説明

排ガス処理方法及び排ガス処理装置

【課題】石炭を石炭焚きボイラで燃焼させる際に、二酸化硫黄の酸化を低く抑えると共に高い脱硝率を維持したうえで、石炭焚きボイラから排出される排ガス中の水銀を高効率で且つ低コストで除去することが可能な排ガス処理方法及び排ガス処理装置を提供する。
【解決手段】石炭焚きボイラBから排出される排ガス中に含まれる水銀を除去する排ガス処理方法であって、遷移金属であるバナジウムの酸化物及びバナジウム以外の遷移金属の酸化物を担体上に担持して成る脱硝触媒のうちのバナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えた置換触媒9を形成し、置換触媒9を石炭焚きボイラBからの煙道Rに設置した脱硝部3に位置させて、排ガス中に含まれる金属水銀の酸化反応を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚きボイラやセメント窯や製鉄高炉などの燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる水銀を除去するのに用いられる排ガス処理方法及び排ガス処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した燃焼装置、例えば、石炭焚きボイラから排出される石炭の燃焼排ガスには、石炭に起因する微量の水銀が含まれている。この水銀は、難溶性の金属水銀Hgと、水溶性の2価水銀Hg2+(HgCl)と、燃焼灰に付着した粒子状水銀Hgとの三つの形態に分かれて排ガス中に存在する。
この水銀を排ガスから除去する排ガス処理装置としては、例えば、石炭焚きボイラから煙突に至るまでの煙道に、脱硝部、脱塵部及び脱硫部を順次配置して成るものがある。
【0003】
排ガス中に含まれる水銀のうちの粒子状水銀Hgは、その大半がこの排ガス処理装置の電気集じん器やバグフィルタなどの脱塵部で除去され、2価水銀Hg2+は、湿式の脱硫部で高効率に除去されるが、排ガス中に含まれる金属水銀Hgは、脱塵部や脱硫部でほとんど除去されずに大部分が大気に放出されているのが現状である。
大気中に放出された金属水銀Hgは、環境中でより有害な有機水銀(メチル水銀)に変換されるので、この有機水銀が魚貝類などの食用生物に蓄積されて、これが食物連鎖を経て人体内へ入り込むことが懸念されている。
【0004】
この現状を踏まえて、米国環境保護局では、石炭焚き火力発電所からの水銀排出量を規制することを決定していて、水銀排出量を2010年までに現行の30%削減し、さらに、2018年までに現行の70%削減することを義務付けており、これと同様に、カナダでも石炭焚き火力発電所からの水銀排出量の規制を決定している。
そこで、米国では、石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中の水銀を除去する技術として、煤塵を除去する電気集じん器やバグフィルタなどの脱塵部の上流に、活性炭などの水銀吸着剤を吹き込み、この吸着剤表面に水銀を吸着させて除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、この吸着剤を用いた除去技術では、吸着剤を常時吹き込む必要があるため、ランニングコストが高くつくうえ、排ガス中の酸化イオウ(SO)濃度が高い場合には、水銀捕集効率が著しく低下するといった欠点がある。
ここで、排ガス中に含まれる金属水銀Hgは、水銀と同じく石炭に含まれる塩素に起因する塩化水素(HCl)によって、反応式(1)に示すように、脱硝触媒や石炭灰や未燃焼分炭素の表面上で酸化される。この脱硝触媒としては、通常、バナジウム(V)とタングステン(W)の各酸化物、又は、バナジウム(V)とモリブデン(Mo)の各酸化物を酸化チタン(TiO)に担持させたものを原料とするハニカム構造体が用いられる。
【0006】
Hg+2HCl+1/2O → HgCl+HO 反応式(1)
但し、2価水銀Hg2+はHgClである。
この反応は、平衡上低温になればなる程進行し、HCl濃度が高い程高温で2価水銀Hg2+が安定して生成される。
上記脱硝触媒において、水銀酸化反応が進行するので、この脱硝触媒の下流側の排ガス中では、2価水銀Hg2+の割合が高くなる。生成した2価水銀Hg2+は、金属水銀Hgに比べて吸着性が強いことから、まず、脱塵部において灰の表面に吸着して粒子状水銀Hgとして捕集され、一方、この脱塵部で捕集されなかった2価水銀Hg2+は、湿式の脱硫部において脱硫排水中に捕集される。
【0007】
このように、生成した2価水銀Hg2+は、そのほぼ全量が、石炭焚きボイラから煙突に至るまでのプラント内で捕集されるので、煙突を通して大気中には放出されない。
このような脱硝触媒上での水銀酸化を利用した排ガス中微量有害物質の除去装置及びその運転方法(例えば、特許文献2参照)や、同じく脱硝触媒での水銀酸化反応を利用して湿式脱硫部で水銀を捕集する排ガス処理装置および排ガス処理方法(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、これらの水銀除去技術では、水銀を酸化して除去する手立てとしては有効であるものの、脱硝触媒上での水銀酸化反応は、図3に示すように、脱硝反応用として煙道に噴霧されるアンモニア(NH)によって阻害されるため、それ程高い効果を期待することができないのが実情である。
【0008】
なお、図3において、横軸は、NH/NOモル比(=入口NO濃度と注入したNH濃度との比率)であり、縦軸は、各NH/NOモル比における脱硝率及び水銀酸化率を示す。脱硝率(●)はNH/NO比が高くなると増加するが、水銀酸化率(▲)はNH/NO比が高くなると低下する。
一方、上記した従来における脱硝触媒の他の脱硝触媒として、水銀酸化反応に高い活性を示す種々の触媒を採用する水銀除去方法が提案されており、この水銀除去方法では、TiO,SiO,ZrOのうちの少なくとも一つの酸化物及び/又はゼオライトを担体として使用し、この担体にPt,Ru,Rh,Pd,Ir,V,W,Mo,Ni,Co,Fe,Cr,Cu,Mnのうちの少なくとも一つの金属を担持させて成る触媒を用いて、脱硝反応及び水銀酸化反応を行わせるようにしている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
この特許文献4に記載の水銀除去方法において、例えば、白金(Pt)を触媒として用いると、脱硝用に注入したアンモニア(NH)が脱硝触媒上で酸化されて、新たにNOを生成してしまうことから、これも現実的な解決策とは言えない。
【特許文献1】米国特許第6521021号
【特許文献2】特開2006-205128号公報
【特許文献3】特開2007-167698号公報
【特許文献4】特許第3935547号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、脱硝触媒や水銀酸化反応に高い活性を示す種々の触媒を用いることで、排ガス中の金属水銀Hgを塩化水素(HCl)と反応させて酸化することが可能であるが、活性金属を担体上に担持させた触媒の場合、触媒の活性は活性金属の担持量に依存し、活性金属の担持量が増えると、触媒としての活性も向上する傾向にある。
しかしながら、石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中のNOを処理する脱硝触媒では、例えば、バナジウム(V)とタングステン(W)の各酸化物(V,WO)や、バナジウム(V)とモリブデン(Mo)の各酸化物(V,MoO)を酸化チタン(TiO)に担持させた脱硝触媒では、Vの担持量が1重量%以下に抑えられ、WOやMoOの担持量が10重量%以下に抑えられている。
【0011】
これは、脱硝触媒の活性成分Vが、脱硝反応や水銀酸化反応に活性であるだけでなく、排ガス中に含まれる二酸化硫黄(SO)の酸化に対しても高い活性を有することが、これまでの研究結果から明らかになっているためである(参考文献J. P. Dunn et al., J. Catalysis, 181, 233-243 (1999))。
この二酸化硫黄(SO)は、反応式(2)に示すようにして酸化され、この酸化反応により生成される三酸化硫黄(SO)は、脱硝触媒よりも下流において、未反応のアンモニアと反応して硫酸アンモニウムを生成したり、排ガス中の水分が凝縮する温度域で硫酸となって腐食の原因になったりすることから、その生成量を極めて低く制御する必要がある。
【0012】
SO+1/2O→SO 反応式(2)
つまり、水銀の酸化反応を促進するために、脱硝触媒の活性成分であるVをはじめとするWOやMoOの担持量を増加させるということは、図4に示す脱硝触媒における水銀酸化率とバナジウム酸化物(V)の担持量との関係、及び、図5に示す二酸化硫黄(SO)の酸化速度とバナジウム酸化物(V)の担持量との関係からも判るように、水銀酸化率の向上を図ることができるものの、二酸化硫黄(SO)の酸化速度が増して、三酸化硫黄(SO)の生成量も増加してしまうことになるので好ましくない。
【0013】
したがって、二酸化硫黄(SO)の酸化を抑制しつつ、本来の機能である脱硝反応及び水銀酸化反応の進行を促進させる触媒を開発することが、水銀を含む排ガスを処理するうえで、極めて重要な技術的課題となっている。
本発明は、上記した課題を解決するためになされたもので、例えば、石炭を石炭焚きボイラ(燃焼装置)によって燃焼させる際に、二酸化硫黄(SO)の酸化を低く抑えると共に高い脱硝率を維持したうえで、石炭焚きボイラから排出される排ガス中の水銀を高効率で且つ低コストで除去することが可能な排ガス処理方法及び排ガス処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る発明は、石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる水銀を除去する排ガス処理方法であって、遷移金属であるバナジウムの酸化物(V)及び前記バナジウム以外のタングステンやモリブデンなどの遷移金属の酸化物(WOやMoO)を担体上に担持して成る脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えた置換触媒を形成し、この置換触媒を前記燃焼装置からの煙道に設置した脱硝部に位置させて、前記排ガス中に含まれる金属水銀の酸化反応を促進させる構成としたことを特徴としており、この排ガス処理方法の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0015】
本発明の排ガス処理方法において、バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属の酸化物としては、Cr,Fe,NiO,Mnなどが挙げられるが、二酸化硫黄(SO)の酸化活性が低く且つ水銀酸化活性が高いCrを採用することが望ましい。
ここで、バナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する場合、バナジウム酸化物の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物、例えば、クロムとの置き換え率が少ない10%未満では、二酸化硫黄(SO)の酸化活性を低く抑えるというクロム置換による効果がほとんど期待できず、一方、バナジウム酸化物のクロムとの置き換え率を多くして90%を超えるようにすると、脱硝反応に活性なバナジウム酸化物の量が少なくなって、脱硝性能が低下してしまう。
【0016】
そこで、好ましい実施態様として、本発明の請求項2に係る排ガス処理方法において、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の10〜90%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する構成としている。
このように、バナジウム酸化物の10〜90%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えた場合、バナジウム酸化物の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物、例えば、クロムとの置き換え率が30%程度では、クロム置換による効果が期待できるものの十分とは言えず、一方、バナジウム酸化物のクロムとの置き換え率が70%程度においても、少ないとは言え脱硝性能の低下が見られる。
【0017】
したがって、より好ましい実施態様として本発明の請求項3に係る発明において、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の30〜70%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する構成としている。
そして、より一層好ましい実施態様として本発明の請求項4に係る排ガス処理方法では、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の45〜55%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する構成としており、このような構成を採用した場合には、二酸化硫黄の酸化活性を低く抑えつつ、且つ、脱硝性能の低下をも招くことなく、水銀酸化性能を向上させ得ることとなる。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る排ガス処理方法では、前記バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物としてCrを用いた構成としている。
一方、本発明の請求項6に係る発明は、石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる水銀を除去する排ガス処理装置であって、前記燃焼装置からの煙道に設置した脱硝部に、遷移金属であるバナジウムの酸化物及び前記バナジウム以外の遷移金属の酸化物を担体上に担持して成る脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて形成した置換触媒を配置した構成としたことを特徴としており、この排ガス処理装置の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0019】
また、本発明の請求項7に係る排ガス処理装置において、前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の10〜90%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている構成としている。
さらに、本発明の請求項8に係る排ガス処理装置において、前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の30〜70%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている構成とし、本発明の請求項9に係る排ガス処理装置において、前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の45〜55%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている構成としている。
【0020】
さらにまた、本発明の請求項10に係る排ガス処理装置において、前記バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物をCrとした構成としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の請求項1〜4に係る排ガス処理方法及び請求項6〜9に係る排ガス処理装置では、上記した構成としているので、例えば、石炭を石炭焚きボイラで燃焼させる際に、二酸化硫黄(SO)の酸化を低く抑えつつ高い脱硝率を維持したうえで、石炭焚きボイラから排出される排ガス中の水銀を高効率で且つ低コストで除去することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【0022】
また、本発明の請求項5に係る排ガス処理方法及び請求項10に係る排ガス処理装置では、上記した構成としたから、例えば、石炭を石炭焚きボイラで燃焼させる際に、二酸化硫黄(SO)の酸化をより低く抑えたうえで、排ガス中の水銀をより一層高効率で除去することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態による排ガス処理装置を示しており、この実施形態では、本発明の排ガス処理方法及び排ガス処理装置を石炭焚きボイラ(燃焼装置)から排出される排ガスの処理に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、この排ガス処理装置1は、石炭焚きボイラBから煙突2に至るまでの煙道Rに順次配置した脱硝部3、エアヒータ4、脱塵部5、熱交換器6、脱硫部7及び熱交換器8を備えており、脱硝部3には、石炭焚きボイラBから排出される排ガス中に含まれる金属水銀の酸化反応を促進させる置換触媒9が配置してある。
【0024】
ここで、上記置換触媒9を調製するに際しては、まず、触媒担体として、表面積が約90m/gの酸化チタン粉末(TiO)を用い、V,W,Crの塩水溶液に上記酸化チタンから成る担体の粉末を含浸させて、この実施形態用及び比較用の合わせて3種類の金属酸化物担持触媒の水溶液を調製した。
この際、Vについてはバナジウム酸アンモニウム(NHVO)を出発原料として用い、Wについてはパラタングステン酸アンモニウム((NH)10W12O1・5HO)を出発原料として用い、Crについては硝酸クロム(Cr(NO)3・9HO)を出発原料として用いた。
【0025】
また、活性金属の担持量は、いずれも酸化物として、V+Cr=1wt%(1重量%)、WO=10wt%(重量%)とした。活性金属及び担持量の組合せは以下の通りである。
a. 1wt%V+10wt%WO/TiO
b. 0.5wt%V+0.5wt%Cr+10wt%WO/TiO
c. 1wt%Cr+10wt%WO/TiO
これらの酸化チタン粉末を含浸させた水溶液をスターラで攪拌しつつ、徐々に蒸発させて余分な水分を除去した後、120℃にセットした乾燥器中で乾燥させて余分な水分を完全に取り除き、この十分に乾燥させた触媒担体を空気中において400℃で3時間焼成させることによって、3種類の組成の金属酸化物担持酸化チタン触媒、すなわち、この実施形態で置換触媒9として用いる触媒b及び比較用の触媒a,cを調製した。
【0026】
次に、上記触媒の触媒粉末をペレット状に加圧成形し、粉砕後に250〜500μmに分級したものを触媒活性評価用の試料とし、この場合、分級した試料を140mg用いて触媒活性の評価を行った。
まず、石炭を燃焼させた際の排ガスを模した混合ガス[NO(200ppm),SO(200ppm),O(2%),CO(10%),HO(10%)(Nバランス)]に、金属水銀Hgを10μg/m、塩化水素HClを10ppm添加し、触媒試料の前後における金属水銀Hg及び2価水銀Hg2+の各濃度を分析した。触媒試料に供給したガスの総流量は、約1800cc/minであり、触媒試料の出入り口の各水銀濃度は、形態別連続水銀分析計を用いて計測した。
【0027】
次に、水銀酸化率を以下のようにして求めた。
水銀酸化率(%)=(入口Hg濃度−出口Hg濃度)/入口Hg濃度
また、脱硝反応の還元剤であるNHをNOに対してモル比で0.33添加し、触媒の前後におけるNO濃度を分析し、これに基づいて脱硝率を以下のようにして求めた。
脱硝率(%)=(入口NO濃度−出口NO濃度)/入口NO濃度×100
なお、NO濃度は、化学発光方式(Chemiluminescence)により決定した。
【0028】
そこで、350,400℃における上記触媒a〜cの各水銀酸化率、脱硝率及びSO酸化率を図2に示す。この際、SOの酸化活性は、上記した参考文献に基づいて、以下のように推定した。
SO酸化率∝TOF(V)×触媒中のV担持量+TOF(Cr)×触媒中のCr担持量
ここで、TOF(Turn Over Frequency)は、担持した酸化物における活性元素1mol当たりの水銀酸化反応速度であり、TOF(V)及びTOF(Cr)は、バナジウム(V)及びクロム(Cr)1mol当たりに換算したSOの反応速度で定義され、SO酸化率は、触媒中の活性金属のSO酸化速度(TOF)に比例すると見なすことができる。
【0029】
また、水銀酸化率、脱硝率及びSO酸化率は、標準的な脱硝触媒の組成に近い1wt%V+10wt%WO/TiOにおける値に対する比率を示した。
その結果、図2から判るように、Vの一部をCrで置き換えた組成の触媒bを置換触媒9として用いることで、SO酸化率を低減しつつも、高い水銀酸化率が得られることが実証できた。また、脱硝率がやや低下するものの、それ以上にSO酸化率を低減させることができ、特に、この効果は、運用上に起こり得る350℃以上の温度で、より顕著に認められる。
【0030】
上記した排ガス処理装置1において、石炭焚きボイラBから排出される排ガスの処理を行う場合には、まず、煙道Rにおける脱硝部3の上流側にアンモニアが添加されて、排ガスに含まれるNOが還元されて窒素と水に変換され、脱硝部3において、排ガス中に含まれる水銀のうちの金属水銀Hgが塩素Clと酸化反応して水溶性の2価水銀Hg2+(HgCl)に変換されて下流側に流れる。
【0031】
このとき、脱硝部3には、上記した水銀酸化活性が高く且つ二酸化硫黄(SO)の酸化活性を低く抑え得る置換触媒9が配置してあるので、脱硝部3で捕集されなかった金属水銀Hgの酸化反応が促進され、二酸化硫黄(SO)の酸化を低く抑えつつ高い脱硝率を維持したうえで、排ガス中の金属水銀Hgを高効率で且つ低コストで除去し得ることとなる。
【0032】
この際、脱硝部3及び置換触媒9の下流側に位置する脱塵部5は、エアヒータ4の加減により好ましくは150℃以上の温度で運用されているので、2価水銀Hg2+(HgCl)が脱塵部5の灰に吸着されるのが回避される。
そして、湿式脱硫部7では、上記脱塵部5を通過した2価水銀Hg2+(HgCl)を液相で吸収して汚泥中に取り込んで捕集し、この後、水銀を含んだ汚泥を回収処理するようにしている。
【0033】
上記したように、この実施形態の排ガス処理方法及び排ガス処理装置1では、煙道Rにおける脱硝部3に、上述したように調製して得た水銀酸化活性が高く且つ二酸化硫黄酸化活性が低い置換触媒9を配置しているので、石炭を石炭焚きボイラBによって燃焼させる際に、二酸化硫黄(SO)の酸化を低く抑えると共に高い脱硝率を維持したうえで、排ガス中の金属水銀Hgを高効率で且つ低コストで除去し得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態による排ガス処理装置を示す概略構成説明図である。
【図2】図1における排ガス処理装置に用いる複数種の触媒の各水銀酸化率、脱硝率及びSO酸化率を示すグラフ(a),(b)である。
【図3】排ガス処理装置の脱硝触媒における水銀酸化率と脱硝率との関係を示すグラフである。
【図4】脱硝触媒における水銀酸化率とバナジウム酸化物の担持量との関係を示すグラフである。
【図5】脱硝触媒における二酸化硫黄の酸化速度とバナジウム酸化物の担持量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 排ガス処理装置
3 脱硝部
9 置換触媒
B 石炭焚きボイラ(燃焼装置)
R 煙道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる水銀を除去する排ガス処理方法であって、
遷移金属であるバナジウムの酸化物及び前記バナジウム以外の遷移金属の酸化物を担体上に担持して成る脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えた置換触媒を形成し、
この置換触媒を前記燃焼装置からの煙道に設置した脱硝部に位置させて、前記排ガス中に含まれる金属水銀の酸化反応を促進させる
ことを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項2】
前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の10〜90%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する請求項1に記載の排ガス処理方法。
【請求項3】
前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の30〜70%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する請求項1に記載の排ガス処理方法。
【請求項4】
前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の45〜55%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて置換触媒を形成する請求項1に記載の排ガス処理方法。
【請求項5】
前記バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物としてCrを用いた請求項1〜4のいずれか一つの項に記載の排ガス処理方法。
【請求項6】
石炭焚きボイラなどの燃焼装置から排出される排ガス中に含まれる水銀を除去する排ガス処理装置であって、
前記燃焼装置からの煙道に設置した脱硝部に、遷移金属であるバナジウムの酸化物及び前記バナジウム以外の遷移金属の酸化物を担体上に担持して成る脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の一部を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて形成した置換触媒を配置した
ことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項7】
前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の10〜90%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている請求項6に記載の排ガス処理装置。
【請求項8】
前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の30〜70%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている請求項6に記載の排ガス処理装置。
【請求項9】
前記置換触媒は、前記脱硝触媒のうちの前記バナジウム酸化物の45〜55%を該バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物と置き換えて成っている請求項6に記載の排ガス処理装置。
【請求項10】
前記バナジウム以外の酸化還元能力を有する遷移金属酸化物をCrとした請求項6〜9のいずれか一つの項に記載の排ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−22974(P2010−22974A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189735(P2008−189735)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】