捕捉周波数決定方法及び受信装置
【課題】捕捉周波数を正確且つ効率的に求めるための新たな手法を提案すること。
【解決手段】GPS衛星信号の受信信号に対して概略的な周波数探索処理である第1種相関演算処理を実行する。そして、第1種相関演算処理で用いる相関積算時間である第1種相関積算時間に基づいてメインローブとサイドローブ間の周波数を算出し、当該周波数と、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数とを用いて、サイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数と、サイドローブチェック用周波数とを含めて複数のサーチ周波数を選択し、選択した各サーチ周波数で第2種相関演算処理を行う。そして、第2種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して捕捉周波数に決定する。
【解決手段】GPS衛星信号の受信信号に対して概略的な周波数探索処理である第1種相関演算処理を実行する。そして、第1種相関演算処理で用いる相関積算時間である第1種相関積算時間に基づいてメインローブとサイドローブ間の周波数を算出し、当該周波数と、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数とを用いて、サイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数と、サイドローブチェック用周波数とを含めて複数のサーチ周波数を選択し、選択した各サーチ周波数で第2種相関演算処理を行う。そして、第2種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して捕捉周波数に決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕捉周波数決定方法及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵されたGPS受信装置に利用されている。GPS受信装置は、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から受信装置までの擬似距離等の情報に基づいて受信装置の位置を示す3次元の座標値と時計誤差とを求める位置算出処理を行う。
【0003】
GPS衛星信号は、スペクトラム拡散変調方式として古くから知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式で拡散変調された通信信号の一種である。GPS衛星がGPS衛星信号を発信する際の周波数(搬送波周波数)は、1.57542[GHz]であるが、GPS衛星や受信装置の移動により生ずるドップラーの影響等に起因して、GPS受信装置が実際に受信する周波数は、必ずしも搬送波周波数とは一致しない。そのため、GPS受信装置は、受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉するための周波数サーチを行って、捕捉周波数を決定する。
【0004】
捕捉周波数は、受信信号と、GPS衛星信号の拡散符号を模擬した拡散符号レプリカの信号との相関演算を、周波数を変化させながら行って(いわゆる周波数方向の相関演算)決定する手法が一般的である。例えば特許文献1には、相関演算を所定の積算時間に亘って行った場合の周波数変化に基づいて、捕捉周波数をサーチする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許2007/0109189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、積算時間が固定の場合に特化した技術である。しかし、実際には積算時間は変化し得る。例えば、受信装置の受信環境(例えば屋外環境と屋内環境)や受信信号の信号強度等に応じて積算時間は可変に制御され得る。また、相関演算結果には、メインローブに相当する部分(相関演算結果が最大となるピーク)と、サイドローブに相当する部分(相関演算結果の最大のピークではないピーク)とが存在する。サイドローブに相当する部分のピークは正しいピークではない。このため、相関演算結果のうち、メインローブに相当する部分を素早く割り出して、正しいピークをサーチすることが、現在位置の算出時間の短縮と、正確な位置算出につながる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、捕捉周波数を正確且つ効率的に求めるための新たな手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の形態は、CDMA(Code Division Multiple Access)信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数を変化させて行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定方法であって、第1次周波数探索処理を実行することと、前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定することと、前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択することと、前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行することと、前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定することと、を含む捕捉周波数決定方法である。
【0009】
また、他の形態として、CDMA信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数方向に行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定して前記CDMA信号を捕捉する受信装置であって、第1次周波数探索処理を実行する第1次サーチ実行部と、前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定する設定部と、前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する第2次サーチ周波数選択部と、前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行する第2次周波数サーチ実行部と、前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定部と、を備えた受信装置を構成してもよい。
【0010】
この第1の形態等によれば、CDMA信号の受信信号に対して第1次周波数探索処理を実行する。そして、当該第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定し、当該第1次周波数探索処理の結果をもとに、サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する。そして、複数のサーチ周波数それぞれにおいて相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行し、当該第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する。
【0011】
最初に第1次周波数探索処理として概略的な周波数サーチを実行し、その結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて第2次周波数探索処理を実行する。そして、さらに、第2次周波数探索処理の結果を用いて、第3次周波数探索処理として詳細な周波数サーチを実行するといった段階的な周波数の絞り込みにより、捕捉周波数を正確且つ効率的に求めることができる。また、第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用の周波数を設定し、サーチ周波数にサイドローブチェック用周波数を含めて第2次周波数探索処理を実行することで、サイドローブ部分の周波数が捕捉周波数であると誤って検出されることを防止できる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記サイドローブチェック用周波数を設定することは、前記相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に前記相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いて前記サイドローブチェック用周波数を設定することを含み、前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて周波数探索処理を実行することを含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0013】
この第2の形態によれば、相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いてサイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて第3次周波数探索処理を実行する。メインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いてサイドローブチェック用周波数を設定することで、サイドローブチェックを適切且つ簡単に行うことができる。
【0014】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数が前記サイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、前記第2次周波数探索処理を再度実行すること、を更に含む捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0015】
この第3の形態によれば、第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数がサイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、第2次周波数探索処理を再度実行する。第2次周波数探索処理の結果、最大の相関値の周波数がサイドローブチェック用周波数であれば、当該第2次周波数探索処理においてはメインローブの周波数が検出されなかったことを意味するため、当該サイドローブチェック用周波数を用いて新たにサーチ周波数を選択して、第2次周波数探索処理をやり直すことが適切である。
【0016】
また、第4の形態として、第3の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい周波数に設定することを含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0017】
また、第4の形態とは逆の第5の形態として、第3の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい周波数に設定することを含む、捕捉周波数決定方法を構成することも可能である。
【0018】
この第4又は第5の形態によれば、既に実行した第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数に対して、第1次周波数探索処理のサーチ周波数範囲とは反対側に、新たなサイドローブチェック用周波数を設定するようにする。これにより、効率的にサイドローブチェック用周波数を設定できる。
【0019】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態の捕捉周波数決定方法であって、前記受信信号の信号強度に基づいて、前記第2次周波数探索処理において前記サイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定することを更に含み、前記第2次周波数探索処理を実行することは、前記判定が使用するとの判定結果であった場合に、前記サイドローブチェック用周波数を含めて前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行い、前記判定が使用しないとの判定結果であった場合には、前記サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において前記相関演算処理を行うことである、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0020】
この第6の形態によれば、受信信号の信号強度に基づいて、第2次周波数探索処理においてサイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定する。そして、判定が使用するとの判定結果であった場合に、サイドローブチェック用周波数を含めて複数のサーチ周波数それぞれにおいて相関演算処理を行い、判定が使用しないとの判定結果であった場合には、サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において相関演算処理を行う。
【0021】
例えば、受信したCDMA信号が微弱な信号となる電界環境では、相関演算により求められる相関値にメインローブとサイドローブとの差が明確に現れにくい場合がある。この場合は、サイドローブチェック用周波数を用いたサイドローブチェックを正確に行うことができない。そのため、受信信号の信号強度に基づいてサイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定し、その判定結果に応じてサーチ周波数を変えて相関演算処理を行うことが効率的である。
【0022】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の捕捉周波数決定方法であって、前記複数のサーチ周波数を選択することは、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数を選択することに用いるサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、前記サイドローブチェック用周波数とを前記第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択することを含み、前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を前記基準周波数として前記サーチ周波数選択パターンを用いて前記第3次周波数探索処理における詳細サーチ用周波数を選択することと、前記詳細サーチ用周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う詳細周波数探索処理を実行することと、前記詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな前記基準周波数として、前記詳細サーチ用周波数の選択と前記詳細周波数探索処理の実行とを繰り返すことと、を含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0023】
この第7の形態によれば、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、サイドローブチェック用周波数とを第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択する。そして、第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を基準周波数としてサーチ周波数選択パターンを用いて詳細サーチ用周波数を選択し、当該詳細サーチ用周波数それぞれにおいて詳細周波数探索処理を実行する。そして、詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな基準周波数として、詳細サーチ用周波数の選択と詳細周波数探索処理の実行とを繰り返す。詳細サーチ用周波数の選択と詳細周波数探索処理の実行とを繰り返しながら周波数の絞り込みを行うことで、周波数サーチの正確性及び効率性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】相関値の周波数変化の一例を示す図。
【図2】第1電界環境における捕捉周波数決定の原理の説明図。
【図3】第2電界環境における捕捉周波数決定の原理の説明図。
【図4】第1種周波数選択パターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図5】第2種周波数選択パターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図6】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図7】ベースバンド処理回路部の回路構成を示す図。
【図8】相関データベースのデータ構成の一例を示す図。
【図9】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図10】捕捉周波数決定処理の流れを示すフローチャート。
【図11】第1種相関演算処理の流れを示すフローチャート。
【図12】第2種相関演算処理の流れを示すフローチャート。
【図13】第2電界周波数探索処理の流れを示すフローチャート。
【図14】変形例における第2種周波数選択パターンデータのデータ構成例を示す図。
【図15】変形例における第2種周波数選択パターンデータのデータ構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。以下では、GPS(Global Positioning System)衛星から発信されているGPS衛星信号を受信するGPS受信装置に本発明を適用した場合について説明する。尚、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0026】
1.原理
先ず、本実施形態における捕捉周波数決定の原理について説明する。
GPS衛星は、測位用衛星の一種であり、6つの地球周回軌道面それぞれに4機以上ずつ配置され、原則、地球上のどこからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている。
【0027】
GPS衛星は、アルマナックやエフェメリス等の航法メッセージをGPS衛星信号に含めて発信している。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、衛星毎に異なる。
【0028】
GPS受信装置は、受信信号に含まれるPRNコードとレプリカコードとの相関を、例えばFFT(Fast Fourier transform)演算を用いて算出し積算する相関演算処理を行って、GPS衛星信号の位相及び周波数を特定(捕捉)する。GPS受信装置は、この相関演算を、位相方向と周波数方向とのそれぞれについて行う。
【0029】
相関演算処理では、相関値を所与の時間に亘って積算することで、相関値のピークを顕出し易くする手法が用いられる。特に、屋内環境(インドア環境)など、受信したGPS衛星信号が弱電界の信号となる環境では、相関値にはっきりとした差が現れず、相関値のピークの検出が容易ではない場合があるためである。本実施形態では、相関演算処理において相関値を積算する時間のことを「相関積算時間」と称する。
【0030】
相関演算処理では、レプリカコードの発生信号の周波数と受信信号の周波数とが一致した場合に相関値が最大となる。より具体的には、レプリカコードの発生信号の周波数と、相関演算で求められた相関値との関係をグラフにプロットすると、ある周波数において相関値が最大となり、当該周波数から離れるにつれて相関値が減衰する特性が見られる。この相関値の周波数変化は、理想的には、「sinc関数」(正弦関数を正弦関数の変数で割った関数)を用いて近似可能であることが知られている。
【0031】
図1は、相関演算処理の処理結果の一例を示す図である。ここでは、相関積算時間を「10ミリ秒」と「20ミリ秒」として相関演算処理を行った場合の相関値の周波数変化を示している。図1において、横軸は受信信号の周波数の真値とレプリカコードの発生信号の周波数との差(周波数誤差)であり、縦軸は相関値を示している。
【0032】
この図を見ると、相関値の周波数変化は「sinc関数」の形状で近似可能であることがわかる。相関積算時間が何れの場合も、周波数誤差が「0」の場合に相関値が最大となるメインローブが形成される。また、周波数誤差が「0」から離れるにつれて相関値は減衰するが、ある周波数において再び相関値が増加するサイドローブが形成される。サイドローブが複数存在し得るが、本実施形態では、メインローブに再近接するサイドローブを「第1次サイドローブ」と称する。メインローブの左右対称にサイドローブが表れるため、メインローブの左右両隣のサイドローブが第1次サイドローブである。
【0033】
メインローブの中心周波数と第1次サイドローブの中心周波数との周波数差(以下、「メイン/サイド周波数差」と称す。)は、相関積算時間によって異なる。図1では、相関積算時間が10ミリ秒の場合は、メイン/サイド周波数差がおよそ150[Hz]であり、相関積算時間が20ミリ秒の場合は、メイン/サイド周波数差がおよそ75[Hz]である。
【0034】
図1では図示を省略しているが、本願発明者は、他の相関積算時間についても同様に相関値の周波数変化を調べる実験を行った。そして、これらの実験結果に基づいて、本実施形態では、メイン/サイド周波数差「Δf」を、次式(1)で近似することとした。
Δf[Hz]=1000[msec]/t[msec]×1.5 ・・・(1)
但し、「t」は相関積算時間である。
【0035】
本実施形態では、式(1)に従って算出されるメイン/サイド周波数差「Δf」を用いて、周波数の効率的な絞り込みを行うことが、大きな特徴の1つとなっている。具体的には、GPS受信装置の受信環境に応じて、それぞれ異なる手法で周波数の絞り込みを行って捕捉周波数を決定する。
【0036】
本実施形態では、受信環境として信号強度に応じた2つの電界環境を想定する。具体的には、第1電界環境と第2電界環境との2つの電界環境である。ここでは、受信したGPS衛星信号が弱電界の信号となるような環境を第1電界環境とし、第1電界環境と比べて強い信号を受信可能な環境を第2電界環境とする。
【0037】
また、本実施形態では、相関演算処理として第1種相関演算処理と第2種相関演算処理とを行う。それぞれの相関演算処理では、相関値の積算時間を個別に設定して相関演算を行う。以下では、第1種相関演算処理における相関積算時間を「第1種相関積算時間」として説明し、第2種相関演算処理における相関積算時間を「第2種相関積算時間」として説明する。
【0038】
相関積算時間は、例えば受信信号の信号強度や捕捉しようとしているGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)の仰角といった情報に基づいて設定することができる。例えば、受信信号の信号強度が小さい場合は、長時間に亘って相関値を積算するほど、相関値のピークの判別が容易になるため、相関積算時間を長く設定すべきである。他方、受信信号の信号強度が大きい場合は、相関積算時間を短くしても、相関値のピークの判別が容易であるため、相関積算時間を短く設定してもよい。これらのことから、受信信号の信号強度が小さいほど、相関積算時間を長く設定することが適切である。
【0039】
また、捕捉対象衛星の仰角が大きい場合は、受信信号が強信号である場合が多く、捕捉対象衛星の仰角が小さい場合は、強信号ではない場合が多い。そこで、捕捉対象衛星の仰角が小さいほど、相関積算時間を長く設定することが適切である。
【0040】
(1)第1電界環境における捕捉周波数の決定
図2は、第1電界環境における捕捉周波数決定の原理を説明するための図である。ここでは、第1種及び第2種相関積算時間を「10ミリ秒」として相関演算処理を行う場合を一例として説明する。図2の最上段のグラフは、ある受信信号に対する相関演算を行った場合の周波数方向の相関値の変化の例を示す。横軸の周波数はサーチ周波数を示している。相関値の変化のグラフを事前に図示・説明しているが、捕捉周波数の決定に当たっては、未だ、相関値を算出していない状態である。
【0041】
尚、決定した捕捉周波数を用いて実際に衛星信号を捕捉する場合に用いる周波数は、搬送波(キャリア)周波数をダウンコンバートして中間周波に変換した周波数(以下、「中間周波数」と称す。)に当該捕捉周波数を加えた周波数である。中間周波数は一定であり、都度考慮する必要が無いため、本実施形態では、周波数探索処理としての第1種及び第2種相関演算処理において用いる周波数(サーチ中心周波数、サーチ周波数、捕捉周波数)を中間周波数との周波数誤差(中間周波数との周波数差)で定義している。もちろん、周波数探索処理において用いる周波数を、中間周波数を加味した周波数で定義し、実際に衛星信号を捕捉する場合にもその周波数を用いるようにしてもよい。
【0042】
その状態において、先ず、周波数探索処理の基準とする周波数(以下、「サーチ中心周波数」と称す。)を初期設定する。例えば、GPS衛星信号の搬送波周波数に対する、捕捉対象のGPS衛星の軌跡情報や移動速度から求まるドップラー周波数としてもよい。ここでは、サーチ中心周波数を150[Hz]としている。次いで、サーチ中心周波数と、予め定められた第1種周波数選択パターンとを用いて、第1種相関演算処理に用いるサーチ周波数を選択する。
【0043】
図4は、第1種周波数選択パターンデータ253のデータ構成の一例を示す図である。第1種周波数選択パターンデータ253は、第1種相関積算時間毎に周波数選択パターンが定められている。周波数選択パターンは、例えば、サーチ中心周波数を中心として、左右対称なパターンとして定められる。
【0044】
例えば、図4では、第1種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、パターン中心周波数「fp」を中心として、{fp−100[Hz],fp−50[Hz],fp[Hz],fp+50[Hz],fp+100[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。また、第1種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−50[Hz],fp−25[Hz],fp[Hz],fp+25[Hz],fp+50[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。
【0045】
周波数選択パターンは、相関積算時間が長くなるほどサーチ周波数の間隔が狭くなるように定められている。これは、相関積算時間を長くするほど、相関値の周波数方向の変化(各周波数における相関値の差)が顕著となり、周波数サーチが容易になるためである。すなわち、相関積算時間を長くするほど、相関値のピークを判別し易くなり、周波数サーチの分解能を上げて精細に行うことが可能となるため、周波数のサーチ幅を狭くしてサーチを行うことにしたものである。
【0046】
図2の説明に戻って、図4の第1種周波数選択パターンデータ253で定められた周波数選択パターンをサーチ中心周波数の初期値に適用して、サーチ周波数を選択する。図2では、サーチ中心周波数の初期値を150[Hz]とし、第1種相関積算時間を「10ミリ秒」としているため、{50[Hz],100[Hz],150[Hz],200[Hz],250[Hz]}の5個の周波数をサーチ周波数として選択する。
【0047】
サーチ周波数を選択したら、選択したサーチ周波数それぞれについて、第1種相関演算処理を行う。具体的には、上述した5個のサーチ周波数それぞれについて、受信信号とレプリカコードの発生信号との相関演算を行い、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する。図2の例では、サーチ周波数150[Hz]において相関値が最大となる。そして、相関値が最大となったサーチ周波数をサーチ中心周波数として設定して、第2種相関演算処理を行う。
【0048】
第2種相関演算処理では、サーチ中心周波数を少しずつずらしながら、周波数の詳細サーチを行う。この詳細サーチを行う段階は、捕捉周波数を決定するための「主探索段階」とも言える。主探索段階は、サーチ中心周波数をずらしながら、予め定められた第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返す段階である。
【0049】
図5は、第2種周波数選択パターンデータ255のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ255は、第1電界環境と第2電界環境とのそれぞれについて、第2種相関積算時間毎に周波数選択パターンが定められたデータである。図4の第1種周波数選択パターンデータ253と同様に、サーチ中心周波数を中心とする左右対称なパターンが定められている。
【0050】
第1電界環境では、第2種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、{fp−50[Hz],fp−10[Hz],fp[Hz],fp+10[Hz],fp+50[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。また、第2種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−25[Hz],fp−5[Hz],fp[Hz],fp+5[Hz],fp+25[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。
【0051】
主探索段階では、上述した第2種周波数選択パターンに従って、サーチ中心周波数を中心とする詳細サーチ用周波数を選択し、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行う。そして、相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たなサーチ中心周波数として、詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理の実行とを繰り返し、最終的に相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を捕捉周波数に決定する。
【0052】
例えば図2では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった150[Hz]をサーチ中心周波数に設定し、第2種周波数選択パターンを適用して、{100[Hz],140[Hz],150[Hz],160[Hz],200[Hz]}の5個の周波数を詳細サーチ用周波数として選択する。そして、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行って相関値を算出する。
【0053】
その結果、例えば160[Hz]において相関値が最大になったとすると、サーチ中心周波数を10[Hz]シフトさせて160[Hz]に設定し、再び第2種周波数選択パターンを適用して、{110[Hz],150[Hz],160[Hz],170[Hz],210[Hz]}の5個の周波数を詳細サーチ用周波数として選択する。そして、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行って相関値を算出する。以下同様に詳細サーチ用周波数の選択及び相関演算処理を繰り返し、最終的に相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を捕捉周波数に決定する。
【0054】
(2)第2電界環境における捕捉周波数の決定
図3は、第2電界環境における捕捉周波数決定の原理を説明するための図である。図2と同様に、第1種及び第2種相関積算時間を「10ミリ秒」として相関演算処理を行う場合を例に挙げて説明する。図3の最上段のグラフは、図2と同様に、ある受信信号に対する相関演算を行った場合の周波数方向の相関値の変化の例である。
【0055】
第1種相関演算処理を終了するまでの流れは図2と同様である。すなわち、選択した5個のサーチ周波数それぞれについて、受信信号とレプリカコードの発生信号との相関演算を行う。第1種相関演算処理は、概略的な周波数サーチを行う処理段階であり、第1次周波数探索処理に相当するものである。
【0056】
その後、第1種相関演算処理において相関値が最大となったサーチ周波数を判定し、当該サーチ周波数をサーチ中心周波数に設定する。そして、設定したサーチ中心周波数と、第2種周波数選択パターンとに従って、第2種相関演算処理で最初に用いるサーチ周波数を選択する。
【0057】
図5の第2種周波数選択パターンデータ255を見ると、第2電界環境では、第2種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、{fp−Δf[Hz],fp−50[Hz],fp−10[Hz],fp[Hz],fp+10[Hz],fp+50[Hz],fp+Δf[Hz]}の7個の周波数のパターンが定められている。また、第2種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−Δf[Hz],fp−25[Hz],fp−5[Hz],fp[Hz],fp+5[Hz],fp+25[Hz],fp+Δf[Hz]}の7個の周波数のパターンが定められている。
【0058】
ここで、「Δf」は、式(1)に従って算出されるメイン/サイド周波数差である。サーチ中心周波数を中心として、メイン/サイド周波数差「Δf」だけ離れた周波数がサーチ周波数として選択されるように周波数選択パターンが定められている。以下の説明では、サーチ中心周波数にメイン/サイド周波数差を加減算した周波数を「サイドローブチェック用周波数」と称する。本実施形態では、このサイドローブチェック用周波数を用いて、現在設定されているサーチ中心周波数がサイドローブ部分の周波数であるか否かのチェック(以下、「サイドローブチェック」と称す。)を行う点が特徴の1つである。
【0059】
式(1)によれば、メイン/サイド周波数差「Δf」は、相関積算時間「t」を用いて算出される。本実施形態では、相関積算時間として第1種相関積算時間と第2種相関積算時間とがあるが、この2種類の相関積算時間のうち、第1種相関積算時間を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する。その理由は、第2種相関演算処理では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった周波数を基準周波数(サーチ中心周波数)として詳細な周波数サーチを行うため、第1種相関演算処理で用いた相関積算時間に基づいてサイドローブチェック用周波数を設定することにしなければ、サイドローブチェックを適切に行うことができないためである。
【0060】
図3では、第1種相関積算時間を「10ミリ秒」としているため、式(1)から、メイン/サイド周波数差Δfは150[Hz]と算出される。この場合、基準周波数であるサーチ中心周波数150[Hz]に対して第2種周波数選択パターンを適用すると、{0[Hz],100[Hz],140[Hz],150[Hz],160[Hz],200[Hz],300[Hz]}の7個の周波数がサーチ周波数として選択される。この場合は、サーチ中心周波数150[Hz]に、メイン/サイド周波数差Δf=150[Hz]を加減算した周波数である0[Hz]と300[Hz]とをサイドローブチェック用周波数とする。
【0061】
次いで、この7個のサーチ周波数で相関演算処理を行い、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する。そして、最大となったサーチ周波数がサイドローブチェック用周波数であれば、サーチ中心周波数はサイドローブ部分の周波数であると判断し、サイドローブチェックを継続する。この場合は、相関値が最大となったサイドローブチェック用周波数でサーチ中心周波数を更新して、サーチ周波数を再度選択する。この処理段階のことを、本実施形態では「メイン/サイド判定段階」と称する。
【0062】
図3において、メイン/サイド判定段階では、相関演算処理により相関値が最大となったサーチ周波数は、サイドローブチェック用周波数である300[Hz]である。従って、相関値が最大となったサイドローブチェック用周波数である300[Hz]でサーチ中心周波数を更新し、第2種周波数選択パターンを再び適用して、サーチ周波数を新たに選択する。
【0063】
新たなサーチ中心周波数300[Hz]に対して第2種周波数選択パターンを適用すると、{150[Hz],250[Hz],290[Hz],300[Hz],310[Hz],350[Hz],450[Hz]}の7個の周波数がサーチ周波数として選択される。この場合は、サーチ中心周波数300[Hz]に、メイン/サイド周波数差Δf=150[Hz]を加減算した周波数である150[Hz]と450[Hz]とをサイドローブチェック用周波数とする。
【0064】
尚、上述した7個のサーチ周波数それぞれについて相関演算を行ってもよいが、計算量を減らして処理負荷を軽減するために、サーチ中心周波数から見て左右の一方のサイドローブチェック用周波数については、相関演算を省略することができる。具体的に、図3の場合には、サーチ中心周波数から見て左方向の周波数(サーチ中心周波数よりも小さな周波数)については、第1相関演算処理と、第2相関演算処理のメイン/サイド判定段階とで既に計算済みであり、当該方向にはメインローブが存在しないことが確認されている。従って、サーチ中心周波数から見て右方向のサーチ周波数(サーチ中心周波数よりも大きな周波数)についてのみ計算を行うことが好適である。
【0065】
また当然に、図3の場合とは逆の場合、すなわち、第1相関演算処理と、第2相関演算処理のメイン/サイド判定段階とでサーチ中心周波数から見て右方向の周波数(サーチ中心周波数よりも大きな周波数)について計算済みである場合には、サーチ中心周波数から見て左方向のサーチ周波数(サーチ中心周波数よりも小さな周波数)についてのみ計算を行うこととしてもよい。
【0066】
各サーチ周波数について相関演算処理を行うと、サーチ周波数350[Hz]において最大の相関値が得られる。この350[Hz]は、サイドローブチェック用周波数ではない。すなわち、メインローブ部分の周波数であるため、ここでサイドローブチェックを終了する。この処理段階は、サーチ中心周波数がサイドローブ部分の周波数からメインローブ部分の周波数へと移行する段階である。本実施形態では、この処理段階のことを「移行段階」と称する。「メイン/サイド判定段階」及び「移行段階」は、第1次周波数探索処理としての第1種相関演算処理の結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて相関演算を行う処理段階であり、第2次周波数探索処理に相当するものである。
【0067】
移行段階の処理を終了すると、相関値が最大となったサーチ周波数である350[Hz]でサーチ中心周波数を更新する。そして、更新したサーチ中心周波数を用いて「主探索段階」へと移行する。主探索段階における処理の流れは、図2で説明した第1電界環境の主探索段階における処理の流れと同一である。すなわち、サーチ中心周波数350[Hz]を基準として、詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理とを繰り返しながら、捕捉周波数を決定する。「主探索段階」は、第2次周波数探索処理としてのメイン/サイド判定段階及び移行段階の結果を用いて詳細な周波数サーチを行う処理段階であり、第3次周波数探索処理に相当するものである。
【0068】
2.機能構成
図6は、GPS受信装置を内蔵した電子機器の一例である携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ9と、GPS受信部10と、ホストCPU(Central Processing Unit)30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80とを備えて構成される。
【0069】
GPSアンテナ9は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部10に出力する。
【0070】
GPS受信部10は、GPSアンテナ9から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路であり、いわゆるGPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF(Radio Frequency)受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。尚、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0071】
RF受信回路部11は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ9から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0072】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力されたIF信号に対して相関演算処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出す回路部である。ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力される中間周波数帯の信号に対する周波数サーチを行って、GPS衛星信号の捕捉周波数を決定する。この場合において、搬送波の中間周波数からの周波数誤差(周波数差)を捕捉周波数として求めるように回路を設計してもよいし、搬送波の中間周波数に周波数誤差(周波数差)を加味した周波数を捕捉周波数として求めるように回路を設計してもよい。
【0073】
図7は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図である。ベースバンド処理回路部20は、衛星捕捉部21と、CPU23と、記憶部25とを備えて構成される。衛星捕捉部21は、RF受信回路部11から出力された受信信号(IF信号)からGPS衛星信号を捕捉する回路部であり、相関演算部211と、レプリカコード発生部213とを備えて構成されている。
【0074】
相関演算部211は、受信信号に含まれるPRNコードと、レプリカコード発生部213により発生されたレプリカコードとの相関を計算する相関演算処理を行って、GPS衛星信号を捕捉する。捕捉しようとするGPS衛星信号が正しければ、そのGPS衛星信号に含まれるPRNコードとレプリカコードとは一致し(捕捉成功)、間違っていれば一致しない(捕捉失敗)。そのため、算出された相関値のピークを判定することによってGPS衛星信号の捕捉が成功したか否かを判定でき、レプリカコードを次々に変更して、同じ受信信号との相関演算を行うことで、GPS衛星信号を捕捉することが可能となる。
【0075】
図6に戻る。ホストCPU30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。ホストCPU30は、ベースバンド処理回路部20から入力した位置情報を表示部50に表示させる処理を行ったり、位置情報を利用した各種のアプリケーション処理を行う。
【0076】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0077】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0078】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0079】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0080】
記憶部80は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、ホストCPU30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、位置算出機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、ホストCPU30により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0081】
3.データ構成
ベースバンド処理回路部20の記憶部25(図7参照)には、CPU23により読み出され、ベースバンド処理(図9参照)として実行されるベースバンド処理プログラム251と、第1種周波数選択パターンデータ253と、第2種周波数選択パターンデータ255とが記憶されている。ベースバンド処理プログラム251には、捕捉周波数決定プログラム2511と、第1種相関演算処理プログラム2512と、第2種相関演算処理プログラム2513と、第1電界周波数探索プログラム2514と、第2電界周波数探索プログラム2515とがサブルーチンとして含まれている。
【0082】
また、記憶部25には、随時更新されるデータとして、相関データベース261と、捕捉周波数263と、GPS算出位置265とが記憶される。
【0083】
図8は、相関データベース261のデータ構成の一例を示す図である。相関データベース261には、相関データが捕捉対象衛星別に蓄積的に記憶されている。各相関データには、当該捕捉対象衛星の番号2611と、当該捕捉対象衛星から受信した信号の計測された信号強度2612と、第1種相関積算時間2613と、第2種相関積算時間2614と、第1種相関値データ2615と、第2種相関値データ2616とが記憶される。第1種相関値データ2615には、第1種相関演算処理で得られた周波数別の相関値のデータが記憶され、第2種相関値データ2616には、第2種相関演算処理で得られた周波数別の相関値のデータが記憶される。
【0084】
4.処理の流れ
図9は、記憶部25に記憶されているベースバンド処理プログラム251がCPU23により読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。特に説明しないが、以下のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ9によるRF信号の受信や、RF受信回路部11によるRF信号のIF信号へのダウンコンバージョンが行われ、IF信号がベースバンド処理回路部20に随時出力される状態にあるものとする。
【0085】
先ず、CPU23は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、アルマナックやエフェメリス等の衛星軌道データを用いて判定して、捕捉対象衛星とする。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによって携帯型電話機1の基地局から取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、前回の位置算出で求めた最新のGPS算出位置265とする等の方法で設定できる。
【0086】
次いで、CPU23は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星について、ループAの処理を実行する(ステップA3〜A9)。ループAの処理では、CPU23は、記憶部25に記憶されている捕捉周波数決定プログラム2511を読み出して実行することで、捕捉周波数決定処理を行う(ステップA5)。
【0087】
図10は、捕捉周波数決定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、当該捕捉対象衛星からの受信信号の信号強度2612を計測し、当該捕捉対象衛星の番号2611と対応付けた相関データを、記憶部25の相関データベース261に記憶させる(ステップB1)。そして、CPU23は、記憶部25から第1種相関演算処理プログラム2512を読み出して実行することで、第1種相関演算処理を行う(ステップB3)。
【0088】
図11は、第1種相関演算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、第1種相関積算時間2613を設定し、相関データベース261の当該捕捉対象衛星の相関データに記憶させる(ステップC1)。第1種相関積算時間2613は、例えばステップB1で計測した受信信号の信号強度2612や電界強度に基づいて設定してもよいし、当該捕捉対象衛星の仰角に基づいて設定してもよい。
【0089】
次いで、CPU23は、サーチ中心周波数を設定する(ステップC3)。サーチ中心周波数は、電源投入後の初回の位置算出の場合は、例えばGPS衛星信号の搬送波周波数である1.57542[GHz]を中間周波数に変換した後の周波数、2回目以降の位置算出の場合は、前回決定した最新の捕捉周波数263とすることができる。
【0090】
次いで、CPU23は、記憶部25の第1種周波数選択パターンデータ253に記憶されている第1種周波数選択パターンに従って、サーチ周波数を選択する(ステップC5)。そして、CPU23は、各サーチ周波数それぞれについて第1種相関積算時間2613で相関演算を実行し、得られた相関値を周波数と対応付けて第1種相関値データ2615に記憶させる(ステップC7)。そして、CPU23は、第1種相関演算処理を終了する。
【0091】
図10の捕捉周波数決定処理に戻って、第1種相関演算処理を行った後、CPU23は、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する(ステップB5)。そして、CPU23は、記憶部25に記憶されている第2種相関演算処理プログラム2513を読み出して実行することで、第2種相関演算処理を行う(ステップB7)。
【0092】
図12は、第2種相関演算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、第2種相関積算時間2614を設定し、相関データベース261の当該捕捉対象衛星の相関データに記憶させる(ステップD1)。第2種相関積算時間2614も、第1種相関積算時間2613と同様に、例えばステップB1で計測した受信信号の信号強度2612や電界強度に基づいて設定してもよいし、当該捕捉対象衛星の仰角に基づいて設定してもよい。
【0093】
次いで、CPU23は、ステップB5で判定した第1種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数をサーチ中心周波数として設定する(ステップD3)。そして、CPU23は、第1種相関積算時間2613を用いて、式(1)に従ってメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する(ステップD5)。
【0094】
その後、CPU23は、サーチ中心周波数にメイン/サイド周波数差「Δf」を加減算した周波数をサイドローブチェック用周波数として設定する(ステップD7)。そして、CPU23は、受信信号の信号強度2612に基づいて現在の電界環境を判定し(ステップD9)、電界環境が第2電界環境であると判定した場合は(ステップD9;第2電界環境)、第1種相関演算処理においてサイドローブチェック用周波数について相関演算を実行済みであるか否かを判定する(ステップD11)。
【0095】
ステップD9において電界環境が第1電界環境であると判定した場合(ステップD9;第1電界環境)、又は、ステップD11においてサイドローブチェック用周波数について相関演算を既に実行済みであると判定した場合は(ステップD11;Yes)、CPU23は、記憶部25に記憶されている第1電界周波数探索プログラム2514を読み出して実行することで、第1電界周波数探索処理を行う(ステップD13)。
【0096】
具体的には、サーチ中心周波数をずらしながら、第2種周波数選択パターンデータ255に記憶されている第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返す主探索処理を行う。この際、第2種相関積算時間2614で相関演算を実行し、得られた相関値を周波数と対応付けて第2相関値データ2616に記憶させる。そして、主探索処理により相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を判定して、捕捉周波数に決定する。
【0097】
一方、ステップD11においてサイドローブチェック用周波数について相関演算が未実行であると判定した場合は(ステップD11;No)、CPU23は、記憶部25に記憶されている第2電界周波数探索プログラム2515を読み出して実行することで、第2電界周波数探索処理を行う(ステップD15)。
【0098】
図13は、第2電界周波数探索処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、メイン/サイド判定処理を行う(ステップE1)。そして、CPU23は、移行段階の処理を実行するか否かを判定する(ステップE3)。具体的には、メイン/サイド判定処理において、相関値が最大となった周波数がサイドローブチェック用周波数であるか否かを判定し、サイドローブチェック用周波数であると判定した場合は(ステップE3;Yes)、移行段階処理を行う(ステップE5)。
【0099】
一方、相関値が最大となった周波数がサイドローブチェック用周波数ではないと判定した場合(ステップE3;No)、又は、ステップE5において移行段階処理を行った後、CPU23は、主探索処理を行う(ステップE7)。具体的には、メイン/サイド判定処理又は移行段階処理で相関値が最大となったサーチ周波数を主探索処理の基準とするサーチ中心周波数として設定する。そして、第1電界周波数探索処理と同様に、サーチ中心周波数をずらしながら、第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理の実行とを繰り返す。
【0100】
その後、CPU23は、主探索処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して、捕捉周波数に決定する(ステップE9)。そして、CPU23は、第2電界周波数探索処理を終了する。
【0101】
図12の第2種相関演算処理に戻って、第1電界周波数探索処理又は第2電界周波数探索処理を終了した後、CPU23は、第2種相関演算処理を終了する。図10の捕捉周波数決定処理に戻って、第2種相関演算処理を行った後、CPU23は、捕捉周波数決定処理を終了する。
【0102】
図9のベースバンド処理に戻って、捕捉周波数決定処理を行った後、CPU23は、衛星捕捉部21に、決定した捕捉周波数で当該捕捉対象衛星からのGPS衛星信号の捕捉を試行させる(ステップA7)。そして、CPU23は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0103】
本実施形態では詳細な説明を省略しているが、GPS衛星信号の捕捉では、捕捉周波数を用いて受信信号とレプリカコードとの位相方向の相関演算が行われ、相関値が最大となった位相がコード位相として検出される。コード位相は、擬似距離の算出等に用いられる。
【0104】
全ての捕捉対象衛星についてステップA5及びA7の処理を行った後、CPU23は、ループAの処理を終了する(ステップA9)。その後、CPU23は、捕捉されたGPS衛星信号に含まれる航法メッセージに基づいて、捕捉衛星の衛星位置、衛星移動速度、衛星移動方向等の衛星情報を算出する(ステップA11)。
【0105】
そして、CPU23は、ステップA11で算出した衛星情報に基づいて、例えば擬似距離を利用した位置算出計算を行って位置を算出するGPS位置算出処理を行い、算出した位置をGPS算出位置265として記憶部25に記憶させる(ステップA13)。尚、位置算出計算の詳細については従来公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0106】
次いで、CPU23は、GPS算出位置265をホストCPU30に出力する(ステップA15)。そして、CPU23は、位置算出を終了するか否かを判定し(ステップA17)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA17;No)、ステップA1に戻る。また、位置算出を終了すると判定した場合は(ステップA17;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0107】
5.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星信号の受信信号に対して概略的な周波数探索処理(第1次周波数探索処理)である第1種相関演算処理を実行する。そして、第1種相関演算処理で用いる相関積算時間である第1種相関積算時間に基づいてメインローブとサイドローブ間の周波数を算出し、当該周波数と、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数とを用いて、サイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数と、サイドローブチェック用周波数とを含めて複数のサーチ周波数を選択し、選択した各サーチ周波数で第2種相関演算処理を行う。そして、第2種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して捕捉周波数に決定する。
【0108】
第2種相関演算処理では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった周波数をサーチ中心周波数とし、予め定められた周波数選択パターンに従って、サイドローブチェック用周波数を含むサーチ周波数を選択する。そして、各サーチ周波数で相関演算処理を行い、相関値が最大となったサーチ周波数がサイドローブ用周波数であれば、当該サイドローブ用周波数でサーチ中心周波数を更新する。そして、周波数選択パターンに従ってサイドローブチェック用周波数を含むサーチ周波数を再度選択し、各サーチ周波数で相関演算処理を実行する。相関値が最大となるサーチ周波数がサイドローブチェック用周波数でなくなるまでの間、この一連の処理を繰り返す(第2次周波数探索処理)。そして、サイドローブチェック用周波数以外の周波数において相関値が最大となった場合に、サイドローブチェックを終了して、GPS衛星信号の捕捉周波数とする周波数の主探索処理(第3次周波数探索処理)へと移行する。
【0109】
最初に概略的な周波数探索処理である第1種相関演算処理を実行し、その結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて第2種相関演算処理を実行することで、捕捉周波数を正確に求めることができる。この場合において、第1種相関演算処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定し、サーチ周波数にサイドローブチェック用周波数を含めて第2種相関演算処理を実行することで、サイドローブ部分の周波数が誤って検出されることを防止できる。
【0110】
本実施形態では、第2種相関演算処理において、サーチ周波数の選択と相関演算処理とを繰り返し実行して、段階的に周波数の絞り込みを行うようにしている。最終的に行う主探索段階では、詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返すようにしている。このような処理を行うことで、捕捉周波数を非常に高い精度で求めることができる。
【0111】
6.変形例
6−1.適用システム
上述した実施形態では、CDMA信号の一例としてGPS衛星信号を例に挙げ、GPS衛星信号を受信するGPS受信装置における捕捉周波数の決定方法について説明したが、GPS衛星信号以外の信号を受信する受信装置についても、本発明を同様に適用可能である。すなわち、CDMA方式で拡散変調された信号を受信する受信装置であって、拡散符号レプリカを用いた相関演算を行ってCDMA信号を捕捉するように構成された受信装置であればよい。
【0112】
6−2.電子機器
また、上述した実施形態では、電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0113】
6−3.衛星位置算出システム
上述した実施形態では、衛星位置算出システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星位置算出システムであってもよい。
【0114】
6−4.周波数選択パターン
上述した実施形態では、第2種相関演算処理において、メイン/サイド判定段階と、移行段階と、主探索段階とにおいて、同一の周波数選択パターンを適用してサーチ周波数を選択するものとして説明したが、各段階で周波数選択パターンを変えてサーチ周波数を選択することとしてもよい。
【0115】
図14は、この変形例における第2種周波数選択パターンを定めたデータである第2種周波数選択パターンデータ257のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ257では、メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と処理段階が進んでいくにつれて、周波数選択パターンに定められた隣り合う周波数の周波数間隔が狭くなっている。これは、処理段階が進むにつれて、周波数サーチをより正確に行うためである。
【0116】
また、上述した実施形態では、第2種相関演算処理では、7個の周波数がサーチ周波数として選択されるようなパターンが定められているものとして説明したが、選択される周波数の個数も適宜設定変更可能である。メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と進むにつれて、周波数のサーチをより精細に行うことが必要であると考えられるため、処理段階が進むにつれて、より多くの周波数がサーチ周波数として選択されるように周波数選択パターンを定めておくことが好適である。
【0117】
図15は、この変形例における第2種周波数選択パターンを定めたデータである第2種周波数選択パターンデータ259のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ259では、メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と処理段階が進むにつれてサーチ周波数として選択される周波数の数が多くなるように、周波数選択パターンが定められている。
【0118】
尚、図14及び図15で説明した周波数選択パターンを組み合わせて、処理段階が進むにつれて、隣り合うサーチ周波数の周波数間隔が狭くなり、選択されるサーチ周波数の個数が増加するようなパターンを定めておいてもよい。この場合は、処理段階が進むにつれて分解能を上げて周波数サーチを行うことが可能となるため、周波数サーチの正確性をより一層向上させることができる。
【0119】
6−5.メイン/サイド周波数差
上述した実施形態では、式(1)に従ってメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する場合を例に挙げて説明したが、メインローブとサイドローブ間の周波数を近似することができる式であれば、その他の近似式を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出してもよい。
【0120】
また、近似式を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出するのではなく、相関積算時間「t」とメイン/サイド周波数差「Δf」との対応関係を定めたテーブルを予め定めておき、当該テーブルからメイン/サイド周波数差「Δf」を読み出して、サイドローブチェック用周波数を設定してもよい。
【0121】
6−6.サイドローブチェック
サイドローブチェックを行うか否かを手動で設定することとしてもよい。具体的には、例えばサイドローブチェック用のフラグを用意しておき、初期設定においてユーザーによりサイドローブチェックの実行指示操作がなされた場合は、フラグをONに設定する。そして、第2種相関演算処理において、フラグがONに設定されている場合は、サイドローブチェックを行い、OFFに設定されている場合は、サイドローブチェックを行わない。
【符号の説明】
【0122】
1 携帯型電話機、 10 GPS受信部、 11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 衛星捕捉部、 23 CPU、 25 記憶部、 30 ホストCPU、 40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、 70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕捉周波数決定方法及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵されたGPS受信装置に利用されている。GPS受信装置は、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から受信装置までの擬似距離等の情報に基づいて受信装置の位置を示す3次元の座標値と時計誤差とを求める位置算出処理を行う。
【0003】
GPS衛星信号は、スペクトラム拡散変調方式として古くから知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式で拡散変調された通信信号の一種である。GPS衛星がGPS衛星信号を発信する際の周波数(搬送波周波数)は、1.57542[GHz]であるが、GPS衛星や受信装置の移動により生ずるドップラーの影響等に起因して、GPS受信装置が実際に受信する周波数は、必ずしも搬送波周波数とは一致しない。そのため、GPS受信装置は、受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉するための周波数サーチを行って、捕捉周波数を決定する。
【0004】
捕捉周波数は、受信信号と、GPS衛星信号の拡散符号を模擬した拡散符号レプリカの信号との相関演算を、周波数を変化させながら行って(いわゆる周波数方向の相関演算)決定する手法が一般的である。例えば特許文献1には、相関演算を所定の積算時間に亘って行った場合の周波数変化に基づいて、捕捉周波数をサーチする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許2007/0109189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、積算時間が固定の場合に特化した技術である。しかし、実際には積算時間は変化し得る。例えば、受信装置の受信環境(例えば屋外環境と屋内環境)や受信信号の信号強度等に応じて積算時間は可変に制御され得る。また、相関演算結果には、メインローブに相当する部分(相関演算結果が最大となるピーク)と、サイドローブに相当する部分(相関演算結果の最大のピークではないピーク)とが存在する。サイドローブに相当する部分のピークは正しいピークではない。このため、相関演算結果のうち、メインローブに相当する部分を素早く割り出して、正しいピークをサーチすることが、現在位置の算出時間の短縮と、正確な位置算出につながる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、捕捉周波数を正確且つ効率的に求めるための新たな手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための第1の形態は、CDMA(Code Division Multiple Access)信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数を変化させて行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定方法であって、第1次周波数探索処理を実行することと、前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定することと、前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択することと、前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行することと、前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定することと、を含む捕捉周波数決定方法である。
【0009】
また、他の形態として、CDMA信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数方向に行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定して前記CDMA信号を捕捉する受信装置であって、第1次周波数探索処理を実行する第1次サーチ実行部と、前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定する設定部と、前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する第2次サーチ周波数選択部と、前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行する第2次周波数サーチ実行部と、前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定部と、を備えた受信装置を構成してもよい。
【0010】
この第1の形態等によれば、CDMA信号の受信信号に対して第1次周波数探索処理を実行する。そして、当該第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定し、当該第1次周波数探索処理の結果をもとに、サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する。そして、複数のサーチ周波数それぞれにおいて相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行し、当該第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する。
【0011】
最初に第1次周波数探索処理として概略的な周波数サーチを実行し、その結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて第2次周波数探索処理を実行する。そして、さらに、第2次周波数探索処理の結果を用いて、第3次周波数探索処理として詳細な周波数サーチを実行するといった段階的な周波数の絞り込みにより、捕捉周波数を正確且つ効率的に求めることができる。また、第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用の周波数を設定し、サーチ周波数にサイドローブチェック用周波数を含めて第2次周波数探索処理を実行することで、サイドローブ部分の周波数が捕捉周波数であると誤って検出されることを防止できる。
【0012】
また、第2の形態として、第1の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記サイドローブチェック用周波数を設定することは、前記相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に前記相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いて前記サイドローブチェック用周波数を設定することを含み、前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて周波数探索処理を実行することを含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0013】
この第2の形態によれば、相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いてサイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて第3次周波数探索処理を実行する。メインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いてサイドローブチェック用周波数を設定することで、サイドローブチェックを適切且つ簡単に行うことができる。
【0014】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数が前記サイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、前記第2次周波数探索処理を再度実行すること、を更に含む捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0015】
この第3の形態によれば、第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数がサイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、第2次周波数探索処理を再度実行する。第2次周波数探索処理の結果、最大の相関値の周波数がサイドローブチェック用周波数であれば、当該第2次周波数探索処理においてはメインローブの周波数が検出されなかったことを意味するため、当該サイドローブチェック用周波数を用いて新たにサーチ周波数を選択して、第2次周波数探索処理をやり直すことが適切である。
【0016】
また、第4の形態として、第3の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい周波数に設定することを含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0017】
また、第4の形態とは逆の第5の形態として、第3の形態の捕捉周波数決定方法であって、前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい周波数に設定することを含む、捕捉周波数決定方法を構成することも可能である。
【0018】
この第4又は第5の形態によれば、既に実行した第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数に対して、第1次周波数探索処理のサーチ周波数範囲とは反対側に、新たなサイドローブチェック用周波数を設定するようにする。これにより、効率的にサイドローブチェック用周波数を設定できる。
【0019】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態の捕捉周波数決定方法であって、前記受信信号の信号強度に基づいて、前記第2次周波数探索処理において前記サイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定することを更に含み、前記第2次周波数探索処理を実行することは、前記判定が使用するとの判定結果であった場合に、前記サイドローブチェック用周波数を含めて前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行い、前記判定が使用しないとの判定結果であった場合には、前記サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において前記相関演算処理を行うことである、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0020】
この第6の形態によれば、受信信号の信号強度に基づいて、第2次周波数探索処理においてサイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定する。そして、判定が使用するとの判定結果であった場合に、サイドローブチェック用周波数を含めて複数のサーチ周波数それぞれにおいて相関演算処理を行い、判定が使用しないとの判定結果であった場合には、サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において相関演算処理を行う。
【0021】
例えば、受信したCDMA信号が微弱な信号となる電界環境では、相関演算により求められる相関値にメインローブとサイドローブとの差が明確に現れにくい場合がある。この場合は、サイドローブチェック用周波数を用いたサイドローブチェックを正確に行うことができない。そのため、受信信号の信号強度に基づいてサイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定し、その判定結果に応じてサーチ周波数を変えて相関演算処理を行うことが効率的である。
【0022】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の捕捉周波数決定方法であって、前記複数のサーチ周波数を選択することは、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数を選択することに用いるサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、前記サイドローブチェック用周波数とを前記第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択することを含み、前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を前記基準周波数として前記サーチ周波数選択パターンを用いて前記第3次周波数探索処理における詳細サーチ用周波数を選択することと、前記詳細サーチ用周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う詳細周波数探索処理を実行することと、前記詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな前記基準周波数として、前記詳細サーチ用周波数の選択と前記詳細周波数探索処理の実行とを繰り返すことと、を含む、捕捉周波数決定方法を構成してもよい。
【0023】
この第7の形態によれば、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、サイドローブチェック用周波数とを第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択する。そして、第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を基準周波数としてサーチ周波数選択パターンを用いて詳細サーチ用周波数を選択し、当該詳細サーチ用周波数それぞれにおいて詳細周波数探索処理を実行する。そして、詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな基準周波数として、詳細サーチ用周波数の選択と詳細周波数探索処理の実行とを繰り返す。詳細サーチ用周波数の選択と詳細周波数探索処理の実行とを繰り返しながら周波数の絞り込みを行うことで、周波数サーチの正確性及び効率性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】相関値の周波数変化の一例を示す図。
【図2】第1電界環境における捕捉周波数決定の原理の説明図。
【図3】第2電界環境における捕捉周波数決定の原理の説明図。
【図4】第1種周波数選択パターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図5】第2種周波数選択パターンデータのデータ構成の一例を示す図。
【図6】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図7】ベースバンド処理回路部の回路構成を示す図。
【図8】相関データベースのデータ構成の一例を示す図。
【図9】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図10】捕捉周波数決定処理の流れを示すフローチャート。
【図11】第1種相関演算処理の流れを示すフローチャート。
【図12】第2種相関演算処理の流れを示すフローチャート。
【図13】第2電界周波数探索処理の流れを示すフローチャート。
【図14】変形例における第2種周波数選択パターンデータのデータ構成例を示す図。
【図15】変形例における第2種周波数選択パターンデータのデータ構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。以下では、GPS(Global Positioning System)衛星から発信されているGPS衛星信号を受信するGPS受信装置に本発明を適用した場合について説明する。尚、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0026】
1.原理
先ず、本実施形態における捕捉周波数決定の原理について説明する。
GPS衛星は、測位用衛星の一種であり、6つの地球周回軌道面それぞれに4機以上ずつ配置され、原則、地球上のどこからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている。
【0027】
GPS衛星は、アルマナックやエフェメリス等の航法メッセージをGPS衛星信号に含めて発信している。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、衛星毎に異なる。
【0028】
GPS受信装置は、受信信号に含まれるPRNコードとレプリカコードとの相関を、例えばFFT(Fast Fourier transform)演算を用いて算出し積算する相関演算処理を行って、GPS衛星信号の位相及び周波数を特定(捕捉)する。GPS受信装置は、この相関演算を、位相方向と周波数方向とのそれぞれについて行う。
【0029】
相関演算処理では、相関値を所与の時間に亘って積算することで、相関値のピークを顕出し易くする手法が用いられる。特に、屋内環境(インドア環境)など、受信したGPS衛星信号が弱電界の信号となる環境では、相関値にはっきりとした差が現れず、相関値のピークの検出が容易ではない場合があるためである。本実施形態では、相関演算処理において相関値を積算する時間のことを「相関積算時間」と称する。
【0030】
相関演算処理では、レプリカコードの発生信号の周波数と受信信号の周波数とが一致した場合に相関値が最大となる。より具体的には、レプリカコードの発生信号の周波数と、相関演算で求められた相関値との関係をグラフにプロットすると、ある周波数において相関値が最大となり、当該周波数から離れるにつれて相関値が減衰する特性が見られる。この相関値の周波数変化は、理想的には、「sinc関数」(正弦関数を正弦関数の変数で割った関数)を用いて近似可能であることが知られている。
【0031】
図1は、相関演算処理の処理結果の一例を示す図である。ここでは、相関積算時間を「10ミリ秒」と「20ミリ秒」として相関演算処理を行った場合の相関値の周波数変化を示している。図1において、横軸は受信信号の周波数の真値とレプリカコードの発生信号の周波数との差(周波数誤差)であり、縦軸は相関値を示している。
【0032】
この図を見ると、相関値の周波数変化は「sinc関数」の形状で近似可能であることがわかる。相関積算時間が何れの場合も、周波数誤差が「0」の場合に相関値が最大となるメインローブが形成される。また、周波数誤差が「0」から離れるにつれて相関値は減衰するが、ある周波数において再び相関値が増加するサイドローブが形成される。サイドローブが複数存在し得るが、本実施形態では、メインローブに再近接するサイドローブを「第1次サイドローブ」と称する。メインローブの左右対称にサイドローブが表れるため、メインローブの左右両隣のサイドローブが第1次サイドローブである。
【0033】
メインローブの中心周波数と第1次サイドローブの中心周波数との周波数差(以下、「メイン/サイド周波数差」と称す。)は、相関積算時間によって異なる。図1では、相関積算時間が10ミリ秒の場合は、メイン/サイド周波数差がおよそ150[Hz]であり、相関積算時間が20ミリ秒の場合は、メイン/サイド周波数差がおよそ75[Hz]である。
【0034】
図1では図示を省略しているが、本願発明者は、他の相関積算時間についても同様に相関値の周波数変化を調べる実験を行った。そして、これらの実験結果に基づいて、本実施形態では、メイン/サイド周波数差「Δf」を、次式(1)で近似することとした。
Δf[Hz]=1000[msec]/t[msec]×1.5 ・・・(1)
但し、「t」は相関積算時間である。
【0035】
本実施形態では、式(1)に従って算出されるメイン/サイド周波数差「Δf」を用いて、周波数の効率的な絞り込みを行うことが、大きな特徴の1つとなっている。具体的には、GPS受信装置の受信環境に応じて、それぞれ異なる手法で周波数の絞り込みを行って捕捉周波数を決定する。
【0036】
本実施形態では、受信環境として信号強度に応じた2つの電界環境を想定する。具体的には、第1電界環境と第2電界環境との2つの電界環境である。ここでは、受信したGPS衛星信号が弱電界の信号となるような環境を第1電界環境とし、第1電界環境と比べて強い信号を受信可能な環境を第2電界環境とする。
【0037】
また、本実施形態では、相関演算処理として第1種相関演算処理と第2種相関演算処理とを行う。それぞれの相関演算処理では、相関値の積算時間を個別に設定して相関演算を行う。以下では、第1種相関演算処理における相関積算時間を「第1種相関積算時間」として説明し、第2種相関演算処理における相関積算時間を「第2種相関積算時間」として説明する。
【0038】
相関積算時間は、例えば受信信号の信号強度や捕捉しようとしているGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)の仰角といった情報に基づいて設定することができる。例えば、受信信号の信号強度が小さい場合は、長時間に亘って相関値を積算するほど、相関値のピークの判別が容易になるため、相関積算時間を長く設定すべきである。他方、受信信号の信号強度が大きい場合は、相関積算時間を短くしても、相関値のピークの判別が容易であるため、相関積算時間を短く設定してもよい。これらのことから、受信信号の信号強度が小さいほど、相関積算時間を長く設定することが適切である。
【0039】
また、捕捉対象衛星の仰角が大きい場合は、受信信号が強信号である場合が多く、捕捉対象衛星の仰角が小さい場合は、強信号ではない場合が多い。そこで、捕捉対象衛星の仰角が小さいほど、相関積算時間を長く設定することが適切である。
【0040】
(1)第1電界環境における捕捉周波数の決定
図2は、第1電界環境における捕捉周波数決定の原理を説明するための図である。ここでは、第1種及び第2種相関積算時間を「10ミリ秒」として相関演算処理を行う場合を一例として説明する。図2の最上段のグラフは、ある受信信号に対する相関演算を行った場合の周波数方向の相関値の変化の例を示す。横軸の周波数はサーチ周波数を示している。相関値の変化のグラフを事前に図示・説明しているが、捕捉周波数の決定に当たっては、未だ、相関値を算出していない状態である。
【0041】
尚、決定した捕捉周波数を用いて実際に衛星信号を捕捉する場合に用いる周波数は、搬送波(キャリア)周波数をダウンコンバートして中間周波に変換した周波数(以下、「中間周波数」と称す。)に当該捕捉周波数を加えた周波数である。中間周波数は一定であり、都度考慮する必要が無いため、本実施形態では、周波数探索処理としての第1種及び第2種相関演算処理において用いる周波数(サーチ中心周波数、サーチ周波数、捕捉周波数)を中間周波数との周波数誤差(中間周波数との周波数差)で定義している。もちろん、周波数探索処理において用いる周波数を、中間周波数を加味した周波数で定義し、実際に衛星信号を捕捉する場合にもその周波数を用いるようにしてもよい。
【0042】
その状態において、先ず、周波数探索処理の基準とする周波数(以下、「サーチ中心周波数」と称す。)を初期設定する。例えば、GPS衛星信号の搬送波周波数に対する、捕捉対象のGPS衛星の軌跡情報や移動速度から求まるドップラー周波数としてもよい。ここでは、サーチ中心周波数を150[Hz]としている。次いで、サーチ中心周波数と、予め定められた第1種周波数選択パターンとを用いて、第1種相関演算処理に用いるサーチ周波数を選択する。
【0043】
図4は、第1種周波数選択パターンデータ253のデータ構成の一例を示す図である。第1種周波数選択パターンデータ253は、第1種相関積算時間毎に周波数選択パターンが定められている。周波数選択パターンは、例えば、サーチ中心周波数を中心として、左右対称なパターンとして定められる。
【0044】
例えば、図4では、第1種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、パターン中心周波数「fp」を中心として、{fp−100[Hz],fp−50[Hz],fp[Hz],fp+50[Hz],fp+100[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。また、第1種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−50[Hz],fp−25[Hz],fp[Hz],fp+25[Hz],fp+50[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。
【0045】
周波数選択パターンは、相関積算時間が長くなるほどサーチ周波数の間隔が狭くなるように定められている。これは、相関積算時間を長くするほど、相関値の周波数方向の変化(各周波数における相関値の差)が顕著となり、周波数サーチが容易になるためである。すなわち、相関積算時間を長くするほど、相関値のピークを判別し易くなり、周波数サーチの分解能を上げて精細に行うことが可能となるため、周波数のサーチ幅を狭くしてサーチを行うことにしたものである。
【0046】
図2の説明に戻って、図4の第1種周波数選択パターンデータ253で定められた周波数選択パターンをサーチ中心周波数の初期値に適用して、サーチ周波数を選択する。図2では、サーチ中心周波数の初期値を150[Hz]とし、第1種相関積算時間を「10ミリ秒」としているため、{50[Hz],100[Hz],150[Hz],200[Hz],250[Hz]}の5個の周波数をサーチ周波数として選択する。
【0047】
サーチ周波数を選択したら、選択したサーチ周波数それぞれについて、第1種相関演算処理を行う。具体的には、上述した5個のサーチ周波数それぞれについて、受信信号とレプリカコードの発生信号との相関演算を行い、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する。図2の例では、サーチ周波数150[Hz]において相関値が最大となる。そして、相関値が最大となったサーチ周波数をサーチ中心周波数として設定して、第2種相関演算処理を行う。
【0048】
第2種相関演算処理では、サーチ中心周波数を少しずつずらしながら、周波数の詳細サーチを行う。この詳細サーチを行う段階は、捕捉周波数を決定するための「主探索段階」とも言える。主探索段階は、サーチ中心周波数をずらしながら、予め定められた第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返す段階である。
【0049】
図5は、第2種周波数選択パターンデータ255のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ255は、第1電界環境と第2電界環境とのそれぞれについて、第2種相関積算時間毎に周波数選択パターンが定められたデータである。図4の第1種周波数選択パターンデータ253と同様に、サーチ中心周波数を中心とする左右対称なパターンが定められている。
【0050】
第1電界環境では、第2種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、{fp−50[Hz],fp−10[Hz],fp[Hz],fp+10[Hz],fp+50[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。また、第2種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−25[Hz],fp−5[Hz],fp[Hz],fp+5[Hz],fp+25[Hz]}の5個の周波数のパターンが定められている。
【0051】
主探索段階では、上述した第2種周波数選択パターンに従って、サーチ中心周波数を中心とする詳細サーチ用周波数を選択し、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行う。そして、相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たなサーチ中心周波数として、詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理の実行とを繰り返し、最終的に相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を捕捉周波数に決定する。
【0052】
例えば図2では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった150[Hz]をサーチ中心周波数に設定し、第2種周波数選択パターンを適用して、{100[Hz],140[Hz],150[Hz],160[Hz],200[Hz]}の5個の周波数を詳細サーチ用周波数として選択する。そして、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行って相関値を算出する。
【0053】
その結果、例えば160[Hz]において相関値が最大になったとすると、サーチ中心周波数を10[Hz]シフトさせて160[Hz]に設定し、再び第2種周波数選択パターンを適用して、{110[Hz],150[Hz],160[Hz],170[Hz],210[Hz]}の5個の周波数を詳細サーチ用周波数として選択する。そして、各詳細サーチ用周波数それぞれにおいて相関演算処理を行って相関値を算出する。以下同様に詳細サーチ用周波数の選択及び相関演算処理を繰り返し、最終的に相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を捕捉周波数に決定する。
【0054】
(2)第2電界環境における捕捉周波数の決定
図3は、第2電界環境における捕捉周波数決定の原理を説明するための図である。図2と同様に、第1種及び第2種相関積算時間を「10ミリ秒」として相関演算処理を行う場合を例に挙げて説明する。図3の最上段のグラフは、図2と同様に、ある受信信号に対する相関演算を行った場合の周波数方向の相関値の変化の例である。
【0055】
第1種相関演算処理を終了するまでの流れは図2と同様である。すなわち、選択した5個のサーチ周波数それぞれについて、受信信号とレプリカコードの発生信号との相関演算を行う。第1種相関演算処理は、概略的な周波数サーチを行う処理段階であり、第1次周波数探索処理に相当するものである。
【0056】
その後、第1種相関演算処理において相関値が最大となったサーチ周波数を判定し、当該サーチ周波数をサーチ中心周波数に設定する。そして、設定したサーチ中心周波数と、第2種周波数選択パターンとに従って、第2種相関演算処理で最初に用いるサーチ周波数を選択する。
【0057】
図5の第2種周波数選択パターンデータ255を見ると、第2電界環境では、第2種相関積算時間「10ミリ秒」に対しては、{fp−Δf[Hz],fp−50[Hz],fp−10[Hz],fp[Hz],fp+10[Hz],fp+50[Hz],fp+Δf[Hz]}の7個の周波数のパターンが定められている。また、第2種相関積算時間「20ミリ秒」に対しては、{fp−Δf[Hz],fp−25[Hz],fp−5[Hz],fp[Hz],fp+5[Hz],fp+25[Hz],fp+Δf[Hz]}の7個の周波数のパターンが定められている。
【0058】
ここで、「Δf」は、式(1)に従って算出されるメイン/サイド周波数差である。サーチ中心周波数を中心として、メイン/サイド周波数差「Δf」だけ離れた周波数がサーチ周波数として選択されるように周波数選択パターンが定められている。以下の説明では、サーチ中心周波数にメイン/サイド周波数差を加減算した周波数を「サイドローブチェック用周波数」と称する。本実施形態では、このサイドローブチェック用周波数を用いて、現在設定されているサーチ中心周波数がサイドローブ部分の周波数であるか否かのチェック(以下、「サイドローブチェック」と称す。)を行う点が特徴の1つである。
【0059】
式(1)によれば、メイン/サイド周波数差「Δf」は、相関積算時間「t」を用いて算出される。本実施形態では、相関積算時間として第1種相関積算時間と第2種相関積算時間とがあるが、この2種類の相関積算時間のうち、第1種相関積算時間を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する。その理由は、第2種相関演算処理では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった周波数を基準周波数(サーチ中心周波数)として詳細な周波数サーチを行うため、第1種相関演算処理で用いた相関積算時間に基づいてサイドローブチェック用周波数を設定することにしなければ、サイドローブチェックを適切に行うことができないためである。
【0060】
図3では、第1種相関積算時間を「10ミリ秒」としているため、式(1)から、メイン/サイド周波数差Δfは150[Hz]と算出される。この場合、基準周波数であるサーチ中心周波数150[Hz]に対して第2種周波数選択パターンを適用すると、{0[Hz],100[Hz],140[Hz],150[Hz],160[Hz],200[Hz],300[Hz]}の7個の周波数がサーチ周波数として選択される。この場合は、サーチ中心周波数150[Hz]に、メイン/サイド周波数差Δf=150[Hz]を加減算した周波数である0[Hz]と300[Hz]とをサイドローブチェック用周波数とする。
【0061】
次いで、この7個のサーチ周波数で相関演算処理を行い、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する。そして、最大となったサーチ周波数がサイドローブチェック用周波数であれば、サーチ中心周波数はサイドローブ部分の周波数であると判断し、サイドローブチェックを継続する。この場合は、相関値が最大となったサイドローブチェック用周波数でサーチ中心周波数を更新して、サーチ周波数を再度選択する。この処理段階のことを、本実施形態では「メイン/サイド判定段階」と称する。
【0062】
図3において、メイン/サイド判定段階では、相関演算処理により相関値が最大となったサーチ周波数は、サイドローブチェック用周波数である300[Hz]である。従って、相関値が最大となったサイドローブチェック用周波数である300[Hz]でサーチ中心周波数を更新し、第2種周波数選択パターンを再び適用して、サーチ周波数を新たに選択する。
【0063】
新たなサーチ中心周波数300[Hz]に対して第2種周波数選択パターンを適用すると、{150[Hz],250[Hz],290[Hz],300[Hz],310[Hz],350[Hz],450[Hz]}の7個の周波数がサーチ周波数として選択される。この場合は、サーチ中心周波数300[Hz]に、メイン/サイド周波数差Δf=150[Hz]を加減算した周波数である150[Hz]と450[Hz]とをサイドローブチェック用周波数とする。
【0064】
尚、上述した7個のサーチ周波数それぞれについて相関演算を行ってもよいが、計算量を減らして処理負荷を軽減するために、サーチ中心周波数から見て左右の一方のサイドローブチェック用周波数については、相関演算を省略することができる。具体的に、図3の場合には、サーチ中心周波数から見て左方向の周波数(サーチ中心周波数よりも小さな周波数)については、第1相関演算処理と、第2相関演算処理のメイン/サイド判定段階とで既に計算済みであり、当該方向にはメインローブが存在しないことが確認されている。従って、サーチ中心周波数から見て右方向のサーチ周波数(サーチ中心周波数よりも大きな周波数)についてのみ計算を行うことが好適である。
【0065】
また当然に、図3の場合とは逆の場合、すなわち、第1相関演算処理と、第2相関演算処理のメイン/サイド判定段階とでサーチ中心周波数から見て右方向の周波数(サーチ中心周波数よりも大きな周波数)について計算済みである場合には、サーチ中心周波数から見て左方向のサーチ周波数(サーチ中心周波数よりも小さな周波数)についてのみ計算を行うこととしてもよい。
【0066】
各サーチ周波数について相関演算処理を行うと、サーチ周波数350[Hz]において最大の相関値が得られる。この350[Hz]は、サイドローブチェック用周波数ではない。すなわち、メインローブ部分の周波数であるため、ここでサイドローブチェックを終了する。この処理段階は、サーチ中心周波数がサイドローブ部分の周波数からメインローブ部分の周波数へと移行する段階である。本実施形態では、この処理段階のことを「移行段階」と称する。「メイン/サイド判定段階」及び「移行段階」は、第1次周波数探索処理としての第1種相関演算処理の結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて相関演算を行う処理段階であり、第2次周波数探索処理に相当するものである。
【0067】
移行段階の処理を終了すると、相関値が最大となったサーチ周波数である350[Hz]でサーチ中心周波数を更新する。そして、更新したサーチ中心周波数を用いて「主探索段階」へと移行する。主探索段階における処理の流れは、図2で説明した第1電界環境の主探索段階における処理の流れと同一である。すなわち、サーチ中心周波数350[Hz]を基準として、詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理とを繰り返しながら、捕捉周波数を決定する。「主探索段階」は、第2次周波数探索処理としてのメイン/サイド判定段階及び移行段階の結果を用いて詳細な周波数サーチを行う処理段階であり、第3次周波数探索処理に相当するものである。
【0068】
2.機能構成
図6は、GPS受信装置を内蔵した電子機器の一例である携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ9と、GPS受信部10と、ホストCPU(Central Processing Unit)30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80とを備えて構成される。
【0069】
GPSアンテナ9は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部10に出力する。
【0070】
GPS受信部10は、GPSアンテナ9から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路であり、いわゆるGPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF(Radio Frequency)受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。尚、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0071】
RF受信回路部11は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ9から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0072】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力されたIF信号に対して相関演算処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出す回路部である。ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力される中間周波数帯の信号に対する周波数サーチを行って、GPS衛星信号の捕捉周波数を決定する。この場合において、搬送波の中間周波数からの周波数誤差(周波数差)を捕捉周波数として求めるように回路を設計してもよいし、搬送波の中間周波数に周波数誤差(周波数差)を加味した周波数を捕捉周波数として求めるように回路を設計してもよい。
【0073】
図7は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図である。ベースバンド処理回路部20は、衛星捕捉部21と、CPU23と、記憶部25とを備えて構成される。衛星捕捉部21は、RF受信回路部11から出力された受信信号(IF信号)からGPS衛星信号を捕捉する回路部であり、相関演算部211と、レプリカコード発生部213とを備えて構成されている。
【0074】
相関演算部211は、受信信号に含まれるPRNコードと、レプリカコード発生部213により発生されたレプリカコードとの相関を計算する相関演算処理を行って、GPS衛星信号を捕捉する。捕捉しようとするGPS衛星信号が正しければ、そのGPS衛星信号に含まれるPRNコードとレプリカコードとは一致し(捕捉成功)、間違っていれば一致しない(捕捉失敗)。そのため、算出された相関値のピークを判定することによってGPS衛星信号の捕捉が成功したか否かを判定でき、レプリカコードを次々に変更して、同じ受信信号との相関演算を行うことで、GPS衛星信号を捕捉することが可能となる。
【0075】
図6に戻る。ホストCPU30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。ホストCPU30は、ベースバンド処理回路部20から入力した位置情報を表示部50に表示させる処理を行ったり、位置情報を利用した各種のアプリケーション処理を行う。
【0076】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0077】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0078】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0079】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0080】
記憶部80は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、ホストCPU30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、位置算出機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、ホストCPU30により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0081】
3.データ構成
ベースバンド処理回路部20の記憶部25(図7参照)には、CPU23により読み出され、ベースバンド処理(図9参照)として実行されるベースバンド処理プログラム251と、第1種周波数選択パターンデータ253と、第2種周波数選択パターンデータ255とが記憶されている。ベースバンド処理プログラム251には、捕捉周波数決定プログラム2511と、第1種相関演算処理プログラム2512と、第2種相関演算処理プログラム2513と、第1電界周波数探索プログラム2514と、第2電界周波数探索プログラム2515とがサブルーチンとして含まれている。
【0082】
また、記憶部25には、随時更新されるデータとして、相関データベース261と、捕捉周波数263と、GPS算出位置265とが記憶される。
【0083】
図8は、相関データベース261のデータ構成の一例を示す図である。相関データベース261には、相関データが捕捉対象衛星別に蓄積的に記憶されている。各相関データには、当該捕捉対象衛星の番号2611と、当該捕捉対象衛星から受信した信号の計測された信号強度2612と、第1種相関積算時間2613と、第2種相関積算時間2614と、第1種相関値データ2615と、第2種相関値データ2616とが記憶される。第1種相関値データ2615には、第1種相関演算処理で得られた周波数別の相関値のデータが記憶され、第2種相関値データ2616には、第2種相関演算処理で得られた周波数別の相関値のデータが記憶される。
【0084】
4.処理の流れ
図9は、記憶部25に記憶されているベースバンド処理プログラム251がCPU23により読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。特に説明しないが、以下のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ9によるRF信号の受信や、RF受信回路部11によるRF信号のIF信号へのダウンコンバージョンが行われ、IF信号がベースバンド処理回路部20に随時出力される状態にあるものとする。
【0085】
先ず、CPU23は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップA1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、アルマナックやエフェメリス等の衛星軌道データを用いて判定して、捕捉対象衛星とする。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによって携帯型電話機1の基地局から取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、前回の位置算出で求めた最新のGPS算出位置265とする等の方法で設定できる。
【0086】
次いで、CPU23は、ステップA1で判定した各捕捉対象衛星について、ループAの処理を実行する(ステップA3〜A9)。ループAの処理では、CPU23は、記憶部25に記憶されている捕捉周波数決定プログラム2511を読み出して実行することで、捕捉周波数決定処理を行う(ステップA5)。
【0087】
図10は、捕捉周波数決定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、当該捕捉対象衛星からの受信信号の信号強度2612を計測し、当該捕捉対象衛星の番号2611と対応付けた相関データを、記憶部25の相関データベース261に記憶させる(ステップB1)。そして、CPU23は、記憶部25から第1種相関演算処理プログラム2512を読み出して実行することで、第1種相関演算処理を行う(ステップB3)。
【0088】
図11は、第1種相関演算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、第1種相関積算時間2613を設定し、相関データベース261の当該捕捉対象衛星の相関データに記憶させる(ステップC1)。第1種相関積算時間2613は、例えばステップB1で計測した受信信号の信号強度2612や電界強度に基づいて設定してもよいし、当該捕捉対象衛星の仰角に基づいて設定してもよい。
【0089】
次いで、CPU23は、サーチ中心周波数を設定する(ステップC3)。サーチ中心周波数は、電源投入後の初回の位置算出の場合は、例えばGPS衛星信号の搬送波周波数である1.57542[GHz]を中間周波数に変換した後の周波数、2回目以降の位置算出の場合は、前回決定した最新の捕捉周波数263とすることができる。
【0090】
次いで、CPU23は、記憶部25の第1種周波数選択パターンデータ253に記憶されている第1種周波数選択パターンに従って、サーチ周波数を選択する(ステップC5)。そして、CPU23は、各サーチ周波数それぞれについて第1種相関積算時間2613で相関演算を実行し、得られた相関値を周波数と対応付けて第1種相関値データ2615に記憶させる(ステップC7)。そして、CPU23は、第1種相関演算処理を終了する。
【0091】
図10の捕捉周波数決定処理に戻って、第1種相関演算処理を行った後、CPU23は、相関値が最大となったサーチ周波数を判定する(ステップB5)。そして、CPU23は、記憶部25に記憶されている第2種相関演算処理プログラム2513を読み出して実行することで、第2種相関演算処理を行う(ステップB7)。
【0092】
図12は、第2種相関演算処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、第2種相関積算時間2614を設定し、相関データベース261の当該捕捉対象衛星の相関データに記憶させる(ステップD1)。第2種相関積算時間2614も、第1種相関積算時間2613と同様に、例えばステップB1で計測した受信信号の信号強度2612や電界強度に基づいて設定してもよいし、当該捕捉対象衛星の仰角に基づいて設定してもよい。
【0093】
次いで、CPU23は、ステップB5で判定した第1種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数をサーチ中心周波数として設定する(ステップD3)。そして、CPU23は、第1種相関積算時間2613を用いて、式(1)に従ってメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する(ステップD5)。
【0094】
その後、CPU23は、サーチ中心周波数にメイン/サイド周波数差「Δf」を加減算した周波数をサイドローブチェック用周波数として設定する(ステップD7)。そして、CPU23は、受信信号の信号強度2612に基づいて現在の電界環境を判定し(ステップD9)、電界環境が第2電界環境であると判定した場合は(ステップD9;第2電界環境)、第1種相関演算処理においてサイドローブチェック用周波数について相関演算を実行済みであるか否かを判定する(ステップD11)。
【0095】
ステップD9において電界環境が第1電界環境であると判定した場合(ステップD9;第1電界環境)、又は、ステップD11においてサイドローブチェック用周波数について相関演算を既に実行済みであると判定した場合は(ステップD11;Yes)、CPU23は、記憶部25に記憶されている第1電界周波数探索プログラム2514を読み出して実行することで、第1電界周波数探索処理を行う(ステップD13)。
【0096】
具体的には、サーチ中心周波数をずらしながら、第2種周波数選択パターンデータ255に記憶されている第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返す主探索処理を行う。この際、第2種相関積算時間2614で相関演算を実行し、得られた相関値を周波数と対応付けて第2相関値データ2616に記憶させる。そして、主探索処理により相関値が最大となった詳細サーチ用周波数を判定して、捕捉周波数に決定する。
【0097】
一方、ステップD11においてサイドローブチェック用周波数について相関演算が未実行であると判定した場合は(ステップD11;No)、CPU23は、記憶部25に記憶されている第2電界周波数探索プログラム2515を読み出して実行することで、第2電界周波数探索処理を行う(ステップD15)。
【0098】
図13は、第2電界周波数探索処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU23は、メイン/サイド判定処理を行う(ステップE1)。そして、CPU23は、移行段階の処理を実行するか否かを判定する(ステップE3)。具体的には、メイン/サイド判定処理において、相関値が最大となった周波数がサイドローブチェック用周波数であるか否かを判定し、サイドローブチェック用周波数であると判定した場合は(ステップE3;Yes)、移行段階処理を行う(ステップE5)。
【0099】
一方、相関値が最大となった周波数がサイドローブチェック用周波数ではないと判定した場合(ステップE3;No)、又は、ステップE5において移行段階処理を行った後、CPU23は、主探索処理を行う(ステップE7)。具体的には、メイン/サイド判定処理又は移行段階処理で相関値が最大となったサーチ周波数を主探索処理の基準とするサーチ中心周波数として設定する。そして、第1電界周波数探索処理と同様に、サーチ中心周波数をずらしながら、第2種周波数選択パターンに従って詳細サーチ用周波数の選択と相関演算処理の実行とを繰り返す。
【0100】
その後、CPU23は、主探索処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して、捕捉周波数に決定する(ステップE9)。そして、CPU23は、第2電界周波数探索処理を終了する。
【0101】
図12の第2種相関演算処理に戻って、第1電界周波数探索処理又は第2電界周波数探索処理を終了した後、CPU23は、第2種相関演算処理を終了する。図10の捕捉周波数決定処理に戻って、第2種相関演算処理を行った後、CPU23は、捕捉周波数決定処理を終了する。
【0102】
図9のベースバンド処理に戻って、捕捉周波数決定処理を行った後、CPU23は、衛星捕捉部21に、決定した捕捉周波数で当該捕捉対象衛星からのGPS衛星信号の捕捉を試行させる(ステップA7)。そして、CPU23は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0103】
本実施形態では詳細な説明を省略しているが、GPS衛星信号の捕捉では、捕捉周波数を用いて受信信号とレプリカコードとの位相方向の相関演算が行われ、相関値が最大となった位相がコード位相として検出される。コード位相は、擬似距離の算出等に用いられる。
【0104】
全ての捕捉対象衛星についてステップA5及びA7の処理を行った後、CPU23は、ループAの処理を終了する(ステップA9)。その後、CPU23は、捕捉されたGPS衛星信号に含まれる航法メッセージに基づいて、捕捉衛星の衛星位置、衛星移動速度、衛星移動方向等の衛星情報を算出する(ステップA11)。
【0105】
そして、CPU23は、ステップA11で算出した衛星情報に基づいて、例えば擬似距離を利用した位置算出計算を行って位置を算出するGPS位置算出処理を行い、算出した位置をGPS算出位置265として記憶部25に記憶させる(ステップA13)。尚、位置算出計算の詳細については従来公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0106】
次いで、CPU23は、GPS算出位置265をホストCPU30に出力する(ステップA15)。そして、CPU23は、位置算出を終了するか否かを判定し(ステップA17)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップA17;No)、ステップA1に戻る。また、位置算出を終了すると判定した場合は(ステップA17;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0107】
5.作用効果
本実施形態によれば、GPS衛星信号の受信信号に対して概略的な周波数探索処理(第1次周波数探索処理)である第1種相関演算処理を実行する。そして、第1種相関演算処理で用いる相関積算時間である第1種相関積算時間に基づいてメインローブとサイドローブ間の周波数を算出し、当該周波数と、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数とを用いて、サイドローブチェック用周波数を設定する。そして、第1種相関積算処理で相関値が最大となった周波数と、サイドローブチェック用周波数とを含めて複数のサーチ周波数を選択し、選択した各サーチ周波数で第2種相関演算処理を行う。そして、第2種相関演算処理で相関値が最大となったサーチ周波数を判定して捕捉周波数に決定する。
【0108】
第2種相関演算処理では、第1種相関演算処理で相関値が最大となった周波数をサーチ中心周波数とし、予め定められた周波数選択パターンに従って、サイドローブチェック用周波数を含むサーチ周波数を選択する。そして、各サーチ周波数で相関演算処理を行い、相関値が最大となったサーチ周波数がサイドローブ用周波数であれば、当該サイドローブ用周波数でサーチ中心周波数を更新する。そして、周波数選択パターンに従ってサイドローブチェック用周波数を含むサーチ周波数を再度選択し、各サーチ周波数で相関演算処理を実行する。相関値が最大となるサーチ周波数がサイドローブチェック用周波数でなくなるまでの間、この一連の処理を繰り返す(第2次周波数探索処理)。そして、サイドローブチェック用周波数以外の周波数において相関値が最大となった場合に、サイドローブチェックを終了して、GPS衛星信号の捕捉周波数とする周波数の主探索処理(第3次周波数探索処理)へと移行する。
【0109】
最初に概略的な周波数探索処理である第1種相関演算処理を実行し、その結果をもとに選択したサーチ周波数それぞれにおいて第2種相関演算処理を実行することで、捕捉周波数を正確に求めることができる。この場合において、第1種相関演算処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定し、サーチ周波数にサイドローブチェック用周波数を含めて第2種相関演算処理を実行することで、サイドローブ部分の周波数が誤って検出されることを防止できる。
【0110】
本実施形態では、第2種相関演算処理において、サーチ周波数の選択と相関演算処理とを繰り返し実行して、段階的に周波数の絞り込みを行うようにしている。最終的に行う主探索段階では、詳細サーチ用周波数の選択と、各詳細サーチ用周波数それぞれにおける相関演算処理の実行とを繰り返すようにしている。このような処理を行うことで、捕捉周波数を非常に高い精度で求めることができる。
【0111】
6.変形例
6−1.適用システム
上述した実施形態では、CDMA信号の一例としてGPS衛星信号を例に挙げ、GPS衛星信号を受信するGPS受信装置における捕捉周波数の決定方法について説明したが、GPS衛星信号以外の信号を受信する受信装置についても、本発明を同様に適用可能である。すなわち、CDMA方式で拡散変調された信号を受信する受信装置であって、拡散符号レプリカを用いた相関演算を行ってCDMA信号を捕捉するように構成された受信装置であればよい。
【0112】
6−2.電子機器
また、上述した実施形態では、電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistants)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0113】
6−3.衛星位置算出システム
上述した実施形態では、衛星位置算出システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星位置算出システムであってもよい。
【0114】
6−4.周波数選択パターン
上述した実施形態では、第2種相関演算処理において、メイン/サイド判定段階と、移行段階と、主探索段階とにおいて、同一の周波数選択パターンを適用してサーチ周波数を選択するものとして説明したが、各段階で周波数選択パターンを変えてサーチ周波数を選択することとしてもよい。
【0115】
図14は、この変形例における第2種周波数選択パターンを定めたデータである第2種周波数選択パターンデータ257のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ257では、メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と処理段階が進んでいくにつれて、周波数選択パターンに定められた隣り合う周波数の周波数間隔が狭くなっている。これは、処理段階が進むにつれて、周波数サーチをより正確に行うためである。
【0116】
また、上述した実施形態では、第2種相関演算処理では、7個の周波数がサーチ周波数として選択されるようなパターンが定められているものとして説明したが、選択される周波数の個数も適宜設定変更可能である。メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と進むにつれて、周波数のサーチをより精細に行うことが必要であると考えられるため、処理段階が進むにつれて、より多くの周波数がサーチ周波数として選択されるように周波数選択パターンを定めておくことが好適である。
【0117】
図15は、この変形例における第2種周波数選択パターンを定めたデータである第2種周波数選択パターンデータ259のデータ構成の一例を示す図である。第2種周波数選択パターンデータ259では、メイン/サイド判定段階、移行段階、主探索段階と処理段階が進むにつれてサーチ周波数として選択される周波数の数が多くなるように、周波数選択パターンが定められている。
【0118】
尚、図14及び図15で説明した周波数選択パターンを組み合わせて、処理段階が進むにつれて、隣り合うサーチ周波数の周波数間隔が狭くなり、選択されるサーチ周波数の個数が増加するようなパターンを定めておいてもよい。この場合は、処理段階が進むにつれて分解能を上げて周波数サーチを行うことが可能となるため、周波数サーチの正確性をより一層向上させることができる。
【0119】
6−5.メイン/サイド周波数差
上述した実施形態では、式(1)に従ってメイン/サイド周波数差「Δf」を算出する場合を例に挙げて説明したが、メインローブとサイドローブ間の周波数を近似することができる式であれば、その他の近似式を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出してもよい。
【0120】
また、近似式を用いてメイン/サイド周波数差「Δf」を算出するのではなく、相関積算時間「t」とメイン/サイド周波数差「Δf」との対応関係を定めたテーブルを予め定めておき、当該テーブルからメイン/サイド周波数差「Δf」を読み出して、サイドローブチェック用周波数を設定してもよい。
【0121】
6−6.サイドローブチェック
サイドローブチェックを行うか否かを手動で設定することとしてもよい。具体的には、例えばサイドローブチェック用のフラグを用意しておき、初期設定においてユーザーによりサイドローブチェックの実行指示操作がなされた場合は、フラグをONに設定する。そして、第2種相関演算処理において、フラグがONに設定されている場合は、サイドローブチェックを行い、OFFに設定されている場合は、サイドローブチェックを行わない。
【符号の説明】
【0122】
1 携帯型電話機、 10 GPS受信部、 11 RF受信回路部、 20 ベースバンド処理回路部、 21 衛星捕捉部、 23 CPU、 25 記憶部、 30 ホストCPU、 40 操作部、 50 表示部、 60 携帯電話用アンテナ、 70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDMA(Code Division Multiple Access)信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数を変化させて行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定方法であって、
第1次周波数探索処理を実行することと、
前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定することと、
前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択することと、
前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行することと、
前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定することと、
を含む捕捉周波数決定方法。
【請求項2】
前記サイドローブチェック用周波数を設定することは、前記相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に前記相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いて前記サイドローブチェック用周波数を設定することを含み、
前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて周波数探索処理を実行することを含む、
請求項1に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項3】
前記第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数が前記サイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、前記第2次周波数探索処理を再度実行すること、
を更に含む請求項1又は2に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項4】
前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい周波数に設定することを含む、
請求項3に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項5】
前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい周波数に設定することを含む、
請求項3に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項6】
前記受信信号の信号強度に基づいて、前記第2次周波数探索処理において前記サイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定することを更に含み、
前記第2次周波数探索処理を実行することは、前記判定が使用するとの判定結果であった場合に、前記サイドローブチェック用周波数を含めて前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行い、前記判定が使用しないとの判定結果であった場合には、前記サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において前記相関演算処理を行うことである、
請求項1〜5の何れか一項に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項7】
前記複数のサーチ周波数を選択することは、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数を選択することに用いるサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、前記サイドローブチェック用周波数とを前記第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択することを含み、
前記第3次周波数探索処理を実行することは、
前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を前記基準周波数として前記サーチ周波数選択パターンを用いて前記第3次周波数探索処理における詳細サーチ用周波数を選択することと、
前記詳細サーチ用周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う詳細周波数探索処理を実行することと、
前記詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな前記基準周波数として、前記詳細サーチ用周波数の選択と前記詳細周波数探索処理の実行とを繰り返すことと、
を含む、
請求項1〜6の何れか一項に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項8】
CDMA信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数方向に行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定して前記CDMA信号を捕捉する受信装置であって、
第1次周波数探索処理を実行する第1次サーチ実行部と、
前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定する設定部と、
前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する第2次サーチ周波数選択部と、
前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行する第2次周波数サーチ実行部と、
前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定部と、
を備えた受信装置。
【請求項1】
CDMA(Code Division Multiple Access)信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数を変化させて行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定方法であって、
第1次周波数探索処理を実行することと、
前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定することと、
前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択することと、
前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行することと、
前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定することと、
を含む捕捉周波数決定方法。
【請求項2】
前記サイドローブチェック用周波数を設定することは、前記相関演算処理を周波数を変化させて行った場合に前記相関積算時間に応じて定まるメインローブとサイドローブとの周波数の差分を用いて前記サイドローブチェック用周波数を設定することを含み、
前記第3次周波数探索処理を実行することは、前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数に基づいて周波数探索処理を実行することを含む、
請求項1に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項3】
前記第2次周波数探索処理により求まった最大の相関値の周波数が前記サイドローブチェック用周波数であった場合には、当該サイドローブチェック用周波数に基づいて新たなサイドローブチェック用周波数を含む新たなサーチ周波数を選択して、前記第2次周波数探索処理を再度実行すること、
を更に含む請求項1又は2に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項4】
前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも大きい周波数に設定することを含む、
請求項3に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項5】
前記第2次周波数探索処理を再度実行することは、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数が、前記第1次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい場合には、前記新たなサイドローブチェック用周波数を、既に実行した前記第2次周波数探索処理における最大の相関値の周波数よりも小さい周波数に設定することを含む、
請求項3に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項6】
前記受信信号の信号強度に基づいて、前記第2次周波数探索処理において前記サイドローブチェック用周波数を使用するか否かを判定することを更に含み、
前記第2次周波数探索処理を実行することは、前記判定が使用するとの判定結果であった場合に、前記サイドローブチェック用周波数を含めて前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行い、前記判定が使用しないとの判定結果であった場合には、前記サイドローブチェック用周波数とは異なるサーチ周波数において前記相関演算処理を行うことである、
請求項1〜5の何れか一項に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項7】
前記複数のサーチ周波数を選択することは、所与の基準周波数をもとにサーチ周波数を選択することに用いるサーチ周波数選択パターンを用いて選択した周波数と、前記サイドローブチェック用周波数とを前記第2次周波数探索処理に用いるサーチ周波数として選択することを含み、
前記第3次周波数探索処理を実行することは、
前記第2次周波数探索処理により求まった相関値が最も大きいサーチ周波数を前記基準周波数として前記サーチ周波数選択パターンを用いて前記第3次周波数探索処理における詳細サーチ用周波数を選択することと、
前記詳細サーチ用周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う詳細周波数探索処理を実行することと、
前記詳細周波数探索処理により求まった相関値が最も大きい詳細サーチ用周波数を新たな前記基準周波数として、前記詳細サーチ用周波数の選択と前記詳細周波数探索処理の実行とを繰り返すことと、
を含む、
請求項1〜6の何れか一項に記載の捕捉周波数決定方法。
【請求項8】
CDMA信号を受信した受信信号に対する相関演算処理を周波数方向に行う周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定して前記CDMA信号を捕捉する受信装置であって、
第1次周波数探索処理を実行する第1次サーチ実行部と、
前記第1次周波数探索処理に用いた相関積算時間をもとにサイドローブチェック用周波数を設定する設定部と、
前記第1次周波数探索処理の結果をもとに、前記サイドローブチェック用周波数を含む複数のサーチ周波数を選択する第2次サーチ周波数選択部と、
前記複数のサーチ周波数それぞれにおいて前記相関演算処理を行う第2次周波数探索処理を実行する第2次周波数サーチ実行部と、
前記第2次周波数探索処理の結果を用いて第3次周波数探索処理を実行して捕捉周波数を決定する捕捉周波数決定部と、
を備えた受信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−112363(P2011−112363A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265997(P2009−265997)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]