説明

排ガス処理触媒

【課題】白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くした排ガス処理触媒を提供することにある。
【解決手段】排ガスに含まれる微粒子状物質の燃焼を促進する複合酸化物を有する排ガス処理触媒であって、前記複合酸化物がペロブスカイト型の構造であって、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物、またはバリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物の何れかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理触媒に関し、特にディーゼルエンジンなどから排出される排ガスの処理に用いて好適な排ガス処理触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどから排出される排ガスには微粒子状物質(PM)が含まれており、この微粒子状物質を除去する方法としてディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が利用されている。このDPFでは、排ガス中のPMを捕捉し、捕捉したPMを燃焼除去している。このようなPMの燃焼を促進する触媒として、白金を基材に担持させた触媒(以下、白金系触媒と称す)が種々開発されている。しかし、白金自体が高価であり、この白金の担持量に比例して触媒の製造コストを増加させている。そのため、白金の担持量を低減した触媒や、白金の代替材料を基材に担持した白金代替触媒に関する研究開発が種々行われている。
【0003】
上述した白金代替触媒として、例えば、特許文献1には、La2CuO4などの複合酸化物を含有する排ガス処理触媒が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−184929(明細書の段落[0038],[0042]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した複合酸化物を含む排ガス処理触媒にて微粒子状物質の燃焼を促進して微粒子状物質の燃焼開始温度を低くしているものの、上述した白金系触媒と同等またはそれ以上の触媒能を発現することが望まれていた。
【0006】
以上のことから、本発明は、前述した課題を解決するために為されたもので、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くした排ガス処理触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決する第1の発明に係る排ガス処理触媒は、
排ガスに含まれる微粒子状物質の燃焼を促進する複合酸化物を有する排ガス処理触媒であって、
前記複合酸化物がペロブスカイト型の構造であって、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物、またはバリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物の何れかである
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る排ガス処理触媒によれば、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来の排ガス処理触媒におけるバンドギャップと伝導帯バンドの酸素軌道含有率との関係を示すグラフである。
【図2】本発明に係る排ガス処理触媒におけるバンドギャップと伝導帯バンドの酸素軌道含有率との関係を示すグラフである。
【図3】Sr2(CrTa)O6のバンド構造を示す図であり、図3(a)に上向きスピンの場合を示し、図3(b)に下向きスピンの場合を示す。
【図4】Sr2Fe(WO6)のバンド構造を示す図であり、図4(a)に上向きスピンの場合を示し、図4(b)に下向きスピンの場合を示す。
【図5】Ba2NiWO6のバンド構造を示す図であり、図5(a)に上向きスピンの場合を示し、図5(b)に下向きスピンの場合を示す。
【図6】Sr2FeMoO6のバンド構造を示す図であり、図6(a)に上向きスピンの場合を示し、図6(b)に下向きスピンの場合を示す。
【図7】Ba2MnWO6のバンド構造を示す図であり、図7(a)に上向きスピンの場合を示し、図7(b)に下向きスピンの場合を示す。
【図8】Ba2CoWO6のバンド構造を示す図であり、図8(a)に上向きスピンの場合を示し、図8(b)に下向きスピンの場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[主な実施形態]
本発明に係る排ガス処理触媒の実施形態について、図1および図2に基づいて説明する。
【0011】
本実施形態に係る排ガス処理触媒は、ディーゼルエンジンなどから排出される排ガスに含まれる微粒子状物質(PM)の燃焼を促進する複合酸化物を有する触媒である。前記複合酸化物がペロブスカイト型の構造であってAxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属であり、前記Bおよび前記Cが遷移元素である。前記AxByCwOzが磁性体である。前記AxByCwOzにおける上向きスピンのバンドギャップまたは下向きスピンのバンドギャップが3.0eV以下である。さらに、前記AxByCwOzの上向きスピンのバンド構造におけるフェルミレベルの直上にてエネルギー値の低い3つの電子状態について平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化した伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である。なお、前記xが前記Aの指数を示し、前記yが前記Bの指数を示し、前記wが前記Cの指数を示し、前記zが前記Oの指数を示す。
【0012】
具体的には、前記複合酸化物の前記Aと前記Bと前記Cが、ストロンチウムとクロムとタンタル、ストロンチウムと鉄とタングステン、ストロンチウムと鉄とモリブデン、バリウムとニッケルとタングステン、バリウムとマンガンとタングステン、バリウムとコバルトとタングステンの組み合わせの何れかである。
【0013】
このような本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くすることができる。その理由を以下に説明する。
【0014】
前記AxByCwOzのバンド構造から当該AxByCwOzが磁性体であると判断される。ここで、磁性体は、上向きスピンの数が下向きスピンの数よりも多い物質(スピンを持つ物質)である。スピンを持たない物質(磁性体でない物質)では上向きスピンと下向きスピンのバンド構造が完全に一致するが、磁性体では上向きスピンと下向きスピンの数が異なり上向きスピンと下向きスピンのバンド構造が異なる。よって、前記AxByCwOzの上向きスピンのバンド構造と前記AxByCwOzの下向きスピンのバンド構造を見比べることで、前記AxByCwOzが磁性体であるか判断することができる。
【0015】
前記AxByCwOzが磁性体であることから、前記AxByCwOzのバンドギャップが、PMの燃焼開始温度に作用するパラメータであり、3.0eVより大きくなると、白金系触媒の場合と比べて、PMの燃焼開始温度が高くなることから、前記AxByCwOzにおける上向きスピンのバンドギャップまたは下向きスピンのバンドギャップが3.0eV以下であるとしている。
【0016】
上述した上向きスピンのバンドギャップは、伝導帯における、波数域がΓ(ガンマ)またはWにてエネルギー値が最も低い1つの電子状態の平均値と、価電子帯における、波数域がΓ(ガンマ)またはWにてエネルギー値が最も大きい1つの電子状態の平均値の差分を演算して得られた値である。下向きスピンのバンドギャップは、下向きスピンのバンド図における左端で、バンドギャップの上端、下端になっている軌道を1つずつ選び、これらの軌道のエネルギーの最小値を目視で読み取った値である。なお、バンドが0eV付近に多数ある場合には、前記AxByCwOzが導電体でありそのバンドギャップは0.00eVである。
【0017】
前記AxByCwOzのバンド構造における伝導帯バンドの酸素軌道含有率が、PMの燃焼速度に作用するパラメータであり、20%より小さくなると、白金系触媒の場合と比べて、PMの燃焼速度が遅くなることから、20%以上としている。なお、複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率の上限値、言い換えると指数zの上限値は、前記Aと前記Bと前記Cの組み合わせにより適宜に決定される。
【0018】
ここで、上述した伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、エネルギー的にフェルミレベル直上にてエネルギー値の低い3つの電子状態について平均して、酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものである。この酸素原子の電子状態への寄与率は、酸素原子を含む球面内にどのくらいの電子数が含まれるかを計算して得られる。また、前記AxByCwOzが磁性体であることから、上向きスピンのバンド構造による伝導帯バンドの酸素軌道含有率を、候補となる複合酸化物を選定する際に用いている。これは、下向きスピンは上向きスピンよりも電子の数が少なく、下向きスピンのバンド図におけるフェルミレベルよりも上の電子状態のいくつかは、上向きスピンの価電子帯の状態に対応する場合がある。酸化物の価電子帯は主として酸素原子の軌道成分からなる。よって、上向きスピンにおけるバンドギャップ直上の状態に酸素の軌道が含まれれば、下向きスピンのフェルミレベル近傍の状態にも酸素原子の軌道が含まれることが予測できる。
【0019】
続いて、上述したような組成からなり、上述したバンドギャップの範囲を示し、且つ、上述した伝導帯バンドの酸素軌道含有率の範囲を示す排ガス処理触媒の選定方法について、以下に説明する。
【0020】
最初に、排ガスに含まれる微粒子状物質の燃焼を促進する白金系触媒(例えば、PtOやPtO2やPt23)について、科学計算、例えば第一原理バンド計算を行った。この計算結果に基づき、白金系触媒のバンド構造を求めた。
【0021】
続いて、実験的に良い触媒能、すなわち、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くする触媒能が確認できている触媒(Mn系ペロブスカイト型触媒(例えば、LaMnO3に微量のカリウムをドープしたものなど)、Co系ペロブスカイト型触媒(例えば、LaCoO3に微量のカリウムをドープしたものなど)、およびFe系ペロブスカイト型触媒(例えば、LaFeO3に微量のカリウムをドープしたものなど))について、モデル化を行い、科学計算、例えば第一原理バンド計算を行った。この計算結果に基づき、各種触媒(Mn系ペロブスカイト型触媒、Co系ペロブスカイト型触媒、Fe系ペロブスカイト型触媒)について、バンド構造をそれぞれ求めた。
【0022】
ここで、上述したモデル化とは、例えば、La0.90.1FeO3のような非整数の組成をもつ化合物をLaFeO3のように組成を整数比化し、計算が可能な構造にすることである。
【0023】
また、比較的低い触媒活性である、言い換えると、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて高くする触媒性能を有するCu系ペロブスカイト型触媒(例えば、LaCuO3に微量のカリウムをドープしたものなど)についても、モデル化を行い、科学計算、例えば第一原理バンド計算を行った。この計算結果に基づき、Cu系ペロブスカイト型触媒のバンド構造を求めた。
【0024】
続いて、上述した各触媒(白金系触媒、Mn系ペロブスカイト型触媒、Co系ペロブスカイト型触媒、Fe系ペロブスカイト型触媒、およびCu系ペロブスカイト型触媒)について、バンドギャップおよび伝導帯バンドの酸素軌道含有率をそれぞれ算出した。
【0025】
続いて、上述した各触媒(白金系触媒、Mn系ペロブスカイト型触媒、Co系ペロブスカイト型触媒、Fe系ペロブスカイト型触媒、およびCu系ペロブスカイト型触媒)に関し、バンドギャップと伝導帯バンドの酸素軌道含有率の相関を示すグラフである図1を作成する。図1にて、四角形がPt系触媒の場合を示し、菱形がMn系ペロブスカイト型触媒の場合を示し、三角形がCo系ペロブスカイト型触媒の場合を示し、丸形がFe系ペロブスカイト型触媒の場合を示し、バツ印がCu系ペロブスカイト型触媒の場合を示す。この図1に示すように、Pt系触媒が領域Aの範囲内となり、Mn系ペロブスカイト型触媒、Co系ペロブスカイト型触媒、Fe系ペロブスカイト型触媒が、ほぼ領域Bの範囲内となり、Cu系ペロブスカイト型触媒が領域Cの範囲内となった。
【0026】
ここで、Pt系触媒は、伝導帯バンドの酸素軌道含有率が高いものの、PMの燃焼開始温度がMn系ペロブスカイト型触媒の場合と比べて高い(触媒能としては低い)という特性を有することが知られている。このようなことから、主として、バンドギャップの狭さがPMの燃焼開始温度に関与するパラメータであると考えられる。また、伝導帯バンドの酸素軌道含有率が最大CO2濃度時温度の低さ、すなわち、PMの燃焼速度に関与するパラメータであると考えられる。
【0027】
領域Cに入る触媒(Cu系ペロブスカイト型触媒)は、PMの燃焼開始温度がPt系触媒の場合と比べて高く、PMの燃焼速度がPt系触媒の場合と比べて遅いことが知られている。よって、領域Cに入る触媒を、微粒子状物質の燃焼開始温度がPt系触媒の場合と比べて高くなる触媒能を発現する低触媒能発現グループに分類できる。
【0028】
これに対して、領域Bに入る触媒は、PMの燃焼開始温度がPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも低く、PM燃焼速度がPt系触媒の場合と比べて速いことが知られている。よって、領域Bに入る触媒を、微粒子状物質の燃焼開始温度がPt系触媒の場合と比べて同等またはそれよりも低くなる触媒能を発現する高触媒能発現グループに分類できる。
【0029】
よって、触媒能が高い物質、すなわち、白金代替触媒であって、微粒子状物質の燃焼開始温度を白金系触媒の場合と比べて同等にする、またはそれよりも低くする触媒能を発現する複合酸化物は、バンドギャップが狭く、伝導帯バンドの酸素軌道含有率が高い領域に主として分布すると考えられる。
【0030】
続いて、無機化合物データベースから2千種の材料を抽出し、各材料について、モデル化を行い、科学計算、例えば第一原理バンド計算を行った。この計算結果に基づきバンド構造を求め、バンドギャップを算出した。これらの材料にて、バンドギャップの比較的狭い物質について、上述した伝導帯バンドの酸素軌道含有率を算出した。これら材料について、バンドギャップと伝導帯バンドの酸素軌道含有率の相関を示すグラフに、各材料に関するバンドギャップおよび伝導帯バンドの酸素軌道含有率(スクリーニングデータ)をプロットした図2を作成する。図2にて、星印Iが排ガス処理触媒(Sr2(CrTa)O6)の場合を示し、星印IIが排ガス処理触媒(Sr2Fe(WO6))の場合を示し、星印IIIが排ガス処理触媒(Ba2NiWO6)の場合を示し、星印IVが排ガス処理触媒(Sr2FeMoO6)の場合を示し、星印Vが排ガス処理触媒(Ba2MnWO6)の場合を示し、星印VIが排ガス処理触媒(Ba2CoWO6)の場合を示す。
【0031】
上述したことから、複合酸化物に関し、上向きスピンまたは下向きスピンのバンドギャップが3.0eV以下であることにより、PMの燃焼開始温度がPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも低くなるという効果を発現すると考えられる。さらに、複合酸化物に関し、伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上であることにより、PMの燃焼速度がPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも速いと考えられる。言い換えると、上述した排ガス処理触媒に関し、図2に示すように、領域D(上向きスピンまたは下向きスピンのバンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ、伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である領域)にある複合酸化物とすることにより、PMの燃焼開始温度をPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも低くすることができると考えられる。さらに、上述した複合酸化物とすることにより、PMの燃焼速度をPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも速くすることができると考えられる。
【0032】
[ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物]
ここで、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)について、図3を用いて具体的に説明する。
図3(a)および図3(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図3(a)および図3(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図3(a)にて、Ec11は伝導帯を示し、Ev11は価電子帯を示し、Eg11は禁制帯を示し、a1(太線),a2(1点鎖線),a3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図3(b)にて、Ec12は伝導帯を示し、Ev12は価電子帯を示し、Eg12は禁制帯を示す。なお、図3(a)において、波数域L近傍からΓ近傍までの領域にて、太線と1点鎖線がほぼ一致している。
【0033】
ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するストロンチウムであり、前記Bが遷移元素に属するクロムであり、前記Cが遷移元素に属するタンタルである複合酸化物である。
【0034】
複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図3(a)に示すように、Efの直下の−1.0eVから0.0eVの領域に3本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図3(b)に示すように、これら3本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)が磁性体であると判断できる。
【0035】
ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)における上向きスピンのバンド構造では、図3(a)に示すように、−0.45eVより下方の領域Ev11が価電子帯となる一方、1.93eVより上方の領域Ec11が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg11の大きさが2.38eVとなった。
【0036】
また、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)における下向きスピンのバンド構造では、図3(b)に示すように、−1.8eVより下方の領域Ev12が価電子帯となる一方、0.8eVより上方の領域Ec12が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg12の大きさが2.6eVとなった。
【0037】
さらに、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの電子状態(a1、a2、a3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、36.37%であった。
【0038】
よって、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)が、図2に示すように、バンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Dの範囲内にあると確認された。この複合酸化物(Sr2(CrTa)O6)は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0039】
[ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物]
ここで、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物(Sr2Fe(WO6))について、図4を用いて具体的に説明する。
図4(a)および図4(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図4(a)および図4(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図4(a)にて、Ec21は伝導帯を示し、Ev21は価電子帯を示し、Eg21は禁制帯を示し、b1(太線),b2(1点鎖線),b3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図4(b)にて、Ec22は伝導帯を示し、Ev22は価電子帯を示し、Eg22は禁制帯を示す。なお、図4(a)において、波数域N近傍からΓ近傍までの領域にて、1点鎖線と点線がほぼ一致している。
【0040】
ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物(Sr2Fe(WO6))は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するストロンチウムであり、前記Bが遷移元素に属する鉄であり、前記Cが遷移元素に属するタングステンである複合酸化物である。
【0041】
複合酸化物(Sr2Fe(WO6))のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2Fe(WO6))が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図4(a)に示すように、Efの直下の−2.0eVから0.0eVの領域に2本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図4(b)に示すように、これら2本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Sr2Fe(WO6))のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2Fe(WO6))が磁性体であると判断できる。
【0042】
ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物(Sr2Fe(WO6))における上向きスピンのバンド構造では、図4(a)に示すように、−1.19eVより下方の領域Ev21が価電子帯となる一方、1.10eVより上方の領域Ec21が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg21の大きさが2.29eVとなった。
【0043】
ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物(Sr2Fe(WO6))における下向きスピンのバンド構造では、図4(b)に示すように、0.7eVより下方の領域Ev22が価電子帯となる一方、1.0eVより上方の領域Ec22が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg22の大きさが0.3eVとなった。
【0044】
さらに、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの状態(b1、b2、b3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、24.8%であった。
【0045】
よって、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物(Sr2Fe(WO6))が、図2に示すように、バンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Dの範囲内にあると確認された。この複合酸化物(Sr2Fe(WO6))は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0046】
[バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物]
ここで、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物(Ba2NiWO6)について、図5を用いて具体的に説明する。
図5(a)および図5(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図5(a)および図5(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図5(a)にて、Ec31は伝導帯を示し、Ev31は価電子帯を示し、Eg31は禁制帯を示し、c1(太線),c2(1点鎖線),c3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図5(b)にて、Ec32は伝導帯を示し、Ev32は価電子帯を示し、Eg32は禁制帯を示す。なお、図5(a)において、波数域W近傍からLまでの領域にて太線と1点鎖線がほぼ一致し、波数ベクトルLからΓ近傍までの領域にて、太線と1点鎖線と点線がほぼ一致し、波数ベクトルΓからX近傍までの領域にて、1点鎖線と点線とがほぼ一致している。
【0047】
バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物(Ba2NiWO6)は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するバリウムであり、前記Bが遷移元素に属するニッケルであり、前記Cが遷移元素に属するタングステンである複合酸化物である。
【0048】
複合酸化物(Ba2NiWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2NiWO6)が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図5(a)に示すように、Efの直下の−2.0eVから0.0eVの領域に2本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図5(b)に示すように、これら2本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Ba2NiWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2NiWO6)が磁性体であると判断できる。
【0049】
バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物(Ba2NiWO6)における上向きスピンのバンド構造では、図5(a)に示すように、−1.61eVより下方の領域Ev31が価電子帯となる一方、1.50eVより上方の領域Ec31が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg31の大きさが3.11eVとなった。
【0050】
バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物(Ba2NiWO6)における下向きスピンのバンド構造では、図5(b)に示すように、−1.0eVより下方の領域Ev32が価電子帯となる一方、0.2eVより上方の領域Ec32が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg32の大きさが1.2eVとなった。
【0051】
さらに、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの状態(c1、c2、c3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、26.62%であった。
【0052】
よって、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物(Ba2NiWO6)が、図2に示すように、バンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Dの範囲内にあると確認された。この複合酸化物(Ba2NiWO6)は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0053】
[ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物]
ここで、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物(Sr2FeMoO6)について、図6を用いて具体的に説明する。
図6(a)および図6(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図6(a)および図6(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図6(a)にて、Ec41は伝導帯を示し、Ev41は価電子帯を示し、Eg41は禁制帯を示し、d1(太線),d2(1点鎖線),d3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図6(b)にて、Ec42は伝導帯を示し、Ev42は価電子帯を示す。なお、図6(a)において、波数域W近傍にて、太線と1点鎖線とがほぼ一致し、波数域L近傍からX近傍までの領域にて、1点鎖線と点線とがほぼ一致し、波数域Γ近傍にて、太線と1点鎖線と点線がほぼ一致している。
【0054】
ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物(Sr2FeMoO6)は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するストロンチウムであり、前記Bが遷移元素に属する鉄であり、前記Cが遷移元素に属するモリブデンである複合酸化物である。
【0055】
複合酸化物(Sr2FeMoO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2FeMoO6)が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図6(a)に示すように、Efの直下の−2.3eVから0.0eVの領域に5本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図6(b)に示すように、これら5本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Sr2FeMoO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Sr2FeMoO6)が磁性体であると判断できる。
【0056】
ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物(Sr2FeMoO6)における上向きスピンのバンド構造では、図6(a)に示すように、−0.75eVより下方の領域Ev41が価電子帯となる一方、0.80eVより上方の領域Ec41が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg41の大きさが1.55eVとなった。
【0057】
ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物(Sr2FeMoO6)における下向きスピンのバンド構造では、図6(b)に示すように、−1.0eV〜2.8eVの領域Ev42および領域Ec42が価電子帯および伝導帯となった。よって、禁制帯(バンドギャップ)の大きさが0eVとなった。
【0058】
さらに、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの状態(d1、d2、d3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、24.91%であった。
【0059】
よって、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物(Sr2FeMoO6)が、図2に示すように、バンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Dの範囲内にあると確認された。この複合酸化物(Sr2FeMoO6)は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0060】
[バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物]
ここで、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物(Ba2MnWO6)について、図7を用いて説明する。
図7(a)および図7(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図7(a)および図7(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図7(a)にて、Ec51は伝導帯を示し、Ev51は価電子帯を示し、Eg51は禁制帯を示し、e1(太線),e2(1点鎖線),e3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図7(b)にて、Ec52は伝導帯を示し、Ev52は価電子帯を示し、Eg52は禁制帯を示す。なお、図7(a)において、波数ベクトルWからL近傍にて、太線と1点鎖線とがほぼ一致し、波数域L近傍からΓ近傍までの領域にて、太線と1点鎖線と点線とがほぼ一致している。
【0061】
バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物(Ba2MnWO6)は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するバリウムであり、前記Bが遷移元素に属するマンガンであり、前記Cが遷移元素に属するタングステンである複合酸化物である。
【0062】
複合酸化物(Ba2MnWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2MnWO6)が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図7(a)に示すように、Efの直下の−1.8eVから0.0eVの領域に5本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図7(b)に示すように、これら5本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Ba2MnWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2MnWO6)が磁性体であると判断できる。
【0063】
バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物(Ba2MnWO6)における上向きスピンのバンド構造では、図7(a)に示すように、−0.49eVより下方の領域Ev51が価電子帯となる一方、1.30eVより上方の領域Ec51が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg51の大きさが1.79eVとなった。
【0064】
バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物(Ba2MnWO6)における下向きスピンのバンド構造では、図7(b)に示すように、−2.4eVより下方の領域Ev52が価電子帯となる一方、0.2eVより上方の領域Ec52が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg52の大きさが2.6eVとなった。
【0065】
さらに、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの状態(e1、e2、e3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、25.36%であった。
【0066】
よって、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物(Ba2MnWO6)は、図2に示すように、バンドギャップが0eV以上3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Dの範囲外にあると確認された。この複合酸化物(Ba2MnWO6)は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0067】
[バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物]
ここで、バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物(Ba2CoWO6)について、図8を用いて説明する。
図8(a)および図8(b)に示すバンド構造は、バンド計算(例えば、第一原理バンド計算)により求められたバンド構造である。図8(a)および図8(b)にて、縦軸はエネルギー状態を示し、横軸は波数ベクトルを示す。図8(a)にて、Ec61は伝導帯を示し、Ev61は価電子帯を示し、Eg61は禁制帯を示し、f1(太線),f2(1点鎖線),f3(点線)が、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)におけるエネルギー値の低い3つの電子状態を示す。図8(b)にて、Ec62は伝導帯を示し、Ev62は価電子帯を示し、Eg62は禁制帯を示す。なお、図8(a)において、波数ベクトルWからL近傍までの領域にて太線と1点鎖線がほぼ一致し、波数ベクトルLからΓ近傍までの領域にて、太線と1点鎖線と点線がほぼ一致し、波数ベクトルΓからX近傍までの領域にて、1点鎖線と点線とがほぼ一致している。
【0068】
バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物(Ba2CoWO6)は、AxByCwOzからなり、前記Aがアルカリ土類金属に属するバリウムであり、前記Bが遷移元素に属するコバルトであり、前記Cが遷移元素に属するタングステンである複合酸化物である。
【0069】
複合酸化物(Ba2CoWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2CoWO6)が磁性体であると判断できる。具体的には、上向きスピンのバンド構造には、図8(a)に示すように、Efの直下の−1.4eVから−1.0eVの領域に2本のバンドがあるが、下向きスピンのバンド構造では、図8(b)に示すように、これら2本のバンドがEfよりも上へ移動していることが分かる。これより、下向きスピンの電子の数が上向きスピンの電子の数よりも少なく、化合物全体としては上向きスピンと下向きスピンの差の分だけ上向きスピンを持つことが分かる。すなわち、Efよりもエネルギーの低い領域にあるバンドの状態には電子が詰まっており、Efよりもエネルギーの高い領域にバンドの状態は空で、電子が詰まっていないことが分かる。よって、複合酸化物(Ba2CoWO6)のバンド構造から当該複合酸化物(Ba2CoWO6)が磁性体であると判断できる。
【0070】
バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物(Ba2CoWO6)における上向きスピンのバンド構造では、図8(a)に示すように、−1.03eVより下方の領域Ev61が価電子帯となる一方、2.00eVより上方の領域Ec61が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg61の大きさが3.03eVとなった。
【0071】
バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物(Ba2CoWO6)における下向きスピンのバンド構造では、図8(b)に示すように、0.2eVより下方の領域Ev62が価電子帯となる一方、1.2eVより上方の領域Ec62が伝導帯となった。これらの領域の間の禁制帯(バンドギャップ)Eg62の大きさが1.0eVとなった。
【0072】
さらに、バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物の伝導帯バンドの酸素軌道含有率は、フェルミレベルの直上(伝導帯バンド)の3つの状態(f1、f2、f3)を平均して酸素原子の電子状態への寄与率を数値化したものであり、25.77%であった。
【0073】
よって、バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物(Ba2CoWO6)が、図2に示すように、バンドギャップが3.0eV以下であり、且つ伝導帯バンドの酸素軌道含有率が20%以上である範囲を示す領域Fの範囲内にあると確認された。この複合酸化物(Ba2CoWO6)は、ペロブスカイト型の構造であった。
【0074】
[複合酸化物の調製方法]
上述した複合酸化物(ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物、バリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物)は、各金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩または塩化物などを所定の割合で混合し、最終的に600〜1000℃、好ましくは700〜900℃で2〜10時間程度焼成して調製することができる。
【0075】
上記各金属元素の塩の混合方法としては、それぞれの金属塩を固体状態で混合する方法、それぞれの金属塩の溶液(水溶液など)を混合した後に蒸発乾固する方法、それぞれの金属塩の混合溶液をアンモニア水等のアルカリ溶液で加水分解する共沈法などを用いることができる。具体的には、ボールミル混合による固相法、共沈法、熱分解法などが採用できる。
【0076】
例えば、バリウムとコバルトとタングステンンの複合酸化物(Ba2CoWO6)を調製するに当たり、原料物質として、酸化バリウム、酸化コバルト、酸化タングステンを用意する。これらの原料物資を量論で得られるような割合で粉末を仮混合する。更に溶媒(エタノールや分散剤など)を加えて、ボールミルで20時間混合する。その後、120℃で乾燥させ、850℃で10時間焼成することにより複合酸化物を得ることができる。
【0077】
したがって、本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、排ガスに含まれる微粒子状物質の燃焼を促進する複合酸化物を有する排ガス処理触媒であって、前記複合酸化物がペロブスカイト型の構造であって、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物、またはバリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物の何れかであることにより、PMの燃焼開始温度をPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも低くすることができる。また、PMの燃焼速度をPt系触媒の場合と比べて同等、またはそれよりも速くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る排ガス処理触媒は、自動車やプラントから排出される排ガスを処理する排ガス処理触媒などに利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれる微粒子状物質の燃焼を促進する複合酸化物を有する排ガス処理触媒であって、
前記複合酸化物がペロブスカイト型の構造であって、ストロンチウムとクロムとタンタルの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とタングステンの複合酸化物、ストロンチウムと鉄とモリブデンの複合酸化物、バリウムとニッケルとタングステンの複合酸化物、バリウムとマンガンとタングステンの複合酸化物、またはバリウムとコバルトとタングステンの複合酸化物の何れかである
ことを特徴とする排ガス処理触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−230026(P2011−230026A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100720(P2010−100720)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】