説明

振動減衰装置

【課題】減衰特性と動的バネ定数の特性にばらつきが生じないようにする
【解決手段】
トルクコンバータ100のロックアップピストン2に固定されたホールドプレート3と、ドリブンプレート4と、ホールドプレート3とドリブンプレート4とを回転方向で弾性的に連結する外径側スプリング5、内径側スプリング6と、を備える振動減衰装置1において、ホールドプレート3が、内径側スプリング6の両端を支持する支持穴36と、支持穴36の内径側に設けられて、内径側スプリング6の内径側と外径側への移動を規制する規制部37、規制部38と、を備え、内径側スプリング6が外径側に移動した際に当接する規制部38との当接点を、内径側スプリング6の断面の略中心X2を通り動力伝達軸Xに直交する線分L上に位置させた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータの振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンが発生する動力の振動を減衰するための振動減衰装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−007717号公報
【0004】
図8の(a)は、特許文献1の振動減衰装置200の断面図であって、内径側スプリング205と、ロックアップピストン201およびホールドプレート202との位置関係を説明する図である。図8の(b)は、振動減衰装置200を(a)におけるA−A矢視方向から見た平面図であって、ホールドプレート202における内径側スプリング205の支持を説明する図である。
【0005】
図8の(a)に示すように、特許文献1の振動減衰装置200は、ロックアップピストン201に固定されてエンジンの回転駆動力が入力されるホールドプレート202と、トルクコンバータのタービンに連結されるドリブンプレート203と、ホールドプレート202とドリブンプレート203とを回転方向で弾性的に連結すると共に、回転円周方向に沿って配置されたスプリング(外径側スプリング204、内径側スプリング205)と、を備える。
この振動減衰装置200では、ロックアップピストン201が、カバーコンバータ206に締結されてロックアップ状態にされたときに、エンジンの回転駆動力が、ホールドプレート202の外径側と内径側に設けたスプリング(外径側スプリング204、内径側スプリング205)を介して、ドリブンプレート203側に伝達されるようになっている。
【0006】
この振動減衰装置200では、図8の(b)に示すように、内径側スプリング205は、その長手方向の両端205aがホールドプレート203の支持穴203aで支持されており、ホールドプレート202とドリブンプレート203とが相対的に回転すると、内径側スプリング205は、ドリブンプレート203により、周方向に(長手方向に)圧縮されるようになっている。
【0007】
図8の(a)に示すように、内径側スプリング205がドリブンプレート203により圧縮される際に、内径側スプリング205が、ホールドプレート202の中心軸X(図示しないトルクコンバータの動力伝達軸の中心を通る軸線、以下、動力伝達軸Xとも表記する)を基準として軸方向や径方向に大きく移動すると、他部品との干渉などにより振動減衰装置200の減衰特性が安定しなくなる。
そのため、ホールドプレート202には、内径側スプリング205の軸方向や径方向への移動を規制する規制部202b、202cが設けられており、このホールドプレート202の規制部202b、202cとロックアップピストン201の内周面201aとにより、内径側スプリング205の移動を規制している。
【0008】
図8の振動減衰装置200の場合、内径側スプリング205は、ホールドプレート202の規制部202bに接触して径方向内側への移動が規制されると共に、ホールドプレート202の規制部202cとロックアップピストン201の傾斜面201bに接触して径方向外側への移動が規制される。
さらに、内径側スプリング205は、ホールドプレート202の規制部202b、202cに接触してロックアップピストン201から離れる方向(軸方向)への移動が規制されると共に、ロックアップピストン201の動力伝達軸Xに垂直な内周面201aに接触して、ロックアップピストン201に近づく方向(軸方向)への移動が規制されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、内径側スプリング205の移動を2つの部材で規制する場合、内径側スプリング205を挟み込むように複数の接触点が存在することになるので、これら複数の接触点がフリクションの発生要因となって、振動減衰装置の減衰特性における内径側スプリング205の動的バネ定数を増加させてしまう。
【0010】
さらに、ロックアップピストン201に対するホールドプレート202の固定位置が僅かにずれると、内径側スプリング205との接触点が変化して減衰特性と動的バネ定数が変化してしまう。そのため、振動減衰装置毎に、減衰特性と動的バネ定数の特性がばらついてしまい、均一な特性状態が得られない虞がある。
同様のことは、ホールドプレート202の寸法精度などによっても生じる虞がある。
【0011】
そこで、振動減衰装置毎に、減衰特性と動的バネ定数の特性にばらつきが生じないようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、トルクコンバータのロックアップピストンに固定されて、ロックアップピストンと一体に動力伝達軸回りに回転するホールドプレートと、
トルクコンバータのタービンに連結されて、動力伝達軸回りに回転するドリブンプレートと、
前記動力伝達軸回りの周方向に配置されて、前記ホールドプレートと前記ドリブンプレートとを回転方向で弾性的に連結するスプリングと、を備える振動減衰装置において、
前記ホールドプレートが、
前記周方向における前記スプリングの両端を支持する支持穴と、
前記支持穴の内径側に設けられて、前記スプリングの内径側への移動を規制する内径側規制部と、
前記支持穴の外径側に設けられて、前記スプリングの外径側への移動を規制する外径側規制部と、を備え、
前記スプリングが前記外径側に移動した際に当接する外径側規制部との当接点を、前記スプリングの前記周方向における断面の略中心を通り前記動力伝達軸の中心線に直交する線分上に位置させたことを特徴とする構成の振動減衰装置とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遠心力によるスプリングの外径側への移動が外径側規制部のみで規制されるので、従来のように複数のプレートに挟まれて規制されることがなく、スプリングの位置規制のために接触する部材や接触箇所の数が変化しないので、振動減衰装置における減衰特性と動的バネ定数が安定する。
さらに、スプリングの内径側と外径側への移動を規制する内径側規制部と外径側規制部が、同一のホールドプレートに設けられており、スプリングが径方向に移動した際に当接する内径側規制部および外径側規制部との当接点の位置精度を向上させることができるので、このことによっても、減衰特性と動的バネ定数が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態にかかる振動減衰装置を備えるトルクコンバータを説明する図である。
【図2】実施の形態にかかる振動減衰装置を説明する図である。
【図3】実施の形態にかかるホールドプレートを説明する図である。
【図4】実施の形態にかかるホールドプレートの一部を拡大した拡大図である。
【図5】実施の形態にかかるドリブンプレートを説明する図である。
【図6】実施の形態にかかるイコライザを説明する図である。
【図7】ホールドプレートの要部を説明する図である。
【図8】従来例にかかる振動減衰装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、トルクコンバータ100における振動減衰装置1を説明する図である。
図2は、振動減衰装置1を説明する図であり、(a)は、平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(a)におけるB−B断面図である。
なお、図2の(a)において、右下の略1/3は、ドリブンプレート4が存在する状態の平面図であり、左下の略1/3は、ドリブンプレート4の図示を省略した平面図であり、上側の略1/3は、中心軸X(図示しないトルクコンバータの動力伝達軸の中心軸、以下、動力伝達軸Xとも表記する)に直交する面で振動減衰装置1を切断した断面図である。
【0016】
図1および図2に示すように、振動減衰装置1は、トルクコンバータ100の内部に設けられており、ホールドプレート3と、ドリブンプレート4と、スプリング(外径側スプリング5、内径側スプリング6)と、イコライザ7と、を備えて構成される。
【0017】
振動減衰装置1は、トルクコンバータ100がロックアップピストン2をカバーコンバータ101に締結させたロックアップ状態にされて、エンジンの回転駆動力が変速機構部側に直接入力されるようにされた際に、エンジンの振動が変速機構部側に直接伝播することを防止するために設けられている。
【0018】
以下、振動減衰装置1の各構成要素を説明する。
図3は、ホールドプレート3を説明する図であって、(a)は、平面図、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。図4の(a)は、ホールドプレート3の一部を拡大した拡大図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図である。
【0019】
[ホールドプレート]
図2に示すように、ホールドプレート3は、ロックアップピストン2のカバーコンバータ101とは反対側の面に固定されており、ロックアップピストン2と一体に回転するように設けられている。
【0020】
図3に示すように、ホールドプレート3は、軸方向から見てリング形状の板状部材の成型体であり、その内径側には、リング状の固定部31が設けられている。
固定部31には、当該固定部31を厚み方向に貫通してリベット穴31aが設けられており、ホールドプレート3は、リベット穴31aを挿通させたリベットRにより、ロックアップピストン2に固定されている。
実施の形態では、リベット穴31aは、動力伝達軸X周りの周方向に所定間隔で合計9箇所に設けられており、これらは、動力伝達軸Xを中心とした仮想円Im1(図4の(a)参照)上に位置している。
【0021】
固定部31の外周には、径方向外側に延びる当接部34が、動力伝達軸X周りの周方向で、所定間隔で合計3箇所に設けられている。
平面視において当接部34は、動力伝達軸Xから離れるにつれて周方向の幅が広くなる形状を有しており、各当接部34の外周縁は、固定部31の径方向外側に位置するフランジ部33に接続している。
【0022】
当接部34には、後記する外径側スプリング5が周方向から当接するようになっている(図2参照)。当接部34は、外径側スプリング5との当接面を確保するために、断面視において湾曲した形状を有している。
具体的には、図3の(b)および図4の(b)に示すように、この当接部34は、内径側から順に、ロックアップピストン2から離れる方向に膨出するように湾曲した内径側湾曲部34aと、ロックアップピストン2に近づく方向に膨出するように湾曲した外径側湾曲部34bと、動力伝達軸Xに対して平行にロックアップピストン2から離れる方向に延びる線状部34cと、を備えており、外径側スプリング5のロックアップピストン2側の周縁に沿うような形状となっている。
【0023】
ロックアップピストン2から離れる方向に延びる線状部34cの先端側は、径方向外側に湾曲しており、その先端は、フランジ部33の内周に一体的に接続されている。
フランジ部33は、固定部31よりも変速機構部側(ロックアップピストン2から離れる側)に位置しており、動力伝達軸Xの略直交方向に沿って延びている(図3の(b)参照)。
【0024】
フランジ部33は、軸方向から見てリング形状を有すると共に、後記するイコライザ7のフランジ部71に対して平行に延びており、イコライザ7のロックアップピストン2から離れる方向への移動可能な範囲を規定している。
【0025】
フランジ部33の外周縁には、ロックアップピストン2から離れる方向に延出する周壁部33aが、フランジ部33の外径側を、ロックアップピストン2から離れる方向に曲げて形成されている。この周壁部33aは、動力伝達軸X周りの周方向で、フランジ部33の外周縁の全周に亘って設けられており(図3の(a)参照)、後記するイコライザ7が当接するフランジ部33と、前記した当接部34を含むホールドプレート3の外径側の強度を確保するために設けられている。そして、この周壁部33aは、ロックアップピストン2の外周に設けられた円筒部2c(図4の(b)参照)と略同じ外径で形成されている。
【0026】
フランジ部33の内周縁には、径方向内側に延びる外側規制部33bが設けられている。図4の(b)に示すように、外側規制部33bは、ロックアップピストン2から離れる方向に、外径側スプリング5の軸方向から見た外周に沿って延びており、外径側スプリング5のロックアップピストン2から離れる方向への移動を規制するために設けられている。
【0027】
図3に示すように、平面視において固定部31の外径側には、固定部31と、当接部34と、フランジ部33とで囲まれた開口部32が位置している。
開口部32内には、ホールドプレート3とロックアップピストン2との間に形成された収容空間S(図3の(b)参照)に配置された、外径側スプリング5が位置している。
【0028】
開口部32は、動力伝達軸X周りの周方向に所定長さで形成されており、実施の形態では、合計3つの開口部32が等間隔で設けられている。
開口部32は、動力伝達軸Xから見て、周方向に配置された2つの外径側スプリング5(5a、5b)を収容可能な角度範囲Wに亘って形成されている(図2の(a)、図3の(a)参照)。
【0029】
開口部32の内径側には、切り起こし曲げにより、内側規制部31bが設けられている。内側規制部31bは、図3の(a)において図中手前側(ロックアップピストンから離れる方向)に曲げられており、開口部32内に配置される外径側スプリング5の内径方向への移動を規制するために設けられている。
この内側規制部31bは、動力伝達軸Xから見て、リベット穴31aの径方向外側に重なる位置を避けて、周方向において2分割で形成されており、図4の(a)に示すように、内側規制部31bは、動力伝達軸Xを中心とする仮想円Im2に沿って弧状に形成されている。
【0030】
図2に示すように、平面視において開口部32内に位置する外径側スプリング5は、一対の分割ばね5a、5bにより構成されており、分割ばね5a、5bの長手方向における当接部34側の端部には、リテーナ8が挿入されて取り付けられている。
分割ばね5a、5bの一端は、リテーナ8を介してホールドプレート3の当接部34に周方向から当接し、他端は、後記するイコライザ7の支持部72に周方向から当接している。
よって、外径側スプリング5は、その両端が、動力伝達軸Xまわりの周方向で隣接する当接部34、34で把持された状態で保持されており、動力伝達軸X周りの周方向に沿って配置されている。
【0031】
図3に示すように、固定部31の内径側には、内径側スプリング6を保持するためのスプリング保持部35が、動力伝達軸X側に膨出して形成されている。
スプリング保持部35は、動力伝達軸Xから見て当接部34と重なる位置関係で形成されており、実施の形態では、動力伝達軸X周りの周方向に所定間隔で3箇所に設けられている。
【0032】
図4の(a)に示すように、このスプリング保持部35には、内径側スプリング6を保持するための保持穴36が形成されている。保持穴36は、内径側スプリング6の軸方向長さと略同じ周方向の幅W1を有しており、保持穴36内に配置される内径側スプリング6は、その軸方向における両端が、保持穴36の縁36a、36aで把持された状態で設けられている。
【0033】
保持穴36の内径側と外径側の縁には、切り起こし曲げにより、規制部37、38が設けられている。
規制部37は、ロックアップピストン2から離れる方向に曲げられており、規制部38は、ロックアップピストン2側に曲げられている。実施の形態では、これら規制部37、38により、内径側スプリング6の内径方向と、外径方向への移動が規制されるようになっている。
【0034】
動力伝達軸X周りの周方向における規制部37、38の幅W2は、保持穴36の幅W1よりも短くなっている。
実施の形態では、内径側スプリング6は、後記するドリブンプレート4のばね受部45(図5参照)により、当該内径側スプリング6の軸方向に圧縮されるようになっている。そのため、内径側スプリング6の軸方向への伸縮が、規制部37により大きく阻害されないようにするために、内径側スプリング6の長手方向における中央部分のみが、規制部37、38に当接するようにされている。
【0035】
スプリング保持部35における保持穴36の両側は、内径側スプリング6の両端を把持する把持部39となっている。この把持部39は、内径側スプリング6との当接面を確保するために、断面視において湾曲した形状を有している。
図4の(b)に示すように、この把持部39は、断面視においてロックアップピストン2に近づく方向に膨出するように湾曲しており、この湾曲した部分における最もロックアップピストン2の近くに位置する頂点39aが、保持穴36の径方向幅W3における略中央に位置するようになっている。
【0036】
[ドリブンプレート]
図5は、ドリブンプレート4を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(b)における領域Bの拡大図である。
【0037】
図2に示すように、ドリブンプレート4は、ホールドプレート3のロックアップピストン2とは反対側に位置しており、ドリブンプレート4とホールドプレート3は、外周側のばね受部45と当接部34とが、軸方向から見て重なる位置関係で設けられている。
【0038】
図5の(a)に示すように、ドリブンプレート4は、軸方向から見てリング形状の板状部材の成型体であり、その内径側にはリング状の取付部41が設けられている。
振動減衰装置1において、取付部41は、動力伝達軸Xに直交する向きで設けられており、この取付部41には、取付孔41aが設けられている。この取付孔41aは、取付部41を厚み方向に貫通して設けられており、動力伝達軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0039】
実施の形態では、合計6個の取付孔41aが設けられており、これら取付孔41aに挿通したリベット(図示せず)により、ドリブンプレート4がトルクコンバータのタービンに連結されるようになっている。
【0040】
取付部41の外径側は、ロックアップピストン2側に膨出するように湾曲する湾曲部42となっており、この湾曲部42には、湾曲部42を厚み方向に貫通して開口部43が形成されている。
実施の形態では、湾曲部42のロックアップピストン2側に最も位置する頂点部42aが、開口部43の径方向幅W4における略中間に位置するように形成されており、開口部43は、動力伝達軸X周りの周方向で所定間隔を空けて3つ設けられている。
【0041】
実施の形態では、ドリブンプレート4が振動減衰装置1に組み込まれた状態において、頂点部42aが、内径側スプリング6の軸方向から見た中央部を横切るように、湾曲部42の形状が設定されている(図5の(c)参照)。
【0042】
ドリブンプレート4の外周には、径方向外側に延びるばね受部45が、動力伝達軸X周りの周方向で、所定間隔で合計3箇所に設けられている。
平面視においてばね受部45は、動力伝達軸Xから離れるにつれて周方向の幅が広くなる形状を有しており、外径側スプリング5が周方向から当接するようになっている。
ばね受部45は、ロックアップピストン2側に位置するホールドプレート3の当接部34との干渉を避けつつ、外径側スプリング5との当接面を確保するために、断面視において湾曲した形状を有している。
【0043】
具体的には、図5の(b)、(c)に示すように、ばね受部45は、内径側から順に、ロックアップピストン2から離れる方向に膨出するように湾曲した内径側湾曲部45aと、動力伝達軸Xに直交する方向に延びる線状部45bと、を備えており、線状部45bが、外径側スプリング5の軸方向から見た中央部を横切るように、ばね受部45の形状が設定されている。
【0044】
[イコライザ]
図6は、イコライザ7を説明する図であり、(a)は、軸方向から見た平面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、(b)における領域Cの拡大図である、(d)は、(a)におけるB−B断面図である。
【0045】
図2の(b)に示すように、イコライザ7は、動力伝達軸Xの軸方向で、ロックアップピストン2とホールドプレート3との間に位置しており、ロックアップピストン2およびホールドプレート3に対して相対回転可能に設けられている。
【0046】
イコライザ7は、軸方向から見てリング形状の本体部70と、フランジ部71と、本体部70から内径側に延びる支持部72と、を備える。
【0047】
本体部70におけるロックアップピストン2とは反対側は、径方向外側に曲げられており、動力伝達軸Xに対して直交する方向に延びるフランジ部71が形成されている。
実施の形態では、遠心力で径方向外側に移動した外径側スプリング5が、本体部70の内周面70aに接触するようになっており、本体部70が外径側スプリング5から受ける応力により変形することを防止するために、本体部70にフランジ部71を設けて強度を確保している。
【0048】
支持部72は、前記した分割ばね5a、5bの他端を支持するものであり、本体部70のロックアップピストン2側の端部から径方向内側に延出して形成されている。
実施の形態では、支持部72は、動力伝達軸Xまわりの周方向で、等間隔で3つ形成されており、一対の分割ばね5a、5bを動力伝達軸X周りの周方向に連結するために設けられている。
【0049】
図6の(c)に示すように、支持部72は、ロックアップピストン2側の端部から径方向内側に延びたのち、ロックアップピストン2から離れる方向に曲げられており、さらにその先端側が、内径側に曲げられている。よって、支持部72は、外径側スプリング5の軸方向から見た中央部を、ロックアップピストン2側から横切るように湾曲した形状とされている。
【0050】
実施の形態では、イコライザ7のトランスミッション側への移動は、ホールドプレート3のフランジ部33により規制され、エンジン側への移動は、ロックアップピストン2により規制される。
そして、イコライザ7の内径方向(動力伝達軸X)側への移動は、基本的には外径側スプリング5により規制され、外径方向への移動はロックアップピストン2の円筒部2cにより規制されるようになっている。
【0051】
かかる構成の振動減衰装置1では、図1に示すように、エンジンの回転数が所定回転数になると、ロックアップピストン2が油圧によりエンジン側へ押されて、トルクコンバータ100は、ロックアップピストン2の摩擦ライニング2bをカバーコンバータ101に締結させたロックアップ状態にされる。
ロックアップ状態では、エンジンの回転駆動力が、ロックアップピストン2を介してホールドプレート3に直接入力されるので、ホールドプレート3が動力伝達軸X回りで、ドリブンプレート4に対して相対的に回転する。
この際、ドリブンプレート4のばね受部45の当接面45c(図5の(a)参照)が、外径側スプリング5に軸方向から当接しているので、ホールドプレート3は、ばね受部45で外径側スプリング5を周方向に押し縮めながら、ドリブンプレート4に対して相対的に回転する。
【0052】
これにより、ドリブンプレート4には、外径側スプリング5を介して、ホールドプレート3に入力された回転駆動力が入力されるので、この入力された回転駆動力は、図示しないタービンハブおよびトランスミッションへと伝達されることになる。
【0053】
ここで、図2の(a)に示すように、ドリブンプレート4の開口部43の縁43aと、ホールドプレート3のスプリング保持部35の保持穴36の縁36aとは、動力伝達軸X回りの周方向で角度θの位相差をもって配置されている。
そのため、ホールドプレート3からドリブンプレート4への回転駆動力の伝達が開始された直後では、外径側スプリング5のみが圧縮される。
そして、伝達される回転駆動力(トルク)が大きくなって、ホールドプレート3がドリブンプレート4に対して相対的にθだけ回転すると、内径側スプリング6の開口部43の縁43aによる圧縮が開始される。
よって、ドリブンプレート4には、最終的に外径側スプリング5と内径側スプリング6を介して、回転駆動力が入力されることになる。
【0054】
以下、振動減衰装置1における内径側スプリング6の位置規制を説明する。
図7は、スプリング保持部35の保持穴36における内径側スプリング6の位置規制を説明する図であり、(a)は、内径側スプリング6が基準位置にある場合を説明する図であり、(b)は、内径側スプリング6が、振動減衰装置1の軸方向におけるロックアップピストン2側に移動した場合、(c)は、外径側に移動した場合を、(d)は、内径側に移動した場合を、(e)は、軸方向におけるロックアップピストン2から離れる側に移動した場合を、それぞれ示す図である。
【0055】
前記したように内径側スプリング6は、ホールドプレート3のスプリング保持部35に形成された保持穴36内で、その長手方向の両端が把持された状態で保持されている(図4参照)。
この状態において内径側スプリング6は、保持穴36の周方向における両縁36aにのみ接触し、図7の(a)に示すように、内径側スプリング6の軸方向と径方向の移動を規制するロックアップピストン2およびスプリング保持部35の規制部37、38とは、接触しないように設けられている。
【0056】
そして、ホールドプレート3からドリブンプレート4への回転駆動力の伝達により、内径側スプリング6が軸方向や径方向に移動した場合に、ロックアップピストン2の内周面やスプリング保持部35の規制部37、38が内径側スプリング6に当接して、内径側スプリング6の移動を規制するようになっている。
【0057】
ロックアップピストン2の内径側には、カバーコンバータ101(図1参照)側に膨出する膨出部21が設けられている。この膨出部21の外径側は、動力伝達軸Xに直交する平坦部22とされており、この平坦部22の変速機構部側の面22aには、ホールドプレート3の固定部31が固定されている。
【0058】
膨出部21は、内径側スプリング6の径方向幅W3よりも大きい径方向幅W4で形成されており、動力伝達軸X周りの周方向の全周に亘って形成されている。
【0059】
実施の形態では、スプリング保持部35で保持された内径側スプリング6は、その中心X2が、動力伝達軸Xに直交する平坦部22の面22aよりもロックアップピストン2側に位置するように配置されている。
膨出部21の径方向内側の内周面21aと、径方向外側の内周面21bは、内径側スプリング6の軸方向から見た外周6aの曲率よりも、小さい曲率で形成されている。
よって、内径側スプリング6がロックアップピストン2側に移動すると、図7の(b)に示すように、内径側スプリング6のロックアップピストン2側の頂点Pa付近のみが、ロックアップピストン2の内周面21cに接触するようになっている。
【0060】
実施の形態では、膨出部21との接触点となる頂点Paから径方向に離れるにつれて、ロックアップピストン2の内周面と、内径側スプリング6の外周6aとの距離が広がるように、膨出部21が形成されている。
【0061】
図4の(a)に示すように、ホールドプレート3の固定部31よりも内径側のスプリング保持部35には、保持穴36が位置しており、このスプリング保持部35の外径側の規制部38は、ロックアップピストン2側に曲げて形成されている。
図7の(a)に示すように、この規制部38の先端38a側は、動力伝達軸Xに平行な軸線X1に沿って平行に延びており、内径側スプリング6の中心X2を通り動力伝達軸X(軸線X1)に直交する直線Lを、図示しない変速機構部側から跨いで、ロックアップピストン2側に及んでいる。なお、この直線Lは、ホールドプレート3の固定部31とロックアップピストン2の平坦部22と境を通り中心軸に直交する直線L2よりも、ロックアップピストン2側に位置している。
【0062】
規制部38の内径側スプリング6との対向面は、内径側スプリング6が径方向外側に移動した場合に当接する当接面38bとなっており、この当接面38bは、ロックアップピストン2の外径側の内周面21bよりも、内径側スプリング6側に位置している。
実施の形態では、内径側スプリング6が径方向外側に移動すると、図7の(c)に示すように、この内径側スプリング6の規制部38側の頂点Pbが、直線L上で当接面38bに当接して、内径側スプリング6の径方向外側への移動が規制されるようになっている。
実施の形態では、この内径側スプリング6が径方向外側に移動すると、規制部38のみに当接するようになっている。
【0063】
スプリング保持部35の内径側の規制部37は、動力伝達軸Xの軸方向で、前記した規制部38とは逆方向に曲げて形成される。
規制部37は、内径側スプリング6の中心X2を通り動力伝達軸Xに直交する直線Lとの交差部付近から、ロックアップピストン2から離れる方向に曲げられており、この規制部37の先端37a側は、内径側スプリング6の外周6aに沿うように湾曲している。
【0064】
規制部37の内径側スプリング6との対向面は、内径側スプリング6が径方向内側、そしてロックアップピストン2から離れる方向に移動した場合に当接する当接面37bとなっており、この当接面37bは、内径側スプリング6の外周6aの曲率と略同じ曲率で形成されている。
【0065】
規制部37は、当該規制部37の先端37aと、内径側スプリング6の中心X2とを結ぶ直線L1と、直線Lとの交差角θ1が、おおよそ45°となるように、その周方向の長さLnが設定されており、内径側スプリング6のロックアップピストン2から離れる方向の移動が、規制部37により確実に規制されるようになっている。
【0066】
実施の形態では、内径側スプリング6が径方向内側に移動すると、図7の(d)に示すように、この内径側スプリング6の規制部37側の頂点Pcが、当接面37bに当接して、内径側スプリング6の径方向内側への移動が規制される。さらに、内径側スプリング6がロックアップピストン2から離れる方向側に移動すると、図7の(e)に示すように、この内径側スプリング6の規制部38側の頂点Pdが、規制部37の先端37a側の当接面37bに当接して、内径側スプリング6のロックアップピストン2から離れる方向側への移動が規制される。
【0067】
このように、内径側スプリング6の径方向および軸方向の移動の規制が、ひとつの部材または部位(規制部37、規制部38、ロックアップピストン2の内周面21c)で行われるので、内径側スプリング6の位置が変化した場合において、内径側スプリング6の位置規制のために接触する部材または部位や、接触箇所の数が変化しない。よって、振動減衰装置1における減衰特性と動的バネ定数が安定する。
さらに遠心力で内径側スプリング6が径方向外側に移動しても、内径側スプリング6が複数のプレート(ホールドプレート、ロックアップピストン)に挟まれることのない保持方法となっているので、動的バネ定数の増加を防ぐことができる。
【0068】
以上の通り、トルクコンバータ100のロックアップピストン2に固定されて、ロックアップピストン2と一体に動力伝達軸X回りに回転するホールドプレート3と、トルクコンバータ100のタービンに連結されて動力伝達軸X周りに回転するドリブンプレート4と、ホールドプレート3とドリブンプレート4とを回転方向で弾性的に連結すると共に、動力伝達軸X回りの周方向に配置された内径側スプリング6および外径側スプリング5とを、備え、ホールドプレート3に入力されるエンジンの回転駆動力が、内径側スプリング6と外径側スプリング5とを介してドリブンプレート4に伝達される振動減衰装置1において、
ホールドプレート3が、内径側スプリング6の両端を支持する保持穴36と、内径側スプリング6の内径側への移動を規制する規制部37と、内径側スプリング6の外径側への移動を規制する規制部38と、を有するスプリング保持部35を備え、
内径側スプリング6が外径側に移動した際に当接する規制部38との当接点Pbが、遠心力により内径側スプリング6に作用する加重の方向側となるように、規制部38をロックアップピストン2側に曲げて、規制部38との当接点Pbを、内径側スプリング6の周方向における断面の略中心X2を通り動力伝達軸Xに直交する線分(直線)L上に位置させた構成とした。
【0069】
このように構成すると、遠心力によって荷重がかかる重心線L上に、ホールドプレート3の規制部38が位置しており、遠心力による内径側スプリング6の外径側への移動が規制部38のみで規制される。
よって、内径側スプリング6の外径側への移動が、従来のように複数のプレート(ホールドプレート、ロックアップピストン)に挟まれて規制されることがなく、内径側スプリング6の位置規制のために接触する部材(部位)や接触箇所の数が変化しないので、振動減衰装置1における減衰特性と動的バネ定数が安定する。
内径側スプリング6は、剛性が高く、かつ入力荷重が高いため、ロックアップピストン2に接触して移動を規制する場合には、ロックアップピストン2を摩耗させる虞があるが、かかる摩耗の問題を生じさせる虞がない。
【0070】
また、内径側スプリング6の内径側と外径側への移動を規制する規制部37と規制部38が、同一のホールドプレート3に設けられているので、内径側スプリング6が径方向に移動した際に当接する規制部37および規制部38との当接点の位置精度を向上させることができる。
さらに、ホールドプレート3とロックアップピストン2の2部品で規制する従来の場合に比べて、スプリングの支持点精度が向上するので、このことによっても、振動減衰装置の減衰特性を安定させて、動的バネ定数の増加を防ぐことができる。
【0071】
さらに、規制部37は、内径側スプリング6の外周6aに沿って、ロックアップピストン2から離れる方向に延びており、規制部37は、内径側スプリング6の外周方向で、内径側スプリング6の周方向における断面の略中心X2を通り動力伝達軸Xに直交する線分(直線)Lから少なくとも45°の範囲に設けられている構成とした。
【0072】
このように構成すると、内径側スプリング6の内径側への移動と、動力伝達軸Xの軸方向におけるロックアップピストン2から離れる方向への移動を、それぞれ規制部37のみで規制できる。
これにより、内径側スプリング6の位置やホールドプレート3の寸法精度により、内径側スプリング6が振動減衰装置1における複数の異なる部位に接触するようになることや、内径側スプリング6が接触する部位が大きく変化するようになることを防止できるので、振動減衰装置1における減衰特定と動的バネ定数を安定させることができる。
【0073】
特に、規制部37と規制部38とを、動力伝達軸Xの軸方向で互いに反対方向に曲げて構成し、内径側スプリング6の径方向および軸方向の移動の規制が、ひとつの部材または部位(規制部37、規制部38、ロックアップピストン2の内周面21c)で行われる構成とした。
【0074】
このように構成すると、内径側スプリング6の位置が変化した場合や、ホールドプレート3の寸法精度や取付位置が多少変化した場合であっても、内径側スプリングの移動を規制するために接触する部材または部位、そして接触する箇所数が変わることがない。
接触する部材または部位、そして接触する箇所数が変わると、内径側スプリング6が伸縮する際に受ける摩擦力が変化するので、振動減衰装置ごとの減衰特定や動的バネ定数が安定しないが、上記のように構成すると、減衰特性や動的バネ定数を安定させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 振動減衰装置
2 ロックアップピストン
3 ホールドプレート
4 ドリブンプレート
5 外径側スプリング
6 内径側スプリング
7 イコライザ
8 リテーナ
21 膨出部
21a〜21c 内周面
22 平坦部
31 固定部
31a リベット穴
32 開口部
33 フランジ部
34 当接部
35 スプリング保持部
36 保持穴
37 規制部
38 規制部
39 把持部
41 取付部
42 湾曲部
43 開口部
45 ばね受部
70 本体部
71 フランジ部
72 支持部
100 トルクコンバータ
101 カバーコンバータ
103 ホールドプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータのロックアップピストンに固定されて、ロックアップピストンと一体に動力伝達軸回りに回転するホールドプレートと、
トルクコンバータのタービンに連結されて、動力伝達軸回りに回転するドリブンプレートと、
前記動力伝達軸回りの周方向に配置されて、前記ホールドプレートと前記ドリブンプレートとを回転方向で弾性的に連結するスプリングと、を備える振動減衰装置において、
前記ホールドプレートが、
前記周方向における前記スプリングの両端を支持する支持穴と、
前記支持穴の内径側に設けられて、前記スプリングの内径側への移動を規制する内径側規制部と、
前記支持穴の外径側に設けられて、前記スプリングの外径側への移動を規制する外径側規制部と、を備え、
前記スプリングが前記外径側に移動した際に当接する外径側規制部との当接点を、前記スプリングの中心軸線と前記動力伝達軸の中心線とに直交する線分上に位置させたことを特徴とする振動減衰装置。
【請求項2】
前記支持穴の外径側に設けられて前記スプリングの外径側への移動を規制する外径側規制部は、前記スプリングの外周に沿って、前記ロックアップピストンから離れる方向に延びており、
前記内径側規制部は、前記スプリングの中心軸線上を基点として、前記線分から少なくとも45°の範囲に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の振動減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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