説明

振動型駆動装置

【課題】部品点数及び必要スペースの増加を抑制することができ、振動子と被駆動体との摩擦面における安定した接触状態を維持することが可能となる振動型駆動装置を提供する。
【解決手段】摩擦面が形成された振動体と電気−機械エネルギ変換素子とを有する振動子と、振動子の摩擦面と接触する摩擦面が形成され、これらの互いの摩擦面を介して押圧されるように構成された被駆動体と、を備え、
互いの摩擦面を介して振動子の楕円運動によって被駆動体を相対移動させる振動型駆動装置であって、
振動子を支持する弾性変形部を有する支持部材を備え、
支持部材は、振動子が被駆動体を相対移動させる方向及び押圧される方向と直交する方向である第一の方向に力を受けた際、
第一の方向への変形を伴わない弾性変形部の回転変形によって、振動子の摩擦面を被駆動体の摩擦面に対し平行に変位させることが可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型駆動装置に関する。特に異なる振動モードの振動を組み合わせることにより超音波振動子と被駆動体とを相対移動させる振動型駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる振動モードの振動を組み合わせることにより超音波振動子と被駆動体とを相対移動させる振動型駆動装置が提案されている。
このような振動型駆動装置においては、超音波振動子と被駆動体との間に摩擦力を発生させるための加圧構造が備えられる。
更に、超音波振動子と被駆動体とに形成される摩擦面が適正な関係での当接が維持されるための支持構造が与えられる。
そして、この支持構造として幾つかの方法が提案されている。
一つは、平面バネ形状に形成した付勢部品で超音波振動子又は被駆動体を保持する構成である(特許文献1)。この場合は付勢部品(部材)が支持部材となる。他の一つは、超音波振動子又は被駆動体を球形状の部材を介する機構で回動可能に保持する構成である(特許文献2)。
【0003】
つぎに、このような支持構造を有する支持部材に必要な要件について説明する。
図10(a)には、超音波振動子3と被駆動体4とが平行に(互いの摩擦面同士が接触している状態)当接している様子を示している。
この図において、X軸は振動波駆動装置の相対運動の発生方向を示している。また、Z軸は超音波振動子3と被駆動体4の摩擦面に対する法線方向を示し、Y軸はX軸及びZ軸に直交する方向を示している。
【0004】
超音波振動子と被駆動体4とがそれぞれ理想的に配置されている場合は、超音波振動子及び被駆動体4の当接面同士が平行に配される。
このような位置関係で不図示の加圧力をZ方向に与えて超音波振動子又は被駆動体4をZ方向に変位させることで互いの摩擦面間に当接力を与えることができる。
しかし、実際には部品の製造誤差や組み付けの誤差等により超音波振動子と被駆動体4との摩擦面を平行位置に配置することは極めて難しい。
そのため、超音波振動子又は被駆動体4の保持に工夫が必要となる。
支持構造は、X軸回りの回転変位θx(図10(c)中の矢印dθx方向)、Y軸回りの回転変位θy(図10(d)中の矢印dθy方向)に対する自由度を持つ。そして、Z軸方向の移動(図10(b)中の矢印dz方向)が可能なように超音波振動子又は被駆動体を保持することで、当接力の付与と互いの摩擦面の面接触状態を維持するために備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−301457号公報
【特許文献2】特開2006−301454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図11(a)に従来提案されている超音波振動子ユニット2の斜視図を示す。図11(b)に超音波振動子ユニット2の分解斜視図を示す。超音波振動子ユニット2は超音波振動子3、支持部材13、2つのスペーサ部品14により構成される。
超音波振動子ユニット2と不図示の被駆動体は図中X方向に相対移動運動が行われる。
超音波振動子3は、金属材料により略板状に形成される振動板11、及び電気−機械変換素子である圧電素子材料により略矩形板状に形成される圧電素子板12を接着等により一体化して形成される。
超音波振動子3には外部との電気的な接続を行う、不図示のフレキシブル基板等が配される。
【0007】
振動板11は、略中央に位置する矩形状の振動部11a、振動部11aの上面における図中X方向2箇所に形成される突起部11b、及び振動部11aのY方向両側に形成される固定部11cを備えている。振動板11はX方向及びY方向に略対称形状である。
二つの突起部11bの上端は不図示の被駆動体の摩擦面と加圧接触する箇所である。
駆動による摩耗を抑えるために振動子と被駆動体の摩擦面は面接触している必要があるため、二つの突起部11bはY方向に幅を持つ。
突起部11bの上面におけるY方向マイナス側の端部を点T1、Y方向プラス側の端部を点T2として以下の説明に用いる。
【0008】
図12を用いて超音波振動子3に励起される2つの振動モードの例について説明する。
図12(a)に超音波振動子3に励振する二つの振動モードの斜視図を示している。
この例では、圧電素子板12に交流電圧を印加して超音波振動子3に2つの面外曲げ振動モード(MODE−AとMODE−B)を励振する。
MODE−Aは、超音波振動子3の長手方向である図中X軸方向に略平行に2つの節が現れる一次の面外曲げ振動モードで、YZ面に略対称な形状である。MODE−Aの振動により、二つの突起部11bには被駆動体と接触する面と垂直な方向(Z軸方向)に変位する振幅が励振される。
MODE−Bは超音波振動子3の図中Y軸方向に略平行に3つの節が現れる二次の面外曲げ振動モードで、YZ面に逆対称且つXZ面に対称な形状である。MODE−Bの振動によって、二つの突起部11bには被駆動体と接触する面と平行な方向(X軸方向)に変位する振幅が励振される。
これら二つの振動モードを組み合わせることで接触部である二つの突起部11bの上面に略XZ面内の楕円運動成分が発生し、略X軸方向に被駆動体4を駆動させる力が発生する。この駆動力により、超音波振動子3と被駆動体とは相対的に移動する。
【0009】
図12(b)は超音波振動子3の突起部付近のYZ断面で表わした、MODE−Aの振動モードである。
前述のように突起部11bの上面にはZ軸方向の振動変位が励振され、これに加えてY方向の成分も励振される。
図中点T1で示した、Y方向マイナス側の端部付近にはZ方向の振動成分がプラスの時にマイナスのY方向成分が生じている。
一方、図中点T2で示したY方向プラス側の端部付近にはプラスのY方向成分が生じている。このY方向の振動成分は超音波振動子3と被駆動体との相対的な移動を発生する力として作用する。
超音波振動子3の振動状態が理想的であり、突起部11bの上面が均一に被駆動体と接触している状態であれば突起部11bの上面でのY方向の発生力の合力はゼロになる。
しかし、例えば点T1付近のみが被駆動体と接触している状態であると、突起部11b上面でのY方向の発生力の合力はゼロにならずにY方向プラスの方に力が作用することになる。
この例においては、上記MODE−AとMODE−Bを用いる超音波振動子3を適用しているが、他の超音波振動子形状、振動モードを用いる超音波振動子を用いても同様の考え方が成り立つ。
【0010】
図11(a)及び図11(b)に戻り説明を続ける。
超音波振動子3の二か所の固定部11cはZ方向下面側に二つのスペーサ部品14が各々配され、これらと接着等により固定される。
振動部11aは超音波振動が励振される箇所であり、支持部材等と空間的に分離しておく必要が有るため支持部材13はスペーサ部品14を介して固定される。支持部材13はバネ材に適する金属薄板から打ち抜き加工やエッチング加工等により薄板平板状に形成した弾性構造を備える部品である。
支持部材13はXY面及びYZ面に略対称な形状である。支持部材13にはX方向に延出する二つの第一固定部13a、Y方向に延出する二つの第二固定部13bが備えられる。
これら、第一固定部13a、第二固定部13bを繋ぐように弾性変形部13eが形成される。
弾性変形部13eの弾性変形を用いて超音波振動子ユニット2における超音波振動子3の支持作用が得られる。
支持部材13は超音波振動子3の下面側(図中z方向下側)に重ねるように配置される。
超音波振動子3の振動変形部に支持部材13が接触して超音波振動子3の振動変形を阻害しないように、これら二つの部品はスペーサ部品14により所望の間隔を開けて配される。
支持部材13はスペーサ部品14と第二固定部13bで固定される。支持部材13は第一固定部13aの箇所で不図示の固定部品により固定される。
超音波振動子ユニット2に組み込まれた状態で、超音波振動子3には支持部材13内のY方向中央位置を回転の中心としたX軸回りの変位が生じる。
【0011】
このような構成の超音波振動子ユニット2における力と変位の関係の例を説明するための概念図を図13に示す。
図13にはYZ面における超音波振動子3及び支持部材13の断面形状のみを示しており、説明に不要な構造は簡単のために省略している。
点P3は超音波振動子3にX軸回りの回転変位が生じる時の中心点である。
超音波振動子3は不図示の被駆動体と加圧接触を行うので、被駆動体からマイナスZ方向の加圧力を受ける。
この時、何らかの理由で(加圧機構の精度、超音波振動子3と被駆動体との接触面の相対的な傾き等)加圧力に不均一が生じる場合がある。
【0012】
図13(a)には加圧力の状態を単純化して示してあり、点T1及び点T2に集中して加圧力がかかるものとしている。
ここでは点T1における加圧力Fz1の方が点T2における加圧力Fz2より大きい場合を示している。
超音波振動子3を駆動している時、図13(b)を用いて示したように点T1及び点T2にY方向変位が発生する。
このY方向変位による被駆動体との間に生じる発生力として、図中に示すようにY軸方向の発生力Fy1,Fy2が発生する。
これらY方向の発生力Fy1、Fy2はそれぞれの点T1及び点T2における加圧力に略比例するので|Fy1|>|Fy2|となる。
このため、超音波振動子3の摩擦面を駆動方向であるX方向と直交する方向であるY方向に変位させようとする合力が生じる。この結果超音波振動子3には点P3を回転の中心としてX軸回りの力Fθxが発生し、図13(b)のように超音波振動子3は点P3を中心にx軸回りの変位を生じようとする。
これは点T1をZ方向プラスに、点T2をZ方向マイナスに変位させるので、この結果点T1の加圧力Fz1は増加し、T2の加圧力Fz2は減少する。
このことから|Fy1|と|Fy2|との差はさらに大きくなりFθxも増加する。
要するに、図13(a)に示した点T1とT2の力の差が悪化する方向に変化していき、摩擦面の安定した接触状態を得ることができず、摺動面の片削れ等により耐久性を低下させる虞がある。
一方、特許文献2により開示されている保持方法によれば、θxの回転変位の中心を摩擦面内に配することができるので、このような課題に対処することが可能である。
しかし、この方法では、部品点数及び必要スペースの抑制を図る上で必ずしも満足の得られるものではない。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、部品点数及び必要スペースの増加を抑制することができ、振動子と被駆動体との摩擦面における安定した接触状態を維持することが可能となる振動型駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の振動型駆動装置は、摩擦面が形成された振動体と電気−機械エネルギ変換素子とを有する振動子と、
前記振動子の摩擦面と接触する摩擦面が形成され、これらの互いの摩擦面を介して押圧されるように構成された被駆動体と、を備え、
前記互いの摩擦面を介して前記振動子の楕円運動によって前記被駆動体を相対移動させる振動型駆動装置であって、
前記振動子を支持する弾性変形部を有する支持部材を備え、
前記支持部材は、前記振動子が前記被駆動体を相対移動させる方向及び前記押圧される方向と直交する方向である第一の方向に力を受けた際、
前記第一の方向への変形を伴わない前記弾性変形部の回転変形によって、前記振動子の摩擦面を被駆動体の摩擦面に対して平行に変位させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、部品点数及び必要スペースの増加を抑制することができ、振動子と被駆動体との摩擦面における安定した接触状態を維持することが可能となる振動型駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態1における振動型駆動装置の構成例を示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施形態1における超音波振動子ユニットの斜視図。
【図3】本発明の実施形態1における超音波振動子ユニットの分解斜視図。
【図4】本発明の実施形態1における支持部材の斜視図及び断面図。
【図5】本発明の実施形態1における振動型駆動装置の部分断面図。
【図6】本発明の実施形態1における超音波振動子ユニットの作用を示す模式図。
【図7】本発明の実施形態1における他の形態を示す超音波振動子ユニットの分解斜視図。
【図8】本発明の実施形態2における支持部材の斜視図及び断面図。
【図9】本発明の実施形態2における超音波振動子ユニットの作用を示す模式図。
【図10】従来例を説明する超音波振動子及び被駆動体の斜視図及び断面図。
【図11】(a)は従来例を説明する超音波振動子ユニットの斜視図、(b)は従来例を説明する超音波振動子ユニットの分解斜視図。
【図12】従来例における超音波振動子の振動モードを表わす図。
【図13】本発明の課題を説明する超音波振動子ユニットの作用を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において「平行に変位させる」とは、厳密に平行に変位させるだけでなく、平行で有ることに対して、摺動面の片削れ等の悪影響を与えない範囲で平行からずれている場合も含む。
本発明ではこのように平行からの一定のずれ分を含んだ状態を意味する用語として「略平行に変位させる」という用語を用いて説明している。
例えば、厳密な平行状態から1°ずれていたとしても、摺動面の片削れ等の悪影響を与えない又は影響が小さい場合には許容され得る。
本発明において、「振動子の摩擦面を被駆動体の摩擦面に対して平行に変位させる」とは、振動子の摩擦面を被駆動体の摩擦面に対し傾けることなく略平行に変位させることを意味する。
本発明において、「振動子が被駆動体を相対移動させる方向及び(振動子または被駆動体が)押圧される方向と直交する方向である第一の方向」とは、
振動子が被駆動体を相対移動させる方向と直交し、かつ(振動子または被駆動体が)押圧される方向とも直交する方向を意味する。
そして、「第1の方向に力を受ける」とは、当該力が働いている場合において、第1の方向にのみ力を受ける場合だけでなく、第1の方向に働く力の成分が含まれている力を受ける場合も含む。
【0018】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
[実施形態1]
実施形態1として、本発明を適用した振動型駆動装置の構成例について説明する。
本実施形態の振動型駆動装置は、摩擦面が形成された振動体と電気−機械エネルギ変換素子とを有する振動子と、振動子の摩擦面と接触する摩擦面が形成され、これらの互いの摩擦面を介して押圧されるように構成された被駆動体と、を備えている。
そして、上記互いの摩擦面を介して前振動子の楕円運動によって被駆動体を相対移動させるように構成されている。
具体的には、図1に示されているように、本実施形態の振動型駆動装置1は、所謂超音波モータを駆動源とした1自由度の直線駆動を行う装置として構成されている。
超音波モータの主要構成部品として、超音波振動子ユニット2及び被駆動体4が配される。
振動型駆動装置1は第一基部31を備え、この第一基部31に二つの第二基部32が固定される。
二つの第二基部32に挟まれるように、X方向に延伸する二つのガイドバー34が保持固定される。
ガイドバー34に組み合わされ、図中X方向にスライド可能なようにスライド部品35が保持される。
スライド部品35に超音波振動子ユニット2が固定される。
【0019】
被駆動体4の両端は被駆動体枠33を介して二つの第二基部32に保持固定される。
図では被駆動体4及び被駆動体枠33は他の部品と分解して表現しているが、実際は一体に組み合わされている。
被駆動体4は被駆動体基部20及び摩擦部材21を接着固定して形成されている。被駆動体基部20はネオジウム磁石などの磁石材料で形成されており、図中Z方向に着磁処理されている。
被駆動体基部20の下面(Z方向マイナス側)は超音波振動子ユニット2と向き合う面であり、この位置に摩擦部材21が配される。
超音波振動子3と被駆動体4との間に発生する相対的な移動運動により、超音波振動子3及びスライド部品35は図中X方向の移動を発生する。
スライド部品35から駆動力、又は変位を取り出して任意の機器を駆動できる。本実施例の振動型駆動装置は説明に用いるための一例であり、任意の構成を選択可能である。
【0020】
図2は実施形態1における振動型駆動装置1で用いられる超音波振動子ユニット2の斜視図であり、図3は同超音波振動子ユニット2の分解斜視図である。
超音波振動子ユニット2は、超音波振動子3、支持部材13及び二つのスペーサ部品14から形成される。
本実施形態における超音波振動子3は図11(b)に示した超音波振動子3と同様の構成であり、発明が解決しようとする課題の項と重複する説明は省略する。本実施形態での振動板11は強磁性を備える金属材料により形成されており、被駆動体基部20に吸引される。この磁気吸引力により超音波振動子3と被駆動体4との間に必要な加圧力が与えられる。
【0021】
つぎに、振動子を支持する弾性変形部を有する支持部材について説明する。
図4(a)に支持部材13の斜視図を示す。
支持部材13は薄板状の金属材料から形状形成、曲げ加工により形成されている。
支持部材13は、X方向及びY方向(上記相対移動の方向を法線とする平面及び上記押圧される方向と直交する方向である第一の方向を法線とする平面)に略対称形状である。
支持部材13には図中X方向に延出する二つの第一固定部13aが備えられ、Y方向の両側には二つの第二固定部(保持部)13bが備えられる。
第一固定部13aと第二固定部13bとを繋ぐように4箇所に弾性変形部13cが形成される。
これらに加えて支持部材13には二つの第二固定部13bを繋ぐように補強部13dが形成される。
第一固定部13aは図1に示されている被駆動体枠33と接して固定される箇所であり、超音波振動子ユニット2の被駆動体枠33との取付け部である。第二固定部13bはスペーサ部品14のZ方向底面と組み合わされて固定される。
支持部材13は超音波振動子3のZ方向下側に配置されており、各々の中心位置がX、Y方向に略一致するように位置が決められているので超音波振動子ユニット2はX方向及びY方向に略対称形状である。
支持部材13の第一固定部13aが被駆動体枠33に固定されている状態で振動板11の二つの突起部11bに外部からの力、又は変位が加えられるとこれらの値に応じて支持部材13の弾性変形部13cに弾性変形が生じて超音波振動子3の姿勢の変化が生じる。
振動型駆動装置1に組み込まれた状態では、振動子3と被駆動体4の摩擦面が互いに面接触して倣うように弾性変形部13cに弾性変形が生じ振動子3の支持が行われる。また本発明において上記支持部材に付勢機能を持たせる(例えば、ばね性を付与する)ことにより付勢部材としての支持部材とすることもできる。
【0022】
図4(b)には、図4(a)に記号Sで示す位置、即ち支持部材13の弾性変形部13cのYZ断面を示している。
弾性変形部13cは薄板金属材料で形成されている支持部材13の一部に所望の角度で曲げ加工を施した形状であり、図中Y軸に対して角度A2が与えられている。
弾性変形部13cの断面の延長線の交点C1は、支持部品13が超音波振動子ユニット2に組み込まれた時の振動子3の突起部11bの摩擦面近傍である。
弾性変形部13cは矢印A3に示す方向に剛性が低く、この矢印A3とYZ面で直交する方向(相対移動運動の方向を法線とする平面において前記第一の方向に対して傾いた方向)に剛性が大きくなるように形成される。
そして、この弾性変形部13cは、上記第一の方向を法線とする平面に対称となる位置に配置される。
弾性変形部13cは図中X方向に同一断面で延伸する形状であり、矩形薄板状の板バネとして作用する。
【0023】
支持部材13が振動子ユニット2に組み込まれた状態で振動子3の摩擦面において外力を受けた状態の一例を図4(c)に示す。
図4(c)は図4(b)と同一の断面を表わしている。振動子3の摩擦面にx軸回りの外力、即ち図中に示す矢印のように交点C1におけるF1が加えられている時、支持部材の2箇所の弾性変形部13cにはそれぞれF2、及びF3が加えられることになる。
これらの力F2及びF3は板材の法線方向に一致している。弾性変形部13cはこの方向の剛性が低いため、これら力F2,F3に一致する方向にそれぞれ変形が生じる。
二つの弾性変形部13cの変形を合成した時に交点C1の位置は変形前後で変化しない。
そのため、振動子3の摩擦面において、この摩擦面高さを中心とするx軸回りの回転変形力が生じた時に振動子3は摩擦面高さを中心とする回転変位のみを生じるようにすることができる。
【0024】
図5(a)に振動型駆動装置1の正面図(Y方向から見た図)を示している。本図においては説明に不要な構成部品、及び構成部品の一部を省略して示している。
振動板11の突起部11bと摩擦板21の底面は空間上で一致するように、本実施形態においては支持部材13の弾性変形により超音波振動子3の姿勢が調整される。
図5(b)には図5(a)に記号Sで示した位置での断面形状を示している。
本図においても説明に不要な部品は簡単のため省略している。
図5(b)は被駆動体4がX軸回りに取付けの位置ズレが生じている状態を表現している。
被駆動体4の摩擦板21の底面と、振動板11の突起部11bの上面とが倣うように超音波振動子3に姿勢変化が生じる。X軸回りに角度を持つ面に倣うので超音波振動子3にもX軸回りの回転変位が生じる。
この超音波振動子3の姿勢変化は支持部材13の弾性変形部13cに弾性変形が生じることで行われる。
図4を用いて説明したように、支持部材13は超音波振動子3が図中P1、即ち超音波振動子3と被駆動体4の接触面内に位置するX方向の軸回りに回転変位を生じるように形状が決められている。
超音波振動子3にはP1軸回りに回転変位のみが生じてY方向に並進する変形を伴わないので、超音波振動子3と被駆動体4のY方向の位置関係を維持した状態で安定して接触状態を実現することができる。
すなわち、超音波振動子3が被駆動体4を相対移動させる方向及び上記押圧される方向と直交する方向である第一の方向に力を受けた際、
第一の方向への変形を伴わない弾性変形部13cの回転変形によって、超音波振動子3の摩擦面を被駆動体4の摩擦面に対し傾けることなく略平行に変位させることが可能となる。
【0025】
図6に、図5(a)に記号Sで示す位置における超音波振動子ユニット2の断面図を示す。本図においても説明に不要な部品を省略して示している。
図13を用いて説明したものと同様に点T1、T2にそれぞれ加圧力Fz1、Fz2が加わり、発生力Fy1、Fy2が発生している。
発生力同士の関係は|Fy1|>|Fy2|であり、超音波振動子3の摩擦面にはプラスY方向への合力が作用する。
この合力は点P1を含む面内に位置するので図6(b)に示すようには超音波振動子3にはY方向の並進変位のみが生じる。
このように超音波振動子3の摩擦面には元の状態から面内の変位のみが生じるので、被駆動体4の摩擦面との接触状態は変化せず、安定した状態が維持できる。
【0026】
本実施形態を実現する超音波振動子ユニット2は上記に限定されない。例えば図7に示す超音波振動子ユニット2においても同様の効果を得ることができる。図7は超音波振動子ユニット2の分解斜視図であり、実際には超音波振動子3と支持部材13は一体化されている。
超音波振動子3は図2及び図3に示す前記超音波振動子と同様に強磁性の金属材料で形成される振動板11及び圧電材料により形成される圧電素子板12により形成される。
振動板11は略中央に位置する矩形状の振動部11a、振動部11aの上面における図中X方向2箇所に形成される突起部11b、及び振動部11aのX方向両側に形成される固定部11cを備えている。
振動板11はX方向及びY方向に略対称形状である。
【0027】
支持部材13は薄板状の金属材料からの切り出し、曲げ加工により形成されている。
支持部材13はX方向及びY方向に略対称形状である。支持部材13は図中X方向に延出する二つの第一固定部13aが備えられる。
第一固定部13aよりX方向内側で、且つ投影的に固定部11cと一致する位置に二つの第二固定部13bが形成される。
第二固定部13bは図中Z方向に突出するように曲げ加工により成型されており、固定部11cと接して一体化されている。
二つの第二固定部を繋ぐように補強部13dが形成される。第一固定部13aと補強部13dとを繋ぐように4箇所の弾性変形部13cが形成される。
このように、超音波振動子3の形状に応じて支持部材を構成すれば良く、本実施形態においても上記の効果を得ることができる。
【0028】
[実施形態2]
実施形態2として、実施形態1とは異なる形態の振動型駆動装置の構成例について、図8を用いて説明する。
図8(a)に本実施形態における支持部材13の斜視図を示す。
本実施形態での振動型駆動装置1は支持部材13を除き同一構成なので重複する説明は省略する。
支持部材13に関しても図4で説明したものと一部を除き同一であるので、重複する説明は避ける。
図8(b)には、図8(a)に示す記号Sにおける弾性変形部13cのYZ断面を示している。
図中C1は、図4(b)に示した実施形態1における弾性変形部13cの断面の延長線の交点(回転変形の回転中心)であり、摩擦面の近傍に位置している。
一方、本実施形態における弾性変形部13cの断面の延長線の交点(回転変形の回転中心)はC2であり、ここでは摩擦面よりも被駆動体側に位置するようにされている。
具体的には、図8(b)に示すように交点C2は交点C1より図中Z方向プラス側となるように形状が決められており、角度A2も大きな値となっている。
この支持部材13を超音波振動子ユニット2に用いた時、超音波振動子3のX軸回りの回転変位の中心は交点C2近傍となる。
【0029】
図9は本実施形態における超音波振動子ユニット2のYZ断面図である。
この図9は図13及び図6で示したものと同様の構成である。点P2は超音波振動子3のX軸回りの回転変位の中心位置である。
図13及び図6を用いて説明したものと同様に点T1、T2にそれぞれ加圧力Fz1、Fz2が加わり、発生力Fy1、Fy2が発生している。|Fy1|>|Fy2|であり、これらの合力として超音波振動子3の摩擦面にはプラスY方向への力が発生する。
この結果超音波振動子3は点P2を回転の中心とするX軸回りの力Fθxが発生し、図13(b)のように超音波振動子3は点P2を中心にX軸回りの変位を生じようとする。
これは点T1をZ方向マイナスに、点T2をZ方向プラスに変位させるので、この結果、点T1の加圧力Fz1は減少し、T2の加圧力Fz2は増加する。
この作用によりFz1とFz2の差は小さくなり、これに伴い発生力の大きさ|Fy1|と|Fy2|との差も小さくなる。
超音波振動子3の摩擦面に発生するY方向の力の合力はゼロに近づき、被駆動体4との接触状態を良好な状態に調整する効果が得られる。
前述のように加圧力も突起部11bの上面全域において略均一にかかるように調整作用が働き、駆動による摩擦面の摩耗も均一に進行するので本来の耐久性を確保できる。
これらの作用により、小型且つ簡易な構成でありながら振動型駆動装置は長期における安定した出力が得られる。
【符号の説明】
【0030】
1:振動型駆動装置
2:超音波振動子ユニット
3:超音波振動子
4:被駆動体
11:振動板
12:圧電素子板
13:支持部材
14:スペーサ部品
20:被駆動体基部
21:摩擦部材
31:第一基部
32:第二基部
33:被駆動体枠
34:ガイドバー
35:スライド部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦面が形成された振動体と電気−機械エネルギ変換素子とを有する振動子と、
前記振動子の摩擦面と接触する摩擦面が形成され、これらの互いの摩擦面を介して押圧されるように構成された被駆動体と、を備え、
前記互いの摩擦面を介して前記振動子の楕円運動によって前記被駆動体を相対移動させる振動型駆動装置であって、
前記振動子を支持する弾性変形部を有する支持部材を備え、
前記支持部材は、前記振動子が前記被駆動体を相対移動させる方向及び前記押圧される方向と直交する方向である第一の方向に力を受けた際、
前記第一の方向への変形を伴わない前記弾性変形部の回転変形によって、前記振動子の摩擦面を被駆動体の摩擦面に対して平行に変位させることが可能に構成されていることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記支持部材は、その回転変形の回転中心が前記互いの摩擦面の近傍に位置していることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記支持部材は、その回転変形の回転中心が前記互いの摩擦面よりも前記被駆動体側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記弾性変形部は、その剛性が大きい方向が前記相対移動運動の方向を法線とする平面において前記第一の方向に対して傾いた方向となるように形成されており、前記第一の方向を法線とする平面に対称となる位置に配置され、
前記対称となる位置に配置された前記弾性変形部の剛性が大きい方向を延長したときの交点が、前記支持部材の回転変形の回転中心とされていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記支持部材は、少なくとも一部が板状の金属材料で形成されており、前記支持部材は前記相対移動の方向を法線とする平面及び前記第一の方向を法線とする平面に略対称形状であり、
前記相対移動の方向における両側に配される二つの固定部と、前記第一の方向における両側に配される二つの保持部と、前記固定部と前記保持部を繋ぐように前記相対移動の方向に延伸する4つの前記弾性変形部を備え、
前記弾性変形部の少なくとも一部は、前記押圧される方向を法線とする平面に対して角度を持つように曲げ加工が施されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−213271(P2012−213271A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77535(P2011−77535)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】