説明

排水処理方法および排水処理装置

【課題】高濃度の窒素を含む高窒素含有排水から、メタン発酵によりバイオガスを回収する排水処理のプロセスにおいて、メタン発酵の阻害要因となるアンモニアを系外に除去する工程を合理的に組み込んだ排水処理方法および装置を提供すること。
【解決手段】窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵工程を行い、嫌気性発酵工程により生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧工程を行い減圧工程によりアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵工程を行い、メタン発酵によりメタンガスを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法および排水処理装置に関し、具体的には、有機排水中の有機物を分解処理するとともに、生成するバイオガス(メタンガス)を回収し、エネルギとして取り出す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機排水の処理としては、空気の存在下で活性汚泥により処理する方法が一般的であるが、嫌気条件下においてメタン発酵を行うことにより、排水中の有機物を処理するとともに、生成するバイオガスを回収し、エネルギとして取り出すことが検討されている。この場合、排水中に窒素分が多いときには、メタン発酵の際にアンモニアが発生することが知られている。高温メタン発酵ではアンモニア濃度が2500mg/L以上、中温メタン発酵ではアンモニア濃度が5000mg/L以上になるとメタン発酵の阻害が生じ、安定処理ができないという問題がある(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
そこで、アンモニアを除去する方法として、一般にメタン発酵槽の他に高温のアンモニア除去槽を設置し、曝気処理を行うことでアンモニアを気体として回収、除去する方法が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、曝気処理によりアンモニアを除去するためには、有機排水を加温する必要があり、一般的には、40℃以上の温度でアンモニア除去が可能とされているが、実際的には80℃程度の加熱を要し、メタン発酵槽以外に高温のアンモニア除去槽を必要とするため、装置の大型化を伴うという問題があり、また、そのアンモニア除去槽を高温に加熱維持する必要があるので、エネルギコスト面で実用的ではなかった。
【0004】
また、その他のアンモニア除去方法として、アンモニア態窒素の一部を、硝化細菌により酸素の存在下で硝化し、Anammox細菌により窒素に変換して除去する方法が提案されている(例えば特許文献2)。しかし、この場合、たんぱく質中の窒素分をアンモニア態窒素に変換してから除去する必要があるため、処理前の排水を希釈する必要がある。排水を希釈すると、メタン発酵するための有機物濃度が低下してしまったり、希釈により処理対象となる排水量が増大してしまったりする。そのため、続いてメタン発酵によりバイオガスを回収するといったプロセスでの使用には向かない。
【0005】
固形分のメタン発酵装置は、発酵槽が大型で設備費が高いという課題がある。排水のメタン発酵装置としては、高速で処理できる上向流式嫌気性処理槽(UASB)が比較的安価であるが、排水中に500mg/L以上の固形分を含む場合は安定処理が困難である。また、UASBの前処理として高窒素含有の固形物または汚泥を嫌気性発酵で処理し、窒素分をアンモニアに変換する処理方法については、報告例があるが、(例えば非特許文献2参照)アンモニアをプロセス系外に除去する工程は、別途大掛かりなものになるので、排水処理のプロセスに組み込んだ形態とするのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−511832号公報
【特許文献2】特開2006−075784号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】技報堂出版 『メタン発酵』 野池 達也 編著 P123
【非特許文献2】広島県産学官共同研究プロジェクト平成16年度報告書、広島県産業科学技術研究所、平成17年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固形分含有率が500mg/L未満であるような排水については、希釈する工程が追加されるだけなので、排水処理のプロセスに追加することは容易に思われる。しかし、先述のように、排水量が増える、有機物濃度まで低下するという問題のために、バイオガスを回収する工程まで一体に組み込んだプロセスを構築するには、やはり問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み、高濃度の窒素を含む高窒素含有排水から、メタン発酵によりバイオガスを回収する排水処理のプロセスにおいて、メタン発酵の阻害要因となるアンモニアを系外に除去する工程を合理的に組み込んだ排水処理方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の排水処理方法の特徴手段は、
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵工程を行い、嫌気性発酵工程により生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧工程を行い減圧工程によりアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵工程を行い、メタン発酵によりメタンガスを得ることにある。
【0011】
〔作用効果1〕
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水(以下単に排水と称する)を、嫌気性発酵処理すると、前記排水中の窒素含有有機物が消化分解させることができる。このとき有機物は細分化され、メタン発酵容易な成分に変換されるとともに、窒素成分がアンモニア態に変換される。この反応は、通常30℃〜50℃の温度において活性が高く、効率良く行える。
【0012】
嫌気性発酵工程で発生したアンモニアは、減圧工程により減圧除去することができる。また、排水中からアンモニアを減圧除去する温度は高いほど良好であると考えられるが、後述の実験例より、減圧工程により、30℃〜50℃の比較的低い温度において十分に高濃度なアンモニア水が揮発し、十分量のアンモニアが回収できることがはじめて判明した。従って、嫌気性発酵工程を行った後、処理槽内の温度環境を変更することなくそのまま減圧工程を行うことができるので効率的である。尚、嫌気性発酵工程と減圧工程は、加熱により促進することができるが、加熱しすぎると嫌気性発酵の活性が低下しはじめること、加熱によるエネルギ消費を考えると、経済的ではないことから、30℃〜50℃とすることが好ましい。このようにして減圧工程を行うと、簡便かつ確実に、排水中からアンモニアがガスとして系外に除去される。尚、この減圧工程は、嫌気性発酵工程を行った処理槽と同一の処理槽内でも行えるが、嫌気性発酵後および減圧除去後のアンモニア濃度の管理が容易である点、および発酵槽より小型の減圧槽を後段に設けることで発酵槽は減圧に耐えうる容器にする必要がないという点からは、別の処理槽で行うこともでき、いずれであってもかまわない。
【0013】
減圧工程を経てアンモニアがガスとして系外に除去された排水は、アンモニア含有量の低下したものとなって、メタン発酵によっても発酵阻害のおきにくい性状に変化する。従って、減圧工程に続いてメタン発酵工程を行えば、発酵阻害の起こりにくい環境でメタン発酵を効率良く行える。
【0014】
従って、上記構成によれば、排水から効率良くメタンガスを得るプロセスを、温度環境の調整を伴わず減圧工程を追加するだけの簡易な構成の変更により実現することができた。
【0015】
〔構成2〕
また、前記嫌気性発酵処理を減圧下で行うことにより、嫌気性発酵工程と減圧工程とを同時に行ってもよい。
【0016】
〔作用効果2〕
上述のように、前記減圧工程は、嫌気性発酵工程を行った処理槽と同一の処理槽内でも行え、このように同一の処理槽内で2つの工程を進行させることにより、処理槽の全体構成を簡略化することができる。本構成では、さらに2つの工程を同時に行うのであるから、処理槽の全体構成の簡略化に加えて、各工程の時間管理を容易にするとともに、要する時間を短縮することができる。
【0017】
〔構成3〕
また、前記高窒素含有排水が、固形の有機廃棄物を脱水して得られる液体成分であってもよい。
【0018】
〔作用効果3〕
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水としては、水産加工業等排水や、一般排水の一次処理後の消化汚泥、等であっても良い。これらの固形の有機廃棄物を脱水した液体成分は、通常高濃度の有機物を含有するので、メタン発酵によりバイオガスを回収するに適している反面、難分解性のたんぱく質などの窒素源が大量に含まれており、前記本発明の目的に合致する排水であるといえる。
【0019】
〔構成4〕
また、上記目的を達成するための本発明の排水処理装置の特徴構成は、
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵部を備え、嫌気性発酵部で生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧処理部を備え、減圧処理部でアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵部を備え、メタン発酵部で生成したメタンガスを回収するメタンガス回収部を備えた点にある。
【0020】
〔作用効果4〕
前記嫌気性発酵部によると、排水を嫌気性発酵する嫌気性発酵工程を行える。また、前記減圧処理部を備えると、嫌気性発酵工程で発生したアンモニアを系外に除去することができる。前記メタン発酵部は、減圧処理部でアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵することによって、効率良くバイオガスとしてのメタンガスを発生させることができる。これをメタンガス回収部で回収することによって、前記バイオガスを有効利用することが出来る。
【0021】
減圧処理部を経てアンモニアがガスとして系外に除去された排水は、アンモニア含有量の低下したものとなって、メタン発酵によっても発酵阻害のおきにくい性状に変化する。従って、減圧処理後の排水をメタン発酵部にてメタン発酵すれば、発酵阻害の起こりにくい環境でメタンガスを効率良く製造できる。
【0022】
尚、嫌気性発酵部は、嫌気性微生物を育成する槽に、排水を導入する流入部および嫌気性発酵された排水を排出する排出部を設けて構成することができる。前記嫌気性微生物としては、一般の下水処理場の消化汚泥や食品残渣のメタン発酵汚泥等種々の環境から採取して用いることができる
【0023】
減圧処理部は、減圧処理槽等を構成する密閉式の槽に、槽内部に嫌気性発酵した排水を導入した状態で、たとえば、100Torr程度まで減圧処理する配管を設けて構成することができる。
【0024】
〔構成5〕
また、前記メタン発酵部を上向流式嫌気性処理槽(UASB)とすることが好ましい。
【0025】
〔作用効果5〕
メタン発酵部は、高濃度の有機排水を、効率良くメタンガスに変換することのできる構成が望ましい。この点、UASBは汚泥保持濃度が高く、高負荷処理が可能であることから、近年、食品排水を中心に急速に普及している。UASB法は、原水を反応槽の下部より上向流で流入させ、微生物の付着担体を用いることなく、汚泥をブロック化又は粒状化させて粒径1〜数mmのグラニュール汚泥の汚泥床(スラッジブランケット)を形成させ、反応槽中に高濃度の微生物を保持して、高負荷処理を行う方法であり、好気性活性汚泥法に比べて、反応槽容積当りの有機物負荷が10kg−CODCr/m3 /day以上と非常に高い。しかも、曝気のためのエネルギが不要である;メタンガスとしてエネルギの回収が可能である;余剰汚泥発生量が少ない;等の優れた特長も備えている。
【0026】
〔構成6〕
また、前記UASBの上流側に、嫌気性発酵処理により生じた排水中の固形物を除去する固液分離部を備えてもよい。
【0027】
〔作用効果6〕
UASBは、上述の構造のため、高負荷処理が可能な反面、固形物の多い排水の処理を苦手とする。そこで、UASBの上流側に固形物を除去する固液分離部を備え固形物を除去した後前記排水を処理すれば、前記UASBの効率の良い水処理性能を発揮させることができる。尚、固形物を除去する固液分離部としては、凝集沈殿または加圧浮上あるいは膜分離等、一般に慣用されている手段が適用できる。
【0028】
〔構成7〕
また、前記減圧処理部は、前記嫌気性発酵部を構成する嫌気性発酵槽に設けられた減圧装置として設けても良い。
【0029】
〔作用効果7〕
前記減圧処理部を前記嫌気性発酵部に設けると、前記嫌気性発酵部を構成する嫌気性発酵槽において、減圧工程が行え、1つの水処理槽において2つの工程を完了させることができる。そのため、別途水処理槽を設けて減圧工程を行うのに比べて、小規模かつ単純なプロセスで排水処理を行えるようになる。また、このような構成を採用すると、嫌気性発酵工程と減圧工程とを同時に行う排水処理方法を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0030】
従って、上記構成によれば、排水から効率良くメタンガスを得る排水処理方法を、温度環境の調整を伴わず簡易な構成の変更により実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の排水処理装置を示す図
【図2】嫌気性発酵処理効率と発酵温度の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の排水処理装置および排水処理方法を説明する。尚、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0033】
〔排水処理装置〕
本発明の排水処理装置は、図1に示すように、高窒素含有排水を、嫌気性発酵処理する嫌気性発酵部1を備え、嫌気性発酵部1で生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧処理部2を備え、減圧処理部2でアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵部3を備え、メタン発酵部3で生成したメタンガスを回収するメタンガス回収部4を備える。また、前記高窒素含有排水が含有する固形分含有率が500mg/L以上である場合に、減圧処理部2からの排水を固液分離してからメタン発酵部3に供給する固液分離部5を設けてある。
尚、排水処理装置において処理水を移流させるためには、ポンプ、開閉弁を動作制御させるが、基本的な処理水の移動が行えれば良く、以下の例では詳細の説明を省略する。
【0034】
〔嫌気性発酵部〕
前記嫌気性発酵部1は、処理水供給部6からの高窒素含有排水を処理水として受け入れる処理水流入部11を備えるとともに、処理済みの処理水を流出させる処理水流出部12を備えた嫌気性発酵槽10からなり、受け入れた処理水を内部に収容するとともに、その処理水を撹拌装置13により撹拌混合しつつ、前記処理水を嫌気性発酵(アンモニア発酵)させる嫌気性微生物を育成する。また、前記嫌気性発酵槽10には、加熱装置14が設けられ、前記嫌気性発酵槽10内部の処理水の温度を30〜50℃に維持する構成としてある。
【0035】
前記嫌気性微生物は、一般の下水処理場の消化汚泥や食品残渣のメタン発酵汚泥等から採取したものをアンモニア発酵に適した性状に馴養したものを育成する。
【0036】
この嫌気性発酵部1により、嫌気性発酵工程を行うことができる。
【0037】
〔減圧処理部〕
前記減圧処理部2は、前記嫌気性発酵部1からの処理水を受け入れる処理水流入部21を備えるとともに、処理済みの処理水を流出させる処理水流出部22を備えた減圧処理槽20からなる。また、前記減圧処理槽20は、内部の処理水を撹拌する撹拌装置23、および、内部の処理水を30〜50℃に維持する加熱装置24を備えるとともに、減圧処理槽20内部を減圧する減圧装置25を備える。前記減圧装置25は、減圧処理槽20内部を100Torr程度に減圧するとともに、アンモニアガスを回収するアンモニア回収部7に排気を供給可能に構成してある。
【0038】
この減圧処理部2により減圧工程が行われる。
【0039】
〔固液分離部〕
前記固液分離部5は、例えば膜分離装置50を備えて構成し、前記減圧処理部2から排出される処理水を、膜ろ過により固液分離可能に構成してある。固液分離された処理水は、後続のメタン発酵部3に移送され、固形分は別途処理される。
【0040】
尚、固液分離部5は、膜分離装置50とすることによって、コンパクトで処理能力の高い構成を実現することができるが、他に凝集沈殿、加圧浮上等、一般に慣用されている手段が適用できる。
【0041】
〔メタン発酵部〕
前記メタン発酵部3は、図1に示すように、前記UASB反応槽30を備えて構成してあり、前記UASB反応槽30は、下部に嫌気性微生物(UASB菌)を主体とする汚泥のグラニュール30aを充填されるスラッジベッドを備えるとともに、固液分離部5から排出された処理水を分散供給する処理水供給部31を備える。これにより、導入される処理水の上向流が形成されるとともに、内部の処理水の循環を促し、流動するグラニュール30aにより有機物をメタン発酵するメタン発酵工程が行われる。前記スラッジベッドの上部には、グラニュール30aの流失を防止するとともに処理済みの上澄液および生成したメタンガスを上方に移流させる分離板33を設けてある。分離板33上方に移流した処理済みの処理水は、オーバーフロー部32よりUASB反応槽30外へ取出されるとともに、生成したメタンガスは、UASB反応槽30外のメタンガス回収部4よりへ取出される構成となっている。また、オーバーフロー部32には処理水の一部を処理水供給部31に循環させる処理水循環路34を設けて、必要な滞留時間を維持しながら、塔内の液線速度を適切な値に設定できる構成としている。塔内の液線速度は、速すぎるとグラニュール30aが磨耗し、遅すぎるとグラニュール以外の懸濁物質が蓄積されやすくなるため、3m/h程度とすることが好ましい。
【0042】
尚、上記嫌気性微生物(UASB菌)は、一般の下水処理場の消化汚泥や食品残渣のメタン発酵汚泥等種々の環境から採取して、メタン発酵に適した性状に馴養されたものが汎用されており、適宜使用することができる。
【0043】
〔排水処理方法〕
上記排水処理装置は、嫌気性発酵部1、減圧処理部2、メタン発酵部3を備え、メタンガス回収部4を備えるから、窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵工程を行い、
嫌気性発酵工程により生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧工程を行い
減圧工程によりアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵工程を行い、メタン発酵によりメタンガスを得る排水処理方法を実現することができる。
以下、この排水処理方法を実施する上での運転条件を検討した実験例を示す。
【0044】
〔実験例1〕
以下の試験条件において、上記嫌気性発酵部1による嫌気性発酵工程の効果を調べた。
まず、食品残渣の高温メタン発酵汚泥(55℃)を発酵槽に100mL投入し、攪拌しながら設定温度(20〜60℃)で保持する。その後、所定時間おきに処理済みの処理水を所定量発酵槽から抜出しした後、処理する排水を発酵槽に投入するとともに、抜出した処理水の性状をアンモニア濃度計により分析した。
【0045】
処理排水 :フィッシュミール製造における脱水後の排水
処理量 : 50mL/日(4回/日に分けて投入)
SS : 3.0%
t−COD : 160,000mg/L
窒素含有量 : 12,000mg/L
嫌気性発酵槽: 100mL(液量)
抜出し量 : 50mL/日(4回/日に分けて抜出)
発酵温度 : 20〜60℃
【0046】
〔結果1〕
図2に示すように、発酵温度30〜50℃において、発酵後のアンモニア濃度が大きく上昇しており、処理排水中の窒素分を安定してアンモニアに変換できることを確認することができた。
【0047】
〔実験例2〕
上記減圧処理部2による減圧工程の効果を調べた。
まず、約3000〜16000mg/Lのアンモニア水(処理水)を用意し、そのアンモニア水をガラス容器に入れ、湯浴で加温しつつ、処理水が約50℃で沸騰する条件で減圧処理を行った。所定時間減圧処理を行った後、残留液(後続の処理に供する処理水)のアンモニア濃度をアンモニア濃度計により分析した。
【0048】
〔結果2〕
減圧工程における圧力については、表1(1)〜(3)に示すように、減圧工程を85〜120Torr(処理水の沸点約50℃)程度で行えば、処理水中のアンモニアが十分除去できることがわかった。すなわち、嫌気性発酵工程と同じ温度条件で、減圧工程を行えば、アンモニア発酵後の処理水から効率良くアンモニアガスを除去することができ、最終的には約1000mg/L以下のアンモニア濃度に到達させられる。そのため、後続の水処理工程におけるアンモニアによる悪影響を効率良く緩和することができることが分かった。1000mg/L以下のアンモニア濃度では、一般のUASB装置において、発酵阻害がほとんど起きないことが知られており、きわめて高いアンモニア除去能力が発揮されていることがわかる。
【0049】
また、表1(4)、(5)に示すように、さらに高濃度の、窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水に対しても、100Torrにて処理することにより120分で8000mg/Lから5000mg/L、180分で、16000mg/Lから3600mg/L、までアンモニア濃度を低下させられることが明らかになった。つまり、処理水のアンモニア濃度に応じて処理時間を好適に設定することにより、残留液のアンモニア濃度を、メタン発酵に悪影響をおよぼさない程度にまで低減することができることが分かった。
【0050】
従って、希釈処理を要さず排水処理能力の高いUASB装置を一連の排水処理プロセスに組み込むことができることが明らかになった。
【0051】
【表1】

【0052】
〔別実施形態〕
先の実施形態では、嫌気性発酵工程と減圧工程とを別の槽で行ったが、上述の実験例2の結果を踏まえると、1つの槽を共通に用いて各工程を行うことができる。すなわち、図1における減圧処理槽20を嫌気性発酵槽10としても用いることによって、上流側の嫌気性発酵槽10を省略することができる。
また、さらに、嫌気性発酵工程と減圧工程とを共通の槽で行う場合、これらの工程を同時に行うことができる。
【0053】
尚、固液分離部5で生成した固形分や、メタン発酵部3で生じた処理液排水は、別途好気処理槽において好気分解させ、さらに浄化して環境基準に適合させた状態で外部に放流させることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
従って、上記構成によれば、UASBを用いた合理的なプロセスにより排水を高度に浄化できるとともに、その排水から効率良くメタンガスを得ることができ、付加価値の高い排水処理プロセスとして利用することが出来る。
【符号の説明】
【0055】
1 :嫌気性発酵部
10 :嫌気性発酵槽
11 :処理水流入部
12 :処理水流出部
13 :撹拌装置
14 :加熱装置
2 :減圧処理部
20 :減圧処理槽
21 :処理水流入部
22 :処理水流出部
23 :撹拌装置
24 :加熱装置
25 :減圧装置
3 :メタン発酵部
30 :UASB反応槽
30a :グラニュール
31 :処理水供給部
32 :オーバーフロー部
33 :分離板
34 :処理水循環路
4 :メタンガス回収部
5 :固液分離部
50 :膜分離装置
6 :処理水供給部
7 :アンモニア回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵工程を行い、
嫌気性発酵工程により生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧工程を行い
減圧工程によりアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵工程を行い、
メタン発酵によりメタンガスを得る排水処理方法。
【請求項2】
前記嫌気性発酵処理を減圧下で行うことにより、嫌気性発酵工程と減圧工程とを同時に行う請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記高窒素含有排水が、固形の有機廃棄物を脱水して得られる液体成分である請求項1または2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
窒素を5000mg/L以上含む高窒素含有排水を、30℃〜50℃の温度において嫌気性発酵処理する嫌気性発酵部を備え、
嫌気性発酵部で生成した排水中のアンモニアを減圧除去する減圧処理部を備え、
減圧処理部でアンモニア含有量の低下した排水を、メタン発酵するメタン発酵部を備え、
メタン発酵部で生成したメタンガスを回収するメタンガス回収部を備えた排水処理装置。
【請求項5】
前記メタン発酵部が上向流式嫌気性処理槽からなる請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記上向流式嫌気性処理槽の上流側に、嫌気性発酵処理により生じた排水中の固形物を除去する固液分離部を備えた請求項5に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記減圧処理部が、前記嫌気性発酵部を構成する嫌気性発酵槽に設けられた減圧装置からなる請求項4〜6のいずれか一項に記載の排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−135734(P2012−135734A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290588(P2010−290588)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】