説明

振動ローラ車両の転圧ローラ及びその製造方法

【課題】転圧ローラの振動機能及び強度を損なうことなく転圧ローラから発生される騒音を低減することができる振動ローラ車両の転圧ローラ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】転圧ローラ6内にて反響する音を吸音するための吸音ユニット40は、第1の隔壁26の内側面36に取り付けたサイド吸音シート46と、第2の隔壁28の内側面38側に取り付けた本体部及び該本体部からドラム室30の長手方向に沿って延びている先端部とからなる吸音体48と、内筒24の外周面34及び外筒22の内周面32にそれぞれ取り付けられ、全長が内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シート44、42とを有し、インナ及びアウタ吸音シートは、第1の隔壁側の端部にてサイド吸音シートと密着し、且つ第2の隔壁側の端部にて吸音体の先端部とのみ密着して重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎地盤を締め固めるための振動ローラ車両の転圧ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転圧車両に関する発明が特許文献1に開示されている。この転圧車両は、車体と、この車体に配設された前輪又は後輪の少なくとも一方を兼用する中空円筒形状の転圧ローラと、車体の上部に配設された運転席とを備える。
このような転圧車両のひとつとして振動ローラ車両があり、この振動ローラ車両は、転圧ローラの内部に配置された起振装置により転圧ローラを振動させ、この転圧ローラの振動により地盤を締め固める。ここでの起振装置は、例えば、振動モータと、この振動モータの出力軸に接続されて、偏心錘が外周部に形成された起振軸とを備えたものである。振動モータが駆動され、起振軸が回転することにより発生する偏心モーメントにより転圧ローラは振動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−146716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の振動ローラ車両を用いて地盤の転圧作業を実施する際、例えば転圧ローラが砕石を踏みつける音が転圧ローラの内部に空気振動として伝わり、転圧ローラの内部にて反響する。一方、起振装置から発生する音、例えば、振動モータ及び起振軸の駆動音もまた転圧ローラの内部にて反響する。したがって、転圧作業において転圧ローラの内外で発生する音が転圧ローラ内にて大きくなる。そして、このような反響音が転圧ローラの外部に伝わることにより振動ローラ車両の周囲、即ち、作業現場における騒音となる。また、このような騒音は運転席にて振動ローラ車両を操縦する作業者にとって転圧作業の妨げとなり、その作業性を低下させる。
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであって、転圧ローラの振動機能及び強度を損なうことなく転圧ローラから発生される騒音を低減することができる振動ローラ車両の転圧ローラ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、請求項1の発明では、地盤を転圧する転圧面を形成する外筒と、該外筒内に収められ、前記外筒と同心的に配置された内筒と、前記外筒の軸方向に対して直交し、前記内筒の端面に密着して、前記内筒と前記外筒との間における空間を左右からそれぞれ閉塞する第1及び第2の隔壁と、前記内筒、前記外筒、前記第1及び第2の隔壁で囲まれたドラム室と、前記ドラム室内に配設され、前記ドラム室内にて反響する音を吸音するための吸音ユニットとを備えた振動ローラ車両の転圧ローラにおいて、前記吸音ユニットは、前記第1の隔壁の内側面に取り付けたサイド吸音シートと、前記第2の隔壁の内側面側に取り付けた本体部及び該本体部から前記ドラム室の長手方向に沿って延びている先端部とからなる吸音体と、前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付けられ、全長が前記内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シートとを有し、前記インナ及びアウタ吸音シートは、前記第1の隔壁側の端部にて前記サイド吸音シートと密着し、且つ前記第2の隔壁側の端部にて前記吸音体の前記先端部とのみ密着して重なっていることを特徴とする振動ローラ車両の転圧ローラを提供する。
【0007】
また、請求項2の発明では、前記インナ吸音シート、前記アウタ吸音シート、前記サイド吸音シート及び吸音体は発砲樹脂により成型されていることを特徴としている。
また、請求項3の発明では、外筒とともに二重管構造を形成する内筒の一方の端部に前記外筒の内径と略等しい外径を有する第1の隔壁を取り付けて前記内筒と前記第1の隔壁とを一体とする第1の工程と、この一体となった前記内筒及び第1の隔壁を前記外筒の内部に同心的に配置して前記外筒と前記第1の隔壁とを溶接により接合する第2の工程と、前記内筒と前記外筒との間であって、前記第1の隔壁の内側面全域にサイド吸音シートを取り付け、その後、全長が前記内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シートをそれぞれ前記内筒と外筒との間に入れ込んだ後、それぞれの前記インナ及びアウタ吸音シートの一方の端部を前記サイド吸音シートと密着させつつ、前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付ける第3の工程と、前記外筒の内径と略等しい外径を有する第2の隔壁を用意し、該第2の隔壁に対して離間した位置に吸音体を取り付け、前記吸音体を前記第2の隔壁から離間した状態を保ちながら前記インナ及びアウタ吸音シートの間に密着させながら挿入するように前記第2の隔壁を前記外筒内に挿入する第4の工程と、前記第2の隔壁と前記外筒とを溶接して接合する第5の工程と、前記吸音体が形成する本体部を前記第2の隔壁側に密着するまで前記吸音体を前記第2の隔壁に向けて移動させ、前記吸音体の先端部を前記インナ及びアウタ吸音シート間に密着して重なった状態にする第6の工程とを備えたことを特徴とする振動ローラ車両の転圧ローラの製造方法を提供する。
【0008】
また、請求項4の発明では、前記第4の工程にて、前記吸音体は前記第2の隔壁に対して長尺の第1のボルトにて取り付けられていて、前記第6の工程にて、前記吸音体の移動は前記第1のボルトを引き抜くことにより行い、前記第6の工程の後、前記第1のボルトを第1のボルトより短い第2のボルトに交換することにより前記吸音体を前記第2の隔壁側に密着させることを特徴としている。
【0009】
また、請求項5の発明では、前記第3の工程にて、前記インナ及びアウタ吸音シートを前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付けた後、前記インナ及びアウタ吸音シートをそれぞれ前記内筒及び外筒に向けて押し付ける押し当て部材を配設することを特徴としている。
また、請求項6の発明では、前記第3の工程にて、前記インナ吸音シートを前記内筒の外周面に取り付けた後、前記インナ吸音シートの外側からバンドを巻き付けて前記インナ吸音シートを前記内筒に固定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、転圧ローラのドラム室内には、内筒の外周面及び外筒の内周面の少なくとも第2の隔壁側の端部を残して周方向全域に亘って密着しているインナ及びアウタ吸音シートと、第1の隔壁の内側面に密着し、且つ、第1の隔壁側のインナ及びアウタ吸音シートの端部と接触して連続したドラム室の壁面を形成するサイド吸音シートと、第2の隔壁の内側面に密着し、且つ、インナ及びアウタ吸音シートの間に密着して挿入されている吸音体とが備わる。このため、各吸音シート及び吸音体からなる吸音ユニットは協働してドラム室全域を囲っていることになり、転圧ローラの内部で反響する音をドラム室内にて効果的に吸音することができる。これにより、転圧ローラ内での音の反響が低減され、転圧ローラ内から転圧ローラの外部へ伝わる音が小さくなる。したがって、転圧作業における低騒音化が実現される。また、このような低騒音化が実現されれば、転圧作業に対する妨げとなることがなく、その作業性が向上する。
【0011】
また、インナ吸音シート、アウタ吸音シート、サイド吸音シート及び吸音体で囲まれた領域には空間が確保されている。即ち、ドラム室内に吸音物質を充填する構造とはなっていない。このため、車体重量の増加を招くことなく上述した低騒音化を図ることができる。
さらに、各吸音シート及び吸音体は内筒、外筒、第1及び第2の隔壁により閉塞されたドラム室内に配設されているので、これら吸音シート及び吸音体に対する泥や埃等の汚れの付着を防止することができ、各吸音シート及び吸音体の吸音効果を維持することができる。したがって、低騒音化を継続的に実現することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、インナ吸音シート、アウタ吸音シート、サイド吸音シート及び吸音体は軽量の発砲樹脂により成型されているため、車体重量の増加を招くことなく上述した低騒音化を実現することができる。
請求項3の発明によれば、第3の工程にて、全長が内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シートのそれぞれの一方の端部を第1の隔壁に密着しているサイド吸音シートに密着させるので、インナ及びアウタ吸音シートの第2の隔壁側の端部は第2の隔壁から離間している。また、第4の工程にて、第2の隔壁に対して離間させた位置に吸音体を取り付け、この状態で吸音体をインナ及びアウタ吸音シートの間に密着させながら挿入するように第2の隔壁を外筒内に挿入している。この後、第5の工程にて第2の隔壁と外筒とを溶接して接合する。このため、溶接する際に、各吸音シート及び吸音体と第2の隔壁との間には所定の空間が確保されている。これにより、第5の工程での溶接で発生する熱が各吸音シート及び吸音体に対して影響を与えることはない。したがって、転圧ローラの強度や振動性能を低下させることなく転圧ローラを製造することができる。
【0013】
また、第6の工程において、吸音体を第2の隔壁の内側面に向けて移動させ、インナ及びアウタ吸音シート間に嵌合させた状態、且つ、該内側面に密着させた状態にて固定するため、各吸音シート及び吸音体は協働して内筒、外筒、第1の隔壁及び第2の隔壁により囲まれる空間、即ち、ドラム室における軸方向全域に亘って位置付けられている。その結果、ドラム室全域に亘って吸音効果を発揮する転圧ローラを製造することができる。これにより、転圧作業中、転圧ローラ内での音の反響が低減され、転圧ローラ内から転圧ローラの外部へ伝わる音が小さくなる。したがって、転圧作業における低騒音化が実現される。また、このような低騒音化が実現されれば、転圧作業に対する妨げとなることがなく、その作業性が向上する。
【0014】
請求項4の発明によれば、第6の工程にて、吸音体を第2の隔壁の内側面に密着させた後、第1のボルトを取り外し、この第1のボルトと第2のボルトとを交換して第2のボルトにより吸音体を第2の隔壁の内側面に固定するため、各吸音シート及び吸音体は協働して第1及び第2の隔壁間の全域に亘って確実に位置付けることができる。また、第2のボルトと交換することで、長尺の第1のボルトを引き抜いた際に第2の隔壁から突出した部分を除去できる。
【0015】
請求項5の発明によれば、第3の工程にて、インナ及びアウタ吸音シートを内筒の外周面及び外筒の内周面にそれぞれ取り付けた後、インナ及びアウタ吸音シートを内筒及び外筒に向けて押し付ける押し当て部材を配設するため、インナ及びアウタ吸音シートを内筒の外周面及び外筒の内周面に確実に密着させることができる。したがって、インナ及びアウタ吸音シートの剥がれ落ちを防止することができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、第3の工程にて、インナ吸音シートを内筒の外周面に取り付けた後、インナ吸音シートの外側からバンドを巻き付けてインナ吸音シートを内筒に固定するため、簡単な方法でインナ吸音シートを内筒の外周面に確実に密着させた状態にて内筒に固定することができる。これにより、インナ吸音シートの剥がれ落ちを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る振動ローラ車両の転圧ローラを備えた振動ローラ車両の側面図である。
【図2】図1の矢印II-II線図である。
【図3】図2の矢印III-III線図である。
【図4】図2の矢印IV-IV線図である。
【図5】図2の矢印V-V線図である。
【図6】図2の矢印VI-VI線図である。
【図7】外筒の断面図である。
【図8】一体化した内筒と第1の隔壁との断面図である。
【図9】一体化した内筒と第1の隔壁とを外筒内に収容した際の断面図である。
【図10】サイド、インナ及びアウタ吸音シートが取り付けられた際の転圧ローラの断面図である。
【図11】インナ及びアウタ吸音シートが取り付けられた転圧ローラの概略斜視図である。
【図12】吸音体及び第2の隔壁の概略斜視図である。
【図13】吸音体をインナ及びアウタ吸音シート間に挿入する際の断面図である。
【図14】第2の隔壁と外筒とを溶接して接合する際の断面図である。
【図15】吸音体を第2の隔壁の内側面に向けて移動させた際の断面図である。
【図16】吸音体を第2の隔壁の内側面に密着させて固定した際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るに振動ローラ車両の転圧ローラ及びその製造方法について図面を参照して説明する。
図1を参照すれば、振動ローラ車両1は、フロントフレーム2とリアフレーム4とを備えている。フロントフレーム2は、前輪を兼用する転圧ローラ6を有し、この転圧ローラ6は、フロントフレーム2に回転自在に支持されている。リアフレーム4は左右一対の後輪8を有し、これら後輪8はリアフレームの両側にそれぞれ回転可能に配置されている。また、フロントフレーム2及びリアフレーム4はステアリングリンク10を介して関節方式より互いに連結されている。
【0019】
リアフレーム4の上部にはキャブ12が配設されており、このキャブ12は運転席及びステアリングハンドル等(図示しない)を有している。このステアリングハンドルの操作により、フロントフレーム2はリアフレーム4に対し左右に回動し、その操向が制御される。
このキャブ12の後方にはエンジン(図示しない)が配置され、このエンジンは開閉可能なエンジンカバー14に覆われている。また、リアフレーム4の後端部には燃料タンク及び作動油タンクがそれぞれ配置されている。
【0020】
エンジンの近傍には油圧ポンプ(図示しない)が配置されている。この油圧ポンプはエンジンにより駆動され、転圧ローラ6及び後輪8の車軸を回転させる走行用モータ16(図2参照)や、転圧ローラ6に振動を与えるための起振装置等の油圧機器に向けて、作動油タンク内から吸い上げた作動油を供給する。
以下、図2〜図6を参照して転圧ローラ6について詳述する。
【0021】
図2を参照すると、転圧ローラ6は、地盤を転圧する転圧面を形成する外筒22と、この外筒22内に収められ、外筒22と同心的に配置された内筒24とを備えている。したがって、転圧ローラ6は、外筒22及び内筒24からなる二重管構造を有している。
外筒22内には、外筒22の軸方向に対して直交し、内筒24の端面に密着して、内筒24と外筒22との間における空間を左右からそれぞれ閉塞する第1及び第2の隔壁26、28がそれぞれ配設されている。このため、転圧ローラ6内には外筒22、内筒24、第1及び第2の隔壁26、28で囲まれたドラム室30が形成されている。
【0022】
また、転圧ローラ6内の軸方向における両端部にはそれぞれ、前述した走行モータ16及び起振装置が配設されている。走行用モータ16は、転圧ローラ6の第1の隔壁26側の端部に配置され、フロントフレーム2に支持ブラケット70を介して支持されている。走行用モータ16の出力部にはドライブプレート71が取り付けられており、このドライブプレート71は、外筒22及び第1の隔壁26のそれぞれにて固定されている屈曲板73に防振ゴム72を介して連結されている。したがって、走行用モータ16は、ブラケット71、防振ゴム72及び屈曲板73を介して外筒22、即ち、転圧ローラ6を回転させる。
【0023】
一方、起振装置は転圧ローラ6の第2の隔壁28側の端部に配置され、第2の隔壁28にボルトを介して取り付けられたハウジング74により支持されている。詳しくは、起振装置は、振動モータ18と、この振動モータ18の出力部に接続された起振軸20とを備えている。振動モータ18の出力部はハウジング74にベアリングを介して支持されている。また、ハウジング74にはベアリングを介してブラケット75が取り付けられており、このブラケット75はフロントフレーム2に取り付けられた支持ブラケット77に防振ゴム76を介して支持されている。
【0024】
起振軸20は内筒24内を転圧ローラ6の軸方向に延び、振動モータ18の出力部に接続された端部と反対側の先端部は、第1の隔壁26に取り付けられたハウジング78にベアリングを介して回転可能に支持されている。起振軸20の外周部には2つの偏心錘19がボルトを介して取り付けられており、これら偏心錘19は起振軸20の軸方向に互いに離間して配置されている。したがって、振動モータ18が駆動され、偏心錘19を有する起振軸20が回転することにより、ハウジング74、78、第1及び第2の隔壁26、28を介して転圧ローラ6が上下に振動する。なお、フロントフレーム2に伝わる振動は防振ゴム72、76により吸収される。また、内筒24及びハウジング74、78に囲まれた領域には潤滑油Lが供給されており、この潤滑油Lは起振軸20、即ち、偏心錘19の回転により跳ね上げられてハウジング74、78のベアリング等に供給される。
【0025】
そして、前述した油圧ポンプから作動油が供給され、走行用モータ16及び振動モータ18が駆動されれば、転圧ローラ6は上下に振動しながら、即ち、地盤を打撃しながら回転し、振動ローラ車両1は転圧作業を実施する。転圧ローラ6のドラム室30内には、ドラム室30内にて反響する音を吸音するための吸音ユニット40が配設されている。
この吸音ユニット40は、発砲樹脂により成型され、シート形状のアウタ吸音シート42、インナ吸音シート44及びサイド吸音シート46と、略円環形状の吸音体48とを有する。発泡樹脂は、例えばウレタン樹脂を用いることができる。このように各吸音シート42、44、46及び吸音体48が軽量の発砲樹脂により成型されていれば、これらの重さが転圧ローラ6の振動性能や強度に影響を与えることはない。
【0026】
詳しくは、図2及び図3を参照すれば、アウタ吸音シート42は、外筒22の内周面32の少なくとも第2の隔壁28側の端部を残して周方向全域に亘って密着している。インナ吸音シート44は、内筒24の外周面34の少なくとも第2の隔壁28側の端部を残して周方向全域に亘って密着している。即ち、インナ及びアウタ吸音シートの全長(軸方向長さ)は、内筒24の全長より短い。なお、図の例では、インナ及びアウタ吸音シート44、42は第1の隔壁26側の端部も残して内筒24の外周面34に密着している。また、これらインナ及びアウタ吸音シート44、42は、例えば接着剤により内筒24の外周面34及び外筒22の内周面32に貼り付けられている。
【0027】
また、図2及び図4を参照すれば、サイド吸音シート46は、第1の隔壁26の内側面36に密着し、且つ、第1の隔壁26側のインナ及びアウタ吸音シート44、42の端部と密着して連続したドラム室30の壁面を形成する。ここでのサイド吸音シート46は第1の隔壁26の内側面36から第2の隔壁28の内側面38に向けて突出したピン50により留められている。
【0028】
なお、サイド吸音シート46はインナ及びアウタ吸音シート44、42と同様に接着剤により第1の隔壁26の内側面36に密着させてもよい。また、インナ及びアウタ吸音シート44、42が第2の隔壁28側の端部のみを残して内筒24の外周面34及び外筒22の内周面32それぞれに取り付けられている場合(インナ及びアウタ吸音シート44、42の端面が第1の隔壁26に密着している場合)、サイド吸音シート46の周側面をインナ及びアウタ吸音シート42、44のそれぞれと密着させる。
【0029】
また、図2、図5及び図6を参照すれば、吸音体48は、第2の隔壁28の内側面38に密着し、且つ、インナ及びアウタ吸音シート44、42の間に密着して挿入されている。詳しくは、吸音体48は、第2の隔壁28との間に配される取付板58と固定部材としての複数のボルト54(後述する第2のボルト)及びナット56とを介して第2の隔壁28に取り付けられている。取付板58は、外筒22の内周面32より若干小さい外径と内筒24の外周面34より若干大きい内径とを有する略円環形状をなしている。即ち、取付板58はドラム室30内に内筒24及び外筒22と同心的に収容可能である。取付板58の側面にはボルト54が貫通可能な複数の貫通孔(図示しない)が形成されており、これら貫通孔は周方向に互いに離間している。また、取付板58の側面には各貫通孔に対応する位置にそれぞれナット56が取り付けられており、これらのナット56が取り付けられた側に吸音体48が貼り付けられている。なお、ナット56は、例えば取付板58の側面に溶接により固定された溶接式ナットである。さらに、第2の隔壁28にも取付板58に形成された貫通孔に対応する貫通孔(図12の符号29)がそれぞれ形成されている。そして、取付板58の吸音体48が取り付けられた側と反対側を第2の隔壁28に向けた状態にて、各ボルト54を第2の隔壁28の外側面側から第2の隔壁28及び取付板58の貫通孔に挿通してナット56に締め込むことにより、吸音体48は第2の隔壁28と密着して取り付けられている。
【0030】
図より明らかなように、各吸音シート42、44、46及び吸音体48からなる吸音ユニット40は協働してドラム室30全域を囲っていることになり、転圧ローラ6の内部で反響する音をドラム室30内にて効果的に吸音することができる。これにより、ドラム室30、即ち、転圧ローラ6内での音の反響が低減され、転圧ローラ6内から転圧ローラ6の外部へ伝わる音が小さくなる。したがって、転圧作業における低騒音化が実現される。また、このような低騒音化が実現されれば、転圧作業に対する妨げとなることがなく、その作業性が向上する。
【0031】
また、図2より明らかなように、インナ吸音シート44、アウタ吸音シート42、サイド吸音シート46及び吸音体48で囲まれた領域には空間が確保されている。即ち、ドラム室30内は吸音物質を充填する構造とはなっていない。このため、車体重量の増加を招くことなく上述した低騒音化を図ることができる。
さらに、各吸音シート42、44、46及び吸音体48は内筒24、外筒22、第1及び第2の隔壁26、28により閉塞されたドラム室30内に配設されているので、これら吸音シート42、44、46及び吸音体48に対する泥や埃等の汚れの付着を防止することができ、各吸音シート42、44、46及び吸音体48の吸音効果を維持することができる。したがって、低騒音化は継続的に実現される。
【0032】
次に、本発明に係る振動ローラ車両1の転圧ローラ6の製造方法について図7〜図16を参照して説明する。
図7に示す外筒22は、例えば板状の鋼材をロール状にし、その接合部を溶接して形成する。また、外筒22と同様にして内筒24を形成し、この内筒24の一方の端部に外筒22の内径と略等しい外径を有する第1の隔壁26を取り付けて、内筒24と第1の隔壁26とを溶接により接合して一体とする(図8参照)。
【0033】
この一体となった内筒24及び第1の隔壁26を外筒22の内部に同心的に配置し、外筒22と第1の隔壁26とを溶接により接合する(図9参照)。これにより、外筒22と内筒24とによる二重管構造が形成されるとともに、外筒22と内筒24との間に形成される空間における軸方向一方の開口が第1の隔壁26により閉塞される。
その後、図10及び図11に示すように、サイド吸音シート46を内筒24と外筒22との間であって、第1の隔壁26の内側面36全域に密着させて取り付ける。この場合、前述したように、サイド吸音シート46をピン50により留めてもよいし、接着剤により第1の隔壁26の内側面36に貼り付けてもよい。
【0034】
この後、インナ及びアウタ吸音シート44、42を内筒24と外筒22との間に入れ込み、それぞれの吸音シート44、42の一方の端部をサイド吸音シート26に密着させる。同時に、インナ吸音シート44は内筒24に、アウタ吸音シート42は外筒22にそれぞれ密着させて取り付ける。このインナ及びアウタ吸音シート44、42の全長は内筒24の全長より短いので、内筒24の第1の隔壁26と反対側の端部における外周面34は露出している。同様に、この露出した内筒24の外周面34に対向する外筒22の内周面32も露出している。
【0035】
このようにインナ及びアウタ吸音シート44、42を内筒24の外周面34及び外筒22の内周面32にそれぞれ取り付けた後、各吸音シート44、42をそれぞれ内筒24及び外筒22に向けて押し付ける押し当て部材60を配設することができる(図2参照)。押し当て部材60は、例えばチューブ形状を有し、その内部に空気が注入されているものである。このような押し当て部材60であれば、各吸音シート44、42を内筒24の外周面34及び外筒22の内周面32に確実に密着させることができる。したがって、インナ及びアウタ吸音シート44、42の剥がれ落ちを防止することができ、転圧作業における低騒音化を確実に実現することができる。
【0036】
また、インナ吸音シート44を内筒24の外周面34に取り付けた後、インナ吸音シート44の外側から内筒24の外周面34の周方向全域に亘ってバンド62を巻き付けてインナ吸音シート44を内筒24に固定することができる。このようなバンド62は、簡単な方法でインナ吸音シート44を内筒24の外周面34に確実に密着させた状態にて内筒24に固定することができる。これにより、インナ吸音シート44の剥がれ落ちを防止することができる。
【0037】
次に、図12及び図13に示すように、吸音体48を、外筒22の内径と略等しい外径を有する第2の隔壁28に対して複数の長尺の第1のボルト52を介して離間した位置に取り付ける。そして、図14に示すように、吸音体48を第1の隔壁26とは反対側から第2の隔壁28に対して離間した状態を保ちながらインナ及びアウタ吸音シート44、42の間に密着させながら挿入するように第2の隔壁28を外筒22内に挿入する。このとき、上述したように、インナ及びアウタ吸音シート44、42の全長は内筒24の全長より短いため、第2の隔壁28が内筒24の端面に突き当たった位置からインナ及びアウタ吸音シート44、42の間までには距離がある。しかしながら、第1のボルト52は長尺なので、第2の隔壁28から離間した位置にある吸音体48はインナ及びアウタ吸音シート44、42の間に到達することができる。
【0038】
その後、第2の隔壁28を内筒24の端部に押し当てて、この位置にて第2の隔壁28と外筒22とを溶接して接合する。この場合、図14より明らかなように、吸音体48が第2の隔壁28から離間していること、及び、インナ及びアウタ吸音シート44、42の全長が内筒24の全長より短いことと相俟って、インナ及びアウタ吸音シート44、42及び吸音体48と第2の隔壁28との間には所定の空間が確保されている。これにより、インナ及びアウタ吸音シート44、42及び吸音体48に対して溶接の影響を与えることなく第2の隔壁28と外筒22とを溶接することができる。特に、溶接時に発生する熱が悪影響を与えることを防止できる。したがって、転圧ローラの強度や振動性能を低下させることなく転圧ローラを製造することができる。
【0039】
また、吸音体48をインナ及びアウタ吸音シート44、42の間に挿入する際、吸音体48の第2の隔壁28側の端面とインナ及びアウタ吸音シート44、42の第2の隔壁28側の端面とを少なくとも面一に位置付けてもよい。これにより、吸音体48を第2の隔壁28に対して確実に離間させることができる。したがって、第2の隔壁28と外筒22とを溶接して接合する際に、吸音体48に対して溶接の影響を与えることなく転圧ローラ6を製造することができる。また、各吸音シート42、44、46及び吸音体48も第1及び第2の隔壁26、28と外筒22との溶接に制限を与えないので、転圧ローラ6の強度及び振動性能は損なわれない。
【0040】
そして、図15に示すように、第2の隔壁28と外筒22とを溶接して接合した後、吸音体48を第2の隔壁28の内側面38に向けて第1のボルト52を介して移動させ、インナ及びアウタ吸音シート44、42間に嵌合させた状態、且つ、第2の隔壁28の内側面38に密着させた状態にて固定する。
具体的には、第1のボルト52を吸音体48とともに引き抜く。吸音体48は、第2の隔壁28側が本体部48aとして形成され、この本体部48aから第1の隔壁26側に先端部48bが延びている。したがって、第1のボルト52を引き抜くと、吸音体48の本体部48aが取付板58を介して第2の隔壁28に密着する。このとき、吸音体48の先端部48bはインナ及びアウタ吸音シート44、42の間に密着して挿入されたままである。
【0041】
その後、図16に示すように、第1のボルト52をナット56から取り外し、第1のボルト52より短い第2のボルト54に交換することにより吸音体48を第2の隔壁28側に密着させる。この交換は、第2のボルト54をナット56に締め込むことで行う。この結果、各吸音シート42、44、46及び吸音体48は協働して内筒24、外筒22、第1の隔壁26及び第2の隔壁28により囲まれる空間、即ち、ドラム室30における軸方向全域に亘って位置付けられる。したがって、ドラム室30の軸方向全域に亘って吸音効果を発揮する各吸音シート42、44、46及び吸音体48、即ち、吸音ユニット40を備えた転圧ローラ6が製造される。
【0042】
これにより、転圧作業中、転圧ローラ6内での音の反響が低減され、転圧ローラ6内から転圧ローラ6の外部へ伝わる音が小さくなる。したがって、転圧作業における低騒音化が実現される。また、このような低騒音化が実現されれば、転圧作業に対する妨げとなることがなく、その作業性が向上する。
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施形態を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。
【0043】
例えば、各吸音シート42、44、46は、接着材やバンド62、押し当て部材60に限ることなく、ドラム室30の内面にそれぞれ密着されていればよい。
各音シート42、44、46及び吸音体48は発泡樹脂に限らず、吸音効果を発揮し、且つ転圧ローラ6の振動性能及び強度に影響を与えないものであればよい。
【0044】
1 振動ローラ車両
2 フロントフレーム
4 リアフレーム
6 転圧ローラ(前輪)
8 後輪
10 ステアリングリンク
12 キャブ
14 エンジンカバー
16 走行用モータ
18 振動モータ
19 偏心錘
20 起振軸
22 外筒
24 内筒
26 第1の隔壁
28 第2の隔壁
29 貫通孔
30 ドラム室
32 外筒の内周面
34 内筒の外周面
36 第1の隔壁の内側面
38 第2の隔壁の内側面
40 吸音ユニット
42 アウタ吸音シート
44 インナ吸音シート
46 サイド吸音シート
48 吸音体
48a 本体部
48b 先端部
50 ピン
52 第1のボルト
54 第2のボルト
56 ナット(溶接式ナット)
58 取付板
60 押し当て部材(チューブ)
62 バンド
70 支持ブラケット
71 ドライブプレート
72 防振ゴム
73 屈曲板
74 ハウジング
75 ブラケット
76 防振ゴム
77 支持ブラケット
78 ハウジング
L 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を転圧する転圧面を形成する外筒と、
該外筒内に収められ、前記外筒と同心的に配置された内筒と、
前記外筒の軸方向に対して直交し、前記内筒の端面に密着して、前記内筒と前記外筒との間における空間を左右からそれぞれ閉塞する第1及び第2の隔壁と、
前記内筒、前記外筒、前記第1及び第2の隔壁で囲まれたドラム室と、
前記ドラム室内に配設され、前記ドラム室内にて反響する音を吸音するための吸音ユニットとを備えた振動ローラ車両の転圧ローラにおいて、
前記吸音ユニットは、
前記第1の隔壁の内側面に取り付けたサイド吸音シートと、
前記第2の隔壁の内側面側に取り付けた本体部及び該本体部から前記ドラム室の長手方向に沿って延びている先端部とからなる吸音体と、
前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付けられ、全長が前記内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シートとを有し、
前記インナ及びアウタ吸音シートは、前記第1の隔壁側の端部にて前記サイド吸音シートと密着し、且つ前記第2の隔壁側の端部にて前記吸音体の前記先端部とのみ密着して重なっていることを特徴とする振動ローラ車両の転圧ローラ。
【請求項2】
前記インナ吸音シート、前記アウタ吸音シート、前記サイド吸音シート及び吸音体は発砲樹脂により成型されていることを特徴とする請求項1に記載の振動ローラ車両の転圧ローラ。
【請求項3】
外筒とともに二重管構造を形成する内筒の一方の端部に前記外筒の内径と略等しい外径を有する第1の隔壁を取り付けて前記内筒と前記第1の隔壁とを一体とする第1の工程と、
この一体となった前記内筒及び第1の隔壁を前記外筒の内部に同心的に配置して前記外筒と前記第1の隔壁とを溶接により接合する第2の工程と、
前記内筒と前記外筒との間であって、前記第1の隔壁の内側面全域にサイド吸音シートを取り付け、その後、全長が前記内筒の全長より短いインナ及びアウタ吸音シートをそれぞれ前記内筒と外筒との間に入れ込んだ後、それぞれの前記インナ及びアウタ吸音シートの一方の端部を前記サイド吸音シートと密着させつつ、前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付ける第3の工程と、
前記外筒の内径と略等しい外径を有する第2の隔壁を用意し、該第2の隔壁に対して離間した位置に吸音体を取り付け、前記吸音体を前記第2の隔壁から離間した状態を保ちながら前記インナ及びアウタ吸音シートの間に密着させながら挿入するように前記第2の隔壁を前記外筒内に挿入する第4の工程と、
前記第2の隔壁と前記外筒とを溶接して接合する第5の工程と、
前記吸音体が形成する本体部を前記第2の隔壁側に密着するまで前記吸音体を前記第2の隔壁に向けて移動させ、前記吸音体の先端部を前記インナ及びアウタ吸音シート間に密着して重なった状態にする第6の工程とを備えたことを特徴とする振動ローラ車両の転圧ローラの製造方法。
【請求項4】
前記第4の工程にて、前記吸音体は前記第2の隔壁に対して長尺の第1のボルトにて取り付けられていて、
前記第6の工程にて、前記吸音体の移動は前記第1のボルトを引き抜くことにより行い、
前記第6の工程の後、前記第1のボルトを第1のボルトより短い第2のボルトに交換することにより前記吸音体を前記第2の隔壁側に密着させることを特徴とする請求項3に記載の振動ローラ車両の転圧ローラの製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程にて、前記インナ及びアウタ吸音シートを前記内筒の外周面及び前記外筒の内周面にそれぞれ取り付けた後、前記インナ及びアウタ吸音シートをそれぞれ前記内筒及び外筒に向けて押し付ける押し当て部材を配設することを特徴とする請求項3又は4に記載の振動ローラ車両の転圧ローラの製造方法。
【請求項6】
前記第3の工程にて、前記インナ吸音シートを前記内筒の外周面に取り付けた後、前記インナ吸音シートの外側からバンドを巻き付けて前記インナ吸音シートを前記内筒に固定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の振動ローラ車両の転圧ローラの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate