説明

排気ガス浄化用触媒及びその製造方法

【課題】 排気ガス浄化用触媒の耐久性や触媒活性を向上させる。
【解決手段】 排気ガス浄化用触媒1は、貴金属粒子2と、貴金属粒子2と接触し貴金属粒子2の移動を抑制する化合物3と、貴金属粒子2及び化合物3を覆い、貴金属粒子2の移動を抑制するともに化合物3同士の接触による凝集を抑制する酸化物4とからなり、密度汎関数法を用いたシミュレーションによる、貴金属の化合物への吸着エネルギーと、貴金属の酸化物への吸着エネルギーとの差が5kcal/mol以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する処理に適用して好適な排気ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる炭化水素系化合物(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NO)等の有害物質を除去するために、アルミナ(Al)等の金属酸化物担体に白金(Pt)等の貴金属粒子を担持した排気ガス浄化用触媒が広く利用されている。
【0003】
近年、排気ガス規制は益々厳しくなり、その規制をクリアするためには排気ガス浄化用触媒には多量の貴金属を使用する必要がある。しかし、貴金属粒子を多量に用いることは地球資源の枯渇の観点から望ましくない。
【0004】
排気ガス浄化用触媒において、多量の貴金属を使用する理由の一つは、排気ガス浄化用触媒の耐久性確保のためである。したがって、排気ガス浄化用触媒の耐久性を他の手法により確保できれば貴金属量を著しく減らすことが可能となる。
【0005】
貴金属の耐久性向上のためには、貴金属粒子周辺の物質配置が重要である。例えば、貴金属粒子としてのPt粒子近傍にCe又はCe化合物を配置することにより、CeがOSC(Oxygen Storage Component)材として機能し、貴金属粒子の周囲の雰囲気変動が抑えられ、耐久性が向上することが知られている。また、耐久性向上だけでなく、貴金属粒子にCeやMn等の遷移金属を接触させることで、貴金属の活性向上も期待できる。したがって、このような遷移金属又は遷移金属化合物を貴金属粒子近傍に配置する試みがなされている(特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平8−131830号公報
【特許文献2】特開2005−000829号公報
【特許文献3】特開2005−000830号公報
【特許文献4】特開2003−117393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような遷移金属又は遷移金属化合物を貴金属粒子近傍に設計どおりに配置させることは難しい。例えば、含浸法では溶液のpHや金属塩の種類の調整を行って、遷移金属や遷移金属化合物を貴金属粒子に接触させていたが、完全なものではなかった。また、貴金属粒子の耐久性向上を図る場合、貴金属粒子の平均粒子径は2[nm]以上、貴金属粒子の活性向上を図る場合には、貴金属粒子の平均粒子径は5[nm]以下とすることが理想であるが、従来の含浸法を用いた場合には、貴金属粒子の平均粒子径は1[nm]以下になるために、貴金属粒子の耐久性向上や活性向上を期待することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る排気ガス浄化用触媒は、貴金属粒子と、この貴金属粒子と接触し当該貴金属粒子の移動を抑制する化合物と、この貴金属粒子及び化合物を覆い、貴金属の移動を抑制するとともに化合物同士の接触による凝集を抑制する酸化物とからなり、かつ、密度汎関数法を用いたシミュレーションによる、貴金属の化合物への吸着エネルギーと、貴金属の酸化物への吸着エネルギーとの差が5[kcal/mol]以上であることを要旨とする。
【0008】
また、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法は、上記排気ガス浄化用触媒の製造方法であって、貴金属粒子又はその原料を化合物に担持させた後、高分子材料で包みコロイド化することでこの化合物上に貴金属が接触したコロイド溶液を調製する工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒によれば、貴金属粒子と接触する化合物と、貴金属粒子及び化合物を覆う酸化物との吸着エネルギーが大きくなるように設計されているで、貴金属粒子の凝集が抑制され、少ない貴金属量の触媒で耐久性を向上させ、優れた触媒活性を得ることができる。
【0010】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法によれば、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を設計どおりに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る排気ガス浄化用触媒を、その実施形態により図面を用いつつ説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態となる排気ガス浄化用触媒の模式図である。同図に示す排気ガス浄化用触媒1は、触媒活性を有する貴金属粒子2と、この貴金属粒子2と接触し、当該貴金属粒子2の移動を抑制する化合物3と、この貴金属粒子2及び化合物3を覆うように形成され、この貴金属粒子2の移動を抑制するとともに化合物3同士の接触による化合物3の凝集を抑制する酸化物4とからなる。
【0013】
図1に示した排気ガス浄化用触媒1は、貴金属粒子2と化合物3とが接触して化学的に結合することにより、この化合物3が化学的結合のアンカー材として作用し、貴金属粒子の移動を抑制する。また、この貴金属粒子2と化合物3とを、酸化物4で覆う形態とすることにより、貴金属粒子2の移動を物理的に抑制するとともに、化合物3の移動を物理的に抑制する。これらのことから、貴金属粒子2が移動して互いに接触し、凝集することを抑制することができる。また、貴金属粒子2と化学的に結合している化合物3が移動して互いに接触し凝集することに伴う貴金属粒子2の凝集も抑制することができる。
【0014】
更に、本実施形態の排気ガス浄化用触媒は、貴金属粒子2の化合物3に対する吸着エネルギーと、貴金属粒子2の酸化物4に対する吸着エネルギーとの差が5[kcal/mol]以上である。
【0015】
吸着エネルギー差(kcal/mol)=(酸化物へのPt又はPd又はRhの吸着エネルギー)(kcal/mol)−(化合物(アンカー材)へのPt又はPd又はRhの吸着エネルギー(kcal/mol))
発明者らは、化合物3が貴金属粒子2を化学的に結合することによるアンカー効果は、化合物と酸化物とへの貴金属の吸着エネルギーの差に影響を受けることを見出した。この知見に基づき、本発明に係る排ガス浄化用触媒においては、密度汎関数法を用いたシミュレーションによる貴金属と化合物の吸着エネルギーと、貴金属と当該酸化物の吸着エネルギーの差が5[kcal/mol]以上である。
【0016】
この吸着エネルギーの差が5[kcal/mol]以上であることにより、貴金属粒子2が、化合物3に強固に結合することになる。したがって、排気ガス浄化用触媒を長期間使用したときにも、貴金属粒子2が化合物3に留まり、貴金属粒子2が化合物3から外れて酸化物4に移動するのを抑制する。このため、貴金属粒子2の酸化物4を超えてのシンタリングを抑制できるため、貴金属の高表面積状態を維持でき、排気ガス浄化用触媒の耐久性をより向上させることができる。
【0017】
密度汎関数法は、多電子間の相関効果を取り入れたハミルトニアンを導入して、結晶の電子状態を予測する方法である。その原理は、系の基底状態の全エネルギーを電子密度汎関数法で表すことができるという数学的定理に基づいており、結晶の電子状態を計算する手法として信頼性が高い。従来の触媒体は、比表面積の大きいアルミナ等のコート層に遷移元素やアルカリ土類元素等の助触媒成分を担持し、経験的に貴金属の凝集を抑制していたが、コート層のAl等との結合エネルギーはごく弱く、また、助触媒成分の凝集による貴金属成分の凝集も見られた。
【0018】
本発明の触媒構造を設計するにあたり、アンカー材として機能する化合物3と、包接材として機能する酸化物4との貴金属成分の吸着エネルギーの差を実際測定することは難しく、所望の吸着エネルギーが得られる組み合わせを予測するための手法が必要となる。ここに、上述した密度汎関数法は、酸化物等からなるアンカー材(化合物3)や包接材(酸化物4)と触媒成分(貴金属粒子2)との界面における電子状態を予測するのに適しており、実際にシミュレーション値を基に選択した貴金属と化合物の組み合わせを基に設計した、アンカー材及び包接材の構造は,貴金属の粗大化が生じず、高温耐久後も高い浄化性能を維持することが確認されている。
【0019】
図2は、密度汎関数法によるシミュレーションで用いたモデルの一例である。アンカー材(化合物3)としての遷移元素及び/又はアルカリ土類を含むアルミニウム化合物は、γアルミナでもっとも多く存在する(100)面を最表面としてカットした。吸着エネルギーの算出方法は、アンカー材であるアルミニウム酸化物の表面に安定するサイトにPt、Pd又はRhをおき、Pt、Pd又はRhの吸着エネルギーを算出した。次に、包接材である酸化物へのPt、Pd又はRhの吸着エネルギーを算出し、吸着エネルギーの差を求めた。この吸着エネルギーの差が大きいほど、アンカー材を包接材で覆い貴金属の包接体への移動を抑制する力が強いと言える。
【0020】
吸着エネルギーの差は、5[kcal/mol]以上であることにより、貴金属粒子2の酸化物4への移動を抑制する。より望ましい吸着エネルギーの差は、10[kcal/mol]以上であり、更に望ましくは、15[kcal/mol]以上である。
【0021】
化合物3は、遷移元素及びアルカリ土類元素のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含むアルミニウム酸化物であることが好ましい。遷移元素は貴金属から電子供与を受け、貴金属と結合を作りやすい。そのため、アルミニウム酸化物に遷移元素を含むことにより、貴金属から化合物への電子供与が強くなり、吸着エネルギーが強まり貴金属の移動を抑制するので貴金属のシンタリング抑制効果が飛躍的に向上する。また、アルカリ土類元素は、遷移元素と同様に、貴金属から電子供与を受け、貴金属と結合を作りやすい。そのため、アルミニウム酸化物にアルカリ土類元素を含むことにより、貴金属から化合物への電子供与が強くなり、吸着エネルギーが強まり貴金属の移動を抑制するので貴金属のシンタリング抑制効果が飛躍的に向上する。これらの遷移元素及び/又はアルカリ土類元素を含む化合物としては、アルミニウム酸化物が好ましい。その理由は、アルミニウム酸化物は遷移金属やアルカリ土類と複合酸化物を作りやすく結晶構造が安定している。そのため熱的にも安定で貴金属担持基材として安定であるためである。このアルミニウム酸化物に、1種又は2種以上の遷移元素、又は1種又は2種以上のアルカリ土類元素、又はこれらの遷移元素及びアルカリ土類元素の両方を含有することができる。
【0022】
化合物3は、より具体的には、アルミニウム酸化物の結晶格子のAl原子の一部を、遷移元素及びアルカリ土類元素の少なくとも一種の元素で置き換えたものであることが好ましい。アルミニウム酸化物は、所定の結晶構造を持ち安定である。その中のAl原子を遷移元素やアルカリ土類元素と置き換えた構造であることにより、結晶構造を維持しつつ、遷移元素やアルカリ土類元素の効果を併せ持つことが可能である。
【0023】
ここで、アルミナの結晶構造に遷移元素等(M)を置換することは、遷移元素等を含むアルミニウム酸化物が一般にMAlの組成を有することから、理論上50mol%まで可能である(化学量論比M:Al=1:2)。もっとも、発明者らの研究によれば、800℃以上の高温でも化合物3の構造を安定に保つためには、置換元素の添加量を化学量論比以下にすることが好ましいことが判明した。これは、アルミナへの置換成分量が多いと高温でのアルミナのアルファ相化が促進されるためであると考えられる。したがって、化合物3に含まれる遷移元素又はアルカリ土類元素の量(遷移元素及びアルカリ土類元素を複数種で含む場合には、合計量)は、アルミニウム1に対しモル比で0.2以下であることが、化合物3の耐熱性を向上させることから、好ましい。
【0024】
次に、貴金属粒子2はPt、Pd及びRhから選ばれる少なくとも一種の貴金属であり、かつ、酸化物4がAl、Zr及びTiから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物であることが好ましい。Pt、Pd及びRhは、いずれも、排ガス浄化のための触媒活性を有していることから、貴金属粒子3としては、これらの貴金属の少なくとも一種であることが望ましい。また、この貴金属粒子3を覆う包接材である酸化物4としては、Al、Zr及びTiから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物であることが望ましい。これらの酸化物は、上掲した貴金属との吸着エネルギーが弱く、特にPdとの吸着エネルギーが弱いため、包接材である酸化物4に用いたときには、化合物3に担持した貴金属粒子2が、この酸化物4に移動し難いためである。
【0025】
化合物3に含有される遷移元素は、第一遷移系列元素、第二遷移系列元素及びランタノイドから選ばれる少なくとも一種の元素であることが、より好ましい。遷移元素が第一遷移系列元素又は第二遷移系列元素である場合は、貴金属粒子2との結合に遷移元素のd軌道が用いられるため、貴金属粒子2からの電子が流れ易く、相互作用をもちやすい。また、遷移元素がランタノイドであるである場合は、貴金属粒子2との結合に遷移元素のf軌道が用いられるため、貴金属からの電子が流れやすく相互作用を持ち易い。
【0026】
この化合物3は、より具体的には、遷移元素としてのFe、Co、Ni、Mn、Zr及びCeのうち少なくとも1種を含むアルミニウム酸化物であること、また、アルカリ土類元素としてのMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種を含むアルミニウム酸化物であることが好ましい。これらの元素は、特に、吸着エネルギー差を大きくすることができる元素だからである。
【0027】
また、これらの元素をアルミナに添加するときは、構造安定性を向上するために添加量はアルミニウム1に対し、モル比で0.1以下であることが、より望ましい。
【0028】
更に、貴金属粒子2は、Pdである場合には、本発明の効果を顕著に得ることができるので有利である。
【0029】
これらの貴金属粒子2、化合物3及び酸化物4の、最も良い組み合わせの例としては、Pd−MnアルミナをAlで被覆する、又はPd−{Mg,Ca,Sr,Ba}アルミナをAlで被覆する組み合わせとなる。更に、Pd−{Ce,Zr}アルミナをAlで被覆する組み合わせも良い。これらの組み合わせの場合は、アンカーと酸化物への貴金属の吸着エネルギー差が特に大きく7[kcal/mol]以上となり、この組み合わせにすることにより化学的拘束力が強まる。
【0030】
次に、本発明の排気ガス浄化用触媒の製造方法の実施形態について説明する。上述した排気ガス浄化用触媒を製造するに当たっては、貴金属粒子又はその原料を化合物に担持させた後、高分子材料で包みコロイド化することでこの化合物上に貴金属が接触したコロイド溶液を調製する工程を含むことができる。
【0031】
貴金属粒子又はその原料を担持した、微粒子状態のAlを含む化合物を、高分子保護材で包むことによってコロイド化することにより、酸化物の化合物3と貴金属粒子2との接触状態を作り出すことが可能となる。また、コロイドを調製することにより、このコロイド溶液中で当該コロイドが均一に分散するので、貴金属粒子が接した化合物同士が、溶液中で凝集することを抑制することができる。この化合物3の微粒子は、市販品の微粒子を用いることもできるし、又は固相法、液相法、気相法で作ることができる。また、化合物3に貴金属粒子2を接触させる方法は、貴金属粒の還元処理でもよいし、その他の方法でもよい。化合物3を包む保護材は、例えば微粒子のコロイド化の際に一般的に使用されているPVP(ポリビニルピロリドン)を用いることができる。もっとも、保護材は、このPVPに限定されず、それ以外の例えば高分子PEG(ポリエチレングリコール)などでも調製可能である。
【0032】
貴金属粒子と化合物とを覆うように酸化物を形成させるための工程の一例として、有機溶媒中に酸化物の原料有機塩を分散させ、その中に上記コロイド溶液を投入し分散させた後、この酸化物の原料有機塩を加水分解して、化合物の周囲に酸化物を形成することができる。すなわち、上記で得た貴金属粒子と化合物とのコロイド溶液を使って、ゾルゲル法を行いコロイドの周りに酸化物を作ることができる。このゾルゲル法で用いられる有機塩としては、アルミニウムイソプロポキシド(AIP)、ジルコニウムイソプロポキシド(ZIP)などが使える。
【0033】
貴金属粒子と化合物とを覆うように酸化物を形成させるための工程の別の例として、溶媒中に酸化物の原料無機塩を分散させ、この無機塩を酸で邂逅した後、その中にコロイド溶液を投入することができる。上記したゾルゲル法で用いられる有機塩は高価であるので代わりに無機塩を使うことも可能である。その際、Al酸化物の原料にはベーマイト、Zr酸化物の原料には硝酸Zr等をなどが有効である。このZrの場合には、共沈法を行うこととなる。
【0034】
その後、溶液をろ過、乾燥した後、焼成して排ガス浄化用触媒粉末を得る。得られた排ガス浄化用触媒を含むスラリーを、ハニカム形状の耐火性無機担体の内壁の表面上にコーティングすることにより排ガス浄化用触媒層を形成することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0036】
表1に示す貴金属粒子、化合物及び酸化物の組み合わせになる実施例及び比較例を用意した。各実施例及び比較例の触媒粉末は、以下のようにして製造した。
【表1】

【0037】
〔実施例1〕
実施例1は、貴金属粒子がPt、化合物がMn含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0038】
1.Pt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成
イオン交換水中に硝酸マンガンと硝酸アルミニウムとをモル比1:2の比率で添加した。この溶液を、アンモニア水溶液中に添加して水酸化物を析出した。この水酸化物はMnAl前駆体である。この溶液を遠心分離して水酸化物のみを得た。この水酸化物の前駆体を、イオン交換水で洗浄し遠心分離する工程を3回行った。繰り返し洗浄後の前駆体を乾燥機にて乾燥した後、マッフル炉で400[℃]の焼成を行った。得られた粉末を粉砕後、マッフル炉にて750[℃]で焼成を行い、Mnアルミネート粉末を得た。得られたMnアルミネート粉末にPt塩(ジニトロジアミン白金)を含浸担持した後、乾燥、次いで400[℃]で焼成を行った。得られたPt担持Mnアルミネート粉末を粉砕後、更にボールミルにて1[μm]以下に整粒した。この整粒後のPt担持Mnアルミネート粉末をイオン交換水中に分散し、次に高分子材料(ポリビニルピロリドン)を添加して3時間撹拌してPt担持Mnアルミネートコロイド溶液を得た。
【0039】
2.有機Al塩による包接
アルミニウムイソプロポキシドをヘキシレングリコール中に溶かし、これに上記Pt担持Mnアルミネートコロイド溶液を投入した。投入後の溶液をエバポレータ中で減圧乾燥した後、120[℃]の乾燥機中で乾燥した。更に、400[℃]、空気中で焼成し、Pt/Mnアルミネート/Al触媒粉末を得た。この粉末のPt量は0.7[wt%]である。
【0040】
〔実施例2〕
実施例2は、貴金属がPt、化合物がMn含有アルミナで化合物中のマンガンとアルミニウムのモル比を1:5(0.2:1)とし、酸化物がAlの例である。
【0041】
実施例2の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例1におけるPt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnと硝酸アルミニウムの比を変更以外は同じである。
【0042】
〔実施例3〕
実施例3は、貴金属粒子がPt、化合物がLa含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0043】
実施例3の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例2におけるPt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Laとした以外は同じである。
【0044】
〔実施例4〕
実施例4は、貴金属粒子がPt、化合物がCe含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0045】
実施例4の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例2におけるPt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で硝酸Mnを硝酸Ceとした以外は同じである。
【0046】
〔実施例5〕
実施例5は、貴金属粒子がPt、化合物がMn含有アルミナ、酸化物がジルコニア−ランタン複合酸化物の例である。
【0047】
実施例5の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例2における有機Al塩による包接工程を以下のようにした以外は同じである。
【0048】
2.ZrOによる包接
水2000[g]に、硝酸ジルコニルZrO(NO2・2HOを210.390[g]と硝酸ランタンLa(NO・6HOを1.994[g]を投入して混合した。混合した溶液には、攪拌しながら25[%]アンモニア水溶液をpH11となるまで滴下し、ジルコニア−ランタナ前駆体を得た。次いで、沈殿物を濾過、水洗後、ジルコニア−ランタナ前駆体ケーキを得た。得られたジルコニア−ランタナ前駆体ケーキを、水5000[g]中に投入、攪拌し、Pt担持Mnアルミネートコロイド溶液50[g]と混合してさらに攪拌した。これをろ過し、沈殿物を乾燥機にて乾燥後、マッフル炉にて400[℃]で焼成し触媒粉末を得た。
【0049】
〔実施例6〕
実施例6は、貴金属粒子がPd、化合物がMn含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0050】
実施例6の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例2におけるPt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、Pt塩をPd塩(硝酸パラジウム)にした以外は同じである。
【0051】
〔実施例7〕
実施例7は、貴金属粒子がPd、化合物がFe含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0052】
実施例7の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Feとした以外は同じである。
【0053】
〔実施例8〕
実施例8は、貴金属粒子がPd、化合物がCo含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0054】
実施例8の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Coとした以外は同じである。
【0055】
〔実施例9〕
実施例9は、貴金属粒子がPd、化合物がNi含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0056】
実施例9の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Niとした以外は同じである。
【0057】
〔実施例10〕
実施例10は、貴金属粒子がPd、化合物がCu含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0058】
実施例10の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Cuとした以外は同じである。
【0059】
〔実施例11〕
実施例11は、貴金属粒子がPd、化合物がMg含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0060】
実施例11の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Mgとした以外は同じである。
【0061】
〔実施例12〕
実施例12は、貴金属粒子がPd、化合物がCa含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0062】
実施例12の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Caとした以外は同じである。
【0063】
〔実施例13〕
実施例13は、貴金属粒子がPd、化合物がSr含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0064】
実施例13の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Srとした以外は同じである。
【0065】
〔実施例14〕
実施例14は、貴金属粒子がPd、化合物がBa含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0066】
実施例14の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Baとした以外は同じである。
【0067】
〔実施例15〕
実施例15は、貴金属粒子がPd、化合物がLa含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0068】
実施例15の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Laとした以外は同じである。
【0069】
〔実施例16〕
実施例16は、貴金属粒子がPd、化合物がCe含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0070】
実施例16の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Ceとした以外は同じである。
【0071】
〔実施例17〕
実施例17は、貴金属粒子がPd、化合物がPr含有アルミナ、酸化物がAlの例である。
【0072】
実施例17の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Prとした以外は同じである。
【0073】
〔実施例18〕
実施例18は、貴金属粒子がPd、化合物がMn含有アルミナ、酸化物がジルコニア−ランタン複合酸化物の例である。
【0074】
実施例18の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例5におけるPt担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程でPt塩をPd塩(硝酸パラジウム)にした以外は同じである。
【0075】
〔実施例19〕
実施例19は、貴金属粒子がPd、化合物がMn含有アルミナ、酸化物がLa含有Alの例である。
【0076】
実施例19の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6における有機Al塩による包接工程を以下のように変更した以外は同じである。
【0077】
アルミニウムイソプロポキシドをヘキシレングリコール中に溶かし、これにPd担持Mnアルミネートコロイド溶液を投入した。この溶液に、更に酢酸Laを加えた。加えた後の溶液をエバポレータ中で減圧乾燥した後、120[℃]の乾燥機中で乾燥した。更に、400[℃]、空気中で焼成し、Pd/Mnアルミネート/La−Al触媒粉末を得た。
【0078】
〔実施例20〕
実施例20は、貴金属粒子がPd、化合物がMg含有アルミナ、酸化物がLa含有Alの例である。
【0079】
実施例20の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例19におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で硝酸Mnを硝酸Mgにした以外は同じである。
【0080】
〔実施例21〕
実施例21は、貴金属粒子がPd、化合物がBa含有アルミナ、酸化物がLa含有Alの例である。
【0081】
実施例21の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例19におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で硝酸Mnを硝酸Baにした以外は同じである。
【0082】
〔実施例22〕
実施例22は、貴金属粒子がPd、化合物がMn含有アルミナであって、化合物中のマンガンとアルミニウムのモル比を1:10(0.1:1)とし、酸化物がAlの例である。
【0083】
実施例22の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸マンガンと硝酸アルミニウムの比を変更した以外は同じである。
【0084】
〔実施例23〕
実施例23は、貴金属粒子がPd、化合物がFe含有アルミナで、化合物中の鉄とアルミニウムのモル比を1:10(0.1:1)とし、酸化物がAlの例である。
【0085】
実施例23の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例7におけるPd担持Feアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸鉄と硝酸アルミニウムの比を変更した以外は同じである。
【0086】
〔実施例24〕
実施例24は、貴金属粒子がPd、化合物がCo含有アルミナで、化合物中のコバルトとアルミニウムのモル比を1:10(0.1:1)とし、酸化物がAlの例である。
【0087】
実施例24の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例8におけるPd担持Coアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸コバルトと硝酸アルミニウムの比を変更した以外は同じである。
【0088】
〔比較例1〕
比較例1は、貴金属粒子がPd、化合物がCr含有アルミナ、酸化物がAlの例である。なお、この貴金属粒子、化合物及び酸化物の組み合わせでは、結合エネルギーの差は5[kcal/mol]未満である。
【0089】
比較例1の触媒粉末の製造工程は、上述した実施例6におけるPd担持Mnアルミネートコロイド溶液の作成工程で、硝酸Mnを硝酸Crにした以外は同じである。
【0090】
以上述べた工程により得られた各実施例の排ガス浄化用触媒粉末及び比較例の排ガス浄化用触媒粉末について、耐久試験を行った。この耐久試験は、900[℃]の大気雰囲気炉中で各触媒粉末を3時間焼成する試験である。耐久試験前後で、貴金属粒子の平均粒子径をTEMを用いて測定した。
【0091】
また、実施例1の排ガス浄化用触媒粉末及び比較例1の排ガス浄化用触媒粉末については、排ガス浄化性能をHC転化率で調べた。このHC転化率の測定は、実施例1及び及び比較例1の触媒粉末をスラリー化し、耐火性無機担体(400セル、6ミル、0.12L)に塗布し、排ガス浄化用触媒層が形成された当該耐火性無機担体を排気量3500[cc]のエンジンの排気系に装着し、入口温度を800[℃]として30時間エンジンを稼働させる耐久試験を行った後、排気ガス浄化用触媒を模擬排気ガス流通装置に組み込み、以下に示す表2の組成の模擬排気ガスを流通させ、400[℃]における入口側及び出口側のHC濃度から実施例1及び比較例1の排気ガス浄化用触媒それぞれの400[℃]におけるHC浄化率(ηHC)[%]を算出した。その結果を表3に示す。
【表2】

【表3】

【0092】
表1に、各実施例及び比較例の排ガス浄化用触媒の吸着エネルギー差及び耐久試験前後の貴金属粒子の粒径を併記する。この吸着エネルギー差は、密度汎関数法によるシミュレーションを行って計算した。この密度汎関数法によるシミュレーションを行った際の解析ソフトの計算条件は、プリ/ポスト:Materials studio3.2(Accelrys社)、ソルバ:DMol3(Accelrys社)、温度:絶対零度、近似:GGA近似であった。
【0093】
表1から明らかなように、吸着エネルギー差が5[kcal/mol]に満たない比較例1の触媒粉末では、耐久試験前後で貴金属の平均粒子径が大きく変化(増加)しているのに対して、吸着エネルギー差が5[kcal/mol]以上である実施例1〜24の触媒粉末では、耐久試験前後で貴金属の平均粒子径は大きく変化していない。また、表3から明らかなように、比較例1の排気ガス浄化用触媒では、耐久試験残後でHC転化率が大幅に低下しているのに対して、実施例1の排気ガス浄化用触媒では、耐久試験前後でHC転化率は大幅に低下していない。このことから、本実施例の触媒粉末及び排気ガス浄化用触媒によれば、第1の化合物による貴金属粒子の活性向上効果を維持できることが知見される。
【0094】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態となる排気ガス浄化用触媒の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の別の実施形態となる排気ガス浄化用触媒の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0096】
1 排気ガス浄化用触媒
2 貴金属粒子
3 化合物(アンカー材)
4 酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属粒子と、
この貴金属粒子と接触し当該貴金属粒子の移動を抑制する化合物と、
この貴金属粒子及び化合物を覆い、貴金属の移動を抑制するとともに化合物同士の接触による凝集を抑制する酸化物とからなり、かつ、
密度汎関数法を用いたシミュレーションによる、貴金属の化合物への吸着エネルギーと、貴金属の酸化物への吸着エネルギーとの差が5kcal/mol以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記化合物が、遷移元素及びアルカリ土類元素のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含むアルミニウム酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記化合物が、アルミニウム酸化物の結晶格子のAl原子の一部を、遷移元素及びアルカリ土類元素の少なくとも一種の元素で置き換えたものであることを特徴とする請求項1記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記化合物に含まれる遷移元素及びアルカリ土類元素の量が、アルミニウム1に対しモル比で0.2以下であることを特徴とする請求項3に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記貴金属がPt、Pd及びRhから選ばれる少なくとも一種の貴金属であり、前記酸化物がAl、Zr及びTiから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記化合物に含まれる遷移元素が、第一遷移系列元素、第二遷移系列元素及びランタノイドから選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記化合物が、Fe、Co、Ni、Mn、Zr及びCeのうち少なくとも1種を含むアルミニウム酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記化合物が、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種を含むアルミニウム酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記化合物に含まれるFe、Co、Ni、Mn、Zr及びCeの量が、アルミウム1に対し、モル比で0.1以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記貴金属が、Pdであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒を製造する方法であって、
貴金属粒子又はその原料を化合物に担持させた後、高分子材料で包みコロイド化することでこの化合物上に貴金属が接触したコロイド溶液を調製する工程を含むことを特徴とする排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項12】
有機溶媒中に酸化物の原料有機塩を分散させ、その中に前記コロイド溶液を投入し分散させた後、この酸化物の原料有機塩を加水分解する工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項13】
溶媒中に酸化物の原料無機塩を分散させ、この無機塩を酸で邂逅した後、その中に前記コロイド溶液を投入することを特徴とする請求項11に記載の排気ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒を含むスラリーを耐火性無機担体にコーティングすることにより形成されたことを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−313493(P2007−313493A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287959(P2006−287959)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】