説明

排水処理方法

【課題】 MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって低減することができ、しかも次亜塩素酸塩含有廃水の発生を抑制する排水処理方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 焼却プラントから排出される排水を凝集剤によって凝集沈殿処理して上澄水を得る凝集沈殿工程と、該上澄水を精密ろ過膜によって分離除去する精密ろ過膜分離工程と、該精密ろ過膜分離工程の実施により上昇した前記精密ろ過膜の膜間差圧を下げるべく次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過膜の上流側を洗浄する精密ろ過膜洗浄工程とを実施する排水処理方法であって、
前記精密ろ過膜洗浄工程は、前記精密ろ過膜の膜間差圧をA(kPa)、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度をB(mg/L)とすると、開始時に
B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施する排水処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却プラントから排出される排水の排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼却プラントから排出される排水の排水処理方法としては、排水処理後の被処理水を例えば焼却プラントの機器冷却水等として用いるべく、該排水を凝集剤などによって凝集処理した後にろ過処理する排水処理方法などが知られている。
【0003】
詳しくは、従来の排水処理方法としては、例えば、焼却プラントから排出される排水を凝集剤などによって凝集処理した後に生物処理を行い、さらに砂ろ過によってろ過処理する排水処理方法などが知られている(特許文献1)。しかしながら、斯かる従来の排水処理方法は、生物処理を行うための生物処理槽や砂ろ過を行うための砂ろ過装置などのように比較的大規模な装置等を必要とし、排水処理のためのコストが比較的大きいものとなり得る。
【0004】
これに対して、焼却プラントから排出される排水を精密ろ過膜(以下、MF膜ともいう)によって分離除去し、該分離除去によって精密ろ過膜を透過した精密ろ過膜透過水を焼却プラントの機器冷却水等として用いる排水処理方法などが知られている。
【0005】
この種の排水処理方法においては、排水処理のために用いる装置等が比較的小さくなり得るものの、排水処理の継続に伴いMF膜の膜間差圧が上昇し、いわゆるMF膜の目詰まりが生じ得る。そこで、この種の排水処理方法においては、MF膜の目詰まりを低減させるべく、所定の時間間隔を空けて比較的高濃度の次亜塩素酸塩を含む水溶液を上流側から流し、MF膜の上流側を洗浄することなどが行われている。
【0006】
しかしながら、この種の排水処理方法においては、上述のごとく次亜塩素酸塩を用いることによりMF膜の目詰まりを低減させることができる一方で、目詰まりを低減させるために消費されなかった次亜塩素酸塩が残存し得ることから、次亜塩素酸塩を含む廃水に対して次亜塩素酸塩の分解除去処理などをしなければならないという問題がある。特に焼却プラントから排出される排水をMF膜によって分離除去する排水処理方法においては、該排水の排出量が比較的少なく排水処理設備が比較的小規模であることから、次亜塩素酸塩を分解除去する専用の装置等を備えることが、設備コストの点から困難であるという問題がある。
【0007】
このように、焼却プラントから排出される排水をMF膜によって分離除去する排水処理方法においては、比較的高濃度の次亜塩素酸塩水溶液を用いる必要性があるにも関わらず、MF膜の洗浄後において残存し得る次亜塩素酸塩を分解除去等することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−99898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、焼却プラントから排出される排水をMF膜によって分離除去する排水処理方法であって、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって低減することができ、しかも次亜塩素酸塩含有廃水の発生を抑制できる排水処理方法が要望されている。
【0010】
本発明は、上記問題点、要望点等に鑑み、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって低減することができ、しかも次亜塩素酸塩含有廃水の発生を抑制できる排水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に係る排水処理方法は、焼却プラントから排出される排水を凝集剤によって凝集沈殿処理して上澄水を得る凝集沈殿工程と、該上澄水を精密ろ過膜によって分離除去する精密ろ過膜分離工程と、該精密ろ過膜分離工程の実施により上昇した前記精密ろ過膜の膜間差圧を下げるべく次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過膜の上流側を洗浄する精密ろ過膜洗浄工程とを実施する排水処理方法であって、
前記精密ろ過膜洗浄工程は、前記精密ろ過膜の膜間差圧をA(kPa)、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度をB(mg/L)とすると、開始時に
B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施することを特徴とする。
【0012】
上記構成からなる排水処理方法によれば、前記排水に含まれる浮遊物が前記凝集沈殿工程の実施によって凝集及び沈殿され、該浮遊物の減少した上澄水を得ることができ、該上澄水に含まれ前記精密ろ過膜の膜間差圧を上昇させ得る成分が比較的ばらつきの少ないものとなり得る。
そして、該上澄水を精密ろ過膜によって分離除去する前記精密ろ過膜分離工程の実施によって前記精密ろ過膜の膜間差圧が上昇し得る。
これに対し、精密ろ過膜洗浄工程開始時の前記精密ろ過膜の膜間差圧A(kPa)との間で上記式の関係を満たす次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)である次亜塩素酸塩水溶液を用い、斯かる次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過の上流側を洗浄することにより、次亜塩素酸塩の大半が前記精密ろ過膜の膜間差圧を下げるために消費され、次亜塩素酸塩の残存が抑制され得る。即ち、所定値の膜間差圧Aとなっている精密ろ過膜を、上記式のA及びBの関係を満たす所定濃度B以下の次亜塩素酸塩水溶液で洗浄することにより、次亜塩素酸塩の大半が精密ろ過膜の目詰まりを低減させるために消費され、次亜塩素酸塩の残存が抑制され得る。
【0013】
また、本発明に係る排水処理方法においては、前記精密ろ過膜洗浄工程は、開始時に前記次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)が、
1.47×A+5.8≦B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施することが好ましい。前記精密ろ過膜洗浄工程の開始時に、前記次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)が、前記精密ろ過膜の膜間差圧A(kPa)との関係において斯かる関係を満たすことにより、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって効率的に低減できるという利点がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る排水処理方法は、上述の通り、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって低減することができ、しかも次亜塩素酸塩含有廃水の発生を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の排水処理方法で用いる装置類の概略図。
【図2】本実施形態の排水処理方法の変形例で用いる装置類の概略図。
【図3】本実施形態の排水処理方法の変形例で用いる装置類の概略図。
【図4】本実施形態の排水処理方法の変形例で用いる装置類の概略図。
【図5】精密ろ過膜洗浄工程開始時における精密ろ過膜の膜間差圧A(kPa)に対して、MF膜洗浄のために消費され得る次亜塩素酸塩の量を次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)で表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る排水処理方法の一実施形態について説明する。本実施形態の排水処理方法において用い得る装置等については、図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態の排水処理方法は、焼却プラントから排出される排水を凝集剤によって凝集沈殿処理して上澄水を得る凝集沈殿工程と、該上澄水を精密ろ過膜によって分離除去する精密ろ過膜分離工程と、該精密ろ過膜分離工程の実施により上昇した前記精密ろ過膜の膜間差圧を下げるべく次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過膜の上流側を洗浄する精密ろ過膜洗浄工程とを実施する排水処理方法であって、
前記精密ろ過膜洗浄工程は、前記精密ろ過膜の膜間差圧をA(kPa)、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度をB(mg/L)とすると、開始時に
B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施するものである。
【0018】
前記焼却プラントには、例えば、有機物を燃焼させる焼却炉、該焼却炉から排出される燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラ、及び、該廃熱ボイラで熱回収された燃焼排ガス(熱回収燃焼排ガス)をさらに減温させる減温塔などが備えられ得る。
【0019】
前記焼却プラントから排出される排水は、少なくとも焼却炉の周辺機器を冷却した後の機器冷却排水を含んでいる。また、該排水は、例えば、廃熱ボイラからブローされるブロー排水、焼却プラントにある床などを洗浄したときに発生する洗浄排水、廃棄物収集車を洗浄したときに発生する洗車排水、焼却炉から発生する焼却残渣やスラグを冷却する残渣冷却排水、生活排水、又はその他焼却プラント敷地内で発生する排水等を含み得るものであり、様々な種類の排水を含む総合排水である。
【0020】
焼却プラントから排出される排水は、例えば懸濁等している浮遊物を含み得る。また、例えばイオン性の有機物又は無機物といった溶解物を含み得る。
【0021】
前記凝集沈殿工程においては、前記排水を凝集剤によって凝集沈殿処理する。詳しくは、例えば図1に示すように凝集沈殿装置を用いて、凝集剤によって前記排水に凝集物を発生させて該凝集物を沈殿させる。即ち、前記凝集沈殿工程を実施することにより、凝集剤によって主に前記浮遊物が凝集して凝集物となり沈殿し得る。また、前記浮遊物の凝集に伴い前記溶解物の一部が凝集物となって沈殿し得る。前記凝集沈殿工程においては、該凝集物が沈殿することにより、上方側の上澄水と下方側に沈殿し得る凝集物とが分離し得る。該上澄水は、例えば、分離した前記排水の上方側から上澄水を抜き取ってろ過すること等により得ることができる。
【0022】
前記凝集沈殿工程を実施することにより、前記浮遊物が凝集物となって沈殿し得る。そして、該凝集物が沈殿した後の上澄水を続く精密ろ過膜分離工程で用いることにより、前記浮遊物に起因するMF膜の目詰まりが抑制され得る。
【0023】
前記凝集剤としては、一般的なものを用いることができる。例えば、硫酸第一鉄,硫酸第二鉄,塩化第二鉄などの鉄系凝集剤、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)などのアルミ系凝集剤、これらの混合物等が例示される。なお、前記凝集剤の添加量は、適宜調整され得る。
【0024】
前記凝集沈殿装置としては、従来公知の一般的なものを用いることができる。例えば、前記排水が所定量貯蓄され、前記凝集剤が添加できるようにされた凝集装置を用いることができる。前記凝集装置は、例えば、前記凝集剤が適宜、適量、適当な時期に前記排水へ添加されるように備えられている。
【0025】
前記凝集沈殿工程の実施により得られる上澄水は、上述のごとく凝集した凝集物が除かれているものの、それでもなお有機物などを含み得る。また、凝集沈殿しなかったシリカなどを含み得る。
【0026】
前記精密ろ過膜分離工程においては、前記上澄液を精密ろ過膜によって分離除去する。前記精密ろ過膜分離工程を実施することにより、精密ろ過膜(MF膜)は、膜間差圧が上昇し、いわゆる目詰まりが発生し得る。具体的には、例えば、前記凝集沈殿工程にて凝集しなかった前記上澄液に含まれ得る有機物やシリカなどがMF膜の孔の周辺に付着等することにより、MF膜の膜間差圧が上昇し得る。
【0027】
前記膜間差圧とは、精密ろ過膜(MF膜)の膜に対して上流側と下流側における圧力差のことを意味する。
詳しくは、前記膜間差圧とは、精密ろ過膜(MF膜)の膜に対して上流側と下流側における圧力差のことを意味する。該膜間差圧は、具体的には、次式によって求められる値である。
膜間差圧[kPa]=[(入口圧+出口圧)/2]−処理水圧
【0028】
前記精密ろ過膜装置としては、水処理の技術分野において従来公知の一般的なものを用いることができる。詳しくは、前記精密ろ過膜装置としては、例えば図1に示すように、複数のMF膜が組み合わされてユニットとなったMF膜ユニットが用いられ得る。MF膜ユニットとしては、例えば、中空糸膜、スパイラル膜、又はチューブラー膜となっているMF膜がベッセル内に保持されたものが挙げられる。また、前記精密ろ過膜装置としては、中空糸膜あるいは平膜となっているMF膜をそのまま被処理水中に浸漬して用いる浸漬膜も例示される。なお、前記精密ろ過膜(MF膜)は、通常、50nm〜10μm程度の孔径の孔を有している。
【0029】
前記精密ろ過膜洗浄工程においては、次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液を前記精密ろ過膜に対して上流側から供給して循環洗浄させる精密ろ過膜洗浄装置を用いて、前記精密ろ過膜(MF膜)の膜間差圧を下げることができる。斯かる精密ろ過膜洗浄装置としては、定置洗浄(Cleaning in Place)装置、即ちいわゆるCIP装置を用いることができる。具体的には、例えば図1に示すように、ショートCIP装置(簡易なCIP装置)を用いることができる。
該CIP装置としては、水処理の技術分野において従来公知の一般的なものを用いることができる。
【0030】
前記精密ろ過膜洗浄工程においては、例えば、上述したCIP装置を用いて、次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過膜(MF膜)の上流側を洗浄する。
詳しくは、前記精密ろ過膜洗浄工程は、開始時に、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)が、前記精密ろ過膜の膜間差圧をA(kPa)とすると、
B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施するものである。
このようにして濃度を設定した次亜塩素酸塩水溶液を用いてMF膜の上流側を洗浄することにより、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって低減することができ、しかも次亜塩素酸塩含有廃水の発生が抑制され得る。
【0031】
また、前記精密ろ過膜洗浄工程は、開始時に前記次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)が、
1.47×A+5.8≦B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施することが好ましい。
このようにして濃度を設定した次亜塩素酸塩水溶液を用いてMF膜の上流側を洗浄することにより、MF膜の目詰まりを次亜塩素酸塩によって効率的に低減することができるという利点がある。
【0032】
ここで、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度を設定するための上記式の技術的意義について詳しく説明する。
即ち、本発明においては、MF膜の膜間差圧が上昇し所定値となると、その膜間差圧を下げるために必要とされる次亜塩素酸塩の量を規定することができるとの発明者らの実験から得られた知見に基づいて上記式を求めたのである。
詳しくは、上記式は、洗浄開始時のMF膜の膜間差圧がA(kPa)であるときに消費される次亜塩素酸塩の上限量を次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)として表し得るものである。
【0033】
前記焼却プラントから排出される排水は、上述したように各種排水が混合されてなり得るものであるが、焼却プラントという特定のものから排出される排水であることから、含まれている成分の種類はばらつきがあるものの、該排水が凝集沈殿処理されることにより得られる上澄水は、斯かる焼却プラントから排出される排水に含まれる浮遊物などが減少しているので、前記排水よりも含まれている成分の種類のばらつきがほとんどないものとなっている。前記精密ろ過膜分離工程において斯かる上澄水を分離除去することによりMF膜の膜間差圧が上昇し得るものの、上澄水に含まれる成分の種類のばらつきが比較的少ないことから、前記精密ろ過膜分離工程において消費される次亜塩素酸塩の量は、上澄水に含まれMF膜に目詰まりを生じさせる有機物等の量に比例し得る。換言すると、前記精密ろ過膜分離工程において消費される次亜塩素酸塩の量は、MF膜の目詰まりの程度、即ち、MF膜の膜間差圧と比例し得る。
【0034】
前記精密ろ過膜洗浄工程は、通常、前記精密ろ過膜分離工程を停止した状態で実施する。
また、前記精密ろ過膜洗浄工程においては、例えば図1に示すようにショートCIP装置を配置し、次亜塩素酸塩水溶液を循環させながら前記精密ろ過膜の上流側を洗浄することが好ましい。詳しくは、次亜塩素酸塩水溶液がMF膜の上流側を複数回分洗浄するように次亜塩素酸塩水溶液を循環させながら前記精密ろ過膜の上流側を洗浄することが好ましい。このように次亜塩素酸塩水溶液を循環させてMF膜を洗浄することにより、次亜塩素酸塩の大半がMF膜の目詰まり低減のためにより確実に消費され得るという利点がある。
【0035】
前記精密ろ過膜洗浄工程は、前記精密ろ過膜分離工程の実施に伴いMF膜の膜間差圧が上がり、斯かる膜間差圧が所定の値以上になった時に実施することができる。前記精密ろ過膜洗浄工程開始時の膜間差圧は、特に限定されるものではないが、比較的簡便に低減できる膜間差圧であるという点で、200kPa以下の膜間差圧であることが好ましい。また、前記精密ろ過膜分離工程の実施をより行いやすくするという点で、MF膜の膜間差圧が50kPa以上になった時に実施することが好ましい。
【0036】
前記次亜塩素酸塩としては、特に限定されず、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等が用いられ得るが、通常、次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ)が用いられる。
【0037】
前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度は、前記精密ろ過膜洗浄工程開始時の前記精密ろ過膜の膜間差圧によって設定されるものであるところ、前記精密ろ過膜洗浄工程開始時の前記精密ろ過膜(MF膜)の膜間差圧によって異なり得るものであるが、該次亜塩素酸塩濃度は、通常、10〜1000mg/Lである。
【0038】
前記精密ろ過膜洗浄工程においては、前記次亜塩素酸塩水溶液の流量が特に限定されるものでなく、通常、0.75m3/h以下である。
また、前記精密ろ過膜洗浄工程においては、洗浄時間が通常60分以下であり、膜間差圧をより低下させ得るという点で、30分以上であることが好ましい。
また、前記精密ろ過膜洗浄工程においては、前記次亜塩素酸塩水溶液に含まれる次亜塩素酸塩が消費されるまで次亜塩素酸塩水溶液を循環させてMF膜を洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度が塩素計などによって検出されにくくなる10mg/L未満になるまで次亜塩素酸塩水溶液を循環させてMF膜を洗浄することが好ましい。斯かる方式によりMF膜を洗浄することにより、次亜塩素酸塩含有廃水の発生がより抑制されるという利点がある。
【0039】
なお、前記精密ろ過膜(MF膜)が複数備えられている精密ろ過膜装置を用いる場合は、MF膜の膜間差圧を精密ろ過膜装置の全体を考慮して決定し得る。詳しくは、MF膜が2つ以上備えられている精密ろ過膜装置を用いる場合は、精密ろ過膜装置における入口圧および出口圧の平均値から処理圧を引いたものを膜間差圧として採用する。又は、各々の精密ろ過膜(MF膜)の入口圧および出口圧の平均値から処理圧を引いたものを合計したものを膜間差圧として採用する。
【0040】
前記排水処理方法は、上記例示の一般的な装置等を用いて実施することができる。即ち、前記精密ろ過膜装置、前記CIP装置などとして水処理の技術分野において一般的に用いられているものを採用することができる。また、これら装置等に必要な配管、配線等を通常の方法で設置してこれら装置等を組み合わせて配置することにより、実施することができる。
【0041】
本発明は、上記例示の焼却プラントから排出される排水の排水処理方法に限定されるものではない。
また、一般の排水処理方法において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【0042】
例えば、前記排水処理方法においては、図1に示すように、前記精密ろ過膜(MF膜)を透過したMF膜透過水を逆浸透膜(以下、RO膜ともいう)によってさらに分離除去させる目的で、前記精密ろ過膜(MF膜)の下流側に備えられ、RO膜を有する逆浸透膜装置を用いることができる。
前記逆浸透膜装置としては、水処理の技術分野において従来公知の一般的なものを用いることができる。詳しくは、前記逆浸透膜装置としては、例えば、非対称膜の緻密層と微細多孔層とで構成されるRO膜の複合膜を有するものが挙げられる。また、前記逆浸透膜装置としては、例えば、複数の逆浸透膜(RO膜)が組み合わされてユニットとなったRO膜ユニットが挙げられる。RO膜ユニットとしては、中空糸膜、スパイラル膜、管状膜等の状態で設置された逆浸透膜(RO膜)が、ベッセル内に保持され高い圧力に耐えられるようになったものが挙げられる。なお、前記逆浸透膜(RO膜)にある孔の孔径としては、通常、2nm以下が例示される。
【0043】
また、前記排水処理方法においては、図1に示すように、前記凝集沈殿工程を実施することにより得られた上澄水に含まれ得る浮遊物をさらに減少させる目的で、前記精密ろ過膜装置の上流側に備えられた砂ろ過装置を用いることができる。該砂ろ過装置により、前記上澄水に含まれ得る浮遊物を減少させることができる。
【0044】
また、前記焼却プラントには、上述したように焼却炉、該焼却炉から排出される燃焼排ガスの熱を回収する廃熱ボイラ、該廃熱ボイラで熱回収された燃焼排ガス(熱回収燃焼排ガス)をさらに減温させる減温塔などが備えられ得る。
前記MF膜で濃縮されたMF膜濃縮水又は前記RO膜で濃縮されたRO膜濃縮水は、図1に示すように、斯かる濃縮水を貯めることができる再利用水槽にいったん貯められ、そして前記減温塔に噴霧等することができる。または、焼却炉内に噴霧等することができる。
【0045】
また、焼却プラント排水自体に次亜塩素酸塩などの酸化性を有する塩素化合物が比較的低濃度含まれている場合には、斯かる塩素化合物による前記逆浸透膜(RO膜)の劣化を抑制する目的で、図2に示すように、MF膜透過水を一時的に貯留する貯留槽を備えさせ、該貯留槽に脱塩素剤を添加することができる。該貯留槽に脱塩素剤を添加することにより、塩素による前記逆浸透膜の劣化を抑制することができる。また、貯留槽をMF膜ユニットの上流側でなく下流側に備えることにより、斯かる塩素化合物が含まれた排水がMF膜を透過し、斯かる塩素化合物の酸化力などによってMF膜表面のバイオファウリングを防止することができる。なお、前記脱塩素剤としては、例えば、重亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダなど、水処理の技術分野において従来公知の一般的なものを用いることができる。
【0046】
また、前記精密ろ過膜分離工程では、図3に示すようにRO膜ユニットを2つ直列につなげて実施することができる。前記RO膜ユニットを2つ直列につなげることにより、分離膜を透過した透過水の浄化度をさらに高めることができ、前記透過水を純水並みの水質にすることができ、廃熱ボイラのボイラ給水に直接適用できる。
【0047】
なお、本実施形態の排水処理方法は、図4に示すように前記砂ろ過装置を用いず、且つ前記MF膜ユニットを2つ直列につなげて実施することができる。前記RO膜ユニットを2つ直列につなげることにより、前記砂ろ過装置を用いずとも、前記排水に含まれる浮遊物を減らすことができ、よって前記MF膜を透過したMF膜透過水による前記RO膜の目詰まりを抑制できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。
【0049】
(試験例)
排水処理設備に備えられている各装置を図1に示したように配置し、都市ごみの焼却プラントから排出される排水の排水処理をおこなった。
詳しくは、MF膜ユニットとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を素材とする公称孔径0.1μmの中空糸膜モジュールを用いた。また、凝集沈殿装置においては、凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を適量排水に添加して、凝集沈殿工程をおこなった。該凝集沈殿工程をおこなった後に生じた上澄み水に対しては、砂ろ過装置によって残留懸濁物質(残留SS分)を除去する操作をおこなった。そして、MF膜における透過流束を1.2m/dとして精密ろ過膜分離工程をおこない、このようにして排水処理をおこなった。
MF膜ユニットの膜間差圧が30,80,100,170,180kPaとなったそれぞれの時点で排水処理を停止し、CIP装置を用いて500mg/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液100Lを30分循環させながらMF膜を洗浄した。洗浄終了後の次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定し、洗浄によって消費された次亜塩素酸ナトリウム量を次亜塩素酸ナトリウム水溶液濃度として表した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
<膜間差圧に対する次亜塩素酸ナトリウム消費量を表す直線式の算出>
試験例1〜5におけるMF膜ユニットの膜間差圧を横軸に、洗浄によって消費された次亜塩素酸ナトリウムを水溶液濃度で表した濃度を縦軸にそれぞれプロットしたものを図5に示す。該複数のプロットから最小二乗法によって一次直線(図5における実線)を求めるべく、消費された次亜塩素酸ナトリウムを水溶液濃度で表した濃度をB(mg/L)、MF膜の膜間差圧をA(kPa)とすると、
B=1.47×A+59.2
となった。
【0052】
(実施例1)
MF膜ユニットの膜間差圧が100kPaとなった時点で排水処理を停止し、200mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を100L用いて60分間MF膜ユニットを洗浄し、精密ろ過膜洗浄工程をおこなった。
精密ろ過膜洗浄工程を終了した後に、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を測定したところ、10mg/L未満であり検出限界以下であった。
【0053】
(実施例2)
MF膜ユニットの膜間差圧が200kPaとなった時点で排水処理を停止した点、350mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を100L用いた点以外は、実施例1と同様にして精密ろ過膜洗浄工程をおこなった。精密ろ過膜洗浄工程の後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を測定したところ、10mg/L未満であり検出限界以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却プラントから排出される排水を凝集剤によって凝集沈殿処理して上澄水を得る凝集沈殿工程と、該上澄水を精密ろ過膜によって分離除去する精密ろ過膜分離工程と、該精密ろ過膜分離工程の実施により上昇した前記精密ろ過膜の膜間差圧を下げるべく次亜塩素酸塩が含まれた次亜塩素酸塩水溶液によって前記精密ろ過膜の上流側を洗浄する精密ろ過膜洗浄工程とを実施する排水処理方法であって、
前記精密ろ過膜洗浄工程は、前記精密ろ過膜の膜間差圧をA(kPa)、前記次亜塩素酸塩水溶液の次亜塩素酸塩濃度をB(mg/L)とすると、開始時に
B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施すること特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記精密ろ過膜洗浄工程は、開始時に前記次亜塩素酸塩濃度B(mg/L)が、
1.47×A+5.8≦B≦1.47×A+59.2
を満たすようにして実施する請求項1記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−16100(P2011−16100A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163324(P2009−163324)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】