説明

排ガス浄化用触媒

【課題】900℃以上の高温でかつ酸素過剰雰囲気であっても、Pt及びRhの層間移動を十分に抑制して、Pt及びRhの固溶劣化をより確実に抑制する。
【解決手段】基材1の表面に、第1触媒層2、移動抑制層3及び第2触媒層4がこの順で形成されている。第1触媒層2は、第1多孔質酸化物としてのCeO−ZrO複合酸化物を主体とする第1担体と、第1担体に担持されたPtとからなる。第2触媒層4は、第2多孔質酸化物としてのZrO−CeO複合酸化物を主体とする第2担体と、第2担体に担持されたRhとからなる。移動抑制層3は、第1多孔質酸化物及び第2多孔質酸化物よりも強い固体酸性をもつ強酸性多孔質酸化物、例えばシリカライトを主体として構成されている。移動抑制層3によって、第1触媒層2と第2触媒層4との間でのPt及びRhの移動を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒に関し、詳しくは、例えば内燃機関の排ガスを浄化するために用いられる排ガス浄化用触媒であって、特に理論空燃比(ストイキ)において排ガス中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行って浄化する三元触媒に用いて好適な排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化用触媒として、理論空燃比(ストイキ)の運転条件下において、排ガス中のCO及びHCの酸化とNOxの還元とを同時に行って浄化する三元触媒が用いられている。このような三元触媒としては、例えば、コーディエライト等からなる耐熱性基材にγ−アルミナ等からなる多孔質担体層を形成し、その多孔質担体層に白金(Pt)、ロジウム(Rh)等の触媒貴金属を担持させたものが広く知られている。
【0003】
貴金属のうちPtは主としてCO及びHCの酸化浄化に寄与し、Rhは主としてNOxの還元浄化に寄与する。また、Rhには、Ptの粒成長を阻止する作用がある。ここに、これら貴金属としてのPtとRhとは同じ結晶構造をもつ。このため、両者が併存すると高温時に互いに固溶して、Pt及びRhの活性が共に大きく低下するという問題がある。
【0004】
そこで、コート層を二層構造とし、PtとRhとをコート層別に分離担持した排ガス浄化用触媒が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載された排ガス浄化用触媒は、ハニカム基材と、ハニカム基材のセル壁の表面に形成された第1触媒層と、第1触媒層の表面に形成された移動抑制層と、移動抑制層の表面に形成された第2触媒層とから構成されている。第1触媒層は、セリア−ジルコニア(CeO−ZrO)複合酸化物を主体とする第1担体にPtが担持されたPt/CeO−ZrO層よりなる。第2触媒層は、ジルコニア(ZrO)を主体とする第2担体にRhが担持されたRh/ZrO層よりなる。そして、この第1触媒層と第2触媒層との間に形成された移動抑制層は、アルミナ(Al)にPt及びRhが担持されたPt−Rh/Al層よりなる。
【0006】
特許文献1に記載された排ガス浄化用触媒では、移動抑制層としてのPt−Rh/Al層が、第1触媒層及び第2触媒層間でのPt及びRhの移動を抑制するので、PtとRhとの固溶、劣化を抑制できるとされている。
【0007】
ところで、近年、自動車エンジンの高性能化や低燃費化の要請により、排ガス浄化用触媒においては、より高温側での耐久性が要求されるようになってきている。しかし、例えば900℃以上の高温で、かつ空燃比の大きいリーン側の酸素過剰雰囲気では、Pt及びRhの移動がより活発となる。
【0008】
本発明者の実験によれば、CeO系担体にPtを担持してなる第1触媒層と、ZrO系担体にRhを担持してなる第2触媒層との間に、Al主体の移動抑制層を設けても、大気中での1000℃×100時間の耐久試験後にPt及びRhが層間移動してしまい、Al主体の移動抑制層では高温での移動抑制効果が十分でないことが明らかとなった。
【0009】
なお、コート層を二層構造としたNOx吸蔵触媒も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
この特許文献2に記載されたNOx吸蔵触媒では、Alやチタニア(TiO)などの担体にアルカリ金属やアルカリ土類金属を担持してなるNOx吸蔵触媒層と、セリア(CeO)を主体とする担体にPtやRh等を担持してなる水素製造触媒層との間に、無機材料中間層が形成されている。そして、この中間層の材料として、MgO、ゼオライトやメソポーラスシリカが例示されている。
【0011】
この特許文献2に記載されたNOx吸蔵触媒では、無機材料中間層の存在によって、NOx吸蔵触媒層と水素製造触媒層との間に物理的距離が保たれるので、その結果NOx吸蔵触媒層から水素製造触媒層へのアルカリ成分(アルカリ金属やアルカリ土類金属)の移動を抑制できるとされている。
【0012】
ここに、特許文献2において無機材料中間層として例示されているメソポーラスシリカは、主に直径2〜10nm程度の細孔(メソ孔)を有し、その細孔壁がアモルファス状の多孔質物質である。一方、シリカライトを含むゼオライトにおいては、細孔径が0.5〜2nm程度で、かつその細孔壁が結晶状である。このため、メソポーラスシリカでは、ゼオライトに比べて、耐熱性や固体酸性等の特性が低く、また細孔径分布もゼオライトほど均一でない。
【特許文献1】特開2006−192357号公報
【特許文献2】特開2007−196146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、例えば900℃以上の高温でかつ酸素過剰雰囲気であっても、Pt及びRhの層間移動を十分に抑制することができ、したがってPt及びRhの固溶劣化をより確実に抑制することのできる排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、貴金属が担持される多孔質酸化物の特性と貴金属移動との関係について研究した。その結果、Pt及びRhは、概ね塩基性の多孔質酸化物上に安定に存在することがわかった。すなわち、Pt及びRhは、より塩基性の強い多孔質酸化物に移動し、より酸性の強い多孔質酸化物には移動しにくいことがわかった。本発明はこれらの知見に基づいて完成された。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明の排ガス浄化用触媒は、第1多孔質酸化物を主体として構成された第1担体と、該第1担体に担持された白金(Pt)とを有する第1触媒層と、第2多孔質酸化物を主体として構成された第2担体と、該第2担体に担持されたロジウム(Rh)とを有する第2触媒層と、前記第1触媒層と前記第2触媒層との間に形成され、貴金属の移動を抑制する移動抑制層と、を備え、前記移動抑制層は、前記第1多孔質酸化物及び前記第2多孔質酸化物よりも強い固体酸性をもつ強酸性多孔質酸化物を主体として構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の排ガス浄化用触媒では、第1触媒層と第2触媒層との間に形成された移動抑制層が、第1触媒層における第1多孔質酸化物及び第2触媒層における第2多孔質酸化物のいずれよりも強い固体酸性をもつ強酸性多孔質酸化物を主体として構成されている。多孔質酸化物に担持されたPt及びRhは、自身が担持されている多孔質酸化物よりも固体酸性の強い強酸性多孔質酸化物には移動しにくい。このため、第1触媒層と第2触媒層との間に形成された強酸性多孔質酸化物を主体とする移動抑制層によって、例えば900℃以上の高温でかつ酸素過剰雰囲気であっても、第1触媒層と第2触媒層との間でのPt及びRhの移動を効果的に抑制することができる。したがって、Pt及びRhの固溶劣化が抑制される。
【0017】
本発明の排ガス浄化用触媒において、前記強酸性多孔質酸化物のO1S結合エネルギーが531.5eV以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の排ガス浄化用触媒において、前記強酸性多孔質酸化物がケイ素含有多孔質酸化物であることが好ましい。
【0019】
本発明の排ガス浄化用触媒において、前記ケイ素含有多孔質酸化物がシリカライトであることが好ましい。
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒において、前記第1多孔質酸化物がセリア(CeO)又はセリアを主体とするセリア−ジルコニア(CeO−ZrO)複合酸化物であり、前記第2多孔質酸化物がジルコニア(ZrO)又はジルコニアを主体とするジルコニア−セリア(ZrO−CeO)複合酸化物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排ガス浄化用触媒によれば、例えば900℃以上の高温でかつ酸素過剰雰囲気であっても、Pt及びRhの層間移動を十分に抑制することができ、したがってPt及びRhの固溶劣化をより確実に抑制することができる。よって、排ガス浄化用触媒において、高温耐久後も高い浄化活性を維持することができ、耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の排ガス浄化用触媒は、第1触媒層と、第2触媒層と、移動抑制層とを備えている。
【0023】
第1触媒層は、第1多孔質酸化物を主体として構成された第1担体と、この第1担体に担持された白金(Pt)とを有する。第1触媒層は、主にCO及びHCを酸化浄化する役割を果たす。
【0024】
第1多孔質酸化物としては、特に限定されないが、Ptと相性の良いCeO又はCeOを主体とするCeO−ZrO複合酸化物とすることが好ましい。特に、CeO−ZrO複合酸化物は、高い酸素吸放出能を有し雰囲気変動を緩和することができる点で、好ましい。CeOを主体とするCeO−ZrO複合酸化物におけるCeOとZrOの質量比は、0.5≦CeO/ZrO≦0.9の範囲とすることが好ましく、0.6≦CeO/ZrO≦0.8の範囲とすることがより好ましい。CeO/ZrOの値が小さすぎると、酸素吸放出能が不十分となり、Pt粒成長抑制効果の低下に繋がり、CeO/ZrOの値が大きすぎると、酸素吸放出能が不十分となったり、熱安定性が低下したりする場合がある。
【0025】
第1多孔質酸化物に対するPtの担持量は、浄化活性とコストとの兼ね合いから、第1触媒層の全体を100質量%としたとき、0.01〜10質量%の範囲が好ましい。なお、第1多孔質酸化物には、必要に応じて、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は希土類元素等を担持させてもよい。
【0026】
第1触媒層には、性能を損なわない範囲で、アルミナ(Al)など他の酸化物を混合することも可能である。例えば、CeO主体のCeO−ZrO複合酸化物にPtを担持した触媒粉末と、Al粉末とを混合してなる触媒層の場合には、耐久試験後にAl上にPtは見られず、PtはCeO−ZrO複合酸化物に担持された状態を維持しているので、特性に影響は無い。
【0027】
第2触媒層は、第2多孔質酸化物を主体として構成された第2担体と、この第2担体に担持されたロジウム(Rh)とを有する。第2触媒層は、排ガス中で水素を生成するため高いNOx浄化活性を発現する。
【0028】
第2多孔質酸化物としては、特に限定されないが、Rhと相性の良いZrO又はZrOを主体とするZrO−CeO複合酸化物とすることが好ましい。特に、ZrO−CeO複合酸化物は、酸素吸放出能や水素生成能を発揮する点で、好ましい。ZrOを主体とするZrO−CeO複合酸化物におけるZrOとCeOの質量比は、0.5≦ZrO/CeO≦0.9の範囲とすることが好ましく、0.6≦ZrO/CeO≦0.8の範囲とすることがより好ましい。ZrO/CeOの値が小さすぎると、水素生成能が不十分となり、ZrO/CeOの値が大きすぎると、酸素吸放出能が不十分となったり、熱安定性が低下したりする場合がある。
【0029】
第2多孔質酸化物に対するRhの担持量は、浄化活性とコストとの兼ね合いから、第2触媒層の全体を100質量%としたとき、0.01〜5質量%の範囲が好ましい。
【0030】
第2触媒層には、性能を損なわない範囲で、Alなど他の酸化物を混合することも可能である。例えば、ZrO主体のZrO−CeO複合酸化物にRhを担持した触媒粉末と、Al粉末とを混合してなる触媒層の場合には、耐久試験後にAl上にPtは見られず、PtはZrO−CeO複合酸化物に担持された状態を維持しているので、特性に影響は無い。
【0031】
移動抑制層は、第1触媒層と第2触媒層との間に形成され、第1触媒層から第2触媒層への貴金属(第1触媒層中のPt)の移動、及び第2触媒層から第1触媒層への貴金属(第2触媒層中のRh)の移動を抑制する。このような機能をもつ移動抑制層は、強酸性多孔質酸化物を主体に構成されている。
【0032】
この移動抑制層の主体となる強酸性多孔質酸化物は、第1触媒層における第1多孔質酸化物及び第2触媒層における第2多孔質酸化物よりも強い固体酸性をもつ。具体的には、移動抑制層を構成する強酸性多孔質酸化物の酸強度としては、O1S結合エネルギーが531.5eV以上であることが好ましく、532.5eV以上であることがより好ましい。強酸性多孔質酸化物のO1S結合エネルギーが531.5eVよりも小さくなると、貴金属の移動抑制効果が不十分となる。
【0033】
強酸性多孔質酸化物の種類としては、第1多孔質酸化物及び第2多孔質酸化物よりも強い固体酸性をもち貴金属の移動抑制効果を発揮しうるものであれば特に限定されず、タングステン(W)酸化物や錫(Sn)酸化物等であってもよいが、ケイ素含有多孔質酸化物であることが好ましい。ケイ素含有多孔質酸化物は、耐熱性の点で、他の多孔質酸化物よりも有利となる。
【0034】
ケイ素含有多孔質酸化物としては、耐熱性シリカ(SiO)やシリカライトを挙げることができるが、耐熱性SiOよりもシリカライトの方が高い貴金属移動抑制効果を発揮するので好ましい。耐熱性SiOよりもシリカライトの方が高い貴金属移動抑制効果を発揮する理由は、必ずしも明らかでないが、細孔を有するシリカライトにおけるポーラスな結晶構造が貴金属の移動抑制に対して何らかの影響を及ぼしていると考えられる。なお、ここでいう耐熱性SiOにおける耐熱性とは、メソポーラスシリカとは異なり、1000℃でも安定であることを意味する。また、耐熱性SiOは、細孔を有するシリカライトとは異なり、細孔を有しない。
【0035】
本明細書において、シリカライトとは、SiとAlのモル比でSi/2Al≧1000となるようにAlを含む人工ゼオライト、又はAlを全く含まずSiOのみからなる人工ゼオライトのことをいう。なお、Si/2Al<1000のゼオライトでは、Al量の増大により耐熱性が不十分となる。また、シリカライトは、細孔径が0.5〜2nm程度で、かつその細孔壁が結晶状である点で、細孔径が2〜10nm程度で、かつその細孔壁がアモルファス状のメソポーラスシリカと異なる。
【0036】
耐熱性の観点より、シリカライトにおけるSiとAlのモル比は、Si/2Al≧1500であることがより好ましく、Alを全く含まずSiOのみからなるシリカライトが特に好ましい。また、同様の観点より、シリカライトの中でも、特にMFI型のシリカライトが好ましい。
【0037】
表面積の観点より、シリカライトの細孔径は0.2〜1nmであることが好ましく、0.4〜0.6nmであることがより好ましい。
【0038】
移動抑制層には、性能を損なわない範囲で、Alなど他の酸化物を混合することも可能である。
【0039】
各層の厚さは、基材形状、目的とする圧損などに応じて種々選択でき、特に制限されない。ただし、移動抑制層の厚さは1〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。移動抑制層の厚さが薄くなりすぎると、貴金属の移動を抑制する機能が不十分になるおそれがあり、厚すぎると下層へのガス拡散に対して障壁となる。
【0040】
本発明の排ガス浄化用触媒は、第1触媒層、移動抑制層及び第2触媒層がこの順で積層されていれば、ペレット形状、ハニカム形状などとすることができる。広く用いられているハニカム形状の触媒の場合には、コージェライト、メタルなどから形成されたハニカム基材に第1触媒層、移動抑制層及び第2触媒層をこの順で形成したもの、あるいはハニカム基材に第2触媒層、移動抑制層及び第1触媒層をこの順で形成したものとされる。
【0041】
本発明の排ガス浄化用触媒において、第1触媒層と第2触媒層とのどちらを上層(表層)又は下層とするかは制限されず、要求される触媒特性に応じて適宜選択することができる。
【0042】
例えば、本発明の排ガス浄化用触媒を三元触媒に適用する場合は、Rhを含む第2触媒層を上層(表層)とし、Ptを含む第1触媒層を下層とすることが好ましい。三元触媒においては、燃料が少ないリーン雰囲気でNOxの浄化を高活性にしたいところ、NOxの還元浄化に寄与するRhが表層に存在していた方が望ましいからである。
【0043】
一方、例えば本発明の排ガス浄化用触媒をNOx吸蔵還元型触媒に適用する場合は、NOxを吸蔵還元するアルカリ金属又はアルカリ土類金属等が表層に存在していた方がよい。このNOx吸蔵材としてのアルカリ金属又はアルカリ土類金属等はRhと相性が悪い。このため、本発明の排ガス浄化用触媒をNOx吸蔵還元型触媒に適用する場合は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属等のNOx吸蔵材及びPtを含む第1触媒層を上層(表層)とし、Rhを含む第2触媒層を下層とすることが好ましい。
【0044】
ここに、後述する実施例で示されるように、理由は明らかではないが、耐熱性SiOは、Rhの移動を抑制する機能よりも、Ptの移動を抑制する機能の方が高いのに対し、シリカライトは、Ptの移動を抑制する機能よりも、Rhの移動を抑制する機能の方が高い。このため、移動抑制層の強酸性多孔質酸化物としてシリカライトを採用する場合は、第2触媒層に含まれるRhが第1触媒層や移動抑制層に移動することをより確実に抑制することができる。したがって、本発明の排ガス浄化用触媒において、Rhを含む第2触媒層を上層(表層)とし、Ptを含む第1触媒層を下層とし、かつ移動抑制層の強酸性多孔質酸化物にシリカライトを採用し、この排ガス浄化用触媒を三元触媒に適用した場合は、本発明の効果をより有効なものとすることが可能となる。
【0045】
よって、本発明の排ガス浄化用触媒は、酸化触媒、三元触媒、NOx吸蔵還元型触媒や水素生成触媒などに利用することができる。本発明の排ガス浄化用触媒は、特に内燃機関の排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として好適に利用することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0047】
(実施例1)
図1に、本実施例の排ガス浄化用触媒の概略断面図を示す。この排ガス浄化用触媒は、基材1と、基材1の表面に形成された第1触媒層2と、第1触媒層2の表面に形成された移動抑制層3と、移動抑制層3の表面に形成された第2触媒層4とから構成されている。
【0048】
基材1は、コージェライト製ハニカム基材(直径103mm、長さ105mm、セル密度600/in)よりなる。
【0049】
下層としての第1触媒層2は、第1担体と、この第1担体に担持されたPtとを有する。第1担体は、第1多孔質酸化物としてのCeO−ZrO複合酸化物を主体として構成され、バインダとしてのAlを含む。
【0050】
第1触媒層2におけるPtの担持量は、第1多孔質酸化物としてのCeO−ZrO複合酸化物100質量部に対して、1.5質量部である。第1担体におけるCeO−ZrO複合酸化物とAlとの質量比は、CeO−ZrO複合酸化物/Al=125/45.5である。また、CeO−ZrO複合酸化物におけるCeO/ZrOの質量比は、CeO/ZrO=2/1である。
【0051】
中間層としての移動抑制層3は、強酸性多孔質酸化物としてのシリカライト(Si/2Al=1500)を主体として構成され、バインダとしてのAlを含む。移動抑制層3におけるシリカライトとAlとの質量比は、シリカライト/Al=29/8.3である。
【0052】
この移動抑制層3を主に構成する強酸性多孔質酸化物としてのシリカライトのO1S結合エネルギーは533eVである。また、このシリカライトの細孔径は0.53nm×0.56nmと、0.51nm×0.55nmである。
【0053】
上層(表層)としての第2触媒層4は、第2担体と、この第2担体に担持されたRhとを有する。第2担体は、第2多孔質酸化物としてのZrO−CeO複合酸化物を主体として構成され、バインダとしてのAlを含む。
【0054】
第2触媒層4におけるRhの担持量は、第2多孔質酸化物としてのZrO−CeO複合酸化物100質量部に対して、0.075質量部である。第2担体におけるZrO−CeO複合酸化物とAlとの質量比は、ZrO−CeO複合酸化物/Al=60/25.5である。また、ZrO−CeO複合酸化物におけるZrO/CeOの質量比は、ZrO/CeO=2/1である。
【0055】
第1触媒層2の厚さは20〜40μm、移動抑制層3の厚さは10μm、第2触媒層4の厚さは20〜40μmである。
【0056】
以下、本実施例の排ガス浄化用触媒の製造方法を説明する。
(1)CeO−ZrO複合酸化物粉末(質量%でCeO:ZrO=60:40)100gに、所定濃度のジニトロジアンミンPt水溶液の所定量を含浸させた後、蒸発乾固させ、500℃で2時間焼成して、Ptを1.5g担持したPt/CeO−ZrO粉末を調製した。
【0057】
このPt/CeO−ZrO粉末125質量部と、Al粉末45質量部と、アルミナゾル(固形分10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合し、撹拌後ボールミルにて20時間ミリングして下層用スラリーを調製した。
(2)シリカライト(Si/2Al=1500)粉末29質量部と、Al粉末8質量部と、アルミナゾル(固形分10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合し、撹拌後ボールミルにて20時間ミリングして中間層用スラリーを調製した。
(3)ZrO−CeO複合酸化物粉末(質量%でZrO:CeO=60:40)60gに、所定濃度の硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸させた後、蒸発乾固させ、500℃で2時間焼成して、Rhを0.045g担持したRh/ZrO−CeO粉末を調製した。
【0058】
このRh/ZrO−CeO粉末60質量部と、Al粉末25質量部と、アルミナゾル(固形分10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合し、撹拌後ボールミルにて20時間ミリングして上層用スラリーを調製した。
(4)コージェライト製ハニカム基材よりなる基材1に先ず下層用スラリーをウォッシュコートし、120℃で乾燥後、550℃で2時間焼成した。これにより、基材1の表面に下層としての第1触媒層2を形成した。この第1触媒層2のコート量は、ハニカム基材1リットルあたり170.5gである。
【0059】
次に、中間層用スラリーを第1触媒層2の表面にウォッシュコートし、150℃で乾燥後、550℃で2時間焼成した。これにより、基材1の第1触媒層2の表面に中間層としての移動抑制層3を形成した。この移動抑制層3のコート量は、ハニカム基材1リットルあたり37.3gである。
【0060】
さらに、上層用スラリーを移動抑制層3の表面にウォッシュコートし、120℃で乾燥後、550℃で2時間焼成した。これにより、基材1の移動抑制層3の表面に上層としての第2触媒層4を形成した。この第2触媒層4のコート量は、ハニカム基材1リットルあたり85.5gである。
【0061】
以上の工程により、基材1のセル壁の表面に、Pt/CeO−ZrO主体の第1触媒層2、シリカライト主体の移動抑制層3、及びRh/ZrO−CeO主体の第2触媒層4がこの順で一体的に積層された本実施例の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0062】
(実施例2)
本実施例の排ガス浄化用触媒では、実施例1の排ガス浄化用触媒において、移動抑制層3を主に構成する強酸性多孔質酸化物として、シリカライトの代わりに耐熱性SiOを採用した。
【0063】
すなわち、この排ガス浄化用触媒では、基材1のセル壁の表面に、Pt/CeO−ZrO主体の第1触媒層2、耐熱性SiO主体の移動抑制層3、及びRh/ZrO−CeO主体の第2触媒層4がこの順で一体的に積層されている。
【0064】
中間層としての移動抑制層3は、耐熱性SiOを主体として構成され、バインダとしてのAlを含む。移動抑制層3における耐熱性SiOとAlとの質量比は、耐熱性SiO/Al=9/8.3である。
【0065】
この移動抑制層3を構成する強酸性多孔質酸化物としての耐熱性SiOのO1S結合エネルギーは533eVである。なお、この耐熱性SiOは細孔を有しない。
【0066】
その他の構成及び製造方法は実施例1と同様であるため、その説明を省略する。
【0067】
(比較例1)
中間層として、シリカライトを主体とする移動抑制層3の代わりに、Al中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の触媒を作製した。
【0068】
なお、Al中間層は、Al粉末37.5質量部と、アルミナゾル(固形分10質量%)2.5質量部と、蒸留水とを混合して中間層用スラリーを調製すること以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0069】
このAl中間層のO1S結合エネルギーは531.4eVである。
【0070】
(比較例2)
中間層として、シリカライトを主体とする移動抑制層3の代わりに、TiO中間層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の触媒を作製した。
【0071】
なお、TiO中間層は、TiO粉末24質量部と、Al粉末8質量部と、アルミナゾル(固形分10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合して中間層用スラリーを調製すること以外は、実施例1と同様にして形成した。
【0072】
このTiO中間層のO1S結合エネルギーは530.4eVである。
【0073】
(比較例3)
中間層としての移動抑制層3を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の触媒を作製した。
【0074】
(評価1)
実施例1及び比較例1の排ガス浄化用触媒について、エンジンベンチテストにより耐久試験を行った。この耐久試験では、実施例1及び比較例1の各排ガス浄化用触媒を内蔵した触媒コンバータをストイキ燃焼制御されたガソリンエンジンの排気系にそれぞれ装着し、1000℃の排ガスを100時間流通させた。そして、耐久試験後の触媒における触媒性能を、エンジンベンチにおいて評価した。この評価では、ガス空間速度:100000h−1の条件にて室温から500℃まで10℃/分の速度で昇温し、その間のNOx浄化率を連続的に測定して、50%浄化温度を求めた。その結果を図2に示す。
【0075】
図2から明らかなように、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成した実施例1の触媒では、Al中間層を形成した比較例1の触媒に比べて、耐久試験後も高いNOx浄化活性を示した。これは、特に、上層としての第2触媒層4におけるRhの移動や粒成長が抑制されたためであり、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成したことによる効果であることが明らかである。したがって、シリカライトは、Alと比べて、貴金属の移動抑制効果が大きく、特にRhの移動抑制効果が大きいことが確認できた。
【0076】
次に、エンジンベンチ評価後の各触媒を取り出して上流側からテストピースを切り出し、樹脂埋め、研磨して、コート層断面についてEPMA(Electron Probe Micro Analyzer、X線マイクロアナライザー)を行った。
【0077】
その結果、Al中間層を形成した比較例1の触媒では、第1触媒層2のPtがAl中間層及び第2触媒層4に移動し、第2触媒層4のRhのほとんどが第1触媒層2に移動していた。これに対し、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成した実施例1の触媒では、第1触媒層2のPtが移動抑制層3及び第2触媒層4に移動することが抑制され、第2触媒層4のRhが移動抑制層3及び第1触媒層2に移動することも抑制されていた。
【0078】
(評価2)
実施例1、2、比較例2、3の排ガス浄化用触媒について、エンジンベンチテストにより耐久試験を行った。この耐久試験では、各排ガス浄化用触媒を内蔵した触媒コンバータをストイキ燃焼制御されたガソリンエンジンの排気系にそれぞれ装着し、1000℃の排ガスを50時間流通させた。そして、耐久試験後の各触媒を取り出して上流側からテストピースを切り出し、樹脂埋め、研磨して、コート層断面についてEPMAを行った。そして、Rh移動量及びPt移動量を求めた。その結果を図3及び表1に示す。
【0079】
なお、Rh移動量(%)は下記(1)式により、Pt移動量(%)は下記(2)式によりそれぞれ求めた。また、図4に示されるように、6角セル壁の辺部及びコーナー部のそれぞれにおける貴金属移動量を評価した。
【0080】
Rh移動量(%)
={(下層Rh濃度}/(上層Rh濃度+下層Rh濃度)}×100 …(1)
Pt移動量(%)
={(上層Pt濃度)/(上層Pt濃度+下層Pt濃度)}×100 …(2)
【0081】
【表1】

【0082】
図3及び表1より明らかなように、TiO中間層を形成した比較例2の触媒では、Pt及びRhの移動抑制効果が若干認められた。これに対し、耐熱性SiOを主体とする移動抑制層3を形成した実施例2の触媒では、Pt及びRhの移動を抑制することができ、特にRhの移動を抑制する効果が大きかった。また、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成した実施例1の触媒では、Pt及びRhの双方の移動を抑制する効果が大きかった。
【0083】
また、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成した実施例1の触媒では、耐熱性SiOを主体とする移動抑制層3を形成した実施例2の触媒と比べて、Pt及びRhの双方の移動を抑制する効果がより大きかった。特に、シリカライトを主体とする移動抑制層3を形成した実施例1の触媒では、Ptの移動抑制効果よりもRhの移動抑制効果の方が大きかった。したがって、シリカライトは、耐熱性SiOと比べて、Pt及びRhの移動抑制効果が大きく、特にRhの移動抑制効果が大きいことが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施例の排ガス浄化用触媒を部分的に拡大して模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1及び比較例1の排ガス浄化用触媒について、耐久試験後の50%浄化温度を示すグラフである。
【図3】実施例1、2、比較例2、3の排ガス浄化用触媒について、耐久試験後の貴金属移動量をグラフである。
【図4】実施例1、2、比較例2、3の排ガス浄化用触媒について、耐久試験後の貴金属移動量を評価した部位を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1…基材 2…第1触媒層 3…移動抑制層 4…第2触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多孔質酸化物を主体として構成された第1担体と、該第1担体に担持された白金とを有する第1触媒層と、
第2多孔質酸化物を主体として構成された第2担体と、該第2担体に担持されたロジウムとを有する第2触媒層と、
前記第1触媒層と前記第2触媒層との間に形成され、貴金属の移動を抑制する移動抑制層と、を備え、
前記移動抑制層は、前記第1多孔質酸化物及び前記第2多孔質酸化物よりも強い固体酸性をもつ強酸性多孔質酸化物を主体として構成されていることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記強酸性多孔質酸化物のO1S結合エネルギーが531.5eV以上である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記強酸性多孔質酸化物がケイ素含有多孔質酸化物である請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記ケイ素含有多孔質酸化物がシリカライトである請求項3に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記第1多孔質酸化物がセリア又はセリアを主体とするセリア−ジルコニア複合酸化物であり、前記第2多孔質酸化物がジルコニア又はジルコニアを主体とするジルコニア−セリア複合酸化物である請求項1〜4のいずれか一つに記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−22921(P2010−22921A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186158(P2008−186158)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】