説明

捲縮複合繊維及びその製造方法並びに捲縮複合繊維を含む通気度変化織編物及びその製造方法

【課題】吸湿特性と捲縮性をさらに向上させた捲縮複合繊維を提供し、また該捲縮複合繊維が含まれる通気度変化織編物を提供する。
【解決手段】吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維からなり、湿潤状態で20%以上の糸伸長率及び乾燥状態で15〜35%の捲縮率を有する捲縮複合繊維。吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に捲縮加工を施して捲縮を付与した後、アルカリ減量加工を施して捲縮複合繊維にさらに前記捲縮率の捲縮を付与することにより得る。また該捲縮複合繊維が含まれる織編物は、通気度変化を有するものであり、吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に捲縮加工を施して捲縮を付与し、この捲縮複合繊維を用い製織又は製編し、織編物の状態でアルカリ減量加工を施し、含まれる捲縮複合繊維にさらに前記捲縮率の捲縮を付与することにより得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲縮複合繊維並びに該捲縮複合繊維を含む通気度変化織編物及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣服内の温度や湿気、水分等の動的な変化に応じ、衣服内の通気性を可逆的に変化させ、衣服内の温湿度をコントロールし、常に快適な状態に調整されるような織編物が数多く提案されている。例えば、特許文献1にて、ポリエステルとポリアミドをサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維を用いた通気可逆性織編物が提案されている。しかしながら、この複合繊維のポリマーの組み合わせでは吸湿特性差が小さいため、通気性の変化が小さく、さらなる改善が望まれている。
【0003】
また、通気可逆性織編物として、例えば、特許文献2にて、セルロースアセテート繊維を用いたもの、特許文献3にて、吸湿性ポリマーからなる合成繊維を用いたもの、特許文献4にて、ポリアミドを含む複合繊維を用いたもの、等が提案されている。しかしながら、これらは、織編物の状態での通気可逆性能を向上させることを主眼においたものであり、構成する糸の状態での通気可逆性能の向上についての検討があまり進んでいないのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−41462号公報
【特許文献2】特開2002−180323号公報
【特許文献3】特許平10−77544号公報
【特許文献4】特許平6−316813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術における問題点を解決するものであり、本発明の目的は、吸湿特性と捲縮性をさらに向上させた捲縮複合繊維を提供し、かつ該捲縮複合繊維が含まれる通気度変化織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の要旨は、吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維であって、湿潤状態での糸伸長率が20%以上、乾燥状態での捲縮率が15〜35%の捲縮率である捲縮複合繊維にある。
第2の要旨は、吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に捲縮加工を施して捲縮率を4〜15%とした後、アルカリ減量加工を施して該捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とすることを特徴とする前記の捲縮複合繊維の製造方法にある。
第3の要旨は、前記の捲縮複合繊維が含まれる通気度変化織編物にある。
第4の要旨は、下記の工程からなる通気度変化織編物の製造方法にある。
(1)吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に仮撚数T(t/m)が11000/D1/2〜35000/D1/2(D:dtex)の仮撚条件で捲縮加工を施し、捲縮率を4〜15%とする
(2)捲縮加工を施した捲縮複合繊維を用いて製織又は製編する
(3)織編物にアルカリ減量加工を施し、含まれる捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とする
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸湿特性に優れた複合繊維に、捲縮加工とアルカリ減量加工を施したことにより、吸湿特性と捲縮性をさらに向上させた捲縮複合繊維を提供することができ、かかる捲縮複合繊維が含まれる織編物は、通気度変化性能を有する通気度変化織編物であり、本発明の方法によれば、この通気度変化織編物を、捲縮加工、製織・製編した後の織編物にアルカリ処理による減量加工にて得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の捲縮複合繊維を構成する複合繊維は、吸湿特性の異なる2種の成分、すなわち湿熱特性の低い成分と湿熱特性の高い成分が接合された複合繊維である。ここで、吸湿特性とは、織編物を構成する繊維のその表面や内部に水蒸気を吸着・吸収する性質をいう。本発明においては、吸湿特性の異なる2種の成分は、2種の成分間に公定水分率(JIS L0105で定義される)で3.5〜10%の差がある組み合わせとすることが好ましい。公定水分率の差が3.5%未満では、吸湿特性を有せず、公定水分率の差が10%を超えると、織編物としたときに形態安定性に欠けたものとなる。
【0009】
複合繊維における2種の成分の組み合わせとしては、例えば、ポリエステルとポリアミドといった異種のポリマーの組み合わせ、吸湿特性の低いセルロースエステルと吸湿特性の高いセルロースエステルといった同種のポリマーの組み合わせ等が挙げられる。複合繊維は、吸湿特性の異なる2種の成分を用いて接合構造に複合紡糸して得てもよいし、2種の成分を用いて接合構造に複合紡糸して得た前駆体繊維を後処理し、吸湿特性の異なる2種の成分に変化させて得てもよい。また、接合構造は、サイドバイサイド型であることが捲縮発現上好ましい。
【0010】
本発明においては、特にアルカリ反応性の異なる2種のセルロースエステルを用いて接合構造に複合紡糸して前駆体繊維とし、得られた前駆体繊維にアルカリ減量加工を施し、アルカリ反応性の高いセルロースエステルを脱エステル化して吸湿特性の高い成分に変化させることによって得た複合繊維であることが好ましい。
【0011】
さらに、セルロースエステルを用いた場合を、セルロースエステルとして工業的、汎用的に用いられているセルロースアセテートで説明する。セルロースアセテートは、セルロースの有する水酸基の一部又は全部がアセチル基に置換されたセルロース誘導体であり、理論上の置換度の上限は3.00であり、平均置換度に応じて、平均置換度が2.76以上のセルローストリアセテート、平均置換度が2.22以上2.60未満のセルロースジアセテート、平均置換度が2.22未満のセルロースアセテート等の各種セルロースアセテートがある。
【0012】
セルロースアセテートは、アルカリ処理により脱アセチル化し、アセチル基が水酸基に変化しセルロース化することが従来より公知であり、平均置換度が低いセルロースアセテート程脱アセチル化が容易となる。したがい、平均置換度が低いセルロースアセテートは、アルカリ反応性が高いセルロースアセテートであり、同様に平均置換度が低いセルロースエステルは、アルカリ反応性が高いセルロースエステルということができる。
【0013】
本発明において好ましい複合繊維は、前述したように、平均置換度の異なる2種のセルロースエステルを用いて接合構造に複合紡糸して前駆体繊維とし、得られた前駆体繊維にアルカリ処理を施し、平均置換度の低い、すなわちアルカリ反応性の高いセルロースエステルを脱エステル化してセルロース化し吸湿特性の高い成分に変化させて得た複合繊維である。前駆体繊維の製造方法は、例えば、特開平7−102419号公報等に示されるように、平均置換度2.91のセルローストリアセテートと平均置換度2.41のセルロースジアセテートを用い、乾式紡糸法により、セルローストリアセテートとセルロースジアセテートがサイドバイサイド型に接合した複合繊維とし、これを前駆体繊維とする。
【0014】
また、特開2004−115933号公報に示されるように、セルローストリアセテートとエステル化度が1.50〜3.00のセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートがサイドバイサイド型に接合した複合繊維とし、これを前駆体繊維とすることもできる。
【0015】
複合繊維或いは前駆体繊維における2種の成分の複合比は、好ましくは質量比で80:20〜20:80、より好ましくは60:40〜40:60とする。複合繊維の断面形状は、特に限定されず、三角、円形、扁平、Y字等、織編物としたときの風合い、光沢等を考慮して選択される。さらには、複合繊維における単繊維繊度、繊度斑、染色特性等についても特に限定はない。
【0016】
本発明の捲縮複合繊維は、湿潤状態で20%以上、好ましくは20%以上30%未満の糸伸長率及び乾燥状態で15〜35%の捲縮率を有する。なお、本発明において、湿潤状態とは、試料を水温20℃の水中に1分間浸漬した後の状態をいい、また、乾燥状態とは、試料を室温20℃、相対湿度65%の雰囲気下に24時間放置した後の状態をいい、捲縮率は特に断らない限り乾燥状態での捲縮率をいう。
【0017】
糸伸長率が湿潤状態で20%未満では、織編物としたとき加湿された場合に通気度変化が乏しくなり、織編物による衣服内の温湿度変化が低下したものになり、30%以上になると、織編物としたときの寸法安定性が悪くなる。本発明の捲縮複合繊維は、湿潤状態から乾燥状態に戻したときの糸回復率は70%以上であることが好ましい。糸回復率が70%未満では、織編物としたときの復元性が低くなり、寸法安定性も悪くなる傾向にある。また、捲縮率が15%未満では、膨らみ感に欠けるものとなり、35%を超えると、後工程での通過性に劣るものとなる。
【0018】
ここで、湿潤状態の糸伸長率とは、乾燥状態で所定荷重(0.59cN/dtex)を加えたときの糸長と、湿潤状態で同様の荷重を加えたときの糸長から算出した糸の伸び率をいう。また、糸回復率とは、湿潤状態で前記と同様の所定の荷重を加えたときの糸長と、乾燥状態に戻して同様の所定荷重を加えたときの糸長から算出した糸の戻り率をいう。
【0019】
本発明の捲縮複合繊維は、次のようにして製造することができる。すなわち、吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に、捲縮加工を施して捲縮率を4〜15%とした後、アルカリ減量加工を施してさらに該捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とすることにより得ることができる。
【0020】
捲縮加工としては、繊維に捲縮を付与して嵩高性にする加工であり、糸に加撚−熱固定−解撚を連続的に施す仮撚加工、繊維を狭い箱又は筒に押し込み、いったん三次元の糸塊を形成させた後、順次他端から押し出し、1本の糸に解除する押込加工、一対の歯車に糸を噛み込ませて歯形を賦型するギア加工、いったん編物を形成して網目型を賦型した後に解編するニットデニット加工等が挙げられるが、コスト面及び汎用性の面から、仮撚加工を用いることが好ましい。
【0021】
本発明にて用いられる仮撚加工においては、2種の成分が接合された複合繊維を、仮撚フィード率(仮撚機における供給糸の供給ローラと引取ローラの速度比)を−5%以上+5%未満とすることが好ましく、−5%未満では、糸張力が高くなり毛羽が発生したり、糸切れが発生したりし易くなり、+5%以上では、糸張力が低くなり糸の走行性が乱れ、糸切れ、毛羽、捲縮斑等が発生し易くなる。また、仮撚温度(仮撚機におけるヒータの温度)を100〜240℃とすることが好ましく、100℃未満では、捲縮セット効果がでにく、240℃を超えると、糸切れ、撚り斑が発生し易くなる。
【0022】
特に、仮撚加工においては、仮撚数(t/m)が11000/D1/2〜35000/D1/2(D:dtex)の仮撚条件で行うことが必要である。仮撚数(t/m)が11000/D1/2未満では、仮撚加工糸に十分な膨らみ感を得ることができず、35000/D1/2を超えると、毛羽、糸切れが多発する。さらに、仮撚加工においては、用いる複合繊維の構成に応じ、弛緩熱処理又は緊張熱処理を行ってもよく、比較的低弛緩率での弛緩熱処理により捲縮形態が安定し、後工程の通過性が良好となり、緊張熱処理により配向が高まり、均一な仮撚加工糸を得ることができる。
【0023】
捲縮加工により捲縮率を4〜15%とした複合繊維に施すアルカリ減量加工は、本発明において、特に複合繊維としてアルカリ反応性の異なる2種のセルロースエステルを用いて接合構造に複合紡糸してなる前駆体繊維が好ましく用いられることから、アルカリ反応性の低いセルロースエステルとアルカリ反応性の高いセルロースエステルとが接合された前駆体繊維の例で以下に説明する。
【0024】
アルカリ減量加工の条件は、アルカリ剤の種類、濃度、処理での温度、時間等により設定されるが、例えば、さらに前駆体繊維がセルローストリアセテートとセルロースジアセテートとが接合された前駆体繊維である場合、セルロースジアセテート成分のみを脱アセチル化して吸湿特性の高いセルロース成分にする場合、水酸化ナトリウム1質量%水溶液を用い、60〜90℃の温度で15〜30分間処理する。
【0025】
また、前駆体繊維がアセチル化度2.9のセルローストリアセテートとエステル化度2.5のセルロースアセテートプロピオネートとが接合された前駆体繊維である場合、セルローストリアセテート成分のみを脱アセチル化して吸湿特性の高いセルロース成分にする場合、水酸化ナトリウム1質量%水溶液を用い、沸騰温度で30〜60分間処理する。アルカリ減量加工には、糸状物を対象とする精練や染色に使用される装置等が用いられる。アルカリ減量加工におけるアルカリ処理後は温水或いは熱水処理で余剰のアルカリ剤を除去することが好ましい。かかるアルカリ減量加工により複合構造の繊維には貼り合わせの歪みに撚り捲縮が発現する。
【0026】
本発明の捲縮複合繊維は、織編物とすることができ、本発明の捲縮複合繊維が含まれる織編物は、通気度変化を有する。捲縮複合繊維が含まれる織編物は、捲縮複合繊維の混用率、織組織、編組織を、目的の製品の風合いや製品外観に応じて決定され、本発明の捲縮複合繊維のみで構成されて含まれていてもよいし、他繊維と交織或いは交編して含まれていてもよい。また、本発明の捲縮複合繊維が他繊維との合撚糸として織編物に含まれていてもよい。本発明の捲縮複合繊維と混用される他繊維としては、例えば、棉、麻、絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維があり、それぞれの繊維が有する特徴、例えば、光沢感、清涼感、シャリ感、ウエット感等の風合い、補強効果を与えることもできる。
【0027】
本発明の通気度変化を有する織編物は、次のようにして製造することができる。すなわち、(1)吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に仮撚数T(t/m)が11000/D1/2〜35000/D1/2(D:dtex)の仮撚条件で捲縮加工を施し、捲縮率を4〜15%とする工程、(2)捲縮加工を施した捲縮複合繊維を用いて製織又は製編する工程、(3)織編物にアルカリ減量加工を施し、含まれる捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とする工程によって、本発明の通気度変化織編物を得る。
【0028】
本発明の通気度変化織編物の製造方法において、捲縮加工の工程は、用いる繊維、捲縮加工方法も前述の捲縮複合繊維の製造におけると同様であり、製織又は製編の工程では、捲縮加工によって得られた捲縮複合繊維を用いて製織又は製編するが、製織又は製編の際の織組織、編組織、織機、編織には特に限定はないが、本発明の通気度変化織編物の適用用途を勘案して決定する。本発明の通気度変化織編物の製造方法において、特にアルカリ減量加工の工程では、織編物の状態で、アルカリ減量加工を施す。適用するアルカリ減量加工は、前述の捲縮複合繊維の製造におけると同様の条件で行われるが、アルカリ減量加工の対象が織編物であるので、液流染色機等の織物用或いは編物用の染色機を用いて行うことが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明における各特性値の測定は以下の方法に拠った。
【0030】
(糸伸長率、糸回復率)
ワク周1mの検尺器を用い、試料を0.01cN/dtexの荷重下で10回巻き10mのカセを作る。作成したカセに、水酸化ナトリウム1質量%水溶液、温度60〜65℃、浴比1:100の浴中で10分間のアルカリ減量加工を施し、乾燥後、90℃の熱水中で20分処理し、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下に24時間放置して自然乾燥した。乾燥した試料に0.59cN/dtexの荷重をかけ、1分経過後の長さL0(cm)を測定し、初期糸長とする。次いで、荷重を除き、カセを20℃の水中に1分間浸漬し、湿潤状態とする。表面に付いた過剰な水分をろ紙で拭き取った後、0.59cN/dtexの荷重をかけ、1分経過後の長さL1(cm)を測定する。さらに、カセを室温20℃、相対湿度65%の雰囲気下に24時間放置して自然乾燥し、再び、0.59cN/dtexの荷重をかけ、1分経過後の長さL2(cm)を測定する。各長さの測定値より、次式により、糸伸長率、糸回復率を算出した。測定値には5回行った平均値を用いた。
糸伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
糸回復率(%)=[(L1−L2)/(L1−L0)]×100
【0031】
(捲縮率)
ワク周1mの検尺器を用い、試料を0.01cN/dtexの荷重下で10回巻き10mのカセを作る。作成したカセを、90℃の熱水中で20分処理した後、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下に24時間放置して自然乾燥した。乾燥した試料に1.96cN/dtexの荷重をかけ、1分経過後の長さL1(cm)を測定する。次いで、荷重の除き、無荷重の状態で2分間放置する。その後、0.05cN/dtexの荷重をかけ、1分経過後の長さL2(cm)を測定し、次式により捲縮率を算出した。測定値には5回行った平均値を用いた。
捲縮率(%)=[(L1−L2)/L1]×100
【0032】
(通気度差)
試料にて織編物を作成し、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で、JIS L1018一般試験方法(フラジール形試験)に準拠し、テクステスト社製、通気度試験機FX3300で測定した。織編物を温度25℃、相対湿度65%の雰囲気下で水分率を平衡にしたときの初期通気度(A)(cm/cm/sec)を測定した。織編物を20℃の水中に1分間浸漬し湿潤させた後、再び温度25℃、相対湿度65%の雰囲気下で水分率を平衡にしたときの再乾燥時通気度(B)(cm/cm/sec)を測定し、次式により捲縮率を算出した。
通気度差(cm/cm/sec)=再乾燥時通気度(B)−初期通気度(A)
通気度差が20以上であれば良好な程通気度変化を示し、通気度差が大きくなるほど通気度変化性能が向上する。
【0033】
(実施例1)
平均置換度2.41のセルロースジアセテートと平均置換度2.91のセルローストリアセテートを質量比で50:50の複合比にサイドバイサイド型に乾式紡糸法により複合紡糸されたセルロースアセテート複合繊維(110dtex/26フィラメント(f))を前駆体繊維として用いた。この前駆体繊維に、三菱重工業社製、仮撚機LS−6型にて、仮撚フィード率−3%、仮撚温度160℃、仮撚数1800(t/m)、緊張熱処理温度200℃、緊張熱処理フィード率0%の条件で仮撚加工を施し、仮撚加工糸を作成した。得られた仮撚加工糸の捲縮率は4.5%であった。この仮撚加工糸にてカセを作成し、水酸化ナトリウム1質量%水溶液、温度60〜65℃、浴比1:100の浴中で10分間のアルカリ減量加工を施し、乾燥し、その後、90℃の熱水中で20分間の熱水処理を施した。アルカリ減量加工後の加工糸は糸伸長率が24.1%、糸回復率が72.9%、捲縮率が25.3%であった。また、アルカリ減量加工後の加工糸について、セルロース繊維は不染の分散染料にて染色した繊維断面を観察し、アリカリ反応性の高いセルロースジアセテートのみが脱エステル化してセルロース化していることが確認された。
【0034】
(実施例2)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を用い、仮撚フィード率−4%、仮撚温度160℃、仮撚数2200(t/m)、緊張熱処理温度160℃、緊張熱処理フィード率2.5%の条件で仮撚加工を施して仮撚加工糸を作成した以外は、実施例1におけると同様にしてアルカリ減量加工を施した。仮撚加工上がりの仮撚加工糸の捲縮率は6.8%、アルカリ減量加工後の加工糸は糸伸長率が23.7%、糸回復率が77.7%、捲縮率が25.7%であった。また、アルカリ減量加工後の加工糸について、セルロース繊維は不染の分散染料にて染色した繊維断面を観察し、アリカリ反応性の高いセルロースジアセテートのみが脱エステル化してセルロース化していることが確認された。
【0035】
(比較例1)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を用い、仮撚加工を施すことなく、実施例1におけると同様にしてアルカリ減量加工を施した。前駆体繊維の捲縮率は0.3%、アルカリ減量加工後の繊維は糸伸長率が15.1%、糸回復率が61.6%、捲縮率が27.1%であった。また、アルカリ減量加工後の繊維について、セルロース繊維は不染の分散染料にて染色した繊維断面を観察し、アリカリ反応性の高いセルロースジアセテートのみが脱エステル化してセルロース化していることが確認された。
【0036】
(比較例2)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を用い、仮撚フィード率−4%、仮撚温度160℃、仮撚数3500(t/m)、緊張熱処理温度160℃、緊張熱処理フィード率2.5%の条件で仮撚加工を施して仮撚加工糸を作成した以外は、実施例1におけると同様にしてアルカリ減量加工を施した。仮撚加工上がりの仮撚加工糸の捲縮率は16.3%、アルカリ減量加工後の加工糸は糸伸長率が18.9%、糸回復率が82.6%、捲縮率が32.3%であった。また、アルカリ減量加工後の加工糸について、セルロース繊維は不染の分散染料にて染色した繊維断面を観察し、アリカリ反応性の高いセルロースジアセテートのみが脱エステル化してセルロース化していることが確認された。
【0037】
(比較例3)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を用い、仮撚フィード率−4%、仮撚温度160℃、仮撚数900(t/m)、緊張熱処理温度160℃、緊張熱処理フィード率2.5%の条件で仮撚加工を施して仮撚加工糸を作成した以外は、実施例1におけると同様にしてアルカリ減量加工を施した。仮撚加工上がりの仮撚加工糸の捲縮率は2.5%、アルカリ減量加工後の加工糸は糸伸長率が16.2%、糸回復率が65.5%、捲縮率が22.3%であった。また、アルカリ減量加工後の加工糸について、セルロース繊維は不染の分散染料にて染色した繊維断面を観察し、アリカリ反応性の高いセルロースジアセテートのみが脱エステル化してセルロース化していることが確認された。
【0038】
(実施例3)
実施例2における仮撚加工により得た6%の捲縮率を有する仮撚加工糸を用いて、20Gの一口編機にて編地を作成した後、実施例1におけると同様にして編地にアルカリ減量加工を施した。その後、分散染料を用い、温度120℃で30分の染色を行った。得られた染色編地は、構成繊維におけるセルロース化した部分が無着色であり、通気度差が316.3cm/cm/secであり、優れた通気度変化を有するものであった。
【0039】
(比較例4)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を用い、仮撚加工を施すことなく、20Gの一口編機にて編地を作成した後、実施例1におけると同様にして編地にアルカリ減量加工を施した。その後、実施例3におけると同様に120℃30分の染色を行った。得られた染色編地は、構成繊維におけるセルロース化した部分が無着色であり、通気度差が260.4cm/cm/secであり、通常の通気度を有するものであった。
【0040】
(実施例4)
実施例2における仮撚加工により得た6%の捲縮率を有する仮撚加工糸を裏地に用い、ポリエチレンテレフタレート繊維(167dtex/30f)の仮撚加工糸をパイル地に用いたパイル編地を作成した後、実施例1におけると同様にして編地にアルカリ減量加工を施した。その後、実施例3におけると同様に120℃30分の染色を行った。得られた染色編地は、裏地の構成繊維におけるセルロース化した部分が無着色であり、通気度差が16.9cm/cm/secであり、通気度変化の低いものであった。
【0041】
(比較例5)
実施例1で用いたと同じ前駆体繊維(110dtex/26f)を、仮撚加工を施すことなく、裏地に用い、ポリエチレンテレフタレート繊維(167dtex/30f)の仮撚加工糸をパイル地に用いたパイル編地を作成した後、実施例1におけると同様にして編地にアルカリ減量加工を施した。その後、実施例3におけると同様に120℃30分の染色を行った。得られた染色編地は、裏地の構成繊維におけるセルロース化した部分が無着色であり、通気度差が7.1cm/cm/secであり、通気度変化の低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、吸湿特性に優れた複合繊維に捲縮加工を施し、織編物にした後にアルカリ減量加工することで、織編物での状態で捲縮複合繊維の吸湿特性及び捲縮性能をさらに向上させ、優れた通気度変化性能を付与したものであるから、本発明の織編物は、発汗時の衣服内部における温湿度の自動調整効果を有し、特にパンツ、シャツ等のインナーウエアやスポーツウエア等の衣料用途に好適なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の捲縮複合繊維を得るための加工工程の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1 供給糸
2 供給ローラ
3 第1ヒータ
4 仮撚スピンドル
5 第1引取ローラ
6 第2ヒータ
7 第1引取ローラ
8 巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維であって、湿潤状態での糸伸長率が20%以上、乾燥状態での捲縮率が15〜35%の捲縮率である捲縮複合繊維。
【請求項2】
2種の成分間の公定水分率の差が3.5〜10%である請求項1に記載の捲縮複合繊維。
【請求項3】
2種の成分の少なくとも一方がセルロースエステルである請求項1又は2に記載の捲縮複合繊維。
【請求項4】
吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に捲縮加工を施して捲縮率を4〜15%とした後、アルカリ減量加工を施して該捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の捲縮複合繊維の製造方法。
【請求項5】
捲縮加工として、仮撚数(t/m)が11000/D1/2〜35000/D1/2(D:dtex)の仮撚条件での仮撚加工を施す請求項4に記載の捲縮複合繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の捲縮複合繊維が含まれる通気度変化織編物。
【請求項7】
下記の工程からなる通気度変化織編物の製造方法。
(1)吸湿特性の異なる2種の成分が接合された複合繊維に仮撚数T(t/m)が11000/D1/2〜35000/D1/2(D:dtex)の仮撚条件で捲縮加工を施し、捲縮率を4〜15%とする
(2)捲縮加工を施した捲縮複合繊維を用いて製織又は製編する
(3)織編物にアルカリ減量加工を施し、含まれる捲縮複合繊維での捲縮率を15〜35%とする

【図1】
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【公開番号】特開2008−285790(P2008−285790A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133600(P2007−133600)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】