説明

排ガス中の二酸化炭素を効率的に吸収及び回収する水溶液

【課題】ガス中二酸化炭素の吸収を高効率で行うだけでなく、二酸化炭素を吸収した水溶液からの二酸化炭素の脱離も高効率に行われ、低いエネルギー消費量で高純度の二酸化炭素を回収できる水溶液を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収及び回収するための水溶液であって、一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物を50〜70重量%、及び界面活性剤を含むことを特徴とする水溶液。


(式中、Rは、炭素数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に含まれる二酸化炭素(CO2)を吸収及び回収するための水溶液に関するものである。更に、当該水溶液を使用した二酸化炭素の吸収及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に起因すると考えられる気候変動や災害の頻発が、農業生産、住環境、エネルギー消費等に多大の影響を及ぼしている。この地球温暖化は、人間の活動が活発になることに付随して増大する二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロン等の温室効果ガスが大気中に増大するためであると考えられている。その温室効果ガスの中で最も主要なものとして大気中の二酸化炭素が挙げられており、その放出量の削減に向けての対策が緊急に必要となっている。
【0003】
二酸化炭素の発生源としては石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、そしてガソリン、重油、軽油等を燃料とする自動車、船舶、航空機等の輸送機器などがある。これらのうち輸送機器を除くものについては固定的な設備であり、二酸化炭素の放出を削減する対策を施しやすい設備として期待されている。
【0004】
排ガス中の二酸化炭素を回収する方法としてはこれまでもいくつかの方法が知られている。そしてまた現在も広く種々の方法が研究されている。
【0005】
例えば、二酸化炭素を含むガスを吸収塔内でアルカノールアミン水溶液と接触させて二酸化炭素を吸収さる方法がよく知られている。ここでアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン(以下、MEAと示すこともある)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、メチルジエタノールアミン(MDEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、ジグリコールアミン(DGA)等が知られているが、通常MEAが用いられている。
【0006】
しかし、これらのアルカノールアミンの水溶液を吸収液として用いた場合、装置の材質の腐食性が高いため、装置に高価な耐食鋼を用いる必要があったり、吸収液中のアミン濃度を下げる必要がある。また、吸収した二酸化炭素を脱離しにくいために、脱離の温度を120℃と高い温度に加熱して脱離及び回収する必要があるが、これは二酸化炭素とアミンとの反応熱が例えばMEAの場合80 kJ/molCO2と高く、これが二酸化炭素を脱離するのにも高いエネルギーを必要とすることに起因するものである。例えば、この方法を用いて発電所において二酸化炭素を回収するには、発電量の約20%にもあたる余分なエネルギーが必要となってしまう。二酸化炭素の発生の削減、省エネルギー及び省資源が求められる時代においては、この高エネルギー消費は二酸化炭素吸収及び回収設備の実用化を阻む大きな要因となっており低エネルギーでの二酸化炭素の回収技術が求められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、アミノ基周辺にアルキル基等の立体障害があるいわゆるヒンダードアミンの水溶液と大気圧下の燃焼排ガスとを接触させ、当該水溶液に二酸化炭素を吸収させることによる、燃料排ガス中の二酸化炭素の除去方法が記載されている。
【0008】
当該特許文献1には、ヒンダードアミンとして2−メチルアミノエタノール(以下、MAEと示すこともある)及び2−エチルアミノエタノール(以下、EAEと示すこともある)の実施例が記され、MAE及びEAE30重量%の水溶液が実施例で使用されている。実施例はないものの他のヒンダードアミンとして2−イソプロピルアミノエタノール(以下、IPAEと示すこともある)等のアミンが記されている。
【0009】
特許文献2には、同じくヒンダードアミンである2-イソプロピルアミノエタノール(IPAE)のみを含む吸収液が記載されており、高い吸収性能と脱離性能が特徴として挙げられているが、比較例1及び2に示されているように二酸化炭素の回収をより効率的にするために濃度を60重量%までに上げると吸収速度の低下、及び脱離量の低下が大きくヒンダードアミンの特性が生かされず吸収液の性能が低下する結果が記載されている。
【0010】
二酸化炭素吸収液の有効成分であるアミン成分は、通常モル濃度でみて3-5M/L、重量濃度で35-50%が多くの実施例で示されており高濃度での使用は全体の性能を下げることが知られている。この原因としては、アミン成分の吸収液中の濃度が上がると、吸収液の粘度が上がり特に吸収速度性能の低下があること、粘度の向上により伝熱性能が低下すること等が考えられる。
【0011】
一方で、吸収液中のアミン濃度の向上により吸収工程及び放散工程の1サイクルでの二酸化炭素の回収量が増加するため、高濃度化が可能となれば単位重量当たりの回収エネルギーを低下させる効果をもたらす利点がある。
【0012】
また、特許文献3には、炭酸ガスをマイクロバブル化により回収し海底又は地中に貯留する場合、界面活性剤を混入させマイクロバブル同士の結合を防ぎマイクロバブルの存在寿命を延ばすことができると記載されているが、界面活性剤の効果は本発明のようなアルカノールアミン水溶液での適用とは目的及び効果も異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許2871334号公報
【特許文献2】特開2009-6275号公報
【特許文献3】特開2004-50167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上の従来技術の問題点に鑑み、本発明は、ガス中の二酸化炭素の吸収を高効率で行えるだけでなく、二酸化炭素を吸収した水溶液からの二酸化炭素の脱離も高効率に行うことができ、低いエネルギー消費量で高純度の二酸化炭素を回収できる水溶液を提供することを目的とする。具体的には、従来より優れた性能を持つ吸収液としてヒンダードアミンを高濃度で含む水溶液の使用であって、単位量当たりの二酸化炭素吸収量及び脱離量が大きく、且つ二酸化炭素脱離に必要なエネルギーが低いため、効率的に二酸化炭素を吸収且つ脱離して高純度の二酸化炭素を回収できる水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、吸収時の効率を向上させるため、ヒンダードアミン型の各種のアルカノールアミンを高濃度で含む吸収液で二酸化炭素の吸収工程を実施し、各吸収液から二酸化炭素を脱離して、二酸化炭素を回収する吸収液について鋭意研究した。
【0016】
その結果、二酸化炭素を含む排ガスに対してヒンダードアミンであるN-アルキルアルカノールアミン50-70重量%と少量の界面活性剤を含む吸収液を用いた場合に、吸収工程の後に、続いて脱離工程を実施することにより、二酸化炭素の高い吸収量及び吸収速度が達成されると共に、単位吸収液量当たりの吸収及び脱離の1サイクルでの回収量を大きく向上させることが可能となった。結果として二酸化炭素を分離回収するエネルギーを低減させことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
一般にはヒンダートアミンの多くはアミノ基にバルキーなアルキル基が置換された構造を持っているためその親水性は低く高濃度化して使用する場合、粘度の向上により吸収量、吸収速度の低下等の問題があるとされてきた。
【0018】
しかしながら、高濃度水溶液の各種物性と吸収性能の関連を鋭意検討した結果、吸収液の表面張力と吸収液性能とに関連があり、界面活性剤を添加した吸収液では界面活性剤の添加により吸収液の表面張力が低下し、その結果、高濃度の吸収液においても吸収速度の低下が防げることを見出した。種々の界面活性剤の添加と吸収性能との関連を測定した結果、従来よりも高濃度域での吸収速度の低下を抑制するためには、吸収液の常温(25℃)での表面張力を30 mN/m以下とする必要があるという結果を見出した。
【0019】
これにより従来の課題が解決され、吸収量が増加し、1サイクルでの吸収量と脱離量の差であるローディング量が大きい吸収液性能が発現され、従来よりも低エネルギーで、二酸化炭素を吸収し且つ脱離して高純度の二酸化炭素の回収を可能とする水溶液を提供することが可能となった。
【0020】
即ち、本発明は以下の項1から項7の構成を成すものである。
【0021】
項1.二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収及び回収するための水溶液であって、一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物を50〜70重量%、及び界面活性剤を含むことを特徴とする水溶液。
【0022】
【化1】

(式中、Rは、炭素数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)
【0023】
項2.前記界面活性剤の重量濃度が10〜1500 ppmであることを特徴とする、項1に記載の水溶液。
【0024】
項3.Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤がノニオン型のパーフルオルロアルキル基を持つ化合物であることを特徴とする、項1又は2に記載の水溶液。
【0025】
項4.Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤が両性型のパーフルオロアルキル基を持つ化合物であることを特徴とする、項1又は2に記載の水溶液。
【0026】
項5.Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤がノニオン型のポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物であることを特徴とする、項1又は2に記載の水溶液。
【0027】
項6.25℃における表面張力が30 mN/m以下であることそ特徴とする、項1〜5のいずれかに記載の水溶液。
【0028】
項7.(1)項1〜6のいずれかに記載の水溶液を二酸化炭素を含むガスと接触させ、ガスから二酸化炭素を吸収する工程、及び
(2)上記(1)で得られた二酸化炭素が吸収された水溶液を加熱して、二酸化炭素を脱離して回収する工程、
を含む二酸化炭素の吸収及び回収方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の界面活性剤を含む高濃度アルカノールアミン水溶液によれば、吸収・脱離の1サイクル当たりの二酸化炭素の回収量が増加するのみならず、高濃度吸収液を使用した場合、低濃度吸収液と比較して二酸化炭素モル当たりの発熱量が低下する効果があり、単位重量当たりの二酸化炭素の回収エネルギーは低くなる。結果として、本発明の水溶液によると、効率的且つ低エネルギー消費量でガス中の二酸化炭素を吸収及び脱離して、高純度の二酸化炭素を回収することが可能となる。また、二酸化炭素の吸収及び脱離の効率化は、吸収及び脱離サイクルにおける循環流量の低減に繋がり、吸収塔、脱離等及びこれらに付随する装置の小型化が可能となり、結果として投資額及び運転費の低減をももたらす効果がある。
【0030】
更に、二酸化炭素吸収に用いるモノエタノールアミンは、一般的に炭素鋼などの金属材料に対して高い腐食性を示し、特に高濃度において腐食性が増大するとされているが、本発明で用いるN-アルキルアミン類の水溶液は、腐食性が低く高濃度においても腐食性が増大することは見られず、プラント建設において高価な高級耐食鋼を用いる必要がない点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳述する。
【0032】
二酸化炭素を吸収及び回収するための水溶液
本発明の二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収及び回収するための水溶液は、一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物を50〜70重量%、及び界面活性剤を含むことを特徴とする。
【0033】
【化2】

(式中、Rは、炭素数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)
【0034】
具体的には、Rとしては、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、イソペンチルなどが挙げられ、Rは好ましくはイソプロピル、n-ブチル及びイソブチルであり、より好ましくはイソプロピル及びn-ブチルである。化合物〔1〕は、本発明の水溶液中に単独又は複数含まれていても良い。
【0035】
本発明の水溶液中の一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物の濃度は、通常50〜70重量%、好ましくは52〜70重量%、より好ましくは54〜66重量%である。71重量%以上では、表面張力の低下効果も小さく吸収速度向上の効果が出にくい結果となった。
【0036】
一般にヒンダードアミンは、モノエタノールアミンと違い低発熱量及び高脱離性を示す優れたアミンであるが、その理由は二酸化炭素との反応の違いによる。13C-NMRの測定によるとモノエタノールと二酸化炭素との反応は大半がカーバメート結合を伴うものであるが、Rの炭素数が限定されない一般式〔1〕のヒンダードアミンだとカーバメート結合とバイカーバメート結合の両方が生成することが知られている。例えば、Rがエチル基であるエチルアミノエタノールアミンでは、カーバメート結合が約30%と多いが、本発明のRが炭素数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基である化合物〔1〕では、二酸化炭素とアミン化合物との結合様式は、カーバメート結合はトレース量であり二酸化炭素との反応の大半は低発熱量のバイカーボネート結合のみである。このことは回収エネルギーを低減させるという課題にとって優れた性能を示すことに繋がる。
【0037】
また、本発明の水溶液は、上述の様に低濃度の水溶液と比較して二酸化炭素吸収時の発熱量が小さいという特徴も有している。例えば、吸収反応初期より対アミンで0.6モル比まで二酸化炭素を吸収させた場合のモル当たりの発熱量は、30重量%のIPAE濃度では76.6 kJ/モルCO2であるのに対して、高濃度の60重量%のIPAE濃度においては70.2 kJ/モルCO2と低い値を示す。その理由については、本発明のヒンダードアミン構造では、二酸化炭素とアミンとの反応は上述のようにバイカーボネート結合が主であり、発熱量を構成するものは、重炭酸イオンとプロトン化アミンとのイオン対の生成、及び溶媒である水との溶媒和に起因するものである。この場合、高濃度化により溶媒和を含めた水溶液中の各イオンの安定化構造に変化が起こり、発熱量の低下が起こるものと推定している。
【0038】
また、二酸化炭素吸収の発熱量は、二酸化炭素脱離時に必要な熱に相当するため、当該発熱量の低下により、二酸化炭素を脱離させるために必要なエネルギー消費を低く抑えることが出来、二酸化炭素回収エネルギーの低減に繋がる効果をももたらす。
【0039】
本発明の構成要素である界面活性剤についてその効果及び種類について以下に説明する。アミン水溶液は、高濃度にすると吸収液の単位重量当りの吸収及び放散の1サイクルでの回収量は増大し回収効率及び回収エネルギーの低減に効果を発揮するが、高濃度にすると二酸化炭素と吸収液の接触効率が低下するためか、吸収速度が低下し所定の二酸化炭素の吸収量が達成できないことは上述の通りである。
【0040】
本発明者らは、高濃度化した吸収液の種々の物性と二酸化炭素の吸収速度の関係を詳細に検討した結果、吸収液の物性の中で特に表面張力が大きな支配因子であることを見出した。気液接触反応であるアミン水溶液による二酸化炭素吸収反応に於いては気体と液体との接触界面での効率が重要であり、高濃度吸収液ではこの接触効率の向上に表面張力の低下が関与していると推定された。
【0041】
本発明のヒンダードアミンはアミノ基をアルキル基で置換したものであり、アルキル基の炭素鎖が長く、分枝度が上がるほど親水性は低下し水への溶解度は低下するとされている。例えば特許文献2では、R基がイソプロピルであるIPAEを使用した場合、60重量%まで高濃度化した吸収液では速度低下が起こるとされている。
【0042】
本発明の化合物の一つであるIPAEの場合、所定の吸収試験では、30重量%の水溶液の吸収速度は5.0 g/l/minであるが、60重量%では2.9 g/l/minに低下した。高濃度吸収液でのこの吸収速度の低下に対して、当該吸収液にそれぞれノニオン性の界面活性剤を重量濃度で100 ppm添加すると、30重量%では吸収速度5.2 g/l/minで速度への効果はあまり大きくないが、60重量%の吸収液へ添加した場合は4.7 g/l/minまで上昇し界面活性剤の添加による吸収速度向上の効果が見られた。ここで吸収速度は、吸収液に40℃で二酸化炭素を飽和量まで吸収させた場合の飽和量の1/2まで吸収した時点での1分当たりの二酸化炭素吸収量を表すもので、4.5 g/l/min以上であれば工業的にも採用しうる吸収速度といえる。
【0043】
上記の高濃度アミン水溶液における界面活性剤の効果は次の様に推定している。IPAEを含む30、60重量%の水溶液に上記界面活性剤を添加した場合の常温での表面張力は、30重量%では45 mN/m(IPAEを含まない水の表面張力は78 mN/mであった)であるが、60重量%では24 mNmとなり表面張力の大きな低下が見られ、これが吸収速度の向上に繋がる結果となった。これは気液反応における吸収液表面での二酸化炭素と吸収液の接触効率を推進する”ぬれ性”の向上で吸収速度の向上に繋がったことによるものと推定している。
【0044】
一般に界面活性剤は、界面活性を示す部分の化合物の構造により、アニオン性、カチオン性、両性、及び非イオン性との分類がなされるが、本発明においてはそのいずれもが使用され得る。例えば、アニオン性のものとしてはアルキルベンゼンスルホン酸、モノアルキルリン酸等、カチオン性のものとしてはアルキルトリメチルアンモニウム塩等、分子内にアニオン性部位及びカチオン性部位の両方をもつ両性のものとしてはアルキルジメチルアミンオキシド等、非イオン性のものとしてはポリオキシエチレンアルキルエーテル(PEGと略す)等々が使用し得る。また、フッ素原子を化合物内にもつ界面活性剤も本発明に使用し得るが、その場合も界面活性を示す部分の性質に応じて上記の4種の分類がなされ、いずれのタイプの界面活性剤も使用し得る。フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルアルコール、パーフルオルアルキルスルホン酸等を成分とする各種市販の界面活性剤が挙げられる。
【0045】
本発明において使用する界面活性剤は、水溶液中のアミン種、アミン濃度、使用時の温度等に応じて選択されるが、好ましくは含フッ素系の化合物、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物が選択される。含フッ素系の化合物としては、ノニオン型又は両性型のパーフルオロアルキル基を持つ化合物が特に好ましい。ノニオン型のパーフルオロアルキル基を持つ化合物としては、例えばサーフロンS-141(AGCセイミケミカル社製)が挙げられ、両性型のパーフルオロアルキル基を持つ化合物としてはサーフロンS-131(AGCセイミケミカル社製)が挙げられる。
【0046】
本発明の水溶液中の界面活性剤の含量は使用するアミン種、界面活性剤の種類等により最適値が選択されるが、一般には少量でよく、水溶液に対して重量基準で好ましくは10〜1500 ppm、より好ましくは20〜1000 ppm、更に好ましくは20〜800 ppm、特に好ましくは30〜700 ppmの範囲が選ばれる。界面活性剤の最適量は、アミンの種類及び濃度の異なる吸収液に対して添加量を変えた試験により求められるが、必要以上に添加すると発泡等の問題が発生する。界面活性剤は、そのままの形で添加しても良いが吸収及び脱離に影響を与えない溶媒、例えばアルコール等の溶液として添加してもよい。
【0047】
一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物及び上記界面活性剤は、市販品を入手できるか又は公知の方法により製造できる。
【0048】
本発明の水溶液の25℃での表面張力は、好ましくは30 mN/m以下、より好ましくは28 mN/m以下、更に好ましくは20〜27 mN/mである。表面張力をこの範囲に設定することで、本発明の高濃度のアミンを含む水溶液における二酸化炭素の吸収速度を向上させることができる。本発明における表面張力は、協和界面科学(株)Drop Master 300を使用して懸滴法(ペンダント・ドロップ法)により25℃で測定される値とする。
【0049】
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、製造所のボイラー、セメント工場のキルン、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する同じく製鉄所の転炉等からの排ガスが挙げられ、該ガス中の二酸化炭素濃度は、通常5〜30体積%程度、特に6〜25体積%程度であれば良い。かかる二酸化炭素濃度範囲では、本発明の作用効果が好適に発揮される。なお、二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素以外に水蒸気、CO、H2S、COS、SO2、水素等のガスが含まれていてもよい。
【0050】
二酸化炭素の吸収及び回収方法
本発明の二酸化炭素の吸収及び回収方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)上記水溶液を二酸化炭素を含むガスと接触させ、ガスから二酸化炭素を吸収する工程及び
(2)上記(1)で得られた二酸化炭素が吸収された水溶液を加熱して、二酸化炭素を脱離して回収する工程。
【0051】
・二酸化炭素吸収工程
本発明の方法は、上記水溶液を二酸化炭素を含むガスと接触させ、ガスから二酸化炭素を吸収する工程を含むが、二酸化炭素を含むガスを一般式〔1〕で表されるヒンダードアミンであるN-アルキルアミノエタノールを含む水溶液に接触吸収させる方法は特に限定はない。例えば、該水溶液中に二酸化炭素を含むガスをバブリングさせて吸収する方法、二酸化炭素を含むガス気流中に該水溶液を霧状に降らす方法(噴霧又はスプレー方式)、磁製や金属網製の充填材の入った吸収塔内で二酸化炭素を含むガスと該水溶液を向流接触させる方法などによって行われる。
【0052】
二酸化炭素を含むガスを水溶液に吸収させる時の温度は、通常60℃以下で行われ、好ましくは50℃以下、より好ましくは20〜45℃程度で行われる。温度が低いほど吸収量は増加するが、どこまで温度を下げるかは排ガスのガス温度、熱回収目標等によって決定される。二酸化炭素吸収時の圧力は通常ほぼ大気圧で行われる。吸収性能を高めるためより高い圧力まで加圧することもできるが、圧縮のために要するエネルギー消費を抑えるため大気圧下で行うのが好ましい。
【0053】
二酸化炭素を含むガスについては前述するものと同様である。
【0054】
・二酸化炭素脱離工程
本発明の方法は、二酸化炭素吸収工程で得られた水溶液を加熱して二酸化炭素を脱離して回収する工程を含む。
【0055】
二酸化炭素を吸収した水溶液から二酸化炭素を脱離し、純粋な或いは高濃度の二酸化炭素を回収する方法としては、蒸留と同じく水溶液を加熱して釜で泡立てて脱離する方法、棚段塔、スプレー塔及び磁製や金属網製の充填材の入った脱離塔内で液界面を広げて加熱する方法などが挙げられる。これにより、重炭酸イオンから二酸化炭素が遊離して放出される。
【0056】
二酸化炭素脱離時の液温度は通常70℃以上で行われ、好ましくは80℃以上、より好ましくは90〜120℃程度で行われる。温度が高いほど吸収量は増加するが、温度を上げると吸収液の加熱に要するエネルギーが増すため、その温度はプロセス上のガス温度、熱回収目標等によって決定される。二酸化炭素を脱離した後のアミン水溶液は、再び二酸化炭素吸収工程に送られ循環使用(リサイクル)される。この間、二酸化炭素脱離工程で加えられた熱は、循環過程においてこれから二酸化炭素脱離工程に向かう水溶液との熱交換により当該水溶液の昇温に有効に利用されて回収工程全体のエネルギーの低減が計られ得る。
【0057】
このようにして回収された二酸化炭素の純度は、通常、98〜99体積%、より適切及び安定に実施した場合には99.0〜99.9体積%と極めて純度が高いものであり、化学品、あるいは高分子物質の合成原料、食品冷凍用の冷剤等として用いられる。その他、回収した二酸化炭素を、現在技術開発されつつある地下等へ隔離貯蔵することも可能である。
【実施例】
【0058】
次に、本発明について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1
液の温度が40℃になるように設定した恒温水槽内に、ガラス製のガス洗浄ビンを浸し、これにIPAE(東京化成品試薬)55重量%と、界面活性剤としてノニオン型パーフルオロ化合物であるサーフロンS-141(AGCセイミケミカル社製)を重量濃度で100 ppm含む水溶液(吸収液)50 mlを充填した。吸収操作前の吸収液の25℃での表面張力は、協和界面科学(株)Drop Master300で測定した結果、25 mN/mであった。この液の中に、目の粗さ100μm、直径13 mmのガラスフィルターを通して、大気圧、0.7 L/minで二酸化炭素20体積%及び窒素80体積%を含む混合ガスを泡状に分散させて60分間吸収させた。
【0060】
吸収入口及び吸収液出口のガス中の二酸化炭素濃度を、赤外線式の二酸化炭素計(HORIBA GAS ANALYZER VA-3000)で連続的に測定して、入口及び出口の二酸化炭素流量の差から二酸化炭素吸収量を測定した。必要により吸収液中の無機炭素量をガスクロマトグラフ式の全有機炭素計(SHIMADZU TOC-VCSH)で測定し赤外線式二酸化炭素計から算出される値と比較した。飽和吸収量は吸収液出口の二酸化炭素濃度が入口の二酸化炭素濃度に一致する時点における量とした。吸収速度は吸収量に応じて変化するが、飽和吸収量の1/2を吸収した時点の吸収速度を基準として測定して比較した。
【0061】
ついで同じガス気流中で液温を数分にて70℃に上げて、60分間同条件にて二酸化炭素脱離量を測定した。40℃の二酸化炭素飽和吸収量は145.5 g/Lで、飽和吸収量の1/2吸収時の吸収速度は4.8 g/L/minであった。70℃での二酸化炭素脱離は78.5 g/Lであった。回収された二酸化炭素の純度は、99.8%であった。
【0062】
発熱量は、示差熱式熱量計(SETARAM社 DRC Evolution)により2個の同一形状の攪拌機付き吸収装置で40℃において一方の反応器のみに二酸化炭素を所定量吹き込み、この間の2個の反応器内の発熱量の差により測定した。
【0063】
実施例2、3
IPAE 55重量%とS-141 100 ppmを含む水溶液に代えて、IPAEをそれぞれ60重量%、70重量%含み、界面活性剤としてサーフロンS-141を重量濃度で100 ppm、150 ppmを含む水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。界面活性剤を含む吸収液の表面張力は、それぞれ24、23 mN/mであった。40℃の二酸化炭素飽和吸収量はそれぞれ158.5 g/L、162.7 g/Lで、吸収速度は4.7 g/L/min、4.4 g/L/minであり、70℃の二酸化炭素脱離量は87.5 g/L、89.5 g/Lであった。
【0064】
実施例4〜6
アルキルアミノアルコールのアルキル基の種類をイソプロピル基に代えて、ノルマルブチル基(n-BAE)、イソブチル基(IBAE)、ノルマルペンチル基(n-PEAE)とした以外は実施例2と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。尚、IBAEを使用した実施例5の場合は、界面活性剤として非イオン性のポリオキシエチレンアルキルエーテルであるTriton Xを重量濃度で200 ppm使用した。それぞれの吸収液の表面張力は、22、25、23 mN/mであった。
【0065】
実施例7、8
界面活性剤をS-141 100 ppmに代えて、実施例7では両性型のサーフロンS-131を、実施例8では非イオン性のポリオキシエチレンアルキルエーテルをそれぞれ重量濃度で150 ppm、250 ppm添加した以外は実施例2と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。それぞれの表面張力は、26、24 mN/mであった。
【0066】
実施例9
界面活性剤の添加量を100 ppmに代えて、重量濃度で1500 ppmとした以外は実施例2と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。この場合の表面張力は、22 mN/mであった。
【0067】
実施例10
界面活性剤の添加量を100 ppmに代えて、重量濃度で20 ppmとした以外は実施例2と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。この場合の表面張力は、30 mN/mであった。
【0068】
比較例1〜3
IPAE 55重量%とS-141 100 ppmを含む水溶液に代えて、IPAE 30、55、60重量%のみを含む水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。この場合の表面張力は、それぞれ55、48、40 mN/mであった。
【0069】
比較例4〜6
界面活性剤を添加していない水溶液を使用した以外はそれぞれ実施例4〜6と同様にして、比較例4〜6について二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。この場合、表面張力は、それぞれ45、49、43 mN/mであった。
【0070】
比較例7
IPAE 55重量%とS-141 100 ppmを含む水溶液に代えて、IPAE 52重量%を含む水溶液にピペラジン 3重量%を添加してアミン総重量を55重量%とした水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、二酸化炭素の飽和吸収量、吸収速度、発熱量及び脱離量の測定を行った。ピペラジンは、アルカノールアミン類水溶液での二酸化炭素の吸収において反応活性剤として知られており、飽和吸収量及び吸収速度を向上させる効果があるものである。
【0071】
実施例1〜10及び比較例1〜7で得られた結果を表1及び2に示す。尚、表中の%は重量%を表す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
(実施例1)
上記の結果より、実施例1は、IPAE 30重量%の比較例1と比べて高濃度化により単位吸収液当たりの飽和吸収量及び脱離量が増大している。また、界面活性剤の添加により、吸収速度も4.8 g/Lと同一IPAE濃度の比較例2の3.2 g/Lより高くなっており界面活性剤の添加による効果が確認された。又、比較例1と比べて二酸化炭素1モル当りの発熱量は低下しており高濃度による効果が確認された。
【0075】
(実施例2、3)
上記の結果より、実施例3のIPAE 70重量%ではやや吸収速度が低下するが、飽和吸収量及び脱離量も、実施例2と比べて増加しており高濃度化による性能向上の効果が確認できた。
【0076】
又、実施例2及び3の高濃度化した吸収液は、比較例3と比べると同じ70℃での脱離条件での脱離量は多く、吸収及び脱離の1サイクル当りの二酸化炭素の回収が高くなっている。この結果、回収エネルギーの低減に繋がる効果を持つ。
【0077】
(実施例4〜6)
アルキル基の炭素鎖長を4、5とした場合、単位吸収液当たりの飽和吸収量は分子量の影響で低下はするものの、分子量補正をしたアミン当たりの吸収量のモル比率は、IPAE、n-BAE、IBAE、n-PEAEはそれぞれ0.62、0.63、0.62、0.64とほぼ同一でイソプロピル基と同等の効果が得られることがわかった。又、吸収速度及び脱離量についても対応する比較例4〜6に対して高い性能を示すことが確認された。
【0078】
(実施例7、8)
実施例2(サーフロンS-141)と比べると、飽和吸収量は僅かに低下するが、吸収速度及び脱離量はほぼ同一で、S-141と同等の効果を示す。又、発熱量も実施例2と同等のレベルであり特に高くなることも観察されなかった。
【0079】
(実施例9)
実施例2と比較すると、飽和吸収量及び吸収速度はやや低下するが、界面活性剤を添加しない比較例3よりは高い性能を示しており、効果は確認できた。しかしながら、本添加量では二酸化炭素の吸収の進行に伴い発泡が観察され操作性の点では、添加量をこれ以上増加させることは難しいとの結果であった。
【0080】
(実施例10)
実施例2と比較すると、飽和吸収量及び吸収速度はやや低下するが、界面活性剤を添加しない比較例3よりは高い性能を示しており、効果は確認できた。
【0081】
(比較例1〜3)
低濃度の30重量%では吸収速度は速いが、60重量%では吸収速度の大幅な低下が観察され結果として飽和吸収量及び脱離量いずれもが低い値を示すことが分かり、単純な高濃度化では吸収液の性能向上は難しいことが分かる。
【0082】
(比較例4〜6)
比較例4〜6は、実施例4〜6に対応する吸収液で界面活性剤を添加していない条件であるが、飽和吸収量、吸収速度及び脱離量において対応する実施例に比べ劣っている。これらのことより、IPAE以外のヒンダードアミンでも界面活性剤の添加効果が観察された。
【0083】
(比較例7)
上記の結果より、比較例2との比較より反応活性剤の添加によりIPAE単独での水溶液より飽和吸収量及び吸収速度は向上効果が見られるものの、25℃での表面張力は45 mN/mであり反応活性剤の添加の効果は表面張力の低下による効果とは別の効果といえる。一方、ピペラジンのような反応活性剤を含む吸収液では発熱量は高くなっており、二酸化炭素の回収エネルギーの低減には繋がらず、上記実施例による方法が飽和吸収量、反応速度、発熱量及び脱離量のすべての点において有利であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収及び回収するための水溶液であって、一般式〔1〕で表される第2級アミン化合物を50〜70重量%、及び界面活性剤を含むことを特徴とする水溶液。
【化1】

(式中、Rは、炭素数3〜5の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記界面活性剤の重量濃度が10〜1500 ppmであることを特徴とする、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤がノニオン型のパーフルオルロアルキル基を持つ化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水溶液。
【請求項4】
Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤が両性型のパーフルオロアルキル基を持つ化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水溶液。
【請求項5】
Rがイソプロピル基又はn-ブチル基であり、前記界面活性剤がノニオン型のポリオキシエチレンアルキルエーテル系化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水溶液。
【請求項6】
25℃における表面張力が30 mN/m以下であることそ特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の水溶液。
【請求項7】
(1)請求項1〜6のいずれかに記載の水溶液を二酸化炭素を含むガスと接触させ、ガスから二酸化炭素を吸収する工程、及び
(2)上記(1)で得られた二酸化炭素が吸収された水溶液を加熱して、二酸化炭素を脱離して回収する工程、
を含む二酸化炭素の吸収及び回収方法。

【公開番号】特開2012−11309(P2012−11309A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150304(P2010−150304)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 環境調和型製鐵プロセス技術開発 CO2分離回収技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】