説明

排気ガスによって掃気される構成部品、特にエンジンセットの構成部品、およびそのような構成部品をコーティングする方法

【課題】粒子による付着物および/または硫黄および窒素を含む生成物による腐食を防ぐ。
【解決手段】排気ガスによって掃気される構成部品、特に、内燃エンジン12および/またはエンジンセット10に属する少なくとも排気ガス循環路14,16,18,20の構成部品において、少なくとも1つの構成部品の排気ガスと接触する面が、ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する保護コーティングを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスと接触する構成部品、特に少なくとも1つの排気ガス循環路を有する内燃エンジンを備えたエンジンセットの構成部品に関する。
【0002】
一般に、そのようなエンジンは、排出物、より詳しくは窒素酸化物(NOx)の削減を向上させるために、そのような再循環を伴って作動する。
【背景技術】
【0003】
広く知られているように、NOx排出物を削減するためにエンジンの吸気口に排気ガスの一部を再循環させることは一般的な方法になっている。排気ガスは前のエンジン作動サイクルの燃焼の結果生じた酸素濃度の少ないガスであるので、実際上、排気ガスはその目的に用いられている。そのため、そのような排気ガスを吸気相のシリンダ内に導入することには、燃料と混合する新鮮な空気の量を減らす働きがある。これにより、燃料混合物の燃焼温度を低下させて、この燃焼の結果生じるNOxの生成を減らすことが可能になる。
【0004】
一般に、この排気ガス再循環は、エンジンの排気マニフォールドをその吸気マニフォールドに連結する管路を有するEGR(Exhaust Gas Recirculation)循環路と呼ばれる循環路によって行われる。その管路はERGバルブと呼ばれるバルブを備えており、そのバルブは、バルブの完全に閉じた位置と完全に開いた位置との間で、管路内を循環しているガスの流れを調節することが可能である。
【0005】
排気ガスが吸気マニフォールド内に供給される前に排気ガスの温度を調節する働きがある、EGRクーラと呼ばれる再循環された排気ガスの熱交換冷却器が備えられていることが有利である。このクーラは、冷却液が循環するチューブ(すなわち、ひだのあるチューブ)からなり、排気ガスによって掃気されて排気ガスの熱量と冷却液と交換する。
【0006】
エンジンは、受け入れた周囲の空気を圧縮し、かつその空気を圧縮した状態でエンジンの吸気口へ送るターボ過給機のような過給装置を有する、過給気型のエンジンであってもよい。このターボ過給機は、通常は排気管に設けられており、エンジンから排出されてこの排気管内を循環する排気ガスによって回転駆動させられるタービンを有している。タービンは過給機に回転するように連結されており、タービンの回転によって、周囲の空気をエンジンの吸気口に送られる前に圧縮するようになっている。
【0007】
この過給装置はまた、タービンを通って流れる排気ガスの量を調節することを可能にする排気ガス排出路を有している。したがって、排気管のタービンの上流側から出て排気管のタービンの下流側で終端しているバイパス管が設けられている。より一般的にはウエィストゲートと呼ばれている排出バルブが、タービンの上流側の、バイパス管と排気管との交差部に配置されている。ウエストゲートは、排気ガスの全部がタービンを通るようにバイパス管を閉じる完全に閉じた位置と、バイパス管の入口を開放する完全に開いた位置との間の複数の中間位置を取ることができる。そのためこのウエィストゲートは、タービンの入口で、排気ガスの量、したがって過給機から出る空気の圧力を調節することを可能にしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの装置は、満足のいく成果をもたらしているが、いくつかの欠点を含んでいる。
【0009】
特にEGR循環路の熱交換冷却器のような、エンジンの構成部品の大部分の大きな冷えた面が、未燃焼の炭化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物、およびすすの粒子を含む高温の排気ガスと接触する。すすの粒子はこれらの面に付着することがあるのに対し、硫黄および窒素を含む生成物はそれらが凝縮すると腐食性の酸を成すことがあり、その結果として、排気ガスと接触する構成部品に付着物および/または腐食が生じる可能性がある。
【0010】
すると、熱交換冷却器のチューブ、すなわちひだのあるチューブの外側表面の付着物は熱交換冷却器の冷却液との熱交換性能を低下させることがあり、それにより熱交換冷却器の性能の低下を生じさせる。さらに、この熱交換冷却器の構成部分の酸による腐食は、EGR循環路の寿命を短くする。
【0011】
この付着物はまた、EGRバルブおよびウエィストゲートが閉じた位置においても完全に密封されなかったり、噴射ノズルの一部がすすの粒子によって部分的に塞がれるというような、エンジンのある構成部品の性能を低下させることに繋がる。
【0012】
さらに、EGR循環路および排出路の管路、および排気管は、粒子による付着物および/または硫黄および窒素を含む生成物による腐食を被ることがある。
【0013】
本発明は、排気ガスによる付着物が付着しない構成部品によって、上述した欠点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのため、本発明は、排気ガスによって掃気される構成部品、特に、内燃エンジンおよび/またはエンジンセットに属する少なくとも排気ガス循環路の構成部品において、少なくとも1つの構成部品の前記排気ガスと接触する面が、ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する保護コーティングを備えていることを特徴とする、排気ガスによって掃気される構成部品に関する。
【0015】
前記コーティングの厚みは概して数μmから約0.5mmであってもよい。
【0016】
前記コーティングは水素成分を含んでいることが有利である。
【0017】
前記水素は少なくとも1つのヘテロエレメントと混合していることが好ましい。
【0018】
前記ヘテロエレメントはケイ素、フッ素、酸素、窒素の中から選択されてもよい。
【0019】
前記コーティングは80%以下の割合の水素を含んでいてもよい。
【0020】
前記コーティングは20%以下の割合のヘテロエレメントを含んでいてもよい。
【0021】
本発明はまた、構成部品の少なくとも一部の排気ガスと接触する面をコーティングする方法に関し、その方法によれば、ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する前記保護コーティングを、軽質炭化水素ガスのプラズマ分解によって堆積させてもよい。
【0022】
ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する前記保護コーティングを、炭素ターゲットのアブレーションによって堆積させてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1において、エンジンセット10は、排気ガス再循環路、すなわちEGR循環路14を備えた少なくとも1つの排気ガス循環路と組み合わされた内燃エンジン12と、排出路20を備えたターボ過給機18が設けられている排気管16とを有している。
【0024】
エンジン12は、吸気バルブ26および吸気管28を備えた少なくとも1つの吸気手段24を備えた少なくとも1つのシリンダ22と、排気バルブ32および排気管34を備えた少なくとも1つの排気手段30とを有している。内燃エンジンが火花点火直噴エンジンである場合、各シリンダは、燃料噴射ノズル36をシリンダ内に備えているとともに、このシリンダ内にある空燃混合物に点火するスパークプラグ38を備えている。シリンダは、このシリンダ内において直線往復運動するように摺動するピストン(参照番号は省略)を有しており、そのピストンの上面と、吸気手段および排気手段を有する通常はシリンダヘッド(不図示)との間に燃焼室40を形成している。吸気手段24の吸気管28が吸気マニフォールド42に連結されているのに対し、排気手段30の排気管34は排気マニフォールド44内に終端している。
【0025】
吸気マニフォールド42は、管路46によって、管路52を通じて外気を受け入れるターボ過給機18の圧縮段48の出口に連結されている。排気マニフォールド44は、エンジンの排気ガスを大気に排出する排気管54を通常は有している排気管16に連結されている。ターボ過給機18の駆動段56がこの排気管54に配置されている。この駆動段56は、広く知られているように排気ガスによって回転駆動させられるタービンを有しており、その排気ガスはタービンを通って流れた後に排気管54内に戻る。
【0026】
このターボ過給機18の排出路20は、駆動段56の上流側の排気管54から出て、この駆動段を迂回し、最終的にはこの駆動段の下流側の排気管54に開口するバイパス管58を有している。駆動段56を通過する排気ガスの流量を調節するウエィストゲート60が、バイパス管58と排気管54との交差部に配置されている。
【0027】
EGR循環路14は、排気管54から出て吸気マニフォールド42の入口に開口しているEGR管62を有している。EGR管62は、吸気マニフォールド42内に再導入される排気ガスの量を調節することを可能にするEGRバルブと呼ばれるバルブ64を備えている。さらに、このEGR管62は排気ガスが通って流れる熱交換冷却器66を有しており、したがって熱交換冷却器66は吸気マニフォールド42の入口における排気ガスの温度を調節することに用いられる。通常はエンジンのクーラントである冷却液が、入口と出口70との間をこの熱交換冷却器66を通って流れる。
【0028】
このようにして、排気ガスはエンジンセット10の大部分の構成部品を通って流れ、排気ガスの再循環またはターボ過給機18の駆動もしくは排気ガスの排出が行われる。
【0029】
より詳しくは、開示した例では、再循環させられた排気ガスが、燃焼室40、吸気バルブ26および吸気管28を備えた吸気手段24、排気バルブ32および排気管34を備えた排気手段30、吸気マニフォールド42、排気マニフォールド44、排気管54、ターボ過給機18のタービンを備えた駆動段56、バイパス管58およびウエィストゲート60を備えた排出路20、およびEGR管62、熱交換冷却器66およびEGRバルブ64を備えたEGR循環路14を掃気する。
【0030】
これらの構成部品が排気ガスによる付着物および/または腐食が生じるのを防ぐために、これらの構成部品の全部または一部の排気ガスによって掃気される面が、より一般的にはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)として知られている、ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を有する、有利には薄膜の形態の保護材を備えている。
【0031】
この種の材料では、炭素原子の一部は、ダイヤモンドの局所構造の特性を示す四面体構造(sp3結合)を有する原子結合を有している。sp3結合の割合は、一般的には0.3から0.9の範囲であり、概ね0.5以上である。ダイヤモンドに近い形態のこれらのアモルファス炭素は、硬度が10GPa以上、130GPa以下であり、摩擦係数が低い(sp3結合の割合が0.75以上の場合で0.12以下)。
【0032】
DLCは、熱交換器装置、特にEGR循環路14の熱交換冷却器66における使用に関して顕著な、有利な特性を有している。DLCの熱伝導率は高い(700wm-1-1,銅の400と比較しても高く、アルミニウムの235よりも高い)。DLCはまた、化学的な腐食に対して良好な耐性を示す。
【0033】
また、DLCを用いることによって、すすの粒子および未燃焼の炭化水素分子の堆積を大幅に抑えることによってDLCが保護する面上の付着物が著しく減る。
【0034】
DLCは、アセチレン、エチレン、メタン等のような軽質炭化水素ガスのプラズマ分解によって堆積されることが好ましい。有利なことに、炭化水素ガスは水素またはアルゴン等の希ガスと混合されていてもよい。
【0035】
R.L.Mills, J.Sankar, P.Ray, A.Voigt, J.HeおよびB.Dhandapaniによる刊行物"Synthesis of HDLC films from solid carbon"による2004年5月15日付の"Journal of Materials Science"に記載されているように、堆積は炭素ターゲットのアブレーションによって行うこともできる。
【0036】
堆積物の厚みは概ね数μm(2〜4μm)から約0.5mmの範囲であることが有利である。
【0037】
DLCコーティングは、水素または例えばF,Si,O,Nのような他の元素の成分を有していてもよい。これらの元素は、活性ガス(例えばC22,Si(CH34,O2またはN2の各々)を堆積物の形成に用いられる炭化水素に添加することで導入される。
【0038】
したがって、この方法は複雑な金属面上の堆積に適している。
【0039】
ヘテロエレメント(炭素以外の元素)の含有物によれば、意図した処理条件によって、特性を調節することが可能になる。実際上、付着物防止の堆積手法は、材料の表面を、付着物の原因となる成分を寄せ付けなくするか、引き寄せにくくすることにある。例えば水素を含まない堆積物は、酸素成分の吸収作用が少なく、したがってこれらの成分によって付着物の減少を促進させる。一方、水素を含む堆積物は、炭化水素の吸収作用が少ない。
【0040】
有利なことに、水素の割合は0%から80%の範囲であってもよく、ケイ素、フッ素、酸素または窒素の割合は0%から20%の範囲であってもよい。
【0041】
本願発明は上記の例に制限されるものではなく、いかなる変形物および均等物をも含む。
【0042】
上記では、特に、内燃エンジンからの排気ガスによって掃気されるエンジンセットの構成部品について述べた。この構成部品は、排気ガス(ヒューム)がエキスパンダを掃気するガスタービン、およびコジェネタービンの場合には場合によっては熱交換器のような、他の任意の装置の一部であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるエンジンセットを示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 エンジンセット
12 内燃エンジン
14 EGR循環路
16 排気管
18 ターボ過給機
20 排出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスによって掃気される構成部品、特に、内燃エンジン(12)および/またはエンジンセット(10)に属する少なくとも排気ガス循環路(14,16,18,20)の構成部品において、
少なくとも1つの構成部品の前記排気ガスと接触する面が、ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する保護コーティングを備えていることを特徴とする、排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項2】
前記コーティングの厚みが概して数μmから約0.5mmである、請求項1に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項3】
前記コーティングは水素成分を含んでいる、請求項1または2に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項4】
前記水素は少なくとも1つのヘテロエレメントと混合している、請求項3に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項5】
前記ヘテロエレメントはケイ素、フッ素、酸素、窒素の中から選択される、請求項4に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項6】
前記コーティングは80%以下の割合の水素を含んでいる、請求項1から5のいずれか1項に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項7】
前記コーティングは20%以下の割合のヘテロエレメントを含んでいる、請求項4に記載の排気ガスによって掃気される構成部品。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載された構成部品の少なくとも一部の排気ガスと接触する面をコーティングする方法であって、
ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する前記保護コーティングを、軽質炭化水素ガスのプラズマ分解によって堆積させることを特徴とする、構成部品の少なくとも一部の排気ガスと接触する面をコーティングする方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載された構成部品の少なくとも一部の排気ガスと接触する面をコーティングする方法であって、
ダイヤモンドに近い局所構造からなるアモルファス炭素を少なくとも部分的に有する前記保護コーティングを、炭素ターゲットのアブレーションによって堆積させることを特徴とする、構成部品の少なくとも一部の排気ガスと接触する面をコーティングする方法。
【請求項10】
内燃エンジン(12)と、前記エンジン内における排気ガスの再循環を可能にする少なくとも1つの排気ガス循環路とを有するエンジンセット(10)において、
請求項1から7のいずれか1項に記載された、排気ガスによって掃気される少なくとも1つの構成部品を有することを特徴とするエンジンセット。
【請求項11】
内燃エンジン(12)と、吸気過給装置を制御する少なくとも1つの排気ガス循環路とを有するエンジンセット(10)において、
請求項1から7のいずれか1項に記載された、排気ガスによって掃気される少なくとも1つの構成部品を有することを特徴とするエンジンセット。
【請求項12】
内燃エンジン(12)と、排気ガスを排出する排気管(16)とを有するエンジンセット(10)において、
請求項1から7のいずれか1項に記載された、排気ガスによって掃気される少なくとも1つの構成部品を有することを特徴とするエンジンセット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−291954(P2006−291954A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103828(P2006−103828)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】