説明

振動送風装置

【課題】振動エネルギーを利用して外部からのエネルギー供給を受けることなく送風を行うことができる振動送風装置を提供すること。
【解決手段】長手方向一端が固定された振動板4の自由端に錘5を取り付けて振動送風装置1を構成し、前記振動板4を振動させて送風する。又、前記振動板4の固有振動数が使用環境の振動周波数と略等しくなるよう該振動板4のバネ定数と前記錘の重量を設定する。更に、前記錘5を磁石で構成し、前記振動版4の振動方向両側に、前記錘5との間で互いに反発する磁石11,12を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーを利用して送風を行う振動送風装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載電子機器は、車体内の限られたスペースに密集して組み込まれている。このため、パワーデバイスや二次電池等の発熱する電子デバイス類を冷却する場合、微細な部品や数mmオーダーの隙間に空冷若しくは液冷の機構を組み込む必要がある。
【0003】
しかしながら、微細な隙間には既存の電動ファン等の送風装置や水冷循環器配管等とその動力供給手段を配置することができないという問題があった。このため、既存の空冷及び液冷技術のように外部からエネルギーを供給するシステムを使用せず、数mmオーダーの微小隙間に配置することができる送風機や液冷循環器が必要となっている。
【0004】
そこで、特許文献1には、振動機械に取り付けられるケーシング内に、吸込室と吐出室とを連通する通路を有するピストンを往復動自在に設け、ケーシングの吸込口とピストンの通路に、ピストンの往復動により交互に開閉する逆止弁を設けた振動ポンプが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−182414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において提案された振動ポンプにおいては、ピストンが振動によってシリンダ内を往復動する場合、ピストンがシリンダ内壁に衝突するため、騒音の発生や衝突によるピストンやシリンダの劣化と破損の可能性がある。又、ピストンとシリンダとの衝突によるエネルギーロスや振動周波数によるエネルギーの伝達ロスについて配慮されていないため、振動ポンプの効率的で安定した動作を望むことができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、振動エネルギーを利用して外部からのエネルギー供給を受けることなく送風を行うことができる振動送風装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の振動送風装置は、長手方向一端が固定された振動板の自由端に錘を取り付け、該振動板を振動させて送風することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記振動板の固有振動数が使用環境の振動周波数と略等しくなるよう該振動板のバネ定数と前記錘の重量を設定したことを特徴とする。
【0010】
請求項32記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記錘を磁石で構成し、前記振動版の振動方向両側に、前記錘との間で互いに反発する磁石を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、外部からのエネルギー供給を受けることなく、当該振動送風装置に伝達される振動エネルギーを利用して送風を行うことができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、振動板の固有振動数を使用環境の振動周波数と略等しくして該振動板を共振させるようにしたため、振動エネルギーを効率良く利用して送風を効果的に行うことができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、磁石で構成された錘と振動版の振動方向両側に設けられた磁石との間に磁気反発力が発生するため、振動板のストローク端での錘の衝突が防がれ、衝撃音の発生やエネルギーロス、耐久性の低下を招くことなく、振動エネルギーを利用して外部からのエネルギー供給を受けることなく送風が効率良くなされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る振動送風装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る振動送風装置の使用例を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る振動送風装置の振動モデルを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る振動送風装置の斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る振動送風装置の使用例を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る振動送風装置の縦断面図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係る振動送風装置の使用例を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の平断面図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の振動モデルを示す図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の変形例を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の変形例を示す斜視図である。
【図14】本発明の実施の形態5に係る振動送風装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
<実施の形態1>
図1は本発明の実施の形態1に係る振動送風装置の斜視図であり、図示の振動送風装置1は、長手方向一端がブロック状の固定台2に固定された弾性軸3の自由端に矩形の振動板4と錘5を取り付けて構成されている。この振動送風装置1は、例えば図2に示すように回路基板20上に設置されて使用され、回路基板20の振動エネルギーを利用して発熱体21に送風するものである。振動送風装置1は、振動する機器と共に振動する回路基板20に取り付けられており、弾性軸3は振動する機器の振動方向に対して垂直な方向に沿って配置され、振動板4の面は機器の振動方向に対して垂直な面で構成されている。
【0017】
即ち、回路基板20が例えば縦振動すれば、該回路基板20上に設置された振動送風装置1も回路基板20と一体に振動し、錘5に作用する慣性力によって振動方向に対して垂直に配置された弾性軸3が固定台2への固定端を中心として上下に揺動するため、該弾性軸3の自由端側に取り付けられた振動板4が上下の揺動を繰り返し、この振動板4の上下動によって回路基板20上の発熱体21に対して送風がなされ、発熱体21が空冷されてその温度上昇が抑えられる。このように本実施の形態に係る振動送風装置1によれば、外部からのエネルギー供給を受けることなく、回路基板20から当該振動送風装置1に伝達される振動エネルギーを利用して送風することができる。
【0018】
ところで、本実施の形態では、振動板4の固有振動数を使用環境の振動周波数(取り付けられる機器の振動周波数)と略等しくして該振動板4を共振させるようにしている。
【0019】
ここで、振動板4と錘5を含む振動系を図3に示す片持ち梁モデルで考える。
【0020】
梁である弾性軸3の自由端に質量mの錘5が取り付けられた振動系を考え、弾性軸3のバネ定数をk、弾性軸3の自由端の撓み(変位)をx、時間をtとすると、次の運動方程式が成立する。
【0021】
m・d2x/dt2=−k・x … (1)
又、弾性軸3の長さをLとすると、振動の周期Tと周波数ωはそれぞれ次式で表わされる。
【0022】
T=2π√(m/k) … (2)
ω=√(k/m) … (3)
従って、振動板4を含む振動系の固有振動数ω0を(3)式によって求め、振動する機器の振動周波数ωに略等しくなるよう調整することによって振動板4を共振させることができ、このように振動板4を共振させることによって振動エネルギーを効率良く利用して送風を効果的に行うことができる。
【0023】
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2を図4及び図5に基づいて以下に説明する。
【0024】
図4は本発明の実施の形態2に係る振動送風装置の斜視図、図5は同振動送風装置の使用例を示す斜視図であり、本実施の形態に係る振動送風装置1は、長手方向一端が薄い円柱状の固定台2に固定された振動板4の自由端に錘5を取り付けて構成されている。この振動送風装置1は、例えば図5に示すように上下2枚の矩形プレート31,32間の微小隙間に設置されて使用され、矩形プレート31,32に伝達される横振動のエネルギーを利用して送風するものである。実施の形態2に係る振動送風装置1は、振動する機器と共に振動する固定台2を有しており、振動板4は振動する機器の振動方向に対して垂直な方向に沿って配置され、振動板4の面は機器の振動方向に対して垂直な面で構成されている。
【0025】
即ち、振動送風装置1が矩形プレート31,32と共に例えば横振動すれば、振動板4の自由端に取り付けられた錘5に作用する慣性力によって振動板4が固定台2への固定端を中心として図5に示すようにプレート31,32の間でプレート31,32の面に沿って左右の揺動を繰り返すため、この振動板4の左右の揺動によって送風がなされる。このため、本実施の形態に係る振動送風装置1においても、外部からのエネルギー供給を受けることなく、当該振動送風装置1に伝達される振動エネルギーを利用して送風することができる。尚、本実施の形態においても、振動板4の固有振動数を使用環境の振動周波数と略等しくして該振動板4を共振させるようにしている。又、固定台2を円柱状としているため、振動板4の送風作用による空気の流れに対して障害となることを抑制し、空気の流れをスムーズにすることができる。
【0026】
<実施の形態3>
次に、本発明の実施の形態3を図6及び図7に基づいて以下に説明する。
【0027】
図6は本発明の実施の形態3に係る振動送風装置の縦断面図、図7は同振動送風装置の使用例を示す斜視図であり、本実施の形態に係る振動送風装置1の基本構成は前記実施の形態2に係る振動送風装置1のそれと同じである。
【0028】
本実施の形態に係る振動送風装置1は、図6に示すように扁平な薄いケーシング6の底部にブロック状の固定台2を設置し、この固定台2に下端が固定された振動板4の自由端(上端)に錘5を取り付けて構成されている。ここで、ケーシング6の下部には吸気口7が形成され、上端には空気を絞ってこれを排気として上方へ吐出する吐出ノズル8が設けられている。尚、吐出ノズル8内の流路はリブ8aによって左右にそれぞれ仕切られている。実施の形態3に係る振動送風装置1は、振動する機器と共に振動する固定台2を有しており、振動板4は振動する機器の振動方向に対して垂直な方向に沿って配置され、振動板4の面は機器の振動方向に対して垂直な面で構成されている。
【0029】
而して、当該振動送風装置1においてケーシング6が横振動すると、振動板4がその自由端(上端)に取り付けられた錘5に作用する横方向の慣性力によって左右の揺動をケーシング6の内部で繰り返すため、ケーシング6の吸気口7から空気(吸気)が吸い込まれ、この吸い込まれた空気は振動板4の送風作用によって上方へと送られ、上端の吐出ノズル8から排気として吐出される。この場合、ケーシング6内を上方へと送り出される空気は、左右の各吐出ノズル8を通過することによって絞られて流速が高められるため、動圧の増加分だけ静圧が下がってその周囲が負圧となるベンチュリ効果によって外気が吸気口7から余分にケーシング6内に吸引される。このため、当該振動送風装置1の送風量が高められ、その冷却機能が高められる。尚、本実施の形態においても、振動エネルギーを効率良く送風に利用するために振動板4が共振するようその固有振動数が調整されている。
【0030】
ここで、斯かる振動送風装置1の使用例を図7に示すが、この使用例では複数の振動送風装置1をリチウムイオン電池等の二次電池セル40の冷却に使用している。
【0031】
即ち、扁平で薄い矩形ダクト状の二次電池セル40内の下部に3台の振動送風装置1を横方向に並べて収納し、その上方には複数の放熱用リブ9を配置している。
【0032】
而して、本使用例においては、3台の振動送風装置1によって二次電池セル40内には上方に向かう空気の流れが発生し、この空気の流れによる冷却作用と複数の放熱用リブ9による放熱作用によって二次電池セル40が効果的に冷却されてその温度上昇が抑えられる。
【0033】
<実施の形態4>
次に、本発明の実施の形態4を図8〜図10に基づいて以下に説明する。
【0034】
図8は本発明の実施の形態4に係る振動送風装置の斜視図、図9は同振動送風装置の平断面図、図10は振動送風装置の振動モデルを示す図である。
【0035】
本実施の形態に係る振動送風装置1は、図8に示す扁平で薄い矩形ダクト状のケーシング6内に、図9に示すように固定台2に長手方向一端が固定された振動板4を配置し、該振動板4の自由端に錘5を取り付けて構成されている。ここで、ケーシング6の一端には吸気口7が形成され、他端には排気口10が形成されている。尚、吸気口7は図11に示すようにケーシング6の側部に形成したり、図12に示すようにケーシング7の上面に形成しても良い。
【0036】
又、本実施の形態では、錘5は永久磁石で構成されており、図9に示すようにケーシング6内の振動板4の揺動ストローク端には錘5との間で磁気反発力を発生する永久磁石11,12が配置されている。
【0037】
而して、本実施の実施の形態に係る振動送風装置1においても、他の実施の形態と同様に、ケーシング6が横振動すると、振動板4がその自由端に取り付けられた錘5に作用する慣性力によって固定端を中心として左右に揺動を繰り返し、この振動板4の揺動によってケーシング6の吸気口7からケーシング6内に空気(吸気)が吸い込まれ、この空気がケーシング6の排気口7から排気として吐出されるという送風作用がなされる。そして、本実施の形態では、永久磁石で構成された錘5の左右の揺動ストローク端には互いに反発する永久磁石11,12が配置されているため、これらの衝突が磁気反発力によって防がれ、衝撃音の発生や耐久性の低下が防がれる。尚、本実施の形態においても、振動板4の固有振動数を使用環境の振動周波数に略一致させて該振動板4を共振させるようにしている。
【0038】
ここで、振動板4を含む振動系を図10に示すバネ振り子モデルで考える。即ち、錘5と永久磁石11,12との間に作用する磁気反発力を考慮して錘5の両端が仮想バネ13,14によって支持されているモデルを考えると、錘5と永久磁石11,12との間に作用する磁気反発力fは次式で表される。
【0039】
f=k・x … (1)
ここに、k:仮想バネ13,14のバネ定数
x:仮想バネ13,14の変位(変形量)
又、振動系の固有振動数ω0は次式で表される。
【0040】
ω0=√(k/m) … (2)
ここに、m:錘5の質量
従って、(2)式で表される固有振動数ω0が使用環境の振動周波数ωに略一致するようにバネ定数kと錘5の質量mを決定すれば、振動板4を共振させることができ、振動エネルギーを効率良く利用して送風をより効果的に行うことができる。
【0041】
ところで、送風作用を高めるため、図13に示すように振動板4をケーシング6外まで延ばし、その端部に幅広の送風フィン15を設けるようにしても良い。
【0042】
<実施の形態5>
次に、本発明の実施の形態5を図14に基づいて以下に説明する。
【0043】
図14は本発明の実施の形態5に係る振動送風装置の縦断面図であり、本実施の形態に係る振動送風装置1は図6に示した前記実施の形態3に係る振動送風装置1において、錘5を永久磁石で構成するとともに、該錘5の左右の揺動ストローク端に錘5との間で互いに磁気反発力を発生する(対向する磁極同士が互いに同極となる)永久磁石11,12を配置したことを特徴としており、他の構成は実施の形態3に係る振動送風装置1のそれと同じである、
従って、本実施の形態においても、実施の形態3と同様の効果が得られる他、実施の形態4と同様に錘5の衝突が磁気反発力によって防がれるために衝撃音の発生や耐久性の低下が防がれるという効果が得られる。又、斯かる振動送風装置1を図7に示したように複数並設して二次電池セル40の冷却に供することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 振動送風装置
2 固定台
3 弾性軸
4 振動板
5 錘
6 ケーシング
7 吸気口
8 吐出ノズル
9 放熱用リブ
10 排気口
11,12 永久磁石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向一端が固定された振動板の自由端に錘を取り付け、該振動板を振動させて送風することを特徴とする振動送風装置。
【請求項2】
前記振動板の固有振動数が使用環境の振動周波数と略等しくなるよう該振動板のバネ定数と前記錘の重量を設定したことを特徴とする請求項1記載の振動送風装置。
【請求項3】
前記錘を磁石で構成し、前記振動版の振動方向両側に、前記錘との間で互いに反発する磁石を配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の振動送風装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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