説明

捕集器具

【課題】被検液に含まれて分析に用いられる分析対象物を効率よく捕集することができる捕集器具を提供する。
【解決手段】捕集器具1の収容部10に収容された被検液が、収容部10の断面よりも小さい細長形状の開口から下方に流れることで、被検液に含まれる分析対象物よりも孔径が小さいフィルタ部材30を被検液が通過し、分析対象物がフィルタ部材30により捕集される。したがって、被検液が少量であって分析対象物の濃度が低い場合であっても、フィルタ部材30により分析対象物を効率よく捕集できる。このとき、底部に向かって収容部10の内周面12Bが先細りとされているため、被検液が底部に向かってスムーズに流れると共にフィルタ部材30によって被検液の分析対象物をより高濃度で捕集することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血液、唾液、尿等の体液を被検液として用いて感染症等の病状の診断が行われている。この感染症等の病状の診断の際には、細菌をはじめとして被検液に含まれる微生物の数を測定する方法が用いられており、その測定に用いられる器具についても種々の検討が行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4262616号公報
【特許文献2】特開平08−322594号公報
【特許文献3】特開平09−065893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、唾液を被検液とし、唾液に含まれて分析対象となる微生物の数や種類を測定することで口腔内の健康状態を評価する場合、口腔内から採取できる唾液の量は微量であることから、その唾液に含まれる微生物の数も非常に少なく、微生物の数や種類を正確に評価できない。また、被検液が唾液ではなく、分析対象物が微生物ではない場合にも、分析に用いることができる被検液の量が少ない場合や被検液に含まれる分析対象物の濃度が低い場合には、被検液に含まれて分析に用いることができる分析対象物の量が少なく、高精度で分析を行うことが困難となる。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、被検液に含まれて分析に用いられる分析対象物を効率よく捕集することができる捕集器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る捕集器具は、被検液を収容すると共に底部に細長形状の開口を有し、この底部に向かって内面が順次細くなる先細り形状である収容部と、収容部の開口を塞いで開口から下方へ延びるように取り付けられる平板状の部材であって、被検液に含まれる分析対象物よりもその孔径が小さいフィルタ部材と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記捕集器具によれば、収容部に収容された被検液が、容器の断面よりも小さい細長形状の開口から下方に流れることで、被検液に含まれる分析対象物よりも孔径が小さいフィルタ部材を被検液が通過し、分析対象物がフィルタ部材により捕集される。したがって、被検液が少量であって分析対象物の濃度が低い場合であっても、フィルタ部材により分析対象物を効率よく捕集できる。このとき、底部に向かって容器の内面が先細りとされているため、フィルタ部材に向かって被検液がスムーズに流れると共にフィルタ部材によって被検液の分析対象物をより高濃度で捕集することができる。また、このように分析対象物を効率よく捕集した後にこの分析対象物に係る分析を行うことができるため、高い精度で分析をすることが可能となる。
【0008】
ここで、開口よりも上方の収容部の内側にプレフィルタ部材をさらに備えた態様とすることができる。
【0009】
上記捕集器具によれば、収容部の内側にプレフィルタ部材を設けることで、被検液内の夾雑物がこのプレフィルタ部材によって捕集することができるため、フィルタ部材での夾雑物を減らすことができ、分析対象物をより効率よく濃縮することができる。
【0010】
また、上記捕集器具は、フィルタ部材には、特定の分析対象物と特異的に結合可能な分子認識素子が固定されている態様としてもよい。また、収容部の内側であって開口よりも上方に、特定の分析対象物と特異的に結合可能であり、且つ標識済分子認識素子を備える態様とすることもできる。
【0011】
このように、特定の分析対象物と特異的に結合可能な分子認識素子がフィルタ部材に固定されている態様とすることで、フィルタ部材においてこの分子認識素子と結合する分析対象物のみを効率的に捕集することができる。また、特定の分析対象物と結合可能であり、且つ標識済分子認識素子が収容部の内側に付着され、この標識済分子認識素子と結合した分析対象物をフィルタ部材で回収する態様とした場合には、分析対象物の量に応じてこの分析対象物と結合する標識済分子認識素子の量が変化し、標識済分子認識素子が結合した分析対象物がフィルタ部材によって捕集されることから、フィルタ部材によって捕集された分析対象物の分析が容易となる。
【0012】
ここで、標識済分子認識素子が結合可能な特定の分析対象物は、分子認識素子が結合可能な特定の分析対象物と同じであることが好ましい。
【0013】
このように、標識済分子認識素子が収容部の内側に付着され、さらに、フィルタ部材にその特定の分析対象物と結合可能な分子認識素子が固定された態様とすることで、分析対象物の量に応じてこの分析対象物と結合する標識済分子認識素子の量が変化し、標識済分子認識素子が結合した分析対象物がフィルタ部材によって捕集される。したがって、フィルタ部材において分析対象物の捕集が効果的に行われると共に、この分析対象物のみを対象とした分析を行うために必要な前処理を必要としないため、操作性が高く且つ迅速に分析を行うことができる。
【0014】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成として具体的には標識済分子認識素子は収容部の内面に付着されている態様が挙げられる。
【0015】
また、フィルタ部材の下方でフィルタ部材と接続して設けられ、被検液を吸収可能な吸収体をさらに備える態様とすることもできる。
【0016】
この場合、フィルタ部材の下方にフィルタ部材を通過した被検液を吸収可能な吸収体を備えることで、フィルタ部材を通過した被検液をこの吸収体で回収することができ、例えば被検液が外部に落下することを防止することができる。
【0017】
また、フィルタ部材は、その周囲が被覆部材により覆われている態様としてもよい。
【0018】
このように、フィルタ部材の周囲が被覆部材に覆われていることで、フィルタ部材を通過する被検液や、フィルタ部材に捕集された分析対象物が外部に触れることを防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被検液に含まれて分析に用いられる分析対象物を効率よく捕集することができる捕集器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る捕集器具の斜視図である。
【図2】(A)は、図1のIIA−IIA矢視図であり、(B)は、図1のIIB−IIB矢視図である。
【図3】被検液分析装置の外観を説明する図である。
【図4】被検液分析装置の内部構成について説明する図である。
【図5】第2実施形態に係る捕集器具の横断面図であり、図1のIIB−IIB矢視図に対応する図である。
【図6】捕集器具の変形例を説明する横断面図であり、図1のIIB−IIB矢視図に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る捕集器具1の斜視図、図2(A)は、図1のIIA−IIA矢視図であり、図2(B)は、図1のIIB−IIB矢視図である。まず、これらの図面を用いて、本実施形態に係る捕集器具1について説明する。
【0023】
本実施形態に係る捕集器具1は、図1,2に示すように、略円柱状で下方に向かって内面が細くなる先細り形状の収容部10と、収容部10の下方に取り付けられた平板状の捕集部(被覆部材)20と、を備える。収容部10は、内面が略円柱状であり、その底部には、細長形状の開口11を有する。また、収容部10の内部には、上下方向に延びる収容部10の中段において収容部10の内部を塞ぐように設けられたプレフィルタ部材15を備える。
【0024】
さらに、捕集部20は、フィルタ部材30及び吸収体40が、上方から見てこの順序となるように上下方向に積層した状態で内部に収容されている。フィルタ部材30及び吸収体40が収容される捕集部20の内面21は、開口11を通じて収容部10の内面12と接続する構成となっている。
【0025】
本実施形態に係る捕集器具1は、分析対象物が含まれる被検液を収容部10のプレフィルタ部材15の上方に収容し、この被検液を下方に移動させることで、プレフィルタ部材15を通過させる。そして、プレフィルタ部材15に続いて捕集部20のフィルタ部材30に通過した被検液を吸収体40で吸収する。ここで、被検液に含まれる分析対象物をフィルタ部材30で捕集し、この分析対象物が保持されたフィルタ部材30に対して後述の被検液分析装置を用いて測定光を照射することで、分析対象物の数の測定等の分析を行う。この捕集器具1を用いて分析を行う被検液としては、臨床サンプル、唾液、血液、尿、便、鼻孔・鼻腔・咽頭・鼻咽頭由来の鼻汁液や鼻汁吸引液、痰或、脳髄液、尿道−性器スワブ、咽喉スワブ等の各種分泌液や、組織抽出物、細胞抽出物、微生物培養液、環境サンプル等が挙げられる。また、被検液が、例えば唾液である場合には、口腔内の健康状態を評価するための分析対象物としては、虫歯原因菌であるストレプトコッカスミュータンス菌(Sm菌)、ストレプトコッカスソブリヌス菌(Ss菌)及びラクトバチルスアシドフィラス菌(La菌)等が挙げられる。また、分析対象物は微生物に限られず、被検液に含まれる任意のタンパク質、抗体、抗原、ホルモン、ペプチド、糖タンパク質、核酸、糖類、ビタミン、天然化合物、合成化合物、細胞、細胞組織、ウィルス、色素、蛍光分子、金属、金属イオン等が挙げられる。なお、以下の実施形態では、被検液が唾液であって、分析対象物が特定の微生物である場合を中心に説明する。
【0026】
本実施形態に係る捕集器具1は、取扱い性、少量の被検液を効率よく収集し、分析できることを考慮し、上方の収容部10が底部の開口11に向って先細りの形状とされている。この捕集器具1の大きさは特に限定されないが、取扱い性の観点や被検液の収容量を考慮して、例えば、一辺が10mm〜50mm程度の直方体に含まれる大きさであることが好ましい。また、収容部10の容積が0.05ml〜2.00mlとなるような大きさであることが好ましく、捕集部20に含まれるフィルタ部材30は、取扱い性や測定精度の観点から、厚み:0.01mm〜10.00mm、長辺長さ:5mm〜15mm、短辺長さ:3mm〜10mmとすることが好ましい。
【0027】
次に、上記の構成を有する捕集器具1に含まれる各部位について説明する。
【0028】
収容部10は上述のように被検液を収容する容器である。この収容部10としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ナイロン(登録商標)などのラミネートフィルムから形成されるものや、ガラスが挙げられる。
【0029】
この収容部10の内面12のうち上方側の内面12Aは、収容部10の外形に沿った円柱状であって、下方側の内面12Bは、底部の開口11に向かって順次細くなる先細り形状となっている。このように開口11に向かって順次細くなる先細り形状とすることで、底部に被検液の液溜まりができることが防止され、開口11に向かって被検液をスムーズに移動させることができる。また、下方側の内面12Bを先細り形状とすることで、被検液が流れる流路の幅を狭くし、被検液に含まれる分析対象物の捕集をより高濃度で行うことができる。また、内面12が円柱状となっていることで、四角柱状の場合と比較して角の部分に液溜まりができることを防止し、液溜まりを最低限に抑えることができる。
【0030】
この捕集器具1の収容部10は上下方向に2層に分かれている。上方側の円柱状に延びる内面12Aにより囲まれる上層側の領域13Aと下方側の先細り形状に延びる内面12Bにより囲まれる下層側の領域13Bとの2層に分かれている。分析に用いられる被検液は、この収容部10内の2つの領域のうち上層側の領域13Aに投入される。そして、上層側の領域13Aと下層側の領域13Bとの間を区切るように、プレフィルタ部材15が取り付けられている。そして、収容部10の底部には、細長い長方形状の開口11が設けられ、その下方に捕集部20が設けられる。
【0031】
プレフィルタ部材15は、収容部10内の2つの領域のうち上層側の領域13Aに投入された被検液が下方へ移動する際に、被検液に含まれる夾雑物を取り除くために設けられる。プレフィルタ部材15を構成する材料としては、例えば、ろ紙やメッシュ、メンブレンフィルタなどが挙げられる。また素材としては、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットン、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン、ポリエステル、ナイロン(登録商標)等からなる多孔メッシュ等が挙げられる。このプレフィルタ部材15の孔径は、分析対象物の大きさに応じて適宜選択することができるが、分析対象物が、例えばストレプトコッカスミュータンス菌(Sm菌)等の虫歯原因菌である場合には、10〜200μm程度のものが好ましい。孔径が10μmよりも小さい場合には、標識済分子認識素子と結合した分析対象物がプレフィルタ部材15によって捕集されてしまう可能性があり、孔径が200μmよりも大きい場合には、被検液に含まれる夾雑物を好適に除去できない可能性がある。
【0032】
そして、収容部10のうち、このプレフィルタ部材15の下方側の領域13Bを構成する内周面、すなわち内面12のうち下方側の内面12Bには、標識済分子認識素子が付着されている。ここで、内面12Bに付着される標識済分子認識素子とは、本実施形態の捕集器具1による分析の対象となる特定の分析対象物のみに特異的に結合可能な分子認識素子を標識物質により標識したものである。具体的には、分子認識素子としては、DNAアプタマー、RNAアプタマー、ペプチドアプタマー、抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)、酵素等が挙げられ、分析対象物に応じて適宜選択される。また、上記の分子認識素子を標識する物質は、分析対象物の数や濃度等を光学測定する際に用いられる物質であり、特定の波長の光に対して吸収ピークを有するか、或いは蛍光を発する機能等を有する物質である。この標識物質としては、貴金属コロイド(金コロイド粒子、銀コロイド粒子、白金コロイド粒子など)、ラテックス粒子、着色ラテックス粒子、磁気微粒子、蛍光物質、酵素、ビオチン、色素、酸化還元物質、放射性同位元素等が挙げられる。
【0033】
この標識済分子認識素子を収容部10の内面12Bに付着させる方法としては、例えば、標識済分子認識素子を超純水、純水、トリスバッファー、ホウ酸バッファー、りん酸バッファー、グリシンバッファー、クエン酸バッファー、酢酸バッファー、コハク酸バッファー、MOPSバッファー、HEPESバッファー、MESバッファー、トリシンバッファー、マレイン酸バッファーなどに混合させた後、収容部10の内面12Bに対して塗布し、これを乾燥させる方法等が挙げられる。
【0034】
上記のように、標識済分子認識素子が付着した内面12B上を、プレフィルタ部材15を通過した被検液が通ることによって、標識済分子認識素子が内面12Bから被検液中に溶け出して、被検液に含まれる分析対象物と結合する。
【0035】
次に、収容部10の下方に取り付けられた平板状の捕集部20について説明する。捕集部20は、平板状であって、内部にフィルタ部材30及び吸収体40を、上下方向にこの順序となるように収容する部材である。この捕集部20は光透過性を有する材料からなり、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、及びポリスチレンから形成されるものや、ガラス等が好適に用いられる。
【0036】
そして、本実施形態に係る捕集器具1では、平板状の捕集部20のうち厚み方向に延びる辺と短手方向に延びる辺により形成される面(図2の面21A,21B)が上下方向となり、捕集部20の短手方向に延びる辺と長手方向に延びる辺より形成される捕集部20の主面(図2の面21C,21D)が上下方向に沿って延びるように、収容部10の下方に取り付けられる。また、捕集部20の上方の面21Bは開口とされていて、捕集部20の内面21と収容部10の内面12Bとが開口11を介して接続している。これにより、捕集部20の内部に収容されたフィルタ部材30が、収容部10の開口11を塞いで、開口11から下方へ延びるように設けられる。
【0037】
このフィルタ部材30は、分析対象物を濃縮して捕集するために設けられる。本実施形態に係る捕集器具1では、フィルタ部材30において捕集された分析対象物を後述の被検液分析装置で分析する際に、捕集部20の外側から捕集部20に対して測定光を照射し、その測定光の照射によってフィルタ部材30から出射される光を受光器で受光することで、その分析を行う。したがって、フィルタ部材30は被検液分析装置による分析を行いやすい形状であることが好ましい。具体的には、図1,2に示すように、フィルタ部材30の主面が上下方向に延在し、捕集部20の主面(図2の面21C,21D)と対向するように、フィルタ部材30を配置することで、フィルタ部材30の主面(図2(A)で示される面)に対して測定光を照射することによる分析が行いやすくなる。また、図1,2に示すように、フィルタ部材30の側面(主面とは異なる面)を上方とすることで、フィルタ部材30を構成する面のうちより狭い面から被検液がフィルタ部材30内に入って、主面を横切るようにフィルタ部材30内を通過するため、被検液内に含まれている分析対象物をより狭い領域で捕集しやすくなる。
【0038】
このフィルタ部材30には分析対象物を捕集するための分子認識素子が固定されていて、標識済分子認識素子が結合した分析対象物が、フィルタ部材30に固定された分子認識素子と結合することで、フィルタ部材30において分析対象物を捕集することができる。フィルタ部材30を構成する材料としては、例えば、ろ紙やメッシュ、メンブレンフィルタなどが挙げられる。また素材としては、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットン、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン、ポリエステル、ナイロン(登録商標)等が挙げられる。このフィルタ部材30の孔径は、分析対象物の大きさに応じて適宜選択することができるが、分析対象物が、例えばストレプトコッカスミュータンス菌(Sm菌)等の虫歯原因菌である場合には、孔径が0.2〜10μm程度のものが好ましい。孔径が0.2μmよりも小さい場合には、分析対象物の微生物(虫歯原因菌)とは異なる物質がフィルタ部材30によって捕集されてしまう可能性があり、孔径が10μmよりも大きい場合には、標識済分子認識素子と結合した分析対象物の微生物を好適に捕集できない可能性がある。また、フィルタ部材30に固定される分子認識素子としては、DNAアプタマー、RNAアプタマー、ペプチドアプタマー、抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体)、酵素等が挙げられ、分析対象物に応じて適宜選択される。
【0039】
なお、分析対象物がSm菌等の虫歯原因菌のように特定の微生物である場合には、分子認識素子が固定されたフィルタ部材30に代えて、この微生物が付着しやすい物質や、タンパク質成分などの生体高分子成分低吸着のフィルタあるは膜状のものをフィルタ部材30として利用できる。具体的には、微生物が付着しやすい物質としては、ハイドロキシアパタイトなどが挙げられ、フィルタあるいは膜状のものとしては、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットンニトロセルロース、セルロース、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0040】
なお、標識済分子認識素子として収容部10の内面12Bに付着させる分子認識素子及びフィルタ部材30に固定する分子認識素子が結合可能な分析対象物は互いに同種である必要があるが、収容部10の内面12Bに付着させる分子認識素子とフィルタ部材30に固定する分子認識素子とは、分析対象物に対する結合部位が互いに異なることが好ましい。
【0041】
また、分析対象物がフィルタ部材30に対して吸着することを防ぐために、収容部10の内面12(ただし標識済分子認識素子を塗布する内面12Bを除く)及び捕集部20の内面に対してブロッキング剤により処理、あるいは負電荷に荷電させる処理を施すことが好ましい。この収容部10及び捕集部20の内側の処理に用いられるブロッキング剤としては、例えばスキムミルク、フィッシュゼラチン、ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin;BSA)、血清(ウマ血清あるいはウシ胎仔血清)、界面活性剤等が挙げられ、分析対象物に応じてこれらを適宜混合して用いることができる。
【0042】
上記の構成によってフィルタ部材30の分子認識素子に結合した分析対象物には、収容部10の内面12Bに付着した標識済分子認識素子が結合している。そして、この分析対象物に結合した標識済分子認識素子を標識する物質の発色、蛍光、化学発光を後述の分析装置によって分析することで、分析対象物の量を分析することが可能となる。
【0043】
吸収体40は、捕集部20においてフィルタ部材30の下方に収容され、収容部10及びフィルタ部材30を通過した被検液を吸収するための部材である。したがって、吸収体40としては、被検液を効率的に吸収することが可能な材料からなるものが好ましく、ろ紙、不織布、高吸収性ポリマー等が好適に使用できる。また、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットン、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン、ポリエステル、ナイロン(登録商標)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸ナトリウム、高吸収性ケルセチン配糖体、及びポリオレフィン等からなる多孔メッシュ等を吸収体40として用いることができる。
【0044】
この吸収体40は、被検液を吸収することで状態が変わる機能を有していることが好ましい。具体的には、例えば、吸収体40に対して予め水性インク等による印字を施しておき、吸収体40が被検液を吸収することによってこの水性インクによる印字が消失する構成とすることができる。また、分析対象物と結合しなかった未反応の標識済分子認識素子が吸収体40に到達して吸収体40に捕集されることで、標識物質により吸収体40が発色する構成であってもよい。このように、吸収体40に被検液が到達したことを確認する構成とすることで、被検液がフィルタ部材30を通過したこと、すなわち、被検液に含まれる分析対象物がフィルタ部材30に捕集されたことを確認することができる。
【0045】
本実施形態に係る捕集器具1では、フィルタ部材30と吸収体40とが捕集部20に収容されている構成とされているが、このような構成とすることにより、被検液が外部へ漏れ出すことを防止している。また、被検液と接触したフィルタ部材30が外部と接触することも防止していて、測定精度の低下も防止している。なお、フィルタ部材30と吸収体40とは、直接接続する態様としてもよいが、フィルタ部材30による分析対象物の捕集が進むように、吸収体40の周辺に被検液をしばらく滞留させる態様とすることが好ましい。この場合、例えば、吸収体40とフィルタ部材30との間、あるいは領域13Bと面21Bとの間に、一定量の被検液と接触しない限り開通しないような弁を設けることで、フィルタ部材30が設けられる領域に一定時間滞留させる態様とすることができる。
【0046】
弁は、例えば医薬品や健康食品に用いられるカプセル用素材を適宜シート状に整形し、それを切断して用いることができる。カプセル用素材として、具体的には、ハードカプセル素材(主成分として、例えば、ゼラチン、コハク化ゼラチン、ゼラチン加水分解物、加水分解ゼラチン及び架橋型ゼラチンから選ばれるゼラチン誘導体、プルラン、デンプン、寒天、セルロース、アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、アラビアゴム及びカラギーナンから選ばれる多糖類、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれるセルロース類、オイドラギット、ポリビニルピロリドン、等を含む。)や、ソフトカプセル素材(主成分として、例えば、はゼラチンに対してグリセリン、ソルビトール、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、トレハロース、等を加えた材料を含む。)を用いることができる。このような弁があることによって、被検液がフィルタ部材30に浸透する前に、領域13Bにおいて一定時間滞留させ、被検液中の分析対象物と標識済分子認識素子との結合を十分に促進させることができる。
【0047】
ここで、捕集器具1によりフィルタ部材30で濃縮された分析対象物を分析するために用いる被検液分析装置100及びこの被検液分析装置100を用いた分析方法について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、被検液分析装置100の外観を説明する図であり、図4は、被検液分析装置100の内部構成について説明する図である。
【0048】
図3に示すように、被検液分析装置100は、捕集器具1を収容するための挿入口103を備え、捕集器具1を収容すると共に捕集器具1の分析時に外部からの光を遮断するために捕集器具1を覆う筺体104により構成される。また、被検液分析装置100の筺体104には、分析開始を指示する分析開始ボタン105及び、分析結果を表示するインジケータ106を備える。そして、被検液分析装置100の内部には、図4に示すように、所定の波長の光を含む光E1を出射する光源101を備える。この光源101は、捕集器具1を挿入口103から挿入し所定の位置に収容した際に、フィルタ部材30が設けられる位置に対応して取り付けられる。
【0049】
そして、捕集器具1のフィルタ部材30を介して光源101に対向する位置に配置され、光源101から出射された光E1に対して感度を有する受光部102をさらに備える。これらの光源101及び受光部102がフィルタ部材30に捕集された分析対象物を分析するための測定部として機能する。なお、光源は1個であってもよいし、2以上の複数個とすることもできる。光源を複数個とする場合には、受光部も複数個としてもよく、また光源毎に異なる波長を出射する態様としてもよい。また、分析対象物が標識済分子認識素子と結合している場合、この光E1の波長は、標識物質の特性によって決められる。
【0050】
また、被検液分析装置100は、図4に示すように、内部に光源101及び受光部102が電気的に接続される制御部108を備える。制御部108は、CPU(Central Processing Unit)及び外部記憶装置から構成され、CPUは、所定の演算処理を行う演算プログラムが記憶されたROM(Read Only Memory)と演算処理の際に各種データを記憶するRAM(Random Access Memory)とを有している。このCPUは、分析開始ボタン105の押下げを検知して、光源101からの測定光の出射を開始すると共に、受光部102で検出された光強度に係る情報を受光部102から受け取り、光源101から出力された測定光の波長及び強度と、受光部102で検出された光強度とに基づいて算出された標識物質の光透過率から、外部記憶装置に記憶させた予め得られている標識物質についての光透過率と標識物質の指標(原因菌濃度等)との相関(検量線)に基づいて被検液の指標値(例えば原因菌濃度に基づいた口腔内の環境評価)を算出し、得られた結果に基づいた評価をインジケータ106に表示させる機能を備える。
【0051】
上記の捕集器具1及び被検液分析装置100を用いた分析方法は以下の通りである。
【0052】
まず、収容部10の上層側の領域13Aに被検液を投入する。なお、保存性等の観点から、捕集器具1の使用前は収容部10の上方の円周部分をシール等で封緘し使用時に開封される態様とすることもできる。この場合には、収容部10の内面12Bに付着された標識済分子認識素子や捕集部20の内部のフィルタ部材30に固定された分子認識素子の劣化を防ぐと共に、これらが外部と接触することも防止される。
【0053】
次に、被検液を収容部10の上層側の領域13Aから下方へ移動させる。このとき、被検液を自然落下により下方へ移動させてもよいし、例えば捕集器具1を遠心分離機にかけることで、捕集器具1の下方(捕集部20側)に向かって遠心力をかけて、被検液を捕集部20の方向へ移動させる方法を用いてもよい。また、捕集器具1内の被検液を移動させる際には、被検液が捕集器具1内で偏ることを防止する目的で、捕集器具1をタッピングさせてもよい。上記に示すような種々の方法によって被検液が捕集部20の方向へ移動する際に、まずプレフィルタ部材15を通過することで、被検液に含まれる夾雑物がプレフィルタ部材15によって除去される。
【0054】
そして、プレフィルタ部材15を通過した被検液は、収容部10の下層側の領域13Bへ移動する。ここで、収容部10の下層側の領域13Bを形成する内面12B上を被検液が通ることで、内面12Bに付着した標識済分子認識素子と被検液とが接し、標識済分子認識素子が被検液中の特定の分析対象物と結合する。そして、標識済分子認識素子と結合した分析対象物を含む被検液は、収容部10の開口11から下方の捕集部20の内部へと移動する。そして、標識済分子認識素子と結合した分析対象物は、捕集部20内の上方に設けられたフィルタ部材30に固定された分子認識素子と結合することで、フィルタ部材30に捕集される。次に、被検液分析装置を用いてフィルタ部材30に捕集された分析対象物を分析する。これにより、捕集器具1によりフィルタ部材30で濃縮された分析対象物の分析が行われ、被検液の特性等が評価される。
【0055】
このように、捕集器具1のフィルタ部材30に捕集された分析対象物を上記に示す被検液分析装置100を用いて分析することで、分析対象物の量を算出することができる。具体的には、例えば、分子認識素子を標識する物質として金コロイド粒子を用いる場合には、金コロイド粒子は波長520nmの光に対して吸収特性を有するので、波長520nmの光をフィルタ部材30に対して照射することでフィルタ部材30を通過する光の強度を測定することで、フィルタ部材30に捕集された金コロイド粒子の量を測定することができ、この結果から被検液に含まれる分析対象物の量を分析することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る捕集器具1によれば、収容部10に収容された被検液が、収容部10の断面よりも小さい細長形状の開口から下方に流れることで、被検液に含まれる分析対象物よりも孔径が小さいフィルタ部材30を被検液が通過し、分析対象物がフィルタ部材30により捕集される。したがって、被検液が少量であって分析対象物の濃度が低い場合であっても、フィルタ部材30により分析対象物を効率よく捕集できる。このとき、底部に向かって収容部10の内面12Bが先細りとされているため、被検液が底部に向かってスムーズに流れると共にフィルタ部材30によって被検液の分析対象物をより高濃度で捕集することができる。また、このように分析対象物を効率よく捕集した後にこの分析対象物に係る分析を行うことができるため、高い精度で分析をすることが可能となる。
【0057】
また、上記実施形態に係る捕集器具1では、収容部10の内側にプレフィルタ部材15が設けられていることで、被検液内の夾雑物をこのプレフィルタ部材15によって捕集することができるため、フィルタ部材30での夾雑物を減らすことができ、分析対象物をより効率よく濃縮することができる。
【0058】
また、上記実施形態に係る捕集器具1では、特定の分析対象物と特異的に結合可能な分子認識素子がフィルタ部材30に固定されている態様とすることで、フィルタ部材30においてこの分子認識素子と結合する分析対象物のみを効率的に捕集することができる。また、特定の分析対象物と結合可能であり、且つ、標識済分子認識素子が収容部10の内面12Bに付着され、この標識済分子認識素子と結合した分析対象物をフィルタ部材30で回収する態様とすることで、分析対象物の量に応じてこの分析対象物と結合する標識済分子認識素子の量が変化し、標識済分子認識素子が結合した分析対象物がフィルタ部材30によって捕集されることから、フィルタ部材30によって捕集された分析対象物の分析が容易となる。
【0059】
さらに、上記実施形態の捕集器具1のように、標識済分子認識素子が収容部10の内側に付着され、さらに、フィルタ部材30にその特定の分析対象物と結合可能な分子認識素子が固定された態様とすることで、分析対象物の量に応じてこの分析対象物と結合する標識済分子認識素子の量が変化し、標識済分子認識素子が結合した分析対象物がフィルタ部材30によって捕集される。したがって、フィルタ部材30において分析対象物の捕集が効果的に行われると共に、この分析対象物のみを対象とした分析を行うために必要な前処理を必要としないため、操作性が高く且つ迅速に分析を行うことができる。
【0060】
また、上記の捕集器具1では、フィルタ部材30の下方にフィルタ部材30を通過した被検液を吸収可能な吸収体40を備えることで、フィルタ部材30を通過した被検液をこの吸収体40で回収することができ、例えば被検液が外部に落下することを防止することができる。
【0061】
さらに、上記の捕集器具1では、フィルタ部材30及び吸収体40が捕集部20に収容されていることで、フィルタ部材30を通過した後の被検液や、フィルタ部材30に捕集された分析対象物が外部に触れることを防止することができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る捕集器具2について図5を用いて説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る捕集器具2の横断面図であり、図1のIIB−IIB矢視図に対応する図である。本実施形態に係る捕集器具2が第1実施形態に係る捕集器具1と異なる点は次の点である。すなわち、標識済分子認識素子が収容部10の内面12Bに付着しているのではなく、第2のフィルタ部材50に付着されている点である。
【0063】
この第2のフィルタ部材50は、収容部10内部の下層側の領域13Bに設けられる。そして、第2のフィルタ部材50としては、ろ紙やメッシュ、メンブレンフィルタなどが挙げられる。また素材としては、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットン、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン、ポリエステル、ナイロン(登録商標)等が挙げられる。この第2のフィルタ部材50の孔径は、分析対象物の大きさに応じて適宜選択することができるが、当然ながら分析対象物を捕集するためのフィルタ部材30の孔径よりも大きくされる。そして、この第2のフィルタ部材50には、標識済分子認識素子が付着されている。第2のフィルタ部材50に対して標識済分子認識素子を付着させる方法としては、超純水、純水、トリスバッファー、ホウ酸バッファー、りん酸バッファー、グリシンバッファー、クエン酸バッファー、酢酸バッファー、コハク酸バッファー、MOPSバッファー、HEPESバッファー、MESバッファー、トリシンバッファー、マレイン酸バッファーなどに混合させた後、収容部10の内面12Bに対して塗布し、これを乾燥させる方法等が挙げられる。
【0064】
なお、この捕集器具2の使用方法は、捕集器具1と同様である。すなわち、被検液を収容部10の上層側の領域13Aに投入し下方へ移動させることで、被検液がプレフィルタ部材15を通過し、夾雑物が除去される。その後、被検液が収容部10の下層側の領域13Bへ移動し、収容部10の下層側の領域13Bに収容された第2のフィルタ部材50内を被検液が通ることで、第2のフィルタ部材50に付着した標識済分子認識素子と被検液とが接し、標識済分子認識素子が被検液中の特定の分析対象物と結合する。そして、標識済分子認識素子と結合した分析対象物を含む被検液は、収容部10の開口11から下方の捕集部20の内部へと移動する。そして、標識済分子認識素子と結合した分析対象物は、捕集部20内の上方に設けられたフィルタ部材30に固定された分子認識素子と結合することで、フィルタ部材30に捕集される。そして、このフィルタ部材30に対して測定光を照射することで、フィルタ部材30に捕集された分析対象物に係る分析が行われる。
【0065】
このように、本実施形態に係る捕集器具2であっても、収容部10に収容された被検液が、収容部10の断面よりも小さい細長形状の開口から下方に流れることで、被検液に含まれる分析対象物よりも孔径が小さいフィルタ部材30を被検液が通過し、分析対象物がフィルタ部材30により捕集される。したがって、被検液が少量であって分析対象物の濃度が低い場合であっても、フィルタ部材30により分析対象物を効率よく捕集できる。このとき、底部に向かって収容部10の内面12Bが先細りとされているため、フィルタ部材30によって被検液の分析対象物をより高濃度で捕集することができる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明に係る捕集器具及びこの捕集器具の使用方法は種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態では、収容部10の上層側の領域13Aに投入された被検液は、プレフィルタ部材15、標識済分子認識素子が付着された(或いは標識済分子認識素子が付着された第2のフィルタ部材50が設けられた)下層側の領域13Bをこの順に通過する構成について説明したが、プレフィルタ部材15の通過と、標識済分子認識素子及び被検液の接触とは、その順序を変更してもよい。すなわち標識済分子認識素子を被検液が接触して、分析対象物が標識済分子認識素子と結合した状態でプレフィルタ部材15を通過させる態様としてもよい。また、例えば、プレフィルタ部材15に標識済分子認識素子を付着させることで、プレフィルタ部材15によって夾雑物を除去しつつ、分析対象物と標識済分子認識素子とを結合させる態様としてもよい。また、フィルタ部材30の上方(例えば上面のみ)に標識済分子認識素子を付着させる態様とすることで、プレフィルタ部材15を通過した被検液と標識済分子認識素子とを接触させることもできる。
【0068】
また、捕集部20の全体が光透過性を有する必要はない。すなわち、上記実施形態のように、フィルタ部材30に捕集された物質の光透過性に係る測定を行う場合には、捕集部20のうちフィルタ部材30の主面と対向する面(図2の面21C,21D)が光透過性を有していればよい。また、フィルタ部材30を透過した光を測定することに代えて、フィルタ部材30で反射した光を測定する場合には、面21Cと面21Dのいずれか一方のみが光透過性を有する態様とすることもできる。
【0069】
また、上記実施形態では、フィルタ部材30及び吸収体40が捕集部20に収容されている構成について説明したが、フィルタ部材30及び吸収体40は捕集部20に収容されていなくてもよく、外部に露出していてもよい。また、捕集部20の形状についても適宜変更することができる。捕集部20の形状の変形例について図6を用いて説明する。図6は、上記実施形態の変形例である捕集器具3の横断面図であり、図1のIIB−IIB矢視図に対応する図である。図6の捕集器具3に示すように、捕集部20の底面(図2の面21Aに対応する面)を備えず、吸収体40が外部に露出するような構成とすることもできる。このような構成であっても、吸収体40によってフィルタ部材30を通過した後の被検液及びフィルタ部材30に捕集された分析対象物が吸収されることから、これらが外部に触れることを防止することができる。なお、吸収体40は必要に応じて設けられる構成であって、収容部10及びフィルタ部材30を通過した被検液を吸収体40により吸収させることなく外部に排出する構成とすることもできる。
【0070】
また、上記実施形態では、フィルタ部材30より上方の収容部10の下層側の領域13Bに標識済分子認識素子が付着され、さらにフィルタ部材30に分子認識素子が固定された態様について説明するが、これら標識済分子認識素子及び分子認識素子は必須ではない。すなわち、フィルタ部材30の孔径が分析対象物よりも小さければよく、このような構成とすることで、分析対象物は孔径が小さいフィルタ部材30を通過することができずフィルタ部材30により捕集されるため、分析対象物を効率的よく捕集し、その濃度を高めることができる。
【0071】
上記と同様に、標識済分子認識素子が収容部10の下層側の領域13B(或いは第2のフィルタ部材50)に付着されておらず、フィルタ部材30に分子認識素子が固定されている場合であっても、フィルタ部材30の分子認識素子に対して特定の分析対象物のみが結合することで、分析対象物を捕集することができる。ただし、微生物に限らず捕集された分析対象物を光学的手法により分析する場合には、分子認識素子及び標識物質を用いて分析対象物を標識する必要がある。したがって、フィルタ部材30によって微生物を捕集した後に、標識済分子認識素子とフィルタ部材30により捕集された微生物とを結合させる処理が行われる。また、標識済分子認識素子を下層側の領域13B(或いは第2のフィルタ部材50)に付着させることに代えて、被検液と標識済分子認識素子とを混合することで分析対象物に標識済分子認識素子を結合させた後に、この混合物を収容部10の上層側の領域13Aに投入する態様とすることもできる。
【0072】
また、上記実施形態では、分析対象物に対して標識済分子認識素子を結合させることで、特定の分析対象物のみを検出し、高精度の分析を実現する方法について説明したが、フィルタ部材30の孔径と分析対象物の大きさとの関係を用いて分析対象物をフィルタ部材30で回収する方法と、他の公知の方法を組み合わせることによって特定の分析対象物のみについての分析を行う方法を用いることもできる。具体的には、フィルタ部材30の孔径と分析対象物の大きさとの関係を利用してフィルタ部材30の孔径よりも大きな物質(分析対象物が含まれる)を捕集した後、分析対象物に対してのみ特異的に結合する試薬(例えばDNAプローブ、RNAプローブ、分子鋳型等)を用いて分析対象物のみを反応させて、その反応結果を測定する態様とすることもできる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
上記第1実施形態の捕集器具1を用いた場合のフィルタ部材30における分析対象物の収集能力を、以下に示す実施例1の方法により確認した。
【0075】
具体的には、図1に示す捕集器具1を使用し、被検液として唾液を用いて、Sm菌を分析対象物とした。このとき、捕集器具1の収容部10の内面12Bに付着される標識済分子認識素子としては金コロイド粒子により標識した抗Sm抗体を使用し、捕集部20の内部のフィルタ部材30に別の抗Sm抗体を固定させることで、Sm菌をフィルタ部材30において捕集する構成とした。なお、実施例1で用いた捕集器具1に取り付けられたプレフィルタ部材15はガラス繊維からなる。また、フィルタ部材30はニトロセルロースのメンブレンフィルタからなり、孔径は0.45μmであった。
【0076】
上記の捕集器具1を用いて、被検液である唾液を上層側の領域13Aに投入した後、数分静置し、被検液がプレフィルタ部材15を通過し、下層側の領域13Bに達したことを確認した。その後、下層側の領域13Bに滞留する被検液をタッピングにより攪拌した後、しばらく静置させて、被検液が収容部10を自然落下し、捕集部20に収容されたフィルタ部材30内を被検液が通過することを確認した。このとき、収容部10の内面12Bに付着される標識済分子認識素子がフィルタ部材30に捕集されることで、標識物質によりフィルタ部材30の色が変わったことを目視で確認した。さらに、静置することで、未反応の標識済分子認識素子を含む被検液が吸収体40によって捕集され、吸収体40の色が変わったことを目視で確認した。
【0077】
このように吸収体40の色が変わったことを確認した後、捕集器具1を被検液分析装置100の挿入口103から筺体104内に挿入し、分析開始ボタン105を押すことで、捕集器具1のフィルタ部材30に対して測定光を照射し、フィルタ部材30を通過する光の強度を測定した。この結果、分析対象物であるSm菌がフィルタ部材30において特異的に捕集されたことが確認された。
【0078】
(実施例2)
上記実施例1と比較して以下の点を変更して、第1実施形態の捕集器具1を用いた場合のフィルタ部材30における分析対象物の収集能力を確認した。
【0079】
すなわち、被検液である唾液を捕集器具1の収容部10のうち上層側の領域13Aに投入した後、実施例1と同様の手順によってプレフィルタ部材15を通過させ、下層側の領域13Bに滞留する被検液をタッピングにより攪拌した後に、捕集器具1を遠心力が2000×gとなる状態で5分間遠心することで、被検液を落下させ、フィルタ部材30を通過させた。遠心後、標識物質によりフィルタ部材30の色が変わったことを目視で確認した。さらに、静置することで、未反応の標識済分子認識素子を含む被検液が吸収体40によって捕集され、吸収体40の色が変わったことを目視で確認した。
【0080】
このように吸収体40の色が変わったことを確認した後、捕集器具1を被検液分析装置100の挿入口103から筺体104内に挿入し、分析開始ボタン105を押すことで、捕集器具1のフィルタ部材30に対して測定光を照射し、フィルタ部材30を通過する光の強度を測定した。この結果、分析対象物であるSm菌がフィルタ部材30において特異的に捕集されたことが確認された。
【0081】
上記の実施例1及び実施例2の結果から、被検液に含まれる分析対象物が、フィルタ部材30によって好適に捕集されることが確認された。また、フィルタ部材30内に被検液を通過させる方法は、自然落下に限られず、遠心する方法でもよいことが確認された。
【符号の説明】
【0082】
1,2…捕集器具、10…収容部、11…開口、12(12A,12B)…内面、15…プレフィルタ部材、20…捕集部、30…フィルタ部材、40…吸収体、50…第2のフィルタ部材、100…被検液分析装置。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液を収容すると共に底部に細長形状の開口を有し、この底部に向かって内面が順次細くなる先細り形状である収容部と、
前記収容部の前記開口を塞ぐと共に主面が前記開口から下方へ延びるように取り付けられる平板状の部材であって、前記被検液に含まれる分析対象物よりもその孔径が小さいフィルタ部材と、
を有する捕集器具。
【請求項2】
前記開口よりも上方の前記収容部の内側にプレフィルタ部材をさらに備えた請求項1記載の捕集器具。
【請求項3】
前記フィルタ部材には、特定の分析対象物と特異的に結合可能な分子認識素子が固定されている請求項1又は2記載の捕集器具。
【請求項4】
前記収容部の内側であって前記開口よりも上方に、特定の分析対象物と特異的に結合可能であり且つ標識済分子認識素子を備える請求項1〜3のいずれか一項に記載の捕集器具。
【請求項5】
前記標識済分子認識素子は前記収容部の内面に付着されている請求項4記載の捕集器具。
【請求項6】
前記標識済分子認識素子が結合可能な特定の分析対象物は、前記分子認識素子が結合可能な特定の分析対象物と同じである請求項4又は5記載の捕集器具。
【請求項7】
前記フィルタ部材の下方で前記フィルタ部材と接続して設けられ、前記被検液を吸収可能な吸収体をさらに備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の捕集器具。
【請求項8】
前記フィルタ部材は、その周囲が被覆部材により覆われている請求項1〜7のいずれか一項に記載の捕集器具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−92125(P2011−92125A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250663(P2009−250663)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】