説明

排水配管構造

【課題】建築物の排水立て管に可燃性樹脂管を使用しても上階への延焼を防止できる排水配管構造を提供する。
【解決手段】排水配管構造は、金属製で上部が上階に突出し下部が下階に突出して床スラブ7の貫通孔8内に配置された排水管継手4と、その下部接続部17に接続されて下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管6で構成され、熱膨張性耐火材2が下部接続部の下方外周に管径方向外方への熱膨張が阻止された状態で設けられて所定温度以上で内方に膨張し下部立て管の管内流路を閉じまたは管内流路面積を減少させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンション等の集合住宅または事務所ビル等で各階において発生する排水を集合させ下階に送り出す排水配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマンションでは、各階において最上階から下に向けて上階と下階との防火区画等である床スラブを貫通して排水立て配管が設けられており、各階で発生する生活排水は上から下に集められながら落下した後、ベンド管及び排水横主管を経て下水管に送り出される。
ところで、このような、建築物の防火区画を貫通する排水立て配管は、下階で発生した火災が排水立て配管を通して上階に延焼しないように、従来、床スラブを貫通して配管される排水管継ぎ手およびこれに接続される排水立て管をそれぞれ不燃性の材料で形成した排水立て配管としていた。従来、不燃性の材料で排水立て配管を形成するのは火災が生じた場合に、延焼しないようにするためであり、不燃性の排水立て配管としては鋳鉄管、鋼管等の金属製の排水管が使用されていた。また、金属製排水管に代えて軽量で不燃性を有する耐火二層管が使用される場合もあり、その継手構造についても種々の方式が提案されている(特許文献1,2)。
【特許文献1】特開2001−107409号公報
【特許文献2】特開2005−282330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属製の排水管および耐火二層管は、不燃性であることからマンション等における排水配管として使用するのに適している。しかし、金属製の排水管は運搬性および施工性(作業現場での加工性)に若干の難点がある。耐火二層管も所定の寸法に切断する場合に内管および外管それぞれを切断するのが面倒であり、また切断時に外管のモルタルから粉塵が発生する等の問題がある。
一方、主に上水道および下水道に使用される硬質塩化ビニル樹脂製等の可燃性樹脂製の管(以下「樹脂製管」という)は、これらの不燃性の配管材に比べて軽量でありかつ施工性および価格の点で優れるが、樹脂製管を排水立て配管として用いた場合、火災が発生すると樹脂製管が燃えてしまうため、例え床スラブを貫通する排水管継手として不燃性の材料のものを用いた場合であっても、下層階で発生した火災の火炎および煙が上層階に達するのを防ぐことはできなかった。
【0004】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、マンション等の建築物における排水用配管において、排水立て管として可燃性の樹脂製管を使用しても下層階で発生した火災の火炎および煙が上層階へ達するのを防止することが可能な排水配管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る排水配管構造は、建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、前記排水管は、前記下部接続部に接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、前記下部立て管における前記下部接続部の下方の外周に熱膨張性耐火材が管径方向外方への熱膨張が阻止された状態で設けられており、前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して下部立て管の管内流路を閉じまたは管内流路面積を減少させるように構成されている。
【0006】
前記排水配管構造は、前記下部接続部の下方に不燃材料製の延焼防止部材を有し、前記延焼防止部材は前記熱膨張性耐火材の外周を覆っており、前記下部接続部から前記延焼防止部材までの外周が不燃性を有するように形成することができる。
本発明に係る他の排水配管構造は、建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、前記排水管は、前記下部接続部に内嵌して接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、前記下部接続部の内周と前記下部立て管の内嵌部分外周の間に熱膨張性耐火材が設けられており、前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記下部立て管の管内流路を閉じまたは管内流路面積を減少させるように構成されている。
【0007】
本発明に係る他の排水配管構造は、建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、前記排水管は、上部に前記下部接続部に接続された上接続部および下部に下接続部を備えた不燃材料製の接続管と、前記下接続部に接続され前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管と、で構成され、前記接続管の内周に熱膨張性耐火材が設けられており、前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記接続管の管内流路を閉じまたは前記接続管の管内流路面積を減少させるように構成されている。
【0008】
本発明に係る他の排水配管構造では、前記排水管継手は、金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、前記排水管は、前記下部接続部に接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、前記排水管継手の上階に突出する部分に横枝管が接続される横枝管接続部を備え、前記横枝管接続部よりも下方の排水管継手内周に熱膨張性耐火材が設けられており、前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記排水管継手管の管内流路を閉じまたは前記排水管継手の管内流路面積を減少させるように構成されている。
【0009】
前記排水管継手の上階に突出する部分に、上部立て管が接続される上部接続部と、横枝管が接続される横枝管接続部と、を備え、前記排水管は、前記上部接続部に接続された可燃性樹脂製の上部立て管と、前記横枝管接続部に接続された可燃性樹脂製の横枝管と、をさらに有する。
前記排水管継手の上階に突出する部分に上部立て管が接続される上部接続部を備え、前記排水管は、前記上部接続部に接続された可燃性樹脂製の上部立て管と、前記横枝管接続部に接続された可燃性樹脂製の横枝管と、をさらに有する。
【0010】
前記排水管継手は、軟化温度が700℃以上であり溶融温度が1100℃以上である金属で製作されている。
前記排水管継手は、単層構造の金属材料からなっている。
前記排水管継手は、ねずみ鋳鉄または球状黒鉛鋳鉄からなるのが好ましい。
前記下部立て管は、 外周面が可燃性材料で形成された1層以上の被覆材で被覆されていてもよい。
また、前記下部立て管は、その外面に自立できない耐火性の層が設けられていてもよい。ここで耐火性の層が「自立できない」とは、前記排水集合管に固定されていない耐火性の層がその外面に設けられていることをいう。
【0011】
前記横枝管は、可燃性樹脂製の管外周面が前記上階に露出して設置されている。
前記横枝管は、可燃性樹脂製の管外周面が可燃性材料で形成された1層以上の被覆材で被覆されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、マンション等の建築物における排水用配管構造において、排水立て管に可燃性の樹脂製管を使用しても下層階で発生した火災の火炎および煙が上層階へ達するのを防止することが可能な排水配管構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施例1]
図1は本発明に係る排水配管構造1を示す図、図2は熱膨張性耐火材2が取り付けられた様子を示す正面部分断面図、図3は延焼防止部材3の斜視図である。
図1,2において、排水配管構造1は、排水管継手4、横枝管5、下部立て管6および延焼防止部材3等を1単位として構成される。通常は、各階を区画する床スラブ7ごとに設置された排水配管構造1がそれぞれ上下で連続するように接続されて、建築物の上から下までの一貫した排水配管システムを構築する。
【0014】
排水管継手4は、建築物の上階と下階とを区画する防火区画である床スラブ7を貫通する貫通孔8内に、上部を上階におよび下部を下階にそれぞれ突出させて固定されている。排水管継手4は、突出する上階で発生した排水(そのさらに上階がある場合はそのさらに上階で発生した排水を含む)を集めて下部立て管6に流下させるためのものである。なお、貫通孔8は、床スラブ7に設けられた貫通する孔とその中に収容された排水管継手4との間にモルタル、セメント、モルタルセメントなどの不燃性充填材料が充填された状態における床スラブ7を貫通する孔をいうものとする。
【0015】
排水管継手4は、上部が略円柱であり下部が略円錐形の外観を有し、内部が上下方向に空洞の排水流路9となっている。その上部には、上階で発生する排水を排水管継手4に流入させる上部立て管10が接続された上部接続部11を備えている。上部立て管10は、硬質塩化ビニル樹脂製などの可燃性の樹脂製である。上部接続部11は、上部立て管10の外径よりも内径が大きな受け口型となっており、受け口に挿入された上部立て管10と受け口内周12との間には、シール用のゴムリング13が設けられている。
また、排水管継手4は、上階に突出する上部の側方に、横枝管5が接続された横枝管接続部14を有する。横枝管接続部14も上部接続部11と同様に受け口を備えてその中に横枝管5が挿入されており、挿入された横枝管5と受け口内周15との間には、シール用のゴムリング16が設けられている。横枝管接続部14は、1つまたは複数設けられる。
【0016】
排水管継手4は、その下部に、下方に開口する受け口を備えた下部接続部17が設けられており、受け口を形成する挿入孔18には下部立て管6の上端部が挿入されている。下部接続部17の下端にはフランジ19が設けられている。
排水管継手4の材質は、火炎に対する充分な不燃性を有する金属製でなければならない。したがって、融点の低いアルミニウム、鉛製のものは好ましくない。
排水管継手4は、単層構造の金属材料からなる。排水管継手4の金属材料は、軟化温度が700℃以上であり溶融温度が1100℃以上の金属材料であり、例えば、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄などの鋳物や鋼、ステンレス鋼等の鋼材があげられる
なお、床スラブ7の厚さは150mm以上であり、床スラブ7と排水管継手4との間はモルタル、セメント、モルタルセメントなどの不燃性充填材料が充填されている。
【0017】
横枝管5は、設置された階のトイレ、洗面所および風呂場等で発生するトイレ排水および/または雑排水を排水管継手4に送るためのものであり、上流側から下流側へ向かって勾配をつけて配管され、排水された排水は、自然流下式に継手に集められる。横枝管5は、排水の発生場所ごとに、または異なる発生場所の排水が途中で集合されて、1本または複数本が排水管継手4に接続されている。横枝管5は、硬質塩化ビニル樹脂などの可燃性の樹脂で製作された断面円管や断面たまご状管を用いて形成されている。
下部立て管6は、排水管継手4に集められた排水を、下層階の床スラブ7の貫通孔8に取り付けられた排水管継手4またはベンド管を介して下層階床または最下層階床に沿って延設された排水横主管(図外)に送るためのものである。下部立て管6は、上端部が、下部立て管6の外径に略等しい内径の貫通する孔を有するフランジ状の押輪20とリング状パッキン21とに挿通されている。そして、下部立て管6は、下部接続部17の受け口に挿入され、押輪20がフランジ19にボルト22により固定されることにより、排水管継手4に接続されている。
【0018】
上記したフランジ19、押輪20、リング状パッキン21などで構成される密封構造に代えて、下部立て管6の外周と挿入孔18の内周との間にパッキンを介在させる密封構造とするか、またはこれら密封構造に加えて下部立て管6の端縁と挿入孔18の底部との間にパッキンを介在させ、下部立て管6と下部接続部17との間をさらにシールするようにしてもよい。
下部立て管6は、下階に上部が突出する排水管継手4を含んで構成された1つ下の階における排水配管構造1では、上部立て管10として下の階の排水管継手4の上部接続部11に接続されている。ただし、1つ下の階が建物の最下階の場合は、排水管継手4ではなくベンド管を介して排水横主管に接続されることになる。
【0019】
下部立て管6は、横枝管5と同様に硬質塩化ビニル樹脂などの可燃性の樹脂で製作されている。
押輪20は、建築物における排水管に一般的に使用される公知のものであり、本実施形態では金属や耐火セラミックスなどの不燃性材料製のものが使用される。
延焼防止部材3は、略円筒状の側壁部23、側壁部23の軸方向の一端(下端)から軸心方向に突出してリング状になった係止壁24、および側壁部23の他端(上端)から径方向外方に伸びた3つのブラケット25,25,25からなる。ブラケット25にはそれぞれ押輪20のボルト挿通用の孔に合わせたボルト孔26が設けられている。延焼防止部材3の側壁部23の内側には、円筒状に形成された熱膨張性耐火材2が側壁部23および係止壁24により保持されている。熱膨張性耐火材2を保持する延焼防止部材3は、下部立て管6が押輪20よりも先に熱膨張性耐火材2に挿通され、押輪20およびリング状パッキン21に挿通された下部立て管6とともに排水管継手4に固定されている。
【0020】
延焼防止部材3は、メッキ鋼板、ステンレス鋼板、鋳物等などの金属または耐火性無機材料(セラミック、セメントモルタル)などの不燃性材料により製作される。
熱膨張性耐火材2は、熱膨張黒鉛を含有するゴム系材料や樹脂製材料などからなり、温度が200℃以上になったときに熱膨張してその体積が5〜40倍に膨張するものが使用される。熱膨張性耐火材2は、下部立て管6の外径の40分の1以上の厚みを有し管軸方向の長さが3cm以上であることが好ましく、4cm以上とするのがより好ましい。
このような熱膨張性耐火材2として、積水化学工業株式会社の商品「フィブロック」(登録商標)が市販されている。
【0021】
この他に、温度120℃から熱膨張を開始し体積が4倍以上に膨張する因幡電機産業株式会社製の商品「熱膨張性耐熱シール材IP」、温度850℃で30分加熱後に発泡して4倍以上に膨張するニチアス株式会社製の商品「バーモフレックス」(登録商標)、および温度120℃で変性が開始され温度260℃で顕著に膨張し最終的に体積が4〜8倍になる株式会社古河テクノマテリアル製の商品「ヒートメル」(登録商標)等を熱膨張性耐火材2として使用できる。熱膨張性耐火材2は、上記したものに限られず、同等の機能を有する種々のものを使用することができる。
【0022】
排水配管構造1は、下部立て管6の下端部が、さらにその下階の排水配管構造1における排水管継手4の上部接続部11に接続され、この接続が上下に連続して建築物における配管システムを構成する。
次に、排水配管構造1が、下階で発生した火災の火炎および煙が貫通孔8の排水管継手4を介して上階に達するのを防止する様子を説明する。
図4は排水配管構造1において熱膨張性耐火材2が機能したときの排水管継手4の正面部分断面図である。
【0023】
なお、以下便宜のため、排水配管構造1を、図1における2つの排水管継手4,4のうち上の排水管継手4と、下階Fdに設けられた下部立て管6および前記上の排水管継手4に接続された横枝管5とにより構成されたものとして説明を行う。
図1において、下階Fdで火災が発生し下部立て管6が設置された場所近辺に火炎が到達すると、可燃性の樹脂で形成された横枝管5および下部立て管6は軟化しその後燃焼してほとんどの部分は消失する。下部立て管6が軟化し燃焼する過程で、延焼防止部材3に支持された熱膨張性耐火材2は加熱される。熱膨張性耐火材2は、200℃以上になると熱膨張し、熱膨張性耐火材2の円筒状外周面が延焼防止部材3により規制されており管径方向外方への熱膨張が阻止される状態で内方に膨張し、その膨張圧により下部立て管6を管内方に押しつぶして下部立て管6の上部管端部部分における管内流路面積を減少させ、そして熱膨張がさらに進むと図4に示されるように下部立て管6の上部管端部部分における管内流路を閉じる。また熱膨張耐火材2は下方を係止壁にて規制されているので下部立て管が脱落する場合であっても一緒に脱落することはない。
【0024】
このように延焼防止部材3は、保持する熱膨張性耐火材2が排水管継手4の内部空間と下階Fd空間とを遮断し、排水管継手4の内部に炎や煙が入り込むのを遮る。そのため、床スラブ7の下階Fdで発生した炎や煙が上階Fuに設けられた横枝管5および上部立て管10に達することがなく、火災が上階Fuへ延焼するのを防止することができる。
なお、熱膨張性耐火材2は、火災時の熱膨張により下部立て管6の管内流路を完全に閉塞するように熱膨張する熱膨張耐火材であることが望ましいが、完全に閉塞しなくても、実質的に炎や煙が上層階へ達するのが阻止できるように管内流路面積を減少させる程度に熱膨張する熱膨張性耐火材であってもよい。
【0025】
床スラブ7の厚みが150mm以上の建築物に施工された排水配管構造1では、延焼防止部材3に保持される熱膨張性耐火材2として、円筒状またはシート状でその厚みが6mm以上、および膨張率が5〜20倍のものが好ましい。また、リング状パッキンはボルト22にて締め付けることにより、フランジ面間の隙間が5mm以下になるように圧縮して使用している
ところで、排水管継手として樹脂製の本体をモルタル等の耐火材で被覆して耐火二層構造としたものを使用することが考えられるが、耐火二層構造の排水管継手は、火災が発生し熱膨張性耐火材が膨張して下部立て管を閉塞するまでの間に、内部の樹脂部分を火炎が伝わり、床スラブで仕切られた防火区画を超えて上階に燃え広がるおそれがあるため使用は好ましくない。本実施例の金属製排水管継手4と熱膨張性耐火材を用いた排水配管構造では、可燃性の下部立て管6の下階での露出上端と可燃性の上部立て管10の上階での露出下端との間の管軸方向(高さ方向)距離H1および可燃性の下部立て管6の下階での露出上端と横枝管5の上階での排水管継手4側の露出部下端との間の管軸方向(高さ方向)距離H2が、延焼防止に必要な距離として20cm以上の寸法にしている。これら寸法H1、H2は望ましくは30cm以上の寸法にするのがよい。
【0026】
また、従来の不燃性材料の排水管継手と排水立て管を用いた排水配管構造では、横枝管を配管する場合、建築物内における防火区画を貫通する配管部分から1メートル以内では不燃処理がされた配管を行っていた。そのため、貫通する配管部分から1メートルまでの横枝管配管は不燃性材料で形成された管(例えば耐火二層管)で配管を行い、1メートルを越える配管は可燃性樹脂管の露出配管を行っていた。そして、貫通する配管部分と排水器具が1メートル以内に近接しているような排水器具の設置場所によっては、不燃性の配管部分を確保するため、いわゆる迂回配管を行う場合もあった。
【0027】
しかし、本発明では、下部立て管に可燃性の樹脂管を用いても、熱膨張性耐火材の熱膨張により下層階と上層階の空間の連通が断たれ下層階で発生した火災の火炎または/および煙が上層階へ達することを防止できるため、横枝管の配管においては従来のような建築物内における防火区画を貫通する配管部分から1メートル以内を不燃性材料で形成された管で配管する必要性がなくなり、横枝管の配管施工性向上とコスト低減を図ることができる。
なお、上記実施例1では延焼防止部材3を押輪20に取付けているが、熱膨張性耐火材および延焼防止部材は金属製の排水管継手4の下部接続部17の下方、好ましくは下方近くまたは下方直近に設ければよく、実施例1の変形例として以下の形態をあげることができる。
【0028】
[1]延焼防止部材3Fをスラブに固定して設ける。この例を図5に示す。図5は金属製の排水管継手4Fの下部接続部17Fが挿口形態とされ、これに接続される可燃性樹脂製の下部立て管6Fは上端部が受口形態とされ、下部接続部17Fの挿口は下部立て管6Fの受口にシール用のゴムリング28Fを介して接続されている。延焼防止部材3Fは不燃性材料からなる筒形状をなし、延焼防止部材3Fは床スラブ7下面から下部接続部17Fの受口全体を覆い、さらに受口より下方まで延びている。そして、延焼防止部材3Fの下方で、受口より下方の下部立て管17Fに相当する位置に熱膨張性耐火材2が設けられている。
【0029】
[2]延焼防止部材3Gを金属製の排水管継手4Gの下部接続部17Gに固定して設ける。この例を図6に示す。図6では金属製の排水管継手4Gの下部接続部17Gが受口形態とされ、これに接続される可燃性樹脂製の下部立て管6は上端部が挿口形態とされ、下部接続部17Gの受口は下部立て管6の挿口にシール用のゴムリング28Gを介して接続されている。延焼防止部材3Gは不燃性材料からなる筒形状をなし、延焼防止部材3Gの上部は下部接続部17Gの受口部外側に固定され、その下部は下部接続部17Gの受口部より下方まで延びている。そして、受口より下方の下部立て管6に相当する位置における延焼防止部材3Gの内面に熱膨張性耐火材2が設けられている。
【0030】
上記実施例ではいずれも排水管継手の下方に不燃材料製の延焼防止部材を有し金属製の排水管継手の下部接続部から延焼防止部材までの外周が不燃性を有する状態で連続している。このため、火災時の火炎で可燃性樹脂製の下部立て管が燃え下部立て管がその正常な管状形態を維持できなくなっても、延焼防止部材の内側に保持された熱膨張耐火材が熱膨張し下部立て管の上部管端部分の管内流路を閉塞することにより、少なくとも閉塞された部分より上方に位置する延焼防止部材と排水管継手は正常な形態を所定時間保持することが可能である。
[実施例2]
図7は本発明に係る他の排水配管構造1Bを示す図、図8は熱膨張性耐火材2が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【0031】
図7,8において、排水配管構造1Bは、排水管継手4B、横枝管5および下部立て管6等を1単位として構成される。
排水管継手4Bは、先に説明した排水管継手4と同じく、床スラブ7を貫通する貫通孔8内に上部を上階におよび下部を下階にそれぞれ突出させて固定され、突出する上階で発生した排水等を集めて下部立て管6に流下させる。図7,8において、また以下の説明において、排水配管構造1Bにおけるその構成が先に説明した排水配管構造1におけるものと同一のものについては、図1,2と同一の符号を付すものとする。
【0032】
排水管継手4Bは、その基本的構成が排水管継手4と同じであり、不燃性を有する金属材料で製作される。
排水管継手4Bの下端部における下部接続部17Bは受口形態をなし、下部立て管6がこの受口に内嵌して挿入される。挿入孔18Bの長さは実施例1の排水管継手4に比べて長くなっている。下部立て管6は、挿入孔18Bにその底部に当接するまで挿入されている。挿入孔18Bの最深部分には環状の溝27Bが設けられ、下部立て管6の受口への内嵌部分(挿口)外周との間に円筒状の熱膨張性耐火材2が保持されている。挿入孔18Bの開口部分から環状の溝27Bの近傍まで内径が大きくなっており、挿入された下部立て管6との間に隙間が形成されてシール用のゴムリング28Bが嵌め込まれている。シール用のゴムリング28Bが嵌め込まれた内径が大となった部分と環状の溝27Bとの間が内方に突出して熱膨張性耐火材2とシール用のゴムリング28Bとを隔てている。このような内方に突出する部分を設けずに、熱膨張性耐火材2とシール用のゴムリング28Bとが直接に接して配置されるようにしてもよい。
【0033】
排水配管構造1Bにおいて、横枝管5、下部立て管6、上部立て管10の機能、その材質および横枝管5の排水管継手4Bへの接続方法は、上に説明した排水配管構造1におけるものと同一である。
以上の説明において説明されなかった排水管継手4B、横枝管5および下部立て管6の構成については、実施例1において説明した排水配管構造1におけるものと略同じである。
図9は排水配管構造1Bにおいて熱膨張性耐火材2が機能したときの排水管継手4Bの正面部分断面図である。
【0034】
以下、排水配管構造1Bを、図7における2つの排水管継手4B,4Bのうち上の排水管継手4Bと、下階Fdに設けられた下部立て管6および横枝管5とにより構成されたものとして説明を行う。
図7において、下階Fdで火災が発生し下部立て管6が設置された場所近辺に炎が到達した場合、可燃性の樹脂で形成された横枝管5および下部立て管6は燃焼してほとんどの部分は消失する。下部立て管6が軟化し燃焼する過程で、排水管継手4Bの環状の溝27B内に支持された熱膨張性耐火材2は加熱される。熱膨張性耐火材2は、200℃以上になると熱膨張し、熱膨張性耐火材2の円筒状外周面が下接続部17Bにより規制されており管径方向外方への熱膨張は阻止されている状態で内方に膨張し、その膨張圧により下部立て管6を管内方に押しつぶして挿入孔18Bの管内流路面積および下部立て管6の内嵌部分の管内流路面積を徐々に減少させ、比較的短時間に図9に示されるように挿入孔18Bの管内流路および下部立て管6の内嵌部分の管内流路を閉じる。
【0035】
膨張した熱膨張性耐火材2は、排水管継手4Bにおける熱膨張耐火材の設置箇所より上方の内部空間と下階Fd空間とを遮断し、排水管継手4Bにおける熱膨張耐火材の設置箇所より上方部分の内部に炎や煙が入り込むのを遮る。その結果、床スラブ7の下階Fdで発生した炎や煙が上階Fuに設けられた横枝管5および上部立て管10に達することがなく、下階Fdで発生した火災が耐火区画により隔てられた上階Fuへ延焼するのを防止することができる。
なお、排水管継手4Bの下部接続部17Bと下部立て管6の接合構造は、上記実施例の形態に限らない。例えば、前記図2の実施例で記載したようなフランジと押輪とパッキンからなる接合構造にすることが可能である。この場合は、排水管継手4Bの下部接続部4Bの受口には上記図8の実施例と同様に受口内側に形成された環状溝に熱膨張性耐火材を設けることになる。
[実施例3]
図10は本発明に係る他の排水配管構造1Cを示す図、図11は熱膨張性耐火材2が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【0036】
図10,11において、排水配管構造1Cは、排水管継手4C、横枝管5、下部立て管6および接続管29C等を1単位として構成される。
排水管継手4Cは、先に説明した排水管継手4,4Bと同じく、床スラブ7を貫通する貫通孔8内に上端部を上階におよび下端部を下階にそれぞれ突出させて固定され、突出する上階で発生した排水等を集めて下部立て管6に流下させる。図10,11においてその構成が先に説明した排水配管構造1におけるものと同一のものについては、図1,2と同一の符号を付し、以下においても同一の符号により説明する。
【0037】
排水管継手4Cは、その基本的構成が排水管継手4と同じであり、不燃性の金属材料で製作される。
排水管継手4Cの下端部における下部接続部17Cは、円管で形成されている。
接続管29Cは、軸心を断面円形の孔が貫通する略円管状の形状を有している。接続管29Cの上部および下部には、上部挿入孔30Cを備えた受け口型の上接続部32Cおよび下部挿入孔31Cを備えた受け口型の下接続部33Cが設けられている。
上部挿入孔30Cは、内径が排水管継手4Cの下部接続部17Cの外径に略等しい。上部挿入孔30Cの底部は、下部接続部17Cの内径に略等しい円形で開口する上部係止壁34Cとなっている。上部係止壁34Cは、下部接続部17Cがそれ以上に上部挿入孔30Cの奥に挿入されることがないように下部接続部17Cを係止している。
【0038】
下部挿入孔31Cは、内径が下部立て管6の外径より大きくなっている。下部挿入孔31Cの底部は、下部立て管6の内径に略等しい円形で開口する下部係止壁35Cとなっている。下部係止壁35Cは、下部立て管6がそれ以上に下部挿入孔31Cの奥に挿入されることがないように下部立て管6を係止する働きをする。下部挿入孔31Cと挿入された下部立て管6との間には、シール用のゴムリング28Cが取り付けられている。
上接続部32Cの上端にはフランジ部19が設けられている。上接続部32Cは、貫通する孔を有し排水管継手4Cの下部接続部17C部分に一体的に形成されたフランジ状の押輪20とリング状パッキン21とに挿通された下部接続部17Cの端部を挿入させ、押輪20がボルト22によってフランジ19に連結され下部接続部17Cと固定される。上記押輪20は、下部接続部17Cから離脱しにくい構造にすれば下部接続部17Cと別体とすることもできる。また、上記したフランジ19、押輪20、リング状パッキン21などで構成される密封構造に代えて、下部立て管6の外周と挿入孔18の内周との間にパッキンを介在させる密封構造(つまり図11の実施例における接続管29Cと下部立て管6の接合構造と同じ形態)とすることもできる。ただし、この場合は接続管29Cが落下しないように、接続管29Cは排水管継手4Cやスラブ7と何らかの手段で連結することが望ましい。接続管29Cは鋳鉄、鋼材、ステンレス鋼などの不燃性金属または耐火性セラミックなどの不燃性材料で形成されている。
【0039】
上部係止壁34Cと下部係止壁35Cとの間には、内径が下部立て管6の内径よりも大きな周方向に溝となった周溝36Cが形成されており、周溝36Cに円筒状の熱膨張性耐火材2が保持されている。この場合、熱膨張性耐火材2はその環状内周面が接続管29Cの管内流路に露出し管内流路を流下する排水に接触することになるので、防水および/または耐水手段を熱膨張性耐火材2の少なくとも環状内周面に施すことが望ましい。防水、耐水手段としては、前記環状内周面にその内周面形状に合わせた形状をもつ薄肉の樹脂製リング体を取り付けることや、防水および/または耐水性能を有する薄い樹脂シートで熱膨張性耐火材2全体を覆うことなどが考えられる。
【0040】
排水配管構造1Cにおいて、横枝管5、下部立て管6および上部立て管10の機能、その材質および横枝管5の排水管継手4Cへの接続方法は、上に説明した排水配管構造1におけるものと同一である。
以上の説明において説明されなかった排水管継手4C、横枝管5および下部立て管6の構成については、実施例1において説明した排水配管構造1におけるものと略同じである。
図12は排水配管構造1Cにおいて熱膨張性耐火材2が機能したときの排水管継手4Cの正面部分断面図である。
【0041】
以下、排水配管構造1Cを、図10における2つの排水管継手4C,4Cのうち上階Fuの排水管継手4Cと、下階Fdに設けられた下部立て管6により構成されたものとして説明を行う。
図10において、下階Fdで火災が発生し下部立て管6が設置された場所近辺に炎が広がると、可燃性樹脂で形成された横枝管5および下部立て管6は燃焼してほとんどの部分は消失する。下部立て管6が燃焼する過程で、接続管29Cの周溝36C内に支持された熱膨張性耐火材2は加熱される。熱膨張性耐火材2は、200℃以上になると熱膨張し、熱膨張性耐火材2の円筒状外周面が接続管29Cにより規制されており管径方向外方への熱膨張が阻止されている状態で内方に膨張して周溝36C部分における接続管29C管内流路面積を徐々に減少させ、短時間に図12に示されるように周溝36C部分における接続管29C管内流路を閉じる。熱膨張性耐火材2は、それまで連通していた下部挿入孔31C空間と上部挿入孔30C空間とを遮断し、排水管継手4Cの内部に炎や煙が入り込むのを防止する。その結果、床スラブ7の下階Fdで発生した炎や煙が上階Fuに設けられた横枝管5および上部立て管10に燃え移ることがなく、火災が上階Fuへ延焼するのを防止することができる。
【0042】
図13は接続管の他の実施形態を示す図である。
図13において、接続管29Dにおける下部係止壁35Dは、下部立て管6の外径に略等しい円形で開口している。下部係止壁35Dは、図11に示される下部係止壁35Cのように下部立て管6を係止せず、下部立て管6は上部係止壁34Cに当接するまで下部挿入孔31Cに挿入されている。上部係止壁34Cの下方には、下部立て管6の外径よりも大きな内径を有する周方向の溝である周溝36Dが設けられている。周溝36Dには、下部立て管6の上端外周を取り巻くようにして熱膨張性耐火材2が収容されている。
【0043】
上記以外の接続管29Dの各部の構成は、接続管29Dが不燃性材料で製作されることを含め、図11の接続管29Cにおけるものと同じであり、図13においても同一の構成の部分については図11と同一の符号を付すものとする。
なお、接続管29C、29Dとしては、不燃性材料で形成され、金属製の排水管継手4Cと下部立て管6とを接続し内部に熱膨張耐火材2設けられたものであればよく、上記実施例で示す形態以外の変形がさらに考えられる。
その1例として、図14に示されるように、金属製の排水管継手4Hの下部接続部17Hが挿口形態とされ、これに接続される可燃性樹脂製の下部立て管6は上端部が挿口形態とされ、これら両者の挿口を覆う不燃材料製の筒状体で延焼防止部材3Hが形成されている。延焼防止部材3Hの上部は排水管継手4Hの外面に固定され、下部接続部17Hと下部立て管6の外周と延焼防止部材3Hの内周との間にはシール用のゴムリング28Hが設けられている。さらに延焼防止部材3Hの内周と下部立て管6の外周との間には熱膨張性耐火材2が設けられている。
[実施例4]
図15は他の実施形態における排水管継手4Eの正面部分断面図である。
【0044】
図15において、排水管継手4Eは、床スラブ7を貫通する貫通孔8内に上端部を上階におよび下端部を下階にそれぞれ突出させて固定されている。排水管継手4Eは、床スラブ7から上階に突出する部分に上部立て管10が接続された上部接続部11と横枝管5が接続された横枝管接続部14とを有している。排水管継手4Eにおける横枝管接続部14の下方の径大部内面には、径方向に突出し中心部が排水流路として開口した平板リング状の係止壁37Eが設けられている。筒状に形成された熱膨張性耐火材2は、排水管継手4Eの内面に接するようにして係止壁37Eの上面に支持されている。
【0045】
排水管継手4Eの下端部における下部接続部17Eは、円管で形成されている。排水管継手4E全体は、不燃性を有する金属材料で製作される。
下部立て管6Eは、上部にその内径が下部接続部17Eの外径よりも大きな、受け口型の接続部38Eが設けられている。下部立て管6Eは、接続部38Eに下部接続部17Eが嵌め込まれて排水管継手4Eに連結されている。接続部38Eと嵌め込まれた下部接続部17Eとの間はシール用のゴムリング28Eにより排水の漏れがないようにシールされている。
【0046】
排水管継手4Eにおける上記以外の各部の構成は、先の実施例1の排水管継手1におけるものと同一である。また、排水管継手4Eと上部立て管10および横枝管5との接続方法は、排水配管構造1B,1Cにおけるものと同じであり、横枝管5、下部立て管6E、上部立て管10の材質も排水配管構造1B,1Cにおけるものと同一である。
排水管継手4Eは、床スラブ7の下階で火災が発生した場合に、排水配管構造1,1B,1Cにおける場合と同様に、火災の熱により熱膨張性耐火材2が熱膨張して、熱膨張性耐火材2の円筒状外周面が排水管継手4Eにより規制されており管径方向外方への熱膨張が阻止されている状態で内方に向けて膨張し、排水管継手4E内の熱膨張耐火材2設置箇所における管内流路9を狭めまたは閉じる。その結果、床スラブ7の上階空間は下階空間と遮断され、下階で発生した火災の上階への延焼を防止することができる。
【0047】
排水管継手4Eのその他の各部の構成は、排水配管構造1における排水管継手4と同一であり、上の説明および図15においても排水管継手4と同一の符号を付すものとする。
なお、上記実施例4では熱膨張性耐火材2を横枝管接続部14の下方の径大部内面に設けた例を示しているが、熱膨張性耐火材2の設置位置は横枝管接続部14よりも下方の排水管継手内周であればよく以下の設置位置を実施例4の変形例としてあげることができる。
[1]排水管継手4Eの上記径大部からこれより小径の下部接続部17Eへ移行する縮径部内周に熱膨張性耐火材2を設ける。
【0048】
[2]排水管継手4Eの下部接続部17E内周に熱膨張性耐火材2を設ける。
この例を図16,17に示す。
図16は下部接続部14Jの内周面に溝部42Jを設け、この溝部42Jに熱膨張性耐火材2を設置した例であり、図17は下部接続部17Kを受口形態とし、この受口内面に溝部42Kを設けこの溝部に熱膨張性耐火材2を設置した例である。図16、図17で示す例においては図11、図12で示した実施例と同じく熱膨張性耐火材2が管内流路に露出するので、図11、図12の実施例で補足説明したのと同様に、熱膨張性耐火材2には防水または耐水手段を施すことが望ましい。
【0049】
上に説明した排水配管構造1,1B,1C,1E,1F,1G,1H,1J,1Kは、横枝管5および下部立て管6,6E,6F,6Kに可燃性の樹脂管が使用されている。そのため、建築物の建設現場における管材の施工性が鋳鉄管等に比較して容易であり、材料費および作業工数等が削減されてコストの低減を図ることができる。
また、従来は建築物内における防火区画を貫通する管部分8から所定距離部分(1メートル以内部分)の横枝管配管を不燃性の配管(例えば耐火二層管)とすることが行われているが、本発明では、下部立て管に可燃性の樹脂管を用いても、熱膨張性耐火材の熱膨張により下層階と上層階の空間の連通が断たれ下層階で発生した火災の火炎または/および煙が上層階へ達することを防止できるため、横枝管の配管において防火区画を貫通する配管部分から所定距離部分(例えば1メートル以内部分)の横枝管を不燃性材料で形成された配管とする必要性がなくなり、排水管継手の横枝管接続部から横枝管を可燃性樹脂製管の露出配管とすることができるようになり、横枝管の配管施工性向上とコスト低減を図ることができる。
さらに排水器具の設置スペースの関係から行われる場合があった迂回配管を避けることができるため配管レイアウトの自由度を拡大することが期待できる。さらに、迂回配管を回避することにより配管全長を短くすることができるので、横枝管5の勾配確保が容易である。
【0050】
次に、本発明に係る排水配管構造の防火試験について説明する。
図18は試験体40の平面図、図19は図18における床スラブ7FのみをA−A線で切断した試験体40の正面部部断面図である。
図18および図19において、試験体40は、床スラブ7Fおよび排水配管構造1Fからなる。
床スラブ7Fは、建築物に用いられる上階と下階との防火区画を模した構造として形成されており、図13における縦600mm、横600mm、およびその厚みは150mmである。床スラブ7Fは、その略中央に内面がモルタルで形成された貫通孔8Fを有する。貫通孔8Fの径(排水管継手4Fの外径)は略150mmである。
【0051】
排水配管構造1Fは、排水管継手4F、横枝管5a,5b,5c、下部立て管6および延焼防止部材3からなる。
排水管継手4Fは、貫通孔8F内に、その上部を床スラブ7Fの上面におよび下部を床スラブ7Fの下面にそれぞれ突出させて取り付けられている。排水管継手4Fにおける床スラブ7Fの上面に突出する部分には、上端部に上部接続部11が、側面には3つの横枝管接続部14a,14b,14cが設けられている。床スラブ7Fの下面に突出する部分には、下部接続部17が設けられている。排水管継手4Fは、単層構造の鋳物で製作されている。排水管継手4Fにおけるその他の構成は、実施例1における排水管継手4におけるものと略同一である。
【0052】
横枝管5a,5b,5cは、それぞれが横枝管接続部14a,14b,14cに接続されている。上部立て管10は上部接続部11に、および下部立て管6は下部接続部17に、それぞれ接続されている。それぞれの接続方法は、実施例1におけるそれぞれの接続方法と同じである。また、横枝管5a,5b,5c、上部立て管10、下部立て管6の材質も、実施例1におけると同様の可燃性の樹脂管、具体的には硬質塩化ビニル樹脂管である。
延焼防止部材3は、構成および材質が実施例1におけるものと同一であり、実施例におけると同様の方法で熱膨張性耐火材2を下部立て管6との間に保持し、押輪20にボルト22により固定されている。
【0053】
試験体40は、上部立て管10の上端と床スラブ7Fの上面との距離が800mmになるように、また下部立て管6の下端と床スラブ7Fの下面との距離が300mmになるように製作されている。
防火試験は、以下のようにして行われる。
試験体40は、加熱炉の上面を床スラブ7Fが塞ぐように、つまり床スラブ7Fの下面から下方に突出した排水管継手4Fの一部および下部立て管6の全部が加熱炉内に収容されて、床スラブ7Fが耐火材を介して加熱炉の上部に載せられる。
【0054】
加熱炉内、排水管継手4Fにおける床スラブ7Fの表面の上方(10mm)および排水管継手4Fにおける床スラブ7Fの非加熱面のスラブ上面の管本体から10mm離れた位置には、熱電対が設けられている。
試験体が取り付けられた加熱炉は、120分間、加熱炉内の温度計で計測した温度が(1)式で表される数値になるように加熱される。
T=345log10(8t+1)+20 ・・・ (1)
(1)式におけるTは炉内温度(℃)およびtは試験の経過時間(分)である。
【0055】
上記試験法は、(財)日本消防設備安全センター評定「防火区画貫通配管等の性能評定について」(平成13年9月5日付け 消安セ技第059号)に規定された「令8区画貫通配管等の試験基準及び判定基準」に基づいて行われた。
防火試験は、試験体40、およびこれと対比するために試験体40から熱膨張性耐火材2および延焼防止部材3を取り除いた試験体について行った。
図20は防火試験における排水管継手4Fの床面から10mm離れた表面温度変化を示す図、図21は床スラブ7Fの非加熱面のスラブ上面の排水管継手4Fから10mm離れた位置の温度変化を示す図である。なお、図20,21における「熱膨張材」とは熱膨張性耐火材2のことをいう。
【0056】
図20,21から、熱膨張性耐火材2および延焼防止部材3が設けられた試験体40における排水管継手4Fの温度上昇が、これらを取り除いた試験体における排水管継手4Fの温度上昇に比べて緩やかであることが認められる。また、図20からは、試験体40は、上記「令8区画貫通配管等の試験基準及び判定基準」における判定の1基準である「加熱中、非加熱面で測定した温度が200℃を超えないこと」を満足していることが認められる。
図20,21に示されるように、建築物に施工された本発明に係る排水配管構造は、床スラブ7の下階で火災が発生したときに、上階への延焼を防止または延焼を遅らせるという効果が得られる。
【0057】
上述の実施形態において、排水管継手4,4B,4C,4E,4F,4G,4H,4J,4Kにおける横枝管接続部14と横枝管5との接続方法、下部接続部17,17B,17C,17E,17F,17G,17H,17J,17Kと下部立て管6,6E,6F,6Kとの接続方法、および上部接続部11と上部立て管10との接続方法を、上記以外の他の公知の接続方法を用いて排水配管構造1,1B,1C,1E,1F,1G,1H,1J,1Kを構成することができる。その場合においても、上記実施例で示したような、不燃性材料で形成された延焼防止部材3の内周(実施例1)、下部接続部17Bの内周(実施例2)、接続管29C,29Dの内周(実施例3)または排水管継手4Eの内面(実施例4)に熱膨張性耐火材2を設けることにより、下階で発生した火災が上階に延焼するのを防止することができる。
【0058】
また、横枝管5、下部立て管6,6Eおよび上部立て管10に硬質塩化ビニル樹脂以外の他の樹脂、例えばポリエチレン樹脂またはABS樹脂等で製作された可燃性の樹脂製管を使用してもよい。横枝管5、下部立て管6,6Eおよび/または上部立て管10を遮音効果または保温効果を有する材料、例えばガラス繊維等で被覆することができる。下部立て管6,6E,6F,6Kおよび/または上部立て管10は、排水管継手4,4B,4C,4E,4F,4G,4H,4J,4Kに直接固定されないモルタル等の耐火材で被覆されていてもよい。
【0059】
熱膨張性耐火材2は、シート状のものが使用されるときは、矩形状に裁断され筒状に丸めて取り付けられるが、より小さな矩形状に裁断し、延焼防止部材3の内周、下部接続部17B,17J,17Kの内周または接続管29C,29Dの内周に周方向に連続的にまたは間欠的に配置してもよい。
その他、排水配管構造1,1B,1C,1E,1F,1G,1H,1J,1K、および排水配管構造1,1B,1C,1E,1F,1G,1H,1J,1Kの各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、マンション等の集合住宅または事務所ビル等で各階において発生する排水を集合させ下階に送り出す排水配管構造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は本発明に係る排水配管構造を示す図である。
【図2】図2は図1における熱膨張性耐火材が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【図3】図3は延焼防止部材の斜視図である。
【図4】図4は熱膨張性耐火材が機能したときの排水管継手の正面部分断面図である。
【図5】図5は熱膨張性耐火材が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【図6】図6は熱膨張性耐火材が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【図7】図7は本発明に係る他の排水配管構造を示す図である。
【図8】図8は図7における熱膨張性耐火材が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【図9】図9は熱膨張性耐火材が機能したときの排水管継手の正面部分断面図である。
【図10】図10は本発明に係る他の排水配管構造を示す図である。
【図11】図11は図10における熱膨張性耐火材が取り付けられた様子を示す正面部分断面図である。
【図12】図12は熱膨張性耐火材が機能したときの排水管継手の正面部分断面図である。
【図13】図13は接続管の他の実施形態を示す図である。
【図14】図14は延焼防止部材の他の実施形態を示す図である。
【図15】図15は他の実施形態における排水管継手の正面部分断面図である。
【図16】図16は他の実施形態における排水管継手の正面部分断面図
【図17】図17は他の実施形態における排水管継手の正面部分断面図
【図18】図18は試験体の平面図である。
【図19】図19は図13におけるA−A線で切断した試験体の正面部部断面図である。
【図20】図20は防火試験における排水管継手の床面から10mm離れた表面温度変化を示す図である。
【図21】図21は床スラブの非加熱面のスラブ上面の排水管継手から10mm離れた位置の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,1B,1C,1E,1F,1G,1H,1J,1K 排水配管構造
2 熱膨張性耐火材
3,3F,3G,3H 延焼防止部材
4,4B,4C,4E,4F,4G,4H,4J,4K 排水管継手
5,5a,5b,5c 横枝管
6,6E,6F,6K 下部立て管
7,7F 床スラブ
8,8F 貫通孔
11 上部接続部
17,17B,17C,17E,17F,17G,17H,17J,17K 下部接続部
29C,29D 接続管
32C 上接続部
33C 下接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、
前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、
金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、
前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、
前記排水管は、
前記下部接続部に接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、
前記下部立て管における前記下部接続部の下方の外周に熱膨張性耐火材が管径方向外方への熱膨張が阻止された状態で設けられており、
前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して下部立て管の管内流路を閉じまたは管内流路面積を減少させるように構成された
ことを特徴とする排水配管構造。
【請求項2】
前記下部接続部の下方に不燃材料製の延焼防止部材を有し、
前記延焼防止部材は前記熱膨張性耐火材の外周を覆っており、
前記下部接続部から前記延焼防止部材までの外周が不燃性を有するように形成された
請求項1に記載の排水配管構造。
【請求項3】
建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、
前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、
金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、
前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、
前記排水管は、
前記下部接続部に内嵌して接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、
前記下部接続部の内周と前記下部立て管の内嵌部分外周の間に熱膨張性耐火材が設けられており、
前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記下部立て管の管内流路を閉じまたは管内流路面積を減少させるように構成された
ことを特徴とする排水配管構造。
【請求項4】
建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、
前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、
金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、
前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、
前記排水管は、
上部に前記下部接続部に接続された上接続部および下部に下接続部を備えた不燃材料製の接続管と、
前記下接続部に接続され前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管と、で構成され、
前記接続管の内周に熱膨張性耐火材が設けられており、
前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記接続管の管内流路を閉じまたは前記接続管の管内流路面積を減少させるように構成された
ことを特徴とする排水配管構造。
【請求項5】
建築物内における排水管継手および排水管で構成された排水配管構造であって、
前記排水管継手は床スラブの上階と下階とを貫通する貫通孔内に配置され、
金属で形成されてその上部が前記上階に突出しかつその下部が前記下階に突出するようにして、
前記下階に突出する部分に下部接続部を有し、
前記排水管は、
前記下部接続部に接続されて前記排水管継手からの排水を通過させるための前記下階に伸びた可燃性樹脂製の下部立て管で構成され、
前記排水管継手の上階に突出する部分に横枝管が接続される横枝管接続部を備え、
前記横枝管接続部よりも下方の排水管継手内周に熱膨張性耐火材が設けられており、
前記熱膨張性耐火材が所定温度以上になると内方に膨張して前記排水管継手管の管内流路を閉じまたは前記排水管継手の管内流路面積を減少させるように構成された
ことを特徴とする排水配管構造。
【請求項6】
前記排水管継手の上階に突出する部分に、
上部立て管が接続される上部接続部と、
横枝管が接続される横枝管接続部と、を備え、
前記排水管は、
前記上部接続部に接続された可燃性樹脂製の上部立て管と、
前記横枝管接続部に接続された可燃性樹脂製の横枝管と、をさらに有する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の排水配管構造。
【請求項7】
前記排水管継手の上階に突出する部分に上部立て管が接続される上部接続部を備え、
前記排水管は、
前記上部接続部に接続された可燃性樹脂製の上部立て管と、
前記横枝管接続部に接続された可燃性樹脂製の横枝管と、をさらに有する
ことを特徴とする請求項5項記載の排水配管構造。
【請求項8】
前記排水管継手は、
軟化温度が700℃以上であり溶融温度が1100℃以上である金属で製作されている
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の排水配管構造。
【請求項9】
前記排水管継手は、
単層構造の金属材料からなる
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の排水配管構造。
【請求項10】
前記排水管継手は、
ねずみ鋳鉄または球状黒鉛鋳鉄からなる
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の排水配管構造。
【請求項11】
前記下部立て管は、
外周面が可燃性材料で形成された1層以上の被覆材で被覆されている
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の排水配管構造。
【請求項12】
前記下部立て管は、
その外面に自立できない耐火性の層が設けられている
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の排水配管構造。
【請求項13】
前記横枝管は、
可燃性樹脂製の管外周面が前記上階に露出している
請求項6または7項に記載の排水配管構造。
【請求項14】
前記横枝管は、
可燃性樹脂製の管外周面が可燃性材料で形成された1層以上の被覆材で被覆されている
請求項6または7項に記載の排水配管構造。

【図3】
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【図20】
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【図21】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−208653(P2008−208653A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47801(P2007−47801)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】