説明

振動型角速度センサ

【課題】小型で感度が高い振動型角速度センサを提供する。
【解決手段】支持部と、錘部と、前記錘部からそれぞれ前記支持部まで延伸し前記錘部を支持している複数の梁部と、前記錘部を励振する励振手段と、前記支持部に対する前記錘部の運動を検出する検出手段と、前記支持部および前記錘部の少なくとも一方の前記梁部との境界近傍に形成され、前記梁部の張力に応じて前記梁部の延伸方向に弾性変形し前記梁部の主撓み方向には実質的に変形しないばね定数安定化手段と、を備える振動型角速度センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動型角速度センサに関し、特にMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)として構成される振動型角速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMSとして構成される振動型角速度センサが知られている。振動型角速度センサでは、参照振動の振幅が大きくなるほど感度が高くなる。したがって錘部は錘部の形態と錘部を支持する弾性体の形態とで決まる固有振動数の近傍の振動数において励振される。しかし、錘部を支持する弾性体が延びると弾性体のばね定数が変化し、それにともなって固有振動数が変化する。このような固有振動数の変化はハードスプリング効果といわれる。一定の振幅に対しては弾性体が小型化するほどハードスプリング効果が起こりやすい。ハードスプリング効果による固有振動数の変化に追従して励振することは困難であるため、振動型角速度センサが小型化するほど振幅の大きな参照振動を実現することは困難になる。特許文献1、2,3に記載されているように、錘部を支持する弾性体としての梁部が例えばT字形である等、錘部を支持する弾性体としての梁部に屈曲部があるとハードスプリング効果による固有振動数の変化は起こりにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−199714号公報
【特許文献2】特開2007−333665号公報
【特許文献3】国際公開WO00−079288号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、屈曲部を形成するなどして梁部自体を柔らかくするとばね定数と固有振動数が大幅に低下する。したがって、従来の方法では、目標とする固有振動数を維持しながら弾性体のハードスプリング効果を低減することはできない。すなわち、振動型角速度センサには、小型化するほど、振幅の大きな参照振動を実現することは困難になるとともに感度を高めにくくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、この問題を解決するために創作されたものであって、小型で感度が高い振動型角速度センサを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するための振動型角速度センサは、支持部と、錘部と、前記錘部からそれぞれ前記支持部まで延伸し前記錘部を支持している複数の梁部と、前記錘部を励振する励振手段と、前記支持部に対する前記錘部の運動を検出する検出手段と、前記支持部および前記錘部の少なくとも一方の前記梁部との境界近傍に形成され、前記梁部の張力に応じて前記梁部の延伸方向に弾性変形し前記梁部の主撓み方向には実質的に変形しないばね定数安定化手段と、を備える。
【0007】
本発明によると梁部の張力に応じてばね定数安定化手段が梁部の延伸方向に弾性変形することによって梁部の伸びが抑制される。このため本発明によると、錘部の参照振動の振幅を大きくしても、ハードスプリング効果による固有振動数の変化を抑えることができる。すなわち本発明によると感度が高い振動型角速度センサを実現できる。また梁部の延伸方向のばね定数は梁部の主撓み方向のばね定数に比べて格段に大きい。したがって梁部の延伸方向におけるばね定数安定化手段のばね定数が相当大きくても、梁部のハードスプリング効果を抑制できる。梁部の延伸方向におけるばね定数安定化手段のばね定数を十分大きく設定することによって、ばね定数安定化手段によって錘部の固有振動数が大幅に低くなることを防止できる。なお、本明細書において、主撓み方向とは、板状の構造体を厚さ方向に撓ませる任意の変位方向である。また、厚さ方向とは板状の構造体の寸法について最も長さが短くなる方向である。
【0008】
(2)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記ばね定数安定化手段は、主撓み方向が前記梁部の延伸方向に一致するとともに当該主撓み方向において前記梁部と結合している板ばねの形態を有してもよい。
本発明によると板ばねの形態を有するばね定数安定化手段が梁部の延伸方向に撓むことによって梁部の伸びが抑制される。このため感度が高い振動型角速度センサを実現できる。また板ばねの形態を有するばね定数安定化手段の主撓み方向のばね定数を十分大きく設定することによって、錘部の固有振動数が大幅に低くなることを防止できる。
【0009】
(3)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記支持部と前記錘部と前記梁部とは積層構造体からなり、前記積層構造体の積層方向において前記支持部または前記錘部を貫通する穴によって前記ばね定数安定化手段が形成されていてもよい。
本発明によると、ばね定数安定化手段と支持部または錘部の残部との積層構造が同一になるため、ばね定数安定化手段を簡素な製造プロセスの中で形成することができる。
【0010】
(4)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記支持部と前記錘部と前記梁部とは積層構造体からなり、前記積層構造体の積層方向において前記支持部または前記錘部を貫通する切り欠きによって前記ばね定数安定化手段が形成されていてもよい。
本発明によると、ばね定数安定化手段と支持部または錘部の残部との積層構造が同一になるため、ばね定数安定化手段を簡素な製造プロセスの中で形成することができる。
【0011】
(5)上記目的を達成するための振動型角速度センサにおいて、前記梁部の延伸方向における前記ばね定数安定化手段のばね定数は前記梁部の延伸方向における前記梁部のばね定数より小さくてもよい。
本発明によると、ハードスプリング効果の抑制効果が高まる。
【0012】
(6)上記目的を達成するための振動型角速度センサは、環状の膜部と、前記膜部の外周と結合している筒部と、前記膜部の内周と結合している錘部と、前記錘部を励振する励振手段と、前記筒部に対する前記錘部の運動を検出する検出手段と、前記筒部を囲む支持部と、前記支持部に形成され、主撓み方向が前記膜部の幅方向に一致するとともに前記主撓み方向において前記筒部と結合している板ばねの形態を有するばね定数安定化手段と、を備える。
【0013】
本発明によると板ばねの形態を有するばね定数安定化手段が環状の膜部の幅方向に撓むことによって筒部の径が縮小し、膜部の伸びが抑制される。このため本発明によると、錘部の参照振動の振幅を大きくしても、ハードスプリング効果による固有振動数の変化を抑えることができる。すなわち本発明によると感度が高い振動型角速度センサを実現できる。また膜部の幅方向のばね定数は膜部の厚み方向のばね定数に比べて格段に大きい。したがってばね定数安定化手段の主撓み方向のばね定数が相当大きくても、膜部のハードスプリング効果を抑制できる。板ばねの形態を有するばね定数安定化手段の主撓み方向のばね定数を十分大きく設定することによって、ばね定数安定化手段によって錘部の固有振動数が大幅に低くなることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは本発明の実施形態にかかる斜視図。図1Bおよび図1Cは本発明の実施形態にかかる側面図。
【図2】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図3】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図4】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図5】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図6】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図7】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図8】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図9】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図10】本発明の実施形態にかかるグラフ。
【図11】本発明の実施形態にかかる斜視図。
【図12】図12Aは本発明の実施形態にかかる上面図。図12Bは図12Aに示すBB線断面図。図12Cは図12Aに示すCC線断面図。図12Dは図12Aの部分図。
【図13】本発明の実施形態にかかる断面図。
【図14】本発明の実施形態にかかる断面図。
【図15】本発明の実施形態にかかる断面図。
【図16】本発明の実施形態にかかる断面図。
【図17】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図18】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図19】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図20】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図21】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図22】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図23】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図24】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図25】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図26】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図27】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図28】本発明の実施形態にかかる上面図。
【図29】図29Aは本発明の実施形態にかかる上面図。図29Bは図29Aに示すBB線断面図。図29Cは図29Aに示すCC線断面図。
【図30】図30Aは本発明の実施形態にかかる上面図。図30Bは図30Aに示すBB線断面図。図30Cは図30Aに示すCC線断面図。
【図31】図31Aは本発明の実施形態にかかる上面図。図31Bは図31Aに示すBB線断面図。図31Cは図31Aに示すCC線断面図。図31Dは図31Aに示すDD線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
1.ハードスプリング効果とその抑制原理
図1Aに示すように梁Rの両端が2つの支持体S1、S2に固定されているとき、梁Rの厚さ方向について変位aと復元力Fの関係を考える。梁Rの中間点の変位aが小さい範囲ではフックの法則F=kaが近似的に成立する。ばね定数kは変位aの関数であって、変位aが大きくなるとばね定数kは大きくなり梁Rはばねとして硬くなる。
【0016】
図2は梁Rを励振する駆動電圧の大きさ(振幅)毎に梁Rの中間点の振幅と振動数の関係を示したグラフである。駆動電圧Vが大きくなるほど梁Rの振幅は増大する。また駆動電圧Vの振動数が固有振動数に近くなるほど梁Rの振幅は増大する。相対的に高い駆動電圧Vにおいて励振する場合、相対的に低い駆動電圧Vにおいて励振するよりも高い振動数において梁Rの振幅が極大になる。すなわち、梁Rの中間点の振幅が大きくなると梁Rの中間点の固有振動数が高くなる。これは梁Rの中間点の変位aの増大に伴って梁Rの主撓み方向である厚さ方向のばね定数kが大きくなるからである。これをハードスプリング効果という。
【0017】
相対的に低い駆動電圧Vにおいて励振する場合、梁Rの中間点の振幅が極大になる固有振動数を境にして梁Rの中間点の振幅と振動数の関係は対称である。一方、相対的に高い駆動電圧Vにおいて励振する場合、図3において実線によって示すように、梁Rの中間点の振幅が極大になる固有振動数よりも高い振動数において振動する範囲では振動数に対する振幅の変化率の絶対値が、振幅が極大になる固有振動数よりも低い振動数において振動する範囲に比べて大きくなる。振動数に対する振幅の変化率の絶対値が大きくなると、駆動電圧によって振幅を制御することが困難になる。すなわち大きな振幅で梁Rを安定して励振することは困難である。なお、図3に示すグラフにおいて、実線は駆動電圧Vにおいて梁Rを励振するときに梁Rの中間点の振幅と振動数の関係を示し、破線は振幅が極大となる振動数を境にして梁Rの中間点の振動数と振幅の関係が対称である関係を示している。
【0018】
ところで図1Bに示すように支持体S1、S2の位置が相対的に固定されているとき、変位aが大きくなるほど梁Rが延びる。そこで変位aに伴う梁Rの単位長さあたりの伸びを小さくすることにより、ハードスプリング効果を抑制する。
【0019】
図1Cに示すように、梁Rの両端が固定されている支持体S1、S2の距離dが変位aの増加に伴って減少するように梁Rを支持すると、変位aに伴う梁Rの単位長さあたりの伸びを小さくすることができる。すなわち、梁Rの張力に応じて支持体S1、S2の距離dが縮むとき、変位aに伴う梁Rの単位長さあたりの伸びを小さくすることができる。したがって、支持体S1および支持体S2の少なくとも一方を、梁Rの延伸方向においてばねとして機能させることによってハードスプリング効果を抑制できる。
【0020】
ただし、支持体S1および支持体S2の少なくとも一方を、梁Rの延伸方向においてばねとして機能させると、支持体S1、S2の位置を相対的に固定する場合に比べて梁Rの中間点の固有振動数は低くなる。したがって、梁Rの中間点の固有振動数を維持するには、梁Rの長さ方向における支持体S1および支持体S2のばね定数は大きいほど好ましい。また、変位aに伴う梁Rの単位長さあたりの伸びを小さくするためには、梁Rの長さ方向における支持体S1および支持体S2のばね定数は、梁Rの延伸方向における梁Rのばね定数よりも小さいことが好ましい。
【0021】
なお、支持体S1、S2が梁Rの中間点の振動方向と同じ方向にばねとして振動するように構成すると、梁Rの中間点の固有振動数が大きく変動する。したがって、支持体S1、S2は、梁Rの延伸方向においてはばねとして機能し、梁Rの中間点の振動方向においては実質的な剛体として機能するように構成される。すなわち、支持体S1、S2は、主撓み方向が梁Rの延伸方向に一致するとともに主撓み方向において梁Rと結合している板ばねの形態とする。板ばねは、厚さ方向に成分を持つ主撓み方向についてはばね定数が小さく、厚さ方向と垂直な面と平行な方向についてはばね定数は実質的に無限大として扱えるほど大きい。したがって、支持体S1、S2は、厚さ方向が梁Rの延伸方向に一致するとともに厚さ方向において梁Rと結合している板ばねの形態とすればよい。
【0022】
2.第一実施例
図11および図12は本発明による振動型角速度センサの第一実施例を示している。説明の便宜のために図11および図12に示すように直交するxyz軸を定める。振動型角速度センサ1は、MEMSとして構成され、単結晶珪素、酸化珪素、白金、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの積層構造体であって、図示しないパッケージに収容される。振動型角速度センサ1には、枠形の支持部10、底面が十字形の柱体である錘部15、梁部12a,12b,12c,12dなどが形成されている。
【0023】
支持部10はパッケージに固定され、梁部12に比べて十分厚いため、実質的に剛体として振る舞う。支持部10は内側に梁部12および錘部15が収まる空間を形成し実質的に剛体として振る舞う形態であればどのような形態であっても良い。
【0024】
4つの梁部12は、いずれも一端が支持部10に他端が錘部15に結合している。具体的には梁部12を構成する2つの層104と106とが支持部10および錘部15をも構成し、層104,106が錘部15、梁部12および支持部10にわたって連続しているていることによって梁部12が支持部10と錘部15とに結合している。4つの梁部12は、錘部15と支持部10とを構成している複数の層のうち突出して厚い層100を含まないため、錘部15と支持部10に対して十分z方向に薄い。したがって4つの梁部12は、それぞれ一端が支持部10に固定された弾性梁として振る舞う。4つの梁部12は、xy平面と平行に整列し、いずれもx軸と平行な方向に延伸している。梁部12a、12bの対はx方向において整列し、錘部15のy方向の一端部から互いに逆方向(x軸正方向およびx軸負方向)にそれぞれ支持部10まで延伸している。梁部12c、12dの対はx方向において整列し、錘部15のy方向の他端部から互いに逆方向(x軸正方向およびx軸負方向)にそれぞれ支持部10まで延伸している。梁部12と支持部10と錘部15は一方の主面がxy平面と平行に整列している。すなわちz方向において相対的に厚い支持部10と錘部15のz方向の端部に対して、z方向において相対的に薄い梁部12が結合している。
【0025】
錘部15は、支持部10に対して運動可能に4つの梁部12によって支持されている。錘部15は、支持部10に対して固定されたxyz座標系において3次元運動する剛体として振る舞う。z方向において相対的に厚い錘部15のz方向の端部に対して、z方向において相対的に薄い梁部12が結合しているため、錘部15の重心は梁部12を含む平面からz方向に離間している。したがって、錘部15にx方向またはy方向の慣性力が作用すると、錘部15の重心の運動はx軸またはy軸周りの回転を伴う運動となる。
【0026】
それぞれの梁部12の表面の支持部10との境界近傍に励振手段として駆動用圧電素子13が設けられる。駆動用圧電素子13に交流の駆動電圧を印加することによって錘部15を振動させる。本実施形態では、x軸方向の参照振動とy軸方向の参照振動とを時分割駆動によって異なる時に発生させる。なおx軸方向の参照振動とy軸方向の参照振動とを同時に発生させるには、たとえば駆動用圧電素子13aおよび駆動用圧電素子13dに印加する駆動信号と駆動用圧電素子13bおよび駆動用圧電素子13cに印加する駆動信号との位相をずらせばよい。
【0027】
梁部12および錘部15は、錘部15の重心の固有振動数がx軸方向とy軸方向とz軸方向とで異なるように構成されている。これはx軸方向の参照振動がy軸およびz軸に漏れたり、z軸方向の参照振動がx軸及びy軸に漏れる、所謂メカニカルカップリングを防止するためである。本実施例ではz軸方向、x軸方向、y軸方向の順に固有振動数が高くなるように梁部12および錘部15が構成されている(後記の表2参照)。
【0028】
それぞれの梁部12の表面の錘部15との境界近傍に検出手段として検出用圧電素子14が設けられる。検出用圧電素子14は支持部10に対する錘部15の運動を検出する。
【0029】
振動型角速度センサ1がx軸周りに回転するとz軸方向に進行する錘部15の重心に対してy軸と平行なコリオリ力が作用する。錘部15がz軸方向に振動している場合、x軸周りの回転に伴うy軸と平行なコリオリ力も振動するため、振動型角速度センサ1がx軸周りに回転すると錘部15の重心はz軸の参照振動と同じ振動数においてy軸と平行に振動する。錘部15の重心がy軸と平行に変位するとき、錘部15のx軸周りの回転に伴って検出用圧電素子14a、14bの対と検出用圧電素子14c、14dの対とは伸縮が逆になる。すなわち、検出用圧電素子14a、14bの対が延びるとき検出用圧電素子14c、14dの対は縮み、検出用圧電素子14a、14bの対が縮むとき検出用圧電素子14c、14dの対は延びる。
【0030】
振動型角速度センサ1がy軸周りに回転するとx軸方向に進行する錘部15の重心に対してz軸と平行なコリオリ力が作用する。錘部15がx軸方向に振動している場合、y軸周りの回転に伴うz軸と平行なコリオリ力も振動するため、振動型角速度センサ1がy軸周りに回転すると錘部15の重心はx軸の参照振動と同じ振動数においてz軸と平行に振動する。錘部15の重心がz軸と平行に変位するとき、4つの検出用圧電素子14a、14b、14c、14dは伸縮方向が揃う。すなわち4つの検出用圧電素子14a、14b、14c、14dは同時に延びるとともに同時に縮む。
【0031】
振動型角速度センサ1がz軸周りに回転するとx軸方向に進行する錘部15の重心に対してy軸と平行なコリオリ力が作用する。錘部15がx軸方向に振動している場合、z軸周りの回転に伴うy軸と平行なコリオリ力も振動するため、振動型角速度センサ1がz軸周りに回転すると錘部15の重心はx軸の参照振動と同じ振動数においてy軸と平行に振動する。
【0032】
4つの検出用圧電素子14の出力信号と駆動用圧電素子13に印加する駆動信号とに基づいてxyzの各軸周りの角速度を検出する回路と、駆動用圧電素子13に印加する駆動信号を出力する回路とは、振動型角速度センサ1を構成するダイに形成しても良いし、振動型角速度センサ1を構成するダイとは別のダイに形成しても良い。
【0033】
上述したように4つの梁部12の固有振動数を維持しつつハードスプリング効果を抑制するために、ばね定数安定化手段として梁部12毎にばね部11が支持部10に形成されている。ばね部11は支持部10の内周面近傍に形成された穴10hと支持部10の内周面との間に位置するL字形に屈曲した板状の部分であって、図12においてハッチングによって示されている部分である。ばね部11と支持部10の残部とを隔てる穴10hは支持部10を貫通している。支持部10を貫通している穴10hによって支持部10の残部と隔てられているばね部11は、支持部10の残部と同一の積層構造を有する。したがって、ばね部11のz方向の長さWは支持部10の残部のz方向の長さと等しく一定である。ばね部11は屈曲部を境にして一方がy軸と平行に延び他方がx軸と平行に延び、両端が支持部10の残部と結合している。
【0034】
ばね部11のy軸と平行に延びる部分においてz方向の一端に梁部12の一端が結合している。具体的には梁部12を構成する2つの層104、106とがばね部11をも構成し、層104、106がばね部11および梁部12わたって連続していることによって梁部12がばね部11に結合している。梁部12との結合部においてばね部11の主撓み方向はばね部11の厚さ方向(x方向)であって、梁部12の延伸方向(錘部15に結合する端と支持部10に結合する端とを結ぶ方向)と一致している。梁部12の張力に伴ってばね部11の梁部12との結合部がx軸方向に変位する。ばね部11の梁部12との結合部のx軸方向の変位とこの変位に伴うばね部11のx軸方向の復元力との関係、すなわちばね部11のx軸方向(梁部12の延伸方向)のばね定数は、図12Bおよび図12Dに示す各部位の寸法T、T、L、L、LおよびWに相関する。ばね部11のx軸方向のばね定数とL、L、Lとの関係は負の相関である。ばね部11のx軸方向のばね定数とT、T、Wとの関係は正の相関である。すなわちばね部11のx軸方向のばね定数を大きくするには、板ばねの厚さに対応するTおよびTならびに板ばねの幅に対応するWを大きくし、板ばねの長さに対応するL、L、およびLを小さくすればよい。ばね部11の形態は支持部10に形成する穴10hの位置および寸法によって設定される。穴10hは支持部10を貫通しているため、ばね部11は二辺が支持部10の残部に固定されている。穴10hは支持部10を貫通しない形態にしてもよく、この場合、ばね部11は三辺が支持部10の残部に固定される形態となる。ばね部11の厚さT、Tは屈曲部を境にして変えても良い。ばね部11のx軸と平行に延びる部分を十分厚く(Tを大きく)かつ十分短く(Lを小さく)設計すると、ばね部11のy軸と平行に延びる部分のみが実質的にばねとして機能する。ばね部11のz方向の長さ(幅)Wは厚さT、Tに比べて十分大きいため、ばね部11のz方向のばね定数は実質的に無限大と考えられる。すなわち、ばね部11は梁部12の延伸方向であるx方向には弾性変形するが、梁部12の主撓み方向であるz方向においては変形しない。ばね部11と梁部12との結合部が梁部12の主撓み方向であるz方向に固定されている場合、その結合部がz方向に変位する場合に比べて錘部15の固有振動数を高くすることができる。
【0035】
図12Bに示すように支持部10と梁部12と錘部15のz方向の端面がxy平面と平行に整列し、梁部12が全く撓んでいない状態を初期状態とするとき、錘部15が支持部10に対して運動すると4つの梁部12a,12b,12c,12dの少なくともいずれか1つの張力が増大する。この張力の増大に応じてばね部11が撓むため、張力の増大に伴う梁部12の伸びとばね定数の増大が抑制される。具体的には例えば錘部15の重心が初期状態からz方向に変位すると、4つの梁部12a,12b,12c,12dの張力がいずれも増大し、梁部12a,12b,12c,12dにそれぞれ結合しているばね部11a,11b、11c、11dは梁部12a,12b,12c,12dの張力の増大に伴ってx軸方向に撓む。すなわち、梁部12aの伸びに伴う梁部12aのz方向のばね定数の増大はばね部11aによって、梁部12bの伸びに伴う梁部12bのz方向のばね定数の増大はばね部11bによって、梁部12cの伸びに伴う梁部12cのz方向のばね定数の増大はばね部11cによって、梁部12dの伸びに伴う梁部12dのz方向のばね定数の増大はばね部11dによって、それぞれ抑制される。
【0036】
一方、梁部12の主撓み方向であるz方向における梁部12のばね定数に比べると、梁部12の延伸方向であるx方向における梁部12のばね定数は十分大きい。したがって、梁部12のz方向のばね定数に比べてばね部11のx方向のばね定数を十分大きく設定しても、梁部12の伸びを抑制し、梁部12のz方向のばね定数の増大を抑制できる。そして、梁部12のz方向のばね定数に比べてばね部11のx方向のばね定数を十分大きく設定することにより、錘部15の重心の固有振動数の変化を抑制できる。
【0037】
図4,5,6はばね部11の各部の寸法を変えた場合に、錘部15の重心の変位(振幅)と固有振動数の変化率がどのように変わるかをシミュレーションした結果を示すグラフである。シミュレーションにおけるばね部11の寸法設定は次の表の通りである。
【表1】

【0038】
シミュレーションの結果、ばね部11の寸法を適切に設定することにより、錘部15の重心の固有振動数の変化率をx軸、y軸、z軸それぞれの方向において抑制できることが判明した。ここで固有振動数の変化率の許容範囲について考察する。ωでの振幅が1/21/2になる振動数はω±ω/2Qである。そこで実用的な励振制御が可能な固有振動数の変化率の許容範囲を次式(1)、(2)のように定めるとする。
【数1】

【0039】
ωは目標とする固有振動数、ω'は固有振動数の許容範囲、kは微小変位に対するばね定数、k'はばね定数の許容範囲である。Q=50の場合、−1.001ω≦ω'≦1.001ωすなわち±0.1%が固有振動数の変化率の許容範囲となる。Q=100の場合、−1.0005ω≦ω'≦1.0005ωすなわち±0.05%が固有振動数の変化率の許容範囲となる。錘部15の重心のx軸方向の参照振動とz軸方向の参照振動を時分割駆動によって個別に実現するとすれば、参照振動方向の切り替え時間を短縮するためにQ=50程度がQ値として適当とする。したがって錘部15の重心のx軸方向の参照振動とy軸方向の参照振動を時分割駆動によって実現する場合、実用的な励振制御が可能な固有振動数の変化率の許容範囲としては±0.1%を1つの目安とする。
【0040】
固有振動数の変化率の許容範囲を±0.1%とするとき、表1の寸法設定のうち、x軸方向、y軸方向、z軸方向のいずれについても固有振動数の変化率の許容範囲内において錘部15の重心の変位(振幅)を相対的に大きくすることができるのは寸法設定kである。したがって、表1に示す寸法設定のうちでは寸法設定kが最適な寸法設定であるといえる。
【0041】
次にばね部11がある場合と無い場合とで錘部15の重心の固有振動数がどの程度変化するかについて考察する。表2はばね部11がある場合(穴10hがある場合)と無い場合とで錘部15の重心の固有振動数がどの程度変化するかをシミュレーションした結果を示している。ばね部11がある場合については表1に示した寸法設定k1の設計条件を適用している。
【表2】

【0042】
x軸方向およびz軸方向の参照振動を時分割駆動によって個別に実現するとすれば、参照振動の他軸への漏れを低減するために各軸の固有振動数を適度(目安として10%以上)にずらすことが好ましい。シミュレーションの結果、ばね部11を追加しても各軸の固有振動数はほとんど変化せず、また各軸の固有振動数の関係も実質的に変化しないことが判明した。これはばね部11のx方向のばね定数が梁部12のz方向のばね定数に比べて十分大きく、z方向においてはばね部11によって梁部12の一端が実質的に固定されていることに起因すると考えられる。なお、以上のシミュレーションにおいて用いた各梁部12は、厚さ25μmの単結晶珪素層と厚さ0.5μmの酸化珪素層からなる。各部の外形寸法の設定は次の通りである。
【0043】
支持部10
外周x方向長さ:2680μm
外周y方向長さ:2360μm
内周x方向長さ:2180μm
内周y方向長さ:1860μm
z方向長さ:445μm
錘部15
x方向長さ:1980μm
y方向長さ:1660μm
z方向長さ:445μm
梁部12a,12b,12c,12d
x方向長さ(長さ):500μm
y方向長さ(幅):330μm
z方向長さ(厚さ):25μm
【0044】
次にばね部11の追加による感度変化について考察する。
まず、ばね部11が無くハードスプリング効果を考慮しない場合においてz軸方向に振幅2.3μmの参照振動が得られ、x軸方向に振幅5.2μmの参照振動が得られるように、時分割駆動によりx軸方向及びz軸方向に個別に励振するとする。この条件で励振する場合にハードスプリング効果を考慮すればz軸方向の参照振動の振幅は0.8μmとなり、x軸方向の参照振動の振幅は1.2μmとなる。この条件は、図7および図8に示すように固有振動数の変化率が±0.1%以内に収まる許容範囲内において参照振動の振幅を最大化する条件である。この条件でハードスプリング効果を考慮しないシミュレーションの結果は、z軸方向の参照振動とx軸周りの回転に対する感度が1.79μV・sec/degとなり、x軸方向の参照振動とz軸周りの回転に対する感度が2.06μV・sec/degとなった。しかし、この条件でハードスプリング効果を考慮すると、シミュレーションの結果は、z軸方向の参照振動とx軸周りの回転に対する感度は0.62μV・sec/degに激減し、x軸方向の参照振動とz軸周りの回転に対する感度は0.48μV・sec/degに激減する。
【0045】
次に、上記表1に示した寸法条件k1のばね部11がある場合においてz軸方向に振幅2.32μmの参照振動が得られ、x軸方向に振幅0.974μmの参照振動が得られるように、時分割駆動によりx軸方向及びz軸方向に個別に励振するとする。この条件で励振する場合にハードスプリング効果を考慮すればz軸方向の参照振動の振幅が2.0μmとなり、x軸方向の参照振動の振幅が0.66μmとなる。この条件は、図9および図10に示すように固有振動数の変化率が±0.1%以内に収まる許容範囲内において参照振動の振幅を最大化する条件である。この条件でハードスプリング効果を考慮しないシミュレーションの結果は、z軸方向の参照振動とx軸周りの回転に対する感度が1.77μV・sec/degとなり、z軸方向の参照振動とy軸周りの回転に対する感度が2.69μV・sec/degとなり、x軸方向の参照振動とz軸周りの回転に対する感度が2.11μV・sec/degとなった。この条件でハードスプリング効果を考慮すると、シミュレーションの結果は、z軸方向の参照振動とx軸周りの回転に対する感度が1.52μV・sec/degとなり、z軸方向の参照振動とy軸周りの回転に対する感度が2.31μV・sec/degとなり、x軸方向の参照振動とz軸周りの回転に対する感度が1.43μV・sec/degとなった。すなわち、ばね部11がある場合においては、ハードスプリング効果による感度低下はばね部11がない場合に比べて顕著に小さい。
【0046】
以上のシミュレーション結果から、支持部10にばね部11を形成することによってxyzのそれぞれの軸周りの回転に対する感度を格段に向上できることがわかる。また検出用圧電素子14から出力される信号レベルが高いため、検出回路の構成を簡素にすることができる。また、支持部10にばね部11を形成することによって感度を高められるため、メカニカルカップリングを抑制しつつ振動型角速度センサ1を高い自由度で小さく設計することができる。
【0047】
3.製造方法
図13から図16は図11に示した振動型角速度センサ1の製造方法を示す断面図である。なお、図15Aおよび図16Aは図12に示すBB線断面を示し、図15Bおよび図16Bは図12に示すCC線断面を示す。
【0048】
はじめに図13に示すように、厚さ625μmの単結晶珪素層100と厚さ1μmの酸化珪素層102と厚さ10μmの単結晶珪素層104からなるSOI(Silicon On Insulator)基板を熱酸化することによって厚さ0.5μmの絶縁層106を形成する。続いて絶縁層106の上にスパッタ法によって厚さ0.1μmの白金からなる電極層108、厚さ3μmのPZTからなる圧電層110、厚さ0.1μmの白金からなる電極層112を順に積層する。
【0049】
次に図14に示すようにフォトレジストからなる2種類の図示しない保護膜部を用いたミリング法によって電極層108、112および圧電層110を所定形状にパターニングする。その結果、電極層108、112および圧電層110からなる駆動用圧電素子13および検出用圧電素子14、並びにおよび電極層108、112からなる図示しない配線要素(導線およびボンディングパッド)が形成される。
【0050】
次に図15に示すようにフォトレジストからなる図示しない保護膜部を用いた反応性イオンエッチングによって絶縁層106および単結晶珪素層104を所定形状にパターニングする。その結果、絶縁層106および単結晶珪素層104からなる梁部12のパターンが形成されるとともにばね部11および錘部15の上層部が形成される。また、支持部10にばね部11を形成するための穴10hの上層部が形成される。
【0051】
次に図16に示すようにフォトレジストからなる図示しない保護膜部を用いたDeep−RIE(Reactive Ion Etching)によって単結晶珪素層100を所定形状にパターニングする。その結果、ばね部11および錘部15の下層部が形成される。また、支持部10にばね部11を形成するための穴10hの下層部が形成される。
【0052】
次に酸化珪素層102の露出している部分をエッチングによって除去する。その結果、支持部10の穴10hが貫通し、梁部12、ばね部11および錘部15がリリースされる。その後、ダイシング等の後工程を実施すると、図11および図12に示す振動型角速度センサ1が完成する。
【0053】
支持部10の穴10hが支持部10を貫通しているためにばね部11が支持部10の残部と同一の層構造を有する場合、ばね部11が無い支持部10を製造する場合と保護膜部のパターンが異なるだけでその他は全く同一である上記の製造方法によって、ばね部11を形成することができる。すなわち、支持部10を貫通する穴10hによってばね部11が形成される場合には、プロセスを追加すること無しにばね部11を形成することができる。
【0054】
4.変形例
図17から図28は、互いに平行な4つの梁部12によって錘部15を支持する振動型角速度センサ1の変形例を示している。図17から図28に示す振動型角速度センサ1b〜1pは、z方向から見た形状のみが図11および図12に示した振動型角速度センサ1と異なり、支持部10、錘部15、梁部12、駆動用圧電素子13および検出用圧電素子14の積層構造は振動型角速度センサ1と同一である。図17から図19、図24、図25においてハッチングによって示すように、ばね定数安定化手段としてのばね部11、16はU字形に曲がった板ばねの形態を有していても良い。図20、図23、図25、図26、図27および図28においてハッチングによって示すように、ばね定数安定化手段としてのばね部11、16は平板な板ばねの形態を有していても良いし、一端が支持部10または錘部15の残部に結合し他端は支持部10または錘部15の残部に対する自由端として構成された板ばねの形態を有していても良い。要するに、ばね定数安定化手段は、主撓み方向が梁部12の延伸方向に一致するとともに主撓み方向において梁部と結合している板ばねの形態を有していればよい。支持部10または錘部15に切り欠き10s、15sを形成すると、一端のみが支持部10または錘部15の残部に結合している板ばねの形態を有するばね部11、16を狭い領域に形成することができる。切り欠き10s、15sは、振動型角速度センサを積層方向(z方向)に貫通していても良いし、貫通していなくても良い。また図18、図19、図21、図22、図24、図25、図27、図28においてハッチングによって示すように、錘部15にばね部16をばね定数安定化手段として形成しても良い。また図19、図22、図25、図28においてハッチングによって示すように支持部10および錘部15の両方にばね定数安定化手段としてばね部11、16を形成しても良い。要するに、ばね定数安定化手段は支持部10および錘部15の少なくとも一方に形成され、梁部12の延伸方向の両端の少なくとも一方に結合している板ばねの形態を有していればよい。
【0055】
5.第二実施例
図29は本発明にかかる振動型角速度センサの第二実施例を示している。振動型角速度センサ2においては、4つの梁部12が枠形の支持部10の内側に十字形に配置され、それぞれの梁部12は支持部10の内側の4辺と錘部15の中央部に結合している。すなわち梁部12aと梁部12cの対は錘部15の中央部からy軸正方向とy軸負方向に支持部10まで延伸し、梁部12bと梁部12dの対は梁部12の中央部からx軸正方向とx軸負方向に支持部10まで延伸している。
【0056】
ばね定数安定化手段としてのばね部11は支持部10の各梁部12との境界近傍に形成されている。具体的には次の通りである。支持部10の矩形状に屈折する内周面を構成する4つの側面10a、10b、10c、10dに近接する領域において支持部10に4つの穴10hが形成されている。穴10hと側面10a、10b、10c、10dとの間が平板状のばね部11を構成している。ばね部11の形態は穴10hの長さと幅と深さと、側面10a、10b、10c、10dからの距離とによって決まる。ばね部11の積層構造は支持部10の残部の積層構造と同一である。したがって支持部10の厚さであるz軸方向の長さはばね部11を含む全体において一定である。したがってばね部11のz方向のばね係数は実質的に無限大とみなせるほど大きい。ばね部11自体の厚さは、穴10hと側面10a、10b、10c、10dとの距離と等しくなる。ばね部11の主撓み方向はばね部11の厚さ方向であって、梁部12の延伸方向(錘部15に結合する端と支持部10に結合する端とを結ぶ方向)と一致している。
【0057】
それぞれの梁部12の一端は各ばね部11の長さ方向の中間部のz方向の一端に結合している。4つの梁部12の他端は錘部15の中央部のz方向の一端に結合している。具体的には梁部12を構成する2つの層104、106とがばね部11および錘部15をも構成し、層104、106がばね部11、錘部15および梁部12にわたって連続していることによって梁部12がばね部11と錘部15とに結合している。梁部12は、錘部15と支持部10とを構成している複数の層のうち突出して厚い層を含まないため、錘部15と支持部10に対して十分薄い。したがって4つの梁部12は、それぞれ一端が支持部10に固定された弾性梁として振る舞う。
【0058】
錘部15は4つの梁部12と結合している中央部と、中央部から隣り合う梁部12の間に突出する4つの周辺部とが結合した形態を有する。錘部15は支持部10を構成している複数の層のうち突出して厚い層100を含むため、支持部10に対して3次元運動する剛体として振る舞う。中央部は梁部12を構成している層を含む支持部10と同一の積層構造を有し、周辺部は梁部12を構成している層を含まない。
【0059】
振動型角速度センサ2においても、第一実施例と同様にばね部11が梁部12の張力に応じて梁部12の延伸方向に撓むため、感度が向上する。
【0060】
6.第三実施例
本発明は錘部を梁部によって支持する構成の振動型角速度センサのみならず、周囲が支持部に固定された膜部によって錘部を支持する構成の振動型角速度センサにも適用できる。図32は本発明にかかる振動型角速度センサの第三実施例を示している。
【0061】
本発明の第三実施例である振動型角速度センサ3は、上述した他の実施例にかかる振動型角速度センサと同一の積層構造を有する積層構造体であって、図示しないパッケージに収容される。振動型角速度センサ3には、第二実施例と同一構成の支持部10、支持部10と局所的に結合している筒部17、筒部17の内側に張り渡されている環状の膜部18、膜部18の内周と結合している錘部15などが形成されている。
【0062】
膜部18は環状である。膜部18の内周全体に錘部15が結合している。膜部18の外周全体に筒部17が結合している。具体的には、膜部18を構成している層104,106が錘部15および支持部10をも構成し、層104,106が錘部15、膜部18および支持部10にわたって連続していることによって膜部18は錘部15および支持部10と結合している。膜部18は支持部10を構成している最も厚い膜部100を含まないため、外周に対して内周がz方向に変位可能な弾性膜として振る舞う。
【0063】
筒部17は、支持部10と同一の積層構造を有し、膜部18の幅方向に薄い枠の形態を有する。このため、筒部17は膜部18の張力に応じて内側に弾性変形する。膜部18の外周に対して膜部18の内周がz方向に変位するとき、膜部18の張力は膜部の幅が狭くなる領域において大きくなる。すなわち、本実施例では膜部18および筒部17が矩形環状であるため、筒部17を構成している4つの平板領域のそれぞれの中央部においては膜部18の張力が筒部17の4つの平板領域の境界に相当する角部に比べて大きくなる。なお、膜部18を内周から外周に横断する方向の長さを膜部18の幅というものとする。
【0064】
筒部17は4つの平板領域のそれぞれの中央部においてばね部11と結合している。すなわち、相対的に膜部18の大きな張力が作用する部分において筒部17はばね部11と結合している。
【0065】
駆動用圧電素子13は筒部17に対して錘部15の重心を振動させるための励振手段である。
検出用圧電素子14は筒部17に対する錘部15の重心の運動を検出するための検出手段である。
【0066】
膜部18の内周の外周に対するz方向の変位の増大に伴って膜部18の張力が増大する。膜部18の張力に応じてばね部11は主撓み方向(厚さ方向)に撓むため、筒部17は内側に撓む。このため、膜部18の内周の外周に対するz方向の変位の増大に伴う膜部18の伸びが抑制される。その結果、膜部18のハードスプリング効果が抑制される。
【0067】
すなわち、本実施例においては、ばね部11が膜部18の張力に応じて膜部18の幅方向に撓むため、振動型角速度センサ3の感度が向上する。
【0068】
7.変形例
図31は本発明にかかる振動型角速度センサの第三実施例の変形例を示している。図31に示すように、膜部18を円環状に形成するとともに筒部17を円筒状に形成してもよい。また、ばね部11を円弧状に曲がった板ばねとして形成しても良い。
【0069】
8.他の実施形態
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、膜部によって錘部を支持する振動型角速度センサにおいても、ばね部の一端が支持部の残部に固定され、ばね部の他端は支持部に対する自由端として構成されていても良い。また、ばね定数安定化手段は板ばねの形態に限らず、例えば梁部との境界近傍において支持部または錘部を積層方向に貫通する穴によって梁部の延伸方向において剛性が低下した領域をばね定数安定化手段として構成しても良いし、支持部または錘部を積層方向に貫通する複数の穴によって形成されるハニカム構造をばね定数安定化手段として構成しても良い。また錘部を励振する励振手段は、静電引力や電磁力を用いて実現しても良い。また錘部の運動を検出する検出手段は、静電容量やピエゾ抵抗効果を用いて実現しても良い。また上記実施形態で示した材質や寸法や製造方法はあくまで例示であるし、当業者であれば自明である変形例については説明が省略されている。
【符号の説明】
【0070】
1:振動型角速度センサ、2:振動型角速度センサ、3:振動型角速度センサ、10:支持部、10h:穴、11a:ばね部、11b:ばね部、11c:ばね部、11d:ばね部、12a:梁部、12b:梁部、12c:梁部、12d:梁部、13a:駆動用圧電素子、13b:駆動用圧電素子、13c:駆動用圧電素子、13d:駆動用圧電素子、14a:検出用圧電素子、14b:検出用圧電素子、14c:検出用圧電素子、14d:検出用圧電素子、15:錘部、16b:ばね部、16c:ばね部、16d:ばね部、16e:ばね部、17:筒部、18:膜部、100:単結晶珪素層、102:酸化珪素層、104:単結晶珪素層、106:絶縁層、108:電極層、110:圧電層、112:電極層、R:梁、S1:支持体、S2:支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部と、
錘部と、
前記錘部からそれぞれ前記支持部まで延伸し前記錘部を支持している複数の梁部と、
前記錘部を励振する励振手段と、
前記支持部に対する前記錘部の運動を検出する検出手段と、
前記支持部および前記錘部の少なくとも一方の前記梁部との境界近傍に形成され、前記梁部の張力に応じて前記梁部の延伸方向に弾性変形し前記梁部の主撓み方向には実質的に変形しないばね定数安定化手段と、
を備える振動型角速度センサ。
【請求項2】
前記ばね定数安定化手段は、主撓み方向が前記梁部の延伸方向に一致するとともに当該主撓み方向において前記梁部と結合している板ばねの形態を有する、
請求項1に記載の振動型角速度センサ。
【請求項3】
前記支持部と前記錘部と前記梁部とは積層構造体からなり、
前記積層構造体の積層方向において前記支持部または前記錘部を貫通する穴によって前記ばね定数安定化手段が形成されている、
請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。
【請求項4】
前記支持部と前記錘部と前記梁部とは積層構造体からなり、
前記積層構造体の積層方向において前記支持部または前記錘部を貫通する切り欠きによって前記ばね定数安定化手段が形成されている、
請求項1または2に記載の振動型角速度センサ。
【請求項5】
前記梁部の延伸方向における前記ばね定数安定化手段のばね定数は前記梁部の延伸方向における前記梁部のばね定数より小さい、
請求項1から4のいずれか一項に記載の振動型角速度センサ。
【請求項6】
環状の膜部と、
前記膜部の外周と結合している筒部と、
前記膜部の内周と結合している錘部と、
前記錘部を励振する励振手段と、
前記筒部に対する前記錘部の運動を検出する検出手段と、
前記筒部を囲む支持部と、
前記支持部に形成され、主撓み方向が前記膜部の幅方向に一致するとともに前記主撓み方向において前記筒部と結合している板ばねの形態を有するばね定数安定化手段と、
を備える振動型角速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−37282(P2012−37282A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175578(P2010−175578)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】