説明

排気放出を制御するための電気化学的触媒コンバータ

【課題】排気放出を制御するための電気化学的触媒コンバータを提供すること。
【解決手段】本発明によれば、排気ガス中の窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)を除去することができる電気化学的触媒コンバータが開示される。電気化学的触媒コンバータは電池モジュールを備えており、電気化学的促進を介して窒素酸化物が分解して窒素が形成され、また、一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質は、酸化触媒による触媒作用によって二酸化炭素および水を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学的触媒コンバータに関し、詳細には排気放出を制御し、それにより排気ガス中の窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)を効果的に還元するための電気化学的触媒コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
空気は、人間が生きていくために不可欠である。人の健康のためには新鮮で、かつ、きれいな空気が肝要である。科学および技術の著しい進歩は、経済面で富裕な発展をもたらした。しかしながら、自動車、工場および他の燃焼源の排気放出は、主要な空気汚染源になっており、空気の品質を著しく低下させている。
【0003】
一例として自動車を取り挙げる。車両排気放出基準はますます厳格になっている。しかしながら車両による空気汚染は、日毎の車両数の増加のため、依然としてますます深刻になっている。通常、タイプが異なる燃料がシリンダの中で燃焼し、それにより熱エネルギーが開放され、自動車のエンジンを運転するための動的出力が生成される。しかしながら、燃料の燃焼により、同じく、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、粒子状物質(PM)、等々などの有害汚染物質を含んだ排気ガスが生成される。これらの汚染物質は、光化学スモッグを形成するだけでなく、オゾン層を破壊し、温室効果を一層悪化させ、酸性雨の原因になり、生態環境を損傷し、また、人間の健康に害を及ぼしている。
【0004】
不完全燃焼によって、ヘモグロビンと結合して一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)を形成する一酸化炭素が生成される。一酸化炭素に対するヘモグロビンの結合親和性は、酸素に対するヘモグロビンの結合親和性より300倍大きい。したがって空気中の一酸化炭素の濃度が高すぎると、ヘモグロビンの酸素供給能力に影響を及ぼすことになる。窒素酸化物は、窒素と酸素の化学的結合によって生じ、一般的には酸化窒素(NO)または二酸化窒素(NO)の形で排気される。窒素酸化物は、紫外線(UV)によって照射されると、炭化水素と反応して特殊な臭気を有し、人の眼を刺激し、植物を痛め、また、大気中における可視性を低減する有毒光化学スモッグを形成する。また、窒素酸化物は、空気中の水分と反応して、酸性雨の構成要素である硝酸および亜硝酸を形成する。低濃度の炭化水素は呼吸器系を刺激することになる。炭化水素の濃度が高くなると、中枢神経系の機能に影響を及ぼすことになる。
【0005】
したがって、欧州連合、米国、日本および中華人民共和国を始めとする多くの地域は、汚染ガスの放出を制御して少なくし、また、汚染防止技術を採用して最新の製品を製造し、開発し、かつ、導入するべく製造者を奨励するために、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)の排気放出基準を規制しているUS Bin5およびEuro6などの厳格な排気放出基準を制定している。
【0006】
不完全燃焼排気に対する従来の放出制御技術では、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)を同時に変換することができる単一のデバイスまたはコンバータは存在していない。不完全燃焼排気のための自動車放出システムの触媒コンバータは、触媒作用によって一酸化炭素および炭化水素を酸化させることができる。触媒微粒フィルタは、粒子状物質をトラップして酸化させることができる。窒素酸化物を変換するためには別の補助デバイスまたはシステムが必要である。例えば、現在のディーゼル車両のほとんどのテールパイプは、一酸化炭素および炭化水素を酸化させるための酸化触媒コンバータに加えて、窒素酸化物の放出を制御するためのEGR(排気ガス再循環)システムを備えている。最新のディーゼル車両は、窒素酸化物を還元するためのSCR(選択的触媒還元)システムを備えることができる。
【0007】
SCRシステムには、反応物としてアンモニア(NH)または尿素(CO(NH)の水溶液が採用されている。尿素の水溶液は、ノズルを介してテールパイプに注入され、水と反応してアンモニアを形成する。アンモニアは窒素酸化物と反応して窒素(N)および水(HO)を生成する。しかしながらアンモニアは有毒であり、貯蔵が困難で、場合によっては漏れる可能性がある。アンモニアの不完全反応は二次汚染の原因になる。さらに、SCRシステムはかさばり、また、補助制御を提供するためには精密センサを備えなければならない。
【0008】
米国特許第5401372号に、窒素酸化物を除去するための専用デバイスであり、電気化学的触媒還元反応を利用し、かつ、窒素酸化物を窒素に変換するための触媒として五酸化バナジウム(V)を採用している「Electrochemical Catalytic Reduction Cell for the Reduction of NO in an O−Containing Exhaust Emission」が開示されている。このデバイスは、その電気化学的電池を動作させるために電源を追加しなければならない。したがってこの従来技術によるデバイスは、エネルギーリソースを消費するだけでなく、有害な排気ガスを同時に除去することができない。
【0009】
同じ発明者によって提案された、「Electrochemical−catalytic Converter for Exhaust Emission Control with Power Generation」という名称の米国出願第12/774180号に、排気ガスを電気エネルギーに変換するためのコンバータであって、排気ガス中の有害な成分を無害の成分に変換することができるだけでなく、発電を達成することができるコンバータが開示されている。しかしながら、この従来技術によるコンバータは、コンバータ内の固体酸化物燃料電池(SOFC)を動作させるために外部燃料が追加供給されており、したがって燃料が消費され、また、燃料処理システムを車両に設置しなければならない。したがって固定費および運転費が高く、また、燃料に起因する炭素の蓄積のため、デバイスの寿命が短い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5401372号
【特許文献2】米国出願第12/774180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、排気放出を制御し、かつ、燃料を消費することなく排気ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質を除去するための電気化学的触媒コンバータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、少なくとも1つの電池モジュールと、還元ガス流入ユニットと、還元ガス流出ユニットと、還元ガス循環ポンプと、排気ガス流入ユニットと、排気ガス流出ユニットとを備えた電気化学的触媒コンバータが提案される。電池モジュールには、カソードコンパートメント、アノードコンパートメント、膜電極アセンブリおよび1つずつ積み重ねられた加熱ユニットが含まれている。膜電極アセンブリは、カソードコンパートメントとアノードコンパートメントの間に配置されている。カソードコンパートメントには酸化触媒が含まれている。加熱ユニットは電池モジュールの中に埋め込まれている。還元ガス流入ユニットおよび還元ガス流出ユニットは、それぞれアノードコンパートメントの2つの面に結合されており、動作中、電池モジュールの還元ガス流入ターミナルおよび還元ガス流出ターミナルとして機能しており、また、還元ガス循環ポンプは、還元ガスの閉循環を実施するために使用されている。排気ガス流入ユニットおよび排気ガス流出ユニットは、必要に応じて処理するためにそれぞれカソードコンパートメントの2つの面に結合されており、電池モジュールの排気ガス流入ターミナルおよび排気ガス流出ターミナルとして機能している。
【0013】
加熱ユニットは、還元ガスが膜電極アセンブリ内に起電力を生成するよう、膜電極アセンブリを動作温度まで加熱する。排気ガス中の窒素酸化物が分解し、膜電極アセンブリ内の起電力によって電気化学的に促進された窒素が形成される。排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質は、酸化触媒による触媒作用によって二酸化炭素および水を形成する。それにより排気ガスが浄化される。
【0014】
以上の説明によれば、分解反応および触媒酸化反応を電気化学的に促進することによって排気ガス中の有害な成分を効果的に除去することができる。従来技術と比較すると、本発明は、従来技術に必要なNO還元システムおよび酸化触媒コンバータを単一のユニットに統合し、それにより、より良好な排気ガス処理効率を有する、より良好な排気ガス処理機構を有している。さらに、従来技術による排気ガス変換および発電構造と比較すると、本発明によれば、低コストで、かつ、容易な製造利点を達成するための回路システムが単純化される。還元ガスは、本発明においては、還元ガス循環ポンプを介して繰り返し使用され、したがって還元ガスを生成するための燃料処理システムを設置する必要がなく、それにより固定費および運転費を低減することができ、また、還元ガスを選択することにより、アノード側に炭素が蓄積することなくデバイスの寿命を改善することができる。
【0015】
以下、本発明の技術的な内容について、実施形態を使用して、添付の図面と協同して詳細に説明する。
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面に従って説明する。図1は、本発明の代表的な図面として割り当てられている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による電気化学的触媒コンバータのシステムを概略的に示す線図である。
【図2】本発明の一実施形態による電気化学的触媒コンバータの電池モジュールの構造を概略的に示す線図である。
【図3】本発明の別の実施形態による電気化学的触媒コンバータのシステムを概略的に示す線図である。
【図4】本発明の別の実施形態による電気化学的触媒コンバータの電池モジュールの構造を概略的に示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、排気ガス中の窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)を還元するための電気化学的触媒コンバータが提案される。本発明の電気化学的触媒コンバータは、工場の煙突などの様々な排気放出デバイス、および発電機、自動車およびボートの排気放出デバイスに適用することができる。本発明には排気放出デバイスに対する制限はない。本発明においては、「排気ガス」は、浄化すべきガスを意味しており、上で言及した有害な成分のうちの少なくとも1つが含まれている。したがって排気ガスには、上で言及した4つの有害な成分のすべてが必ずしも含まれているわけではない。以下、本発明の技術的な内容について、添付の図面と協同して詳細に説明する。
【0019】
図1〜2を参照すると、それぞれ本発明によるコンバータシステムおよび電池モジュール構造が示されている。本発明の電気化学的触媒コンバータ1は、電池モジュール10、加熱ユニット20、排気ガス流入ユニット30、排気ガス流出ユニット40、還元ガス流入ユニット50、還元ガス流出ユニット60および還元ガス循環ポンプ90を備えている。加熱ユニット20は、電池モジュール10を動作温度まで加熱するために使用されている。排気ガス流入ユニット30および排気ガス流出ユニット40は電池モジュール10に結合されており、排気ガスを浄化するために電池モジュール10の流入ターミナルおよび流出ターミナルとしてそれぞれ機能している。排気ガス流入ユニット30は、ボイラ、発電機、煙突または車両エンジンなどの排気ガス源70から排気ガスを受け取ることができる。排気ガス流入ユニット30は、排気ガスに空気を加えるための空気追加ユニット80を含むことができ、空気追加ユニット80は空気ポンプであってもよい。還元ガス流入ユニット50および還元ガス流出ユニット60は、電池モジュール10および還元ガス循環ポンプ90に結合されており、動作するための電池モジュール10の還元ガス流入ターミナルおよび還元ガス流出ターミナルとしてそれぞれ機能している。還元ガス流入ユニット50は、還元ガスを貯蔵し、かつ、還元ガスを還元ガス流入ターミナルに引き渡すための還元ガスタンク(図面には示されていない)を含むことができる。還元ガスタンクは、還元ガスを加熱および冷却している間、その圧力を調整するための膨張−収縮機能を有している。還元ガス循環ポンプ90は、還元ガスの温度を調整するための熱交換ユニット81を含むことができる。
【0020】
電池モジュール10は、管状または平面状SOFCスタック構造などのSOFC(固体酸化物燃料電池)スタック構造であってもよい。しかしながら、本発明によれば、電池モジュール10はSOFCスタック構造に限定されない。電池モジュール10は、さらに、カソードコンパートメント11、アノードコンパートメント12および膜電極アセンブリ(MEA)13を備えており、これらは1つずつ積み重ねられ、カソードコンパートメント11とアノードコンパートメント12の間に膜電極アセンブリ13が配置されている。
【0021】
膜電極アセンブリ13は、さらに、カソード層131、アノード層132および電解質層133を備えており、電解質層133は、カソード層131とアノード層132の間に配置されている。本発明の起電力は、膜電極アセンブリ13内で生成される。電解質層133は、それぞれカソード層131およびアノード層132の中に存在しているガスを分離している。
【0022】
一実施形態では、電解質層133は、2つの面でガスを分離し、かつ、イオンを導くことができる非多孔性膜構造である固体電解質である。電解質層133は、フルオライト型酸化物、ペロブスカイト型酸化物およびそれらの組合せ、例えばフルオライト型YSZ(酸化イットリウム安定化ジルコニア)、安定化ジルコニア、フルオライト型GDC(ガドリニアドープ酸化セリウム(IV))、ドープ酸化セリウム(IV)、ペロブスカイト型LSGM(ストロンチウム/マグネシウムドープランタンガレート)およびドープランタンガレートなどからなるグループから選択された材料でできている。
【0023】
カソード層131およびアノード層132は、それぞれ多孔性材料でできている。一実施形態では、アノード層132は、ニッケルおよびフルオライト型酸化物のサーメット、ペロブスカイト型酸化物、フルオライト型酸化物、金属添加ペロブスカイト型酸化物、金属添加フルオライト型酸化物およびそれらの組合せ、例えばNi−YSZ(ニッケル−酸化イットリウム安定化ジルコニア)サーメットおよびNi−GDC(ニッケル−ガドリニアドープ酸化セリウム(IV))サーメットなどからなるグループから選択された材料でできている。カソード層131は、ペロブスカイト型酸化物、フルオライト型酸化物、金属添加ペロブスカイト型酸化物、金属添加フルオライト型酸化物およびそれらの組合せ、例えばペロブスカイト型ランタンストロンチウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムマンガン酸化物、ランタンストロンチウムコバルト酸化物とガドリニアドープ酸化セリウム(IV)の組合せ、ランタンストロンチウムマンガン酸化物とガドリニアドープ酸化セリウム(IV)の組合せ、バナジウム添加ランタンストロンチウムコバルト酸化物、バナジウム添加ランタンストロンチウムマンガン酸化物、バナジウム添加ランタンストロンチウムコバルト酸化物とガドリニアドープ酸化セリウム(IV)の組合せ、およびバナジウム添加ランタンストロンチウムマンガン酸化物とガドリニアドープ酸化セリウム(IV)の組合せなどからなるグループから選択された材料でできている。
【0024】
カソードコンパートメント11の2つの末端は、それぞれ排気ガス流入ユニット30および排気ガス流出ユニット40に結合されている。カソードコンパートメント11は、カソード通路111および酸化触媒でできた酸化触媒層112を有している。酸化触媒はカソード通路111の表面を覆うことができ、あるいは酸化触媒層112は、カソード層131とカソード通路111の間に配置された、触媒作用によってガスを酸化反応させるための多孔性の層である。カソード通路111の2つの面は、それぞれ排気ガス流入ユニット30および排気ガス流出ユニット40に結合されている。
【0025】
アノードコンパートメント12の2つの末端は、それぞれ還元ガス流入ユニット50および還元ガス流出ユニット60に結合されている。アノードコンパートメント12はアノード通路121を有している。この実施形態では、加熱ユニット20は、アノード通路121と膜電極アセンブリ13の間に配置されている。アノード通路121の2つの面は、還元ガスの閉循環を実施するためにそれぞれ還元ガス流入ユニット50および還元ガス流出ユニット60ならびに還元ガス循環ポンプ90に結合されている。
【0026】
排気ガス流入ユニット30により、浄化すべき排気ガスがカソードコンパートメント11のカソード通路111に流入する。排気ガス中の窒素酸化物がカソード層131に引き渡され、そこで分解して窒素が形成される。排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質が酸化触媒層112を介して酸化され、それにより二酸化炭素および水が形成される。次に、未反応排気ガスおよび反応済みガスがカソード通路111から排気ガス流出ユニット40へ移され、排気される。還元ガス流入ユニット50は、還元ガスを還元ガス循環ポンプ90からアノードコンパートメント12のアノード通路121へ移動させる。アノード通路121内の還元ガスは、起電力を生成するためにアノード層132に引き渡される。次に、還元ガス流出ユニット60を介して閉循環を実施するために還元ガスが還元ガス循環ポンプ90へ移される。一実施形態では、還元ガスの温度を調整するために還元ガス循環ポンプ90と還元ガス流入ユニット50の間に熱交換ユニット81が配置されているが、この熱交換ユニット81は、還元ガス流出ユニット60と還元ガス循環ポンプ90の間に配置することも可能である。
【0027】
本発明の電池モジュール10の場合、排気ガス中の有害な成分は、膜電極アセンブリ13内の起電力によって促進されたカソード層131の触媒分解反応、およびカソードコンパートメント11内の触媒酸化反応を介して除去される。以下、それぞれカソード層131およびアノード層132内における触媒反応および電気化学的反応、ならびに上で言及した有害ガスの反応について詳細に説明する。
【0028】
本発明の場合、還元ガスは、水素(H)、一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガス、一酸化炭素と水素の混合ガス(合成ガス)および天然ガス、等々であってもよい。還元ガスは、還元ガス流入ユニット50によってアノードコンパートメント12に流入する。アノード層132中の還元ガスは、膜電極アセンブリ13内に起電力(ΔE)を生成する。この起電力は開放電圧(OCV)であり、式(1)によって表すことができる。
ΔE(OCV)=[(RT)/(4F)]・ln[(P O2|Cathode)/(PO2|Anode)] (1)
上式でRは気体定数であり、Tは絶対温度、Fはファラデー定数、PO2は酸素分圧である。アノード側では、タイプが異なる還元ガスは値が異なる酸素分圧に対応しており、したがって異なる起電力を生成することができ、また、カソード側では、異なる酸素濃度が同じく値が異なる酸素分圧に対応しており、したがって同じく異なる起電力を生成することができる。言い換えると、カソード側の排気ガス中の酸素含有量が多いほど起電力が大きくなり、したがって本発明の場合、窒素に分解されている窒素酸化物の電気化学的促進能力がより高い。一実施形態では、排気ガス中の酸素濃度が起電力を効果的に生成するためには低すぎる場合、空気追加ユニット80を使用して余分の空気を排気ガスに追加し、それにより酸素濃度を高くすることができるため、大きい起電力が生成される。還元ガス循環ポンプ90は、アノード層132中への還元ガスの効果的な流入およびアノード層132中での一様な分布を促進するべく、還元ガスの循環を実施するために使用され、それにより起電力が効果的に、かつ、一様に生成され、したがって窒素に分解中の窒素酸化物の電気化学的促進能力が効果的に得られ、かつ、一様に分布する。
【0029】
排気ガスの有害な成分は、カソードコンパートメント11およびカソード層131中で無害ガスに変換される。有害窒素酸化物は、主として酸化窒素(NO)および二酸化窒素(NO)である。酸化窒素(NO)は、カソード層131中で式(2)に従って窒素および酸素に分解される。
2NO→N+O (2)
【0030】
二酸化窒素は、カソード層131中で式(3)に従って一酸化窒素に分解される。
2NO→2NO+O (3)
【0031】
一酸化窒素(NO)は、カソード層131中で窒素および酸素にさらに分解される。
【0032】
膜電極アセンブリ13は、起電力を生成するために加熱ユニット20によって加熱される。本発明のシステム構造を考慮し、また、加熱ユニット20には正確な温度制御が必要であることを考慮すると、本発明の加熱ユニット20は、多孔性電気発熱体を使用して実現することができる。一実施形態では、加熱ユニット20は、電池モジュール10のアノードコンパートメント12と膜電極アセンブリ13の間に埋設された、該膜電極アセンブリ13を加熱するための多孔性中空電気発熱管であってもよい。別の実施形態では、還元ガスが熱交換ユニット81内で加熱される場合、加熱ユニット20は、有効な伝熱能力を備えた多孔性熱伝導体、または有効な伝熱および伝導能力を備えた多孔性電気発熱体のいずれかであってもよい。しかしながら、本発明はこれらの実施形態によって制限されない。一実施形態では、加熱ユニット20は、起電力を生成するために膜電極アセンブリ13を450〜600℃の動作温度まで加熱することができる。動作温度は、電解質層133の材料の品質が改良されているか、あるいは排気処理の要求事項が緩和されている場合、適切に低くすることができる。また、動作温度は、排気処理の要求事項が厳しくなっている場合、適切に高くすることができる。
【0033】
酸化触媒層112は、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および粒子状物質(PM)の無害ガスへの変換反応を促進することができ、それぞれ式(4)、(5)および(6)に従って排気ガス中の一酸化炭素が酸化されて二酸化炭素になり、また、炭化水素および粒子状物質(Cを含有した物質)が酸化されて二酸化炭素および水になる。
2CO+O→2CO (4)
HC+O→HO+CO (5)
C+O→CO (6)
【0034】
一実施形態では、酸化触媒のエレメントは、金属、合金、フルオライト型酸化物、ペロブスカイト型酸化物および他の触媒担体からなるグループから選択された材料でできており、触媒担体は酸化アルミニウムであってもよい。
【0035】
図3を参照すると、本発明の別の実施形態による電気化学的触媒コンバータのシステムが示されている。この実施形態は、この実施形態の電気化学的触媒コンバータ2が複数の電池モジュール10および複数の加熱ユニット20を備えている点で上記実施形態とは異なっている。電池モジュール10は互いに積み重ねられている。加熱ユニット20の数は、電池モジュール10の数と同じであるか、あるいはそれとは異なっている。加熱ユニット20の数が電池モジュール10の数と同じであるか、あるいはそれとは異なっているかには無関係に、加熱ユニット20は、電池モジュール10を加熱して動作させることができる。排気ガス流入ユニット30により、異なる通路すなわちパイプを介して排気ガスが電池モジュール10に流入する。また、還元ガス流入ユニット50により、異なる通路すなわちパイプを介して還元ガスが電池モジュール10に流入する。電池モジュール10は、異なる通路すなわちパイプを介してガスを排気ガス流出ユニット40に排気し、そこで排気ガスが集められて排気される。また、電池モジュール10は、異なる通路すなわちパイプを介して還元ガスを還元ガス流出ユニット60に排気し、そこで還元ガスが集められて再循環される。したがって電気化学的触媒コンバータ2に流入する排気ガスをより多くの電池モジュール10によって非汚染ガスに変換することができるため、より高い排気ガス処理効率を達成することができる。
【0036】
本発明の場合、電気化学的触媒コンバータ1および2を直列に接続することができ、あるいは排気ガスをより効率的に処理し、あるいは熱をより効率的に利用するために並列に逆接続することができる。「並列に逆接続された」は、電池モジュール10のスタック構造が平面状SOFC(固体酸化物燃料電池)スタック構造であることを意味している。一例として2つの電池モジュール10のスタック構造を取り挙げると、図2に示されている電池モジュール10内の層は、一方の電池モジュール10内の一方のアノード層132および別の電池モジュール10内の別のアノード層132が同じ加熱ユニット20に並列に結合されるよう、逆に配置されている。したがって加熱ユニット20は2つの電池モジュール10を同時に加熱することができ、延いては加熱ユニット20の数を少なくすることができ、また、熱の利用効率を高くすることができる。
【0037】
図4を参照すると、本発明の別の実施形態による電気化学的触媒コンバータの電池モジュール10の構造が示されている。動作原理は上で説明した実施形態の動作原理と同じであるため、以下では構造の相違のみを説明する。上で言及した実施形態と比較すると、この実施形態の電池モジュール10は、管状SOFC(固体酸化物燃料電池)スタック構造である。図4に示されているように、電池モジュール10は、中心の層から一番外側の層に向かって順に管状構造のアノード通路121、加熱ユニット20、膜電極アセンブリ13およびカソードコンパートメント11を備えている。膜電極アセンブリ13には、さらに、内側から外側に向かってアノード層132、電解質層133およびカソード層131が含まれている。カソードコンパートメント11には、さらに、内側から外側に向かって酸化触媒層112およびカソード通路111が含まれている。加熱ユニット20は、アノード通路121に埋設され、かつ、アノード層132と緊密に接触している、電池モジュール10を動作温度まで加熱するための多孔性中空電気発熱管である。別の実施形態では、還元ガスが熱交換ユニット81内で加熱される場合、加熱ユニット20は、有効な伝熱能力を備えた多孔性熱伝導体、または有効な伝熱および伝導能力を備えた多孔性電気発熱体のいずれかであってもよい。一実施形態では、酸化触媒層112は、銀、パラジウムまたは白金などの金属で構築することができ、また、酸化触媒層112は、ガドリニアドープ酸化セリウム(IV)などのフルオライト型酸化物で構築することも可能である。本発明の場合、図4に示されている管状構造を備えた複数の電池モジュール10を備えた電気化学的触媒コンバータ2を使用してすべての電池モジュール10のカソード通路111が相互接続され、したがって排気ガスを排気ガス流入ユニット30から電池モジュール10へ流入させるために、あるいはガスを電池モジュール10から排気ガス流出ユニット40へ排気するために異なる通路すなわちパイプを使用する必要はない。
【0038】
本発明は、分解反応および触媒酸化反応の電気化学的促進を介して排気ガス中の有害な成分を除去することができる。実際には排気ガス中の酸素濃度が高いほど、電気化学的触媒コンバータ1および2の動作効率を高くすることができる。したがって本発明は、ディーゼル車両の排気放出システムなどの不完全燃焼エンジンの排気ガス処理に適用するのにとりわけ適している。さらに、本発明は、その濃度に無関係にNOを処理することができ、したがって窒素酸化物の放出を制御するためのEGR(排気ガス再循環)システムをディーゼル車両に追加設置する必要はなく、また、エンジンの酸素含有量および温度を完全に高くすることも可能である。したがってエンジン内で生成される高濃度のNOを容易に除去することができ、また、エンジン内の粒子状物質の濃度を低くして微粒フィルタの必要性を除去することができ、酸化触媒によって残留粒子状物質を処理することができる。言い換えると、本発明には、従来の技術と比較してより良好な排気ガス処理機構を達成し、かつ、より高い排気ガス処理効率を達成するために、従来技術に必要なNO還元システムと、酸化触媒コンバータとが統合されている。それと同時に、エンジンの酸素含有量および温度を高くして燃焼効率を改善することができ、EGRを採用している間、最初に粒子状物質を生成する燃料がエンジン内で燃焼され、したがって燃料を著しく節約することができる。
【0039】
さらに、本発明によれば、従来技術における排気ガス変換と発電の統合構造と比較すると回路システムが単純化され、電流を集めるためのアノード側およびカソード側の集電体ならびにインターコネクタはもはや不要である。また、電流を集めるための材料で酸化触媒層112を構築する必要もなく、したがって一酸化炭素、炭化水素および/または粒子状物質に触媒作用を加えることができる任意の材料を利用して、低コスト、高効率および製造の容易性の利点を得ることができる。本発明によれば、還元ガスを循環させる概念に基づいて還元ガスが繰り返し使用され、したがって長期間にわたる内部使用のために還元ガスを外部から加える必要はない。
【0040】
また、電気化学的触媒コンバータは、450〜600℃の温度で動作させることができ、加熱ユニット20を使用して、上記排気ガス変換と発電の統合構造の動作温度と同じ動作温度まで膜電極アセンブリ13を速やかに加熱することも可能である。動作温度まで加熱された後は、排気ガスの分解および酸化によって開放される熱エネルギーによって動作温度を完全に、あるいは部分的に維持することができる。カソード側の酸化窒素の分解および一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質の酸化は、すべて発熱反応であることに留意されたい。熱交換ユニット81は還元ガスの温度を調整し、本発明がエンジンの動作の変化および外部環境条件の変化に応答して、加熱ユニットおよび還元ガスの循環による温度の調整機能を介して任意の温度の排気ガスを処理することができるよう、還元ガス循環ポンプ90を介して膜電極アセンブリ13の温度をさらに調整する。一実施形態では、自動車放出制御のために使用されている電気化学的触媒コンバータを使用して、エンジンシリンダヘッドの壁のマニホルド内などの熱交換ユニット81内で還元ガスを加熱することができる。別の実施形態では、電気的に加熱される熱源と熱を交換する熱交換ユニット81内で還元ガスを加熱することができる。さらに別の実施形態では、膜電極アセンブリ13が有効な動作のためには熱くなりすぎると、周囲の空気に露出された熱交換ユニット81を使用して還元ガスを冷却し、それにより膜電極アセンブリ13をさらに冷却することができる。
【0041】
上で説明した実施形態は、単に本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書において開示されている技術的内容および図面に基づくあらゆる等価変更態様あるいは変形形態は、同じく本発明の範囲内に包含されるものとする。
【符号の説明】
【0042】
1、2 電気化学的触媒コンバータ
10 電池モジュール
11 カソードコンパートメント
12 アノードコンパートメント
13 膜電極アセンブリ(MEA)
20 加熱ユニット
30 排気ガス流入ユニット
40 排気ガス流出ユニット
50 還元ガス流入ユニット
60 還元ガス流出ユニット
70 排気ガス源
80 空気追加ユニット
81 熱交換ユニット
90 還元ガス循環ポンプ
111 カソード通路
112 酸化触媒層
121 アノード通路
131 カソード層
132 アノード層
133 電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気放出を制御するために使用される電気化学的触媒コンバータであって、
少なくとも1つの電池モジュールであって、カソードコンパートメント、アノードコンパートメント、膜電極アセンブリおよび加熱ユニットをさらに含み、前記膜電極アセンブリが前記カソードコンパートメントと前記アノードコンパートメントの間に配置され、前記加熱ユニットが前記電池モジュールの中に埋設され、前記カソードコンパートメントが酸化触媒を含んだ少なくとも1つの電池モジュールと、
それぞれ前記アノードコンパートメントの2つの面に結合されて、動作のために前記電池モジュールの還元ガス流入ターミナルおよび還元ガス流出ターミナルとして機能する還元ガス流入ユニットおよび還元ガス流出ユニットと、
前記還元ガス流入ユニットおよび前記還元ガス流出ユニットそれぞれに結合されて、還元ガスの閉循環を実施する還元ガス循環ポンプと、
それぞれ前記カソードコンパートメントの2つの面に結合されて、排気ガスを処理するための前記電池モジュールの排気ガス流入ターミナルおよび排気ガス流出ターミナルとして機能する排気ガス流入ユニットおよび排気ガス流出ユニットと
を備え、
前記膜電極アセンブリ内に起電力を生成するために前記加熱ユニットが前記膜電極アセンブリを動作温度まで加熱し、
前記排気ガス中の窒素酸化物が分解して前記膜電極アセンブリ内に窒素を形成し、
前記排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素および粒子状物質が前記酸化触媒による触媒作用によって二酸化炭素および水を形成し、
それにより前記排気ガスが分解される
電気化学的触媒コンバータ。
【請求項2】
前記膜電極アセンブリが、カソード層、アノード層および電解質層をさらに備え、前記電解質層が前記カソード層と前記アノード層の間に配置され、前記カソード層および前記アノード層がそれぞれ前記カソードコンパートメントおよび前記アノードコンパートメントに結合され、前記カソードコンパートメントが、カソード通路および酸化触媒でできた酸化触媒層をさらに含み、前記アノードコンパートメントがアノード通路をさらに含み、前記加熱ユニットが前記アノード通路に配置され、前記排気ガス流入ユニットが前記カソード通路に結合され、前記排気ガスの酸化反応が前記カソードコンパートメントの中で生じ、前記排気ガスが前記カソード層に到達して分解を起こし、前記還元ガス流入ユニットが前記アノード通路に結合され、前記還元ガスが前記アノード層に到達して起電力を生成する、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項3】
前記カソードコンパートメント、前記膜電極アセンブリ、前記加熱ユニットおよび前記アノードコンパートメントが1つずつ積み重ねられ、前記カソード通路、前記酸化触媒層、前記カソード層、前記電解質層、前記アノード層、前記加熱ユニットおよび前記アノード通路が順次積み重ねられた、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項4】
前記アノードコンパートメント、前記加熱ユニット、前記膜電極アセンブリおよび前記カソードコンパートメントが管状構造で積み重ねられ、前記アノード通路が前記管状構造の中心に配置され、前記加熱ユニット、前記アノード層、前記電解質層、前記カソード層、前記酸化触媒層および前記カソード通路が積み重ねられ、かつ、前記アノード通路を順次取り囲んでいる、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項5】
前記動作温度が450℃から600℃までの間である、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項6】
前記酸化触媒が、金属、合金、フルオライト型酸化物、ペロブスカイト型酸化物およびそれらの組合せからなるグループから選択された材料でできている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項7】
前記酸化触媒が微小粒子の形態で前記カソード通路を覆っている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項8】
前記酸化触媒が微小粒子の形態で前記カソード層を覆っている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項9】
前記電解質層が、フルオライト型酸化物、ペロブスカイト型酸化物およびそれらの組合せからなるグループから選択された材料でできている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項10】
前記アノード層が、ニッケルおよびフルオライト型酸化物のサーメット、ペロブスカイト型酸化物、フルオライト型酸化物、金属添加ペロブスカイト型酸化物、金属添加フルオライト型酸化物およびそれらの組合せからなるグループから選択された材料でできている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項11】
前記カソード層が、ペロブスカイト型酸化物、フルオライト型酸化物、金属添加ペロブスカイト型酸化物、金属添加フルオライト型酸化物およびそれらの組合せからなるグループから選択された材料でできている、請求項2に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項12】
前記排気ガス流入ユニットが前記排気ガスに空気を追加するための空気追加ユニットを含む、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項13】
前記還元ガスが、水素(H)、一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガス、一酸化炭素と水素の混合ガス、天然ガスおよびそれらの組合せからなるグループから選択された材料でできている、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項14】
前記還元ガス循環ポンプが前記還元ガスの温度を調整するための少なくとも1つの熱交換ユニットを含む、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項15】
前記加熱ユニットが多孔性電気発熱体である、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。
【請求項16】
前記加熱ユニットが多孔性熱伝導体である、請求項1に記載の電気化学的触媒コンバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97351(P2012−97351A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−219063(P2011−219063)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(595064050)國立清華大學 (6)
【Fターム(参考)】