に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
この実施形態の振動フィーダは、図1に示すように、大きくは機械装置部2と制御部4とから構成されている。制御部4は、機械装置部2が備える加振力発生手段としての電磁コイル31に対して、加振電圧発生部としてのインバータ32を介して周期的に変動する電圧を与えることで加振力を与えて振動させることができるようになっている。
【0030】
具体的な機械装置部2の構成を、図2を基にして説明する。
【0031】
機械装置部2は、大きくはトラフとして構成された可動台21と、これを弾性的に支持する基台部22とから構成されている。また、可動台21および基台部22は各々弾性支持柱23、24によって支持されており、全体として床や地面等の設置面(図示せず)に対して弾性的に支持された状態を保つことができる。
【0032】
可動台21はその上部に被搬送物9〜9を載置するための平面状の搬送面21aが形成されており、振動を行うことで複数の被搬送物9〜9を連続して搬送させることができるようになっている。
【0033】
基台22はその内部に加振力発生手段としての電磁コイル31が設けられており、当該電磁コイル31に電圧を印加して電流を流すことによって、可動台21に対して図中の左下から右上への斜め方向に変位を生じさせることができるようになっている。この電磁コイル31に対して、インバータ32(図1参照)より正弦波状の周期的な電圧(以下、「加振電圧」と称す。)を与えることで、可動台21に周期的な加振力を与えて振動を生じさせることができる。
【0034】
このようにして、可動台21を図中の左下から右上への斜め方向に振動させることによって、搬送面21aに載せた被搬送物9〜9を連続して図中の右方向に搬送させていくことができる。
【0035】
上記の加振力の大きさを示す振幅は与える電圧の振幅にほぼ比例し、加振力の周波数は電圧の周波数と一致する。そのため、電磁コイル31に与えるインバータ32(図1参照)からの電圧によって、加振力の大きさおよび周波数は制御されているものといえる。以下、この電圧を「加振電圧」と称す。
【0036】
また、基台22には振動センサ33が設けられている。この振動センサ33としては、基台22の側より可動台21の相対変位を検出する変位センサを用いており、その相対変位をアナログ信号として出力することが可能となっている。
【0037】
本実施形態においては、可動台21と基台22の重量や、弾性支持柱23と弾性支持柱24の支持条件を異ならせることによって、電磁コイル31による加振力が作用している際に基台22の変位をほとんど生じさせず、専ら可動台21のみを振動させるように構成している。そのため、上記振動センサ33によって検出する相対変位はほぼ可動台21の振動変位と等しくなっている。
【0038】
上記のように構成された機械装置部2を駆動させるため、図1のようにインバータ32が設けられている。このインバータ32からは電磁コイル31に対して加振電圧が出力される。そして、このインバータ32に対して制御部4によって生成された加振力指令値および加振周波数指令値が与えられ、当該インバータ32はそれらの指令値に対応するようにして加振電圧の大きさおよび周波数を決定して電磁コイル31に対して出力を行うようになっている。
【0039】
機械装置部2は、スイッチ82、83を切り替えることにより、3つの制御モードのいずれかを選択して動作させることが可能となっている。
【0040】
第一の制御モードは定電圧モードであり、これを実行する定電圧モード実行部41が制御部4の中に設けられている。この定電圧モード実行部41の中には、定周波数指令値設定部51および定電圧指令値設定部52が設けられている。定周波数指令値設定部51では、一定値として加振周波数指令値を設定して、スイッチ83を通じてインバータ32に出力することができるようになっている。また、定電圧指令値設定部52では、一定値として加振力指令値としての電圧幅の指令値を設定して、スイッチ82を通じてインバータ32に出力することができるようになっている。
【0041】
このようにして各々一定値とされた加振周波数指令値および加振力指令値を入力され、これに対応してインバータ32は、一定の大きさおよび周波数を保ちつつ加振電圧を電磁コイル31に対して出力するようになる。
【0042】
第二の制御モードは定振幅モードであり、これを実行する定振幅モード実行部42が制御部4の中に設けられている。なお、当該定振幅モード実行部42には、上記定電圧モード実行部41の一部を構成する定周波数指令値設定部51が含まれている。このように本実施形態に係る制御部4は、特定の機能部分を複数の制御モード実行部によって共通して使用するように構成してある。
【0043】
この定振幅モードは、加振電圧の周波数を一定値とした上で、加振電圧の大きさを振動センサ33により検出する可動台21の振動変位を基にして、当該振動変位を一定とするようにしてフィードバック制御するものである。そのために、振動センサ33による検出信号を増幅器81によって増幅した後に振幅検出部55に入力して、この振幅検出部55によって振動変位(振幅)として変換を行う。そして振動変位データとして加振力決定部56に対して出力を行う。
【0044】
振動変位(振幅)の目標値は、振幅設定部54によって設定を行うことが可能に構成されている。そして、振幅設定部54によって設定された振動変位の目標値は加振力決定部56に対して出力される。
【0045】
加振力決定部56では、振動変位(振幅)の目標値と、振動センサ33より振幅検出部を介して得た現実の振動変位検出値とを比較することによって、加振力を維持または増減させるかを判断して、加振力指令値としての電圧幅の指令値を決定し、スイッチ82を介してインバータ32に出力する。
【0046】
第三の制御モードは共振点追従モードであり、これを実行する共振点追従モード実行部43が制御部4の中に設けられている。なお、この共振点追従モード実行部43には、上記定振幅モード実行部42の一部を構成する定振幅設定部54、振幅検出部55および加振力決定部56が含まれている。
【0047】
この共振点追従モードは、上記のような可動台21の振動変位(振幅)の大きさを一定にするためのフィードバック制御に、可動台21の共振点(固有振動数)の変化に対応して加振電圧の周波数を変化させるフィードバック制御を加えたものである。
【0048】
そのため、振動センサ33により得られる可動台21の振動検出値を増幅器81を介して入力されるとともに、インバータ32より出力される加振電圧を入力され、両者の間の位相差を検出する位相差検出部57が設けられている。さらに、位相差検出部57によって検出した位相差は、加振周波数決定部58に対して出力される。こうした実際の検出値としての位相差に対して、制御目標としての基準位相差を決定する基準位相差決定部53が設けられている。
【0049】
位相差検出部57により得られる検出した位相差と、基準位相差決定部53により決定された基準位相差はともに加振周波数決定部58に出力され、この加振周波数決定部58では、検出した位相差と基準位相差との偏差に基づいて加振周波数指令値を決定し、スイッチ83を通じてインバータ32に出力するように構成されている。
【0050】
このように構成することによって、共振点追従モードでは可動台21の共振点(固有振動数)が変化した場合であっても、その共振点の近くに加振周波数を変更するようにフィードバック制御を行うことで、少ない電気エネルギで効率よく可動台21に対して振動を生じさせることができるようになっている。
【0051】
また、この共振点追従モードにおいては、上述した定振幅モード実行部42と共通する一部の機能を備えることによって、振動センサ33による検出信号を基に振幅検出部55によって振動変位(振幅)を検出しつつ、その振動変位と振幅設定部54によって設定された振幅との偏差に基づいて加振力決定部56が加振力指令値としての電圧幅の指令値を決定し、インバータ32に出力することで可動台21の振動変位を一定にすることができるようになっている。
【0052】
ここで、上記共振点追従モードにおいて、位相差をもとにして加振周波数を決定する手法について詳細に説明する。
【0053】
まずは、図1を参照しつつ図3を基に、振動の位相についての理論上の考え方を説明する。
【0054】
加振電圧発生部としてのインバータ32より与える加振電圧(コイル電圧)を図3(a)のような正弦波状のものとして、加振力発生手段としての電磁コイル31に与えた場合、この電磁コイル31を流れる電流(コイル電流)は図3(b)のようになる。
【0055】
すなわち、電磁コイル31を流れる電流は、加振電圧の周波数と一致した波形を示すものの、電圧に対して90°分の位相遅れを生じる。電磁コイル31により発生する加振力は電流値に比例するものであるために、図3(b)で示す波形のグラフは加振力の波形を示すグラフということもできる。
【0056】
さらに、この加振力の波形に対する振動変位の波形の関係は図3(c)のように表される。ここで、図中におけるfは加振力の周波数を示し、f0は固有振動数を示す。すなわち、図中のAで示した線のように、加振力の周波数(加振周波数)が固有振動数と一致する場合にはその振動変位の位相は加振力に対して90°の位相遅れが生じる。また、図中のBで示す線のように、加振力の周波数(加振周波数)が固有振動数よりも小さい場合には、振動変位の位相の加振力の位相に対する遅れ量は90°よりも小さくなる。さらには、図中のCで示す線のように、加振力の周波数が固有振動数よりも大きい場合には、振動変位の位相の加振力の位相に対する遅れ量は90°よりも大きくなる。
【0057】
なお、以上に述べた振動変位の位相遅れ量は、加振力(コイル電流)ではなく、加振電圧(コイル電圧)を基準とする場合には、さらに90°の位相遅れがあることになり、固有振動数と加振電圧の周波数が一致する点においては、振動変位は加振電圧に対して180°の位相遅れが生じることになる。
【0058】
上記のような理論を基にして、上述の共振点追尾制御は加振周波数指令値の決定を行うようにしている。
【0059】
その具体的な内容を、図1を参照しつつ図4を用いて説明する。
【0060】
可動台21の振動変位(振幅)の加振周波数fに対する関係を図4(a)に示す。すなわち、加振周波数fが増加していき、可動台21の固有振動数f0に近接するに従って急激に振動は増加し、固有振動数f0に一致した点で振動変位が最も大きくなり、固有振動数f0を越え離間して行くにつれ急激に振動変位が減少していく。
【0061】
このような、振動変位の変化を招く加振周波数の変化とともに、位相差は図4(b)、図4(c)のように変化する。図4(b)では、加振力(コイル電流)に対する振動変位の位相差θiを縦軸にして示しており、上述したように固有振動数と一致するf=f0の箇所で位相差は−90°となり、この点を境にしてf0よりも加振周波数が小さい場合には位相差が大きく(位相遅れ量が小さく)なり、f0よりも加振周波数が大きい場合には位相差が小さく(位相遅れ量が大きく)なる。
【0062】
同様に、図4(c)では、加振電圧(コイル電圧)に対する振動変位の位相差θvを縦軸にして示しており、上述したように固有振動数と一致するf=f0の箇所で位相差は−180°となり、この点を境にしてf0よりも加振周波数が小さい場合には位相差が大きく(位相遅れ量が小さく)なり、f0よりも加振周波数が大きい場合には位相差が小さく(位相遅れ量が大きく)なる。
【0063】
このように加振電圧(コイル電圧)に対する振動変位の位相差を検出することによって、−180°より大きい場合には固有振動数に対して加振周波数が小さいことを、−180°よりも小さい場合には固有振動数に対して加振周波数が大きいことを判別することができ、この位相差を−180°に合わせるようにフィードバック制御することで原理的には固有振動数に加振周波数を合致させるよう制御することが可能である。
【0064】
しかしながら、上述したように固有振動数付近での制御は振動変位が急激に増大することから制御が不安定となるおそれがある。また、加振周波数側を固有振動数近くで一定にとどめた場合であっても、可動台21の支持条件や、被搬送物の重量等の外乱の影響によって、固有振動数そのものが上下に変動する可能性がある。このような場合には、やはり加振周波数と固有振動数が一致することで振動変位が急激に増大し、離間することで振動変位が減少するような現象が生じ、上記と同様に振動変位が安定せず制御が不安定となる。
【0065】
そこで、本実施形態における基準位相差決定部53においては、加振電圧(コイル電圧)に対する振動変位の位相差の制御目標である基準位相差を−180°ではなく、外乱の影響と関連づけることにより、−180°よりずらしたθv1に決定するようにされている。基準位相差θv1では加振周波数f1が指令値として出力される。外乱が生じた場合には、基準位相差θv1を中心としてΔθv1の幅で位相差が変動し、これと対応するようにして加振周波数はf1を中心としてΔf1の幅で変動する。
【0066】
また、加振周波数の変動と同時に固有振動数f0も変動するが、これが最も大きく変動して低下した場合であっても、f1+Δf1/2を下回ることがないように基準位相差θv1を設定するようになっている。
【0067】
さらに、こうした位相差の検出値においては、可動台21の振動を振動センサ33により検出する際の検出遅れや、加振電圧に対して実際の電磁コイル31により発生する加振力の遅れによって誤差が生じる。そのため、本実施形態における基準位相差決定部53においては、これらの遅れ量を実測した数値を入力されることで、これらを基準位相差に反映するように構成している。そのため誤差の影響を受けることなく位相差を検出することによって、加振周波数と固有振動数との関係を的確に把握することができる。
【0068】
以上のように構成することによって、外乱が生じた場合であっても可動台21の固有振動数と加振周波数とは近接した状態を保ちつつ、加振周波数が固有振動数に対して下側に位置した状態を維持して、両者が完全に一致する状態を避けることができるために、振動変位が急激に増大および減少を繰り返し不安定になることを回避することが可能となっている。
【0069】
なお、同様の考えに基づいて、基準位相差決定部53により基準位相差を−180°よりも小さなθv2として設定させることによっても、加振周波数が固有振動数に対して上側に位置した状態を維持して、両者が完全に一致する状態を避けることができるために、振動変位を安定化させることが可能である。
【0070】
上記のような、位相差に基づく加振周波数の制御は、加振電圧に対する振動変位の位相差ではなく、加振力すなわちコイル電流に対する振動変位の位相差に基づいて行うことも可能である。この場合には、上記の位相差より90°ずらして考えれば良く、固有振動数と加振周波数とが一致する点を−90°として考えれば良い。
【0071】
このような場合であっても、上記のような加振電圧に対する位相差θv1、θv2に対応するものとして、加振電流に対する位相差θi1、θi2を考え、これを基準位相差として制御に用いれば良い。
【0072】
加振電流に対する位相差θi1、θi2を基準として考えた場合、各々−88°≦θi1≦−87°、−93°≦θi2≦−92°の関係することが好適である。このようにすることで、加振周波数を固有振動数近くに維持させたままで、外乱の影響を生じさせず可動台21の振動変位が急激に変動することを抑制することが可能となっている。
【0073】
また、本実施形態において、図1に示した加振周波数決定部58は、基準位相差決定部53から入力される基準位相差と、位相差検出部57より入力される位相差との偏差を算出して、その偏差に基づいて加振周波数を決定するように構成されている。具体的には、その偏差量の大きさに応じて、加振周波数の現在値に対して上乗せを行うように加振周波数指令値を決定するとともに、当該偏差量を段階的に無くしていくように構成している。そのため、偏差量が大きい場合には加振周波数を大きく変化させるものの、目標の加振周波数にまではやや時間を掛けて一致させるようにしてある。このようにすることで、振動変位の急激な変化をより抑制して、制御が不安定となることを防止している。
【0074】
上記のように構成した振動フィーダ1は、スイッチ82、83を切り換えることで3つのモードで動作させることができる。
【0075】
まず、第一のモードの定電圧モードで運転する場合には、一定の加振周波数および加振力を与えつつ、簡単に可動台21を動作させることが可能となる。ただし、このモードでは、被搬送物の重量や大きさ等の条件によっていかなる振動変位が発生するかは不明となる。
【0076】
次に、第二のモードである定振幅モードにおいては、一定の加振周波数で振動を与えつつ、振動変位が設定値となるように加振力の大きさを自動的に変更しつつ制御する。これにより、一定の振動変位を維持することができるもののエネルギ効率が低くなる傾向にある。
【0077】
第三のモードである共振点追従モードにおいては、可動台21の固有振動数(共振周波数)に近い領域の基準位相差を設定して、これを制御目標値として加振周波数を設定しているために、少ないエネルギで大きな振動変位をえることができてエネルギ効率が良い。さらには、外乱の影響を受けて固有振動数が変化した場合においても、さらには制御幅として加振周波数が変動した場合であっても、固有振動数と加振周波数とが一致しない程度に基準位相差を固有振動数に相当する位相差よりずらして設定しているために、急激な振動変位の増大や減少が生じて振動変位が不安定になるなどの恐れがない。また、定振幅制御と組み合わせた場合には、定振幅制御のハンチングを生じることもない。
【0078】
加えて、加振電圧より実際に加振力が発生するまでの時間遅れおよび、実際の振動と振動センサ33による検出の時間遅れ量を加味して、上記基準位相差を設定しているため、より制御の精度を向上させて、上記の効果を高めることが可能となっている。さらに、位相差の偏差を基にして、その偏差を段階的になくすようにして加振周波数指令値に補正を加えるようにしていることから、より振動変位を安定して制御することが可能となっている。
【0079】
以上のように、本実施形態に係る振動フィーダ1は、被搬送物9を載置可能な搬送面21aを有する可動台21と、入力された加振電圧に対応した加振力を前記可動台21に与える加振力発生手段31と、加振力指令値および加振周波数指令値を生成する制御手段4と、前記制御手段4より入力される加振力指令値および加振周波数指令値に基づいて前記加振電圧の大きさおよび周波数を決定して当該加振電圧を前記加振力発生手段31に出力する加振電圧発生部32とを備えた振動フィーダ1であって、前記可動台21の振動を検出可能な振動センサ33を具備するとともに、前記制御部4が、前記振動センサ33から得られる検出信号と前記加振電圧発生部32より得られる加振電圧との位相差を検出する位相差検出部57と、当該位相差の制御目標としての基準位相差を、前記搬送面21aに載置させた被搬送物9の重量変化などの外乱による前記可動台21の固有振動数の変化と関連づけて決定する基準位相差決定部53と、前記位相差検出部57より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に基づいて前記加振周波数指令値を決定する加振周波数決定部58とを備えており、前記外乱によって前記可動台21の固有振動数が変化した際に、当該固有振動数の上下のいずれか一方のみで前記加振周波数が変動するように構成したことを特徴とするものである。
【0080】
このように構成しているため、外乱の影響を受けることなく可動台21の振動変位の急激な増大や減少を抑制して、安定した振動を生じさせることが可能となる。
【0081】
また、前記基準位相差決定部53を、前記可動台21の振動に対する前記振動センサ33による検出の遅れ量、および前記加振電圧に対する前記加振力発生手段32による加振力の発生の遅れ量にも基づいて、前記基準位相差を決定するように構成しているため、より精度良く加振周波数の制御を行うことができるため、可動台21の急激な振動変位の変化をより一層抑制することができる。
【0082】
また、前記加振周波数決定部58を、前記位相差検出部57より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に応じた補正量を決定し、当該補正量を前記加振周波数指令値の現在値に上乗せすることで新たな加振周波数指令値を決定するように構成しているため、より簡便に加振周波数を設定して振動変位の制御を行うことが可能となる。
【0083】
さらに、前記加振周波数決定部58を、前記位相差検出部57より得られる位相差と前記基準位相差との偏差を段階的に減少させるように前記補正量を決定するよう構成しているため、加振周波数の変化を緩やかにして可動台21の振動変位の急激な変化を一層抑制することでき、より安定して制御を行うことが可能となる
【0084】
また、前記基準位相差決定部53を、前記加振力発生手段31により前記可動台21に対して与えられる加振力に対して、当該加振力によって前記可動台21に生じる振動の位相が、−88°以上−87°以下、または、−93°以上−92°以下の範囲になるように前記基準位相差を決定するよう構成しているため、外乱による影響を避けてより安定的に制御を行うことが可能となる。
【0085】
さらに、前記制御部4が、制御目標としての振幅設定値を設定する振幅設定部54と、前記振幅設定値と前記振動センサ33から得られる検出信号の大きさに基づいて前記加振力指令値を決定する加振力決定部56とをさらに備えるようにして構成したため、可動台21の振動変位を一定に保つことができ、より安定して被搬送物9の搬送を行うことができるようになる。
【0086】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0087】
上記の実施形態においては振動検出センサ33として変位センサを用いていたが、可動台21の振動変位を検出することが可能である限り、こうしたタイプのものを用いることは必須とはいえない。例えば、変位センサに代わり振動速度や振動加速度を検出するものを用いた構成としても、振動の周波数を判別することができるとともに、積分器等と組み合わせることによって振動変位の大きさを判別することもできるため差し支えない。
【0088】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…振動フィーダ
2…機械装置部
4…制御部
9…被搬送物
21…可動台
21a…搬送面
31…電磁コイル(加振力発生手段)
32…インバータ(加振電圧発生部)
33…振動センサ
53…基準位相差決定部
54…振幅設定部
55…振幅検出部
56…加振力決定部
57…位相差検出部
58…加振周波数決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物を載置可能な搬送面を有する可動台と、
入力された加振電圧に対応した加振力を前記可動台に与える加振力発生手段と、
加振力指令値および加振周波数指令値を生成する制御部と
前記制御部より入力される加振力指令値および加振周波数指令値に基づいて前記加振電圧の大きさおよび周波数を決定して当該加振電圧を前記加振力発生手段に出力する加振電圧発生部とを備えた振動フィーダであって、
前記可動台の振動を検出可能な振動センサを具備するとともに、
前記制御部が、
前記振動センサから得られる検出信号と前記加振電圧発生部より得られる加振電圧との位相差を検出する位相差検出部と、
当該位相差の制御目標としての基準位相差を、前記搬送面に載置させた被搬送物の重量変化などの外乱による前記可動台の固有振動数の変化と関連づけて決定する基準位相差決定部と、
前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に基づいて前記加振周波数指令値を決定する加振周波数決定部とを備えており、
前記外乱によって前記可動台の固有振動数が変化した際に、当該固有振動数の上下のいずれか一方のみで前記加振周波数が変動するように構成したことを特徴とする振動フィーダ。
【請求項2】
前記基準位相差決定部を、前記可動台の振動に対する前記振動センサによる検出の遅れ量、および前記加振電圧に対する前記加振力発生手段による加振力の発生の遅れ量にも基づいて、前記基準位相差を決定するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の振動フィーダ。
【請求項3】
前記加振周波数決定部を、前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差に応じた補正量を決定し、当該補正量を前記加振周波数指令値の現在値に上乗せすることで新たな加振周波数指令値を決定するように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の振動フィーダ。
【請求項4】
前記加振周波数決定部を、前記位相差検出部より得られる位相差と前記基準位相差との偏差を段階的に減少させるように前記補正量を決定するよう構成したことを特徴とする請求項3に記載の振動フィーダ。
【請求項5】
前記基準位相差決定部を、前記加振力発生手段により前記可動台に対して与えられる加振力に対して、当該加振力によって前記可動台に生じる振動の位相が、−88°以上−87°以下、または、−93°以上−92°以下の範囲になるように前記基準位相差を決定するよう構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の振動フィーダ。
【請求項6】
前記制御部が、制御目標としての振幅設定値を設定する振幅設定部と、
前記振幅設定値と前記振動センサから得られる検出信号の大きさに基づいて前記加振力指令値を決定する加振力決定部とをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の振動フィーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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