説明

振動伝搬特性算出装置及び振動伝搬特性算出方法

【課題】簡易な構成で建物内の振動伝搬特性の変化を常時監視する。
【解決手段】振動が発生する振動発生部位の近傍に配設した、振動伝搬特性を測定する基
準となる基準振動が発生したか否かを検出する基準振動検出手段13と、所望の測定部位
に配設した、前記基準振動から伝搬した振動を表す伝搬振動データを測定する振動測定手
段VSijと、前記基準振動検出手段13が前記基準振動を検出したときに、前記基準振
動を表す基準振動データと前記伝搬振動データとを記憶する振動データ記憶手段21と、
前記振動データ記憶手段に記憶した前記基準振動データと前記伝搬振動データとに基づい
て前記測定部位での振動伝搬特性を算出する振動伝搬特性算出手段20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建て住宅やマンション、オフィスビル等の建物の振動伝搬特性を算出する
振動伝搬特性算出装置及び振動伝搬特性算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、戸建て住宅やマンション、オフィスビル等の建物での耐震強度が重要な関心事と
なっている。
このような建物の耐震強度を診断するために、戸建て建物の重心部の真上に当たる2階
部分に起振機を配置し、この起振機でX及びY方向に夫々震度1〜2に相当する2〜8g
alの加速度で起振させて、建物に適宜配置した震度計等の加速度センサで振動を検出し
、その特性を記録し、記録した特性から建物の共振周波数を求めることにより、動的耐震
強度を推定するようにした起振診断に基づく耐震補強方法が知られている(例えば、特許
文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−332319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来例にあっては、耐震強度を診断するた
めに、起振機を重心位置の真上に配置し、この起振機によって震度1〜2に相当する加速
度の起振を行う必要があり、耐震診断が大掛かりとなると共に、耐震強度、すなわち振動
伝搬特性の変化を常時監視することができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、簡易な
構成で建物内の振動伝搬特性の変化を常時監視することができる振動伝搬特性測定装置及
び振動伝搬特性測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態に係る振動伝搬特性算出装置は、振動
が発生する振動発生部位の近傍に配設した、振動伝搬特性を測定する基準となる基準振動
が発生したか否かを検出する基準振動検出手段と、所望の測定部位に配設した、前記基準
振動から伝搬した振動を表す伝搬振動データを測定する振動測定手段と、前記基準振動検
出手段が前記基準振動を検出したときに、前記基準振動を表す基準振動データと前記伝搬
振動データとを記憶する振動データ記憶手段と、前記振動データ記憶手段に記憶した前記
基準振動データと前記伝搬振動データとに基づいて前記測定部位での振動伝搬特性を算出
する振動伝搬特性算出手段とを備えたことを特徴としている。
【0005】
この第1の形態では、例えば建物内における例えば開閉ドア、洗濯機等の振動発生部位
の近傍に配設した基準振動検出手段で基準振動を検出し、この基準振動を検出したときに
、建物内の所望の測定部位に配設した振動測定手段で基準振動から伝搬した振動を表す伝
搬振動データを測定し、基準振動データ及び伝搬振動データを振動データ記憶手段に記憶
し、記憶した基準振動データ及び伝搬振動データに基づいて振動伝搬特性を測定するので
、別途起振機を設けることなく常時振動伝搬特性を測定することができる。
【0006】
また、本発明の第2の形態に係る振動伝搬特性算出装置は、上記第1の形態において、
前記振動発生部位は開閉ドアの近傍であることを特徴としている。
この第2の形態では、開閉ドアの近傍に基準振動検出手段を配設するので、開閉ドアの
開閉が行われる毎に基準振動を検出することができ、振動伝搬特性の変化を監視すること
ができる。
【0007】
さらに、本発明の第3の形態に係る振動伝搬特性算出装置は、上記第1又は第2の形態
において、前記振動伝搬特性算出手段は、前記基準振動データ及び前記伝搬振動データを
フーリエ変換し、前記フーリエ変換の演算結果を用いて、前記基準振動データ及び前記伝
搬振動データのパワースペクトル及びクロススペクトルを算出し、算出された前記パワー
スペクトル及び前記クロススペクトルを用いて、前記振動発生部位と前記測定部位との間
の伝達関数を算出することにより、前記振動伝搬特性を算出することを特徴としている。
【0008】
この第3の形態では、振動伝搬特性の算出を、前記基準振動データ及び前記伝搬振動デ
ータをフーリエ変換し、前記フーリエ変換の演算結果を用いて、前記基準振動データ及び
前記伝搬振動データのパワースペクトル及びクロススペクトルを算出し、算出された前記
パワースペクトル及び前記クロススペクトルを用いて、前記振動発生部位と前記測定部位
との間の伝達関数を算出することにより行うので、基準振動検出手段及び各測定部位の振
動測定手段との間の伝達関数を正確に算出することができる。
【0009】
さらにまた、本発明の第4の形態に係る振動伝搬特性算出装置は、前記第1〜第3の形
態の何れか1つにおいて、前記振動データ記憶手段は、所定期間のうち前記基準振動が最
大のときの前記基準振動データ及び前記伝搬振動データとを記憶するように構成されてい
ることを特徴としている。
この第4の形態では、振動データ記憶手段で、1日、半日、数時間等の所定期間の測定
データのうち基準振動データが最大のときの基準振動データ及び伝搬振動データを記憶す
るようにしているので、振動解析が可能となる大きな基準振動が発生したときのデータを
記憶することにより、振動データ記憶手段の記憶容量を小さくすることができる。
【0010】
なおさらに、本発明の第5の形態に係る振動伝搬特性算出方法は、振動が発生する振動
発生部位の近傍に配設した振動検出手段と、所望の測定部位に配設した測定手段と、記憶
手段と、演算手段とを備えた振動伝搬特性算出装置を用いた振動伝搬特性算出方法であっ
て、前記振動検出手段が、振動伝搬特性を測定する基準となる基準振動が発生したか否か
を検出する基準振動検出ステップと、前記測定手段が、前記基準振動から伝搬した振動を
表す伝搬振動データを測定する振動測定ステップと、前記記憶手段が、前記基準振動検出
手段が前記基準振動を検出したときに、前記基準振動を表す基準振動データと前記伝搬振
動データとを記憶する振動データ記憶ステップと、前記演算手段が、前記振動データ記憶
ステップで記憶した前記基準振動データと前記伝搬振動データとに基づいて前記測定部位
での振動伝搬特性を算出する振動伝搬特性算出ステップとを有することを特徴としている

この第5の形態では、前記第1の形態と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用し得る例えばマンションの間取り図であって、玄関1に開閉自在
な右開きの玄関ドア2が配設されていると共に、玄関1の両脇にダイニングルーム3及び
リビングルーム4が設置され、ダイニングルーム3の奥側にキッチン5が配置され、リビ
ングルーム4の奥側に寝室6が配設され、キッチン5と寝室6との間に浴室7が配置され
た構成とされている。
【0012】
玄関ドア2は、図2に示すように、躯体に配設された玄関ドア枠2aとこの玄関ドア枠
2aにヒンジ2bによって回動自在に支持された玄関ドア本体2cとで構成されている。
ここで、玄関ドア本体2cには、その上部に例えばジャイロセンサで構成される角速度セ
ンサ11が内装されていると共に、加速度センサ12が内装されている。
また、玄関ドア枠2aのヒンジ2bとは反対側の戸当り面2dの近傍における躯体8に
玄関ドア本体2cが戸当り面2dに衝接したときに生じる振動を基準振動として検出する
例えば加速度センサで構成される基準振動検出手段としての基準振動センサ13が配設さ
れている。
【0013】
一方、耐震強度変化を監視したいダイニングルーム3、リビングルーム4、キッチン5
、寝室6及び浴室7の夫々には、例えば4隅の耐震強度測定部位における躯体を構成する
柱部や梁部に振動を測定する振動測定手段としての例えば加速度センサで構成される振動
センサVS11〜VS14、VS21〜VS24、VS31〜VS34、VS41〜VS
44、VS51〜VS54が配設されている。ここで、基準振動センサ13及び振動セン
サVS11〜VS14、VS21〜VS24、VS31〜VS34、VS41〜VS44
、VS51〜VS54の夫々は、検出した基準振動データ及び伝搬振動データを一時格納
するバッファメモリを備えており、このバッファメモリに少なくとも振動が発生してから
収束するまでの伝搬振動データが一時格納される。
【0014】
そして、図3に示すように、玄関ドア本体2cに取付けられた角速度センサ11及び加
速度センサ12で検出した検出データと、玄関1の躯体8に配設した基準振動センサ13
で検出した基準振動データ及び各部屋に設置された振動センサVSij(i=1〜5,j
=1〜4)で測定した伝搬振動データとが、マイクロコンピュータ等で構成される演算処
理装置20に入力されている。この演算処理装置20には、基準振動データ、各伝搬振動
データ等を記憶する不揮発性メモリで構成される振動データ記憶手段としての記憶装置2
1が接続されている。
【0015】
そして、演算処理装置20では、図4に示す振動伝搬特性監視処理を実行する。
この振動伝搬特性監視処理は、先ず、ステップS1で、玄関ドア本体2cに取付けられ
た角速度センサ11及び加速度センサ12で検出した角速度データ及び加速度データを読
込み、次いでステップS2に移行して、玄関ドア本体2cが閉操作状態であるか否かを表
すドア閉操作フラグF1が“1”にセットされているか否かを判定し、ドア閉操作フラグ
F1が“0”にリセットされているときにはステップS3に移行して、ステップS1で読
込んだ角速度データ及び加速度データに基づいて玄関ドア本体2cが閉操作されているか
否かを判定し、玄関ドア本体2cが閉操作されていないときにはそのまま前記ステップS
1に戻り、玄関ドア本体2cが閉操作されているときにはステップS4に移行して、ドア
閉操作フラグF1を“1”にセットしてからステップS5に移行する。
【0016】
また、前記ステップS2の判定結果が、ドア閉操作フラグF1が“1”にセットされて
いるときには直接ステップS5にジャンプする。
ステップS5では、ステップS1で読込んだ玄関ドア本体2cの角速度データ及び加速
度データに基づいて玄関ドア本体2cが閉じたか否かを判定し、玄関ドア本体2cが閉じ
ていないときにはそのまま前記ステップS1に戻り、玄関ドア本体2cが閉じたときには
ステップS6に移行する。
【0017】
このステップS6では、基準振動センサ13のバッファメモリに格納されている基準振
動データを読込み、次いでステップS7に移行して、玄関ドア本体2cが戸当り面2dに
衝接することにより発生する基準振動を検出したか否かを判定し、基準振動を検出してい
ないときには、前記ステップS1に戻り、基準振動を検出したときにはステップS8に移
行する。
【0018】
このステップS8では、基準振動が発生した年月日を含む時刻データを読込み、次いで
ステップS9に移行して、ドア閉操作フラグF1を“0”にリセットしてからステップS
10に移行し、基準振動センサ13で基準振動を検出してから振動伝達時間が一番遅い振
動センサで基準振動に基づく振動を測定し終わるまでの所定時間が経過したか否かを判定
し、所定時間が経過していないときには所定時間が経過するまで待機し、所定時間が経過
したときにはステップS11に移行して、基準振動センサ13及び各振動センサVSij
のバッファメモリから基準振動データ及び各伝搬振動データを読込み、これら基準振動デ
ータ及び各伝搬振動データを前記ステップS8で読込んだ時刻データをインデックスとし
て記憶装置21に記憶する。
【0019】
次いで、ステップS12に移行して、記憶装置21に記憶されている基準振動データ及
び各耐震強度測定部位における伝搬振動データを読出し、基準振動データの発生時刻と各
振動センサVSijで振動の測定を開始した時刻と各伝搬振動データとから基準振動がど
のように伝搬したかを解析し、解析データに基づいて各部屋の振動伝搬特性を算出する。
この振動伝搬特性の算出は、基準振動データ及び伝搬振動データを個別にフーリエ変換し
てから基準振動データ及び伝搬振動データのパワースペクトルを算出すると共に、基準振
動データ及び伝搬振動データのクロススペクトルを算出し、算出したパワースペクトル及
びクロススペクトルに基づいて伝達関数Hijを算出することにより行う。
【0020】
すなわち、基準振動センサ13で検出した基準振動データをA/D変換した時系列信号
をA(t)として各振動センサVSijで測定した伝搬振動データをA/D変換した時系
列信号をB(t)とすると、これら時系列信号A(t)及びB(t)のフーリエ変換した
値FA及びFBは下記(1)式及び(2)式で表される。
【0021】
【数1】

【0022】
これらはフーリエ変換値FA及びFBに基づいてパワースペクトルGAA,GBB及びクロス
パワースペクトルGBAは下記(3)〜(5)式で算出される。
AA=FA(f)・FA*(f) …………(3)
BB=FB(f)・FB*(f) …………(4)
BA=FB(f)・FA*(f) …………(5)
そして、算出されたパワースペクトルGAAとクロスパワースペクトルGBAとに基づいて
下記(6)式の演算を行うことにより基準振動センサ13と振動センサVSijとの間の
伝達関数Hijを算出することができる。
Hij=FB(f)/FA(f)=GBA/GAA …………(6)
【0023】
次いで、ステップS13に移行して、算出した各部屋の振動センサVSijと基準振動
センサ13との間の伝達関数Hijで表される振動伝搬特性を前記ステップS7で読込ん
だ時刻データをインデックスとして記憶装置21に記憶してから前記ステップS1に戻る

【0024】
また、演算処理装置20では、これに接続されたキーボードやマウス等の入力装置22
から振動伝搬特性監視結果を演算処理装置20に接続された液晶表示装置等の表示装置2
3で表示する監視結果表示要求が入力されたときに、図5に示す監視結果表示処理を実行
する。この監視結果表示処理は、先ず、ステップS21で、表示する監視結果の態様を選
択する監視結果表示メニューを表示装置23に表示する。この監視結果表示メニューには
、図6に示すように、入力装置22で指定した時刻の前後における各部屋の振動伝搬特性
を表示する指定時刻前後特性表示を選択する表示選択部31と、各部屋の振動伝搬特性の
全履歴を表示する全履歴表示を選択する表示選択部32と、月単位或いは年単位の各部屋
の平均振動伝搬特性を算出して月単位又は年単位での平均振動伝搬特性表示を選択する表
示選択部33と、表示終了処理を選択する表示選択部34と、監視結果表示メニューを表
示する表示選択部35等が表示される。
【0025】
次いで、ステップS22に移行して、監視結果表示メニューから指定時刻前後特性表示
処理を行う表示選択部31が選択されたか否かを判定し、表示選択部31が選択されたと
きにはステップS23に移行して、指定時刻の入力要求メッセージを表示装置23に表示
し、次いでステップS24に移行して、指定時刻が入力されたか否かを判定し、指定時刻
が入力されていないときには指定時刻が入力されるまで待機し、指定時刻が入力されたと
きにはステップS25に移行する。
【0026】
このステップS25では、指定された時刻を挟む前後における各部屋の振動伝搬特性を
記憶装置21から読出し、両者を表示装置23に並列表示してからステップS26に移行
して、入力装置22で表示終了要求処理を行う表示選択部34が選択されたか否かを判定
し、表示選択部34が選択されたときにはそのまま監視結果表示処理を終了し、表示終了
要求が入力されていないときにはステップS27に移行して、監視結果表示メニュー表示
処理を行う表示選択部35が選択されたか否かを判定し、表示選択部35が選択されてい
ないときには前記ステップS26に戻り、表示選択部35が選択されたときに前記ステッ
プS21に戻る。
【0027】
一方、前記ステップS22の判定結果が、表示選択部31が選択されていないときには
ステップS28に移行して、振動伝搬特性の全履歴の表示処理を行う表示選択部32が選
択されているか否かを判定し、表示選択部32が選択されているときにはステップS29
に移行して、記憶装置21に記憶されている各部屋の振動伝搬特性を時刻順次に全て読出
し、読出順に各部屋の振動伝搬特性を順次表示装置23に所定時間間隔でスクロール表示
してからステップS30に移行して、表示終了要求を表す表示選択部34が選択されたか
否かを判定し、表示選択部34が選択されたときにはそのまま監視結果表示処理を終了し
、表示選択部34が選択されていないときにはステップS31に移行して、監視結果表示
メニュー表示を選択する表示選択部35が選択されたか否かを判定し、表示選択部35が
選択されないときには前記ステップS29に戻り、表示選択部35が選択されたときには
前記ステップS21に戻る。
【0028】
さらに、前記ステップS28の判定結果が、表示選択部32が選択されていないときに
はステップS30に移行して、平均振動伝搬特性表示処理を行う表示選択部33が選択さ
れているか否かを判定し、表示選択部33が選択されているときには、ステップS33に
移行して、例えば週単位、月単位、年単位の平均する期間を選択する平均期間選択メニュ
ーを表示し、次いでステップS34に移行して、平均期間選択メニューから平均期間が選
択されたか否かを判定し、平均期間が選択されていないときには平均期間が選択されるま
で待機し、平均期間が選択されたときにはステップS35に移行して、選択された平均期
間で記憶装置21に記憶されている各部屋の振動伝搬特性を平均処理して平均処理結果を
表示装置23に表示してからステップS36に移行する。
【0029】
このステップS36では、表示終了要求処理を表す表示選択部34が選択されたか否か
を判定し、表示選択部34が選択されたときにはそのまま監視結果表示処理を終了し、表
示選択部34が選択されていないときにはステップS37に移行して、監視結果表示メニ
ューの表示処理を行う表示選択部34が選択されたか否かを判定し、表示選択部35が選
択されていないときには前記ステップS36に戻り、表示選択部35が選択されていると
きには前記ステップS21に戻る。
【0030】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、玄関ドア本体2cが閉じられているものとすると、この状態では、玄関ドア本体2
cに取付けられた角速度センサ11及び加速度センサ12から検出信号が得られず、図4
の振動伝搬特性監視処理で、ドア開閉フラグF1が“0”にリセットされているものとす
ると、ステップS2からステップS3に移行し、玄関ドア本体2cが閉じられているので
、そのままステップS1に戻ることを繰り返し、振動伝搬特性の測定は行われない。
【0031】
この状態から居住者が玄関ドア本体2cを開いてから閉じると、角速度センサ11及び
加速度センサ12から玄関ドア本体2cの開閉操作に応じて異なる符号の角速度データ及
び加速度データが出力されることにより、これら角速度データ及び加速度データから玄関
ドア本体2cの閉操作を検出することができる。このため、玄関ドア本体2cの閉操作を
検出したときに、ステップS3からステップS4に移行して開操作フラグF1を“1”に
セットし、次いでステップS6で基準振動センサ13のバッファメモリに記憶されている
基準振動データを読込み、ステップS7で、玄関ドア本体2cが玄関ドア枠2aの戸当り
面2dに衝接することによる振動を基準振動として検出したか否かを判定し、基準振動を
検出していない場合には前記ステップS1に戻る。
【0032】
その後、玄関ドア本体2cが閉じられて、玄関ドア枠2aの戸当り面2dに衝接すると
、このときに生じる振動が基準振動センサ13で検出されることになり、図4の処理にお
いてステップS7からステップS8に移行して、年月日を含む基準振動発生時刻を読込み
、次いでステップS9でドア閉操作フラグF1を“0”にリセットしてからステップS1
0に移行する。
【0033】
この基準振動が発生することにより、躯体を振動が伝搬して各部屋の振動測定センサV
Sijに到達し、伝搬された振動が振動測定センサVSijで測定されてバッファメモリ
に記憶される。
その後、基準振動が発生してから一番遅く振動が伝達される振動測定センサVSijま
での振動伝達時間より長い所定時間が経過した時点でステップS10からステップS11
に移行して、基準振動センサ13で検出してバッファメモリに記憶されている基準振動デ
ータ及び各部屋の振動測定センサVSijで測定されてバッファメモリに記憶されている
伝搬振動データを読込み、これらを前記ステップS8で読込んだ基準振動発生時刻データ
をインデックスとして記憶装置21に記憶する。
【0034】
そして、ステップS12に移行して、記憶装置21に記憶されている基準振動データ及
び伝搬振動データを読出し、これら基準振動データ及び各伝搬振動データをフーリエ変換
してからパワースペクトル及びクロスパワースペクトルを算出することにより、各部屋の
振動測定センサVSij位置と基準振動センサ13との間の伝達特性Hijを算出し、次
いでステップS13に移行して、算出した各伝達特性Hijを振動伝搬特性として記憶装
置21に基準振動発生時刻をインデックスとして記憶する。
【0035】
このように、玄関ドア本体2cを開操作してから閉じて、玄関ドア本体2cが戸当り面
2dに衝接することにより発生する基準振動を基準振動センサ13で検出すると共に、発
生した基準振動が躯体を伝搬して各部屋の振動測定センサVSijに到達したときに、そ
の振動を振動測定センサVSijで測定するので、別途起振機を設けることなく常時基準
振動センサ13と各部屋の振動測定センサVSijとの間の振動伝搬特性を測定すること
ができる。
【0036】
しかも、図4の振動伝搬特性監視処理で、玄関ドア本体2cが閉操作されてから閉じた
後に発生する基準振動に基づいて振動伝搬特性を測定するので、基準振動センサ13で玄
関ドア本体2cによる振動以外の振動を検出したとしても、振動伝搬特性の測定を行うこ
とを確実に防止することができ、玄関ドア本体2cを閉じたときに発生する基準振動のみ
に基づいて振動伝搬特性を測定するので、正確な振動伝搬特性の測定を行うことができる

【0037】
また、玄関ドア本体2cが玄関ドア枠2aの戸当り面2dに衝接したときに発生する振
動を基準振動としているので、一般に玄関ドア枠2aは建物を構成する躯体に直接取付け
られているので、玄関ドア本体2cを閉じることにより発生する基準振動が躯体を通じて
各部屋に確実に伝搬することになり、各部屋で振動伝搬特性を正確に測定することができ
る。
【0038】
さらに、記憶装置21に玄関ドア本体2cを開閉する毎に測定した基準振動データ及び
各部屋の伝搬振動データを記憶しているので、記憶されている基準振動データ及び各部屋
の伝搬振動データを読出して、詳しい振動伝搬解析を行うことができる。
このように、記憶装置21に玄関ドア本体2cを開閉する毎に基準振動センサ13と各
部屋の振動測定センサVSijとの間の伝達関数Hijでなる振動伝搬特性が基準振動発
生時刻をインデックスとして記憶されているので、所望時に入力装置22から監視結果表
示要求を演算処理装置20に入力することにより、図5に示す監視結果表示処理を実行さ
せて監視結果を表示することができる。
【0039】
このとき、先ず、図6に示す監視結果表示メニューが表示装置23に表示され、表示さ
れた監視結果表示メニューから所望の表示処理を選択することにより、監視結果を表示装
置23に表示することができる。
例えば、比較的大きな地震が発生して、その前後の各部屋の振動伝搬特性の変化を確認
したいときには、図6の監視結果表示メニューから指定時刻前後特性表示処理を行う表示
選択部31を選択することにより、地震発生時刻の前後で玄関ドア本体2cを開閉したと
きの各部屋の振動伝搬特性を表示装置23に表示することができ、地震発生時刻の前後の
各部屋の振動伝搬特性を比較することにより、地震の影響が生じているか否かを正確に把
握することができると共に、地震の影響を受けている部位を正確に特定することができる
。このとき、より詳しく振動伝搬特性を解析したいときには、記憶装置21に記憶されて
いる地震発生時刻の前後の基準振動データ及び各部屋の伝搬振動データを読出し、これら
に基づいてより詳しい分析を行うことにより、より詳しい振動伝搬特性の分析を行うこと
ができる。
【0040】
また、振動伝搬特性の経時変化を確認したい場合には、監視結果表示メニューから平均
振動伝搬特性表示処理を行う表示選択部33を選択し、所望の平均期間を選択することに
より、平均期間での振動伝搬特性の平均値が算出され、算出された振動伝搬特性の平均値
が順次表示装置23に表示されることにより、この振動伝搬特性の平均値の変化から建物
の劣化状態を正確に把握することができる。
【0041】
さらに、より詳しく振動伝搬特性の変化を確認したい場合には、監視結果表示メニュー
から振動伝搬特性の全履歴の表示処理を行う表示選択部32を選択することにより、記憶
装置21に記憶されている過去の玄関ドア開閉時の全ての基準振動データ及び各部屋の伝
搬振動データを表示装置23にスクロール表示することができるので、振動伝搬特性の変
化をより詳細に検討することができる。
【0042】
なお、上記実施形態においては、玄関ドア本体2cを開閉する毎に、基準振動データ及
び各部屋の伝搬振動データを記憶装置21に記憶する場合について説明したが、これに限
定されるものではなく、記憶装置21に記憶されている現在から過去1週間分程度の基準
振動データ及び各部屋の伝搬振動データは保存するが、それ以前の基準振動データ及び各
部屋の伝搬振動データについては例えば1日分や1週間分等の任意の期間内で基準振動デ
ータが最大となる基準振動データ及びこれに応じた各部屋の伝搬振動データについてのみ
保存するようにして記憶装置21の記憶容量を低減させるようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施形態においては、玄関ドア本体2cが閉じたときに発生する振動を基準
振動とする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各部屋の出入り口
に配設されている開閉ドアを閉じたときに発生する振動をその近傍に配設した基準振動セ
ンサで検出するようにしてもよく、さらには開閉ドアに限らず洗濯機のように振動を発生
する機器の近傍に基準振動センサを配設して基準振動として検出するようにしてもよい。
【0044】
さらに、上記実施形態においては、本発明をマンションに適用した場合について説明し
たが、これに限定されるものではなく、戸建て住宅やオフィスビル等の任意の建物に本発
明を適用することができる。
さらにまた、振動センサとしては加速度センサに限らず、衝撃センサ、角速度センサ、
振動計等の任意の振動センサを適用することができる。
【0045】
なおさらに、上記実施形態においては、基準振動検出手段として基準振動センサ13を
設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、玄関ドア本体2cに角
速度センサ11及び加速度センサ12を設けているので、これら角速度センサ11及び加
速度センサ12の検出信号に基づいて玄関ドア本体2cが戸当り面2dに衝接したときに
発生する基準振動データを推定することができ、推定した基準振動データと各部屋の振動
測定センサVSijの伝搬振動データとに基づいて振動伝搬特性を算出するようにしても
よい。
【0046】
また、上記実施形態においては、各部屋に振動測定センサVSijを4つ設けた場合に
ついて説明したが、これに限定されるものではなく、振動測定センサの数は任意に設定す
ることができると共に、振動測定センサの設置位置も任意の振動測定部位に設定すること
ができる。
さらに、上記実施形態においては、演算処理装置20、記憶装置21、入力装置22及
び表示装置23が住居内に配設されている場合について説明したが、これに限定されるも
のではなく、角速度センサ11、加速度センサ12、基準振動センサ13及び振動測定セ
ンサVS11〜VS54を住居内ネットワークに接続し、この住居内ネットワークを例え
ばインターネット等の外部ネットワークを介して演算処理装置20の機能を有するサーバ
に接続して、サーバで振動伝搬特性監視処理及び監視結果表示処理を行うようにしてもよ
く、サーバで信徒を伝搬特性監視処理のみを行い、住居内に設けたパーソナルコンピュー
タをサーバに接続して監視結果表示処理を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用し得るマンションの間取り図である。
【図2】玄関ドアの詳細を示す斜視図である。
【図3】本発明の電気的接続関係を示すブロック図である。
【図4】図3の演算処理装置で実行する振動伝搬特性監視処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】図3の演算処理装置で実行する監視結果表示処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】監視結果表示メニューの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1…玄関、2…玄関ドア、2a…玄関ドア枠、2b…ヒンジ、2c…玄関ドア本体、2
d…戸当り面、3…ダイニングルーム、4…リビングルーム、5…キッチン、6…寝室、
7…浴室、11…角速度センサ、12…加速度センサ、13…基準振動センサ、VSij
…振動測定センサ、20…演算処理装置、21…記憶装置、22…入力装置、23…表示
装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動が発生する振動発生部位の近傍に配設した、振動伝搬特性を測定する基準となる基
準振動が発生したか否かを検出する基準振動検出手段と、
所望の測定部位に配設した、前記基準振動から伝搬した振動を表す伝搬振動データを測
定する振動測定手段と、
前記基準振動検出手段が前記基準振動を検出したときに、前記基準振動を表す基準振動
データと前記伝搬振動データとを記憶する振動データ記憶手段と、
前記振動データ記憶手段に記憶した前記基準振動データと前記伝搬振動データとに基づ
いて前記測定部位での振動伝搬特性を算出する振動伝搬特性算出手段と
を備えたことを特徴とする振動伝搬特性算出装置。
【請求項2】
前記振動発生部位は開閉ドアの近傍であることを特徴とする請求項1に記載の振動伝搬
特性算出装置。
【請求項3】
前記振動伝搬特性算出手段は、前記基準振動データ及び前記伝搬振動データをフーリエ
変換し、前記フーリエ変換の演算結果を用いて、前記基準振動データ及び前記伝搬振動デ
ータのパワースペクトル及びクロススペクトルを算出し、算出された前記パワースペクト
ル及び前記クロススペクトルを用いて、前記振動発生部位と前記測定部位との間の伝達関
数を算出することにより、前記振動伝搬特性を算出することを特徴とする請求項1または
2に記載の振動伝搬特性算出装置。
【請求項4】
前記振動データ記憶手段は、所定期間のうち前記基準振動が最大のときの前記基準振動
データ及び前記伝搬振動データとを記憶するように構成されていることを特徴とする請求
項1乃至3の何れか1項に記載の振動伝搬特性算出装置。
【請求項5】
振動が発生する振動発生部位の近傍に配設した振動検出手段と、所望の測定部位に配設
した測定手段と、記憶手段と、演算手段とを備えた振動伝搬特性算出装置を用いた振動伝
搬特性算出方法であって、
前記振動検出手段が、振動伝搬特性を測定する基準となる基準振動が発生したか否かを
検出する基準振動検出ステップと、
前記測定手段が、前記基準振動から伝搬した振動を表す伝搬振動データを測定する振動
測定ステップと、
前記記憶手段が、前記基準振動検出手段が前記基準振動を検出したときに、前記基準振
動を表す基準振動データと前記伝搬振動データとを記憶する振動データ記憶ステップと、
前記演算手段が、前記振動データ記憶ステップで記憶した前記基準振動データと前記伝
搬振動データとに基づいて前記測定部位での振動伝搬特性を算出する振動伝搬特性算出ス
テップと
を有することを特徴とする振動伝搬特性算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−223404(P2008−223404A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66333(P2007−66333)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】