説明

排ガス中のN2O除去装置およびN2O除去方法

【課題】N2O分解触媒が本来有するN2O分解能の利用率を向上させ、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するために使用される触媒の使用量を削減可能とした排ガス中のN2O除去方法およびその装置を提供すること。
【解決手段】複数のガス流路1とN2O分解触媒が充填された触媒充填層2を、各々交互に配列したN2O除去装置であって、触媒充填層2を介して隣あうガス流路1が、ガス導入路11と、ガス排出路12からなり、各ガス流路に、N2O触媒の経時変化による劣化に従って順次開かれ、触媒充填層の使用数を累積的に増加させる弁3を設けたN2O除去装置を使用して、N2O除去処理開始後からの経時変化に従って、弁31,32を開放して触媒充填層2の使用数を累積的に増加させていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水汚泥焼却炉等から排出される排ガス中のN2O除去装置およびN2O除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥焼却炉の排ガス、火力発電所のボイラー排ガス、自動車の排ガス等には、少量のN2O(亜酸化窒素)が含まれている。N2Oは温室効果ガスのひとつであり、地球温暖化係数が310であって、炭酸ガスの310倍の地球温室効果をもたらす。このため地球温暖化防止の観点から、大気中へのN2O排出量の削減が強く求められている。
【0003】
従来より、N2O分解触媒を用いて排ガス中のN2Oを還元除去する技術が開示されている。工業的使用ができるN2O分解触媒としては、ゼオライトに鉄や鉄イオンを担持させた鉄−ゼオライト系触媒が主流であり、例えば、特許文献1には、鉄−ゼオライト系触媒の成形方法として、市販のアンモニウム・ゼオライトとFeSO4とを室温においてボールミルで撹拌混合し、得られた粉末をマッフル炉中で400〜600℃で仮焼し、さらにバインダを加えて直径2mm長さ5mmの円柱状に押し出し成形することが記載されている。
【0004】
また、鉄−ゼオライト系触媒のその他の成形方法として、アルミナゾル等を用いてペレット形状に成形する技術も開示されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
排ガス中のN2O除去工程における圧力損失低減の観点からは、表面積の大きいハニカム形状の触媒を使用することが好ましい。しかし、鉄−ゼオライト系触媒のハニカム形状への成型は、高度な技術が必要となり、工業的な実用性には欠ける問題がある。
【0006】
工業的な実用性の観点からは、成形が容易なペレット形状の触媒を使用することが好ましい。ペレット形状の触媒を通常の反応器に充填して使用する場合、触媒の充填層の厚み増加に伴って圧力損失が大きくなるが、例えば、特許文献3に開示されているラジアル反応器を使用することにより、ペレット形状の触媒の使用による圧力損失増大の問題を回避できることが知られている。図2には、ラジアル反応器の説明図を示している。
【0007】
図4に示すラジアル反応器の触媒床6にペレット形状の触媒を充填して、排ガス中のN2O除去を行った場合、新しい触媒の使用時には、非常に高いN2O分解率が得られるが、触媒は使用と共に劣化し、N2O分解率が低下していく。例えば、東京都は、温室効果ガス排出量削減に向け、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(東京都環境確保条例)」を制定し、2010年4月より大規模事業所に温室効果ガス削減義務を課している(H20.6月改正)。この削減義務は年度ごとの削減量(割合)を義務化するものであり、N2O分解率が変動すると、安定してN2O排出量を削減することが困難となり好ましくない。
【0008】
鉄−ゼオライト系触媒の劣化は、触媒構造の変化に起因するため、N2O分解率の回復には新たな触媒との交換が必要となる。従来、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するためには、N2O分解率が所定値以下になるタイミングで頻繁に触媒の全量交換を行っていた。
【0009】
しかし、N2O分解率が所定値以下になったとして交換される触媒であっても、未だN2O分解率が所定値以下レベルとなる程度のN2O分解能は有するものであり、前記の頻繁に触媒の全量交換を行う従来技術では、触媒の有するN2O分解能を十分利用しない段階で、無駄に触媒廃棄が行われ、その結果、触媒の総使用量が多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−183827号公報
【特許文献2】特開2001−286736号公報
【特許文献3】特表2004−537403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は前記問題を解決し、N2O分解触媒が本来有するN2O分解能の利用率を向上させ、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するために使用される触媒の総使用量を削減可能とした排ガス中のN2O除去装置およびN2O除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明のN2O除去装置は、複数のガス流路とN2O分解触媒が充填された触媒充填層を、各々交互に配列したN2O除去装置であって、触媒充填層を介して隣あうガス流路が、ガス導入路と、ガス排出路からなり、各ガス流路に、N2O触媒の経時変化による劣化に従って順次開かれ、触媒充填層の使用数を累積的に増加させる弁を設けたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のN2O除去装置において、触媒充填層は、上端部と下端部に開閉部を有する垂直層からなり、該垂直層とガス流路を交互に並列配置したことを特徴とするものである。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のN2O除去装置において、N2O分解触媒がペレット形状の鉄−ゼオライト系触媒であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載のN2O除去装置を用い、弁の開閉により触媒充填層の使用数を制御する排ガス中のN2O除去方法であって、N2O除去処理開始後からの経時変化に従って、触媒充填層の使用数を累積的に増加させていくことを特徴とするものである。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のN2O除去方法において、N2O除去処理中、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で弁を新たに開放して、使用する触媒充填層を追加し、N2O除去処理に使用する触媒の総量を順次増加させることを特徴とするものである。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のN2O除去方法において、全ての触媒充填層を使用後、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で、最も長期間使用した触媒充填層へのガス導入を行うガス導入路の弁を選択的に停止して、該触媒充填層の触媒を新しい触媒と交換後、新たな触媒充填層として使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るN2O除去方法では、複数のガス流路とN2O分解触媒が充填された触媒充填層を、各々交互に配列したN2O除去装置であって、触媒充填層を介して隣あうガス流路が、ガス導入路と、ガス排出路からなり、各ガス流路に、N2O触媒の経時変化による劣化に従って順次開かれ、触媒充填層の使用数を累積的に増加させる弁を設けたN2O除去装置を用い、N2O除去処理開始後からの経時変化に従って、弁を開放して触媒充填層の使用数を累積的に増加させていく構成を有する。当該構成によれば、N2O分解触媒のN2O分解能が所定値以下に低下した場合であっても、該N2O分解触媒の交換という手段ではなく、新たなN2O分解触媒の追加でN2O排出量を所定の削減目標範囲に維持することができるため、N2O分解触媒が本来有するN2O分解能の利用率を向上させることができる。本発明の構成によれば、また、劣化した触媒も利用し続けることができるため、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するために使用される触媒の総使用量を削減することができる。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、N2O除去処理中、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で弁を新たに開放して、使用する触媒充填層を追加し、N2O除去処理に使用する触媒の総量を順次増加させる構成により、該N2O除去装置全体として安定したN2O分解能が得られ、N2O分解率を所定範囲に安定制御することができる。
【0020】
請求項6記載の発明によれば、全ての触媒充填層を使用後、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で、最も長期間使用した触媒充填層へのガス導入を行うガス導入路の弁を選択的に停止して、該触媒充填層の触媒を新しい触媒と交換後、新たな触媒充填層として使用する構成により、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するために使用される触媒の総使用量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のN2O除去装置の上面断面図である。
【図2】図1のA-A断面図である。
【図3】図1のB-B断面図である。
【図4】ラジアル反応器の正面断面図である。
【図5】本発明のN2O除去方法によるN2O分解率、触媒使用量を示す図である。
【図6】従来のN2O除去方法によるN2O分解率、触媒使用量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
発明のN2O除去装置は、図1、図2に示すように、複数のガス流路1とN2O分解触媒が充填された触媒充填層2(2a〜2j)を、各々交互に配列して有している。
【0023】
触媒充填層2(2a〜2j)は、上端部と下端部に開閉部を有する垂直層とすることにより、重力に従って触媒の流しこみや排出が容易となる。従って、触媒の充填作業や交換作業性の向上を図る観点から垂直層することが好ましい。
【0024】
ガス流路1は、N2O除去装置内に排ガスを導入するガス導入路11と、N2O除去装置内から触媒処理後の排ガスを排出するガス排出路12からなり、これらのガス導入路11とガス排出路12が、触媒充填層2を介して交互に配置されている。
【0025】
ガス導入路11の入口部にはガス導入を制御する入側弁31が備えられ、ガス排出路12の出口部にはガス排出を制御する出側弁32を備えられている。例えば、図1において、弁31aと弁32a、弁32bを開放し、残りの弁31b〜31e、弁32c〜32を閉じておくことにより、触媒充填層2a、2bに選択的に排ガスを流すことができる。
【0026】
各触媒充填層2(2a〜2i)には、ペレット形状の鉄−ゼオライト系触媒が充填されている。
【0027】
下水汚泥焼却炉等から排出される排ガスは、図1、図3に示すように、N2O除去装置の側面に配置された排ガス供給管4から、入側弁31が開放されているガス導入路11に供給される。排ガスはガス導入路11から隣接する触媒充填層2に入り、触媒充填層2ではN2O分解触媒の作用により排ガス中のN2Oが分解される。触媒充填層2でのN2O除去処理を経た排ガスは隣接するガス排出路12に入り、N2O除去装置の側面に配置された排ガス排出管5から排出される。
【0028】
本発明の触媒充填層2に充填されている鉄−ゼオライト系触媒は、使用に伴う触媒構造の変化によりN2O分解能が低下することが知られている。しかし、本発明では、触媒充填層2を複数有する構成とし、N2O除去処理開始直後から経時変化に従って、触媒充填層2の使用数を累積的に増加させていく構成によって、N2O除去装置全体としては、N2O分解能を所定レベルに維持することができ、N2O分解率を所定範囲に安定制御することができる。
【0029】
触媒充填層2の使用数を累積的に増加させ、複数の触媒充填層2に充填された触媒全体で、N2O分解能を所定レベルに維持する構成によれば、最も長期間使用されている触媒充填層2の触媒が単独では必要なN2O分解能を有さないレベルに劣化した後も使用を継続しつつ、高いN2O分解能を有する新たな触媒が充填された触媒充填層2の使用を開始することで、N2O除去装置全体としてN2O分解能を所定レベルに維持することができる。このように、本発明の構成によれば、劣化した触媒も引き続き触媒として使用し続けることができるため、N2O分解能の利用率が向上し、その結果として触媒の総使用量の削減を図ることができる。
【0030】
また、全ての触媒充填層を使用後、N2O分解率が目標値を下まわった場合で、最も長期間使用した触媒充填層2の触媒を新しい触媒と交換後、新たな触媒充填層として使用する構成により、N2O排出量を所定の削減目標範囲に維持するために使用される触媒の総使用量を削減することができる。
【実施例】
【0031】
図1に示すN2O除去装置を用いて、下水汚泥焼却炉排ガス中のN2O除去処理を実施するのに必要な触媒量を試算した結果を下記に示す。該N2O除去装置は、各4mの触媒が充填された触媒充填層を10層有し、合計40mの触媒が充填されている。
【0032】
触媒は、以下の鉄-ゼオライト触媒とする。
【0033】
(触媒型式)
特許文献1に記載された製法で製造した鉄-ゼオライト触媒を使用する。なお、試験に用いた鉄-ゼオライト触媒は、特許文献1に記載された製法で製造したものであり、直径2mm×長さ5mmのペレット状、ゼオライトはβ型およびMFI型のものである。
【0034】
(触媒性能評価)
使用開始からt日後における、空間速度A/Hr、排ガス温度450℃、還元剤としてアンモニアをNH3/N2Oモル比が1.0〜1.3となるように添加した条件下でのN2O分解率y(t,A)は下式となる。
y(t,A)= 100−100×(1- 0.9996t)2000/A
例えば、空間速度2000/Hrでは、使用開始時のN2O分解率はほぼ100%であり、使用期間4年(=1160日)ではN2O分解率は80%となる。
【0035】
なお、年間稼働率は80%(290日/年)として計算し、触媒量に余裕は考慮しない。
【0036】
(試算条件)
上記の性能を持つ触媒を用いて、10年間、N2O分解率の年平均値が80%以上となるようにN2O除去処理を行うのに必要な触媒量を試算した。対象とする排ガスは、下水汚泥焼却炉からの排出される排ガス(触媒入口温度:450℃)であって、その流速は、52,000N m/hとした。
【0037】
図6には、本発明の方法の比較例として、前記同様の触媒を使用しつつ、1年目から触媒量26mで処理を行い、該触媒を4年間使用後、N2O分解率が80%まで低下した段階で、該触媒の全量を新たな触媒26mと交換し、更に、4年後にも触媒の全量を新たな触媒26mと交換して、10年間の平均N2O分解率を80%に維持するという条件下での試算結果を示している。図4に示す比較例の場合、10年間での合計触媒使用量は、78m必要であった。
【0038】
図5には、本発明の方法に従って、1年目は弁31a、31b、32a、32bを開にし、その他の弁は閉じた状態で使用し、3つの触媒充填層(触媒量12m)で処理を行い、N2O分解率の年平均値が80%以下となった段階で、触媒充填層の使用数を増やすという条件下での試算結果を示している。
【0039】
本発明の方法によれば、使用開始直後の触媒は性能が高く、少量の触媒で(高いSV条件で)高い性能が確保できるが、使用に伴い触媒の分解性能は低下し、1年後には12mの触媒では年平均80%以上のN2O分解率を維持できなくなるため、2年目は、1年目から使用されている触媒12 mに、新たな触媒4 mを追加して排ガス処理を行う。具体的には、2年目は弁31a、31b、32a、32b、32cを開にし、その他の弁は閉じた状態で使用し、4槽の触媒充填層(触媒量16m)で処理を行う。
【0040】
図5に示すように、本発明の方法によれば、10年間での合計触媒使用量を、36mに抑えることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ガス流路
11 ガス導入路
12 ガス排出路
2(2a〜2j) 触媒充填層
3 弁
31(31a〜31e)入側弁
32(32a〜31f)出側弁
4 排ガス供給管
5 排ガス排出管
6 触媒床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガス流路とN2O分解触媒が充填された触媒充填層を、各々交互に配列したN2O除去装置であって、触媒充填層を介して隣あうガス流路が、ガス導入路と、ガス排出路からなり、各ガス流路に、N2O触媒の経時変化による劣化に従って順次開かれ、触媒充填層の使用数を累積的に増加させる弁を設けたことを特徴とするN2O除去装置。
【請求項2】
触媒充填層は、上端部と下端部に開閉部を有する垂直層からなり、該垂直層とガス流路を交互に並列配置したことを特徴とする請求項1記載のN2O除去装置。
【請求項3】
N2O分解触媒がペレット形状の鉄−ゼオライト系触媒であることを特徴とする請求項1または2記載のN2O除去装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のN2O除去装置を用い、弁の開閉により触媒充填層の使用数を制御する排ガス中のN2O除去方法であって、N2O除去処理開始後からの経時変化に従って、触媒充填層の使用数を累積的に増加させていくことを特徴とするN2O除去方法。
【請求項5】
N2O除去処理中、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で弁を新たに開放して、使用する触媒充填層を追加し、N2O除去処理に使用する触媒の総量を順次増加させることを特徴とする請求項4記載のN2O除去方法。
【請求項6】
全ての触媒充填層を使用後、該N2O除去装置のN2O分解率が目標値を下まわった段階で、最も長期間使用した触媒充填層へのガス導入を行うガス導入路の弁を選択的に停止して、該触媒充填層の触媒を新しい触媒と交換後、新たな触媒充填層として使用することを特徴とする請求項5記載のN2O除去方法。



【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194332(P2011−194332A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64687(P2010−64687)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】