振動型アクチュエータ
【課題】接触部界面の摺動損失エネルギーとして発生した熱を効率的に逃がし、界面温度の昇温を緩和、あるいは抑制することが可能となる振動型アクチュエータを提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、振動体に励起される振動波によって移動体を摩擦駆動し、移動体を振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させた構成を有する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、振動体に励起される振動波によって移動体を摩擦駆動し、移動体を振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させた構成を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に振動を発生させ、その振動エネルギーを利用して駆動力を与える振動型アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、振動型アクチュエータ(超音波モータ等の振動波モータ)は、駆動振動が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを駆動振動により相対的に移動させるように構成されている。
図9は、いわゆる円環型超音波モータの断面図である。
図9において、101はリング形状の振動体、102は前記振動体101の一方の面に固着された圧電素子、103は前記振動体の他方面に設置された摩擦部材、107は前記振動体101の前記摩擦部材3側に配置された移動体である。
113は円筒状の接触ばね構造であり、一方が前記移動体107に支持され、他方が円錐形状に加工され先端において前記摩擦部材103に加圧接触する。
移動体107は加圧ばね109によって加圧されており、移動体107の回転トルクは加圧ばね109、ディスク113を介してシャフト111に伝えられる。図10に振動体101を移動体107側から見た斜視図を示す。
図10において、振動体101は、移動体107と対向する面に複数のくし歯状の突起形状をしたくし歯部101aが円環状に配列されている。
そして、摩擦部材103が、前記複数のくし歯にそれぞれ配置される。摩擦部材が配置される側の反対の面には、前記圧電素子102が固着される。
前記圧電素子102には不図示の電極パターンが設けられており、本電極パターンに交番信号を印加することにより前記振動体101に曲げ振動を発生し移動体107を駆動する。
【0003】
図11に、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータにおける移動体の構造を示す。
図11に示すように、移動体213を両端支持条件の梁構造とすることで、加圧方向(面Aに垂直方向)に弾性を持たせている。
詳しくは、移動体213は、移動体梁部210、梁部210の両端部から延出した移動体第一突起部211、振動体216との接触面側の梁部210から延出した移動体第二突起部212、等により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第03049931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例の振動型アクチュエータは、つぎのような課題を有している。
近年、振動型アクチュエータの高トルク化および高出力化が求められており、これに伴い、図9における移動体107を振動体101に押し付ける力、すなわちモータ加圧力が増大している。
摩擦接触部の発熱は、接触部の面圧と相対滑りに依存した摺動損失エネルギーによるものが支配的であり、前記モータ加圧力の増大が摩擦接触部の急激な温度上昇を引き起こしている。
従来の構成において、接触部で発生した熱は図12の矢印で表す伝熱経路で移動体本体側に放熱される。
しかし、図12の丸で囲った移動体梁部210は加圧方向に弾性をもたせるため、比較的薄肉化された断面積の小さい構造であることから、この部分における熱抵抗が大きくなっている。
これにより、移動体第二突起部212の昇温を緩和、あるいは防止することが困難である。
【0006】
このような大きい熱抵抗による摩擦接触部の急激な温度上昇は、接触部を構成する部品を変形させて接触状態を不安定にする。
また、接触部界面の摩擦係数など摩擦材料のメカ特性への影響が大きくなる。
これらの作用によって、耐久性などを含めモータ性能が大きく変化してしまい、安定した駆動源の供給が困難となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、接触部界面の摺動損失エネルギーとして発生した熱を効率的に逃がし、界面温度の昇温を緩和、あるいは抑制することが可能となる振動型アクチュエータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、前記振動体と加圧接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、前記振動体に励起される振動波によって前記移動体を摩擦駆動し、前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接触部界面の摺動損失エネルギーとして発生した熱を効率的に逃がし、界面温度の昇温を緩和、あるいは抑制することが可能となる振動型アクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの断面斜視図である。
【図2】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの移動体の断面図である。
【図3】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの接触状態を説明する断面図である。
【図4】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの特徴的構成を説明する断面図である。
【図5】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの注入孔に関する変形例を示す図である。
【図6】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの変形例を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの変形例を示す図である。
【図9】従来例の振動型アクチュエータである円環型超音波モータの構成を示す図である。
【図10】従来例の振動型アクチュエータである円環型超音波モータの振動体構造を示す図である。
【図11】従来例の振動型アクチュエータにおける移動体構造を示す図である。
【図12】従来例の振動型アクチュエータにおける接触部で発生した熱エネルギーの放熱経路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型アクチュエータの構成例について、図1〜図6を用いて説明する。
本実施例の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、該振動体と加圧接触する移動体と、を備える。
そして、上記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、振動体に励起される振動によって移動体を摩擦駆動し、移動体を該振動体に対して相対移動させるように構成される。
その具体的構成として、図1に本実施例の振動型アクチュエータの断面斜視図を示す。
1は振動体で、圧電素子(電気−機械エネルギー変換素子)2に印加される交番信号により駆動振動である高周波の曲げ振動を発生する。
7は移動体で、加圧ばね9によりばね受け部8を介して軸方向に押圧され、振動体1の接触部と加圧接触する。
このとき、移動体7は振動体1の高周波振動により回転方向に駆動され、駆動力は一体的に駆動されるばね受け部8、加圧ばね9、ディスク12を介しシャフト11に伝達される。
図1において、丸で囲んだ部分が移動体7に設けられた接触ばね構造13である。
【0013】
図2は、図1の接触ばね構造13を拡大した断面図である。
移動体7は、振動体と摩擦接触する摩擦接触部4を有する接触ばね構造13と本体部10で構成される。
接触ばね構造13は、摩擦接触部4と円筒部5および円筒部から径方向に張出しているフランジ部6から構成される。前記接触ばね構造13以外の部分が本体部10である。本実施例の振動型アクチュエータは、加圧ばね9によるモータ加圧力に対し軸方向のばね性を有するフランジ部6が弾性変形することで滑らかな接触を実現している。円筒部5は、摩擦接触部4とフランジ部6とを連結している。
しかしながら、本構成は接触ばね構造の一例である。本発明において、接触ばね構造は、摩擦力を伝達する接触面を有する摩擦接触部と、該接触面に垂直な方向のばね性を持たせる弾性部と、を有し、必要に応じてこれらを連結する連結部を更に有する。
そして、本体部とは接触ばね構造の振動を外部へ逃がさず遮断しようとするもので、振動振幅を低減する機能を有するものとする。
【0014】
図3に、振動型アクチュエータの接触状態を説明する断面図を示す。図3は振動体1と移動体7の接触状態を、中心軸を通る断面で見たものである。
実線は、稼働時における振動体1の駆動振動による突き上げ運動を示しており、破線は停止時(振動振幅ゼロ)を示している。
この突き上げ運動に対し、接触ばね構造は円筒部5とフランジ部6のリンク機構によって、摩擦接触部の接触状態を維持しながら弾性変形する。
このとき、本体部10では弾性変形がほとんど無視できるレベルの振幅になっている。
なお、本実施例では接触ばね構造13を移動体側に設けているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
振動体と前記移動体との間における振動体または移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備えるようにした構成を採ることができる。振動体側に同等の機能を有する接触ばね構造を配置しても滑らかな接触を実現することが可能である。
また、本実施形態は円環型超音波モータに関するものであるが、振動体の形式はこれに限られたものではなく、くし歯部を持たない回転型、リニアタイプ等の振動型アクチュエータにも適用可能な構成である。
【0015】
図4に、本実施例の特徴的構成を説明する断面図を示す。
本実施例における移動体7は、接触ばね構造と、上記移動体を構成する本体部と、の間に間隙が形成されるよう、構成されている。
具体的には、移動体7は、本体部10と接触ばね構造13に囲われた間隙を有しており、この間隙内部に放熱手段である冷却用補助部材として液体14を保持している。
液体14は該間隙を完全に満たす必要はないが、同図に示すように摩擦接触部と本体部の間に伝熱経路を形成する量を充填することによって、効果的な放熱が実現可能となる。
本実施例の移動体は、接触ばね構造を含む部分と残りの部分の二体を接合した構成を備え、接合後に注入孔16より液体14を注入することで得られる。
冷却補助部材用の液体としては、比較的熱伝導率の高いシリコーングリスやシルバーグリスなど放熱性に優れたグリスを使用することができる。
なお冷却補助部材用の液体としては、他にも冷却水や各種オイル、液体金属、ゾルなど半固体状のものでも同様の効果が得られる。
保持されるグリスの量が不足した場合には、注入孔よりグリスを補給することで冷却性能の維持が可能である。
なお、実使用で液漏れが発生するようなら注入孔を塞いで使用すればよい。
一方注入孔を設けない場合は、接触ばね構造が形成する凹部に冷却用の液体を溜めた状態で移動体の接合行程を行うことで本構成を得ることが可能である。
【0016】
図5に、注入孔の位置に関する本実施例の変形例の構成を示す。
図4では、冷却補助部材14が揮発した場合、または微少量の漏れが発生した場合、接触部に影響を及ぼさないようできるだけ接触部から離れた位置に注入孔を設けられている。
これに対して、この変形例では注入孔16を移動体7の外周部に設けられているが、冷却補助部材に作用する遠心力などを加味して、注入孔16を内周側や軸方向上部に設けても全く問題はない。
【0017】
更に図6に、本実施例の他の変形例を示す。
図6の変形例は、移動体内部に保持される冷却補助部材として弾性体15を使用した例である。
この変形例では、比較的熱伝導率の高いゴムを使用している。ゴムは本体部と接触ばね構造の間に挟まれた状態で配置され、摩擦接触部での発熱を本体部へ伝達する役割を担う。
この変形例における構成で使用可能な弾性部材は、駆動振動による接触ばね構造の変形に大きな影響を及ぼさないことが必要であり、接触ばね構造のばね定数よりも小さい値の弾性部材を選択する。接触ばね構造のばね定数に対し無視できる程度の小さい値を有するものを選択することが好ましい。
【0018】
本実施例における冷却補助部材用の弾性体としては、他にも振動型アクチュエータの駆動振動振幅レベルの微小変形に対する弾性が小さい樹脂類、細線金属ワイヤを例えばたわし状にしたものを用いることができる。
あるいは、熱伝導性の高い例えば銅の粉末や例えばアルミ系のフィラーを添加して熱伝導性を高めた樹脂の粉末、発泡材、ゲル、熱伝導性の高いグラファイトを含む樹脂シートといったものでもよい。これらのものによっても、同様の効果を得ることができる。
【0019】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の振動型アクチュエータの構成例について、図7、図8を用いて説明する。
実施例1では摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段として、上記間隙に液体または弾性部材のうちのいずれか一方を介在させたのに対して、本実施例では本体部側に形成された、摩擦接触部と非接触の近接面を有する熱伝導部材を、上記間隙に介在させている。
その具体的構成を図7に示す。
図7に示すように、移動体7は、本体部10と接触ばね構造13に囲われた間隙を有しており、この間隙内部に本体部10と一体的に構成された近接面形成部材17を有している。
図7に示す17の下側の面が近接面であり、接触ばね構造の摩擦接触部に近接した位置に非接触で配置される。
近接面と摩擦接触部の間は、気体が介在しておりふく射および気体による熱伝達により接触部の熱を放熱する仕組みである。
なお、非接触に配置する理由は、近接面形成部材17が接触部の接触状態に影響を与えないようにするためである。
このとき、近接面は摩擦接触により発生した熱を効率よく放熱するためには、より近い距離に配置することが必要である。
コストに見合った現実的な加工精度を考慮すると0.1mm程度まで近づけることが好ましい。
【0020】
図8に、本実施例の変形例を示す。
図8に示す変形例は、近接面と摩擦接触部の間に冷却補助部材として実施例1で示した液体あるいは弾性部材を充填したものである。
この構成により、発熱源から本体部へ熱抵抗の低い伝熱経路が形成され、飛躍的に高効率で摩擦接触部の発熱を逃がすことが可能となる。
【0021】
以上に説明したように、本発明の上記した間隙に摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させるようにした構成によれば、摩擦接触部の熱を熱抵抗が大きい薄肉構造を介さずに放熱することが可能となる。
また、モータの高トルク化および高出力化にともなう摩擦接触部の昇温を緩和、あるいは防止し、安定した性能を維持することが可能となる。
また、簡単かつ製造上負荷の小さい形状を採ることができ、特別な冷却装置を用いることによる大幅なコストアップを避けることが可能となる。
さらに、従来から既存のスペースを有効利用することができ、振動型アクチュエータの占有スペースの増加も避けることが可能である。
そして、これらの構成は、複写機やカメラ用交換レンズ等を含む広い分野にわたって用いられている振動型アクチュエータに適用することができ、これにより高出力化に対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1:振動体
2:圧電素子
4:摩擦接触部
5:円筒部
6:フランジ部
7:移動体
8:ばね受け部
9:加圧ばね
10:本体部
11:シャフト
12:ディスク
13:接触ばね構造
14:冷却補助部材(液体)
15:冷却補助部材(弾性体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に振動を発生させ、その振動エネルギーを利用して駆動力を与える振動型アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、振動型アクチュエータ(超音波モータ等の振動波モータ)は、駆動振動が形成される振動体と、振動体に加圧接触する移動体とを有し、振動体と移動体とを駆動振動により相対的に移動させるように構成されている。
図9は、いわゆる円環型超音波モータの断面図である。
図9において、101はリング形状の振動体、102は前記振動体101の一方の面に固着された圧電素子、103は前記振動体の他方面に設置された摩擦部材、107は前記振動体101の前記摩擦部材3側に配置された移動体である。
113は円筒状の接触ばね構造であり、一方が前記移動体107に支持され、他方が円錐形状に加工され先端において前記摩擦部材103に加圧接触する。
移動体107は加圧ばね109によって加圧されており、移動体107の回転トルクは加圧ばね109、ディスク113を介してシャフト111に伝えられる。図10に振動体101を移動体107側から見た斜視図を示す。
図10において、振動体101は、移動体107と対向する面に複数のくし歯状の突起形状をしたくし歯部101aが円環状に配列されている。
そして、摩擦部材103が、前記複数のくし歯にそれぞれ配置される。摩擦部材が配置される側の反対の面には、前記圧電素子102が固着される。
前記圧電素子102には不図示の電極パターンが設けられており、本電極パターンに交番信号を印加することにより前記振動体101に曲げ振動を発生し移動体107を駆動する。
【0003】
図11に、特許文献1に開示されている振動型アクチュエータにおける移動体の構造を示す。
図11に示すように、移動体213を両端支持条件の梁構造とすることで、加圧方向(面Aに垂直方向)に弾性を持たせている。
詳しくは、移動体213は、移動体梁部210、梁部210の両端部から延出した移動体第一突起部211、振動体216との接触面側の梁部210から延出した移動体第二突起部212、等により構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第03049931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来例の振動型アクチュエータは、つぎのような課題を有している。
近年、振動型アクチュエータの高トルク化および高出力化が求められており、これに伴い、図9における移動体107を振動体101に押し付ける力、すなわちモータ加圧力が増大している。
摩擦接触部の発熱は、接触部の面圧と相対滑りに依存した摺動損失エネルギーによるものが支配的であり、前記モータ加圧力の増大が摩擦接触部の急激な温度上昇を引き起こしている。
従来の構成において、接触部で発生した熱は図12の矢印で表す伝熱経路で移動体本体側に放熱される。
しかし、図12の丸で囲った移動体梁部210は加圧方向に弾性をもたせるため、比較的薄肉化された断面積の小さい構造であることから、この部分における熱抵抗が大きくなっている。
これにより、移動体第二突起部212の昇温を緩和、あるいは防止することが困難である。
【0006】
このような大きい熱抵抗による摩擦接触部の急激な温度上昇は、接触部を構成する部品を変形させて接触状態を不安定にする。
また、接触部界面の摩擦係数など摩擦材料のメカ特性への影響が大きくなる。
これらの作用によって、耐久性などを含めモータ性能が大きく変化してしまい、安定した駆動源の供給が困難となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、接触部界面の摺動損失エネルギーとして発生した熱を効率的に逃がし、界面温度の昇温を緩和、あるいは抑制することが可能となる振動型アクチュエータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、前記振動体と加圧接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、前記振動体に励起される振動波によって前記移動体を摩擦駆動し、前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接触部界面の摺動損失エネルギーとして発生した熱を効率的に逃がし、界面温度の昇温を緩和、あるいは抑制することが可能となる振動型アクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの断面斜視図である。
【図2】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの移動体の断面図である。
【図3】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの接触状態を説明する断面図である。
【図4】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの特徴的構成を説明する断面図である。
【図5】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの注入孔に関する変形例を示す図である。
【図6】本発明の実施例1における振動型アクチュエータの変形例を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施例2における振動型アクチュエータの変形例を示す図である。
【図9】従来例の振動型アクチュエータである円環型超音波モータの構成を示す図である。
【図10】従来例の振動型アクチュエータである円環型超音波モータの振動体構造を示す図である。
【図11】従来例の振動型アクチュエータにおける移動体構造を示す図である。
【図12】従来例の振動型アクチュエータにおける接触部で発生した熱エネルギーの放熱経路を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0012】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動型アクチュエータの構成例について、図1〜図6を用いて説明する。
本実施例の振動型アクチュエータは、電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、該振動体と加圧接触する移動体と、を備える。
そして、上記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、振動体に励起される振動によって移動体を摩擦駆動し、移動体を該振動体に対して相対移動させるように構成される。
その具体的構成として、図1に本実施例の振動型アクチュエータの断面斜視図を示す。
1は振動体で、圧電素子(電気−機械エネルギー変換素子)2に印加される交番信号により駆動振動である高周波の曲げ振動を発生する。
7は移動体で、加圧ばね9によりばね受け部8を介して軸方向に押圧され、振動体1の接触部と加圧接触する。
このとき、移動体7は振動体1の高周波振動により回転方向に駆動され、駆動力は一体的に駆動されるばね受け部8、加圧ばね9、ディスク12を介しシャフト11に伝達される。
図1において、丸で囲んだ部分が移動体7に設けられた接触ばね構造13である。
【0013】
図2は、図1の接触ばね構造13を拡大した断面図である。
移動体7は、振動体と摩擦接触する摩擦接触部4を有する接触ばね構造13と本体部10で構成される。
接触ばね構造13は、摩擦接触部4と円筒部5および円筒部から径方向に張出しているフランジ部6から構成される。前記接触ばね構造13以外の部分が本体部10である。本実施例の振動型アクチュエータは、加圧ばね9によるモータ加圧力に対し軸方向のばね性を有するフランジ部6が弾性変形することで滑らかな接触を実現している。円筒部5は、摩擦接触部4とフランジ部6とを連結している。
しかしながら、本構成は接触ばね構造の一例である。本発明において、接触ばね構造は、摩擦力を伝達する接触面を有する摩擦接触部と、該接触面に垂直な方向のばね性を持たせる弾性部と、を有し、必要に応じてこれらを連結する連結部を更に有する。
そして、本体部とは接触ばね構造の振動を外部へ逃がさず遮断しようとするもので、振動振幅を低減する機能を有するものとする。
【0014】
図3に、振動型アクチュエータの接触状態を説明する断面図を示す。図3は振動体1と移動体7の接触状態を、中心軸を通る断面で見たものである。
実線は、稼働時における振動体1の駆動振動による突き上げ運動を示しており、破線は停止時(振動振幅ゼロ)を示している。
この突き上げ運動に対し、接触ばね構造は円筒部5とフランジ部6のリンク機構によって、摩擦接触部の接触状態を維持しながら弾性変形する。
このとき、本体部10では弾性変形がほとんど無視できるレベルの振幅になっている。
なお、本実施例では接触ばね構造13を移動体側に設けているが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
振動体と前記移動体との間における振動体または移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備えるようにした構成を採ることができる。振動体側に同等の機能を有する接触ばね構造を配置しても滑らかな接触を実現することが可能である。
また、本実施形態は円環型超音波モータに関するものであるが、振動体の形式はこれに限られたものではなく、くし歯部を持たない回転型、リニアタイプ等の振動型アクチュエータにも適用可能な構成である。
【0015】
図4に、本実施例の特徴的構成を説明する断面図を示す。
本実施例における移動体7は、接触ばね構造と、上記移動体を構成する本体部と、の間に間隙が形成されるよう、構成されている。
具体的には、移動体7は、本体部10と接触ばね構造13に囲われた間隙を有しており、この間隙内部に放熱手段である冷却用補助部材として液体14を保持している。
液体14は該間隙を完全に満たす必要はないが、同図に示すように摩擦接触部と本体部の間に伝熱経路を形成する量を充填することによって、効果的な放熱が実現可能となる。
本実施例の移動体は、接触ばね構造を含む部分と残りの部分の二体を接合した構成を備え、接合後に注入孔16より液体14を注入することで得られる。
冷却補助部材用の液体としては、比較的熱伝導率の高いシリコーングリスやシルバーグリスなど放熱性に優れたグリスを使用することができる。
なお冷却補助部材用の液体としては、他にも冷却水や各種オイル、液体金属、ゾルなど半固体状のものでも同様の効果が得られる。
保持されるグリスの量が不足した場合には、注入孔よりグリスを補給することで冷却性能の維持が可能である。
なお、実使用で液漏れが発生するようなら注入孔を塞いで使用すればよい。
一方注入孔を設けない場合は、接触ばね構造が形成する凹部に冷却用の液体を溜めた状態で移動体の接合行程を行うことで本構成を得ることが可能である。
【0016】
図5に、注入孔の位置に関する本実施例の変形例の構成を示す。
図4では、冷却補助部材14が揮発した場合、または微少量の漏れが発生した場合、接触部に影響を及ぼさないようできるだけ接触部から離れた位置に注入孔を設けられている。
これに対して、この変形例では注入孔16を移動体7の外周部に設けられているが、冷却補助部材に作用する遠心力などを加味して、注入孔16を内周側や軸方向上部に設けても全く問題はない。
【0017】
更に図6に、本実施例の他の変形例を示す。
図6の変形例は、移動体内部に保持される冷却補助部材として弾性体15を使用した例である。
この変形例では、比較的熱伝導率の高いゴムを使用している。ゴムは本体部と接触ばね構造の間に挟まれた状態で配置され、摩擦接触部での発熱を本体部へ伝達する役割を担う。
この変形例における構成で使用可能な弾性部材は、駆動振動による接触ばね構造の変形に大きな影響を及ぼさないことが必要であり、接触ばね構造のばね定数よりも小さい値の弾性部材を選択する。接触ばね構造のばね定数に対し無視できる程度の小さい値を有するものを選択することが好ましい。
【0018】
本実施例における冷却補助部材用の弾性体としては、他にも振動型アクチュエータの駆動振動振幅レベルの微小変形に対する弾性が小さい樹脂類、細線金属ワイヤを例えばたわし状にしたものを用いることができる。
あるいは、熱伝導性の高い例えば銅の粉末や例えばアルミ系のフィラーを添加して熱伝導性を高めた樹脂の粉末、発泡材、ゲル、熱伝導性の高いグラファイトを含む樹脂シートといったものでもよい。これらのものによっても、同様の効果を得ることができる。
【0019】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の振動型アクチュエータの構成例について、図7、図8を用いて説明する。
実施例1では摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段として、上記間隙に液体または弾性部材のうちのいずれか一方を介在させたのに対して、本実施例では本体部側に形成された、摩擦接触部と非接触の近接面を有する熱伝導部材を、上記間隙に介在させている。
その具体的構成を図7に示す。
図7に示すように、移動体7は、本体部10と接触ばね構造13に囲われた間隙を有しており、この間隙内部に本体部10と一体的に構成された近接面形成部材17を有している。
図7に示す17の下側の面が近接面であり、接触ばね構造の摩擦接触部に近接した位置に非接触で配置される。
近接面と摩擦接触部の間は、気体が介在しておりふく射および気体による熱伝達により接触部の熱を放熱する仕組みである。
なお、非接触に配置する理由は、近接面形成部材17が接触部の接触状態に影響を与えないようにするためである。
このとき、近接面は摩擦接触により発生した熱を効率よく放熱するためには、より近い距離に配置することが必要である。
コストに見合った現実的な加工精度を考慮すると0.1mm程度まで近づけることが好ましい。
【0020】
図8に、本実施例の変形例を示す。
図8に示す変形例は、近接面と摩擦接触部の間に冷却補助部材として実施例1で示した液体あるいは弾性部材を充填したものである。
この構成により、発熱源から本体部へ熱抵抗の低い伝熱経路が形成され、飛躍的に高効率で摩擦接触部の発熱を逃がすことが可能となる。
【0021】
以上に説明したように、本発明の上記した間隙に摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させるようにした構成によれば、摩擦接触部の熱を熱抵抗が大きい薄肉構造を介さずに放熱することが可能となる。
また、モータの高トルク化および高出力化にともなう摩擦接触部の昇温を緩和、あるいは防止し、安定した性能を維持することが可能となる。
また、簡単かつ製造上負荷の小さい形状を採ることができ、特別な冷却装置を用いることによる大幅なコストアップを避けることが可能となる。
さらに、従来から既存のスペースを有効利用することができ、振動型アクチュエータの占有スペースの増加も避けることが可能である。
そして、これらの構成は、複写機やカメラ用交換レンズ等を含む広い分野にわたって用いられている振動型アクチュエータに適用することができ、これにより高出力化に対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1:振動体
2:圧電素子
4:摩擦接触部
5:円筒部
6:フランジ部
7:移動体
8:ばね受け部
9:加圧ばね
10:本体部
11:シャフト
12:ディスク
13:接触ばね構造
14:冷却補助部材(液体)
15:冷却補助部材(弾性体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、前記振動体と加圧接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、前記振動体に励起される振動波によって前記移動体を摩擦駆動し、前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させたことを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記放熱手段が、前記間隙に液体または弾性部材のうちのいずれか一方を介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記放熱手段が、前記振動体または前記移動体の前記本体部側に形成された、前記摩擦接触部と非接触の近接面を有する熱伝導部材を、前記間隙に介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記間隙における前記摩擦接触部と非接触の近接面との間に、液体または弾性部材のいずれか一方を介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子を有する振動体と、前記振動体と加圧接触する移動体と、を備え、
前記電気−機械エネルギー変換素子への交番信号の印加により、前記振動体に励起される振動波によって前記移動体を摩擦駆動し、前記移動体を前記振動体に対して相対移動させる振動型アクチュエータであって、
前記振動体または前記移動体のいずれか一方に、いずれか他方と摩擦接触する摩擦接触部を有する接触ばね構造を備え、
前記接触ばね構造と前記振動体または前記移動体を構成する本体部との間には間隙が形成され、
前記間隙に、前記摩擦接触部に発生する熱を放熱する放熱手段を介在させたことを特徴とする振動型アクチュエータ。
【請求項2】
前記放熱手段が、前記間隙に液体または弾性部材のうちのいずれか一方を介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項3】
前記放熱手段が、前記振動体または前記移動体の前記本体部側に形成された、前記摩擦接触部と非接触の近接面を有する熱伝導部材を、前記間隙に介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ。
【請求項4】
前記間隙における前記摩擦接触部と非接触の近接面との間に、液体または弾性部材のいずれか一方を介在させた構成を備えていることを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−21777(P2013−21777A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151735(P2011−151735)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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